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Channel: 町山智浩 | miyearnZZ Labo
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町山智浩『ツイン・ピークス読本』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でムック本『ツイン・ピークス読本』について話していました。



(町山智浩)今日はリスナーのみなさんにプレゼントがあるんですけども。

(山里亮太)ありがとうございます。

(町山智浩)『ツイン・ピークス』というテレビシリーズが25年ぶりにいま、また復活してちょうどやっている最中なんですけども。それを楽しむための本で『INTO THE BLACK LODGE ツイン・ピークス読本』というのが出まして。ムック形式でいろんな人が原稿を書いているんですけども。僕もちょっと語りで参加していますので、いつもこの番組を聞いていただいているみなさんの中から5人の方にこの『ツイン・ピークス』読本をプレゼントさせてください。

(海保知里)河出書房新社から8月22日に発売されまして、定価は税別で1600円。コラムも書いてらっしゃるんですもんね。

(町山智浩)それね、僕はしゃべってまして。それを起こしてもらった内容です。ただ、僕がいちばん新しい『ツイン・ピークス』のシリーズを全部、いちばん見ている人なんで。アメリカに住んでますからね(笑)。いちばん新しいシリーズについて詳しく話しています。

(山里亮太)これ、ちゃんと解説を聞かないと。この前の説明を聞いただけでも、かなりぶっ飛んでた話で。

町山智浩『ツイン・ピークス』を語る

町山智浩 TVドラマ『ツイン・ピークス』25年ぶりの続編を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でテレビドラマシリーズ『ツイン・ピークス』の25年ぶりの続編『ツイン・ピークス The Return』について話していました。 ...

(町山智浩)もう、すごいですよ。とにかく遅い、遅いドラマなんですよ。出てくる人がみんな本当におじいさんで、ゆっくりゆっくりしゃべるんですよ。

(山里亮太)もう口調のスピードもリアルに遅いという。

(町山智浩)そうなんですよ。「あの、たいへん、だよ、ねえ」って言うと、2秒ぐらいたってから、「そう、だねえ、おじいさん」っていうドラマなんですけど。よくやってるなと思っていたんですけど……『ツイン・ピークス』、かなりそれに耐えながら見ていると8話目で大爆発しますんで。まあ、すごいことになりますんで、ぜひご覧になってください。ということで、『ツイン・ピークス』読本。5名様にプレゼントです。

(中略)

(町山智浩)あともう1個、告知。すいません。他局ですいません(笑)。BS朝日で木曜日。8月31日夜11時半から、ずっと藤谷文子さんとやっている『町山智浩のアメリカの“いま”を知るTV』がまた放送されます。今回は『ワンダーウーマン』特集ですので。いま、ちょうど日本で公開されてますよね?

町山智浩『ワンダーウーマン』を語る

町山智浩 映画『ワンダーウーマン』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で全世界で大ヒット中の映画『ワンダーウーマン』について話していました。 In two days, see why crit...

(山里亮太)していますね。

(海保知里)見てきたんですけど、よかったです。面白かった。『ワンダーウーマン』!

(町山智浩)ああ、よかったでしょう?

(海保知里)よかったです。それと、うちの母親が初期のテレビドラマの『ワンダーウーマン』を見ていたんですよ。

(町山智浩)ああ、由美かおるさんが声をやっているんですよ。

(海保知里)吹き替えでね、やってらっしゃるんですよね。だったので、劇場の中で私の母親ぐらいの年齢の方も結構いらっしゃったんですよね。

(町山智浩)そうなんですか!

(海保知里)結構それの延長なんじゃないかと思ったんですけど。

(町山智浩)『ワンダーウーマン』っていうのはアメリカで公開された時に、こういうスーパーヒーロー物にもかかわらず、観客の半分が女性だったんですよ。で、それには非常にこの『ワンダーウーマン』という作品の歴史的な意味がありますんで。それをその『アメリカの“いま”を知るTV』で木曜日に放送しますんで(笑)。ぜひご覧になってください(笑)。

(海保知里)上手だわ~(笑)。

(町山智浩)思いっきり宣伝してて、自分で笑っちゃってますけども(笑)。本当にもう大変ですよ。テレビも。がんばってやってますからね(笑)。

(山里亮太)そうよ(笑)。この町山さんの思い、みなさん、見て!

(町山智浩)だいたい僕とかラジオとかテレビとか出てるから、1本でいくらギャラをもらっているとかみんないろいろと想像しているんだと思うんですけど、聞いたらびっくりする値段ですからね。本当に(笑)。

(山里亮太)あらっ!

(町山智浩)「それで食えるの?」っていう値段でやっていますからね。

(山里亮太)町山さん、いまね、ブースの外で御船さんがずっと首を振っています(笑)。

(海保知里)ディレクターが(笑)。

(山里亮太)「やめて、やめて、やめて」って(笑)。

(町山智浩)だって本当だもん(笑)。まあでも、金じゃねえからな。うん。ということで。金じゃないから、なんでも好きなことを言わせてもらっているわけですが。

(山里亮太)町山さんの義侠心に僕ら甘えていきますから。

(町山智浩)いえいえいえ(笑)。そのかわり、なんでも言うから。

(山里亮太)後の処理は御船ディレクターが(笑)。

(町山智浩)スポンサーがついたら、言えないですからね。はい。ということで、ヤケクソになっていますけども……(笑)。

<書き起こしおわり>

町山智浩 カリフォルニア州バークレーの右翼大集会中止を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でカリフォルニア州バークレーで行われる予定だった右翼大集会の模様についてトーク。結局中止になった集会の現場で実際に町山さんが見たものについて話していました。

(山里亮太)あ、そうだ。町山さん、先週なんか集会に行くって言っていたあの話。どうなったんですか?

町山智浩 アメリカのお笑い芸人が政治的なネタを扱う理由を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアメリカのお笑い芸人・コメディアンたちが積極的に政治的なネタを扱う理由について話していました。 (町山智浩)はい。町山です。よろ...

(町山智浩)そうなんですよ。うちの近所のバークレーとサンフランシスコにトランプを支援する人たち……いわゆる右側の人たちと言われているような人が集まって集会をやるということになったので。この間、シャーロッツビルっていうバージニアの方で死者が出ましたんで。

バージニア州シャーロッツビルでの衝突事件

町山智浩 バージニア州白人至上主義者集会の衝突事件を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアメリカ・バージニア州シャーロッツビルで起きた白人至上主義者の集会とそれに反対するカウンターの人々の衝突事件について話していました。 ...

(山里亮太)はい。

(町山智浩)その白人至上主義の人が車で突っ込んでね。で、市はなんとか止めさせようとしていたんですけど、結局彼らの方が集会を中止しました。

(山里亮太)ああ、そうなんですね!

(町山智浩)まあ、彼らは自分たちを「白人至上主義ではない」と言っているんですけども。それの10倍ぐらいの人たちが彼らにそういう集会をさせないというか……まあ、集会はするんですけど、それに対抗してその周辺で集会を始めたんで。数で完全に勝てないから、彼らは撤退しましたね。

(山里亮太)はー、なるほどですね。

(町山智浩)ただ、僕はバークレーの現場に行ったんですけど。で、やっぱり10人くらいかな? ポロポロとそういう人たちが来ていたんですよ。まあ、いわゆるスキンヘッドでトランプのシャツを着ているような人たちがね。ただ、その何十倍もの人たちがその人たちに対抗して来ていたんですね。カウンターの人たちが。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)ただね、カウンターの人たちに、ちょっと変なのが集まっていたんですよ。

(山里亮太)変なの?

(町山智浩)あの、ブラック・ブロックと言われている人たちなんですけど、全身が真っ黒なんですよ。服が。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)で、手袋して覆面して。で、他の人たちは普通に顔を出して、いろいろと叫ぶんですけども、そのブラック・ブロックの人たちは黙っているんですよ。全くしゃべらないんです。

ブラック・ブロック

Again and again, we show fascists whose streets are these. #antifa #berkeley #altright #fascism #anticapitalism #blackbloc #power

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(山里亮太)はい。

(町山智浩)男も女もいます。ただ、なにかが起こるとサッと動いて、そこでボコボコに暴力を振るうんですよ。



(山里亮太)えっ! なんすか、その怖い集団は……。

(海保知里)なんかすごくタチが悪いというか。

(町山智浩)そう。完全な暴力集団なんですよ。で、それがちょっと暴走したんですよね。で、かなり逮捕者が出ましたね。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)でも、それをやっちゃうと本当に……ネオナチの人たちが武器を持ったりしていたんですけども。それに対抗して彼らはやっているんですけど。ただ、暴力だけが暴走する傾向になっていますね。

(海保知里)それはいけないですね。

(町山智浩)うーん。だからすごくこれはちょっと……まあ、ドナルド・トランプは「両方悪い」って言ったんですね。「右も左も両方悪い」って言ったんですけども、それを立証するようなことをしちゃダメなのにねって思いましたけどね。

町山智浩 シャーロッツビル衝突事件後のトランプを語る
町山智浩さんがAbemaTV『AbemaPrime』に電話出演。死者を出したバージニア州シャーロッツビルでの白人至上主義者集会での衝突事件後のドナルド・トランプについて話していまし...

(山里亮太)たしかに。

(町山智浩)うーん。だからまあ、これは難しいところに来ているなと。ただ、この分断を作り出したのはトランプ自身なんで。そんな分断はいままではなかったんでね。アメリカ人は、要するにいろいろとみんな違っても、文句はあっても。「移民は嫌だな」っていう人がいたりしても、それで別に「移民、出て行け!」とは言わなかったんですよ。そんなに。「まあ、しょうがねえな」っていう感じだったんですけど、それにドナルド・トランプは言葉を与えちゃったんですね。「メキシコ人は強姦魔だ」って言ったり、「アラブ人は出て行け」って言ったりしたことで、彼らが元気になって差別的なことを言葉にするようになっちゃったんで。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)で、対立がどんどん深まっていって、もう殴り合いになっていって、実際に死人まで出て。この対立を作り出したのは、トランプ自身なんですからね。これはもう大問題なんですけど。ただ、この対立がちょっとひどいなと思いましたね。

(山里亮太)じゃあ、これからまたそういう対立とかがどんどんと起こりそうなんですか?

(町山智浩)そうなんですよ。だからネオナチが「お前ら、出て行け!」っていうのに対して、「俺たちはそうじゃなくて、みんなで仲良くやろうと思っているんだよ」っていうことで戦うしかなかったのに……「お前らも出て行け!」になっちゃったらダメなんですよ。

(山里亮太)なるほど。そうか。目的が変わっちゃったんですね。

(町山智浩)そう。だからそういうことをいろいろと考えながら、『猿の惑星』を見に行ってきましたよって、上手くつなぎましたが(笑)。

(山里・海保)(笑)

(海保知里)あ、今度は猿と人間の対立ね(笑)。

町山智浩『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でリブート版『猿の惑星』シリーズの第三弾、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』について話していました。 【NEW】「猿の惑星:...

(町山智浩)そうなんですよ……。

<書き起こしおわり>

町山智浩『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でリブート版『猿の惑星』シリーズの第三弾、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』について話していました。


(町山智浩)そう。だからそういうことをいろいろと考えながら、『猿の惑星』を見に行ってきましたよって、上手くつなぎましたが(笑)。

(山里・海保)(笑)

(海保知里)あ、今度は猿と人間の対立ね(笑)。

(町山智浩)そうなんですよ。『猿の惑星: 聖戦記(グレート・ウォー)』っていう日本のタイトルなんですけど。これ、原題は『War for the Planet of the Apes』なんですけど。映画を見たら、戦争映画じゃなかったですね(笑)。

(山里亮太)そうなんですか?

(町山智浩)はい。これはタイトルを聞いて日本の会社がつけたんで、日本の会社は悪くないと思いますが。見たら、西部劇でした。

(山里亮太)西部劇?

戦争映画ではなく、西部劇

(町山智浩)西部劇でした。だから全然違う話でしたけど。まあ『猿の惑星』の話を簡単に説明しますと、これはもともと1968年に作られた映画で『猿の惑星』というのがありまして。これは宇宙飛行士が光の速さを超えるスピードで宇宙旅行をして地球に帰ってきたら500年たっていて。着いてみたら人間が奴隷になっていて、類人猿のゴリラとかチンパンジーの奴隷として人間が使われている世界になっていたという話が『猿の惑星』という話だったんですね。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)で、まあこれが世界的大ヒットして。特にアメリカで大ヒットした理由は、1965年ぐらいにアメリカで南北戦争からずーっと続いてきた南部の人種隔離政策っていうものが……まあ、はっきり言って黒人から選挙権を、人権を奪う政策が1965年になくなったんですよ。で、それに対して南部の人たちは非常に恐怖して。白人の支配が脅かされるんじゃないか? と非常に怖がってニクソン大統領に投票したりしていたんですけども。その恐怖を上手く拾ったのがこの『猿の惑星』で。前半で、まあ白人しか出てこないんですけども、人間たちが猿に捕まって奴隷にされるという部分が、完全にそのアフリカで黒人が捕まって奴隷にされるのを白人でやり直しているんですよ。

(山里亮太)はー。

(町山智浩)だからもう、これは完全に黒人を奴隷にしていたことの仕返しをされるという恐怖の映画だったんですね。『猿の惑星』は。で、大ヒットしてその後にずっと続編が作られていったんですけど、続編から先は毎回、その当時の政治状況を反映した内容になっていって。たとえば、『続・猿の惑星』では核ミサイルを神として崇めるカルトの人たちが出てくるんですよ。

(山里亮太)はあ。

(町山智浩)核ミサイルが地球を滅ぼす力を持っているから神と同じなんだということで、崇拝する人たちが出てくるんですけど、これ、実在しますからね。

(山里亮太)えっ? 実在する?

(町山智浩)これ、アメリカの「ファンダメンタリスト」と呼ばれているキリスト教の聖書原理主義的の人たちは聖書に書いてある最後の審判(アルマゲドン)が実際に起こればいいと思っている人たちなんですよ。で、それが起こっても、自分たちはラプチャーといって、神に召されて天国に行くんで、地球の滅亡には巻き込まれないと信じている人たちなんですよ。で、核戦争が来ることを望んで祈りを捧げる人たちが実際にいるんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)だからそういう風に、実際にいるものをSF、サイエンス・フィクションの中に盛り込んでいったのが『猿の惑星』シリーズだったんですね。

(山里亮太)ああ、そうなんだ。

(町山智浩)だから『新・猿の惑星』では『猿の惑星』から原題にタイムスリップしてきたチンパンジーの夫婦が平和を訴えているうちに暗殺されるっていう話なんですよ。それはマーティン・ルーサー・キング牧師暗殺をモデルにしているんですよね。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)という風に、常に現実を反映して作られてきたのが『猿の惑星』シリーズだったんですけども。それが2011年からリブートをかけられて、全く新しいシリーズとして作り直されてたんですよ。その間に、ティム・バートンという監督が『猿の惑星』を1回リメイクしているんですけども、全く現実の社会を反映していない、おポンチ話だったので、なかったことになっているんですよ。

(山里亮太)おポンチ話(笑)。

(町山智浩)「これはなかったから、みんな見なかったことにしようね」ってなっているのがティム・バートン版の『猿の惑星』で。ちゃんと真剣に元の『猿の惑星』の描いていた社会性を盛り込んでシリーズをやり直そうとして作られたのが2011年から始まっている『猿の惑星』シリーズなんですね。

(海保知里)そういう気持ちが込められているわけなんですね。

リブート版『猿の惑星』シリーズ

(町山智浩)そうなんですよ。だからそれ、最初は『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』っていう話で。これはチンパンジーを使って新薬の生体実験をしている話なんですよ。で、これは実話ですよね。猿の中でもチンパンジーは人間にもっともDNAが近いので、ワクチンとかは彼らを使って作られるんですよ。だから、病原菌を注射されているんですよ。チンパンジーに。ただ、チンパンジーはみなさんがご存知のように人間の5才ぐらいの知能があるんですよね。……5才の子供に病原菌を打ちますか?

(海保知里)そうか。そう考えると、そうですね。

(町山智浩)だからこれ、ものすごく人権ギリギリのことをやっていて。ただ、このチンパンジーの生体実験がなければ、我々は死んでしまうんですよ。っていうすごく厳しい問題をもとにしていたのがその『猿の惑星』のリブートの第一作なんですね。で、その生体実験の中から、副作用みたいな形で知能の高いチンパンジーのシーザーというチンパンジーが生まれて。そこから病原菌が発生して、人間がどんどん死んでいくんですね。で、その二作目の『猿の惑星:新世紀(ライジング)』では人間がその病原菌によってもうかなり死滅して。猿によって人間の世界が乗っ取られるかもしれないという状況だったのが二作目なんですよ。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)で、今回の三作目の『聖戦記』ではもう人間はほとんど死んでいるんですよ。かなり死滅している状態で、それでもまだ人間の支配を守ろうとして猿に対して攻撃を仕掛け続けているグループがいるんですね。アルファ・オメガグループっていうのがいて。で、それをウディ・ハレルソン扮する大佐というのが指揮しているんですけども。猿を滅ぼして、人間の世界を守るんだと言っているんですけど。で、シーザーというもっとも知能の高いチンパンジーは、「ただ我々は生き残りたいだけだ」っていうことで、抵抗して戦っているんですが……そのウディ・ハレルソンの一味に奥さんと子供を殺されてしまうんですね。

(山里亮太)シーザーが。はい。

(町山智浩)で、その時にシーザーは自分がリーダーであるにもかかわらず、復讐の旅に出ちゃうんですよ。つまり、自分の一族を捨てて、「あの大佐に復讐するんだ!」っていうことで旅に出ちゃうんですよ。

(山里亮太)うんうんうん。

(町山智浩)ここから、話が西部劇になっていくんですよ。そのシーザーが馬に乗って荒野を、復讐の旅に出るわけですよ。

(山里亮太)そうなってくると、『猿の惑星』でいつも表現しようとしているこのメッセージとかっていうのはちゃんと組み込めるんですか?

(町山智浩)ちゃんと組み込めます。それは。で、この部分はクリント・イーストウッドという俳優さんが監督した映画で『アウトロー』という映画があるんですね。それが、奥さんと子供を殺されたクリント・イーストウッドが復讐の旅に出るという話で。それをすごくモデルにしています。だから、このシーザーはクリント・イーストウッドのようにいつもしかめっ面で、いつも目を眩しそうにしているんですよ。

(海保知里)眩しそうな顔……わかるなー(笑)。

(町山智浩)そう。だから猿のクリント・イーストウッドになっているんですよ。本当に。

(山里・海保)(笑)

(町山智浩)これね、アンディ・サーキスっていうね、俳優さんが演じているんですけど。この人は本当にすごい俳優ですよ。

(海保知里)えっ、どんな作品に出ている方なんですか?

(町山智浩)この人ね、『ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)』で指輪に取り憑かれてしまったゴラムっていう。怪物になってしまった男がいましたよね?

(海保知里)(モノマネで)「オー、マイ・プレシャス」みたいな変な声で言う……。

(町山智浩)そうそうそう! めちゃくちゃ上手い! 「マイ・プレシャス」って言っていた人ですよ。あれを演じていた人ですね。あと、キングコングをやっていますし。これ、モーションキャプチャーっていうシステムで、顔とかに点を打って、表情とか体の動きをそのままコンピューター上のCGで作られたキャラクターに直結させて操るんですよ。だから、俳優さんがやった表情とか体の動きは全部、キャラクターの動きになるんですね。

(山里亮太)うんうんうん。

(町山智浩)それをずっとやっている人なんです。アンディ・サーキスは。で、ハリウッド版のゴジラでも、ゴジラの基本的な動きは彼がやっているんですよ。だから、ぬいぐるみの中の人ですね。いわゆる「中の人」俳優ですね。

(山里亮太)でも、すっごい人なんですね。

(町山智浩)だからあんまり出しちゃいけない人なんですよ。まあ、そういうことで、このアンディ・サーキスさんはね、たぶんこの『猿の惑星:聖戦記』でもしかするとアカデミー賞にノミネートされる最初のモーションキャプチャー俳優になるかもしれないって言われています。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)彼の物語なんです。このシーザーの悲劇の物語なんですよ。で、シーザーっていう名前から非常にシェイクスピア的なものを感じますけども、本当にそういう話になっていましたね。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)っていうのは、彼がその復讐の旅に出てしまったために、一族はそのウディ・ハレルソンのグループに全員拉致されて、奴隷として働かされることになるんですよ。で、この部分は『猿の惑星』の原作小説を書いたピエール・ブールっていうフランスの人がいて。その人がビルマでの日本軍の鉄道建設を描いた映画で『戦場にかける橋』っていうのがあるんですけど。それの原作者なんですね。で、それはイギリス軍とかアメリカ軍の捕虜を使って日本軍がビルマに鉄道を建設させたという事実を映画にしているんですよ。

(山里亮太)うんうん

(町山智浩)それを使っていて。その捕まえた猿たちを使って、人間たちが砦を作らせているんですよ。これ、すごい面白いところを引っ張っているなと思ったんですけど。ただ、そのシーザーは一族を捨てたから、一族から全く相手にされないんですよ。こんな目にあったから。

(海保知里)裏切り者だと。

(町山智浩)で、そこから彼のリーダーとしての贖罪が始まるっていう話なんですよ。だからこれ、すごいのはね、猿の話なんですよ。

(山里亮太)そうですよね。

(町山智浩)でもね、ものすごく人間的な話なんですよ。で、最後は彼が一族の本当のリーダーになっていく物語なんですけど、ここの部分は完全に旧約聖書なんですよ。

(山里亮太)西部劇から始まり、旧約聖書になっていく。

最終的には旧約聖書に

(町山智浩)そう。旧約聖書の出エジプト記におけるモーゼの役割を彼が果たしていくんですよ。

(山里亮太)へー! そうか。じゃあ、脱出させて連れていくんだ。

(町山智浩)そうなんですよ。だからこれ、すごいなと思って。西部劇で始まって、脱走物語になって、最後は聖書で、モーゼの物語で終わらせていくというね。ものすごい壮大なことをやろうとしているんですね。猿ですけど。

(山里亮太)そうなんですね。なんか本当にね、猿対人間、どっちが勝つか? みたいなのじゃないんですね。

(町山智浩)そうじゃないんですよ。もっと大きなことをやろうとしている、すごい話だなと思って。だからこれ、すごいなと思って。アメリカはいまこれ、夏休み映画として後悔したんですよ。これを。夏休み映画って普通、漫画とかね、アメコミとかのスーパーヒーロー物とか、イケメンのスターとか美女とかが出てくるもんじゃないですか。普通。なんにも出ないですよ。イケメンとか、美女とか(笑)。猿ですから。

(山里亮太)猿ばっかり。

(町山智浩)すごいですよ。猿で夏休み大作を作っちゃうってすごいなと思って。だから、物語と映画の力だけで、そういうキャラクターとかに立ち向かっているんですよね。この映画は。

(海保知里)かっこいいですね。でもね。

(町山智浩)すごい無謀なことをしてんなと思いましたけどね(笑)。ただね、この映画のいいところはね、ちょっと清水の次郎長に似ているんですよ。ヤクザ映画にちょっと似ていて、シーザーがどんなに無謀な選択をしても、かならず黙ってついてくる子分が2人いるんですよ。なんていうかね、大政・小政みたいなのがいて、またそいつが泣かせるんですけど。毎回やっているんですよ、これ。だから、西部劇であり戦争映画でもあり、聖書的な物語でもあってヤクザ映画の男と男の仁義の物語でもあるんですよ。

(山里亮太)ほー!

(町山智浩)これはすごいなと。だからね、イケメンとかアニメ的なキャラクターとかいなくても、全然勝負できるんだなと。猿で(笑)。というところでね、いや、感動しましたよ。リーダーとは何か? 男とはどういう風に生きるべきか?っていう話になっていましたね。

(山里亮太)なるほど。これ、町山さん。『創世記』と『新世紀』は見てから行った方がいいですか?

(町山智浩)これはもう、最初から見た方がいいとは思いますけど。でも、これだけ見ても全然大丈夫です。

(山里亮太)ああ、そうですか。

(海保知里)私も両方、こちら見ているんですけど。ジェームズ・フランコの顔がどんどん猿化していくのが気になっちゃって、なかなか……(笑)。ちょっと似ていません? 猿っぽくないですか?

(町山智浩)ジェームズ・フランコ、一作目でシーザーを育てた男でしたけどね。全然忘れてましたね(笑)。ものすごい世界を突き進んで行ってますからね。そんなの大昔のようですか。

(海保知里)日本では10月13日公開になります『猿の惑星:聖戦記』を町山さんに今日ご紹介していただきました。町山さん、どうもありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

町山智浩 著書『今のアメリカがわかる映画100本』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で著書『今のアメリカがわかる映画100本』を紹介していました。



(町山智浩)またリスナーの方々にプレゼントがあります。『今のアメリカがわかる映画100本』という本を僕、出しまして。それを5名様にプレゼントいたします。そちらに見本がありますか?

(山里亮太)あります!

(海保知里)びっくりしたんですけど『ワンダーウーマン』まで入っていますね。

町山智浩 映画『ワンダーウーマン』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で全世界で大ヒット中の映画『ワンダーウーマン』について話していました。 In two days, see why crit...

(町山智浩)ギリギリまで入っています。

(海保知里)すごいです。『ファウンダー( ハンバーガー帝国のヒミツ)』も入っているし。いや、これは、ねえ。すごくギリギリまで最新作を……。

町山智浩 『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でハンバーガーチェーン店マクドナルドの創業者を描いた映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』について紹介していました。 ...

(町山智浩)厚さがすごくないですか?

(海保知里)厚み、あります。

(山里亮太)100本……。

(町山智浩)そう。300ページを超えていますんで。320何ページぐらいあると思います。

(山里亮太)「トランプ現象は、いったいなぜ起こったのか? アメリカの激動の10年が、映画でわかる!」ということで。

(町山智浩)はい。これ、『月刊サイゾー』という雑誌にずっと連載してきたコラムを100本まとめたんですけども。お値段は税別で1500円という、ちょっといま何でも安くなっている中では高めなんですけども。なんて言ったって、それを使ってケンカに勝てますからね!

(山里亮太)かなりの厚みですから(笑)。

(町山智浩)ねえ。厚いんで。

(山里亮太)鈍器になります(笑)。

(町山智浩)ということで、ケンカに使ってもらうと(笑)。これを5名様にプレゼントいたします。

(山里亮太)ありがとうございます!

(中略)

(山里亮太)あ、『フライト』もあるわ。はー。たしかに、映画っていろんなメッセージが込められているんですもんね。それをわかりやすく。

(町山智浩)そう。ネットで言われるんですよ。「映画評論家なんていらないよ。お前なんかいらないよ」ってよく言われるんですけど。

(山里亮太)ええっ!?

(町山智浩)いや、しょっちゅう言われていますよ。でも、やっぱりほら、たとえば『ズートピア』に出てくるヒツジの頭のフワフワしているところを触ろうとする(シーンの意味)とか……あれって絶対にわからないじゃないですか。日本に住んでいたら。

ズートピア ヒツジの頭のフワフワ



(山里亮太)はい。普通のシーンだなっていうぐらいにしかとらえられないですからね。

(町山智浩)そう。だからそういう意味をアメリカに住む者として伝えていくと。で、映画会社も全然説明しないし、パンフレットにも書いてないですからね(笑)。

(山里亮太)そう。だから主人公が「かわいい」って言われたことに対して、普通に受け入れられなくて。それに対して反論している時に「なんで反論するんだろう?」ってたぶん何も知らなかったら思うところが、「ああ、そういうことか」ってなりますもんね。あれ。

町山智浩『ズートピア』が描くアメリカの政治的実情を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、ディズニーアニメの最新作『ズートピア』を紹介。この映画が実は描いている現代のアメリカの政治的実情を解説しつつ、最後にプリンスを追悼し...

(町山智浩)そう。でもわからないとそのままスルッと行って、たぶん永遠にそのままなんですけど。「あそこはこういうことですよ」って余計なお世話をするのが僕の仕事なんで。はい。

(山里亮太)いやいや。

(町山智浩)そこで細々と暮らしておりますので(笑)。

<書き起こしおわり>

町山智浩 映画『デトロイト』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で1967年のデトロイト暴動の際に起きた警官による黒人青年たちの虐殺事件を描いたキャサリン・ビグロー監督の映画『デトロイト』を紹介していました。

Boyega. Mackie. Poulter. Smith. #DETROITmovie is in theaters August 4.

DETROITさん(@detroitmovie)がシェアした投稿 –


(町山智浩)今日はですね、今年見た映画の中で結構ベスト級の強烈な映画を見ましたんで。それを紹介します。『デトロイト』という映画です。音楽をどうぞ!



(町山智浩)はい。デトロイトという街は海保さんとか、行かれたことはありますか?

(海保知里)私、行ったことはないんですけど。ただ、なんとなく危ないところっていうイメージがあるんですよね。

(町山智浩)はい。デトロイトに行く日本人の観光客というのはほとんどいないと思います。

(海保知里)やっぱりそうなんですか。へー。

(町山智浩)まあ、ゼネラル・モーターズとかフォードがあって、アメリカの自動車産業の中心部なんですけども、デトロイトの市の中心部はもうほとんど廃墟。ものすごく自動車産業が大きくなった時に街全体が広がったんですけども、それがほとんど無人地帯になっていて。前も話したんですが、『ドント・ブリーズ』という映画の中にも出てくるんですね。

町山智浩 ホラー映画『ドント・ブリーズ』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、アメリカで記録的な大ヒットとなったホラー映画『ドント・ブリーズ』を紹介していました。 #Regram @buckien...

(山里亮太)はいはい。

(町山智浩)『ドント・ブリーズ』はデトロイトで一人暮らしの老人の家に強盗をしようとする若者たちの話だったんですが。あれは要するに、警察が来るまで1時間かかるんですよ。巨大な無人地帯になっているんで。そこにポツポツと人が住んでいるという。ただ、この『デトロイト』という映画はそうなる前の話なんですよ。

(山里亮太)賑わっていた頃の?

(町山智浩)賑わっていた頃。1967年のまだ自動車産業が興隆していた、ピークにあった頃の話です。で、これはそのデトロイトで起こった実話なんですけども。これ、1967年に大変な大暴動がデトロイトで起こりまして。それでほとんど街が壊滅するぐらいまで焼き尽くされて。そこからデトロイトの崩壊が始まっていくんですよ。

(山里亮太)はい。

デトロイトが荒廃したきっかけの大暴動

(町山智浩)そのすごい大暴動があったこと自体の映画じゃなくて、その大暴動と同時に起こった黒人少年3人が殺された虐殺事件がありまして。それが1967年に起こったので、それの50年目に作られたのがこの『デトロイト』という映画なんですね。で、いまかかっている音楽はいわゆるデトロイトで作られた音楽……「モータウン」というレコード会社ができまして。で、すごく流行ったんですけども。デトロイトは最初、自動車産業がものすごく儲かっていた時に独特の文化を生み出すんですね。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)モータウン・レコードに代表されるような文化で、それはデトロイトに入ってきた労働者は大きく2種類に分かれていまして。ひとつは南部の方で奴隷だった人たちが綿花の農家をやっていたんですけども。それが、インドの綿花に負けて産業が崩壊しまして。で、仕事がなくなっちゃった黒人たちが大量にデトロイトに移動してきたんですよ。その人たちが自動車を作る仕事に入ったんですね。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)それと、自動車産業ができたからヨーロッパの貧しい人たちが移民として入ってきたんですよ。それはいままでのイギリス系とかアイルランド系とちょっと違って、もうちょっとカトリックとかロシア正教の人たちで。たとえば、イタリア、ギリシャ、ポーランド、ハンガリー、チェコといったところから来た人たちが自動車産業に労働者として入ったんですね。で、この南部から来た黒人とヨーロッパのロシアの方から来た白人っていうのは全く水と油なわけですよ。全く関係がないわけですよ。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)それが一緒に働いていたことで、またひとつ特殊な文化が出てきたんですけども。最初は仲良く働いていて。ところが、だんだん貧富の差が出てきてしまったんですね。それで、街の中心部には貧しい黒人だけが残って、白人たちは外の、遠い郊外に一軒家を買って。で、そのデトロイトの中心部(の人口)が半分は黒人になってしまったんですね。非常に人種的に偏った形になってしまったんですよ。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)で、そのデトロイト中心部の治安を守っている警察官はなんと、98%が白人だったんですよ。

(山里亮太)ああー。

(町山智浩)で、彼らはそこには住んでいないんですね。郊外から来ている白人たちなんですよ。だから、自分たちの街ではないし、完全に差別的な意識でもってデトロイトの黒人市民たちをもう殴る蹴る、別件逮捕とか……道を歩いているだけで片っ端から捕まえたりとか。もうずっと、ひどい虐待をしていたんですね。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)で、それが1967年にとうとう噴出しまして。黒人の住民たちが大暴動を起こして。警察官に石を投げたりですね、火をつけたり。で、白人の商店を襲うという事態が起こったんですよ。で、その時にどの商店が白人の経営でどの商店が黒人の経営だか、わからないですよね?

(海保知里)そうですよね。

(町山智浩)だからその時に、白人も黒人もその商店を破壊されないように、窓に「Soul Brother」って書いたんですよ。

Soul Brother


(町山智浩)ペンキで。「Soul Brother」って書いてあると、黒人の仲間なんだと。たとえ白人であっても、「あなたたちを応援します」っていう意味になるんですね。「Soul」っていうのは「魂」だから。「魂でつながっているんだよ」っていう意味なんですよ。そこから「Soul」っていう言葉は流行っていったんですよ。

(山里亮太)へー!

(海保知里)そうなんだ!

(町山智浩)そうなんですよ。「俺たちは魂でつながっている黒人の味方だぜ」っていう意味なんですよ。それを書いていると、ガラスを割れれたり、略奪されないですんだんですよ。だからJ Soul Brothersは大丈夫ですよ! 1967年のデトロイトに行っても!(笑)。

(山里・海保)(笑)

(山里亮太)もう三代目まで行ってますけども(笑)。全員大丈夫で。仲間だ!って。

(町山智浩)大丈夫ですよ、はい(笑)。それでですね、ただこのデトロイトの暴動っていうのはものすごくて。死者が43人で逮捕者が7000人。負傷者は1000人を超えるという、まあ戦争みたいな状態になっちゃったんですよ。で、死者のほとんどが警官に殺された黒人たちなんですね。射殺されまして。

(山里亮太)うーん……。

(町山智浩)で、そういうもう大戦争状態になっているところに、たまたまそのコンサートにやってきた人が主人公なんですよ。

(海保知里)コンサート?

(町山智浩)コンサート会場があって。いまも残っているフォックスシアターっていうところに、ザ・ドラマティックスという黒人のボーカルグループがコンサートしに来たんですね。彼らが主人公です。

The Dramatics. #DETROITmovie

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(町山智浩)ところが、暴動がひどくなっちゃったんで、もうコンサートが中止になっちゃったんですよ。で、その近くのモーテルにそのザ・ドラマティックスのメンバーが泊まるんですけども。そしたら、そのモーテルに他に泊まっている黒人の10代の若者たちが5、6人いて。それと、18才の田舎から来た白人少女が2人いたんですね。

Hannah Murray as Julie. #DETROITmovie

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(山里亮太)はい。

(町山智浩)その頃、ちょっとデトロイトというのはおしゃれなものの最先端だったところがあるんですよ。モータウン・レコードがあったりしたんで。で、「黒人がかっこいい」っていうことがだんだん出てきた頃なんですね。その頃っていうのは。

(山里亮太)ふーん。なるほど!

(町山智浩)で、白人の女の子がそこにいて。で、18才ぐらいの男の子たちとイチャイチャしていたわけですね。そのモーテルで。そしたら、暴動が起こっていてそこら中に軍隊が出て、治安維持のために戦車まで出ている状態なんですね。そしたら、1人の若い、18才のカール・クーパーっていう男の子が、面白がってその窓からかけっこのスタートのピストルってあるじゃないですか。「よーい、ドン!」の。「パーン!」っていうやつ。

(山里亮太)はい。音だけ鳴るやつ。

(町山智浩)そう。あれで周りにいる警官とか軍隊に向けて、そのスタートピストルを撃っちゃったんですよ。

(山里亮太)うわー……。

(町山智浩)まあ、ガキだから。面白がって。そしたらそのモーテルにドワーン! とその白人警官が殴り込みをかけてきたんですね。まあ、その頃は警官は白人しかいないわけですよ。ほとんど、98%ですから。で、「いま銃を撃ったやつは誰だ!? 俺たちを狙っているスナイパー(狙撃手)だろ! 銃を出せ!」って言って。で、まずそのクーパーくんをドーンといきなり射殺。

(山里亮太)えっ!

(町山智浩)いきなり射殺。問答無益で。で、そこにいた黒人と白人のそのティーンエージャーたち……ドラマティックスっていうグループのメンバーも10代なんですよ。

(山里亮太)はいはい。

(町山智浩)全員10代の黒人と白人の10人ぐらいの子たちをその白人警官が拷問し始めるんですよ。

(山里亮太)ええっ!

白人警官たちによる拷問

(町山智浩)で、最初はその、「なんだ! 俺たちを撃ったのか!?」って入ったんですけど、そこで黒人の男の子と白人の女の子がイチャイチャしているのを白人警官が見ちゃったんですね。「もう許せん!」ってなっちゃうんですよ。

(山里亮太)えっ、なんでですか?

(町山智浩)その頃は白人と黒人がデートして歩いているだけで射殺されていた時代なんですよ。

(山里亮太)ええっ!

(町山智浩)そんな時代があったんですよ。「許せない!」っつって。

(山里亮太)言ってもそんなめちゃくちゃ昔っていうわけでもないですよね?

(町山智浩)だからまあ、そういう時代だったんですね。で、「お前はなんだ? 白人なのに黒人と付き合っているのか!」っていうことで、女の子をもう裸に剥いちゃって。で、ライフルのストック、台尻のところでバーン!って顔をぶん殴るとか。

(山里亮太)ええっ!

(町山智浩)もう、それでその黒人の男の子たちの足元にナイフを投げるんですね。ちっちゃい折りたたみナイフをその白人警官が。で、その白人警官はいつもナイフをたくさんポケットに入れているんですよ。で、「なにをするんだろう?」って思ったら、「そのナイフ、拾えよ」って言うんですよ。「そのナイフ、拾え!」ってガンガン殴りながら、「拾え! 拾え!」って言うんですよ。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)拾ったら、すぐに正当防衛で射殺できるからなんですよ。

(山里亮太)ああーっ!

(海保知里)恐ろしい……。

(町山智浩)それがずーっと続いて。で、どんどんテンションが高くなっていくんですけど、そこにたまたま、近くのショッピングセンターで警備をやっていた黒人のガードマンの男の子が来るんですね。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)「なんだろう?」っていうことで。で、もうこれは大変な拷問が始まっている。虐殺が始まる!っていうことがわかるんですけど。それは実在の人物なんですが、ディスミュークスっていう人なんですが。この人を演じているのは『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で主人公の1人のジョン・ボイエガくんが演じているんですけど。

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(山里亮太)はい。

(町山智浩)彼もだから、最初は悪い側の、帝国側のストーム・トルーパーだったのに、虐殺を見て改心してね、正義の側に回る役だったですけど(笑)。虐殺を目撃してばっかりの人ですけど(笑)。ただね、彼1人しかその現場に、黒人で銃を持っている人はいないんで、止められないんですよ。

(山里亮太)そうか。止めに入ったら、自分も殺されてしまう。

(町山智浩)そう。しかも、その拷問をしているのは全員警官だから、それがいちばん怖いのは、「おまわりさーん!」って頼る人がいないわけですよ。

(山里亮太)そっか!

(海保知里)なんという……地獄!

(町山智浩)地獄なんですよ。これね、ものすごく怖い映画で。この拷問シーンがこの映画2時間ちょっとあるんですけど、全体で50分ぐらいあるんですよ。拷問だけで。

(山里亮太)ええっ!

(海保知里)ちょっと分量が多いですね。

(町山智浩)だからものすごい強烈だったですね。僕、見ていてね、とにかく思い出したのはね、最近亡くなった映画監督でトビー・フーパーっていう人がいるんですね。その人が撮った映画で『悪魔のいけにえ』という映画があるんですよ。それは田舎に遊びに行った若者たちがその地元に住んでいる食人家族。人を食う家族たちの家に拉致監禁されて、彼らのディナーパーティーに招待されるという映画なんですよ。

(海保知里)ええ。

(町山智浩)で、その若者たちが一人ひとり殺されていっているわけですよ。で、最後に残った女の子がそのテーブルに無理やり縛られてさあ、ディナーが始まるっていう映画があるんですね。それを思い出したんですよ。

(山里亮太)えっ、そんな……じゃあもう、ホラーっていうことですか?

(町山智浩)もうほとんどホラーでしたね。だから絶体絶命で、逃げ場ゼロですよ。全員警官だし。で、どんなに逆らっても言いくるめられて、まあ正当防衛とかに偽装して、殺されるんですよ。

(山里亮太)しかも、町山さん。これ、事実なんですよね? ドキュメンタリーっていうことですかね?

(町山智浩)これ、事実なんですよ。ドキュメンタリータッチで撮っていますね。これ、監督はキャサリン・ビグローっていう女性監督で、『ハート・ロッカー』っていう映画で2008年にアカデミー賞をとっている人なんですけども。今回はもうほとんどドキュメンタリーに見えるような撮り方をしていて、すごいんですよ。強烈で。

(山里亮太)ええーっ!

(町山智浩)で、あとね、似ているのは『コンプライアンス(服従の心理)』っていう映画がちょっと昔にあって。それはマクドナルドで働いている女の子が警官と称する人から電話が店長にかかってきて。「その女の子が店の金を盗んでいるから、裸に剥いて身体検査をしろ」って言われて、監禁される話があったんですね。それも実話ですけども。あれはだから、権力とか「やっていいよ」っていう風に警察とかから言われた人間はどれだけ残酷なことができるか?っていう映画が『コンプライアンス』っていう映画だったんですね。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)これ、実際の話なんですよ。あれにも近いんですよ。逃げ場がないんですよ。

(海保知里)いやー……。

(町山智浩)これ、すっごい。もう強烈でね。で、やっぱり一人ひとりと殺されていくんですよ。順番に。これ、すごいですね。これね、ここでネタバレになっちゃうんですけど。女の子が1人、生き残っています。生き残った子がいま、この映画でアドバイザーとして、顧問としてついて、このシーンは彼女の立ち会いのもとで全部再現しているんですよ。

(山里亮太)ええっ! じゃあ、完全再現なんだ!

(町山智浩)完全再現なんです。これは強烈でね。ホラー映画としても今年いちばん怖かったですよね。

(山里亮太)これが事実だっていう……。

(町山智浩)全然信用できない警官に囲まれてしまった場合、もう逃げ場ゼロですから。で、これをなぜ、キャサリン・ビグロー監督が50年目に作ろうとしたか? というと、実はアメリカですごくいま問題になっているのは、白人警官による黒人の射殺とかの事件なんですね。すごい量なんですよ。で、そのニュースを見ていてキャサリン・ビグロー監督は「ああ、そういえば私が若い頃にそういう事件があったわ」と思い出して、この映画を作ることにしたんですね。

(山里亮太)ああ、なるほど。

(海保知里)そうだったんだ。

現在も続く警官による黒人殺害事件

(町山智浩)で、いまね、どれぐらいひどくなっているか?っていうと、たとえば去年、2016年だけで白人の警官――まあ、白人とは限らないですけど。ほとんど白人なんですが――アメリカ全土で300人以上の黒人が警官に殺されているんですよ。

(海保知里)そんなに……。

(町山智浩)で、今年。2017年に入ってから、すでに189人も黒人が殺されているんですよ。で、これはそのうち、銃とかナイフを持っていた黒人はたった30%なんですよ。

(山里亮太)じゃあ、あと7割は何で殺されているんですか?

(町山智浩)あと7割近くは武器を持っていないで殺されているんですよ。で、しかも、2015年、2016年でそうやって黒人を殺した警官のうち、99%は全く刑を受けていないんです。

(山里亮太)ええっ!

(海保知里)そうなんですか!?

(町山智浩)そうなんです。だから、いまアメリカで「Black Lives Matter(黒人の命だって大切にしてくれ)」と言って運動が起こっているんですよ。で、どうしてそうなるか?っていうと、まずひとつはこのデトロイトの事件は陪審員が全員白人だったんですね。

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(山里亮太)ええっ!

(町山智浩)だから裁判では、もう白人が黒人を殺しても無罪になっちゃう。で、最近起こっているのは、起訴すらされないっていう事態なんですよ。

(海保知里)ええーっ!

(町山智浩)それは、大陪審という人たちが協議して起訴するかどうかを決定するんですけど、これは警察によるむやみな起訴を防ぐためのシステムだったのに、現在は警察官が起訴されないシステムとして動いちゃっているんですよ。大陪審(のメンバー)は黒人がものすごく少ないから。これは当たり前なんですよ。ある一定の地域で、黒人ばっかりが住んでいるところだけで大陪審を選ぶわけじゃないですから、ある程度の広さで大陪審を選ぶと、黒人っていうのはアメリカ全体の人口の12%しかいませんから。白人が圧倒的に多くなっちゃうんですよ。

(海保知里)そうなんだ。

(町山智浩)そうするとなかなか起訴されないっていう事態になっちゃうんですよね。で、現在はアジア人とかメキシコ系の人も入れると、白人は全体の6割まで落ちてはいるんですけど、多数決だとやっぱり白人が勝っちゃうんですよ。だから起訴されないっていう事態があって。あと、もうひとつの問題はさっきも言ったんですが、警官のほとんどが白人なんですね。で、地元の人たちではなくて、遠くから働きに来ている白人なんで、地元に対する愛情とか、地元の住民としての仲間意識が全くないんで、射殺を簡単にしてしまうんですよ。

(海保知里)そうなんだ……。

(町山智浩)という事態が起こっているんで、キャサリン・ビグロー監督はすでに決着はついていて、もう事実関係が全て明らかになっているその50年前の話を映画にしようと。で、「50年間、なにも変わっていない」っていうことなんですね。で、最近すごく問題になっているのは、みんなスマホを持っているから、現場の録画が残っているから、インチキなことがバレてきているんですよ。全く武器を持っていない人を殺したりしていても、さっき言ったナイフを持たせたりとか銃を持たせたりして、偽装をしているんですよ。多くの場合。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)ところが、スマホでビデオを撮られちゃっているんで、そういう偽装ができなくなったんで、最近問題になってきているんですよ。っていう話でね、これがすごくわかるのは、普段弾圧をしていると……黒人を弾圧していたり、いろんな少数民族を世界中の人が弾圧しているんですけど、かならず弾圧されている方が虐殺をされるんですよね。

(山里亮太)うん、そうですよね。

(町山智浩)それは普段弾圧しているもんだから、「こいつら、いつか俺たちに復讐する」と思い込んでいるんですよ。(弾圧を)している側は。だから、たとえば関東大震災みたいなことがあると、「朝鮮人が復讐しに来るんじゃないか?」っていうことで勝手に思い込んで朝鮮人を殺すっていう事態になるんですよね。

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(山里亮太)はー……。

(町山智浩)だからこれはすごく世界に共通する虐殺のシステムなんですよ。ユダヤ人虐殺もそうでしたからね。「あいつらが俺たちの国を乗っ取ろうとして企んでいるんだ」っていう風に勝手に思い込むんですよ。普段、差別をしているから、「絶対に彼らは恨んでいるはずだ」って思っちゃうんですよ。だからまあ、これはすごい映画でね。で、ちょっと聞いていただきたい曲があって。これはドラマティックスのメンバーの1人のラリー・リードが生き残ったんですね。で、生き残ったんですけど、彼は「もう二度とラブソングとかは楽しく歌えない。あんな事態を目撃したから」と言って、彼は神の道に入って。その後に牧師さんになって、牧師として人々を救って癒やすための歌をデトロイトで歌い続けているんですよ。

(海保知里)ああ、そうなんだ……。

(町山智浩)で、その人がこの映画の中では若い俳優のアルジー・スミスくんがラリー・リードを演じていますけども。そのアルジー・スミスくんは歌手なんですけど、ラリー・リードさんが作った歌をこの映画の主題歌として2人でデュエットしています。それが、いまかかっている曲です。



(町山智浩)これは、「人はすべて生まれながらに平等なはずなのに、それはいつになったら実現されるんだ?」っていう歌なんですよ。

(海保知里)そうなんですね。ということで、町山さん……時間がなくなってしまいまして。

(町山智浩)はい。これはもうすぐ公開です。

(海保知里)はい。ありがとうございました。

<書き起こしおわり>

町山智浩 スティーヴン・キング『死の舞踏:恐怖についての10章』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』で解説を巻末に書いたスティーヴン・キング『死の舞踏:恐怖についての10章』を紹介していました。



(町山智浩)今週、リスナーのみなさんにプレゼントがあります。僕が解説を巻末に書きましたスティーヴン・キングの『死の舞踏:恐怖についての10章』という文庫本を5名様にプレゼントします。スティーヴン・キングというのは世界一のホラー小説作家の人ですね。『キャリー』とか『シャイニング』とか。それを書いたスティーヴン・キングさんが自分が子供の頃から、本当にちっちゃかった頃から現在までの彼の体験的ないろんなホラーについてのことを語り尽くした本で、700ページもあるんですよ。

(海保知里)うわーっ、すごいボリューム!

(町山智浩)すごいんですよ。これは映画だけじゃなくて、ホラー映画、ホラー小説、ホラーラジオ、ホラーテレビ。ありとあらゆる恐怖についての物語をキングさんが自分の子供の頃からそれに出会って、どう怖かったのか?っていうのを自伝的に語り下ろしているというか、書き下ろしている本なんですけども。僕はとにかく……僕、最初に最後まで読み通した英語の本っていうのはスティーヴン・キングの『キャリー』だったりするんで。巻末に「この本を読むと『シャイニング』についてよくわかる」ということを書いていますので、ぜひ読んでいただきたいと思います。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)いろんなね、たとえば「『エクソシスト』という映画が実は、大事に育てた娘が変になっちゃう話なんだよ」みたいな話がいっぱい書いてあります。

(海保知里)そうなんだ!

(町山智浩)はい。ホラー映画っていうのは現実にあるホラー、恐怖を描くものなんで。「お化け屋敷の映画がいっぱい多いというのは、高い金を出して建て売り住宅を買ったら、そこでいろいろと怖いことが起こったという不動産ホラーなんだ」みたいなことも書いてありますね。

(山里亮太)不動産ホラー?

(町山智浩)はい。だからすごく面白い本なので、これを5名様にプレゼントします。

<書き起こしおわり>

町山智浩 トロント映画祭2017 現地レポート

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』でアカデミー賞の前哨戦として知られるトロント映画祭2017を現地からレポート。実際に見た15本の中から注目作を紹介していました。

(山里亮太)町山さん、いまトロントなんですか?

(町山智浩)はい。毎年来ているんですけど、カナダのトロントで行われる映画祭に来ています。トロント映画祭というのはカンヌ映画祭とかヴェネツィア映画祭とか世界的に知られているものがある中で、最も商業的な映画祭ですね。芸術的な映画というよりは、本当にヒットする映画がかけられるんですけど。特に、来年の頭にあるアカデミー賞の前哨戦と言われています。で、去年はここで『ラ・ラ・ランド』が観客賞という観客全員が投票する賞をとりまして。で、『ラ・ラ・ランド』がここで火がついてアカデミー賞をとりましたね。

(山里亮太)おっしゃってましたもんね。この時にもう町山さんは「『ラ・ラ・ランド』だろう」っていうような話になっていましたもんね。

町山智浩 トロント国際映画祭2016 現地レポート
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』で現地取材中のトロント国際映画祭2016の模様をレポート。おすすめ作品を紹介していました。 (町山智浩)それでですね、今日お話するトロ...

(町山智浩)そうなんですよ。で、僕は『ラ・ラ・ランド』を見た直後に、去年は電話でそれを報告したんですけど。今年も『ラ・ラ・ランド』の主役のエマ・ストーンちゃんが出た映画がすごく話題になっています。これがね、『Battle of the Sexes』というタイトルの映画なんですね。

(山里亮太)だいぶ変わりましたね。

(町山智浩)すごい、いろんなセックスをして「どのセックスがいちばんすごいのか?」っていうバトルをするような気がするじゃないですか。

(山里亮太)ああ、「気がする」ね(笑)。

(海保知里)びっくりした! 本当にそんな映画だったらどうしようかと……(笑)。

(町山智浩)そうじゃなくて、この場合の「Sex」は「男女」っていう、「性別」のことなんですよ。だから、アメリカとかに旅行をする時に入国管理に提出する書類に「Sex」って書いてあるじゃないですか。あれは男か女かを書きこむんですね。

(山里亮太)性別をね。はい。

(町山智浩)そう。だから「Sex」っていうところに「大好き」とか「苦手」とかそういうことを書いちゃいけませんからね。

(山里亮太)(笑)

(町山智浩)「自信ない」とかね、「任せろ」とかね、「誰にも負けない」とか、そういうことを書いちゃいけないですよ。

(山里・海保)(笑)

(山里亮太)いるのかな? いままでそう書いた人?(笑)。

(町山智浩)ダメですよ! 「I like it」とか書いちゃダメですからね。で、この『Battle of the Sexes』っていうのは「男と女の戦い」っていう意味なんですよ。これは1973年に実際にあったテニスの全米チャンピオンの女性だったビリー・ジーン・キングという女性と、男の過去のチャンピオンだったボビー・リッグスという男女が対決してものすごい話題になったバトルの映画化です。

(山里亮太)へー!

『Battle of the Sexes』

#EmmaStone and #SteveCarell star in #BattleoftheSexes // In theaters 9.22

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(町山智浩)で、この頃、「ウーマン・リブ」っていう言葉があったんですけど、覚えてますか?

(山里亮太)ウーマン・リブ。聞いたことはありますけども。

(海保知里)女性ががんばる運動、みたいな?

(町山智浩)うん。だから女性の人権運動のことなんですね。ウーマン・リブというのはね。で、すごく話題になって。その頃、1973年という時代はアメリカでやっと、人工中絶の権利が認められて。それまでは(人工中絶は)犯罪だったのがやっと認められるという状況があって。あと、女性の雇用の機会均等が認められていったりして、やっと女性の地位が向上していった時代がその1973年なんですよ。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)で、それに対して怒っている男たちがいっぱいいて。「女は仕事するな」と。で、特にこのボビー・リッグスというテニスの今回戦うチャンピオンは「女はセックスと台所だけやってりゃいいんだよ」って言っていた人なんですよ。

(山里亮太)ほうほう。ゴリゴリの……。

(町山智浩)で、それに対してこのビリー・ジーン・キングという女性のチャンピオンは、まずその男女のチャンピオンシップの優勝戦の賞金が全く桁が違うんですよね。こういうスポーツって、男子と女子で分かれているじゃないですか。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)で、女子の方は賞金が1/8とか何ですよ。

(海保知里)そんなに違うの? ひどい!

(町山智浩)そうなんですよ。それで怒っていて。で、結局2人が対決することになったという実話の話なんですけども。これがすごかったのはね、エマ・ストーンはテニスをやっているわけですよ。プロの、ビリー・ジーン・キングの役で。これね、実際にこのテニスをしているところは本当に撮っているんですね。で、監督が言っていましたけど、「ボールはCGとかを使っていません。全部本当にやっています」って言っています。

(山里亮太)っていうことは、エマ・ストーンはテニスが上手なの?

(町山智浩)ものすごい特訓をしてやったらしいんですよ。で、しかもこのエマ・ストーンはビリー・ジーンという役の人になりきっていて、完全にエマ・ストーンが見えなくなるんです。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)その女優が透けて見えてこないんですよ。完全にビリー・ジーンという人になっているんですよ。

(海保知里)入り込んでるんだ。

(町山智浩)すごい。だからこれはたぶんね、アカデミー主演女優賞を2年連続、ノミネートは確実でしょうね。



(山里亮太)はー!

(町山智浩)すごいですよ。まだ若いんですけど。エマ・ストーンってまだ20代ですけども。やっぱりすごい女優だなと思いましたね。で、これが『Battle of the Sexes』ですごい話題になっているんですけど、もう1本、すでにやっぱりアカデミー賞の主演女優賞をとった人でジェニファー・ローレンスさんっていう女優さんがいますね。

(山里亮太)はい。

『Mother!』


(町山智浩)彼女が主演の『Mother!』という映画もすごい話題になっているんですよ。これはね、監督がダーレン・アロノフスキーという監督で、この人は『ブラック・スワン』という映画でナタリー・ポートマンにアカデミー主演女優賞をとらせた男です。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)『ブラック・スワン』はご覧になりましたか?

(山里亮太)はい。見ました。

(海保知里)見ました。怖かったです。

(町山智浩)ナタリー・ポートマンがニューヨークのバレエの主役に選ばれるんだけども、「お前はおぼこでセックスとかオナニーとかしたことねえだろ!」ってコーチに言われてセクハラされて、だんだんおかしくなっていくっていう話でしたね。

(山里亮太)そうですね(笑)。説明、合っています。

(町山智浩)はい。お股をいじっているところをお母さんに後ろから見られたりとかね。はい。

(山里亮太)取り上げる場所が町山さん、独特すぎるっていうね(笑)。

(町山智浩)いや、全く間違ってないよ。本当のことを言っているんですが、なぜかみんなにね、「おかしい」って言われるんですが(笑)。で、この『ブラック・スワン』でナタリー・ポートマンにアカデミー賞をとらせたそのダーレン・アロノフスキーが、ジェニファー・ローレンスにこの『Mother!』っていう役をやってくれって言ったら、シナリオも何も見ないでジェニファー・ローレンスは「OK」って言ったらしいんですよ。

(山里亮太)信頼しているんだ。

(町山智浩)とにかく女優を徹底的に追い詰める、蜷川幸雄先生とかつかこうへいさんとかがいましたけども。アメリカではダーレン・アロノフスキーなんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)で、この『Mother!』という映画は説明をしちゃうとネタがバレちゃうんで、説明ができない困った映画なんですけど。ジェニファー・ローレンス扮する若妻が旦那と一緒に住んでいる家に、次から次へと変なお客さんが訪れるっていう話なんですよ。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)で、それ以上言うとネタがバレるんで言えないんですけど。塚本晋也監督が2012年に撮った『KOTOKO』っていう映画に非常によく似た映画なんですよ。で、絶対に見ているだろうなって僕は思いましたね。

(山里亮太)はー! その影響を受けているんじゃないかと。

(町山智浩)そう。アロノフスキー監督はね、日本の映画が好きで、日本の映画をパクッてばっかりいる人なんで、「またやったか」と思いましたけども。

(山里亮太)インスパイアじゃなく?(笑)。

(町山智浩)そう。しょっちゅうやっている人です。この人は。前科者です。はい。でもね、これがジェニファー・ローレンスがもうボコボコに、ここまでやるか?っていうね。階段突き落とされて、ボコボコに殴られてっていうめちゃくちゃな映画なんで。たぶんね、アカデミー賞にノミネートされるかもしれないなと。「よくここまでがんばったで賞」をもらうんじゃないかなと思いますけども。



(山里亮太)へー!

(町山智浩)ただ、女優がね、今回すごくて。もう1本、すごかったのは『Molly’s Game(モリーのゲーム)』っていう映画がすごかったんですよ。

(山里亮太)はいはい。

『Molly’s Game』


(町山智浩)これも実話の映画化で、主演はジェシカ・チャステインという女優さんで、この人は『ゼロ・ダーク・サーティ』でオサマ・ビンラディン暗殺をするCIAのエージェントを演じていた女性なんですが。この人が演じるのはモリー・ブルームという実在のオリンピックのスキー選手なんですよ。彼女は10代の時にオリンピックに出るんですけど、オリンピックの本番で大怪我をして、背骨をやっちゃって一生スキーができなくなるんです。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)でその後に普通にやり直そうとして、投資会社でアシスタントというか丁稚というか、秘書みたいなことをやり始めるんですね。ところが、そうすると投資会社の人たちがハリウッドの大金持ちを集めて闇ポーカーをやっていることがわかるんですよ。で、1回のテーブルで賭ける賭け金の額が1億円を超えるようなとんでもない額で賭けている大金持ちの人たちがいて。密かにね。で、それを任されたモリーがどんどん賭け金を上げていって、アメリカ最大の闇ポーカーの胴元になっていったという実話なんですよ。

(山里亮太)えっ、あっ、実話っていうところがまたすごい。

(海保知里)すごい話(笑)。

(町山智浩)そうなんですが、この映画がすごいのはね、彼女の自分で書いた伝記を原作にしているんですけど、伝記にあるものすごく長いト書きを全部セリフでずっと言い続けていて。彼女のナレーションが入るんですけど、映画の最初から最後までものすごい早口でずっとナレーションが聞こえている映画なんですよ。

(海保知里)へー。

(町山智浩)だからこれね、日本で劇場公開をしたら字幕で画面が満杯になっちゃう。

(海保知里)大変だ(笑)。

(町山智浩)ものすごい。しかも、セリフというかモノローグの中で、なにかを言うとそれが全て画面に出てくるんですよ。

(山里亮太)ふーん!

(町山智浩)だからたとえば「絶対に悔しいことって、あるわよね」って言うんですよ。「たとえば、ブラジル人にとってはサッカーでアルゼンチン人に負けることがいちばん悔しいのよね」っていうような話をすると、そこにブラジルとアルゼンチンの試合がパッと入ってくるんですけど、全然本編に関係がないんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)思いつきでどんどんしゃべっていく……フリートークでしゃべると、いろんな関係ない話題が出てくるじゃないですか。それが全部画面に実物として出てくるんですよ。ものすごい情報量なんですよ。ワンカットワンカットが、0.0何秒みたいなのがバババババッてものすごい情報で出てきて。これはもう見ていると頭の中が破裂しそうになる映画なんですよ。これはね、いま世界的にすごく情報量の詰め込みが流行っていて。『シン・ゴジラ』という庵野秀明監督の映画は全員がセリフをものすごいスピードでしゃべっていて、1回見ただけじゃほとんど意味がわからない映画なんですね。

(山里亮太)たしかに、後半とか何を言ってるんだろう?って。

(町山智浩)何を言ってるかわからないですけど、その前にね、実は『ソーシャル・ネットワーク』っていう映画と、そのさらに前に『ゾディアック』という映画をデビッド・フィンチャーっていう監督が撮って。その時に、本来だったら3時間、4時間とか5時間を超える映画を、全くシナリオをカットしないまま2時間に詰め込むっていうことをやったんですよ。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)俳優たちを全員その場で全部ものすごい早口でしゃべらせるというやり方をやっていたんですね。そういうのの、その『ソーシャル・ネットワーク』のシナリオを書いていたアーロン・ソーキン監督が『Molly’s Game』というのを映画化しているんですよ。

(山里亮太)なるほど。

(町山智浩)だから、全員がものすごい早口で、全員がものすごい早いスピードで移動して。画面にパパパパパッてあらゆる情報が入ってくるというですね、とんでもない映画になっていますね。



(山里亮太)(笑)

(町山智浩)これはね、字幕も読み取れないし、たとえ日本語の吹き替え版があったとしても、吹き替えを聞き取れないというすごい状態になると思います。本当にね、すごいことになっていて。あと、変な映画もいっぱいありまして。『Downsizing』という映画も変でして。

(海保知里)『Downsizing』?

『Downsizing』


(町山智浩)これね、マット・デイモンが主演なんですけど、ダウンサイジングっていうのは人間を全てバービー人形ぐらいの大きさにすることで省エネをして、住宅難とか食糧難を解決しようっていう話なんですよ。

(海保知里)すごい発想ですね、それもまた。



(町山智浩)そう。これね、昔ね、『ウルトラQ』というテレビドラマで『1/8計画』っていうのがあって、全く同じことをやっていましたけど。まさかハリウッドがそれから50年もたってやるとは思いませんでしたけど、これもすごい変な映画でしたね。変な映画がすごく多くて。あとね、ジョージ・クルーニーが監督した『Suburbicon』っていう映画もすごく変で。1950年代の新興住宅地にやっぱりマット・デイモンがお父さんとして住んでいるんですよ。そうすると、ある日突然2人組の強盗がやってきて、彼らを縛りあげてそのうちのお母さんを殺しちゃうっていうところから始まるんですよ。で、それを目撃した子供がだんだんと本当の犯人を知っていって怖いことになっていくというね、コメディーでしたね(笑)。

(山里亮太)コメディー?

(海保知里)なんでコメディー?

『Suburbicon』

(町山智浩)今年ね、血みどろ毒親コメディーばっかりでした。とにかく、どれもすごい内容で。血みどろなんですけど、みんな親が悪くて子供をいじめる映画ばっかりなんですよ。で、みんなね、ギャグになっていてね。とんでもねえなと思いましたけどね。なんでこんなのが流行っているんだろう?って思いましたけどね。はい。



(山里亮太)(笑)

(町山智浩)あとね、すごかったのはね、『The Current War』というのがね、ベネディクト・カンバーバッチが発明王エジソンを演じているんですよ。それと、彼のライバルがウェスティングハウスという企業家なんですけども。この「Current」ってね、直流とか交流の電気の電流のことなんですね。で、いまの電流って交流じゃないですか。いわゆる「AC・DC」の「AC」なんですね。いまの電気って。でも、エジソンは一般の電気を「DC」にしようとしたんですよ。直流。乾電池の電気が直流ですね。

(山里亮太)はい。

『The Current War』



(町山智浩)で、直流で行くはずが交流になるまでのエジソンとウェスティングハウスという電力会社を経営しようとした男の戦いを描いた映画でした。

(山里亮太)ピンポイントなところで。すごい!

(町山智浩)これね、エジソンってみんな、いい人だと思っているじゃないですか。エジソンって実はすごく嫌なやつなんですよ。

(海保知里)へー!

(町山智浩)いろんなところで嫌なやつなんですけど、そのへんがよく描かれていて。たとえば、なんにでも「エジソン」っていう名前を付けたがるとかね。で、その特許とかで抵触する人を弁護士を使って潰していくとかね。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)みんなエジソンの嫌なところを知らないんですけど、この映画は結構そのエジソンの嫌なところを描いていて、すごいですね。

(山里亮太)へー! みたいな、これ。

(町山智浩)映画がハリウッドで作られるようになったのって、エジソンが映画の権利を持っていて、特許でうるさく言うから、ほとんど人が住んでいないハリウッドで映画を作るようにしたんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)映画を1本作るごとに、エジソンはそこから特許料をふんだくろうとしたからですよ。で、みんなハリウッドに逃げていって映画を作ったんで、エジソンがいなければハリウッドは映画の都にならなかったんですよ。だからそういうね、「エジソンはいい人だ」とか言われているのはね、本当に嘘の話なんで。それがわかって面白かったですね。

(山里亮太)小学校の時に伝記で読んだら、めちゃめちゃいい人でしたけね。

(町山智浩)だから子供の頃の話しか出てこないからですね。

(山里亮太)なるほど。



(町山智浩)あとね、面白かったのは『Mark Felt』っていう映画が面白かったですね。これはね、ウォーターゲート事件というニクソン大統領が1972年の選挙の時に民主党の選挙事務所の盗聴をした時の話なんですよ。で、マーク・フェルトっていう人はその情報をワシントン・ポストという新聞社にリークした人なんですね。

(山里亮太)ほう。

『Mark Felt』


(町山智浩)この人は実はFBIのトップの3人のうちの1人だったんですよ。で、ウォーターゲート事件の盗聴はFBI自体も大統領に言われて協力しているんですよ。それを、内部から裏切って告発した男なんですよ。で、このマーク・フェルトがFBIの中でそれをどういう風にやったのかを描いているんですよ。だからすごいのは、このマーク・フェルト自身が「今回のウォーターゲート事件をワシントン・ポスト紙にリークしたやつがいる。誰だ!?」って言うんですよ。自分がやっているのに。

(山里亮太)おおっ!

(町山智浩)上司だから。「そんなやつは許せんな!」とか言っているんだけど、お前がやってんだよ!っていうね。すごい変な映画でしたよ。だから。これ、リーアム・ニーソンが演じているんですけど、この人はジャン・バルジャンとかね、『シンドラーのリスト』とかね、そういう体制側に入っていって嘘をついている正義の味方という役ばかりやっている人なんで、得意でしたね。

(山里亮太)(笑)

(海保知里)そうか。いつも逃げているイメージがあるんですけど、それだけじゃないんですね(笑)。



(町山智浩)正義の嘘つきの役なんですよ。この人は。ジャン・バルジャンがそうですよね。これも面白かった。だから結構どれもすごく面白かったですけど、いちばんすごかったのはね、『The Shape of Water』っていう映画でギレルモ・デル・トロ監督の新作で、半魚人と女性の愛とセックスを描いた映画ですね。

(山里亮太)(笑)。それがいちばんですか!

『The Shape of Water』


(町山智浩)で、これすごいのはね、トロントのエルギンシアターという映画館でロケをしているんですよ。舞台が映画館なんですよ。そこで、僕はその試写を見ました。映画の中にその映画館が出てくるの。だから、すっごく不思議でしたよ。トロントっていうのは、ハリウッドとかの映画を撮影させたりして、もう映画の都になっているんですよ。観光名所が何もないクソつまんない街なんで、みんな苦労して。映画祭と映画のロケで映画の都にしようとして、上手くいっているんですね。だからね、それをトロントで見れたのは非常によかったですね。



(海保知里)わかりました。そろそろお時間になりました。いっぱい見たい映画がありましたけども。

(町山智浩)5日間で15本見たんで。

(山里亮太)すごい!

(町山智浩)随時話していきます。

(海保知里)お待ちしています。

(山里亮太)ありがとうございました!

<書き起こしおわり>

町山智浩 ウーマンラッシュアワー村本との対談番組を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でウーマンラッシュアワー村本さんとロサンゼルスで対談した番組について、山里亮太さんに話していました。


(町山智浩)まず、リスナーのみなさんにプレゼントがあります。『映画秘宝』が21日に発売になりますが、それを5名様に。

(山里亮太)表紙、すごいじゃないですか。町山さん!

(町山智浩)表紙がのんちゃんこと、能年玲奈ちゃんのワンダーウーマンコスプレ!

(海保知里)かっこいい!

(町山智浩)かっこいいんですよ、これが。

(海保知里)あ、ピエール瀧さんもインタビューに答えていて。

(町山智浩)ピエール瀧がまた、実物もデカいんですけど、でっかい顔で乗っていますけども(笑)。

(山里亮太)ああ、『アウトレイジ』だ。

ピエール瀧 北野武映画『アウトレイジ最終章』撮影現場の模様を語る
ピエール瀧さんと玉袋筋太郎さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で北野武監督の映画『アウトレイジ最終章』の撮影現場の模様について話していました。 『アウトレイジ 最終章』新キャ...

(町山智浩)北野武さんの映画で。北野武さんのインタビューがあって。で、のんちゃんが巻頭グラビアですから。はい。伊賀大介さんがスタイリングをやっていて、なかなかすごい『映画秘宝』を5名様にプレゼントいたします。あ、『映画秘宝』っていうのは映画雑誌ですけども、ちなみに僕が創刊した雑誌です。

(海保知里)(笑)

(プレゼント情報略)

(町山智浩)そしてもうひとつ、告知がありまして。本日の夜7時から、WOWOWの映画塾というのを僕、ずっとやっているんですけども。映画の解説をするのを。で、時代劇研究家さんと僕が対談をするんですね。で、それをネットで中継します。wowow.co.jp で事前登録していただけると生放送で見ることができます。

(海保知里)パソコンで見られるんですね。

(町山智浩)で、僕と春日太一さんが対談する内容は『日本沈没』。古い方ですね。それと、『新幹線大爆破』。「青木くん、新幹線を止めるんだっ!」っていう関根(勤)さんのやつですね(笑)。

(海保・山里)(笑)

(町山智浩)ちなみにあれ、本当は宇津井健さん、「新幹線を止めるんだ」って言ってないですから。

(海保知里)そうなんですか?

(町山智浩)宇津井さんは新幹線を止めるのに反対しているんですけど。関根さんは逆に言ってますね。それはいいんですが(笑)。それと、原田芳雄さんの本当に有名な『浪人街』と『竜馬暗殺』について話をするのを生で放送しますので。そのWOWOWの方に登録をしてください。19時からです。


(町山智浩)で、もう1個。山里さんには悪いんだけど、ウーマンラッシュアワーの村本くんと仕事をしています(笑)。

(海保知里)(笑)

(町山智浩)ごめんね。

(山里亮太)いいんです、いいんです。

(町山智浩)大丈夫? ゴメンね。

(山里亮太)「ギクシャクしている」っていう噂はありますけど、大丈夫です。全然(笑)。

(海保知里)(笑)

(山里亮太)いろんな情報、知ってるなー(笑)。

(町山智浩)いや、この間ロサンゼルスで彼と2人で対談する番組を撮ってですね。まとめ撮りしたんで。それが本日、夜の11時半。23時半からBS朝日で放送されます。

町山智浩のアメリカの〝いま″を知るTV


(山里亮太)どんなことしゃべるんですか? 町山さんと村本で。

(町山智浩)あのね、いっぱい話したんですけど、今日放送されるのは僕がずっとやっている『町山智浩のアメリカの”いま”を知るTV』の中で、アメリカにおける白人至上主義者とそれに対抗するAntifaと言われている人たちの対立はいったいどうなっているのか? ということについて話しています。ちょうど、収録がシャーロッツビルの大事件があった直後だったんですよ。

町山智浩 バージニア州白人至上主義者集会の衝突事件を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアメリカ・バージニア州シャーロッツビルで起きた白人至上主義者の集会とそれに反対するカウンターの人々の衝突事件について話していました。 ...

(海保知里)ええ、ええ。

(町山智浩)で、それとその次の放送からはアメリカのスタンダップコメディアンについて。ここでも話しましたけどね。

町山智浩 アメリカのお笑い芸人が政治的なネタを扱う理由を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアメリカのお笑い芸人・コメディアンたちが積極的に政治的なネタを扱う理由について話していました。 (町山智浩)はい。町山です。よろ...

(山里亮太)はいはい。

(町山智浩)それで、スタンダップコメディーのクラブがあるんですけど、そこに村本くんと行って、現場のスタンダップコメディアンの人にインタビューしたりしながら、日本とはどう違うのか?っていう話を2週連続でやります。

(海保知里)ちょっと面白そうな番組ですね。

(町山智浩)村本さんはね、本当にそっちの方をやってみたくて留学していたんですよね。その時にね。

(山里亮太)へー! 留学していたんだ。なんか英語の勉強をしているみたいな噂は聞いていたんだけど。

(町山智浩)英語、しゃべってました。

(山里亮太)しゃべってました? もう。

(町山智浩)しゃべってた。これ、言っていいのかな? まあいいや。あの、ナンパとかしてましたよ。

(山里亮太)あらっ! さすがですね。ちゃんとキャラクター、ブレないですね。

(町山智浩)英語で。やっぱりね、スケベな男の方が英語は早く覚えるわ。

(海保知里)ああーっ! それはピロートークもそうですけど。そうですよね。

(町山智浩)いっぱい自分をアピールしようとするし、相手の言うことも聞こうとするから。そういう気持ちがないと英語とかもなかなか上達しないし。エロなやつは早いね。

(山里亮太)そうか。ちょっと勉強しようかな、英語……。

(町山智浩)(笑)

(海保知里)山ちゃんもエロをね。それで、外人の彼女とかを。

(町山智浩)そう!(笑)。

(山里亮太)いや、オクテだからな。

(町山智浩)そうなんですか?(笑)。わかんないよ。メガネを取って普段は行動しているから。

(海保知里)実は山ちゃん、モテるんじゃないか?ってことを言っているんだけど、「営業妨害になるからやめてくれ」って……。

(山里亮太)映画の話を聞かせてください!

(町山智浩)でも、メガネ取ると本当に松田優作みたいな顔してるよね。

(海保知里)あらっ! ちょっとそれは言いすぎだと思いますよ。

(町山智浩)実は似ているんですよ。結構。

(山里亮太)それ、言ってくれたのはおばあちゃん以来です(笑)。

(町山智浩)おばあちゃんだけは優しいから(笑)。

(山里亮太)優しいから。「亮太は松田優作に似ている」って。ありがとうございます(笑)。

(海保知里)じゃあ、告知はこれぐらいで?

(町山智浩)はい。ということでみなさん、よろしくお願いします。今日はこれも含めて3発連続放送なんで。

<書き起こしおわり>

町山智浩 『アトミック・ブロンド』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でシャーリーズ・セロン主演映画『アトミック・ブロンド』を紹介していました。


(町山智浩)ということで今日はですね、あのシャーリーズ・セロンが主演のすごい映画『アトミック・ブロンド』を。

(山里亮太)インタビューしたこと、あるらしいじゃないですか。

(町山智浩)ああ、本当に?

(海保知里)うん。すっごい怖かった。「早く終わらせろ」空気がムンムンしていて、すっごい怖かった。

(町山智浩)怖いんですよ。優しくないんですよ。

(海保知里)あ、やっぱり?

(町山智浩)あの人、怖いんですよ。

(海保知里)やっぱり怖いですよね。

(町山智浩)低い声でね。デカいし。

(海保知里)それで顔が全然動かない。表情も変わらない。

(町山智浩)すごい怖いです。姉御だから、すごいですよ。

(海保知里)それで私、『はなまるマーケット』で行っているから、もう「好きな食べ物は?」とか聞かなくちゃいけないプレッシャー……。

(町山智浩)ああ、チャラチャラした話を聞くと、「フンッ!」っていう感じで鼻で笑われるんですよ。「そんなこと聞いてるんじゃないわよ」みたいな感じでしょう?

(海保知里)「I’m sorry」ってずっと謝りながらインタビューしていましたよ。もう本当、「ごめんね、ごめんね。聞きたくないよ。私もね、聞かなきゃいけないのよ……」とか言いながらのインタビューで。

(町山智浩)これ、『アトミック・ブロンド』はシャーリーズ・セロンの最終兵器ぶりが爆発しているすごい映画なんですけど。ちょっと音楽を聞いていただけますか?

Eurythmics『Sweet Dreams』



(町山智浩)(曲に合わせて歌う)

(海保知里)町山さん、上手いですね(笑)。

(町山智浩)知ってますよね、これ?

(海保知里)はい。聞いたことあります。

(町山智浩)「聞いたことある」程度?

(山里亮太)僕はいま、はじめて聞きました。

(町山智浩)はじめて聞いた? これは知っておいた方がいいです。歌詞を覚えておいた方がいいですよ。これは、だいたい世界中の人が歌える歌。

(海保知里)へー!

(町山智浩)僕はちなみに20年ぐらい前、昔歌舞伎町にストリップバーがありまして。そこに友達とみんなで行った時に、そこにイスラエルの子たちがストリッパーとしてバイトしていたんですね。イスラエルの人たちっていうのはある一定の年齢になると世界中を回ってバイトしなきゃなんないんです。それが卒業というか……。だから、かならずそれを、行商とかしたりする義務があるんですよ。通過儀礼なんですけど。そこで彼女たちはなぜかそのストリップバーで働いていて。そこで盛り上がったんで二次会に行ったんですけど、二次会でこれをみんなで歌って。

(海保知里)ええーっ!(笑)。盛り上がる曲なんだ。

(町山智浩)これ、僕ぐらいの世代だと日本人でも普通にポップスを聞いている人だと1番は結構歌えちゃうんです。英語が簡単だから。だからこれは「甘い夢(Sweet Dreams)っていうのは何でできているのか、知っているかい?」っていう歌なんです。それは非常に政治的な内容で、「人々はみんな何かを求めている。人々を支配しようとしている人もいるし、支配されたがっている人もいる」みたいな、非常に政治的な、ファシズムとかそういったものの構造を歌っている歌なんですよ。

(海保知里)ふーん! 知らなかった。

(町山智浩)で、これはユーリズミックスっていうバンドが歌っていて、当時これが非常にヒットした理由っていうのは、1980年代っていうのは世界中の政治状況がものすごく大きく変わる状況だったからなんですよ。で、まあ具体的にはソ連が崩壊するわけですよ。1989年に。それで東ヨーロッパの方が全部、ルーマニアとか次々と独裁政権が崩壊していって。で、ベルリンの壁が崩壊する。要するに、東ドイツ・西ドイツに分かれていてその東ドイツ側が共産主義でソ連の影響を受けていたのが、その間に建っていた壁が崩壊する。人民たちがハンマーを持って破壊したんですね。ということがあった時なんで、この手の歌がすごくヒットして。

(海保知里)ふーん。

(町山智浩)で、特にドイツ周辺、ヨーロッパにおけるポップス市場が非常に政治的になった時代があるんですよ。それを背景にしているのが、今回の『アトミック・ブロンド』っていう映画なんですね。これは1989年の東西に分かれていた頃のベルリンが舞台で。イギリスの秘密諜報員……だから『007』と同じのシャーリーズ・セロンが東ベルリンに潜入して秘密を持っているロシア人を奪い取って。彼を助けて西ベルリンに脱出できるか?っていうスパイアクションです。

(海保知里)救出作戦ですか?

1989年東ベルリンが舞台のスパイアクション

(町山智浩)救出作戦です。救出というか、その頃は要人を西側に逃げ出させるのがかなり、スパイの仕事だったんですよ。実際に。まあ、中国の方でもやっていましたけども。で、これがすごいのが、シャーリーズ・セロンは女性のスパイなんですけども、素手でわらわらと襲ってくる東ドイツの敵を片っ端からやっつけるんですよ。

(海保知里)ええっ、シャーリーズ・セロンが!?

(町山智浩)シャーリーズ・セロンが。で、これがすごいのが、そういう映画って結構あるわけですよ。女性がカンフーを使ったりしてやっつけるって。でも、大抵は「こりゃないよ」って思うんですよ。

(海保知里)ああ、たまにそれはありますよね。

(町山智浩)ですよね。で、どうしてないか?っていうと、腕が細くてパンチ力がそんなに女性はないですよね。だからジーナ・カラーノとか何人かのMMAっていう総合格闘技系のに出ている人たちは実際はこんな腕してますから。

(山里亮太)ムキムキなね。

(町山智浩)ムキムキだから。あれだったら倒せるけど。それこそ、『エクスペンダブルズ』に出ていた彼女(ロンダ・ラウジー)とか、そういう人たちは本当にこんな腕だからやれますけども。



(町山智浩)じゃあ、シャーリーズ・セロンはモデル出身の人だから、そんなにすごい筋肉じゃないですから。まあ、実際はすごいですけどね。そういう、それこそ海保さんみたいな女性でも男たちをやっつけられるかどうか?っていうことで、作った側がシミュレーションしているんですよ。で、監督はもともとスタントマン出身の人なんで。で、その人たちが倒すには、まず股間を攻撃する。

(海保知里)ああ、それは絶対に言いますよ。股間ですよね。

(町山智浩)股間ですね。あと、足の甲とか手の甲とか、あとこめかみとかの弱点を徹底的に攻撃する。で、パンチ力がなかったら一撃じゃなくて二撃、三撃、四撃とかましていくという(笑)。

(海保知里)股間を何度も(笑)。

(町山智浩)そうそうそう。で、武器があったら……たとえばフライパンとかあったら、フライパンでバーン!って殴るとコメディーになっちゃうんだけど、フライパンのへりのところで水平に振ってこめかみを叩けば、まあ脳天が砕けるわけですけど。そういうような、技術的にリアルな格闘技がこの中で描かれているんです。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)で、シャーリーズ・セロンはそれを体得して、スタントマンなしで演じています。

(海保知里)やっているんですか!

(町山智浩)スタントマンなしでやっていますね。で、これがまあすごいんですよ。全編ずーっとシャーリーズ・セロンが戦い続ける映画。あの、『ジョン・ウィック』っていう映画、ありましたけども。ご覧になりました?

(山里亮太)僕は『1』の方だけ、この間Netflixで見ました。

(町山智浩)『ジョン・ウィック』の共同監督の1人なんですよ。この監督は。

(海保知里)だから武術が結構すごいんですね。

(町山智浩)はいはいはい。で、『ジョン・ウィック』ってストーリー、はっきり言ってなかったじゃないですか。最初から最後までずっと……。

(海保知里)だって、犬を殺された復讐のために……みたいなね。

(山里亮太)ひたすら戦い続けて。

(町山智浩)ずーっとキアヌ(・リーブス)が戦い続けているだけじゃないですか。それの女性版ですよ。今回の『アトミック・ブロンド』は。

(山里亮太)ただ、見ていて面白いですけどね。見ていてずっと戦っていて、「すげーな!」って。

(町山智浩)すごいですよ、これ。で、しかもね、シャーリーズ・セロンはこの人自身が結構怖い人ですから。

(海保知里)いや、本当に。

(町山智浩)この人、ショーン・ペンと付き合っていたんですけど。アカデミー主演男優賞の。そのショーン・ペンを捨てた人ですよ。で、ショーン・ペンがすがりついたりして大変だったんですよ。

(山里亮太)へー!

(海保知里)忘れられなかったっていうね。

(町山智浩)そう。で、結構映画祭みたいなやつでショーン・ペンと久しぶりにあった時に、かわいそうだからってこう、ショーン・ペンを抱いてあげてましたよ(笑)。

(山里亮太)逆に(笑)。

(町山智浩)「逆じゃん、それ!」っていう(笑)。

(海保知里)完全に男ですよね。シャーリーズ・セロンがね。

(町山智浩)そう。だからショーン・ペンもたぶん抱かれたんだろうと思うんですけど(笑)。完全に男とか女とかを超えていく人なんですよ。シャーリーズ・セロンって。

(海保知里)『マッドマックス』でかっこよかったですよね!

(町山智浩)そう。マッドマックスよりも強いんだもん(笑)。

(山里亮太)そうだ! 『マッドマックス』の方だ。

(町山智浩)そう。だから『マッドマックス』は彼女の方が大きかったから、彼女主演のシリーズに今度、なるんです。フュリオサのシリーズが今度、始まるんですよ。だからいま、最高のアクション女優になぜかなってしまっているシャーリーズ・セロンなんですけども。この人、普通の人じゃないんですよ。

(海保知里)どういうことですか?

(町山智浩)ものすごい地獄を実際にくぐり抜けている人なんで。

(海保知里)南アフリカ出身? 違いましたっけ?

(町山智浩)そうです。南アフリカ共和国出身で。この人、16才の時にお父さんがDVで、家庭内暴力をふるって夜中に酔っ払って暴れて、お母さんをバンバン殴ったりしていて。お母さんがそれに拳銃で対抗して、お父さんを射殺しているんですよ。

(山里亮太)へー!

(海保知里)すごい話……。

(町山智浩)その時、彼女は16才で、その家にいるんで。だから目撃者ですよ。第一目撃者になるのかな? それで裁判になって、南アフリカでものすごく有名人になっちゃったんで、いられなくなって。お母さんと2人で世界を流浪しながらモデルとして……まだ10代ですよ。彼女は。それでお母さんを食わせていくっていうことをしている人なんですね。

(海保知里)へー!

(町山智浩)で、この人、英語ができなかったんですよ。英語がネイティブじゃないから。アフリカーンスっていうオランダ系の言葉なんですよ。彼女は。だから、英語ができないままロサンゼルスでモデルを始めている時に、銀行で言葉が通じないから銀行の受け付けの人と怒鳴りあって。「ファックユー!」とか言っていたらしいんです。そしたら、そこにたまたまハリウッドのモデルクラブというかスカウトする人がいて。ものすげえ美人が「ファック!」とか言っているから「なんだろう?」って……。

(海保知里)まあ、それ以上は言わないでください。Fワードはそれぐらいで……(笑)。

(町山智浩)そうそう(笑)。それで、「ちょっと君、来てみな」っていうことで、映画界に入っていったというすごい人なんですよ。この人。

(海保知里)だから……。

(町山智浩)すごいんですよ。だから男には決して負けない。というか、男を捨てる側の女で。で、まあこの『アトミック・ブロンド』ではボッコボコにしてますから! 50人ぐらいの男を半殺しっていうか、殺したりしていますから。で、金玉をボコボコに蹴ってますから。もうね、たぶん何人かはあんな美人に蹴られているから、死ぬ瞬間にイッてると思います(笑)。

(山里亮太)(笑)

(町山智浩)最高の死に方だと思いますよ(笑)。

(山里亮太)ドMな要人がいたら。

(町山智浩)そう思いますよ。僕。いまね、だから金正恩暗殺計画を立てるとか言って。韓国がね。あれ、募集しているっていうか発表をしたじゃないですか。金正恩暗殺計画って。それ、「暗殺」って言わないよね?

(山里亮太)そうですね(笑)。

(町山智浩)正式に公表しているものは暗殺って言わないだろ?って思いますけどね。

(山里亮太)果し合いみたいになっちゃう。

(町山智浩)そう。どうなんだろう?って思いますけどもね、まあシャーリーズ・セロンを雇ってくれるといいかなと。そうすれば、成仏すると思います。はい。

(海保知里)(笑)

(町山智浩)決して苦しまないで、思いっきりイキながら死ぬと思うんでね。

(山里亮太)気持ちよく死ねる。

(町山智浩)気持ちよく死ねるんで、成仏すると思うんですけど。でね、これね、音楽がよくて。1989年の当時のベルリンでもう鳴っていたような曲が次々とかかるんですよ。で、たとえばネーナの『ロックバルーンは99』をかけてもらえますか?

Nena『99 Luftballons』



(町山智浩)これね、当時ドイツから出てきて世界的にヒットしたネーナっていう女の子が作った歌なんですけど。これ、『ロックバルーンは99』っていうちょっとかわいい感じに聞こえるじゃないですか。これ、実は核戦争のことを歌っているんですよ。

(海保知里)ええっ?

(町山智浩)そうなんですよ。その頃、東西がものすごく緊張していたんで。核戦争が起こるかもしれない状況っていうのが80年代にあったんですよ。だから、わかんないかな? 僕らは「いつ核戦争が起こるかわからない」っていう感じの青春時代だったんです。80年代って。

(山里亮太)ギリギリだったんですよね。

(町山智浩)ギリギリだったんですよ。本当にいつ起こるかわからなかったんです。だからそのことを歌っている歌なんですね。そういう世界状況の中で作られた歌がいっぱい出てくる映画で。だから僕のような50代の人にとっては本当に超懐かしい曲ばっかりですよ。ニューオーダーの『Blue Monday』とか、いまの『ロックバルーン』とか。あと、ジョージ・マイケルの『Father Figure』っていう歌も流れるんですけど。

George Michael『Father Figure』



(海保知里)ええ。

(町山智浩)この歌はね、「父親代わりになるよ」っていう歌なんですけど。この頃、ジョージ・マイケルはゲイだっていうことを知られてなかったんですよ。

(海保知里)ああー。

(町山智浩)だからこの「父親代わりになるよ」っていうのはいろんな意味があって。たとえば女の子に「好き」って言われた時に、「いや、恋人にはなれないんだけど、父親代わりになるよ」って言ったのか、それともゲイの恋人にそう言ったのか。いろんな意味がいま、論じられているのがジョージ・マイケルの『Father Figure』っていう歌なんですけど。この映画『アトミック・ブロンド』の中でのシャーリーズ・セロンはバイセクシャルなんですよ。

(海保知里)そういう設定なんですね。

(町山智浩)設定なんですよ。これ、いろいろと面白くて。ティル・チューズデーの『Voices Carry』っていう歌もその当時、ヒットしたんですけど。この歌、『Voices Carry』っていうのは「聞こえちゃうよ。声が届くから気をつけて」っていう歌なんですよ。

‘Til Tuesday『Voices Carry』



(海保知里)うん。

(町山智浩)これは、レズビアンの女の子同士がイチャイチャしていると、「他の人が聞いているからやめて!」っていう歌なんですよ。歌詞が。すごく画期的な歌なんですよ。当時としては。ところがこれは、その当時アメリカでもそのままの形では放送できなかったので、プロモーションビデオでは男の子と女の子の恋人同士で、女の子が文句ばっかり言っているから、「ほら、静かにして」って男が言う内容に変えられているんですよ。いまだったらOKなんだけど、まだその時代はレズビアンの歌はダメだったんですね。

(海保知里)ふーん!

(町山智浩)これがティル・チューズデーの『Voices Carry』だったり。で、それがまた、レズビアンのシーンにかかったりするんですよ。

(山里亮太)なるほど!

(町山智浩)すごいいいですよ、これ。シャーリーズ・セロンだと男も女も抱かれるというね。シャーリーズ・セロンを抱ける人っていうのは一体誰なのか? 誰なんだ?っていう。

(海保・山里)(笑)

(町山智浩)いないんじゃないか?って思うんですよね。もうほとんど。もう三船敏郎ぐらいじゃないとダメなんじゃないかと思いますよ。シャーリーズ・セロンに対して男になれるのは三船ぐらいしかいないんじゃないか? と。スタローンでも抱かれそうだもん。

(海保知里)ああー!

(町山智浩)そのぐらいだもん。この人は。もう、すごいですよ。というね、抱かれたい女、シャーリーズ・セロンの『アトミック・ブロンド』。最高でしたね、もうね。

(海保知里)こちらは10月20日公開になるということで。みなさん、どうぞお楽しみに。今日は『アトミック・ブロンド』についてうかがいました。町山さん、どうもありがとうございました。

<書き起こしおわり>

町山智浩とウーマン村本 ワイドショーの芸人コメンテーターを語る

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町山智浩さん、丸屋九兵衛さん、斉藤充さんがAbema TV『ウーマンラッシュアワー村本大輔のX The NIGHT』に出演。アメリカのお笑いについて話す中で、日本のワイドショーのお笑い芸人コメンテーターについて話していました。


(町山智浩)だからいま、日本に帰ってきて思ったのは、昼の番組とか朝の番組とかのワイドショーで結構政治的なネタをやっている時に、お笑いの人たち、芸人さんたちが結構出ているんですよ。みんな、しかめっ面してさ、話を聞いていて。「そうですね」って。全然ギャグを言わないの。

(丸屋九兵衛)言うたれやって話ですよね。

(町山智浩)ねえ。「なんのためにいるんだ、お前ら?」って思うわけですよ。

(丸屋九兵衛)だから、アナザー・パネリスト?

(町山智浩)そう。で、「それは全く困ったもんですね」とか言って。お笑いの人なのに、なぜそこでギャグを言わないんだ!っていうね。本当にひどい!

(村本大輔)だから、求められていないんですよね。番組から。

(町山智浩)でも、言えばいいんですよ。だからこの間、見ていたのが、雨上がり決死隊の人(宮迫博之)とかが出ていて。で、政治家の人が出ていて政治的な話をしていて。(そのまんま)東さんも出ていて。東さんは結構政治的な話とギャグを絡めながら言えるんだよね。

(村本大輔)バランスがいい。

(町山智浩)バランスがいいんだけど、雨上がりの人は「うーん、うーん……」って。そこ、くだらなくてもいいから突っ込めばいいのに! なんでもいいから茶化せばいいのに。なんかさ、みんな政治的な話をしているから、それに対して詳しくない自分たちがくだらないことを言ったらいけないんだと思っているんだけど、違う! くだらないことを言うのがあなたたちに仕事!って思ったの。

(村本大輔)それね……。

(斉藤充)まあ、たぶん宮迫さんはいま、とても言える状況ではなかったと察しますけども。

なぜお笑い芸人はワイドショーでくだらないことを言わないのか?

(町山智浩)(笑)。でもね、本当にね……だからワイドショーとか全部そうですよ。芸人から司会者になった人たちもみんないて、やっぱり不倫とか芸能人の浮気ネタとかあっても、「うーん、これはよくないですね」とか。いいんだよ! もうめちゃくちゃなことを言えば!って思うの。「いやー、俺もやりてえな!」とか言えばいいのに、なんで言わないんだろう?っていうね。「みんながこういうのを叩くと、俺もやりにくくなるから困るんだよね」とか、なんで言わないんだ? なんで?

(斉藤充)いや、本当に不倫ネタはね……。

(村本大輔)なんでだと思います?

(町山智浩)いや、もうひどいよ。本当に。

(村本大輔)出ている方からすると、「そういうの、いらないから」ってことを言われたりもするわけですよ。

(斉藤充)制作側から?

(村本大輔)「そういうの、いらないから。そういうので呼ばれてないから」って。

(丸屋九兵衛)要するに、みんな同調しろってこと?

(斉藤充)そうそうそう。

(町山智浩)ベッキーとかみんな叩いていてさ。「これは許せないですね」って。「ベッキー、いいなー。俺もやりてえよ!」とかなんで言わなんだ!?

(斉藤充)(笑)

(町山智浩)なんで言わないんだ? ねえ(笑)。

(村本大輔)相当溜まってるんですね(笑)。

(町山智浩)日本に来てとにかく頭に来たのは、ワイドショーを見てて、お笑い芸人がギャグを言わないから!

(一同)(笑)

(村本大輔)町山さんの好きな山ちゃん(山里亮太)はどうですか?

(町山智浩)山ちゃんは言うけどね。でも、あの人顔が映っていたらやらないんだよね。上から言うから。

(斉藤充)影ナレでね。

(町山智浩)そうそう。あれは上手いけどね。

(村本大輔)なんやろうな? なんで、こう……。

(斉藤充)テレビはワイドショーで言うと、テレビ局では情報・報道局……だいたい情報局、報道局のどっちかですけど。分かれているところ、一緒のところ、ありますけど、だいたい情報とか報道局が作るんですね。そうすると……不倫なんか本当にだって昔、(ビート)たけしさんなんかが(フライデー)襲撃事件の記者会見でね、「僕のおねえちゃんのね……」ってあんなことを。

(町山智浩)いまもたけしさんは同じだよ。

(斉藤充)あれをちゃんとテレビでやっていたんですよ。

(丸屋九兵衛)逆にだって細川(護煕)首相が「きっとうちの親戚の家に行ったんですよね」って言いましたよね。

(村本大輔)あ、そうなんすか? 言ってましたか?

(丸屋九兵衛)細川首相が言いましたもん。「細川同士だから……」って。

(村本大輔)ああ、なるほどね(笑)。

(丸屋九兵衛)細川首相の方がよっぽど先に行っていたわけですよ。

(村本大輔)面白いことを言う時もあるんですけどね。

(斉藤充)やっぱり報道局でやっていると、なかなか言えない……まあ、さっき言った自主規制みたいなのをどうしても。要するに方や、人を断罪するいろんなことを言ってしまえば上から目線で報道って言うわけじゃないですか。そこで、その同じ局が作っている番組でそれを肯定するのか?って、そういうことをかならず言う人がいて。また、それが1件、2件ぐらいのすごい原理主義的なおかしな視聴者のクレームとかをね、ものすごく「こんなの来ました!」って大騒ぎになったりするから……。

(丸屋九兵衛)ああ、そう。3%が100%であるかのように言うね。

(斉藤充)一部のクレーマーにすごい対応してしまう。

(町山智浩)昔はだって、大正テレビ寄席って全部セックスネタだったからね。なんだったんだ?

(村本大輔)これは僕から言わせてもらうに、日本の芸人って、これ結構僕もライブで言っているんですけど、ネタをしたりするのは本当に若手の時だけで。徐々にテレビに出だすとネタをやらなくなってくる。で、徐々に賢くなっていって、CMとかに入ったりとか。使い勝手のいい……。

(町山智浩)コマーシャルね!

(斉藤充)コマーシャルがいちばんデカいですよ。

(村本大輔)もう無味無臭人間になるんですよ。芸人が。

(町山智浩)全くそう! 無味無臭人間になる。

日本の芸人は無味無臭人間になっていく

(村本大輔)日本のタレントっていうのは無味無臭が求められて、みんな無味無臭になっていって。本当は舞台があって、舞台で……それこそ、町山さんとこの前ロスでお話をした時に、ある劇場の支配人が言っていたじゃないですか。「ここに立てる芸人はどんなやつを出すか?っていうと、なにか自分の言いたいことがあるやつだ」って。

(斉藤充)「信念があるやつ。言いたいことがある」っていう。

(村本大輔)ですよね。日本っていうのはスタジオに主義主張は持ち込まなくていい。無味無臭としていちばん……。

(丸屋九兵衛)「持ち込むな」?

(村本大輔)そう。空気として上手にやることが求められているから。だからタレントさん、本当に実は舞台に立たなくなって、言いたいことを言わなくなって、すっごい上手な回すやつになりたいんですよ。

(町山智浩)あ、回す方? そう。

(村本大輔)それはやっぱり面白くないです。

(町山智浩)そう。場を回すだけの人になって、自分では面白いことを言わない人たちが多すぎるの。

(村本大輔)だって、舞台に立ってストレスを……僕の好きなアリ・ウォンなんかすっごい金を稼いですっごい有名なのに、コメディーストアに急に飛び入りで出て、笑いを取ってスッと帰っていったりとか。あんなスターが出てしゃべっていくなんて……。

(町山智浩)あの人がすごかったのは、お腹をこんなに大きくして。アリ・ウォンさんがそれこそ臨月状態で出てきて。あれ、テレビ……HBOでしたっけ? でさ、セックスネタだよ。お腹を大きくして、ずっとセックスネタのギャグを言っているんだよ?(笑)。

(村本大輔)旦那にクンニさせて、「私はいま、権力を吸い取っている。この感覚がたまらない!」とか。

(町山智浩)そうそう(笑)。いま、日本でさ、臨月の妊婦がテレビに出てセックスの話ばっかりしていたらさ、みんな怒られちゃうじゃん? でも、アメリカでは大人気なんだもん。それ。

アリ・ウォン



(村本大輔)全員、飛んでかかって止めにかかりますね。それは。

(斉藤充)女性コメディアンの方が下ネタ、キツいですよね。韓国の彼女もすごいでしょう?

(町山智浩)ああ、マーガレット・チョー。

(斉藤充)マーガレット・チョーもね(笑)。

(町山智浩)マーガレット・チョーは韓国系のコメディアンなんですけど。「本当の差別は人種とかじゃなくて、”かわいい”とか”きれい”だよね」って話をしていて。あれ、『レニー・ブルース』が元ネタみたいね。『レニー・ブルース』がそのネタをやっているんですよ。結構。だから「黒人のすごい美女と白人のブサイクだったら誰でも黒人の美女を選ぶでしょう?」みたいな話をしていて。結構言っちゃいけないことを言うっていうネタだったですね。

マーガレット・チョー


(村本大輔)本当にお話を聞いていて、町山さんに勉強させてもらって、アメリカのコメディアンの笑いにはすごい、ある程度悲しさがあるんですね。それはCMの後に。面白いけど、すっごい寂しくなるんですよね。

(町山智浩)うんうんうん。

(村本大輔)じゃあ、CMに行きましょう。

(中略)

(村本大輔)いま、1個思ったんですけどね、そういうユダヤの人とか黒人の歴史とかっていうのを笑いにさせない空気って、もしかしたらこの前あったじゃないですか。「水原希子ちゃんが在日で、韓国名を名乗っていないのはなんでだ? 堂々と自信があるなら、韓国名を名乗るべきなんじゃないか?」みたいな。いろいろあったわけじゃないですか。

(斉藤充)ひどいね。あれね。本当に。

水原希子バッシング問題

(村本大輔)ひどいじゃないですか。だからそれを、その日本名を名乗らなくてはいけないといういろいろな理由があるわけじゃないですか。その中で、周りの空気……名乗らせてしまう空気。そういうのを認めようとしない空気っていうのが日本には存在するんじゃないかと。

(町山智浩)ウーピー・ゴールドバーグっていう人がいるじゃないですか。ウーピー・ゴールドバーグっていうのは、あり得ない名前なんですよ。

(村本大輔)どういうことですか?

(丸屋九兵衛)「ゴールドバーグ」って言ったら、ユダヤ系なんですよ。

(村本大輔)ええっ?

(丸屋九兵衛)ゴールドバーグ、ゴールドリング、シルバーマン……。

(町山智浩)「ゴールド」「シルバー」「ダイヤモンド」はユダヤ系の名前なんです。

(村本大輔)へー!

(丸屋九兵衛)高いものはだいたいユダヤに行っているっていう。

(町山智浩)っていうのは、昔質屋さんをやっていたから。ユダヤ系が。だから宝石系、貴金属が。で、「ウーピー・ゴールドバーグ(Whoopi Goldberg)」っていうのを黒人が名乗ること自体がジョークなんですよ。あれ。

(村本大輔)!

(町山智浩)じゃあ、「ウーピー」ってなんだと思う?

(村本大輔)ウーピー?

(町山智浩)ウーピーってね、ブーブークッションのことなんです。



(村本大輔)ええっ?

(町山智浩)座るとブーッと鳴るやつ、あるじゃない? あれ、ウーピーって言うんですよ。英語で。だから、ウーピー・ゴールドバーグってデタラメな名前なの。

(村本大輔)えっ? あの人自身はユダヤじゃないですよね。ユダヤ人の名前をつけて、ブーブークッションの……ええっ?

(町山智浩)だからウーピー・ゴールドバーグってすっごいヘンテコな名前なの。もう名前だけでジョークの人って日本だと芸人さんでいます?

(村本大輔)たけし軍団にいっぱい。

(町山智浩)あ、そうそう。だから玉袋筋太郎みたいなもんですよ。

(丸屋九兵衛)しかもそこに人種ネタが入っている。

(村本大輔)へー! ウーピー・ゴールドバーグの若手の時に出会いたかった。どんなネタがあるのか、ちょっと。

(町山智浩)(笑)。でも、ウーピー・ゴールドバーグがすごいのは、ウーピー・ゴールドバーグってなんでアメリカですごく有名になったか?っていうと、すごい長いジョークがあるんですよ。それ、しゃべるのを20分ぐらいやるんですよ。それは、身体障害者の下半身不随になった女性の告白っていうジョークなんですよ。だから、下半身不随で車椅子に乗っていて。「だから、誰も私をナンパしてくれない」とかそういう話をずっとするわけですよ。で、「これでも濡れるのに……」みたいな話をするわけですよ。でも、それがすっごいウケて。それは、はじめて下半身不随とか身体障害者の人がコメディーに登場した瞬間だったんですよ。

(村本大輔)へー!

(町山智浩)で、そういう人たちが「私たちのことをはじめてお笑いにしてくれた!」って喜んで。それでウーピー・ゴールドバーグの格がバンと上がって。

(村本大輔)やっぱり喜ぶんですね。

(町山智浩)喜ぶんですよ。だって、ないことにされているから。

(村本大輔)ねえ。それがやっぱり気持ちいい。でも、アメリカのやつってそれを認めて。「一緒でしょ」って。

(町山智浩)だからそれこそ、希子ちゃんのことだと、在日韓国人とか在日朝鮮人……俺もそうですよ。俺も父親が韓国系ですから。なぜ、それってお笑いにまるでなっていないんだろう?って思うんですよ。

(村本大輔)うん。まあ、吉本の在日の後輩なんか、僕の知っているやつはそれをやったりするんですけど。その当事者は。

(町山智浩)でも、それをステージでお笑いにしないじゃん?

(村本大輔)そいつはね、やったりするんですよ。

(町山智浩)ああ、それはやるんだ。

(丸屋九兵衛)それをメジャーにしたい。

(村本大輔)それは、やっぱりお客さんに……マイノリティー、少数だから。たとえば、コリアンタウンとかの劇場だったらウケると思うんですね。本当にすごい人種って少ないじゃないですか。ちょっと古いじゃないですか。まだ混ざり合ってないから……。

(町山智浩)でも、いまアメリカはインド系のコメディアンとかイスラム系のコメディアンが増えているんですよ。でもそれって、すごく少ないけど、「インド系の家庭ではこんなおかしいことがあるんですよ」っていう話をして。ぜんぜんインド系の人たちの生活を知らない人たちがそれを笑うっていうネタをやっているから、そのやり方は有りなんですよ。

(村本大輔)多様性がありますもんね。黒人はこんなだったとか。イタリア系は……とか。

(丸屋九兵衛)その民族自体のシェアはめっちゃ少なくとも、それを示すことで「ああ、そうだったんだ」と言いつつ笑えるっていうネタはありますよね。

(町山智浩)だから、黒人のネタなんかだと、黒人の人たちって家具。ソファーとかをビニールをかぶせたまま、ずっと使うの。どうしてか?っていうと、「いつか売れるかもしれないから」って言って(笑)。そのセコいのとかをネタにするんですよ。だから「なんで黒人っていうのは『いつか売れる』と言いながら、10年ぐらいずっとビニールをかけたままソファーに座ってやがるんだ? 売れねえよ、そんなの、古くて」ってネタをやるんだけど(笑)。

(村本大輔)へー!

(町山智浩)それは、白人はその世界を知らないわけ。だから、笑うわけですよ。「えっ、黒人ってそうなんだ」って笑うんですよ。それは、彼らが黒人だからこそ知っているネタなんですよ。だからアラブ系の人はアラブ系独特のネタをやるわけですよ。「みんな、知らないでしょ? アラブ人の家庭ではこんなことがあるんですよ」ってネタをやるんですよ。それでありなんですよ。

(村本大輔)そういうのを芸人が、当事者はね。でも、やらせない空気ってあるんですか? どっか。

(斉藤充)たとえばアメリカなんかは子供の時からそのクラスにいろんな人が……それはもちろん民族もそうだし、障害も含めていろんな人が子供の時からいるわけですよね。同じところに。だから、そもそも慣れているんですよね。数の問題っていうよりも。でも、日本は「とりあえず全員日本人」っていうことになっているじゃないですか。

(村本大輔)障害を持っている人たちも分けようとしますしね。

(斉藤充)そう。あと、在日の方とか、アイヌも。本当は全然単一民族でも何でもないのに、形式上は単一民族っていうことになるじゃないですか。学校の中ではね。

(村本大輔)この国は気持ち悪いんですよ。

(斉藤充)だから、いないことになっちゃっているんですよ。子供の時から。

(村本大輔)吉本の人間がたとえば当て逃げとか犯罪とかを犯したら、みんなイジるんですよ。それだったら在日とか普通に当たり前に……犯罪の方が逆にイジりにくいんじゃないか?ってことなのに、なんか言ったらアカンみたいな。

(町山智浩)犯罪の方が問題だよね(笑)。

(村本大輔)ねえ。そういうのをすっごい、言っちゃダメなんじゃないか? みたいな空気があるんですよ。気持ちが悪い。

(丸屋九兵衛)「ワシ、在日やねんけど……」っていうそういう漫才が出てきてほしい。

(村本大輔)在日の芸人、やったらエエのにね。

(丸屋九兵衛)だからホンマは前田日明にやってほしかった。芸人ちゃうけど、あの人の話はめっちゃ面白くて。

(斉藤充)スポーツ選手はめちゃめちゃ多いですからね。

(丸屋九兵衛)前田日明ってウルトラマンが大好きでね。ウルトラマンの最終回でウルトラマンがゼットンに倒されてしまったことをきっかけに空手を学ぶようになってああなったという。

(町山智浩)ウルトラマンの代わりに怪獣を倒そうと思ったという(笑)。

(丸屋九兵衛)まあ、その時点でおもろい人なんですけど。でも、ウルトラマンが好きで好きで。ゴモラが出てくる回、ありますやん。

(町山智浩)大阪が舞台なんです。大阪城を破壊するんです。

(丸屋九兵衛)大阪で暴れて、大阪城を破壊してしまうんですね。で、それを見た前田日明少年……コ・イルミョンくんは心配になって翌朝、大阪城を見に行ったんですよ。そしたら、大阪城は何もなってへんから通りがかりのおっちゃんに、「これ、どないしたん?」って言ったら、「これな、徹夜でみんなで修繕してん」って。

(町山智浩)ああ、いいおっちゃんだな、それ! いい話だ!

(丸屋九兵衛)それ、ホンマにおっちゃんが言うたんか、前田日明が作ったんかはわからないですよ。

(町山智浩)でも、いい話ですね。

(丸屋九兵衛)素敵な話でしょう? こういうのをやってほしいなと。

(村本大輔)アメリカではこういうのは当たり前に。こういう冗談の切り返しってありますよね。

(町山智浩)ああ、それは反射神経なんだよね。

(村本大輔)言うじゃないですか。噂ですけど、シュワちゃんが生卵を投げられて、「ハムもくれよ」って言ったみたいな。あと、大統領もケーキをぶつけられて「甘さが足りないな」みたいな。

(町山智浩)ああ、それはレーガン大統領が撃たれた時に……。

(村本大輔)撃たれた?

(町山智浩)銃撃されたんですよ。その時に、「ダッキングしなかった」って言ったんですよね。

(村本大輔)逆に安倍総理とかだったら「あんな人たちに言われたくない!」みたいな、ちょっとマジで返すわけじゃないですか。でも、アメリカはちょっとエッジを効かせるじゃないですか。

(町山智浩)「ジョークで返さないと負け」っていうのがあるんですよ。

(丸屋九兵衛)格が下がるんです。

ジョークで返さないと負け

(村本大輔)たしかに、あれを言った瞬間にちょっと格が下がった感じになりますよね。ちょっとムキになって返して、みたいな。

(丸屋九兵衛)そうそう。だから余裕を見せられる人間だったらギャグで返せるやん?って。

(町山智浩)だからアメリカのコメディーでは結構ヤジがすごくて。インド系とかアラブ系のコメディアンがいると「テロリスト!」とか「ISIS!」とかお客さんがやるんですよ。「オサマ・ビンラディン!」とか、そういう嫌な客が。みんな酔っ払っているから。みんなお酒飲んでいたでしょう?

(村本大輔)あそこはお酒を飲んで見ますから。

(町山智浩)みんなね。でも、それを上手く返す人たちがいるんですよ。それを返せるかどうかなんだね。

(丸屋九兵衛)そこでたぶんコメディアンになれるかなれへんかが分かれるから。言うたらなんやけど、日本のいろんな人たちはそのレベルに達していないかもしれない。

(村本大輔)日本の芸人はでもね、そういうの返しますよ。もちろん、レベルはすごい高いと思うんですよ。

(斉藤充)テレビで売れている人っていうのは、そこが評価されているわけです。

(村本大輔)さんまさん、街で思いっきり蹴られて「ナイスキック」って言ったんですよ。

(町山智浩)ああーっ、上手いなー!

(村本大輔)芸人はもちろん、そういうの当たり前にできるんですよ。だから僕は結構寿司職人みたいな……本当にシャリと魚で繊細に料理を作るのと、アメリカっていう1個ドンドンッ!って笑いというか。大味な感じの……繊細さは日本の、「チンコ」って(ストレートに)言うことができないから、それをいかにして言うのか?っていうのを考えて成り立った国ではありますね。お笑いは。

(町山智浩)ああ、それはあるかもね。

(斉藤充)ストレートな下ネタをやっても面白くないっていうことは、1個先に行っている部分はありますね。

(町山智浩)それはあるんだけど、ただあまりにもさ、清廉潔白な人にお笑いの人たちがなりすぎて。

(村本大輔)無味無臭ですね。

(町山智浩)無味無臭。特に、芸能人の恋愛関係とかに関してものすごく倫理的に批判したりするから、「それは違うだろう?」っていう。それはおかしいですよ。どう考えても、おかしい。お笑いって……志村けんはおっぱい吸っていたような(笑)。

(丸屋九兵衛)それをやるかどうかはともかくとして、おかしいことを言う人がいないのは、おかしい。

(町山智浩)とにかく政治のやつに関しては、本当にみんなこんなになって政治家の話とかを聞いているんですよ。で、(そのまんま)東さんはもう平気で変なことを言うんだけど、お笑いの人たちは政治問題に関して余計なことを言うと素人だからいけないと思っちゃっているんだよね。

(村本大輔)うーん。

(町山智浩)バカなことを言ってはいけないって。バカなことを言うのを待っているのに。くだらないことを言って、「くだらないな!」って突っ込まれればいいじゃないですか。でも、頭が悪そうに見えるから言わないみたいになっちゃっていて。で、たまに言うと、すごくいいことを言おうとするんですよ。「いいことなんかいいよ! もっとくだらないことを言え!」とか思いますけどね(笑)。

(村本大輔)そうなんすよね。

(町山智浩)なんでお笑いの人がいいことを言おうとするんだよ!

(丸屋九兵衛)まあまあ、結局堂々巡りですけど、それがスタジオの空気ってことで同調圧力があるわけですよね?

(村本大輔)あと、これをやってこういうことを求められているっていう……それがたとえば舞台とか何かしらで「ちょっとジョークを言って」ってなったらみんなやるんですけど。

(斉藤充)バラエティーの現場だったらみんなそれができるスキルはあるわけじゃないですか。やっぱり報道の独特のスタジオの雰囲気とかはあると思いますよ。

(村本大輔)1対10みたいな。

(斉藤充)そうそう。そこはたしかにね、「同調圧力」って言っていいのかはわからないですけど。あとはでもやっぱり、政治とか社会ネタみたいなことに対して……。

(町山智浩)何かの立場を取ると反対の立場の人を敵に回すっていう問題があって。

(斉藤充)そもそもイデオロギーを言うだけで人気がなくなるみたいな。あるでしょう?

(村本大輔)ああ、本当そうです。日本は「タレントは発言力があるから政治のことは言うな」。でもアメリカは「発言力があるから言え」っていう。

(町山智浩)そうなんだよね。そこが違うんだよね。

(斉藤充)そもそもね、政治のネタを上手いこと返すっていうそもそものあれがないですよね。だから、スキルも育たないし。それ以外のことはものすごくフィジカルが強いじゃないですか。

(村本大輔)バカなことをとにかく言おう!ってバラエティー番組やったらやるんですけど。世の中のそういうものに対しては……。

(斉藤充)そうなんですよ。それを上手く消化すれば。

(村本大輔)それ、前におっしゃっていたシェイクスピアの『リア王』の話。ああいうところからも来ているんじゃないですか?

(町山智浩)そうそうそう。あのね、まあ前も話したんですけど、黒人の人たちがラップでバトルをするんですよ。フリースタイルみたいな。

(斉藤充)いま、やってますよね。『フリースタイルダンジョン』みたいな。

(町山智浩)そうそう。あれってもともと、子供同士の「ヨーマム(お前の母ちゃん)」っていう。「お前の母ちゃんでべそ!」って日本だと言うんですけど。

(丸屋九兵衛)それがもっとひどいんですよ。「お前の母ちゃんは毛深すぎてウンコが遭難する」とか。それが、ウェイアンズ兄弟のネタで。

(町山智浩)伝統的なのは「お前の母ちゃん、ブサイクすぎてブサイクコンテストに出ようとしたら『プロの方はお断り』って言われたよ」とかね。そういうのを言うと、言われた方も笑っちゃうじゃないですか。だから、政治家についても批判するような笑いを言っても、言われた方も、立場が反対側の人も笑うようなことを言ったら勝ちなんですよ。

(村本大輔)うんうんうん。

(町山智浩)だから政治的に右か左か? じゃなくて、どっちも笑うように言う。だからどっちも茶化す。そこまで行ったらもう全然、勝ちだと思うんですね。そこまでやらないで……たとえば安倍総理でもいいですよ。「安倍総理を批判したら、安倍総理を指示している人から嫌われるな」とか、そういう判断じゃなくて。安倍総理に対してどういう立場を持っている人も笑うように茶化すんですよ。

(村本大輔)『朝まで生テレビ』に昔、(立川)談志師匠とかが出ていた時でも、やっぱりこういう真面目なことをみんな言いますよね。たとえば、『アッコにおまかせ』とか、結構わちゃわちゃしていたらグッと行くと思うんですけど。「論客として出てくれ」ってことなのか。あと、論客として格を上げたいっていう芸人もいるじゃないですか。

(丸屋九兵衛)いまの政治とお笑いの話で、方向性が逆転するんですけど。私の知り合いというか友人で、台湾の国会議員がいまして。台湾の国会議員で、ヘビーメタルシンガーなんですね。ホンマに。

(町山智浩)国会議員で? 市会議員とかじゃなくて?

(村本大輔)違う。ヘビーメタルの、まあデスメタルですよ。「ウォォォォーッ!」みたいに歌うシンガーなんやけど、出馬して国会議員になりまして。その彼が、普段は地獄の八将軍のメイクとかして歌を歌っているような人なんですけど、その人がさっき言ったキー&ピールの「ニグロタウン」っていうネタが大好きっていう。

(町山智浩)ニグロタウンっていうネタがあるんですよ。

(丸屋九兵衛)頭を殴られて、気がついたら黒人だけの夢のような街に来ていたっていう。そこで白人の警官に嫌がらせをされなくてすむ。「ニグロタウン~♪」みたいな。それが好きなヘビーメタル国会議員っていう。こういうのがなんで日本にはおれへんのや?って思ったりもする。

ニグロタウン



(村本大輔)どこで入ってきて、どこで学んで……だからお笑いの歴史はもしかしたら、そんなに……。

(町山智浩)上岡(龍太郎)さんがやっていたよね。横山ノックさんとかも。あのへんはすっごく政治的なネタをやっていましたよね。

(村本大輔)いま求めているのって「回し」とか。上手にいろんな人に話を振って。「芸人さんはバランスを取ってください」ってよく言われるんです。

(町山智浩)バランスを芸人が取っていいのかな、それ?

(斉藤充)「バランスを取ってください」って言われるんですか?

(村本大輔)言われたこと、あります。だから普通の、たとえばアイドルの人とか司会者よりも上手に話を拾ったりするから。話を広げるっていう……。

(丸屋九兵衛)それやったら、司会者は何をしてるの?

(村本大輔)芸人が司会者なんですよ。

(町山智浩)芸人が司会者になっている。話を回すのが上手くて、場をまとめて、バランスを取るのが上手いっていうのが求められているんですね。

(村本大輔)引き立たせる、みたいな。

(丸屋九兵衛)それは、『アーセニオ・ホール・ショー(The Arsenio Hall Show)』?

(町山智浩)ああ、そうですね。あんまり上手くいかなかったですけど。エディ・マーフィーの弟子みたいな人がいて。

(丸屋九兵衛)『星の王子ニューヨークへ行く』っていう映画のあのお付きのハンサムな男、おったでしょう? あれがその後、『アーセニオ・ホール・ショー』っていうトーク番組をやって。まあ一時、流行りましたけども。

(村本大輔)そうなんすか。日本はそうですよね。みんな司会者をやりますね。

(斉藤充)あと、座組が多いしね。日本のワイドショーって。それで回しの役割ってすごおい大切じゃないですか。でも、向こうのたとえばレイトショーとかね、1 on 1(1対1)だし。みんな、いまだったらジミー・キンメルとかジョン・スチュワートとか。みんな回しているんだけど、やっぱり茶化すし。1 on 1ですごくインタビューの中でも笑いを取れるし。あの感じってなかなか日本の……そもそもああいうスタイルのものがまず、数字を取らないからやらないんだけど。

(町山智浩)うんうん。

(斉藤充)で、別に結論があるわけでもなくて、笑って終わるみたいな番組も多いじゃないですか。でも、日本って、たとえば僕、『朝ナマ』なんかでも別に「この話題、笑えれば終わり」っていうのがあったっていいと思うんですよ。でも、日本の人って「真面目な時にお前、笑っている場合じゃない!」みたいなことを言われるんですよ。

(町山智浩)ああ、そうなんだよね。

(斉藤充)だって笑えれば、別にいいじゃんっていう考え方が日本って全くない。

(村本大輔)それで周りのコメンテーターの人、評論家がすっごい苦い顔をするんですよ。「何をバカなことを言ってるんだ?」みたいな。

(町山智浩)ああー、そうなの?

(村本大輔)面白いことを言ったとしても、みんなが笑わないんです。真面目な教授とか、「こんな時に何を言っているんだ?」みたいな。

(斉藤充)笑えていれば、別に結論だったりしません? 笑えれば、それで終わりっていう。ものが完結するっていう。

(町山智浩)「いちばんおかしいことを言った人が勝ち」ってすればいいんだよね。

(斉藤充)そうそう。たとえば。

(村本大輔)答えはないんだから。

(斉藤充)どうせ答えはないし、どうせ論破できないんだから。

(丸屋九兵衛)それ、ここでやったら?

(村本大輔)この番組は結構、シリアの人を呼んでいろいろやったりしてますね。

(町山智浩)そう。いちばんおかしいことを言った人が勝ちだよね。いちばん笑わせた人が勝ちだよね。

(斉藤充)だって全員が笑ったら、平和なんだから。全員が笑えば、幸せなんだから。結論じゃないですか。

(村本大輔)環境っていうのはちょっとずつじゃなきゃ変えていきづらいんですけど。僕がいちばん腑に落ちないのは、ああいうところで勉強して。いろいろなことを学ぶじゃないですか。それをなぜ、作品にして。たとえばヘイトスピーチのことを番組で学んだら、それを1個作品にして舞台とかでやりゃあいいのに。お笑いとして。勉強をしたことを。知識を得れるんだから。それを、みんな舞台に立たなくなるんですよ。なぜか。

(町山智浩)えっ?

(村本大輔)もう立たなくなる。テレビに出て、ある程度……。

(丸屋九兵衛)さっきの(海外の)コメディアンがスタンダップからコントに行き、コントから俳優になり、映画の人になってしまいましたっていう、そのコースみたいなことを言っている?

(村本大輔)そうです。だいぶ早い段階で。お笑いって「劇場(出演)を断りだしたら一人前」みたいな空気があるんですよ。

(町山智浩)ええっ!?

(村本大輔)そうですよ。

(町山智浩)なんで?

お笑い芸人が成功するスキームが日本には1つしかない

(斉藤充)日本はお笑いの方が食べていくスキーム、スターになるスキームってはっきり言って1個しかないんですよね。テレビで有名になって、もっと言うとCMが決まって、大金持ちになる。

(村本大輔)で、司会者です。ひな壇の面白い方じゃなくて、(司会者として)回しをやりだしたらギャラがグッと上がってね。

(斉藤充)そうそうそう。で、なおかつそこからCMがつく、みたいな。

(町山智浩)「回しをやる」ってことは、完全に安全な人になるっていうことじゃないですか。

(村本大輔)そうそうそう。

(丸屋九兵衛)「お笑いで全員殺してやろう!」って思わないの? 要するに、それですよね?

(町山智浩)わかるわかる(笑)。そう。

(斉藤充)それでお金持ちに……要するにお笑いで一生食べていけるだけの財をなすには、もうその道しかないんですよ。でも、アメリカだったらそれこそマジソン・スクエア・ガーデンで3日間ライブをやるとか。別にテレビなんかに出なくたって大金持ちになれる。いろんなコースがあるから。

(村本大輔)だから劇場はお客さんを見ていても、この前アメリカのコメディーストアに行った時にカップルたちが本当に格闘技でも見に行くかのような感じで。

(町山智浩)カップルが多かったね。

(村本大輔)お酒を飲んで。でも、日本っていうのはファミリーがバッと来て、「テレビに出ている人が何をするのかわからんけど、とりあえずお笑いライブに来てみました」っていう人が多いの。

(丸屋九兵衛)これ、ファミリーがアカンのちゃう?

(町山智浩)(笑)

(丸屋九兵衛)またちょっと畑が違いますけども、キッスという何十年もやっているロックバンドがありますやん? あのロックバンドが70年代に始めて、70年代後半の方になるとものすごい人気になるんですね。その時に、中心メンバーが(舞台の)袖から客席を覗いてみたら、ファミリーばっかりおったと。「俺たちはいつの間にこんな安全な存在になってしもうたんや?」って。

(村本大輔)うんうん。

(町山智浩)それはでも、親がファンでさ、娘を連れてきているとか……。

(丸屋九兵衛)でも72年ぐらいから始めて、78年ぐらいの話だから。その段階で。

(町山智浩)ああ、そうなんだ。

(斉藤充)まだ結構全盛期だ。

(丸屋九兵衛)まだエース・フレーリーとかおった頃で。

(村本大輔)あ、いったんCMです。

(CM明け)

(村本大輔)もうあと2分しかないです。

(丸屋九兵衛)だからまあ、いま言うたのは「なんでこんなに制作費がないねん」問題。

(村本大輔)うーん……。

(町山智浩)あと、やっぱりコマーシャルに出たいと思うのがよくないと思うよ、俺。

(斉藤充)だから、そこにしか成功事例がなくて。結局いまの日本の事務所制度っていうのはコマーシャルで……要するに、テレビのドラマっていうのはコマーシャルを勝ち取るために出ているんですよね。大してあれもギャラはよくないから。

(丸屋九兵衛)コマーシャル、でもテリー・クルーズの制汗剤コマーシャルみたいな。あれは最高でしたけどね。



(町山智浩)(笑)

(村本大輔)ワイドショーで芸人がそういうのを言わないっていうのはもしかしたら、ちゃんと制作者の意図をくんで、しっかりと仕事をしないといけないっていうのがあるから。ちゃんとこなそうとして、自分の……それを、わかんないです。水道橋博士みたいにパッと辞めるとかっていうスタンスを。これが会社やから。ここしかないんです。

(町山智浩)でも、アメリカの地上波でCBSで回しをやっている、トークショーの司会をやっていちばん人気のスティーヴン・コルベアはもう徹底的にトランプと戦って。「トランプは嘘ばっかりついてやがって全然口が信用ならねえ。あの口はプーチンのチンコをくわえるぐらいしか役に立たねえな」って……地上波でやったよ!



(村本大輔)だから日本の芸人はある種サラリーマンなんですね。たぶん。テレビ局とか吉本とかいろいろと……その、自分のリスクをかけてでも。

(丸屋九兵衛)逆にサラリーマンなの、ここの2人(丸屋・斉藤)なんですよね。

(町山智浩)この人、これでサラリーマンですからね(笑)。全然見えないよ!

(村本大輔)へー、そうなんですか。

(斉藤充)僕は普通のサラリーマンですよ(笑)。

(村本大輔)いやー、面白かったです。広がりますね。

(町山智浩)すごいでしょ、この人(笑)。

(丸屋九兵衛)いっぺんしか会うたことないのに連れてこられて「すごいでしょ?」って言われているし……。

(村本大輔)いや、面白い。すごい勉強になりました。

<書き起こしおわり>

<書き起こしおわり>
町山智浩 アメリカのお笑い芸人が政治的なネタを扱う理由を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアメリカのお笑い芸人・コメディアンたちが積極的に政治的なネタを扱う理由について話していました。 (町山智浩)はい。町山です。よろ...

町山智浩 憧れの甲斐よしひろ・裕木奈江と会った話

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で憧れの甲斐よしひろさん、裕木奈江さんと出会った際の話をしていました。

(町山智浩)いやいや、今回(の日本滞在で)僕、憧れの人たちに会えたんですごいよかったですよ。日本に行って。

(海保知里)どなたにお会いされたんですか?

(町山智浩)甲斐よしひろさんに会いました。甲斐バンドの。僕ね、中学の頃ね、それこそ甲斐バンドが大ヒットする前にすごく好きだったんですよ。

町山智浩×甲斐よしひろ


(海保知里)へー!

(町山智浩)まだ「パンクロック」っていう言葉がない頃からパンクで。ラジオを深夜にずっとやっていたんですよ。たけしさんとかタモリさんの前かな? でね、ものすごい過激なことをラジオでしゃべりまくっていて、「とんでもない人だな!」って思っていて、憧れていたんですけど。

(海保知里)(笑)

(山里亮太)なるほど。その影響が町山さんに……?

(町山智浩)その影響、ありますよ。だから、放送禁止の歌とかを平気でかけていたんですよ。岡林信康さんとか……。

(山里亮太)町山さんも時々、それをやりますよね?(笑)。

(町山智浩)ああ、そうですね。僕、たぶん甲斐さんとかタモリさんとかたけしさんのラジオが好きだったんですけど、どれも1回問題になっていますね。

(海保・山里)(笑)

(町山智浩)そういうのが好きなんで。ギリギリのところで遊ぼうぜっていうところだと思うんですけども。

(海保知里)攻めているんですね。

(町山智浩)でもね、甲斐さんは部落差別を歌った歌とかをラジオでそのまま放送して。フルコーラスで全部かけたりとかやっていて。結構すごかったんですけど。もう60すぎてらっしゃるんですが、全然変わらないんですよ。いまも全然変わらない。声もキーを維持しているし、まあすごいなと思って。やっぱりすごく鍛えているみたいですね。

(山里亮太)ああ、そうなんですね。

(町山智浩)はい。やっぱりロックをやっている人はね、90まで歌っていたチャック・ベリーとか、70すぎても平気で2時間、3時間のコンサートをやるポール・マッカトニーとかミック・ジャガーとか、すごい人たちがいるんで。ロック関係の人は負けられないから、みんな結構がんばってますね(笑)。

(山里亮太)体を鍛えてね。

(町山智浩)そう。だからその日ね、コンサートの前日だったんですけど、1時ぐらいまで付き合ってもらいましたよ。飲むのに。

(山里亮太)町山さん、それは何の機会で会ったんですか?

(町山智浩)それはね、全然関係ない飲み仲間のつながりで教えてもらって(笑)。だからね、すごい興奮したんですけども。もう1人ね、憧れの人に会えたんですよ。裕木奈江さん。

(海保知里)あらら。あの『ポケベルが鳴らなくて』で、ねえ。

(町山智浩)すごい昔の話をしていますけども(笑)。裕木奈江さんね、デビッド・リンチ監督の『ツイン・ピークス』の25年ぶりの続編『ツイン・ピークス The Return』にものすごい重要な役で出ているんですよ。

町山智浩 TVドラマ『ツイン・ピークス』25年ぶりの続編を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でテレビドラマシリーズ『ツイン・ピークス』の25年ぶりの続編『ツイン・ピークス The Return』について話していました。 ...

(海保知里)そうか。そうですね。

(町山智浩)まあずっとシリーズがあって、18話連続のシリーズなんですけども。前半の方で出てきてそれっきりなのかな?って思ったら、後半でものすごく重要な役でもう1回出てくるんですよ。裕木奈江さんが。で、あんまり言うとネタバレになっちゃうんで言えないんですけど、元々の『ツイン・ピークス』シリーズにとっていちばん謎だったのは主人公のクーパー捜査官がいつもテープレコーダーに向かって「ダイアン、ダイアン」ってしゃべりかけているんですよ。

(海保知里)ああ、そうですね。

(町山智浩)「ダイアン、あのね……」とかって。覚えてます?

(海保知里)なんか録音してね。でも、誰に話しかけているんだろう?って。

(町山智浩)そう。「ダイアンって、誰?」って。今回の『ツイン・ピークス』ではそのダイアンの謎が判明するんですよ。

(海保知里)へー!

(町山智浩)で、そこに裕木奈江さんが絡んでいて。しかも……まあ、言えないんですけど。ものすごく泣けるシーンになっています。デビッド・リンチ監督のいろんな映画を見ている人にはもう号泣のシーンになるんですよ。で、裕木奈江さんにお会いできて。裕木奈江さんはいまハリウッドを中心に仕事をされているんですけども。

(海保知里)へー。うんうん。

(町山智浩)でね、「お土産」って、クーパー捜査官役のカイル・マクラクランって作品の中でずっとコーヒーを飲んでいるでしょう? 『ツイン・ピークス』シリーズの中で。

(海保知里)そうですね。アップルパイのお店かなんかでコーヒーを飲んだりとか……。

(町山智浩)そう。コーヒーが好きで、アップルパイ(チェリーパイ?)が好きなんですけど。だから劇中で飲んでいるカイル・マクラクランがブレンドしたコーヒーっていうのをもらいましたよ。お土産で。

(海保知里)へー! そんなのあるんだ!

クーパー捜査官ブレンドのコーヒー

(町山智浩)あるんですね。だからこれ、ちょっとありがたくて飲めないですよ(笑)。だってクーパー捜査官が飲んでいるコーヒーですよ! いま、ここにあるんですけど。どうしようかな?って思って困っていますけど(笑)。

(海保知里)私、この前のAbemaTVを拝見しまして。村本さんと一緒に出ていた。

町山智浩とウーマン村本 ワイドショーの芸人コメンテーターを語る
町山智浩さん、丸屋九兵衛さん、斉藤充さんがAbema TV『ウーマンラッシュアワー村本大輔のX The NIGHT』に出演。アメリカのお笑いについて話す中で、日本のワイドショーのお...

(町山智浩)ああ、はいはい。

(海保知里)山ちゃんね、あの番組ね、冒頭からずっと割礼について話していたんですよ。で、それでその割礼についているところのテロップが「世界別、ちんこの切り方」って書いてあって、もう倒れそうになりました(笑)。


※動画9:35あたりからテロップが登場します

(町山智浩)(笑)

(海保知里)こんなテロップ、見たことないなって(笑)。

(町山智浩)まあ、割礼は皮だけですからね(笑)。

(海保知里)すいません。ちょっと、それだけ。失礼しました。

(町山智浩)本体は切らないようにっていうことでね。それは阿部定ってことなんで。はい。それはいいんですが……。

<書き起こしおわり>

町山智浩 映画『Battle of the Sexes』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で1973年に行われたテニスの男女対決を描いた映画『Battle of the Sexes』を紹介していました。

#BattleoftheSexes is #CertifiedFresh and NOW PLAYING in select theaters (everywhere next Friday)! Get tickets via the link in bio ??

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(町山智浩)今回、『Battle of the Sexes』という映画がアメリカで正式に公開されたんで、その話をしたいんですけども。前回(トロント映画祭レポート)の際も言ったんですけど、「Battle of the Sexes」って言ってもどれだけ我慢できるか? とか、何回できるか? とか、そういう戦いではないですからね。

(海保知里)そうですよね(笑)。

(山里亮太)そういうんじゃないですよね(笑)。

(町山智浩)この「Sex」は「性別」なんで、「Battle of the Sexes」っていうのは「男女の戦い」っていう意味です。これが1973年ですから、いまからもう40年以上前に実際にあったテニスも男女対抗戦なんですよ。で、これは僕も当時、子供だったけど覚えています。この話は。

(海保知里)ふーん。

(町山智浩)これ、ものすごい話題になったんですよ。日本のテレビでもダイジェストを放送するぐらいの戦いだったんですけど。で、これは1973年に男性の過去のテニスチャンピオンなんですけど、ボビー・リッグスという55才のおじさんが、その時の大スターだった女性プロテニス選手のビリー・ジーン・キング……29才なんですが、それに挑戦状を叩きつけて。それで3万人の観衆を集めてアストロドームで行われて。それで、アメリカだけで50万人がテレビ中継を見たという、すごい事件だったんですけど。これ、どのぐらいビリー・ジーン・キングという女性テニス選手がカリスマだったか?っていうと、あの山本鈴美香先生の『エースをねらえ!』に出てきますよ。

(海保知里)へー!

女子テニスのカリスマ ビリー・ジーン・キング

(町山智浩)「コートではー♪」っていうやつですけど。覚えてますよね? 「誰でもー♪」って全部歌うことはないんですが(笑)。『エースをねらえ!』の原作に岡ひろみがどんどん世界に羽ばたいていって出会う人として、ビリー・ジーン・キング選手が登場するんですよ。それぐらいすごいビッグネームだったんですね。その女性は。

(海保知里)ふーん!

(町山智浩)あとね、マイケル・ジャクソンの歌で『Billie Jean』っていう歌があるじゃないですか。



(海保知里)「ビリー・ジーン♪」って。

(町山智浩)そう。あの歌なんですが。歌うことはないんですが(笑)。お互いに、カラオケじゃないんで(笑)。その『Bille Jean』っていう歌も当時は「ビリー・ジーン」って言うと「ビリー・ジーン・キング」だったんで誤解されるって結構話題になっていて。「これはビリー・ジーン・キングのことを歌っているんじゃないか?」と言われるぐらい、とにかくビリー・ジーンと言えばこのキングさんだったんですね。

(海保知里)ふーん!

(町山智浩)で、またこのボビー・リッグスっていう、それに立ち向かった55才のおっさんは、写真を見てもらうとわかるんですけど、キダ・タローさんにそっくりなんですよ。


(海保知里)うーん(笑)。

(山里亮太)たしかに(笑)。似てますね。

(町山智浩)すごいでしょう? これ、浪速のモーツァルトですよ!


(町山智浩)ねえ。あの「とーれとれ、ぴーちぴち、カニ料理♪」の。全部歌うことはないんですよ(笑)。

(海保知里)(笑)

(町山智浩)あの人ですよ。『プロポーズ大作戦』の主題曲とかね。あと、「あーらよ、出前一丁♪」の……って、関係ないんですよ。キダ・タローさんは(笑)。

(山里亮太)「似てる」っていうだけで(笑)。

(町山智浩)はい。そのボビー・リッグスと戦ったんですね。で、これがものすごく話題になったのは、このボビー・リッグスがものすごい女性差別的だったんですよ。

(海保知里)ああ、その男性が。

(町山智浩)そう。これ、ビリー・ジーン・キングさんっていう人はなぜその時、すごく有名だったか?っていうと、まずその全米テニス界の男子プロの賞金と女子プロの賞金額がものすごい差があって。女子の賞金額が男子の15%ぐらいしかなかったんですよ。

(海保知里)えっ、それはすごいですね。

当時のプロテニス界の男女の賞金格差

(町山智浩)ものすごい男女格差があって。それに対して怒りを表明して。そしたらプロテニス界の方が「女性の方が試合はつまらねえだろ? 客も来ないし迫力もないんだから」っていう風に言われたんですよ。

(海保知里)ひどい……。

(町山智浩)それに対して、「いや、女子も全然男性に対抗できるし、ちゃんとプロとしてのエンターテイメントでもある」ということを証明するために、自分で女子プロのトーナメントを主催して、それを運営したりとか。すごいお金がない状態でね、インディーズみたいな感じでやって、女性のテニスプロの地位を向上させようとしていたんですよ。

(海保知里)ええ。

(町山智浩)で、それに対してこのボビー・リッグスという男は「女なんかテニスやったって、55の男にだって勝てやしねえんだよ!」って言いまくっていたんですよ。で、自分で英語で「ショービニスト(chauvinist)」っていう言葉があるんですね。ショービニストっていうのは、まあ差別主義者というか、男性優位主義っていう意味なんですけども。

(海保知里)ふーん。

(町山智浩)そのショービニストって書いたTシャツを着て。要するに、だから「男性優位主義」って書いたTシャツを着て。で、さらにそのTシャツにブタの絵が描いてあるんですよ。「女性差別のブタ」っていうTシャツを着てマスコミに登場して、徹底的に女性をバカにすることばかりを言い続けていたんですよ。ボビー・リッグスは。

(海保知里)なんかゲスいですね。

(町山智浩)それで、また面白いのがそれを応援する男性たちがすごく多かったんですよ。当時。で、「俺は女がかわいいと思うけど、それは料理している時とベッドにいる時だけだね」とか言ったりしていたんですよ。で、テレビとかにバンバン出て、そういうことをやって、そのバトルがどんどんヒートしていったということなんですね。で、これね、この映画が面白いのは、このボビー・リッグスを演じるスティーブ・カレルがそっくりなんですよ。

(海保知里)ああ、写真を見ると。ねえ。


(町山智浩)だからキダ・タローとも似ているんで、3人とも同じ顔になっちゃっているんですけど(笑)。キダ・タローさんはそんな差別的な人じゃないですけどね(笑)。関係ないから、もうあまり話題にしない方がいいですね。はい(笑)。このスティーブ・カレルさんはコメディアン出身の人ですね。『40才の童貞男』でかなり大ヒットを飛ばした人なんですけども。この映画の中ではもう、ヌードになったり。そこに写真があると思いますけども(笑)。あと、女装をしたり、もうむちゃくちゃなんですよ。

(海保知里)(笑)

(町山智浩)女装をして……だから、女性に対する嫌がらせとして、女装してスカートを履いてテニスをやったりしていたんですよ。この人は。ボビー・リッグスって。で、また「俺はセクシーだぜ!」とか言いながら55才でヌードになったりとか。まあとにかく、人をイラつかせるようなことばっかりしているんで、めちゃくちゃ面白いんですけど。で、それに対抗するビリー・ジーン・キングを演じるのは、エマ・ストーンなんですね。

(海保知里)はい。

(町山智浩)彼女、去年アカデミー主演女優賞をとりましたよ。『ラ・ラ・ランド』でね。で、ものすごいガーリーな役で、歌って踊ってってやっていたんですけど。やっぱり向こうの役者っていうか、まあこっちなんですけど。その俳優ってすごいのは、「じゃあ、全然違うことをやる!」って全然違う仕事を次に選ぶんですね。

(山里亮太)なるほど。

(町山智浩)で、ここでは完全に顔、ノーメイクですよ。

(海保知里)へー!

(町山智浩)エマ・ストーン。もう全然メイクしてないですね。で、ビリー・ジーン・キングさんそっくりになっていますね。あんまりイケてない感じなんですけど(笑)。ただね、しゃべり方だけじゃなくて、テニスそのもの、要するにプレーまでコピーしているんですよ。

(海保知里)えっ、テニスできるんですか?

(町山智浩)この映画のためにこの2人、ものすごい特訓をして。で、実際のテニスシーンはCGとかを使えばいいんですけど、使わないで本当のボールでやっているそうです。

(海保知里)すごい。CGなし。

(山里亮太)もともとテニスの経験者だったからとかではなく?

(町山智浩)まあ、コーチをつけてやったらしいんですよね。でね、最近アメリカ映画って、たとえば前に世界貿易センタービルの2つの間を綱渡りする映画(『ザ・ウォーク』)があって。あれなんか完全にCGでやっちゃっているんですよ。

町山智浩 映画『ザ・ウォーク』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、世界貿易センタービルを綱渡りで渡った男を描く映画『ザ・ウォーク』を紹介していました。 (赤江珠緒)今日の本題をお願...

(海保知里)ああー。

(町山智浩)それでしかも綱渡りができる人にやらせて、その人の顔にジョセフ・ゴードン=レヴィットくんっていう俳優さんの顔をコンピューターで貼り付けているんですね。いま、結構なんでもできるんですよ。顔の貼り付けが可能なんで。ただ、これはやっていないということですね。

(海保知里)ふーん!

(町山智浩)で、これね、もうとにかくコメディーになっちゃっているんですよ。映画自体が。ボビー・リッグスっていう人は要するに半分芸人みたいな人なんで、この試合の会場に来る時もシュガーダディ(Sugar Daddy)っていうキャンディー会社とタイアップして、シュガーダディって書いたでっかいペロペロキャンディーを持って、女の人に囲まれて入ってくるんですけど。で、美女たちに囲まれてシュガーダディっていう飴を持っているっていうのは、これはアメリカ人にしかわからないジョークなんですよ。

シュガーダディキャンディー


(山里亮太)ほう。

(町山智浩)シュガーダディっていう言葉は、お姉ちゃんをお金で囲っているおじさんのことを言うんですよ(笑)。

(山里亮太)へー! それをシュガーダディと。

(町山智浩)シュガーダディって言うんですよ。だから、若い美女に囲まれて彼がシュガーダディとして出てくるっていうのはそういう、「女なんてよ、男に金で囲われてりゃいいんだ」みたいな話なんですよ。

(海保知里)ふーん!

(町山智浩)バカにしているんですよ。で、これ面白いのはシュガーダディっていうお菓子自体を販売していた会社っていうのがあるんですけど、それはロバート・ウェルチっていう人が発明してそれを売っていたんですけど。この人はアメリカで1950年代に猛威を振るったものすごい極右団体の主催者なんですよ。

(海保知里)ええーっ!

(町山智浩)ジョン・バーチ・ソサエティー(John Birch Society)って言うんですけども。ものすごい白人至上主義の反ユダヤ団体だったんですけども。その運営資金はこのシュガーダディを売ったお金で稼いでいたんですね(笑)。

(海保知里)そうやっていたんだ。

(町山智浩)だから今回も(ボビー・リッグスの)スポンサーになったりしているんですけど。お菓子屋さんが右翼をやっているっていう非常に面白い状況が1950年代にあったんですよね(笑)。面白かったんですけど。で、これね、なんでこんなにアメリカで1970年代にこれが大変な騒ぎになったか?っていうと、実はすっごい男女の機会均等の動きが背景にあったんですよ。で、ウーマン・リブっていう言葉、覚えています?

(海保知里)この前ね、お話しましたよね。そうですね。女性の地位向上っておっしゃってましたね。

ウーマン・リブ運動

(町山智浩)そう。「Women’s liberation」の略なんですけども。これ、1970年にアメリカで平等を求める女性たちの全米ストっていうのがあったんですよ。これね、仕事場だけじゃなくて、あらゆるところで……要するに、家庭とかでも主婦も全員ストライキしろ!っていう呼びかけなんですね。「女性がいなかったらどれだけ困るのか、思い知らせてやれ!」っていうことがありまして。なぜそうなっていったか?っていうと、このテニスもそうなんですけど、男女の給料の格差が当時、ひどかったんですよ。

(海保知里)ああー、さっきの賞金だけじゃなく、給料も。

(町山智浩)賞金だけじゃなくて。職場とかでも完全にもう、分けられていて。で、また女性はたとえばその当時は会社でも制服を着ていたんですよ。日本でも、女性だけが制服を着ている会社、ありますよね? お茶くみとかをさせたり。お茶くみ、タイピスト、秘書っていうのしか仕事がなくて。で、結婚をすると退職勧告ですよ。で、結婚をしていて許されていても、妊娠したら退職勧告されるというね。これも日本でつい最近までありますよね? まあ、いくつもまだやっているところもありますが。で、そういうものに対して、まずはっきりと平等を求めて。たとえば、就職における男子だけの採用とか、女子にだけお茶くみで求めるみたいなものは無しにすると。

(海保知里)うん。

(町山智浩)っていうようなことを求めて、これは1972年に男女雇用機会均等法が成立して、勝利を収めるんですよ。で、それからはアメリカでは男子だけ社員募集、女子だけ募集っていうのはできなくなるんですね。で、一応給料の格差もつけちゃいけないっていうことになるんですけども。で、あと、同時にミス・ユニバース反対デモっていうのもありましたよ。これも覚えていますけども。

(海保知里)へー!

(町山智浩)ミスコンってあるじゃないですか。ミスコンってあれ、男子コンってないよね? ミスターコンってあんまりないよね?

(海保知里)実は私、女子大だったんですけど、男のミスコンやっていました。主催して、何回かありました。かなり珍しいっていうことでやりました。だから本当それ、レアですね。

(町山智浩)でもそれって、はっきり言って品評会じゃないですか。

(海保知里)それだったので、男性に料理をしてもらったりとか。そこではじめて考えるんです。男性をどう……背が高いとか見た目とかじゃなくて、どうやって内面を見たらいいんだろうか?っていう壁にぶつかったのを覚えています。審査する上で。

(町山智浩)ああ、男性をね。だから男性を見た目だけでランク付けしないでしょう? でも、女性だけ見た目でやるじゃないですか。だからそれは、品評会で値段をつけてやるのでブタとかウシとかと同じ扱いなんですよ。だからこれはおかしいということで、反対する運動がその当時に起こっていて。あと、いくつかでは離婚の時の財産均等分与とか、あと経口避妊薬の認可とか、人工中絶の合法化……それまではアメリカでは犯罪扱いだったんですよ。人工中絶すると女性だけ刑務所にブチ込まれていたんですよ。

(海保知里)ええーっ……。

(町山智浩)それもやっと憲法で合法になるという形で、まあ女性の権利が達成されていった状況だったんで。で、このビリー・ジーン・キングが「Battle of the Sexes」で入場する時にかけていた曲をちょっと聞いてもらえますか? 『私は女(I Am Woman)』っていう歌なんですよ。これが大ヒットするんですよ。1972年に。

Helen Reddy『I Am Woman』



(町山智浩)これはヘレン・レディという人が歌った歌で、この歌に合わせてビリー・ジーン・キングは「Battle of the Sexes」で入場してくるんですけど、これは「私の叫びを聞いて。私は怒りが無視できないほど大きくなっている。私はさんざん打ちのめされてきたけど、もう二度と負けやしない」っていうものすごい女性の権利を歌う歌だったんですね。

(海保知里)うんうん。

(町山智浩)で、これが大ヒットして……っていうところで、その男性たちがものすごく怒っていたわけですよ。

(海保知里)なんで?

(町山智浩)「女が生意気になっている!」みたいな感じで。だから、「Battle of the Sexes」がものすごく当時、盛り上がったんですよ。

(海保知里)へー!

(町山智浩)でね、監督が言っているのは、なんでいまこれを作らなければ行けないのか?っていうと、この「Battle of the Sexes」は実はヒラリー対トランプの選挙戦のメタファーなんだって言っていましたね。

(海保知里)へー!

(町山智浩)っていうのは、トランプっていうのはミス・ユニバースの主催者でもあったし。で、ボビー・リッグスみたいに暴言し放題だったじゃないですか。ねえ。「プッシーつかんでもOKだぜ!」とか。

(海保知里)ええ、言ってましたね。

(町山智浩)で、ヒラリーさんはちょっとメールを自分のサーバーでやっていただけで、それをめちゃくちゃに叩かれて。「刑務所にブチ込め!」って言われたんですよ。でも、トランプはロシアとつながっていたわけですよ。いま、もう判明していますけども。だから、男にめちゃくちゃ甘くて、女に厳しいっていう状況はまるで変わっていないということで、この映画を作らなきゃならないんだという風に監督は言っていましたね。監督はジョナサン・デイトンとバレリー・ファリスっていう夫婦でやっているんですよね。

(海保知里)へー。

(町山智浩)だから映画作りも平等にやっているというところなんですけど。で、この映画は日本公開はまだ決まっていないんですけど、たぶん『Battle of the Sexes』のタイトルで……まあ、エマ・ストーンちゃんが出ていますからね。

(海保知里)絶対にやりますかね。

(町山智浩)公開すると思いますが。でも、基本的にコメディーで、最後にどっちが勝つか?っていう部分は『ロッキー』になりますから。

(山里亮太)『ロッキー』?

(町山智浩)『ロッキー』になりますよ。最後は。

(海保知里)ちょっともう、見たくて仕方ない!

(山里亮太)でも、日本ではまだ……。

(海保知里)今日は本当にあったテニスの男女対決を描いた映画『Battle of the Sexes』を紹介していただきました。町山さん、どうもありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

町山智浩 ラスベガス銃乱射事件と銃規制問題を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でラスベガスで起きた銃乱射事件についてトーク。なぜアメリカでは銃規制が進まないのか? その理由や銃規制法案のために戦うロビイストを描いた映画『女神の見えざる手』などについて話していました。


(町山智浩)今回は予定を変更して、この間アメリカの方で起こった……「この間」というか、こっちの感覚だと昨夜起きたラスベガスでの乱射事件についてお話をしたいんですが。その前にちょっとリスナーのみなさんにプレゼントがあります。

(中略)

(海保知里)さあ、ちょっと本題に戻りましょうかね。町山さん。

(町山智浩)はい。まあその文庫のタイトル(『マリファナも銃もバカもOKの国 USA語録3』)とも非常にリンクする事件なんですけども。アメリカ時間の昨夜、ラスベガスのマンダレイベイホテルという、結構高いビルなんですけども。そこの23階の窓から、64才の男性が銃を撃ちまくって。その通りの向かい側の野外でカントリー&ウエスタンのコンサートをやっていた2万2000人の観客に向かって銃を撃って、60人近くが亡くなって、500人以上が重軽傷を負うという事件になりましたね。

(海保知里)うーん……。

(町山智浩)これはアメリカ史上で、(犠牲者の)数的には最大級の惨事ということですけども。大昔に、テキサス大学の時計塔の上からライフルを撃ちまくってものすごく人が死んだ、テキサスタワー乱射事件っていうのがあるんですけども。それと非常によく似た事件ですけどもね。で、ラスベガスのあるネバダ州というのは銃の規制がものすごくゆるいところなんですよ。

(海保知里)ふーん!

銃規制がゆるいネバダ州

(町山智浩)アリゾナ州とかケンタッキー州もそうなんですけども。僕もラスベガスに行って、いわゆるマシンガン(機関銃)というやつを撃ったことがあるんですけどね。



(山里亮太)へー! それは撃たせてもらうことができたりするんですか?

(町山智浩)ラスベガスは撃てるんです。ケンタッキーも撃てます。で、今回の事件では犯人が持っていた銃は一応全て、法的に許される形で正式な許可を得て所持していたものだそうです。

(山里亮太)そんな機関銃みたいなものも、普通の人が買えるんですか?

(町山智浩)はい。「普通の人」っていうか、いろいろと厳しい規制があるんですね。機関銃(フルオートの銃)に関しては。ただ、それをクリアしたから、犯人は正式に持っていたんだと思います。

(海保知里)じゃあ、登録とかもちゃんとされていたっていうことなんですか?

(町山智浩)されていたっていうことだと思います。まだはっきりとはしないんですけども、普通のいわゆるパンパンパン!って撃つ銃というのは半自動銃(セミオートマチック)って言うんですよ。で、ダダダダダッ!って撃つやつは全自動銃(フルオートマチック)って言うんですね。マシンガンとかは。で、マシンガンは規制が厳しくて、登録をキチッとしないと持てないんですよ。

(山里亮太)ふんふんふん。

(町山智浩)ただ、セミオートマチックの半自動の方も、ちょこっと改造すると実はほとんどフルオートになっちゃうんですよ。だからあんまり意味のない規制ではあるんですね。で、フルオートの機関銃は1986年よりも前に作られた物しか持っちゃいけないことになっているんですね。でも、それより後に作られた最新式のものでも、改造したり部品を取り替えればフルオートになっちゃうんですよ。

(山里亮太)じゃあ、改造することを禁止っていうのは別にないんですか?

(町山智浩)禁止してもやっちゃうから、あまり関係ないんですよね。それで、ホテルの部屋に持ち込んだというのも、少しずつ持ち込んだんでしょうね。20丁ぐらい持っていたらしいんですよ。

(海保知里)すごい量……。

(町山智浩)そう。でも、ホテルに入る時ってまず、銃のチェックとかしないですからね。

(海保知里)そんなボディチェックなんかしないですよね。

(町山智浩)しないですよ。ねえ。で、弾丸はいくら買っても自由だし。だから数千発持っていたみたいですね。で、「あのホテルから撃っている」っていうことがわかってからその犯人の部屋に警察が突入するまでに10分以上かかっているみたいなんですよね。やっぱりだって、20何階のホテルの上に警察がワーッて行くまで、どう考えても10分以上はかかりますよね。その間もずーっと機関銃を撃ちまくっているわけですよ。これはひどいですよね。で、これで銃の所持に関して規制が厳しくなるのかと言ったら……おそらく、ならないでしょう。

(海保知里)えっ? ならないんですか?

(町山智浩)ならないでしょう。全くならないと思います。それは、いままでもなっていないからです。1999年にコロラド州コロンバイン高校で生徒が銃を乱射して他の生徒15人を殺すという事件があったんですけども。これは『ボーリング・フォー・コロンバイン』っていうドキュメンタリー映画のきっかけにもなってますけども。あれ、僕はその事件があった時に、そのすぐ近くに住んでいたんですよ。なぜか。

(海保知里)ええーっ!

(町山智浩)コロラド州ボルダーに住んでいたんですけど。でもやっぱり、コロラド州というのは西部の開拓地なんですよね。だから、カウボーイのいたところなんで銃というのは非常に生活と密着していて。絶対に規制はされなかったですね。むしろ、その銃撃した高校生たちが聞いていたマリリン・マンソンとかの音楽が、ゴスとかパンクと言われていた音楽だったんで、そっちの方を規制するという方向に行って、実際にそういうのをかけていたラジオ局が閉鎖に追い込まれました。

(海保知里)そんなことがあったんですか!

(山里亮太)銃じゃなくて?

(町山智浩)そう。銃の方が問題なのに。実際に殺したのは銃なのに、ロックのラジオ局が閉鎖されるということになりましたね。

(山里亮太)そうか。「銃の責任じゃない」という方に行かなくちゃいけないから。

(町山智浩)そう。みんな銃を持っているから、銃を取り締まりたくないんですよ。で、アメリカでは田舎の方……都市部ではない地方の銃を所持している世帯数が、5割から6割なんですよ。だから、田舎の人は半分以上が各家庭に銃を持っていることになっているんで。そうすると、取り締まれないですね。で、その後にニューヨークで2012年12月に、サンディフックというところで小学校に男が乱入して子供たち30人を殺すという事件があって。それで犯人は精神病を病んでいたということで、「銃の所持に関して精神病歴であるとか犯罪歴をチェックしてから銃を売るようにしよう」と、その当時のオバマ大統領が行ったんですが、それも(法案は)通りませんでしたね。

(海保知里)通らなかったんですか?

(町山智浩)通っていません。その時も、たまたま事件のすぐ近くの、ニューヨークのホテルでクウェンティン・タランティーノのインタビューをしていたんですよ。

(山里亮太)へー! 出くわしますね。

(町山智浩)だって僕、ハドソン川に飛行機が落ちた時に、あの飛行機が飛び立った直後の空港にいたんですから。

(海保知里)ええーっ!

(町山智浩)その話もラジオでしました、はい(笑)。なぜか、そういう人なんですね。

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(町山智浩)まあ、それはいいんですが。だから結局、なかなか銃規制は全然ダメなんですよ。銃規制が始まったのは、1981年にレーガン大統領が狙撃されまして。それは『タクシードライバー』っていう映画を見て、それに憧れた男がレーガン大統領を撃ったんですけども。やはり、彼には精神病歴があったんですね。で、その撃たれた時に流れ弾を食らった大統領補佐官がいまして。ブレイディさんという人がそれで半身不随になっちゃったんですね。その流れ弾のために。で、彼は最初はレーガン大統領と一緒の共和党だったんで、銃の規制には反対、銃の所持自由化の方の人だったんですけど、精神病歴とかを調べるという銃の規制をする方に傾きまして。で、このブレイディさんは車椅子になったんですけども、ブレイディ・キャンペーンという団体というか組織、運動を作りまして。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)それはね、銃を買おうとしたら、手に入るまでに5日間、猶予の時間を置いて。その期間に精神病とか逮捕歴とかをチェックして、なにもなければ銃を持たせてあげるということにしようとしたんですね。

(海保知里)なるほど。

(町山智浩)で、一時的には通ったんですけども、2004年にその(時限立法の)期限が来て。その時、ブッシュ大統領が続けなかったので、それは失効されてしまっています。消えています。だからいま、精神病であろうと逮捕歴……殺人犯であろうと銃が持てるところばかりなんですよ。

(山里亮太)そこなんか、真っ先に「ダメ」ってしなきゃいけないポイントですもんね。本当は。

(町山智浩)そう。で、ヒラリー・クリントン候補は前から、それに加えてFBIにチェックされている人たち……要するに政治的なテロリストであるとか、過激派団体に所属してFBIの監視下に置かれている人にも銃を売ってはいけないという風にしようとしていたんですけど、それも通っていません。だから、すごく面白いのはアメリカは「テロリストはいけない」と言いながら、テロリストに銃を売ることを禁じる法律がないんですよ。

(海保知里)へー!

(町山智浩)で、そのひとつ大きい問題は、憲法修正第二条で銃の所持を認めているんですが、なぜ銃を持っていいっていう風に憲法に書いてあるかというと、政府に対する抵抗戦争をする権利を国民に与えているからなんです。

(海保知里)つまり、自衛をするっていうことですか?

憲法修正第二条で銃の所持を認める

(町山智浩)いや、これは独立戦争の時に作られたものなんですけども。アメリカはもともと、イギリスという政府に対して革命を起こして成立した国なので、一般市民が銃を持って政府に対して、政府を打倒するための戦争をすることを肯定せざるを得ないんですよ。憲法が国民に武装革命で政府を打倒する権利を与えているのがアメリカなんですよ。それがアメリカの建国の理念とつながっているので、否定ができないんですよ。

(海保知里)ふーん!

(町山智浩)日本からは考えられないでしょう? 刀狩りの国だしね。

(山里亮太)反抗をさせないために、取り上げますからね。

(町山智浩)そう。「政府が悪いことをしたら、倒してもいいよ。そのために銃を持つ権利を与えますよ」っていう国なんですよ。アメリカは。

(山里亮太)ただ、その持つ人のルールを決めるぐらいはやってくれてもいいんじゃないかな?って思いますけどね。

(町山智浩)そうなんですよ。でも、それが悪用されると困るという。要するに、反政府の人から銃を取り上げるということをするわけじゃないですか。テロリストから銃を取り上げるということは。それ、憲法修正第二条に反しちゃうんですよ。反政府グループから銃を取り上げることはできないんですよ。アメリカの法律は。

(山里亮太)不思議だなー。

(町山智浩)まあ、そこがひとつ、アメリカという国の複雑さでもありますけどもね。で、もうひとつはロビー団体の力なんですよ。まあ、全米ライフル協会(NRA)という団体がありまして。そこは19世紀から続いている銃を所持する権利を守るための団体なんですが。そこは500万人の会員がいまして、その力がすごく強いんですね。で、彼らがやることは、ロビー団体なんでいわゆるロビイストという政治家に働きかけるための組織ですね。ロビイストっていうのはどういうことをしているか?っていうと、たとえばいま、トランプ大統領の選挙の時の選挙対策委員のトップだったポール・マナフォートっていう人がずっとFBIの取り調べを受けているんですね。

(海保知里)はい。

(町山智浩)彼はもともとロビイストだったんですよ。どういうロビイストだったか?っていうと、ザイールとかアンゴラとか東ヨーロッパとか南米の独裁政権の独裁者とかクーデターを起こした非常に悪い将軍とかからお金をもらって、その人たちのためにアメリカの政界をコントロールする仕事をしていたんですよ。

(海保知里)へー! すごいですね。

(町山智浩)だからただの悪人なんですけど(笑)。だから、プーチンから金をもらってトランプの選挙に関わっていたんじゃないか?っていうことでFBIの取り調べを受けているんですよ。マナフォートっていう人は。だから、ロビイストっていうのは政界工作人のことですね。具体的にはね。で、お金をもらってそれをバラまいたりするんですけども。ただ、アメリカの法律が恐ろしいのは、2010年に最高裁で法人……つまり、団体とか企業が政治家にお金を献金することが自由化されてしまったんですよ。

(山里亮太)ほう!

(町山智浩)それはどういう理屈かというと、「法人も個人と同じ人格だから、政治的な行動をしていい」ということで。だから、このNRA(全米ライフル協会)はいくらでも政治家に献金ができるんですよ。

(山里亮太)なるほど。じゃあ、ここを無碍にできなくなっちゃうんだ。

(町山智浩)これもとんでもない法律なんですけども。PAC(Political Action Committee)っていう政治運動団体を作ると……それはその政治家じゃなくて、その政治家の勝手支援団体なんですね。そういう団体をポコポコ作って、そこにお金をブチ込むんですよ。その場合、上限はなしです。

(海保知里)(笑)

(町山智浩)だから、トランプ大統領を支援するとして、コマーシャルしたりいろんな選挙運動をするんですよ。そのPACと言われる組織が。で、そこにはいくら、その全米ライフル協会がブチ込んでもいいんですよ。

(山里亮太)そうなると、規制には動かないですもんね。そんなことをしているグループには。

全米ライフル協会の資金力

(町山智浩)そうなんですよ。で、この全米ライフル協会(NRA)の年間の資金額というのは、毎年2億5000万ドルです。これ、すごいですよ。この金額。250億円以上? これが毎年ですよ。これ、『君の名は』の興行収入よりも上なんですよ。毎年、『君の名は』を大ヒットさせているんが全米ライフル協会ですよ。で、その金を全額、政治家にブチ込んでいるんですから。

(海保知里)こりゃあ、逆らえない……。

(町山智浩)でしょう? で、トランプ大統領が選挙の時にNRAの正式な支援を受けたわけですけども、だからと言ってNRAは共和党を支援している団体ではないんですよ。完全に超党派なんです。だから、今回事件が起こったネバダ州を選挙区にしていた人が、民主党の上院の院内総務という最も偉い人だったハリー・リードという人がいまして。民主党のリーダーだったんですけど、NRAの支持を受けていました。

(海保知里)へー!

(町山智浩)っていうのは、NRA(全米ライフル協会)の支持を得ないと、ネバダ州のようなところでは絶対に民主党だろうと共和党だろうと当選しないんですよ。で、僕はデトロイトとかそういういわゆるラストベルトのところに行ったんですけども。そこに行くと圧倒的にオバマ大統領が支持されているんですね。(行ったのは)オバマ大統領の時だったんですけども。「俺はオバマ大統領をめちゃくちゃ支持だよ!」って言っている人たちの車にはみんな、NRAのステッカーが貼ってありました。

(海保知里)うわー、そうなんだ。

(町山智浩)だから、その大統領も……オバマ大統領も2008年の選挙の時は射撃のパフォーマンスをしているんですよ。

(海保知里)ふーん。していましたっけ?

(町山智浩)していました。射撃場に行って射撃をしてみせて、「私は銃を持つ権利を認めますよ。私も銃を撃ちますよ」っていうポーズを見せなければならないんですよ。そうしなければ、どんな大統領候補も当選しません。ジョン・ケリーさん、2004年にブッシュ大統領の対立候補として出ましたけども。彼も選挙中にハンティングに行っています。

(海保知里)ポーズということで。

(町山智浩)そうなんです。で、その全米ライフル協会を支持しなかったのはヒラリーさんだけなんですよ。大統領選挙の時に。だから、落ちました。

(山里亮太)なるほど。それじゃあ、規制はずっとされないですね。

(町山智浩)そう。そのぐらい強いところなんで全く勝てないんですけども……あっ、時間がないや! ええと、今日紹介しようと思った映画は『女神の見えざる手』というアメリカ映画なんですが。これは保守系、共和党系のロビイストとして活躍していた、腕利きの1回も負けたことのない、どんな法案も通すと言われていた女性ロビイストのスローンという人が、突然銃の規制をするという、まあ「バックグラウンド・チェック」という精神病とか犯罪歴をチェックしないと銃が買えないという法案を通すため、戦いはじめるという話なんですね。

(海保知里)へー!

(町山智浩)で、「彼女はいままで銃を規制しようとしていた人はみんな、きれいごとだった。だから絶対に勝てなかった。いままで法案は通らなかったんだ。銃規制の法案を通すため、いままで私が保守系のロビイストとしてやってきた汚い手を全部使うぞ!」って言って、徹底的な、スキャンダルを起こしたり、ハッキングしたり、盗聴したり。あと、銃の被害者の人をテレビに無理やり出したり、ありとあらゆるド汚い手を使ってでも銃規制を実現させようとする話なんですよ。

(海保知里)見たい!

(町山智浩)すごいのは、これはどうしてそういうことをするようになったか?っていうと、「銃を規制したい」っていう被害者の人たち300万人がちょっとずつお金を集めて草の根で1500万ドルを集めたんですよ。で、「これで戦ってください」って言われるんですけど……でも敵のNRAは2億5000万ドルですからね。それと戦うにはどうすればいいか? これはきれいごとじゃないのよ!って戦うんですが、彼女をなんとかしようとして、ハニートラップもかけられるんですよ。

(海保知里)ふーん!

(町山智浩)ここが見どころで。この美しい彼女は一生懸命戦っているんですが、彼氏とかを作る暇がないんですね。で、ホテルに帰ると、そこに超イケメンが裸でベッドに寝ているんですよ。もう筋肉モリモリの。もう本当にうっとりするような男が寝ているんですよ。で、「あなたはロビイストとして最高だけども、夜の方は寂しいんじゃないの? 僕がね、最高の、ワシントン一の快楽を教えてあげるよ!」って言うんですよ。

(海保知里)(笑)

(町山智浩)だから逆ハニトラなんですよ。で、そういう映画がこの『女神の見えざる手』という映画なんで。「そういう映画」って言うとなんだかわかりませんが。はい(笑)。

(海保・山里)(笑)

(町山智浩)だからいままでなぜ、銃規制がダメだったか? じゃあもう汚い手を使うぞ!っていう。『ハウス・オブ・カード』が民主党の大統領を主人公にしながら、汚い手でリベラルな法案を通していく話だったですけども。それのロビイスト版ですね。

(海保知里)ありがとうございます(笑)。ちょっとね、ハニートラップばっかりが残っちゃいましたけども。

(町山智浩)いや、僕もそこしか見てなかったですけど(笑)。

(山里亮太)そこ以外もいっぱい見どころがあるでしょ、町山さん!

(町山智浩)いやいや、うっとりしましたね。その美しい男の裸で。それで、これは10月20日公開かな?

(海保知里)そうです。公開になります。『女神の見えざる手』についてうかがいました。

<書き起こしおわり>

町山智浩 ラスベガス銃乱射事件とその後のアメリカ国内の議論を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『荻上チキ Session-22』に電話出演。ラスベガスで起きた銃乱射事件と、その後に起きたアメリカ国内での議論などについてレポートしていました。


(荻上チキ)さて、そういった中で、ではアメリカではどういう報道がなされているのか? などいろいろとレポートをしてもらいたいと思います。TBSラジオ『たまむすび』でもおなじみ。『マリファナも銃もバカもOKの国 USA語録3』などの著書があるアメリカ在住の映画評論家、町山智浩さんにお電話でうかがいます。町山さん、よろしくお願いします。

(町山智浩)はい。おはようございます。よろしくお願いします。

(荻上チキ)寝起きですか?

(町山智浩)あ、すいません。寝起きです。はい(笑)。

(荻上チキ)いま、そちらは何時ですか?

(町山智浩)朝7時前です。

(荻上チキ)たいへん早くにありがとうございます。

(町山智浩)いえいえ。

(荻上チキ)さて、町山さん。今回の事件をどういう風にご覧になっていますか?

(町山智浩)今回の事件はいままでずっとアメリカ政府とか民主党がしようとしていた銃規制では止められないような事件だったと思います。

(荻上チキ)「止められない」。つまり、議論があったとしても止められなかったということですか?

いままでの銃規制案では止められない

(町山智浩)実際に銃規制で民主党がやろうとしていたのは「バックグラウンド・チェック」というものなんですね。それは銃を買う際に、精神病歴や犯罪歴を調べて、それがない者にだけ銃を売ることができるというような法律にしようとしていたんですが。それは(法案は)議会を通っていないんですけど、もし通っていたとしても今回、その犯人には犯罪歴も精神病歴もなかったので、(犯行を)止められなかったということですね。

(荻上チキ)なるほど。

(町山智浩)あと、もうひとつは今回、フルオートと言われる、いわゆる機関銃のように連射して大量に殺戮が行われたんですけども。それに関しても、法律でフルオート(全自動)の銃を売るのには非常に厳しい規制をかけるということが進められなかったり、いろいろとしたんですが。そういう議論も無にするような、普通の(販売されている)セミオート(半自動)式のライフルに2万円ぐらいのおもちゃみたいなものを付ければ簡単にフルオートで撃つことができるわけで。そうすると、そのフルオート銃の規制も無意味ということになりますね。

(荻上チキ)うん、なるほど。今回はかなり多くの銃を犯人が持っていたということなんですけども、どういう銃を持っていたという風に報じられているのか、町山さん、いかがですか?

(町山智浩)今回は40丁以上の銃を1年以内に買っていたということなんですが。主にアサルトライフルと言われる、現在各地の戦争で使われている兵士が持っている銃ですね。突撃銃と言われているものなんですが、それが多かったですね。

(荻上チキ)その銃の中で、先ほど言ったセミオートを自動化するような装置も取り付けられていたということですか?

(町山智浩)はい。「装置を取り付ける」というと非常に大げさで難しいことのように思うんですけども、今回は単に「バンプストック」と言われている、銃は肩に当てる部分があるんですが、その部分を取り替えるだけで……中にバネが仕掛けてあって、弾丸を1発撃つごとに後ろに向かって反動がありますから、それをバンプ(バウンド)させてスプリングで手が勝手に引き金を連続して引けるようになっている仕掛けなんで。それは誰でも簡単に買えて。1個2万円ぐらいらしいんですよ。それで簡単にフルオート化することができるということが問題になっていますね。

バンプストック



(荻上チキ)はい。それから、他にもいろいろとたとえば遠距離から撃つ銃など、種類もいくつかあったということですか?

(町山智浩)いや、「遠距離」と言いますけど、長い銃身の銃にはショットガンと言われる弾をバラまく近距離しか当たらない銃と、ライフルと言われている遠くに弾が飛んでいく銃があるんですけど。基本的にはライフルだったら、今回は300メートルぐらいですから、なんでも届きますし、誰でも当てられます。

(荻上チキ)なるほど。これ、Twitterで(ツイートを読む)「あんな何十丁も銃を持っていて、所持自体は問題にならないんですか?」という質問が来ているんですけども。

(町山智浩)これがいちばん大きな問題で。現在アメリカでは、平均すると国民1人に対して1丁弱ぐらいの銃があるという計算になっているんですが。コレクターが非常に多くて、1人で8丁とか10丁とか持っている人が非常に多いんですよ。それと、(全く)持っていない人がいる。ということで、平均をするのはあまり意味がなくて。1人でいくら買っても、それ自体は規制されないということが問題で。この犯人の場合には40丁以上ですから、もう武器庫みたいになっていたんですが、それを規制する法律はないんです。

(荻上チキ)うん、なるほど。実際に所持の時に、たとえば家で持っておくことと持ち歩くことは、ここには線引きはないんですか?

(町山智浩)地方によって違うんですけども。僕が住んでいるサンフランシスコであるとかニューヨークであるとか、観光客が来るような東海岸、西海岸沿いは持ち歩くためにはちゃんと箱に入れて運ばなければならないんですけども、それ以外の州では「オープンキャリー」と言いまして、銃をむき出しで肩に担いでどこでも行けるわけですよ。

(荻上チキ)ほう!

(町山智浩)だから、僕がオハイオとかアイオワとかアリゾナのドナルド・トランプが大統領になる前の、去年の予備選(の選挙運動)に行った時は、見ている聴衆が何人も肩に銃・ライフルを担いだ状態で。もちろん弾丸も込めた状態で見ていたり政治集会に参加しているという状況です。

オープンキャリー



(荻上チキ)なんでわざわざ政治集会に銃を持ってくるんですか?

(町山智浩)反対派がいるからです。

(荻上チキ)要は、意思表示になるということですか?

(町山智浩)反対派をビビらせるためですね。

(荻上チキ)おおーっ、まあ威嚇ということですか。

(町山智浩)はい。そうです。また、黒人に対する警察の暴力で武器を持っていない黒人たちが次々と殺されるという事件が続いていて、それに対してテキサスで集会を開いた時、警官が5人ぐらい射殺された事件がありました。あの時、警官に対してのデモをしている中に、30人ぐらいAR-15ライフルを持っている人がいて、歩いていたという事態なんですよ。

(荻上チキ)なるほど。日常の中でそうやって持ち歩くことができる。Twitterで、(ツイートを読む)「去年、ラスベガスのカジノに行って驚いたこと。マカオ、シンガポール、ソウルのカジノにはあった金属探知機がなかったということ」とあるんですけど、こういったことについてはいかがですか?

(町山智浩)金属探知機があるホテル、カジノはアメリカにはないと思いますよ。

(荻上チキ)ないですか?

(町山智浩)誰でも銃を持って入って部屋まで行けると思います。

(荻上チキ)うん、なるほど。それはもう当たり前なんですね。

(町山智浩)カジノでも金属探知機っていうのはないです。カジノは廊下からすぐにカジノスペースに行けるようになっているんで、金属探知機のあるゲートをくぐらせることはできないです。ホテルもいちいち、ないですよね。

(荻上チキ)はー。カジノに行ったことはないので、なんか電子機器とかを使って詐欺じゃないけど。イカサマとかはできないのかな?って。

(町山智浩)カジノは監視カメラがすごく大量にあって。要するに、インチキをするのは防いでいるんですけども。銃に関してはまあ、チェックできないんですよね。

(荻上チキ)なるほど。いまの話で、銃社会の実情をすこしうかがえたんですが、今回ターゲットになったコンサート。どういった場所でどういった人たちが集まっていたんでしょうか?

(町山智浩)今回のコンサートはルクサーというピラミッド型のホテルがあるんですけども。あの向かい側に最近作られた野外コンサート会場です。これが標的になったのは、コンサート会場に入る際には荷物チェックがあるんですよ。セキュリティーはかならずあります。まあ、主にカメラを防ぐためですけどね。でも、爆弾とかの持ち込みも一応チェックするわけですけども。コンサート会場の外から撃つことは防げないですよね。

(荻上チキ)まあ、そうですよね。

(町山智浩)で、全米各地でいま、コンサートが中止になったりしている状態です。

(荻上チキ)それはたとえば、模倣犯などを恐れているというようなところがあるわけですか?

(町山智浩)全くその通りです。

(荻上チキ)なるほど。今回の音楽祭がカントリー音楽であったという点が注目されて語られることもあるんですけども。この点は町山さん、いかがでしょうか?

(町山智浩)この犯人は1年以上をかけて準備をしていたので。それはこのカントリー音楽のコンサートが告知をされるより前からですから。まあ、たまたまだったんだと思います。それと、犯人が実行するのは1週間とか1ヶ月前にもやろうとしていたんじゃないか? とも言われているので。たまたまカントリーミュージックだったんだろうと言われていますが。アメリカではいま、報道されている時にいわゆる右派メディア……FOXニュースというケーブルテレビチャンネルがそうなんですけど、右派メディアはなんとかこの事件を銃規制に結びつけないようにしたいので、「カントリーミュージックを聞くような保守的な人々を狙ったんだ」とか、なんとかこの犯人とISIS(イスラム国)との関係をつなげたいというように、非常に意図的な……「銃を集めている人が悪かったんじゃない」という方向に捻じ曲げようとする報道は見られます。

(荻上チキ)どう捻じ曲げてそこを無理やりつなげようとしているのか、いまいちちょっと想像が……というか、「やれ」と言われても難しいんですけど。どうやっているんですか?

右派メディアの意図的な報道

(町山智浩)もう、ものすごい無理なことをいっぱい言って、なんとか犯人が銃コレクターでなかったという方にしようとしていますね。だからたとえば、「一緒に住んでいた女性がアジア系だから……」みたいなことを言ったりね。要するに、「彼は差別主義の右翼ではなかったんだ。白人至上主義者傾向ではなかったんだ」って言ってみたり。まあ、いろんなことを言っていますけど、とにかく今回は全く動機がまだわからない状態で。

(荻上チキ)はい。

(町山智浩)で、動機がわからない乱射事件というのはものすごい大量にあるんですよ。アメリカでは。いちばん最初にビルの上から撃ったというのはテキサス大学の時計塔からライフルを元軍人が撃った事件がたぶん最初なんですね。それも動機はいまもわからないですから。たとえ動機がわかっても、じゃあそれを止められるのか?っていうと、そういう問題ではなくて。それで銃の規制を……精神病・犯罪者に銃を持たせないことで止められるのか?っていうと、今回のは止められない。全自動(を規制)しても止められない。じゃあ、どうやって止められるのか?っていうと、銃を売らない以外にもう止められないんですね。

(荻上チキ)はい。銃そのもの、あるいは弾を売らないとか。いろいろな、具体的に規制をしないと難しいということになるんですね。

(町山智浩)弾丸の規制は、マイケル・ムーア監督が『ボウリング・フォー・コロンバイン』で「弾丸を買えないようにすればいいんじゃないか?」と言って、スーパーマーケットで買えないようにしたりしていましたけども。ただ、ネットで買えちゃいますからね。

(荻上チキ)なるほど。これだけ注目されている事件ですけども、トランプ大統領。現地に入ったようなんですが、このトランプ大統領の動向についてはどう取り上げられているんでしょうか?

(町山智浩)トランプ大統領はいまもまだ、銃そのものを批判することはないんです。いちばん最初にこの事件について語った時も「これは邪悪な個人がやった事件だ」と言うだけで、「銃そのものをどうにかすべきだ」ということはまだ一切しゃべっていません。今回もラスベガスに行っても、そうは言わないと思います。ドナルド・トランプ大統領はNRA(全米ライフル協会)という銃の所持の自由を維持しようとする人々のロビー団体から正式な推薦を受けて大統領に当選しました。ですから、銃の所持に関して批判したり規制をする方向では発言はしないと思われます。

(荻上チキ)うーん、なるほど。そうした中で先ほど、いままでの議論では仮に銃規制の法律が通っていたとしても、抜け道になるようなものだったので防げなかったというような話を町山さん、していただきましたけども。では、より修正した強力な規制案をやろうじゃないかというような議論は出てきたりはしていないんでしょうか?

(町山智浩)いま現在、これよりも厳しく規制すると、銃そのものを売らないというようなことしかできないと思います。特に拳銃に関しては規制した方がいいという話があったんですけども、ただライフルの場合には憲法の修正第二条で規定している民兵の銃がライフルなんですね。つまり、よく言われているのは「憲法修正第二条はアメリカの政府に対して国民が抵抗戦争をするための銃の所持の認可なので、拳銃よりもライフルをOKしているんだ。ライフルの方を持つことを許しているんだ」ということなので、そうなると、なかなか難しい問題がありますね。

(荻上チキ)うーん、なるほど。となると、なかなか具体的な規制案という話になると憲法問題まで踏み込むということになるので。

(町山智浩)憲法を修正しないとならなくなってくるんですよ。修正憲法第二条そのものの見直しということになりますので、すごく大きな問題になってきます。

(荻上チキ)町山さん、こういったなかなか進まない銃規制の議論に関してはどうお感じになりますか?

(町山智浩)まあ、とにかくお金が非常に大きいので。NRAの年間の予算、2億5000万ドルという莫大な金額が政治家に対して使われているということはあるんですけども。それ以上に、アメリカ人の田舎の人たちの生活ですね。今回の(事件が起きたラスベガスのある)ネバダもそうですけども、それはやっぱり銃なしにはあり得ないんですよ。ラストベルトと言われている五大湖地方。ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルバニアの方に大統領選挙の時に取材に行きますと、圧倒的に民主党を支持していて、代々支持しているという労働組合の人たち。自動車とか工場の。で、オバマ大統領を熱烈に支持しているという人たちも、車にはみんなNRA(全米ライフル協会)のステッカーを貼っていますんで。

(荻上チキ)うん。

(町山智浩)で、彼らの文化っていうのは鹿狩りなんですよ。週末になると夜中から森に行って鹿を撃つっていうのは文化なので。まあ、非常に難しいですね。

(荻上チキ)うーん、なるほど。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもありがとうございました。

<書き起こしおわり>
町山智浩 ラスベガス銃乱射事件と銃規制問題を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でラスベガスで起きた銃乱射事件についてトーク。なぜアメリカでは銃規制が進まないのか? その理由や銃規制法案のために戦うロビイストを描いた...

町山智浩『バリー・シール/アメリカをはめた男』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でトム・クルーズが実在の麻薬密輸パイロットを演じた『バリー・シール/アメリカをはめた男』を紹介していました。

Love the music ?? in #AmericanMade? Get the Soundtrack with the songs + score here! Out now on @VareseSarabande: http://smarturl.it/AmMade

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(海保知里)今日はご自宅のあるカリフォルニア州バークレーからのお電話です。もしもし、町山さん?

(町山智浩)はい。町山です。よろしくお願いします。

(海保知里)お願いします。

(町山智浩)どもです……。

(山里亮太)あれっ、町山さん、体調でも悪いんですか?

(町山智浩)ちょっとね、右手を骨折しまして……。

(海保知里)ええっ!?

(町山智浩)あと、肋骨もヒビが入っちゃって……(笑)。

(山里亮太)何があったんですか、町山さん?

(町山智浩)言えないんですよ。なんか「言うな」って言われていて、言えないんですよ。

(海保知里)なんかいろいろとあったんですか?

(町山智浩)そう。右手の薬指の付け根っていうか、手のひらの中の骨を折っちゃったんで。縦に割れちゃったんですけども。だから原稿が書けなくて……。そうなんですよ。どうして折ったかは、許されたら言います。はい。

(山里亮太)じゃあ、いつかその時まで我々も待ってます。

(町山智浩)すげー笑える話ですけども。はい。まあいいや(笑)。

(山里亮太)町山さん、ワクワクするよ!(笑)。

(町山智浩)あのね、「55で、それ?」っていう話ですよ(笑)。

(山里亮太)ダメだ、町山さん。そのタイトルだけで俺、クリックしちゃっているよ。心の中で。そのページ、飛びたいよお(笑)。

(町山智浩)でもね、僕思ったんだけど。僕、『サザエさん』の波平父さんよりも1つ上になるのかな? たしか、歳が。

(海保知里)若いんですね。あの髪型の割には。

(町山智浩)ねえ。だから僕、自分が波平よりも上になるなんて信じられないけど。波平よりも上なのにこんなことをしてケガをしていていいんだろうか?って思うんですよね。

(海保知里)ええーっ!

(町山智浩)まあ、わかんないですけどね。波平も夜とかは実はすごいかもしれませんけども。

(海保知里)どうしました?

(町山智浩)いや、俺とは関係ないですけどね(笑)。今回は、僕と同じ55才で誕生日が1日違いのトム・クルーズの映画ですけども。

(山里亮太)町山さん、ほぼ一緒なんだ(笑)。

(町山智浩)そうなんですよ。トム・クルーズもいい歳こいて、波平よりも年上なのにアクションをスタントなしでやって、この間大怪我しましたね。だからお互いね、波平よりも上なのに大怪我コンビですね(笑)。よくわからないですけども。

(海保知里)(笑)

(山里亮太)波平よりも上なのに怪我する世代なんだ(笑)。

(町山智浩)そう(笑)。恥ずかしくて言えないようなことをして怪我しているコンビですけども。で、今回紹介する映画はトム・クルーズ主演の『バリー・シール/アメリカをはめた男』という映画なんですが。はい。ちょっと音楽を聞いてもらいましょう。

『運命’76』



(町山智浩)はい。これ、なんだかわかりますよね。曲自体はね。

(海保知里)はい。ベートーベン。

(町山智浩)ベートーベンの『運命』ですよ。だけどこれね、1976年にそのディスコバージョンが出まして。『運命’76』っていうんですね。で、これは僕が中学・高校ぐらいの時にディスコで流行っていた曲なんですけども。この『バリー・シール』っていう映画はその『運命’76』が流行っていた76年から始まるんですよ。

(海保知里)へー。

(町山智浩)だからまずこの音楽でこの映画は始まるんですね。これ、トム・クルーズが演じるバリー・シールっていうのは実在の人物なんですね。で、この人はそこに写真がありますよね? 実物のバリー・シールの。

(海保知里)はい。

(町山智浩)トム・クルーズに似ても似つかないですね。


(山里亮太)そうですね。恰幅のいい。

(町山智浩)まあ、はっきり言ってハゲでデブですよ。そんなおっさんなんですけど、それをトム・クルーズが演じているんですが。このバリー・シールっていう人はこれ、大変な人で。1976年から86年の約10年間に中米、中央アメリカからアメリカ国内にコカインを大量に密輸し続けて。その間に儲けた金額が50億ドルと言われているとんでもない麻薬王なんですよ。

(海保知里)すごい金額だ。

(山里亮太)実在するんですもんね、それが。

(町山智浩)実在するんですよ。その人を演じているんですけど。彼、バリー・シールっていうのはもともとはパイロットだったんですね。ただね、すごい天才的なパイロットで。16才の時にもうライセンスを取っているんですよ。で、ものすごい技術があるんで、民間航空会社……その頃はTWAっていう航空会社があって、そこの普通のパイロットをやりながら、バイトでこっそりと小型飛行機に乗って中南米に行ってはいけないものを……マリファナとか、その頃はキューバと国交を断絶していたんで葉巻とかですね、そういったものをちょこちょこと密輸して小銭を彼は稼いでいたんですね。

(海保知里)ふーん!

(町山智浩)それが、2つの組織から目をつけられるんですよ。「お前、めちゃくちゃパイロットとして飛行機の操縦が上手いから、ちょっとこれ運んでくれないか?」って言われるんですね。その2つの組織っていうのはひとつはアメリカ政府です。CIA。

(海保知里)おおーっ!

(町山智浩)ひとつはコロンビアのメデジン・カルテルといわれる、コカインの麻薬カルテルですね。麻薬のシンジケートですよ。その2つから、「ちょっと仕事しない?」って言われるんですよ(笑)。

(山里亮太)いやいや、真逆じゃないですか。CIAと麻薬カルテルなんて。

(町山智浩)真逆なんですけど、これが上手く噛み合うんですよ。

(海保知里)なんでだろう? おかしいな(笑)。

(町山智浩)まず、CIAがバリー・シールにたのんだのは、いわゆる「イラン・コントラ疑惑」って覚えています? イラン・コントラ疑惑っていうのがあったんですけど。まず、中米にニカラグアっていう国がありまして、そこが社会主義政権になってしまうんですよ。で、その頃の中央アメリカのいろんな小さい国っていうのはみんな、アメリカの傀儡政権で、地元の人たちを搾取してアメリカに金を送るためのシステムになっていたんですね。キューバも含めて。で、キューバの人たちは怒って、それで革命が起きて、カストロが政権をとったんですけど、ニカラグアでも同じことが起こったんですよ。

(海保知里)ふーん。

(町山智浩)で、「これ以上アメリカには搾取させないぞ!」という政権ができちゃったんですね。それはサンディニスタ政権といいます。で、アメリカ政府はそれを打倒しなければならなくなったんですよ。そこで、地元のニカラグアの人たちを反政府ゲリラに教育して組織化して、なんとかその政府を倒そうとするんですね。CIAとアメリカ政府は密かに。

(海保知里)はい。

(町山智浩)で、本当は軍事介入して軍隊が攻め込んじゃえばいいんですけど、すでにアメリカはベトナムで1回負けているんで。同じような負け戦になるのは嫌なんで。問題になるので、こっそりとそれをやるんですよ。こっそりと反政府軍を育てる。で、その反政府軍にアメリカが武器を支援する仕事をバリー・シールがやらされるんですよ。

(海保知里)ふーん!

ニカラグアへの武器密輸

(町山智浩)で、アメリカ製の武器だとマズいっていうので、ソ連製のライフルとかを小型飛行機、プロペラ機に大量に詰め込まされて、それをニカラグアに運んで地元ゲリラに渡すんですね。それがCIAから頼まれたバリー・シールの仕事で、これは完全に国際法違反です。

(山里亮太)そうですよね。

(町山智浩)で、そのメデジン・カルテルといわれるコロンビアの麻薬組織からたのまれた仕事っていうのは、コカインの密輸ですよ。コカインを大量に小型飛行機に乗せてアメリカに運んでくれと。つまり、武器をニカラグアに持っていって下ろすと、飛行機が空になるじゃないですか。「じゃあ、その空になった飛行機に今度はコカインを詰め込んでアメリカに帰れよ」って言われるんですよ。

(山里亮太)すげーな! 行きも帰りもすげーもんを運んでる(笑)。

(町山智浩)行きも帰りもとんでもないんですけど。で、帰りに運ばされるコカインっていうのはものすごい量で、1.5トンぐらい詰め込まれちゃうんですよ。

(海保知里)飛べるんだ、それ。

(町山智浩)だからね、トム・クルーズ演じるバリー・シールが「飛べないからやめてくれ」って言うんですよ。でも、トム・クルーズっていつも白い歯を見せてなんかニヤニヤ笑っているじゃないですか。いつも口の口角が上がっているじゃないですか。

(海保知里)まあね、うんうん(笑)。

(町山智浩)あれはね、僕もわかるんですけど、歳を取ると口角が下がってくるんで、口角を上げようとして必死になっているがゆえに、笑っている状態がデフォルトになっちゃっているんですよ。彼。だからね、「そんな1.5トンもコカインを詰め込まれたら離陸できないから……」って言ってもね、口元が笑っているからね、OKしているようにしか見えないんで。断っているように見えないんで、ガンガンに詰め込まれちゃうんですよ。

(海保・山里)(笑)

(町山智浩)で、そのメデジン・カルテルのボスっていうのはパブロ・エスコバルっていう非常に有名な、まあ王の中の王みたいな人がいるんですね。『ナルコス』っていうNetflixのドラマでも出ていますけども。この人はすごいですよ。サッカーチームを持っていたり、1人の政治家を殺すために100人以上が乗っている旅客機を撃墜したりしているんですけど。爆破したりしている人ですけども。そういう人がコカインを1.5トンぐらい詰め込んじゃうんですよ。バリー・シールの飛行機にね。で、「大丈夫だあ、大丈夫だあ」って志村けんみたいなことを言ってるんですけど。

(海保知里)(笑)

(町山智浩)ヨタヨタと離陸の滑走を始めると、「あれ、離陸できなくて墜落する方に賭けるやつ?」っていきなり、金を賭けているんですよ。

(海保知里)ええーっ!

(町山智浩)いま、「大丈夫だ」って言ってたくせになんなんだよ?っていうね(笑)。すげー嫌なやつらなんですけども。でもまあ、天才的なパイロットなんでそれでも離陸したりしてアメリカに運び込むんですね。で、これがまたニューオーリンズからアメリカ国内に超低空で入って、もうレーダーに引っかからないぐらいの低い高度で入ってくるんですよ。で、もう地面ギリギリ、海面ギリギリを飛んでいって、それで空からコカインを落として、それを拾わせるというものすごい危険な作業なんですけども。

(海保知里)へー!

(町山智浩)この映画、この飛行機のアクションはCGとかじゃなくて本当に実際にやっていて。ものすごい危険な撮影なんで、スタントマンの方が2人、亡くなっていますね。結構すごい撮影なんですよ。そのぐらいのすごい飛行でガンガンにやっていて。それでこのバリー・シールはアメリカのど田舎、アーカンソーの人口が5000人ぐらいしかいない街に小さい滑走路を手に入れて、そこで武器とコカインの行ったり来たりをやって、ものすごい金を儲けちゃうんですよ。

(海保知里)ふーん!

(町山智浩)で、金がありすぎて、記録が残っているんですけど81年には地元の銀行に毎日5万ドルずつ入金していたんですよ。

(海保知里)ご、5万ドル!?

(町山智浩)500万円以上ですよ。だから当時の金額で5万ドルだから、現在だったら1000万円以上、毎日入金していたんで当然怪しまれるということで。要するに国税庁とかにバレちゃうんで、結局お金を銀行に入れられなくなっちゃうんですよ。で、しょうがないから地元にデタラメな会社を次々と設立して、全然働いていないおじいちゃんとかを全員社員にして金を地元にバラまいちゃうんですよ。

(山里亮太)ほう!

(町山智浩)そうすると、なんの産業もない街なのにポルシェとかが走っている異常な街になっちゃうんですよ。

(山里亮太)だいぶコメディーな感じに(笑)。

(町山智浩)これ、コメディーですよ、この映画!

(山里亮太)コメディーなんですね。

(町山智浩)これ、完全にコメディーです。

(山里亮太)でも、実話なんですよね。

(町山智浩)実話なんです。すっごいデタラメなんですよ。それでお金が余りに余ってしょうがないから、どうしようもないって札束を地面に埋めちゃうんですよ。

(海保知里)(笑)

(町山智浩)で、あとは馬小屋の藁の中に放り投げているから、馬が食っていたりしてめちゃくちゃなんですよ。もう。これ、とんでもないけど、コメディーっていう話なんですが、あの映画に似ているんです。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』っていう映画に。

(海保知里)レオナルド・ディカプリオの。

『ウルフ・オブ・ウォールストリート』と似ている

(町山智浩)そうです。ディカプリオがインチキな投資詐欺の、実在の詐欺師を演じた映画でしたけど、あれもコメディーだったでしょ?

(海保知里)うんうん。

(町山智浩)でも、やっていることはめちゃくちゃだったんですよね(笑)。もうセックスとドラッグとグッチャングッチャンだったですけど、でも見ていると笑うしかないですよね。

(海保知里)うん、そう。

(町山智浩)あれと非常によく似た映画なんですよ。さらには、スピード感もよく似ています。この映画、次から次にバカげたことが起こって、1時間50分ぐらいでとんでもないことがものすごい連続で起きるんですよ。ジェットコースターみたいな映画になっていますね。

(山里亮太)うわっ、見たい!

(町山智浩)『ウルフ・オブ・ウォールストリート』ではレオナルド・ディカプリオがフェラーリの中でフェラーリさせていましたけども、今回トム・クルーズもね、小型機の中でしていますよ。

(海保知里)あらららら。

(町山智浩)操縦しながらしています。

(山里亮太)どこの操縦桿を……。

(町山智浩)そう。操縦桿のようなことをしていますよ(笑)。トム・クルーズ、今回はそれだけじゃなくてね、お尻も見せるんですよ。

(海保知里)ええっ!

(山里亮太)あら、出ました。町山さんのお尻情報。

(町山智浩)なんでお尻を見せるのか全然わからないけど、2回も見せますよ。

(山里亮太)流れ上は別にお尻を出さなくてもいいようなところで?

(町山智浩)ペロッとお尻を出すんです。ペロッ、ペロッと。55才のお尻ですよ。俺もそうですけど。意外とプリッとしているんですよ。

(海保知里)あら、プリッとしてる。やっぱり鍛えているから。トム・クルーズはね。

(町山智浩)鍛えているんですよね。だから涛平はどうか、わからないんですけど……(笑)。トム・クルーズのお尻、やっぱりすごいですよ。ここ、2回。これはトム・クルーズが大好きな戸田奈津子さんも昇天かなと思いましたけどね。

(海保・山里)(笑)

(町山智浩)よくわからないですけど。ペロッ、ペロッと出していましたけど。でもね、この映画ね、タイトルが『アメリカをはめた男』ってなっているんですよ。でもこれ、どう見てもね、話がアメリカにはめられた男なんですよ。これね、このバリー・シールっていう男、なにも考えていないんですよ。要するに、それだけのコカインをアメリカに大量に送り込んで、どれだけの人がそのコカイン中毒で……特にその頃っていうのはコカインから作られたクラックっていう麻薬でアメリカの貧困層の人たちがものすごい中毒になっちゃったんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)でも、そんなことは何も考えてないですよ。白い歯を見せてトム・クルーズは笑っているだけですから。だからそういうね、無責任なチャラ男がアメリカをめちゃくちゃにしちゃうんですけど、その裏にはアメリカ政府が絡んでいるんですよね。

(山里亮太)さっきちょっとFBIから疑われたとか言っているから、そのまま逮捕みたいにならないんですか?

(町山智浩)逮捕されるんです。逮捕されるんだけど、もともと彼はCIAのためにやっていた仕事なんですよ。だから、アメリカ政府の力によって刑務所には送られないんですよ。で、しかもその頃はレーガン政権で、レーガン政権っていうのは表向きにはドラッグとの戦争を宣言していたんですよ。「War on Drugs」って言って。で、彼らは同時にニカラグアの社会主義政権も許せなかったんで、それをなんとか一致させるためにバリー・シールを刑務所に入れない代わりに、彼におとり捜査としてニカラグアとパブロ・エスコバル、メデジン・カルテルとのつながりの証拠を持って来いって言うんですよ。

(海保知里)おおーっ!

(町山智浩)っていう話なんですよ。だからすごいスケールのでかいことになっていくんですけど。でね、この映画ね、中でバリー・シールがやっていたCIAのための武器密輸と麻薬の密輸に関しては、CIAはいまも完全に否認しているんです。「そんなことはしていないよ」って言い続けているんですよ。ただね、この映画の監督はダグ・ライマンっていう監督なんですよ。このダグ・ライマンっていう人はこの前に撮っている映画は『フェア・ゲーム』っていう映画なんですね。それはあのアメリカで2003年にブッシュ大統領が「イラクは核兵器を開発している」と言って、それを理由にイラクに攻撃をしかけて占領しましたよね。

(山里亮太)はいはいはい。

(町山智浩)その時にはCIAはイラクが実際に核兵器を開発しているかどうか、調べたんですよ。CIAのエージェントたちが。そしたら、全くその形跡はなかったんですよ。で、それをブッシュ大統領に報告したら、なぜかブッシュ大統領は年頭の挨拶で「CIAからの報告だとイラクは核兵器を開発しているから、これから戦争を仕掛ける」って言ったんですよ。

(海保知里)はい。

(町山智浩)で、「これはおかしい!」ってCIAの捜査官たちが、報告と違うということを告発したんですね。そしたら、それに対してそのCIAのエージェントの名前を新聞社にリークしたんですよ。ブッシュ政権というか、チェイニー副大統領が。で、CIAの諜報員、工作員っていうのは名前を出されたら、それは敵に殺されるわけですよ。だから、「こいつは殺していいよ」っていうリークを出されちゃったんですよ。

(山里亮太)うわー……。

(町山智浩)で、それを暴いたのが『フェア・ゲーム』っていう映画だったんですけど、それを監督した人なんですね。ダグ・ライマンっていう監督は。だからこの映画の中でもCIAとかレーガン政権がいかにとんでもないことをしていたのかと。要するに、アメリカ国内にコカインを密輸させるのを手伝いながら、それで「コカインを絶滅させる!」とか言っていたんですから。

(山里亮太)矛盾していることを。

(町山智浩)デタラメをやっていたんですよ。で、イラン・コントラ疑惑っていうのはそのいちばん問題なのは、コントラっていうのはニカラグアの反政府勢力で、アメリカがでっち上げた軍隊なんですよ。でも、そこに送る武器を買うお金を(アメリカ)政府からの予算で出せなかったので、アメリカ政府は密かにアメリカの武器をイランに売っていたんですよ。

(山里亮太)イランに?

(町山智浩)イランはその頃、イラン革命を起こしてアメリカと敵対状態にあるにもかかわらず、敵なのに売ったんですよ。その頃、イランはイラクのフセインと戦争していたので武器が必要だったんで、アメリカは密かにイランに武器を売って、そのお金でソ連製のAK-47とかの武器を逆に買って……要するに1回、他の武器に変えなきゃならなかったんですね。それをニカラグアに送っていたんですよ。そういうインチキを影でやっていて、それが86年に発覚するんですよ。で、まあいろいろと公聴会が開かれたりして問題になったんですけど、結局曖昧なまま終わっちゃったんですよ。

(海保知里)うーん……。

(町山智浩)で、それに噛んでいたのがこのバリー・シールなんですよ。そう考えると、このバリー・シールの運命がどうなるか?っていうのはだいたいわかりますよね(笑)。

(海保知里)ああー、そうか。

(町山智浩)で、この映画で彼がCIAとやっていた武器密輸とその交換でのコカインのアメリカ国内への密輸入っていうのに関しては、CIAはいまも完全に否認しているんですが……これ、その後も別のジャーナリストがそれを暴いたんですよ。アメリカで。これはゲイリー・ウェブっていうジャーナリストが1998年に、カリフォルニアにもバリー・シールみたいな男がいて、やっぱり密輸をやっていたんですね。それを暴いた記事を書いたんですけど、その人は2004年に謎の死体で発見をされているんですよ。

(海保・山里)ええーっ!

(町山智浩)そのゲイリー・ウェブは頭に銃弾の穴が2つ開いていたんです。ところが、警察はそれを自殺として処理したんですよ。

(海保知里)怖っ!

(町山智浩)頭に穴が2つ開いていて、一発当たってからもう一発は撃てないですよ。普通、人間は。どう考えても自殺じゃないんですよ。だからね、非常に怖い話ですね。これはね。

(山里亮太)大丈夫なんですかね? この監督たちは。

(海保知里)そう。この映画自体、CIA側はちょっと許せない気持ちでしょうからね。

(町山智浩)まあ、あるでしょうけどね。ただ、CIAも次々と頭が変わっていて、もう関係者とかがどんどん変わっちゃうんで、もう昔のこととかはわからなくなっちゃっているんですけどね。この中でも証拠とかを全部隠滅するシーンがあるんで。どんどんどんどん闇に葬られていって、結局なにもわからなくなってしまうんですね。

(海保知里)これは絶対に面白いですよ!

(町山智浩)これは面白いですよ。笑えるし。『バリー・シール』っていうのはものすごく笑える映画なんですけど。あの……お尻も2回出ます!

(海保・山里)(笑)

(町山智浩)55才のお尻が商品価値を持つってすごいことですよ!

(山里亮太)波平さんよりも年上のお尻がこんだけだぞと。

(町山智浩)そう。波平の尻ですよ! トム・クルーズが波平を演じるかもしれないんですよ。今度は。よくわからないですけど(笑)。お船さんも大変ですよ、本当に。「ああっ、どうしたの、あなた! 波平さん……今日は何か違うわ!?」っていうね。よくわからないですが(笑)。なにを言っているのかよくわからないまま、『バリー・シール/アメリカをはめた男』がこれ、10月21日に日本公開かな?

(海保知里)はい。来週は『ブレードランナー』から30年後の世界を舞台にしたSFアクション『ブレードランナー2049』を紹介していただきます。町山さん、どうもありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした(笑)。

<書き起こしおわり>

町山智浩 バージニア州白人至上主義者集会の衝突事件を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアメリカ・バージニア州シャーロッツビルで起きた白人至上主義者の集会とそれに反対するカウンターの人々の衝突事件について話していました。

The officer stands calmly as a group of white supremacists act out behind him. The provocative scene one Saturday afternoon in #Charlottesville, shot with an iPhone, was shared online with a modest public following but would attract a wide audience. "A picture worth a thousand words," one commenter wrote on Aug. 12, 2017. "A black police officer protecting a group of men who wish him harm. Incredible,” wrote another, prefacing that remark with a question common during breaking news: “Who took this photo?” And when was it taken?⠀ ⠀ The picture went viral in recent days as the Virginia college town was rocked by unrest over the planned “Unite the Right” rally. As intense images emerged of the street clashes between white nationalists, neo-Nazis and Klansmen who faced off against counterprotesters, this one stood out. But as the retweets entered into the tens of thousands, doubts emerged that this image was from Saturday. In the uncomfortable haze of live breaking news it became the latest in a long line of images to be grabbed and shared online without credit or context.⠀ ⠀ And so began a search for the photographer, a hunt that started on Twitter and wound through Google, Reddit and Facebook until stopping on Instagram, where it appeared on the feed of Jill Mumie (@lil_mooms). That's where the story behind this photo begins.⠀ ⠀ Read an interview with the photographer and the officer in the picture on TIME.com.⠀ ⠀ Photograph by Jill Mumie (@lil_mooms)

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(海保知里)さあ、そして町山さん、今日は?

(町山智浩)そのつながりなんですけど。(たまむすびリスナーを試写会に招待する映画)『ドリーム(原題:ヒドゥン・フィギュアズ)』っていうのは舞台が昔のNASA(アメリカ航空宇宙局)で。昔はバージニアっていうところにあったんですよ。

町山智浩『ヒドゥン・フィギュアズ(邦題:ドリーム)』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、NASAの宇宙計画に参加した黒人女性たちを描いた映画『ヒドゥン・フィギュアズ』を紹介していました。(※邦題は『ドリーム』と決定しまし...

(山里亮太)はい。

(町山智浩)バージニア州に。で、これは黒人女性たちが1960年代、すごく差別されていた頃を描いた映画なんですけども。やっぱりバージニアは南部なんでね。で、この間の土曜日に惨事が起きたのもバージニア州なんですよ。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)で、バージニア州のシャーロッツビルという、これはバージニア大学がある街なんですけども。そこに南北戦争中の南部軍の将軍、リー将軍の銅像がありまして。その銅像を市議会が「撤去する」と決めまして。投票の結果、撤去することになったので、右翼の人たちが怒って、右翼連合の集会をかけたんですね。「Unite the Right(右翼よ、連合せよ)」っていう名前のイベントを(8月)12日にやりまして。で、その銅像のところに集まったんですけども、その時にそれに対抗する人々、カウンターの人々がそのナチとか右翼の人たちに「出て行け!」とやっていたんですが、そこに警官隊が入りまして。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)で、その銅像のところに集まっていた右翼たちを(リー将軍の銅像が設置されている)公園から出したんですよ。「出ろ!」と。ところが、その回りは全部カウンターの人たちが囲んでいた形なんですよ。で、混じっちゃったんですよ。

(海保知里)あ、そうなんだ。

(町山智浩)で、強制的に解散させられたわけですから。で、その右翼の1人が自分の車でカウンターのデモ隊に突っ込みまして。地元の弁護士事務所で働いている32才の女性を轢き殺したという事件ですね。

Flowers lie next to a picture of 32-year-old Heather Heyer at a makeshift memorial in Charlottesville, Virginia. Heather was killed after a car rammed into a group of people protesting against a white supremacist rally in the city on Saturday. Heather's last post on social media said," If you're not outraged, you're not listening." Friends and fellow activists have now had those words printed on t-shirts commemorating what she stood for. Her heartbroken mother said, "Heather was about stopping hatred." Nineteen people were also injured in the incident which happened at the end of a "Unite the Right" march. Find out more about Heather Heyer bbc.in/Charlottesville – Photo REUTERS/Justin Ide #charlottesville #virginia #usa

Chilean Global Citizenさん(@gonzaloastudillotapia)がシェアした投稿 –


(海保知里)うん。ひどかった……。

(町山智浩)まず概要はそんな感じなんですけど、いったいなんでこんなことが起こったのか?っていうことがちょっとわかりにくいと思いますので、まず最初のところから説明していきますと……まず、南部の南軍の奴隷制度を守るために戦った兵隊や将軍の銅像とか、いろんな記念碑みたいなものはアメリカの南部各地にあるんですけども。それを撤去しようという動きがずっと続いているんですよ。2015年から。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)それが起きたきっかけは、2015年6月に南部のサウスカロライナ州チャールストンというところにある黒人教会に白人のディラン・ルーフという22才の青年が入って銃を撃ちまくりまして。で、まあそこにいた黒人の女性――本当、おばあちゃんなんですけどね――6人と、男性信者3人の計9名を射殺して逮捕されたんですよ。

サウスカロライナ州チャールストンにあるアフリカ系アメリカ人(AA)が通う教会で銃が乱射され、AAの男女9人が死亡した事件で6月18日、チャールストン近郊に住むディラン・ルーフ容疑者(21)が逮捕された。

(海保知里)はい。

(町山智浩)で、その時までずっとそのサウスカロライナ州では南軍旗を公共の建物の星条旗とかが並んでいるところに掲げていたんですね。つまり、南軍旗っていうのは、すごく面白いのは星条旗と南軍旗があるんですけど。南軍旗っていうのは南部連合っていうアメリカから勝手に独立した南部の州の、別の国家の旗なんですよ。

南軍旗


(山里亮太)ふんふんふん。

(町山智浩)で、それは戦争で負けているわけですけども。アメリカ合衆国に負けたわけですが、なぜが南部の人たちはいまだにその旗を掲げ続けていたんですね。特に公共の建築物、市庁舎とかそういったところにも掲げていたんですけども、これをやっぱり見直そうということになったんですよ。黒人に対する虐殺事件が起きたので。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)で、こういったことはよくないよと言っても、黒人を奴隷化していたことを守っていた国の旗を掲げていると整合性がなくなっちゃうじゃないですか。「黒人を差別しちゃいけない、虐殺しちゃいけないんだ」って言いながら、なんでその旗をまだ掲げているの?っていう話になるので。で、そのサウスカロライナの州知事はその頃、ニッキー・ヘイリーさんという人で。この人はいま、トランプ政権の国連大使の女性ですね。が、議会に呼びかけて、「うちの州は南軍旗を撤廃しましょう」っていうことにしたんですよ。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)で、ニッキー・ヘイリーさんは共和党なんですけど、この人はインド系の女性です。で、それがきっかけで南部の各市とか州が自分のところにある、南軍をいまだに賞賛し続けているようなものが公共の場所に置いてあるものを見直すことになっていったんですよ。つまり、これっていうのは奴隷制度を清算していない、克服していないっていうことだから。で、問題化していったのはリー将軍という南軍の将軍の銅像なんですね。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)これは各地にあるんですけど、どうしてあるか?っていうと、リー将軍っていう人は黒人の奴隷制度っていうものに反対だった人なんですよ。南軍なんですけど。

(海保知里)変ですね。

(町山智浩)「自分は南部の人間だから南部のために戦うけど、でも個人としては奴隷制度に反対だ」という人だったんですよ。だから、南軍のきれいなイメージを象徴する人なんですよ。

(山里亮太)はー。

(町山智浩)だから「南軍は間違っていなかった。南部は間違っていなかったんだ」っていう人たちがシンボルとして押し出して来るのがリー将軍なんですね。「いい人じゃないか」っていうことなんですよ。だから、「南部が黒人奴隷制度を守るために戦ったんだ」って言うことを隠蔽するために使われるんですよ。リー将軍っていうのは。

(山里亮太)はー。なるほど。

(町山智浩)「この人は、反対だったよ」っていうことで。だから、各地にあるんですけど。で、それの撤廃が各議会で進んでいって、まず最初にニューオーリンズ市がもうすでにこれを撤去したんですね。ニューオーリンズっていうのはご存知のように、台風(ハリケーン・カトリーナ)で大変な被害を受けた時に、住民のほとんどが黒人だということが報道されましたよね。

(海保知里)はい。

(町山智浩)ニューオーリンズというのは奴隷を連れてきて、売り払うところだったんですよ。奴隷市場だったんです。ここにアフリカから連れてこられたんですよ。だからすごく悪い伝統があるんですよ。その黒人奴隷制度に関しては。それでいて、ジャズの発祥の地で。黒人を奴隷として売っていた場所なのに、(黒人が作り出した音楽である)ジャズで稼いでいる市なんですよ。黒人の遺産で。だからそれは非常によくないことですよね。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)で、あと南部ではすごく共和党が昔からずっと強いんですけど、ニューオーリンズは特に台風の被害を受けたこともあって、もともと黒人が多いこともあって、リベラルなんですね。で、議会が撤廃することにしたんですよ。リー将軍の銅像を。で、それに続いて今回の事件が起こったシャーロッツビルというところで議会が銅像の撤廃を決定したんですよ。という、流れなんですよ。

(海保知里)ええ、ええ。

バージニア州という土地

(町山智浩)そしたら、ここが面白くて。バージニアという州はもともと奴隷制度をアメリカで最初に始めたところなんですよ。アメリカってピューリタンと言われている白人の清教徒。キリスト教で弾圧された人たちがアメリカに来たと思われていますけども、その人たちが来たのはマサチューセッツの北の方だけなんですよ。南部の方に入ってきた白人はバージニアから入ってきたんです。南部の方に来た白人は宗教的理由は全くなくて、カネ目当てなんですよ。その人たちがバージニアにいちばん最初に入植して始めたのが、奴隷輸入だったんですよ。だから最初から、あまりよくない人たちなんですよ。

(山里亮太)はー!

(町山智浩)で、だから南部と北部では、入ってきた白人の目的とか動機が決定的に違うんですね。アメリカに入ってくる。で、バージニアから南部の人たちは広がっていったんですけども。だからもともとピューリタンでもなんでもないんですよ。彼らは。

(海保知里)そうなんだ。

(町山智浩)で、南北戦争でも南軍に入ったんですが……その後も、1920年代にKKK(クー・クラックス・クラン)というアメリカの反黒人の白人至上主義グループがすごく巨大化していくんですけども。特にバージニアはバージニア大学がKKKの巣みたいになっていたんですよ。

(山里亮太)へー。

(町山智浩)で、もともとすごく人種差別的なところなんですね。そのシャーロッツビルは。ただ、最近どんどん変わっていってったんですよ。

(海保知里)変わってきた?

(町山智浩)アメリカの大都市で大学があるところは大抵そうなんですけど。まず、そういうところはマイノリティーの人が多いんですね。あと、大卒が多いんですよ。あと、産業とか就職先も非常に知的な産業が多いんですね。たとえば、このシャーロッツビルはいちばん中心になっているのはバージニア大学医学部の病院なんですよ。いちばん巨大な産業が。

(海保知里)へー!

(町山智浩)そういうところは多いです。アメリカは病院がひとつの巨大な産業になっているんですよ。かなり多くの都市で。ピッツバーグとかもそうですよ。要するに、ハイテクですからね。

(海保知里)そうか。ええ、ええ。

(町山智浩)で、もうひとつ、だからすごく大卒でマイノリティーが多くて知的産業が中心になっていくとどうなるか?っていうと、右翼的な傾向が政治から消えていくんですよ。

(海保知里)あ、消えてくるのか。

(町山智浩)だって、投票をする人たちがインテリとマイノリティーになっていくと、だんだん右じゃなくなってきますよね。だから、テキサスなんかでもテキサス大学のあるオースティンなんてところはいつも民主党が勝ち続けるんですよ。で、ニューオーリンズもそうだし。で、このシャーロッツビルももういま、完全に民主党なんですよ。で、今回の事件を解決するために動いた警察署長も黒人ですし。ここは人口の20%が黒人なんですね。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)で、市長も州知事も民主党です。だから、バージニアというのは南部だけれども、少し州としては違うんですよ。で、バージニア州自体も大統領選ではヒラリーが勝っています。

(山里亮太)ふーん!

(町山智浩)そういう中で、もともと右翼的だった人たちというのはどうしているか? というと、非常にマイノリティー化していっているんですよ。そのバージニアでは。特にシャーロッツビルではね。だから、彼が……今回、(集会の)招集をかけた人はシャーロッツビルに住んでいる男なんですけども。(ジェイソン・)ケスラーってう男なんですが。「ケスラー」っていう名前がドイツ人丸出しなんですが。

(海保知里)そうですね。

(町山智浩)で、彼が「リー将軍の銅像が撤去されるからアメリカ中の右翼よ、集まれ!」とネットで呼びかけたんで、こういう事態になっちゃったんですよ。

(山里亮太)はー!

(海保知里)それであんだけの人が集まったということなんですか?

(町山智浩)そうなんですよ。で、このケスラーという男は最初は「銅像のところにみんな、集まれ!」とやったんですけど、州とか市は大変な事態になるということがわかったから、それを最初、使わせないようにしたんですよ。で、(集会に)使用許可を出さないで、「ちょっと街の中心部から離れた広いところだったらいいよ」っていう風に言ったんですよ。こういう事態になることを警察は予測したので。そしたら、そのケスラーという男は裁判所に行って「これは言論の自由の侵害だ」と言って裁判を起こしちゃったんですよ。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)で、勝っちゃったんで、市が反対したにもかかわらず、市の中心部でこの集会が行われたんですよ。だから、最初から市と州は「来るな!」と言っていたんですよ。で、来ちゃったんですけど、その時に来た連中が、そこに写真があると思うんですけども、完全武装をしているんですね。

(海保知里)いま手元にある写真だと、そうですね。

(山里亮太)軍みたいな。

(町山智浩)もう完全に、いわゆるAR15という強力な軍用の銃(アサルトライフル)を持ってきて。もう、大量虐殺できる状態で来たんですよ。

完全武装した人々が集まる


(海保知里)恐ろしい……。

(町山智浩)だから市と州は非常事態宣言を出したんですね。これはもう地元警察だけでは対応しきれないと。だから、非常事態宣言っていうのは「援軍を呼ぶ」っていうことなんですよ。そういう事態になって、でもこの銅像からは引き離そうということにして動かしたら、こういう事態になっていたんですよ。

(海保知里)そういう流れがあったんですね。

(町山智浩)そういう流れなんですよ。で、トランプ大統領が非常に問題視されているのは、この事件があったにもかかわらず、「今回の事件はどっちも悪い」というようなことを言ったんですね。

(海保知里)そんな報道をされていましたね。

(町山智浩)「いろんな側が悪い」って言って。それで非常に問題になったのはどうしてか? というと、その集会に集まっていた右翼の人たちが「ハイル・トランプ! ハイル・トランプ!」とかやっていましたからね。

「ハイル・トランプ!」


(海保知里)「ハイル」!?

(町山智浩)トランプの問題なんですよ、だから。この中ですごく面白いのはKKKの元リーダーで非常に有名なデビッド・デュークという男がいて。トランプの支持をずっと表明していたKKKのリーダーなんですけども。いまも主導的にね。その彼がその右翼集会の現場に来ていて。で、マスコミに対して、「この集会はトランプの約束を実現するための集会だ」って答えているんですよ。

(海保知里)「トランプの約束」?

(町山智浩)「この集会は我々がトランプに投票した意味なんだ」っていう風に説明しているんですよ。

(山里亮太)ええっ?

(町山智浩)だから「トランプは我々白人の地位を取り戻してくれるんだ。だから我々はこうやってやっているんだ」という、トランプのためにやっているんだということをそのKKKのリーダーが言っちゃったんですよ。だからトランプは絶対にこれを否定しなきゃならなかったのに、否定しなかったからみんなに「どういうことなんだ!?」と。で、「いままでさんざん、あらゆる人を攻撃して叩いていたのに。CNNとかヒラリーとか、片っ端から叩いているのに、なぜその右翼団体だけは叩かないんだ?」っていう話になっていったんです。

(海保知里)ふーん!

(町山智浩)「話がおかしいじゃないか。なんでそっちだけバランスを取るんだよ?」ということになっていったんですよね。ただ、彼としては非常に立場が難しいのは、このデューク自身がこう言っていて。「トランプは誰のおかげで大統領になったと思っているんだ?」と。要するに、「我々右翼や白人至上主義が投票したから、勝てたんじゃないか!」っていう風に言っていて。だから、トランプは否定できなかったんですね。

(海保知里)なるほど。そうですね。

(町山智浩)ということで、最終的にはしたんですけどね。つい、こちらの時間の昼にやっと、「白人至上主義者はよくない。邪悪である。彼らのやったことなんだ」という風に言ったんですけども……また言った後にツイートで「ほら、言ってやったぞ! それなのに俺のことをゴチャゴチャ言うな!」ってまた余計なツイートをしているんですよ(笑)。


(海保知里)またそんな……ねえ。

(町山智浩)言わなきゃいいのにね。というね、事態なんですけど。すごく悲しいのは、この犯人の子なんですよね。これ、ジェームズ・アレックス・フィールズっていう子で、車で突っ込んだんですけど、この人はお父さんを交通事故で亡くしているんですよ。

(海保知里)ええっ! そうなんですか?

(町山智浩)酔っ払い運転の車にひかれて、彼が幼い頃にお父さんが亡くなって。で、その後にお母さんの女手ひとつで育てられて。それで、あまりお金は当然なくて。高校を出てすぐ、2015年に陸軍に入っているんですよ。で、お母さんはホッとしていたんですけど、わずか3ヶ月ぐらいで軍隊を辞めちゃっているんですよ。なんで辞めちゃったのかはわからないんですけどね。

(海保知里)うーん……。

(町山智浩)だから、もう明らかにこういう非常に打ちひしがれて居場所がない人がこういった右翼団体に吸い込まれていく形になっているんで。で、ドナルド・トランプ大統領のいちばんよくないところは、彼自身が全く人種差別主義者じゃないところなんですよね。彼っていままで、超金持ちでお坊ちゃんで育てられてきて、差別的な意識なんか育つわけないじゃないですか。いいことしかないんだから。

(山里亮太)そうですよね。

(町山智浩)そう。彼は完全に……2000年頃に大統領選に出ようとした時は「人種差別はよくない」ってはっきりと言っていたんですよ。でも、選挙に勝つために差別的な人たちの気持ちを利用したんで。そういうところもすごく、本当にズルい感じがしてすごく困るんですけど。ただ、今回こういう事件があってね、じゃあ他にあったリー将軍の銅像はどうなるか? というと、こういう事件がありましたので各市一斉に撤去に向かっています。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)はい。すでにトヨタの工場があるレキシントンというケンタッキーの街では銅像撤去に向かっていて。あと、ボルチモアでも銅像撤去。逆効果でしたね。完全に。

(海保知里)ねえ。そういう風に流れちゃった。

(町山智浩)はい。「なにをやっているんだろう?」というね、気がします。ちなみに、そのシャーロッツビルの銅像撤去を言い出した人というのは、この副市長なんですよ。副市長の人はウェス・ベラミーという黒人なんですよ。だから、すごくこのシャーロッツビルだったりバージニアは変わっていっている中で起こったことなんですよね。住民たちが自分たちの意志でそういったものを変えていこうということだったのに、そこに関係ない人たちがゾロゾロと来たんで。だから州知事が「出て行け!」っつったんですよ。「お前ら、愛国者じゃねえよ。出て行け!」って言ったのは、当然そうなんですよね。住民としては。

バージニア州知事のコメント


(海保知里)うん。

(町山智浩)という流れだったんですけど。まあ、日本ではわかりにくかったですね。はい。

(海保知里)すごくよく今回の流れがわかりましたね。はい。ありがとうございました。今回はシャーロッツビルで起きた事件について、おうかがいしました。

<書き起こしおわり>

町山智浩 バージニア州白人至上主義者集会の衝突事件を語る

言葉足らずだったので追記です。南部入植は清教徒でなくバージニア会社によって営利目的で始まり、徹底的に先住民を略奪、虐殺し、黒人奴隷制度も始めました。そんな過去を住民は克服しようと努力しているわけです。

2017/08/17 03:22

町山智浩 ハーヴェイ・ワインスタイン セクハラ問題を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインによる女優たちへのセクハラ問題についてトーク。その影響などについて話していました。


(海保知里)なんか町山さん、アメリカで大変なことが起きているみたいですね。

(町山智浩)アメリカでアカデミー賞を支配していたと言われている、ノミネート数がこれまでに300本という大映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインという人物が、30年近くに渡って30人以上の女優さんたちに性的な行為を強要していたことが女優さんたちの告発でわかりまして。大変なことになっていますね。

(海保知里)信じられないですね。こんなことをするなんて。

(町山智浩)っていうか、大女優さんなんですよ。それが新人の頃にやられていたんですけど。グウィネス・パルトロウとかアンジェリーナ・ジョリーとか。もう、みんなが知っている大女優。で、しかも強要をされただけじゃなくて、実際にレイプされちゃった人も実際に4人以上いるんですね。

(海保知里)ひどい。本当にひどい……。

(町山智浩)で、ほとんどは新人の頃に仕事と交換で。「俺の映画に出たいんだったら、やらせろ」の世界ですけど、実際にそれでアカデミー賞をグウィネス・パルトロウには与えていますよね。『恋におちたシェイクスピア』という映画はものすごいお金をつぎ込んで、アカデミー賞のキャンペーンをして、グウィネス・パルトロウには主演女優賞をとらせているんで。まあ、それだけの力がある男だったんですね。

(海保知里)いやー。でも、結構時間がかかったんですね。ここまで来るのに。

(町山智浩)やはり、それだけアカデミー賞に君臨しているから、みんな手が出せなかったんですね。

みんな手が出せなかった

(山里亮太)そうか。逆らったら映画界にもういれなくなっちゃうとかになったら、それは言えませんもんね。

(町山智浩)そうなんですよ。で、アンジェリーナ・ジョリーだけは「もう絶対に仕事をしない!」って言って、実際にしていないんですね。1回、襲われそうになってから。でも、他の人たちはやっぱり賞がほしいとか……まあ、彼の映画に出ればアカデミー賞はとれると言われていて。まあ、ノミネートの回数が300ですからね。だから、彼の映画に出ることが大スターになる道だったんで、ほとんど逆らえなかったということでね。ただ、今回これはすごい大変な問題なんですけども、もうヨーロッパとかロシアにまでこれは波及しているんですよ。

(海保知里)ええっ?

(町山智浩)同じようなことがヨーロッパでもロシアでも行われていることがだんだんわかってきて。彼1人の問題じゃないということで、全世界的な問題にいま、発展しつつあるんですね。

(山里亮太)そういうパワーを使ってやっていた人たちが、どんどんいま名前が出ちゃっているんだ。

(町山智浩)どんどん出てきていますね。昔から、ボリショイ・バレエ団とかは結構そういうので有名だったですけど。

(海保知里)ええっ!

(町山智浩)あそこはだから、主役の座を巡って傷害事件とか殺人未遂みたいなことまで起きているようなところなんでね。だからまあ、世界中でそういうことがあるんで。日本もありますが。特に、いちばん問題なのは、レイプに関しては彼、ハーヴェイ・ワインスタインの部屋に女優たちが行っていたんで、なかなかこれは有罪にはなりにくいですね。

(海保知里)ああ、そうか。その人の部屋に行ってしまったということですね。

(町山智浩)部屋に行っちゃっていたり、まあいわゆるデートレイプと言われる食事を1回しちゃったりしていると、食事の流れだったりすると、なかなか日本でもアメリカでも有罪にはしにくいんですよ。

(海保知里)はー……。

(町山智浩)ビル・コスビーっていう俳優さんがいまして、この人は50人ですよ。で、その全部がデートレイプで、食事をした時に睡眠薬を飲ませて部屋に連れ込んでいるんですけど。全く証拠がそういう状態だと残らないので、この間裁判をやったんですけども、結局判決に至らなくて、有罪にできなかったんですね。

(山里亮太)結構横行しているんだ。そういうことが。

(町山智浩)すごいことになっています。全世界的な問題なんですね。

(海保知里)これからたくさん膿を出してもらって、全部なくしてほしい。

(町山智浩)いや、でもこれ、刑事事件の方で有罪にできるか?っていう問題になってくるんですよ。まあ、一応もみ消したみたいですけど、ニューヨークの検察がまた動いて、起訴をしようとしているみたいですけども。まあ、デートレイプっていうのは難しいんですよ。有罪にしにくい。日本だけの問題じゃないですね。

(海保知里)うーん……。

(山里亮太)一応、でももう映画に関わることはできないんですか?

(町山智浩)ハーヴェイ・ワインスタインはつい今日、アメリカの映画プロデューサー協会を完全に除名になったんで、アメリカではもう映画を作れません。

(山里亮太)なるほど。じゃあ、そうなったらもう、そいつに力がないってなった瞬間に、もっといろいろな告発がこの後も出てくるかもしれないですね。

(町山智浩)いや、彼が最近、映画が当たっていなかったんで、出てきたんですよ。

(海保知里)ええっ! 嫌だなあ。

(町山智浩)力が弱ってたから、出てきたんです。

(海保知里)そうなんだ。

(町山智浩)はい。やっぱり力があるうちは、なかなかどこの国も芸能界、難しいですよね。結構ね。

(海保知里)ねえ。

(町山智浩)でも、これ以上はこの話をするなと言われてますからね(笑)。今回、告知をしてあるんで、『ブレードランナー2049』について話をしろと言われていますんで。このへんで終わりにします。

(海保知里)スカッとする映画をお願いします。

<書き起こしおわり>
町山智浩『ブレードランナー2049』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で『ブレードランナー』の35年ぶりの続編、『ブレードランナー2049』を紹介していました。 The #BladeRunne...

町山智浩『ブレードランナー2049』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で『ブレードランナー』の35年ぶりの続編、『ブレードランナー2049』を紹介していました。

The #BladeRunner2049 original motion picture soundtrack is now available. Get it now: www.smarturl.it/BR2049_LTD

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(町山智浩)でも、これ以上はこの話をするなと言われてますからね(笑)。今回、告知をしてあるんで、『ブレードランナー2049』について話をしろと言われていますんで。このへんで終わりにします。

(海保知里)スカッとする映画をお願いします。

(町山智浩)はい。音楽をどうぞ!



(町山智浩)かっこいいですね! これ、『ブレードランナー』のテーマなんですけども。『ブレードランナー』っていう映画の続編が35年ぶりに今度、日本でも27日から公開されるんですね。これ、カルトムービーの中のカルトムービーと言われているんですけども。まあ、「カルトムービー」の「カルト」っていうのは宗教ですよね。だから、世間一般でみんながワーッて、「好きだ!」とかいう大ヒットっていうのとは違って、ものすごく熱烈なファンを持っているのをカルトムービーっていうんですけども。『ブレードランナー』っていうのはそういう映画なんですよ。

(海保知里)うんうん。

(町山智浩)で、ご覧になったことはありますか?

(山里亮太)いや、ないです。

カルトムービーの中のカルトムービー

(海保知里)山ちゃん、ないですか? 私は昔見て、たしかに「あ、これってカルトだな」っていうか。最初はわからなくて、もう1回見て、「ああっ!」と理解するという感じですね。

(町山智浩)そうなんですよ。

(海保知里)ただ、みんなが絶賛をするので。そこで見たっていう感じですね。

(町山智浩)ああ、もうすでにカルトムービーになってから知ったという感じですね。

(海保知里)リアルタイムじゃないので。そうなんですよね。ええ。

(町山智浩)はいはい。この『ブレードランナー』は1982年に公開されまして。僕、ハタチだったんですけども。当時、全世界で大コケしました。

(海保知里)そうだったんだ。

(町山智浩)全くお客さんが入らなかったんですよ。どうしてか?っていうと、やっぱり内容がわかりやすいアクション映画とかじゃないんですよね。非常に渋いハードボイルド物なんで。それとやっぱり、非常に難解な映画なんですよ。1回見ただけじゃわからないんですけど、何回も何回も何回も見ているうちに、ジワジワジワジワと染みてくる映画なんですね。で、その35年間でどんどんファンを増やしていって……という映画なんですけども。この映画はまず、なにが画期的だったか? というと、この『ブレードランナー』が出てから、映画の中における未来の都市とか未来の世界の風景っていうのが全く変っちゃったんですよ。

(海保知里)ああー。

(町山智浩)それまでの未来っていうのは2種類しかなかったんですね。ひとつはピカピカの超高層ビルが立っている輝ける未来ですね。それともうひとつは核戦争で滅んじゃっている未来ですよ。

(山里亮太)『マッドマックス』みたいな。

(町山智浩)『マッドマックス』みたいな。そう。この『ブレードランナー』はその中間なんですよ。ボロボロなんだけども、まだ都市が続いていて。でも、ピカピカじゃなくて、すごく汚いんですけど。まあ、これはわかりやすいのは、ニューヨークに行ってもそうだし、日本に行ってもそうですけど、古いビルっていちいち全部壊してないから、新宿なんかそうですけど、古い汚いビルと新しいピカピカのビルが隣り合わせに立っているじゃないですか。

(山里亮太)はいはい。

(町山智浩)歌舞伎町なんかね。で、古いビルの外側に新しくしようとしていっぱい飾り付けしてたり、空調の室外機がいっぱいついていたりして、ゴテゴテといろいろつけられてグチャグチャなグロテスクなものになるじゃないですか。古いビルが。

(海保知里)ええ。

(町山智浩)そういう感じ。その将来の都市というのは歌舞伎町みたいな感じだろうと。つまり、きれいに全部取り壊して建て直さなければ、ピカピカのビルばかりにはならないわけですよね。で、この『ブレードランナー』はそういう、2019年に想定されるような、このまま延長していったらこの都市はどうなるだろう?っていうので作られた都市なんですよ。

(海保知里)ふーん。

(町山智浩)で、それがほとんど歌舞伎町なんですけどね(笑)。ネオンがそこらじゅうにあって。それで、すごく大きいビジョンがありまして。ビルの一面が全部テレビになっていて、そこにコマーシャルが流れているっていう映像があるんですね。で、それはいま渋谷だと普通じゃないですか。

(山里亮太)そうですね。

(町山智浩)この映画を真似したんですよ。みんな、一生懸命。

(海保知里)そうなんだ!

物語の未来感を大きく変えた

(町山智浩)はじめて、その世界っていうのをみんな見たんですよ。僕がハタチの頃に。ああいうものを実践しようとして作ったんですよ。いまの街っていうのはみんな。渋谷とか新宿っていうのは。だから、こういうのを実際に物があってそれを真似するんじゃなくて、「未来っていうのはこうなるだろう」っていう想定で作ったものを、現実が真似していくっていう逆転現象みたいなものが起こったんですよ。『ブレードランナー』から。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)で、特に映画とか漫画、アニメは『ブレードランナー』後は全くみんな『ブレードランナー』になっちゃったんですよ。だから『AKIRA』なんかもそうですし、『攻殻機動隊』っていう漫画とアニメもそうですね。あと、『マトリックス』とか、そういったものに出てくる未来感っていうものはみんな『ブレードランナー』ではじめて作られたものを、みんなが35年間真似しているんで。いま、『ブレードランナー』以後に育った人が『ブレードランナー』を見ると、「これ、みんな知っているよ」と思うかもしれないけど、「そうじゃねえから。これが最初だから!」っていうことなんですよ。

(海保知里)うんうん。

(山里亮太)そう考えると、すごいな。

(町山智浩)「これ、アニメで見たよ」とか「日本のアニメみたいだな」っていう人がいると思うんですよね。82年の『ブレードランナー』をはじめて見ると。そうじゃなくて、これが最初だから(笑)。

(山里亮太)日本のアニメがこれを参考にしたんだ。

(町山智浩)そう。それまではなかったからねっていうことなんですよ。で、ここから出てきたんですよ。あと、これが作られたのはインターネットがない時代なんですけど、すでにインターネット的な描写があったりとか、すごく未来を先取りしているんですよね。で、それで特に80年代の後半は……昔ね、「カフェバー」っていうものがあったんですけど、ご存知ないですよね?

(海保知里)なんですか? カフェバー?

(町山智浩)カフェバーっていうのはね、うーん、すごく説明が難しいんですけど。いま、クラブとかおしゃれなお店があるじゃないですか。そこで、ダンスをしないような店なんですよ。だから、ただおしゃれなところでカクテルを飲んだりするだけの店っていうのが昔、あったんですよ。カフェバーっていうものが。で、六本木とか渋谷とか……まあ、六本木にいっぱいあって。そこに行っておしゃれな会話をするっていう文化があった時代があるんですよ。86、7、8年の頃。もう全然みんな、わからないですね。カフェバーって。

(海保知里)はい。

(町山智浩)まあいいや。カフェバーっていうのはみんな、『ブレードランナー』みたいなインテリアにしてあったんですよ。

(海保知里)そうなんだ(笑)。

(町山智浩)真似をして。で、その頃のカフェバーにはモニターがいっぱいあって。そのモニターでは、大抵『ブレードランナー』が流しっぱなしなんですよ。そのぐらい、もうおしゃれっていうか最先端のものが『ブレードランナー』だったんですね。で、それはスタイル的な問題なんですけども、ストーリーの話をしますと『ブレードランナー』っていうのは2019年の地球のロサンゼルスが舞台なんですが、ブレードランナーというのは主人公の職業のことです。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)ブレードランナーっていうのは人間狩りみたいな仕事なんですけど、人間じゃなくて人間そっくりの「レプリカント」という人造人間を見つけて処刑する仕事なんですよ。それをやっているのが、ハリソン・フォードですね。『スター・ウォーズ』のハン・ソロの。で、この頃、レプリカントという人造人間が肉体労働とか、あと売春とかをさせられているんですけども。で、彼らが自分たちの人権と自由に目覚めて、反逆を起こし始めるんです。ただ、彼らは人間と全く見た目が同じなので、見つけることがものすごく難しいんですね。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)人間に混じっているんで。それを見つけて殺していく仕事がブレードランナーの仕事なんですよ。で、人間とレプリカントの違いは「共感性」というもので。人間は自分とは関係のない、たとえば犬とかがいじめられたりしていても、自分が辛い気持ちになったりするという共感性というものがあるんですけど、レプリカントは人造人間だからそれがないっていうことになっているんですね。だから、その「かわいそう」と思う気持ちがないから、それを心理テストで、「こいつは人間だ、こいつはレプリカント」だって判定するっていうことになっているんですよ。

(山里亮太)ふんふんふん。

(町山智浩)だから、いまここにかわいそうな泣いている犬かなんかの画を見せて、「どう思いますか?」とかやったりして。それで心臓の鼓動とか脈拍とか血圧が上がったりするのをチェックするというのでしか判定ができないんですよ。

(海保知里)ふーん。

(町山智浩)で、そうやって見つけていく話なんですけども……ただ、これはすごく変な話なのは、「俺たちは人造人間だけども、俺たちの自由のために戦うぞ」っていう、すでにその段階で心があるじゃないですか。反逆する人たちは。自分の自由を求めているわけですから。だから、すでにレプリカントの中に心が芽生え始めていて、人間との差がだんだんなくなってくるっていう話なんですよ。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)レプリカントか人間かの違いは、心があるかないかだったんですけどね。で、その中でレイチェルという女性の非常に美しいレプリカントがいるんですが。彼女は自分を人間だと思わされていて、人間としての記憶を完全に植え付けられているから、「絶対に自分は人間だ」と思っているんですよ。

(海保知里)うんうん。

(町山智浩)で、子供の頃の記憶とかも全部プログラミングされているんですよ。で、その彼女とブレードランナー、レプリカントを狩る側が恋に落ちるという物語なんですね。だからこれ、すごく深い話なんですよ。何度も見なければわからないっていうのは、そこの部分なんですね。たとえ人工的に作られていたとしても、人間よりも心があればそれは人間じゃないのか?っていうことと、レプリカントを狩っているブレードランナーは全く心がない男なんですよ。

(海保知里)うんうん。

(山里亮太)じゃあ、逆にレプリカントなんじゃないのか?っていう。

(町山智浩)そう。だからそっちの方が本当は人間じゃないんじゃないか?っていうことになってくるんですね。心がないっていうのは、たとえば女のレプリカントを殺す時に平気で後ろから撃ったりするわけですよ。もう、人間としてどうなのか?っていう問題になってくるわけですけども、じゃあいったい人間とは何なのか? 作られているか、プログラムされているか、それもと人間から生まれてきたのかっていうことではなくて、その生き方なんじゃないのか?っていうことに踏み込んでいる話なんですね。

(海保知里)うん。

(町山智浩)で、『ブレードランナー』はすごくその点で最先端だったのは、いま現在、人工知能とかAIは心を作る段階に入っているわけですよ。それをもうすごく先取りしていたんですね。で、さっき風景とかで映画の中にある風景を現実が模倣するっていう話もあったんですけど、これなんかはレプリカントの方が人間らしくなっちゃうっていう、やっぱり現実と模倣の逆転現象が起きるという、非常に深い話なんですよ。

(海保知里)はい。

(町山智浩)で、今回、35年ぶりに続編が作られたんですけど、監督はドゥニ・ヴィルヌーヴという監督で、この人は『たまむすび』でもご紹介した『メッセージ』という映画の監督なんですね。

『メッセージ』のドゥニ・ヴィルヌーヴ

町山智浩 映画『メッセージ』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』でアカデミー賞の有力候補になるであろうドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の映画『メッセージ』を紹介していました。 Can she unl...

(山里亮太)ああ、はいはい。

(海保知里)ばかうけのあれですよね。

(町山智浩)そうですね、はい(笑)。宇宙の彼方から過去も現在も未来もない、時間感覚が全く違う異星人が来て、それと人間が接触するという話だったんですけども。あれは非常に深い、時間とはなにか? 人生とはなにか?っていう哲学的な問題に踏み込んでいる映画だったんですね。『メッセージ』っていうのは。

【ネタバレあり】町山智浩『メッセージ』徹底解説
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(海保知里)そうですね。ええ。

(町山智浩)だからその監督が今回、続編を引き受けているんで。やはりね、非常に深い話になっているんですよ。

(海保知里)ふーん!

(町山智浩)で、今回主人公はライアン・ゴズリング。『ラ・ラ・ランド』の彼が演じるKという名前のやはりブレードランナーなんですね。で、彼はやっぱりレプリカント狩りをやっているんですけども。この話は35年後の話になっているので、レプリカントはもうすでに心を持っているんですよ。

(海保知里)そういう設定なんだ。

(町山智浩)で、本当に人間との差がなくなっているという形になっていて。で、彼と戦うのが殺人レプリカントが出てくるんですね。それがね、ラヴという名前の女性なんですけど。美しい女性なんですが、素手でバンバンに人間を殺すんですよ。でも、彼女の名前は「ラヴ(Love)」なんですね。「愛」なんですよ。で、実は彼女はレプリカントをその時代に制作している社長を愛していて。で、彼への愛のために殺人を続けているんですね。で、これなんかもその愛というのはプログラムされているわけすよね。実際には。彼女はレプリカントだから。

(海保知里)うんうん。

(町山智浩)でも、プログラムされたからと言って、その愛は愛じゃないのか? とかね、そういったことをすごく考えさせるんですよ。で、またその彼女はめちゃめちゃ強いんですけど。それで、35年後で、実は前作『ブレードランナー』で最後に……まあ、これはネタバレっていうか、言わないと話が通じないんで。ハリソン・フォードとレイチェルは逃げるんですね。それで、彼らがその後どうなったか?っていう話に今回の『ブレードランナー2049』はつながっていくんですよ。

(海保知里)はー。

(町山智浩)35年後に彼らがどうなったか?っていうことなんですね。で、これは前作の『ブレードランナー』を見ている人だとね、本当に涙が止まらないシーンがあるんですよ。ものすごい泣かせるシーンがあるんで、これはぜひ、今回の『2049』を見る前に、『ブレードランナー』の一作目は絶対に見ておいてください。

(海保知里)やっぱり見ないとちょっと理解は難しい?

(町山智浩)理解じゃなくて、心の問題です。泣けるんですよ。見ていると。というね、今回すごく泣ける話になっているんですけど。詳しいことは、実は僕、『ブレードランナー』の本を出しまして。ずいぶん昔に出したんですけど、映画の公開と同時に文庫化されます。それを読んでもらうと難解な『ブレードランナー』一作目もよくわかりますので。リスナーの方、5名様にプレゼントいたします。『〈映画の見方〉がわかる本 ブレードランナーの未来世紀』という、新潮文庫から27日の公開と同時に出る本です。はい。


(プレゼント情報略)

(町山智浩)今回の『ブレードランナー2049』はものすごい美少女の人工知能が出てくるんですよ。それがKのガールフレンドなんですけども。これがめちゃくちゃ泣かせますんで。もうこれ以上は言えないんですが、はい(笑)。

(山里亮太)なるほど。前作を見てから今作を見るといいんだ。

(町山智浩)前作は見ないとね! すごいシーンがありますんで。「あっ!」っと驚きました。僕は。

(海保知里)『ブレードランナー2049』は10月27日公開です。町山さん、どうもありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました!

(町山智浩)はい。どもでした!

<書き起こしおわり>

町山智浩 ハーヴェイ・ワインスタイン セクハラ騒動の影響を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインによる女優たちへのセクハラ騒動についてトーク。ハリウッド中に波及しつつあるその影響について話していました。


(町山智浩)ということで、今回の本題に行きます。前回はちょこっとしか話ができなかったんで、続きをちょっと。状況も変わりましたので、します。アメリカの映画プロデューサーとしてすごい、アカデミー賞の帝王と言われていたハーヴェイ・ワインスタインがこの30年ぐらいに渡って30人を超える女優さんたちに性行為を強いて。嫌がられて逃げられてもいるんですけども、そのうち最低でも4人か5人はレイプに至っているという事件で大問題になっています。

町山智浩 ハーヴェイ・ワインスタイン セクハラ問題を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインによる女優たちへのセクハラ問題についてトーク。その影響などについて話していま...

(海保知里)はい。

(町山智浩)これ、ワインスタインの写真ってそちらにありますか?

(海保知里)はい。ワインスタインさん……。

(町山智浩)まあ「さん」を付けることはねえですね。

(海保知里)そうですね。そうでしたね。ワインスタインですね。失礼しました。

(町山智浩)すごいですよね。この人の顔。

(山里亮太)うん。情報を出た後に見ているから、より一層、「うわっ、そういうやつだな!」って。

(海保知里)悪そうな感じがしちゃいますよね。


(町山智浩)まあ、はっきり言って裏社会の人にしか見えないですよね。見た目がね。これで体重が100キロ以上で、身長が184センチという、まあ巨体なんですよ。で、この顔でとんでもない人なんですけども。で、これがまずどうして急に発覚したか? と言いますと、ニューヨーク・タイムズの女性記者のスクープなんですね。

(海保知里)ああ、そうなんですか?

(町山智浩)このジョディ・カンター(JODI KANTOR)さんっていう人が2013年のアカデミー賞の授賞式を見ていて、『テッド』っていう熊の映画で熊の声をやっていたコメディアンのセス・マクファーレンが司会をやっていて。で、主演女優賞の候補の5人の女性に「これでもうあなたたちはハーヴェイ・ワインスタインを好きなふりをしなくてもいいですね!」って言ったんですよ。

セス・マクファーレン(2013年アカデミー賞)



(山里亮太)ジョークでいじったんだ。

(町山智浩)ジョークでいじったんですけど。そしたら、アカデミー賞の観客っていうのは全員アカデミー会員……俳優とか映画のプロデューサーとかなんですけど、その時にすごく不思議などよめきが起こったんですよ。「ザワザワザワ……うわっ、言っちゃった……」みたいな。

(海保知里)ふーん!

(町山智浩)ところが、それを見ていた視聴者……僕も含めて見ていた視聴者の全員は「なんなんだろう、このギャグは。よくわかんない」ってなったんですよ。

(山里亮太)まだこの頃は全然、そんな噂もなかったんですね。

(町山智浩)噂もなかったんです。ただ、それを見ていた『ニューヨーク・タイムズ』の記者のジョディさんは、「これは私たちは知らないけど、ハリウッドでは誰もが知っている恐ろしいことが女優とハーヴェイ・ワインスタインの間にあるんだ」って気づいたんですね。

(山里亮太)はー! そのジョークから。

(町山智浩)そうなんです。それで10月5日の記事までずっと調査をしていて。その10月5日の記事っていうのは、お金の流れから行ったんですよ。ワインスタインが何人もの女性たちに口止め料を払い続けてきたというお金の流れをすっぱ抜いたんですよ。

(海保知里)へー! はい。

(町山智浩)そこから、いろんな女優がインタビューに応えて、直接の被害がわかっていったという感じなんですね。お金の流れだから、具体的な証拠があるわけですよ。で、どういうことが起こっていたか?っていうとですね、これはいちばんわかりやすいのはアーシア・アルジェントという被害にあった女優さんがこれを映画にしているんですよ。

(海保知里)えっ!?

(町山智浩)映画になっているんですよ。すでに。

(海保知里)自分のその……ワインスタインとの?

(町山智浩)被害を映画にしているんですね。この人はもともと、お父さんが映画監督で。『サスペリア』っていうすごい有名なホラー映画の監督のダリオ・アルジェントさん。だから娘さんも女優兼映画作家なんですね。で、その中で自分自身が主演して、自分の青春時代とかを描いた映画で『スカーレット・ディーバ』っていうのがあるんですよ。その中で、アーシア・アルジェントさんがハリウッドの映画プロデューサーに映画を配給してもらおう、出資してもらおう、主演させてもらおうとして話をしていると、「部屋に来い」って言われるんですね。

(海保知里)はい。

(町山智浩)「そこで、仕事の話をしよう」って言われるんですよ。で、行くと、そのプロデューサーの彼しかいないんですよ。しかも、全裸にバスローブ一枚なんですよ。で、「ヤバい!」って思うんですけど、そのオヤジが「マッサージしてくれ」って言うんですね。で、「マッサージをしてくれ」っていきなり寝るんだけど、そしたらチンコを出しやがるわけです。

(海保知里)ああー……。

(山里亮太)あのニュースの、あのまんまだ。うん。

(町山智浩)それが彼の手口なんですね。これね、「面白い」って言っちゃあなんですけども。「興味深い」と言った方が正しいんですが。手口が全部同じなんですよ。30人もの被害者がいるんですけど、全部同じ。判で押したように。「部屋に来い。仕事だ」って言われて行ってみると、1人。で、半裸ないしは全裸。で、「風呂に入ろう」ないしは「マッサージしてくれ」っつって、「嫌だ」って言うと「マッサージしてやる」って触ってくるという。

(海保知里)いやー……。許せない。

(町山智浩)これね、全員同じなんですよ。

(海保知里)でもこれ、女性側がかわいそうなのは、その部屋にスタッフがいると思って行くわけですよね?

(町山智浩)そうなんです。「パーティーがあるよ」とか「打ち合わせだよ」って行ってみると、ワインスタイン1人なんですよ。

(海保知里)でもそれで、ねえ。逃げられないですもんね。

(町山智浩)部屋に自分で入っちゃっているんですよ。女優さんたちが。もう30人、全員ね。

(山里亮太)なるほど、そうか。だから自分で入ったことによって。

(町山智浩)要するに、「自分で入った」ってことにして、「同意があった」という形に持っていっているんですね。

(海保知里)ひどい……。

(町山智浩)で、『ニューヨーカー』っていう雑誌とか、『ニューヨーク・タイムズ』で女優たちが少しずつ重い口を開いていったんですけど。まあ、その中で実際にレイプをされちゃっている人はこのアルジェントさんともう1人、ローズ・マッゴーワンさんなんですね。

(海保知里)はい。

(町山智浩)ローズ・マッゴーワンっていう人はみなさん、たぶん知っていると思うのは『プラネット・テラー』っていう映画で、足にM16アサルトライフルを付けていた女優さんなんですよ。はい。

(山里亮太)ここに資料ありますけども、すごいですね。


(町山智浩)すごいですね。足がマシンガンになっているんですけども。この女優さんも23才のまだド新人の頃にホテルで……この人の場合には完全にレイプされてしまったんですけども。まあ、新人だったんで10万ドル(約1000万円)で黙らされていたんですよ。で、ずっと言わないで来たんですけど、どうして言わないで来たか?っていうと、その口止め料と同時にこの『プラネット・テラー』っていう映画もワインスタインの映画なんですよ。

(海保知里)ああ、はい。

(町山智浩)だから、レイプされて、お金を積まれて、しかも口止め料として映画に出してもらっているんですよ。

(山里亮太)その手口なんだろうな、いつも。

いつも同じ手口

(町山智浩)いつも、その手口なんですよ。で、グウィネス・パルトロウっていう女優さん……この方はもうご存知ですよね? 有名だから。アカデミー主演女優賞をとっている人ですよ。『恋におちたシェイクスピア』で。

(海保知里)はい。

(町山智浩)この人も襲われて。「マッサージするよ」って抱きつかれて、押し倒されて。まあ、脱出したんですけども……1996年に襲われたんですが、その後もずーっと(ワインスタインの映画会社である)ミラマックスの映画に出続けて。で、ワインスタインのプロデュースした『恋におちたシェイクスピア』でアカデミー賞をとっているんですよ。

(海保知里)なんか、その時にワインスタインと一緒に仲良さそうに写っている写真っていうのがメディアで流れた気がするんですけど……。

(町山智浩)そうです。受賞した後にワインスタインとキスまでしています。彼女は。

(海保知里)ですよね。その時はもう心の中では腸が煮えくり返っていたっていうことなんですかね?

(町山智浩)だからこれは一種の……まあDVの夫婦みたいなものになっちゃうわけですよね。要するに、経済的に仕事の部分でもコントロールされて。1回、襲われたりしている恐怖もあるし。完全に支配されちゃうんですよね。

(海保知里)そういうことなんだ……。

(町山智浩)だから、いわゆる○○症候群みたいなものになっちゃうんでしょうね。逃げられなくなっちゃうんだと思います。ただね、その最初に襲われた時の彼氏だったのはブラッド・ピットなんですよ。ブラッド・ピットはワインスタインに「二度と俺の女に手を出すな!」ってはっきりと言っているんですよ。っていうのはブラッド・ピットはまだその頃は『セブン』に出たばっかりで、そんなに有名スターじゃなかったのに、結構そこで戦ったんでブラピは結構株が上がっているんですよ。

(海保知里)ふーん!

(山里亮太)それでちょっと映画界で出にくくなったりみたいなことはなかったんですか?

(町山智浩)ブラピはだから、ワインスタインの映画には出ていないんじゃないかな?

(山里亮太)なるほど。それ覚悟で行ったんですね。ブラピは。

(町山智浩)はい。ただブラピはその後にグウィネス・パルトロウとすぐ別れちゃって。で、パルトロウはその後にベン・アフレックと付き合っているんですよ。『ゴーン・ガール』の華のない俳優さんですけど。いまは映画監督ですけども。ベン・アフレックは、そのパルトロウが襲われたのと同じ96年に『グッド・ウィル・ハンティング』っていう映画に主演兼脚本を書いて、マット・デイモンと2人で。売れない俳優だったのに、それで大スターになるんです。

(海保知里)はいはい。

(町山智浩)で、ワインスタインにものすごい義理があるんですね。

(山里亮太)ああ、『グッド・ウィル・ハンティング』はワインスタインのプロデュースなんだ。

(町山智浩)そうなんです。で、『グッド・ウィル・ハンティング』の時にベン・アフレックとマット・デイモンっていうのは全く売れない俳優だったのに、彼らがその自分たちが主演する映画として書いた『グッド・ウィル・ハンティング』のシナリオにいきなりワインスタインはお金を出してくれたんですよ。だからマット・デイモンとベン・アフレックにとっては命の恩人みたいな人なんですよ。ワインスタインは。

(海保知里)うーん……。

(町山智浩)で、マット・デイモンは今日、記者会見で「実はベン・アフレックから聞いてグウィネス・パルトロウが襲われたことは知っていたけども黙っていた」と言っちゃったんですね。

(海保知里)うーん、言いましたか。

知っていて黙っていた男たち

(町山智浩)言いました。で、ベン・アフレックはこれだけじゃなくて、ローズ・マッゴーワンが襲われたことも知っていたんですけど、言わなかったんですよ。ワインスタインがこんなことになった時に、すぐに「私は知りませんでした」っていう風にコメントを出したら、ローズ・マッゴーワンから「私がレイプされたってことをあんたに直接面と向かって言ったはずなのに、なにが『知らない』だ? 嘘つき野郎!」ってTwitterで書かれたんですよ。

(海保知里)うわっ、すごい余波が来ている。はいはい。

(町山智浩)しかも、ベン・アフレックは彼女を襲われているわけですよ。ベン・アフレックはかなりヤバいです。

(海保知里)うわー……。

(町山智浩)しかも、その当時彼はチャラチャラした俳優だったんで、バラエティ番組に出た時にレポーターの女の子のおっぱいをカメラに見えないように触ったことまで、そのレポーターにいまになって……20年ぐらいたってバラされて。

(山里亮太)記事になっていました。たしか。ベン・アフレックもそういうことをやっていたって。

(町山智浩)かなり『ゴーン・ガール』状態がリアルに……。

(海保知里)窮地に追い込まれていますね。

(町山智浩)この後、『ジャスティス・リーグ』でバットマンやるんですけど、大丈夫か?っていう感じなんですよ。

(海保・山里)うわーっ!

(町山智浩)これいまね、もうすぐ公開なんですけど、非常にヤバいと思いますね。共演がワンダーウーマンですけどね。で、いまね、すごくいろんなことで問題になっていてヤバいのは、それに関わっていて、ワインスタインの世話になっていた男たちがみんなそれを黙っていたことがどんどん発覚しているんですよ。

(山里亮太)なるほどね。そうなりますね。

(町山智浩)ミラ・ソルヴィーノっていう女優さんがいるんですけど。この人はね、ウディ・アレン監督の『誘惑のアフロディーテ』という映画で1995年にアカデミー賞助演女優賞をとっている女優さんなんですよ。この人も、やっぱりワインスタインに襲われているんですね。この『誘惑のアフロディーテ』もワインスタインの映画なんですよ。

(海保知里)ああー……。

(町山智浩)で、共通するのは全員が21、2なんですよ。襲われた時。ド新人なんです。だからもう、全く新人で力がなくて、「デビューしたいだろ? 映画に出たいだろ?」っていうことでワインスタインは襲っているんですよ。

(山里亮太)典型的な悪徳プロデューサー感だ。

(海保知里)本当、そうですね。

(町山智浩)もう典型的な感じなんですよ。で、しかもミラ・ソルヴィーノはその後、クウェンティン・タランティーノ監督と3年ぐらい、ほとんど一緒に暮らしていたんですよね。タランティーノっていうのはミラ・ソルヴィーノと付き合う前に映画監督として出てきた時に、ハーヴェイ・ワインスタインが最初にお金を出した監督なんですよ。

(海保知里)そうだ。ああーっ!

(町山智浩)『パルプ・フィクション』『レザボア・ドッグス』。あれはワインスタインがそこにお金を出して、それが大ヒットしたお金でミラマックスという会社はそこから映画配給会社ではなく、製作会社として巨大化していくんですよ。だからワインスタインがなければタランティーノはなしで、タランティーノなければワインスタインはないっていう仲なんですね。

(海保知里)ふーん!

(町山智浩)で、いま、ミラ・ソルヴィーノはもう別れているんですけど、『タイム』という雑誌に「私は襲われた」って原稿を執筆しまして。あ、原稿書けるんですよ。この人、ハーバードを出てますから。

(海保知里)おおっ、賢いんですね。

(町山智浩)その中で、「私はタランティーノと付き合っていた」って書いているんですよ。で、タランティーノは逃げ場がなくなっちゃって、とうとう『ニューヨーク・タイムズ』で「僕はミラ・ソルヴィーノとその頃に付き合っていて、ハーヴェイ・ワインスタインに彼女が襲われたことも知っていたけども、ハーヴェイ・ワインスタインは僕の恩人で友人だから黙っていた。すいません」って謝ってます。

(海保知里)うーん。

(町山智浩)これはマズいんですよ。一般の人じゃなくて、自分の彼女の場合だから。で、もうタランティーノは完全に謝っていて。特にタランティーノは映画の中で、さっき言ったローズ・マッゴーワンをレイプしようとして殺される役を演じている人ですからね。『プラネット・テラー』で。

(山里亮太)知っていてそれを入れたってなると、ちょっと意味合いも変わってきちゃうっていう……。

(町山智浩)タランティーノがすごく難しいのは、タランティーノはいつもレイプする男たちを女がやっつけるっていう映画ばっかり撮っているんですよ。『デス・プルーフ』とか『ジャンゴ』とか『キル・ビル』とか。だから、「いままでの映画はなんだったんだ?」っていう話になっちゃうんですよ。で、友達ですけど。僕は。本当にタランティーノはいま、すごいヤバいんですよね。

(山里亮太)やっぱりすごい叩かれているんですか? アメリカで。

(町山智浩)叩かれていますね。ただもう、全面的に謝って。全く一切言い訳をしていないんですよ。

(海保知里)そうなんですね。

(町山智浩)ただ、このミラ・ソルヴィーノもその後、97年に『ミミック』っていうワインスタインの映画に主演しているんですよ。だからもう、役をやるということで絡めとって、支配していくっていう形なんですよね。だからまあ、とんでもないですよね。あと、レア・セドゥっていう女優さんがいるんですけど。この人は『007 スペクター』のボンド・ガールをやった女優さんですよ。この人もワインスタインに襲われて。で、詳しく原稿を書いているんです。この人も原稿を書ける人で、『ガーディアン』に書いているんですけど。とにかく、上に乗っかってきたら体重がものすごいから、もう押しのけられないっていう話を書いているんですよ。

(海保知里)怖い……。

(町山智浩)これは怖いですよね。で、あとルピタ・ニョンゴさんっていう女優さんがいて。この人は『それでも夜は明ける』に出ていた……この人もアカデミー助演女優賞をとっているんですけど。この人も、「マッサージしてくれ」って言われて。そしたらいきなりチンコ出しやがったっていうことを書いていますね。

(山里亮太)はー。全く同じ手口で。また。

(町山智浩)全く同じ手口。だからこれね、全部同じ手口なんで。30年間同じ手口なんで、これはたぶん依存症ですね。依存症っていうのは同じことを繰り返すんですよ。で、いままでみんなが黙っていたからやり続けていたんだと思うんですよ。で、ここからもうすでに、ワインスタインだけの問題じゃなくなってきていて。ワインスタイン自体はもうアカデミー賞どころか、監督協会を除名になったんで、一生映画は撮れないんですよ。まあ、日本に来たら撮れるかもしれないですけど、アメリカでは撮れないんですが。アメリカでは実は、ずっとこういう問題が続いていて。もともとハリウッドでは「キャスティング・カウチ」っていう言葉があるんですね。

(山里亮太)はい。

ハリウッドの悪習

(町山智浩)「キャスティングするかわりに、やらせろ」みたいな話があって。これはサイレント時代から100年ぐらい続いていることなんですよ。だからそれがやっと100年目にしてなんとかなるんじゃないか?っていう話になっているんですけど。ただ、このワインスタインっていう人は実際にニューヨーク警察が2015年に彼を逮捕しようとして、囮捜査で電話を録音しているんですよ。で、暴行の事実を彼が認めて、しかも囮捜査をした被害者に対して「部屋に来い! 部屋に来ないとお前に女優をやらせないぞ!」っていう風に脅迫をしている録音まであるんですよ。

(山里亮太)完璧に録られた。

(町山智浩)完璧に録られた。それで警察が起訴しようとしたら、検察が起訴を止めているんですよ。ギリギリで。

(山里亮太)うわっ、何の力が働いたんだ……。

(町山智浩)地方検事がワインスタインの弁護士からものすごい寄付を受け取っていたんですよ。で、NBCテレビも実は今年の夏に全部その女優たちのインタビューをビデオに撮っていたんですけども、放送をギリギリで取り止めたんですよ。

(山里亮太)はー、それはまた力が?

(町山智浩)それはパワー弁護士に勝てないだろうって思ったんですね。で、どうしてか?っていうと、いままでこういう暴行事件は裁判になってもなかなか有罪にならないんですね。これは、まずひとつはビル・コスビーっていう俳優がいて、この人は50人、やっていたんですよ。デートして食事して、睡眠薬を飲ませて眠らせて犯すっていうのを50人に対してやっていて。で、訴えられているんですけど、この間裁判をやったら、結審に達しなかったんですよ。

(海保知里)そんな……。

(町山智浩)証拠がないんですよ。一緒にもうデートしちゃっていたから、「やっぱり仕事がほしかったんだろ? 枕だろ?」みたいなことを言うやつがいるわけですよ。

(山里亮太)そういう逃げ道も全部計算の上で。ひどい話だ。

(町山智浩)そう。でもはっきり言ってテレビの昼のワイドショーとかでこの事件を報道しながら、坂上忍っていう人が「でも本当は女の方から行ったんじゃないですか?」とか言っているんですけど、そんなことを言っているからこんなやつらがどんどん増えるんですよ!

(海保知里)ちょっともう(時間なので)、これまた来週、スタジオで。ねえ。お願いします。

(町山智浩)あ、来週は『マッドマックス』の話をします。

(海保知里)あ、そうですね。じゃあそれはそっちで。

(町山智浩)まあでも、そういうことで。

(海保知里)はい。町山さん、本当にありがとうございました。また来週、お待ちしております。

(町山智浩)はい。

<書き起こしおわり>

町山智浩・宇多丸・高橋ヨシキ ブレードランナー歌謡祭

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町山智浩さんと高橋ヨシキさんがTBSラジオ『タマフル』に出演。特集で映画『ブレードランナー』について話す中で、『ブレードランナー』の世界観に影響を受けた楽曲をまとめて紹介していました。



(宇多丸)ブレードランナー特集なんですけども、先週ね、スピルバーグ総選挙をやった時に町山さんと……町山さんはいま東京に来ているんですけども。先週はご自宅にいらっしゃって、電話とSkypeをつなぎながらやっていたんですけども。結構終わってからもずっと、スタジオのコンバットREC、春日太一さんとみんなで話していて。「来週の特集はこんなことをやろうよ」っていうので。じゃあちょっと軽くネタバレになるかもしれないけど、町山さん的にはやっぱり要するに、当時。1982年にオリジナルの『ブレードランナー』が公開されて。その後、他のいろんなものにすごく影響を与えたわけですよ。

特にやっぱりいろんな日本の文化に影響を与えた。まさに、町山さんが在籍していた、働いていた頃の『宝島』というサブカル雑誌があって。「いろんな『ブレードランナー』にちなんだ記事なんか、やっていましたよね。○○とか……」「あ、それは俺がやった記事だよ」みたいな。「ああ、じゃあ俺、自分で持っている『宝島』を持っていきますわ」なんていま、持ってきていたりするんですけども。で、その中で、要は日本のいろんなミュージシャンというかね、バンドとかが明らかに『ブレードランナー』にインスパイアされたいろんな曲を出しているということがある。なので、『ブレードランナー』歌謡祭を急遽、開催したいと(笑)。みたいなリクエストを受けまして、いろんな曲をかけましょうなんて。

で、「○○も出していたんで」「あ、そうなんすか?」「宇多丸くん、知らないの~?」なんつってね。またうれしそうにね。人が知らないのをうれしそうに(笑)。「えっ、知らないの?」なんつってやるんだけど、僕が「じゃあ、あの人の△△もそうですね」っつったら、「あっ! それもそうだった」みたいな感じでね(笑)。そことかは全然うれしそうじゃないかった(笑)。みたいなのがあって。で、『ブレードランナー』歌謡祭でたぶんちょこちょこちょこちょこ聞いていくことになると思うんですけど、せっかくですから、裏送りのみなさんだけが聞ける1曲ということで。まあ『ブレードランナー』歌謡祭でもかける時間があれば、そっちでもかけようかと思いますが。

私が大好きな曲がございまして。1986年リリース、早瀬優香子さんという方。当時活躍されていた歌手であり、女優さんですよね。まあちょっとアンニュイな、すごく80年代に流行った感じの不機嫌そうな……不機嫌そうなんですよね。で、髪をこうかき上げてね、不機嫌そうな感じ。で、小声でしゃべるみたいな、すごい80年代的いい女の私、代表格だと思っています。早瀬優香子さんが86年にリリースした曲で、当時ポカリスエットのコマーシャルソングにもなっておりまして非常に耳にした曲でございます。『ブレードランナー』に影響をずばり受けている。タイトルからして明らかな曲。ちょっといったん聞いてください。早瀬優香子さんで『硝子のレプリカント』。

早瀬優香子『硝子のレプリカント』



(宇多丸)早瀬優香子さん、1986年の曲で『硝子のレプリカント』をお聞きいただいております。早瀬優香子さん特集をやろうというのは実は『タマフル』を始まってすぐぐらいから持ち上がっていた企画なんですけどね。いつかちゃんとやりたいものですよね。

(中略)

(宇多丸)といったあたりで、先ほどいろんなアーティストが影響を受けて……っていうので一瞬「BOOWY」とか言って……。

(町山智浩)名前出してましたね。

(宇多丸)それこそ、教授。坂本龍一さんが『未来派野郎』って作って、ここで、やっぱりこれも『ブレードランナー』の影響を受けて……っていうような話を町山さん、実は先週放送が終わった後にちょろっとお話をされてましたけど。

(町山智浩)はいはい。これはでも、『未来派野郎』の1曲目を聞いてもらった方が早いんだけど。かけてもいいんですかね?

(高橋ヨシキ)すぐわかると思いますよ。

(宇多丸)実はね、音源スタンバイしているんだそうですよ。ということで、第二部。急遽『ブレードランナー』が日本のカルチャーに与えた影響とは? 改め……『ブレードランナー』歌謡祭! ということでね、町山さん主催の……。

(高橋ヨシキ)これ、町山さん企画?

(町山智浩)俺企画(笑)。だってこれ、俺リアルタイムだから。『宝島』編集部にいる時にちょうど坂本龍一さんの『未来派野郎』が出まして。そしたら、坂本龍一さんって結構その頃、アンビエント・ミュージックとかやっていたんだけども、完全に音楽で『ブレードランナー』世界をやってきたんですよ。

(高橋ヨシキ)でもその時は『未来派野郎』は実は坂本龍一さんとかはインテリだから、イタリアのマリネッティとかがやっていた未来派運動を上手く持ってきて、それとノイズミュージックとの兼ね合いみたいなところを背景にしたっていう言い訳をつけて『ブレードランナー』をやるという。複雑なことをやっているというね。

(宇多丸)音楽的にはサンプリング・ミュージックの走りというかね。

(町山智浩)はいはい。DXだっけ、この頃ね。

(宇多丸)とりあえず、教授から行きますか?

(町山智浩)教授から行ってもらいましょう。

(宇多丸)坂本龍一さん、『未来派野郎』の1曲目ですね。『Broadway Boogie Woogie』。

坂本龍一『Broadway Boogie Woogie』



(宇多丸)いま、この部分が実は……。

(町山智浩)『ブレードランナー』のサンプリング。

(高橋ヨシキ)デッカードがレイチェルに「好きよ」って言わせるところですね。

(町山智浩)「俺を愛していると言え! 俺を愛していると言え!」っていうのを。

(高橋ヨシキ)「抱いてと言え!」っていう。

(町山智浩)そう。繰り返しているところ。

(宇多丸)これ、クリアランスどうしているんだろう?

(町山智浩)わからない。

(高橋ヨシキ)わからないですねー。グレイゾーンじゃないですか?

(町山智浩)でも、このリズム。「ダッダッダッダダッダダッダッダッ♪」ってやつ。

(宇多丸)これね、残念ながらものすごい80’sの、すごい80’sなところで。

(町山智浩)『フットルース』がそうでしょう? あと、『ストリート・オブ・ファイヤー』。

(宇多丸)なるほどね。なるほどね。ああーっ!

(町山智浩)あの頃のリズムは「ダッダッダッダダッダダッダッダッ♪」って。

(宇多丸)なんだけど、これサックスを吹いているのはメイシオ・パーカーだから。J.B.’sの。

(町山智浩)本物ではあるんだけど(笑)。

(宇多丸)だから要は教授的にはヒップホップ時代の予感をここに込めているんですよ。間違いなく。なんだけど、このビート感が全然ヒップホップ時代じゃない!っていう感じで。

(町山智浩)80年代なんですよ。

(宇多丸)なんか80年代ポップの……。

(町山智浩)そうそう。だからこれ、デビッド・ボウイの『Modern Love』もそうじゃない。「ダッダッダッダダッダダッダッダッ♪」ってこの当時のリズムなんですよ。完全に。



(宇多丸)うんうんうん。ねえ、これがもうちょっと重たいビートなら、その後の時代にもたぶん対応できた感じなんだけどね。でも、すごい時代の産物っていう感じで。で、クリアランスはたぶんやっぱりサンプリングなんかはこの頃、まだ出たてだから。そんなはずはないっていう。

(町山智浩)その後に、いろんな裁判があってはっきりしていったりっていうね。

(宇多丸)ビズ・マーキーとかね、ありましからね。

(町山智浩)ただ、これをやっているのはやっぱりヴァンゲリスの音楽っていうのがすごかったんですよ。『ブレードランナー』のサントラでの。とにかくものすごくかっこいいから。特にエンドタイトルがもう本当にかっこよくて。もうみんなパクッてるんだけど(笑)。



(宇多丸)あれ、でも当時正規のサントラが出なかったんですよね。

(町山智浩)出なかったの! あれね、だから本当にすごかったのは、ニューアメリカンオーケストラバージョンっていうのしかなかったんですよ。

(高橋ヨシキ)それしかなかったんですよ。

(宇多丸)再演奏(笑)。

(町山智浩)そうそう(笑)。なんだか全然わかんないけど、それしかないから買うわけじゃないですか。

(高橋ヨシキ)聞いた瞬間、「違う!」ってなるっていう(笑)。

(宇多丸)アハハハッ!

(町山智浩)聞いた瞬間のオープニングで、さっき言った「ジャララン♪」が全然違う音で。「ジャララン♪」が全然違うっていう。

(宇多丸)でもその、やっぱり断片を求めてね。当時はそういう正規のグッズもないし。断片を求めて。それこそ、ブラスターも含めて。

(町山智浩)だって、あれだよ。要するにみんなヴァンゲリスの本当のやつがほしいから、海賊盤とかいっぱい裏バージョンが出ていたんだもん。

(宇多丸)正規が出たの、だいぶ後ですよね?

(町山智浩)すっごい後なの。

(高橋ヨシキ)しかも、そんなみんなが渇望している時に『スターログ』っていう雑誌が「『ブレードランナー』のサントラが出ました」っていうエイプリルフール記事を載っけたせいで、日本中でみんなレコード店に殺到して。

(宇多丸・町山)アハハハッ!

(高橋ヨシキ)「出てるのか?」っつったら「嘘でした」とか言われて。

(町山智浩)ヴァンゲリスっていう人もいろいろと問題がある人で。いろいろと問題があるせいで出なかったんですよ。

(宇多丸)ああ、そうなんですね。

(町山智浩)そうそうそう。でも、これだけサントラが求められていて出なかったっていうのもないよね。

(高橋ヨシキ)いや、本当ですよね。サントラぐらいしか映画のグッズがなくて。だからビデオはあったんですけど、それぐらいしか映画の手がかりがない時代で。

(町山智浩)ワーナー・ホームビデオの大ヒット商品だったの。『ブレードランナー』は。

(宇多丸)はい。ということで歌謡祭、どんどん行きましょう。

(町山智浩)はい。でね、これでいちばん『ブレードランナー』ですごかったのは1986年……だったと思うんだけど。僕が行ったコンサートがあって、BOOWY。有名なBOOWYですよ。BOOWYがはじめてホールでやるっていう『JUST A HERO TOUR』っていうのがあって、渋谷公会堂(渋公)から始まったんですよ。

(宇多丸)もうないもんね。

(町山智浩)ないんだけど、渋公っていうのは日本だとそっから大スターになっていくということで。そこでBOOWYがやったんだけど、その時のステージセットは完全に『ブレードランナー』だったの。

(宇多丸)そういうデッドテックな?

(町山智浩)そう。廃墟のビルが立っていて。

(高橋ヨシキ)火とか噴いて?

(町山智浩)そうそう。火を噴いていて、光を発していて。歌詞は全然違うんだよ。BOOWYの世界っていうのは。だって、「英語、数学まるでダメだけど♪」って全然未来感はないんだけど。

(宇多丸)フハハハッ!

(町山智浩)ただ、セットは完全に『ブレードランナー』なんですよ。で、「うわっ、すげえ!」って思っていたら、その後にギタリストの布袋寅泰さんがもう『ブレードランナー』にどんどんハマッていって。で、ソロになると本当にジェフ・ベックみたいに『ブレードランナー 愛のテーマ』とかレイチェルとのラブシーンところで流れるやつをこうやってもう、いい湯加減で弾くわけですよ。



(宇多丸・高橋)フハハハッ!

(町山智浩)しかも彼がその後に出したアルバムで『レプリカント』っていう曲までやっていて。『レプリカント』を……。

(宇多丸)あ、じゃあ聞きましょうか。布袋寅泰さんで『レプリカント』。

布袋寅泰『レプリカント』



(宇多丸)布袋寅泰さんの『レプリカント』。これ、歌詞がね、すごいですよね。

(町山智浩)「お前はレプリカント 笑顔で泣いている」とかね。

(宇多丸)ずっとほぼほぼ『ブレードランナー』のストーリーを説明してるっていう。


(町山智浩)そうなんですよ。

(高橋ヨシキ)「限られた命は 永遠を夢見るのか」とかね。まさにテーマですね。

(町山智浩)これはレプリカントのレイチェルが、4年だっけ? それしか命がないとかね。これはレイチェルとデッカードの恋愛を説明している歌詞なんですよ。

(宇多丸)すごいですよね。

(町山智浩)こういうの、すごくて。まあBOOWYって、いまの曲って聞いてわかったと思うんですけど、デビッド・ボウイのある特定の曲とすごくよく似ていて。

(宇多丸)なるほど。元ネタがね。

(町山智浩)後ろの男性コーラスもそっくりなんですが。BOOWYっていうバンド自体がデビッド・ボウイの影響を受けているんですけど。デビッド・ボウイってやっぱり、こういうのを予言していた人ですよ。

(宇多丸)まあSF的なね。

(町山智浩)SF的で、あとアジアと西洋の合体みたいなものとか。あと未来世界についても歌っていて、やっぱりデビッド・ボウイってすごかったなと思うんですけど。それに影響をされたのがBOOWYで、さらにそれに影響されたのがBUCK-TICKですよ。

(宇多丸)すごい! BOOWYからBUCK-TICK!

(町山智浩)BOOWYからBUCK-TICK。群馬バンド。群馬パンクとかね、サイバー群馬ですよ。「お前はまだ群馬を知らねえ!」っていう感じなんですけども。

(宇多丸)アハハハッ!

(町山智浩)で、BUCK-TICKが……この人たち、髪の毛を立てているわけですけども……『ブレードランナー』って頭を立てているんだよ。あれ、スパーズ・アタックかな? 出ている人。

(高橋ヨシキ)そうですね。パンクスもいましたね。

(町山智浩)スパーズ・アタックっていう、その頃にJBが日本でコンサートをやった時に……。

(宇多丸)ああ、細野さんのね、FOEのボーカル。

(町山智浩)細野さんがやった時の。あれもだから、テクノ的な読み替えでJBを聞くっていう時代があったじゃないですか。アフリカ・バンバータとかいろんなのが出てきて。

(宇多丸)まあ要は、細野さん的なヒップホップ解釈なんですけどね。

(町山智浩)そうそうそう。その時に、スパーズ・アタックが細野さんのバンドのボーカルをやってJBを歌ったんだけど、スパーズ・アタックはたしか『ブレードランナー』に出ているんだよ。

(宇多丸)ああ、マジっすか!?

(町山智浩)あのパンクのキャラクターがスパーズ・アタックさんっていう人だったと思います。

(宇多丸)へー! 武道館のJB公演でものすごいブーイングを浴びていて。

(町山智浩)ブーイング浴びたんですけど、彼はたしか『ブレードランナー』にパンクの役で出ているんですよ。だからそういう変なつながりが裏であるんです。で、群馬の話に戻りますと……。

(宇多丸)群馬の話。BUCK-TICKね。

(町山智浩)BUCK-TICKも年齢的には僕と同じぐらいなんですけど、BOOWYも僕と同じなんです。布袋さんは1962年生まれなんですけど。で、BUCK-TICKも1人が62年生まれで、62年は『ブレードランナー』世代なんですよ。

(宇多丸)うんうんうん。

(町山智浩)で、BUCK-TICKの『疾風のブレードランナー』を聞いてもらいましょう。

(宇多丸)はい。BUCK-TICKで『疾風のブレードランナー』。

BUCK-TICK『疾風のブレードランナー』



(宇多丸)ちょっと思いの外イントロが長かったですけども。

(町山智浩)イントロ、これ普通テレビとかでやる時はやらないでいきなり歌から入るんでね(笑)。

(宇多丸)すいません。切っておけばよかった。ただ、もういきなり「降りしきる酸性雨 黒い雲」っていうね。

(高橋ヨシキ)その後で「頬を伝う酸性雨」ってね、「Tears in rain」ですよ。

(町山智浩)そう!

(宇多丸)まさにクライマックスシーンの。

(高橋ヨシキ)ロイ・バッティのセリフがそのまま……。

(宇多丸)なおかつそれを、最終的には「青空の下で」ってね。劇場版のエンディングまで説明しているという。

(高橋ヨシキ)そう。「その向こうで風が吹いているはずだ」ってこれ、映画を紹介してるんですね(笑)。

(町山智浩)そう。映画のストーリーをそのまま順番に説明してる歌詞なんですけど。

(宇多丸)さっきの布袋さんもそうだし。やっぱり日本人って生真面目っていうか。

(町山智浩)日本人って真面目だから、映画からイマジネーションを広げないで、映画の説明をするっていう癖がありますっていう(笑)。「主題歌を作ってください」って言われて作りました、みたいな感じになっちゃっているんですけど。最近のアニメの主題歌みたいな感じになってますけども。

(宇多丸)でも、『ブレードランナー』愛は伝わりますね。

(町山智浩)すごく、これもう本当に好きでしょうがないんだなっていうことがよくわかるんですよ。

(宇多丸)これ、歌謡祭おもしろいからガンガン行きましょうよ。どんどん。

(町山智浩)でね、とんでもないものをやりましょう。とんでもないものはね、相楽晴子『ブレードランナー』(笑)。

(宇多丸)おおっ、全然SF感がない。相楽晴子。

(町山智浩)全然SF感ないんですよ。相楽晴子。相楽晴子といえば、『スケバン刑事』ですからね。ビー玉のお京ですけど。あと、まあ『どついたるねん』の名演技がありますけども。彼女がそのものずばり、『ブレードランナー』という曲を……。

(高橋ヨシキ)みんな題名に『ブレードランナー』って使いすぎじゃないですか?

(宇多丸)タイトルに『ブレードランナー』って……他にもう「○○の」も付かないですからね。

(町山智浩)もう曲をかけてくださいよ。

(宇多丸)相楽晴子で『ブレードランナー』。

相楽晴子『ブレードランナー』




(町山智浩)いいでしょう、これ?

(高橋ヨシキ)ヤバい。

(宇多丸)だ、ダセえ……(笑)。

(町山智浩)これ、いまおっしゃったんですけど、「サンライズのアニメみたい」っていう。『メガゾーン』とかね、あの頃のOVAの主題歌だよね、これ。



(宇多丸)「ブレードランナー♪」って。

(町山智浩)「ブレードランナー♪」っつってね(笑)。みんなでハモってますが。

(宇多丸)これ、ユーロかなんかのカバーですか?

(町山智浩)そう。もともとあるんですよ。ヨーロッパの方の歌で。

(宇多丸)でも、それは別に『ブレードランナー』じゃないんでしょう?

(町山智浩)元も『ブレードランナー』なんです。

(宇多丸)あ、そうなんですか。

(町山智浩)ほとんど同じ。

(宇多丸)へー!



(町山智浩)だからこれ、『ブレードランナー』っていうのは女を騙す男らしいんですよ、この世界では(笑)。

(高橋ヨシキ)だいたい合っているじゃないですか。

(宇多丸)まあまあ、間違ってはいない(笑)。

(町山智浩)そうそう。「俺を愛してるって言え!」っていうやつなんでね。これ、本当にさ、MADビデオがあるじゃない? この曲に合わせて『ブレードランナー』のMADビデオを作りたくなるでしょう、これ?

(宇多丸)ああ、いいですね!(笑)。

(町山智浩)「ブレードランナー♪」っていうね。

(宇多丸)いやー、衝撃だったわー。

(町山智浩)この80年代のOVA的な音楽、素晴らしいですけども(笑)。

(宇多丸)なんと、もう……ヨシキさんが死んだ目になっていますけども。

(高橋ヨシキ)いやいや、死んでないですけど。そのMADビデオで思い出したんですけど、たぶんね、昔……あれはどこの大学だったのか、東大の人だったかわからないですけど。『ブレードランナー』の頃かもうちょっと後に『ブレードランナー』の予告編だと思うんですけど。その音に合わせて新宿歌舞伎町で8ミリを回して適当に撮ったのを繋いで、それに音をかぶせると超『ブレードランナー』に見えるっていう8ミリの自主映画があって。それのことをいま、ボーッと思い出したりしていましたね。

(町山・宇多丸)へー!

(高橋ヨシキ)どなたが作ったのか、誰が情報がある人いたら教えてほしいんですけど。

(町山智浩)だからそれがすごく魅力的だったのは、とにかく未来世界にいつでも、新宿に行けば行けるっていうのはすごいことだと思うよ。

(高橋ヨシキ)すぐそこですからね(笑)。

(町山智浩)それで、道端に立っているし。そういう人も。ねえ。

(宇多丸)いや、でもこれは知らなかったです。

(町山智浩)知らないでしょう? でも、こういうのって結構マイナーな話をしているような気がするじゃないですか? そうじゃなくて、超大物の松任谷由実さん。ユーミンも作っているんですよ。『ブレードランナー』歌謡を。

(宇多丸)ユーミンさん、この間ユーミンさんのラジオに出た時に、なぜか『ブレードランナー』の話になって。「すごい楽しみにしている!」って。

(町山智浩)なぜか『ブレードランナー』に(笑)。

(宇多丸)なぜか『ブレードランナー』の話になって、すげえ楽しみにしている新作みたいな話をしていましたけども。はい。ユーミンはどんな曲なんですか?

(町山智浩)これは結構最近の曲なんですけど、『今すぐレイチェル』。

(宇多丸)2011年じゃないですか!

(町山智浩)だってこれ、シングルヒットしてるんだもん。コマーシャルソングだったですよ。

(宇多丸)はい。じゃあちょっと行ってみましょう。松任谷由実さんで『今すぐレイチェル』。

松任谷由実『今すぐレイチェル』



(宇多丸)はい。ユーミンの『今すぐレイチェル』。レイチェルは明らかに劇中で出て来るレイチェル。「今すぐレイチェル 君を救いたい 洗脳の檻を破ってエンジェル」っていうね。

(町山智浩)ねえ。そのまんまですね!

(宇多丸)「お前はレプリカントだ!」(笑)。

(町山智浩)そう。もうストレートに「お前はレプリカントだ!」って。もうちょっとデッカードはソフトに言えないのか?って思いますけども。

(高橋ヨシキ)「お医者さんごっこの途中で逃げたことを人に話したことがあるか?」って言うんですよね。

(宇多丸)その話をしているっていう。それをでもさ、2011年に改めてやるんだから、ユーミンは本当に『ブレードランナー』をすごいね……いまだに『ブレードランナー』曲を作っているっていうことですね。

(町山智浩)昨日ね、ハリソン・フォードに松任谷由実さん、会ったらしいんですよ。

(宇多丸)あ、マジっすか?

(町山智浩)いま、来ているから。それで、『今すぐレイチェル』を聞かせたらしいんですよ。「あなたのために作りました」っつって。



(宇多丸)あ、そうなんだ! じゃあもうストレートに。あらあらあら。

(町山智浩)すごいですよ、これ。

(高橋ヨシキ)じゃあデッカードがこれを聞いていたってことですよね。ヤバい!

(宇多丸)歌謡祭、もうあちこちで広がってるじゃん!

(町山智浩)すごいですよ。

(宇多丸)世界に広がる『ブレードランナー』歌謡祭ね。

(町山智浩)すごいよ、これ。

(高橋ヨシキ)この『ブレードランナー』の網の目から抜けられないっていう。ヤバいっすね。

(宇多丸)アハハハッ!

(町山智浩)でもこれ、テレビでコマーシャルソングとして流していたらしいんですよ。でもみんな、この『今すぐレイチェル』っていうのの歌詞が『ブレードランナー』のデッカードの気持ちで歌っているとは誰も思っていないよね。たぶんね、みんな。

(宇多丸)いやー、面白いわ。

(町山智浩)これ、すごいね。みんな知らない『ブレードランナー』歌謡の世界ですよ。

(高橋ヨシキ)最後、「ゆっくり記憶のドアがひらくひらく」って書いてありますよ。すごいですよ、これね。

(町山智浩)そうそう。だから彼女を洗脳から解くというか、レプリカントであることを確認するシーンのことを歌っているんですよね。

(高橋ヨシキ)素晴らしいですよね。

(宇多丸)そして、早瀬優香子さんの『硝子のレプリカント』は頭のところでかけてしまったので、これ。ヨシキさんのリクエスト。

(高橋ヨシキ)はい。ヤプーズの『バーバラ・セクサロイド』という歌がありまして。これは絶対にプリスの歌だと思うんですけど。

(町山智浩)戸川純さんですね。

(宇多丸)それではヤプーズで『バーバラ・セクサロイド』。

ヤプーズ『バーバラ・セクサロイド』



(宇多丸)はい。ということでヤプーズで『バーバラ・セクサロイド』。劇中のプリスが……プリスはセクサロイドで、要するに性の慰み用に作られたレプリカントで……という話をしているということですよね?

(町山智浩)はい。ダリル・ハンナが演じていた。で、画面の中にプリスのデータが出る時に「セクサロイド」って出てくるんですよね。セックス用のアンドロイドって出てくるんですけど、その気持ちで歌っているという(笑)。戸川純さんが。

(宇多丸)すごいねー。

(町山智浩)セクサロイドの気持ちで(笑)。

(宇多丸)いやー、しかし結構あるもんですね。これね。

(町山智浩)あるんですよ。

(宇多丸)『ブレードランナー』歌謡。そして今日ね、町山さんとヨシキさんと『ブレードランナー』の特集をやるから……って聞いていた人はね、まさかこんな放送に転ぶとはね、想像してなかったと思うんですよ。

(町山智浩)でもリアルタイムだから。本当にみんなが『ブレードランナー』のことを歌いだして漫画に描いて、『ブレードランナー』のことばっかり語っていた時代っていうのがあって。もうひとつ、現代思想の世界でも『ブレードランナー』のことばかり論じていたのね。みんな。その当時は。まあ、ポストモダンとか言って。『ブレードランナー』のことしかなかった時代があったんですよ。86年ぐらい。

(宇多丸)これ、本当にいま挙げてもらったのは結構直接的に『ブレードランナー』を引用してたり、説明していたりするんだけど。もっと『ブレードランナー』のデッドテックな未来像とか。そういうところまで含めたら……。

(町山智浩)もうすごいですよ。

(宇多丸)裾野の把握は不可能っていう世界。

(町山智浩)それこそ、ヨーロッパの方にもいっぱいあるから。そういう音楽は。

(宇多丸)まあ、その一端を日本は……。

(町山智浩)だからSigue Sigue Sputnikがそうですよ。あれが完全に『ブレードランナー』の世界をやろうとしたもんね。『Love Missile』ですね。



(宇多丸)まあ全然ブレイクしなかったけど……っていうね。

(町山智浩)でも布袋さんがそれを真似してブレイクしてますから。それ、いいのか?っていう問題もありますけども(笑)。

(宇多丸)まあSigue Sigue Sputnikが日本に来た時、ロマンポルシェ。が前座だった時に行きましたよ。

(町山智浩)ああ、本当に? 元気でした?

(宇多丸)元気でした。

(町山智浩)まあ、友達じゃねえけどな。別に(笑)。

(宇多丸)元気でやっておりました!

(町山智浩)元気でやってました? はい(笑)。

(宇多丸)といったあたりで、いったんCMに行ってから、昨日公開されたばかいの続編『ブレードランナー2049』のお話をうかがいます。ネタバレチキンレース、開幕です!

<書き起こしおわり>
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