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町山智浩 テネシー州ナッシュビルの盛り上がりを語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で取材で訪れたテネシー州ナッシュビルについてレポート。近年女性たちの独身最後のパーティー需要を取り込んで女性観光客で街中が盛り上がり、不動産価格が2倍以上になったことなどについて話していました。

(赤江珠緒)町山さん、今日はスタジオにご登場です。お久しぶりです。

(町山智浩)ああ、どうもです。ちょっとお土産があるんで。これ、山ちゃん。お酒セット。ジャックダニエルズですね。

(山里亮太)すごい! 素敵な、これ……。

(赤江珠緒)いろんな小瓶が並んでいて。素敵。

(町山智浩)ジャックダニエルズの工場があるテネシー州ナッシュビルに行ってきたんで。お酒、飲みます?

(山里亮太)飲みます、飲みます。うれしい!

(町山智浩)で、ピンクピン太郎ちゃんに……。

(赤江珠緒)えっ、ああ、うれしい!

(町山智浩)ナッシュビルのTシャツ。

(赤江珠緒)Tシャツ、かわいい! ありがとうございます。

(町山智浩)あとね、これは赤江さんに。これ、「ウィスキー好きの女」って書かれているTシャツ(笑)。

(赤江珠緒)アハハハハハッ! 「ウィスキー好きの女」って書いてあるの、これ?

(町山智浩)「Whiskey Lovin’ Woman」って書いてあります。こんなの着て歩けないですよね(笑)。家で寝間着代わりに着てください。



(赤江珠緒)いやいや、これ、じゃあ海外の人とかにすれ違ったら「あいつ!」って思われるのね(笑)。

(町山智浩)そうそう。「酒飲み女が!」って思われるんですよ(笑)。

(赤江珠緒)いやいや、うれしいです。ありがとうございます。すいません。

(山里亮太)ありがとうございます。町山さん、すいません。

(町山智浩)ナッシュビルはその「ウィスキー好きの女」って書いているのを着ている女の子が街にあふれているんです。

(赤江珠緒)あ、ウィスキーの街っていう感じなんですか?

(町山智浩)そうなんですよ。ナッシュビルっていまね、観光客がすごく集まって、ものすごいブームの街で。夜にライブハウスが10軒ずつ並んでいるようなすごいところがあるんですよ。で、そこに女の子たちが1000人とか2000人とかあふれているんですよ。

ライブハウス通りが女性観光客であふれる


(赤江珠緒)若い女性たちが? ああ、そう?

(町山智浩)で、それはね、みんな友達の誰かが結婚するっていうことになって、独身最後のパーティーに来ているんですよ。『ハングオーバー!』っていう映画で男たちがやっていたじゃないですか。ただ、いままでそれはラスベガスだったんですよ。でもラスベガスはあまりにも男向けなんですよ。街全体の作りがね。だからバクチとストリップとかそんなのばっかりだから女の子が行く場所じゃなかったんですよ。ところがナッシュビルは完全に女性向けにして。で、誰かが結婚するっていうとアメリカ人は「じゃあ高校とか大学の友達同士でナッシュビルに行こう!」っていうのが流行っているんです。

(赤江・山里)へー!

女性たちの独身最後のパーティーで人気


(町山智浩)で、ベロベロに酔っ払っていて。最近のアメリカとかヨーロッパとかアジアの観光地に行くと、動くバーっていうのがあるの、見たことあります?

(赤江珠緒)あ、知ってる! みんなで自転車みたいなのをこいで。屋台みたいな乗り物になっていて。その周りを座って囲んで自転車をこぐんですよ。で、街中を移動して、ある場所でまた止まって飲む、みたいな。

(町山智浩)そう。バーのカウンターそのものが動くんですよ。自転車になっていて。

(山里亮太)それ、お客さんがこぐの?

(赤江珠緒)お客さんがこいで。

(町山智浩)自転車をこぐ。そうすると、酔いが早く回るから。運動をすると。で、バーだからそこでお酒が出るわけですよ。だから道端でお酒を飲んでいるっていうか、道路を走りながら女の子たちがそれに乗って自転車をこぎながらお酒を飲んでいる状態なんです。

(山里亮太)それ、飲酒運転にならないのかな?

(町山智浩)いや、だから俺も飲酒運転になるのかな?って思ったけど、運転手は違うんですよね。

(赤江珠緒)ああ、そうかそうか。運転手さんが前にいるんだね。こぐ労力だけ、みたいな。

(山里亮太)動力だけだからいいんだ。はー! 運転する人が間違わなきゃいいんだもんね。


(町山智浩)そうなんですよ。で、ライブハウスがズラーッと並んでいるんだけど、どのライブハウスも入場料はタダ。ナッシュビルは。

(赤江珠緒)へー! 楽しいですね。じゃあ、行ってライブをはしごみたいな。あっち行って、こっち行って……みたいな。

(町山智浩)そうなんですよ。でね、ナッシュビルってもともとカントリー&ウエスタンのレコーディングスタジオがある、ミュージックシティって言われていたところなんですけど。最近ではテイラー・スウィフトがカントリーから出てきて、クロスオーバーっていうポップとかロックをやり始めたんで。まあジャンルがなくなっていったんですよ。で、ライブハウスも全部ロックとかブルースとかカントリーとか、もうありとあらゆる音楽があるんです。で、「ここに行ってちょっと聞いて、じゃあ次に行こう」っつって、みんなベロベロになりながらはしごして音楽を聞いてこうやって踊って。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)クラシック・ロックのところに行ってディープ・パープルで踊ったりとかっていうのをやるんですけど。で、出ている人は全員めちゃくちゃ上手い。レコーディングスタジオに来ているから、ほとんどみんなレコーディングミュージシャンだったり、スタジオミュージシャンだったり。あと、歌手になりたい人たちが自分で歌うのを見せてプロデューサーとかにアピールするために来ているから、全員もうプロ。

(赤江珠緒)はー! じゃあ、お金はだって、ライブだけど払っていないでしょう? だけどみんな、プロとしてここで?

(町山智浩)そうそう。だからギャラはそんなにもらっていないんですよ。みんな自分たちのショーケースとしてやっているから。だから入場料はタダなんですよ。もう音楽の質もいいし、安いし。お酒飲み放題でめちゃくちゃ楽しいから、ナッシュビルはもう観光地として大成功していて。街中が高層ビルの建築ラッシュ!

(山里亮太)へー! もうバブルなんだ。

不動産価格が2倍以上に

(町山智浩)バブル。大バブル。僕、6年ぐらい前に行った時はそんなでもなくて。2011年ぐらいから爆発的な人気が出て。不動産価格が2倍以上に跳ね上がりました。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)すごいですよ。もうひとつは、日本企業がすごくここで成功しているんですよ。

(赤江珠緒)なんの企業だろう?

(町山智浩)日産。日産の工場があって。日産のメインのいちばん大きい工場がここにあるんです。

(赤江珠緒)ナッシュビルにあるんですか。へー!

(町山智浩)で、日産スタジアムっていうのがあって。ただね、経営者だけが日本人で、働いている人は全部現地人なんですよ。あと、ブリジストンの工場もあるんです。だから産業もすごくここは盛り上がっていて。で、すごいですよ。観光地だけど中国人も日本人も韓国人もいないんですよ。アジア人はゼロ。

(赤江珠緒)へー! ああ、そう?

(町山智浩)アジア人ゼロ。すごいですよ。

(赤江珠緒)それはあんまりナッシュビルという街の響き、名前が聞いたことないですからね。

(町山智浩)聞いたことないでしょう? カントリーウエスタンの街だから。それで、外国からは来ていなくてアメリカ人の観光客だけが集まっているんですけど。すごいですよ。スーパーマーケットに買い物に行ったらニコール・キッドマンと会ったとかいう人がゾロゾロいるんですよ。住んでいるから。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ニコール・キッドマンは旦那がカントリーミュージシャンだからね。オーストラリア出身の。だからすごく変な街で面白くて。で、僕は地元の観光局に「日本からの取材なんだけど、いろいろと都合してくれないか?」ってたのんだら、「日本から観光客なんかナッシュビルには来ねえから、協力しねえ!」って言われて(笑)。

(赤江珠緒)アハハハハハッ! いや、これからね。そうですよ。そんな楽しいところだったら。

(町山智浩)世界中の観光地、僕はあちこち行くけど、中国人が誰もいないっていうのははじめて見ましたね。

(山里亮太)いまはいたるところに中国の方がいますもんね。日本なんかすごいですけども。

(町山智浩)そう。日本人か中国人、かならずいるんだけど。誰もいなくて。

(山里亮太)これ、情報としてアジアを対象にしていないからでしょうね。

(町山智浩)まあ音楽がそんなに流行っていないと思っているんですよね。ナッシュビルの音楽が。ただ、テイラー・スウィフトとかマイリー・サイラスとか、結構みんな知っているから。だから宣伝をすればいいのにっていうのでそういう話をしてきたんですけど。ただ、まだアジア人が来るには辛いところがあったんです。食べ物。

(赤江珠緒)ああ、そう?

(町山智浩)ナッシュビルの食べ物って、全て揚げ物なんですよ。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。ほうほう。

(町山智浩)全てフライ。で、チキンとかビーフとかポークとかっていうんだけど、見た目がわからない(笑)。全部揚げてあるから。

(赤江珠緒)アハハハハハッ! 全部茶色い。

(町山智浩)で、もう歳だから胸焼けしてくるんですよ。揚げ物ばっかり毎日食べていると。だから「野菜をくれ」って言ったら、野菜も揚げてある。オクラとか(笑)。

(山里亮太)ええーっ!

(町山智浩)で、「付け合せとか、ないの?」って聞いたら「じゃあピクルスがあります」って。漬物。漬物はいいんだけど、漬物も揚げてあるっていう。

(赤江珠緒)ええーっ! ピクルスは揚げなくていいよ、もう!

(町山智浩)だからテーブルの上は全部揚げ物で、見分けがつかなくて。「これ、なんだっけ?」って言いながら食べるっていう(笑)。

(山里亮太)ちょっとギャンブルな感じで(笑)。

(町山智浩)そう。ギャンブルな(笑)。「あれっ?」って思って。野菜だと思ったら違ったみたいな。

(山里亮太)それ、何日か滞在だとちょっとキツいですね。

(町山智浩)ちょっとキツかった。途中からもう胸焼けがすごくて。

(赤江珠緒)でもそんな街があるんですね。

(町山智浩)もうざるそばが食べたくなりましたね。はい(笑)。というところがナッシュビルでしたが。

(赤江珠緒)お土産、ありがとうございました。

(町山智浩)それはね、『町山智浩のアメリカの”いま”を知るTV』っていう僕がやっているBSの番組のロケでいったんですけども。

(山里亮太)ああ、ロケはさせてもらえたんですね。ナッシュビルで。

(町山智浩)まあ、ちょこっとだけなんですよ。そこに行ったのは、そこでやる白人至上主義者の集会に飛び入り参加するためだったんです。

(赤江珠緒)へー! そこで?

(町山智浩)そこでやっていて。そっちは許可してくれて。どうしてか?っていうと、その主催者の人、白人至上主義団体のリーダーが、日本で生まれて16才まで日本の住んでいた人なんです。

(赤江珠緒)ええっ? そうなの? それで、白人至上主義になっているの?

(町山智浩)そう。で、「あなた、白人って自分以外ほとんど見たことなかったでしょう? 16まで」って言ったら「はい」って言っていて。アメリカにはじめて行ったのが17の時だったっていう。

(赤江珠緒)じゃあアメリカへの憧れが妙に高まっちゃったのかしら?

(町山智浩)だからたぶんねじれちゃったんだろうね。ずーっと日本で、その人は神戸で育っているんですよ。周りは全部日本人で。で、日本語でインタビューしてきましたよ。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。

(山里亮太)16まで住んでいたら、そうか。

(町山智浩)そう。だからネイティブなんですよ。完全に。なにがきっかけで?っていう話をいろいろとしていますんで。

(赤江珠緒)ああ、それは興味深いわ!

(町山智浩)それは他局ですが(笑)。

<書き起こしおわり>

町山智浩 『ア・クワイエット・プレイス』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアメリカで大ヒット中のホラー映画『ア・クワイエット・プレイス』を紹介していました。


(町山智浩)あ、それで今日の映画ですね。

(赤江珠緒)じゃあ、今日の映画ですが……。

(町山智浩)今日の映画は『ア・クワイエット・プレイス(A Quiet Place)』っていう。

(赤江珠緒)これ、アメリカで大ヒットですって?

(町山智浩)これ、ものすごい大ヒット!

(山里亮太)ホラーですよね。

(町山智浩)ホラーなんですよ。ホラーなんだけど、そんなに気持ち悪くはないです。ただね、ものすごいドキドキする映画。だからもう客が飛び上がったりしています。

(赤江珠緒)ああ、ビクッて?

(町山智浩)そう。ビクッ系。

(山里亮太)ああ、ビクッ系……苦手。

(町山智浩)俺もそうなんですよ。ビビリだから。気持ち悪いのは平気なのに、びっくりさせられるのは弱いっていう感じなんですね。

(赤江珠緒)ああ、町山さんもそうなんだ!

(町山智浩)結構そう。ビビリだから。で、これね、「クワイエット・プレイス」っていうのは「静かな場所」っていうタイトルなんですけども。これね、とにかく映画にセリフがほとんどないんですよ。10個ぐらいしかセリフが無いんじゃないかな?

(赤江珠緒)えっ、そんなに少ないの?

(町山智浩)そう。っていうのは、声を立てたり大きな音を出すと殺されちゃう世界なんですよ。

(赤江珠緒)あらー、怖い!

声や大きな音を出すと何者かに殺される世界

(町山智浩)で、なんでそうなっているかっていうのは全然説明がなくて。ただ、アメリカではもう主人公たちの家族がいて。お父さんとお母さんと子供2人がいるんですけど。それ以外はもうほとんど全滅しているらしいんですよ。ゴーストタウンになっていて。

(赤江珠緒)街に人がいない?

(町山智浩)もうアメリカ全体が。もしかしたら地球全体が。で、ちょっとでも音を立てるともう殺されるらしいんですよ。何者かに。だから裸足で歩いているんですよ。音を立てないように。で、木の葉とかも踏まないように歩いているんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、なにか声を立てそうになったら口をガッとふさぐっていう世界で、いったい何が起こるのか?っていうね。言えないんですけど(笑)。

(赤江珠緒)ああーっ! そりゃそうですよね。

(町山智浩)これ、すごいのがものすごい安い映画なんですよ。登場人物は5人ぐらいしか出てこないんですよ。みんな死んでるから。殺されているから。で、セリフもないし、ほとんど映画の間は音がない。

(赤江珠緒)あ、音楽とかも?

(町山智浩)音楽は静かに「ドォーーーン……」って音があるぐらいで。ほとんど音がないから、なにか物を倒しただけでもう観客全員がバッて起き上がるんですよ。席から。

(赤江珠緒)ああーっ! 映画館でお客がたてた物音でもビクッてしちゃうんだ(笑)。怖い!

(山里亮太)入り込めちゃうっていう。

(町山智浩)そうなんですよ。これはアイデアがすごいなって思って。これね、エミリー・ブラントさんって女優さんがいて。『プラダを着た悪魔』とかいろいろと出ている。結構見たことがある人だと思うんですけど。この人の旦那さんで、あんまり売れていなかったジョン・クラシンスキーっていう人が監督をして夫婦役で出ているんですけども。いきなりこれで大大大大大ヒットですよ。製作費の何十倍って。

(赤江珠緒)あ、5人のうちの2人は夫婦っていうこと?

(町山智浩)夫婦です。

(赤江珠緒)夫婦で出ているという。

製作費の何十倍も稼ぐ大ヒット

(町山智浩)夫婦と、だから子供なんですよ。それだけしか出てこない。だから夫婦の家内制手工業映画でもって今年のアメリカ映画で最大の効率ですよ。コスパ最強ですよ。だからもうたぶんね、いままでこの旦那って全然売れない俳優で、奥さんの方が売れていたからいろいろ言われていたと思うんですよ。旦那、いろんなプレッシャーがあったと思うんですよ。「お前、カミさんに食わせてもらってんのかよ」とか。大逆転ですよ、これで!

(赤江珠緒)ああ、そうですか!

(町山智浩)もう他人事ながらホッとしましたよ! なんで俺がホッとするのか? 全然よくわからないですけども。

(赤江珠緒)アハハハハハッ!

(山里亮太)旦那の気持ちがちょっとわかっちゃった。

(町山智浩)そう。そこでなんとなく泣けてきましたね。そこで泣くところじゃねえよ!って言われるんですけど。これが『ア・クワイエット・プレイス』で日本公開がなんと秋ぐらいらしいんですよ。なんでそんなに時間がかかってるんだ?って。これ、字幕翻訳は30分でできますね。字幕つけは30分でできますよ。

(赤江珠緒)セリフが少ないんだもんね。

(町山智浩)そう。でもこれでまた戸田奈津子さんとかにたのんで何十万円とか取られるの、おかしいですよ、これ。これ、映画会社は自分たちで翻訳した方がいいですよ。字幕翻訳とか台本をたのまなくていいですよ、これ。その分、予算が割けるんだからそんな予算は削って、俺に字幕監修料だけくれれば……(笑)。

(赤江珠緒)フハハハハハッ!

(町山智浩)ねえ。5分でやりますから。

(赤江珠緒)どこに向かって提案しているのやら(笑)。

(町山智浩)よくわかんないですけど(笑)。とにかくこれね、字幕翻訳する人は丸儲けだよ、これ!

(山里亮太)セリフも音楽も少ない中で、それだけで成立している。させている設定。

(町山智浩)そうです。これはすごかった。

(赤江珠緒)『ア・クワイエット・プレイス』。

(町山智浩)子供がいる人はちょっと見ていられないシーンもいろいろありますが。結構厳しい……けど、泣ける。お父さん泣ける。あ、最近流行りの、韓国映画によくある父泣き系ですね。

(山里亮太)この前も紹介いただいた。

町山智浩『タクシー運転手 約束は海を越えて』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で韓国映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』を紹介していました。 (町山智浩)で、今日ご紹介する映画はですね、すでに4日前に公開...

(町山智浩)パパ泣き映画です。

(赤江珠緒)父ががんばる系。

(町山智浩)これ、お子さんと行っても大丈夫な感じです。というね、まあすごい家族で見れる恐ろしい映画ということで。『ア・クワイエット・プレイス』でした。日本公開はずっと先ですが。

(赤江珠緒)はい。

<書き起こしおわり>

町山智浩 『カメラを止めるな!』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で上田慎一郎監督の映画『カメラを止めるな!』を紹介していました。


(町山智浩)で、もう1本もホラー映画。『カメラを止めるな!』っていうホラー映画で、ホラー映画というか、これは本当に新人の人で上田慎一郎さんという監督の映画なんですが。これ、『カメラを止めるな!』っていうタイトル通り1シーン1カットっていうか、カットがない。ずーっとひとつながりのホラー映画になっているんですよ。まあ、ゾンビ映画なんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、なんか廃工場で主人公たち4人ぐらいがゾンビに襲われるという形で始まるんですけども、まあ見始めたら「これはダメだな」って思ったんですよ。もうタイミングが悪いし、ゾンビの演技もひどいし。で、ワンカットでずっと撮っているから時々、間が空いちゃっているんですよ。

(赤江珠緒)あら、じゃあ駄作かしら?って。

(町山智浩)「これはもうダメかな?」って思ったら、とんでもなかった!

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)それが全部トリックだったんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)その「ダメだこりゃ」って思うところに全部意味があるんですよ。

(山里亮太)なぜ、そのダメなシーンが出来上がったか?

(山里亮太)そう! それがその後、解き明かされていくんですよ。

(赤江珠緒)ああ、面白そう!

「ダメだこりゃ」に全て意味がある

(町山智浩)これは面白かったですね! で、ゾンビ映画、ホラー映画だっていうことで、結構見に行かない人もいるかもしれませんが。そうじゃなくてこれは三谷幸喜さんの映画に近いんですよ。で、三谷幸喜さんよりも映画として面白い。

(赤江・山里)へー!

(町山智浩)三谷幸喜さんの映画よりも面白い三谷幸喜的映画ですよ。

(山里亮太)まあ伏線を回収していくっていうのが三谷幸喜さんの作品でありますけども。その伏線回収系のやつで?

(町山智浩)三谷幸喜を真似したら、三谷幸喜よりも面白くなってしまったという事故のような……もうすっごい面白かったですよ。それだけじゃなくて、映画を作る人たち、これは安物ホラー映画をテレビ向けに作るんですけども。まあ、いろいろと条件が非常に悪かったり、いちばん問題なのは俳優さんの事務所にダメを出されるっていうのがいちばんよくあるんですよ。

(赤江珠緒)ふーん。

(町山智浩)たとえば、「ここのところでヌードになってほしい。必然性があるから」って言っても、「いや、うちはそんなことさせません!」って言うんですよ。まあ、それは守るためっていうよりかは高く売るためなんですよ。ヌードを。「そんなところで安くヌードは出さないよ」っていう。もっと吊り上げて、話題性があった方がいいっていうことで。で、もうそのシチュエーションがひとつダメになったりするんですよ。あとはまあ、残酷なシーンとか血だらけになるシーンがあると、「いや、ちょっとそれは……」みたいな感じでどんどんダメが出ていって、映画ってどんどん思ったものとは違うものになっていくんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)シナリオでその通りに行くことなんてほとんどないですよ。映画は。だからたとえば原作で主人公たちは同性愛だっていう時に同性愛のまま行ける映画は少なくて。どんどん変わってきちゃうんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、ラブシーンでも女の人が下着をつけたままセックスしたりするんですよ。「おかしいだろ、お前! ブラしたままセックスしねえだろ?」っていう……そんなの、相当急いでいる時だけだよ!

(赤江珠緒)フハハハハハッ! いや、そんな注釈はいらないですよ(笑)。

(町山智浩)あ、そうか(笑)。

(山里亮太)「では、相当急いでいるっていう設定にしましょう」って変えてくるかもしれない(笑)。

(町山智浩)そうそう。どう考えてもおかしいって。あと、寝ている時にメイクしていたりね。「寝ている時にメイクはしないから、せめて少しすっぴんにしてほしい」とか言うと、「うちの女優はすっぴんでは出しません」みたいなことがあって、どんどん話が崩れていくんですよ。だからそういうこととかが盛り込んであるんですよ。この映画『カメラを止めるな!』って。

(赤江珠緒)ははー!

(山里亮太)それ、面白いなー!

(町山智浩)面白いんですよ。しかもこれも父泣き映画なんですよ。

(赤江珠緒)えっ、これが?

(町山智浩)パパ泣き映画なんですよ。娘とパパの話なんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)ちょっとホラーとかからパパ泣き映画につながるの、多いですね。

(町山智浩)たぶん俺を狙っているんだと思います。

(赤江珠緒)アハハハハハッ!

(町山智浩)狙い撃ちされている気がします。

(赤江珠緒)ピンポイントで「町山さんに届け!」って(笑)。

(町山智浩)俺がそれを弱いと思って、そこを突いてきているんだと思います。

(山里亮太)ダメ親父がね、ひょんなことから頑張るっていう。

(町山智浩)だから(『ア・クワイエット・プレイス』の)エミリー・ブラントとかもハリウッドで「ここでパパ泣きなシチュエーションにしておくと、日本のバカな映画評論家が喜ぶから入れておきましょう」とか……そんなわけはねえよ!

町山智浩 『ア・クワイエット・プレイス』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアメリカで大ヒット中のホラー映画『ア・クワイエット・プレイス』を紹介していました。 Acabo de revisionar A ...

(赤江珠緒)アハハハハハッ!

(山里亮太)フフフ(笑)。もしそうだったら幸せじゃないですか。

(町山智浩)まあね、そういう映画がこの上田慎一郎監督の『カメラを止めるな!』。これはもうすぐ公開かな?

(赤江珠緒)そうですね。6月23日公開ということで。

(町山智浩)これね、海外でもものすごく評価されているんですよ。最初、本当にどうなるかと思いましたよ。「ひどい映画だな。この間、なに?」みたいな。

(赤江珠緒)でもたしかにイタリアでも上映後、5分間に渡るスタンディングオベーションですって。

(町山智浩)そうなんです。最後は映画を作る人々への賛歌であり、父と娘の愛情に対する賛歌でありっていう。「えっ、ここで感動。泣かせるの?」っていう映画になっていますね。

(山里亮太)はー! 映画愛を語りたい感じの時って、なぜかゾンビを取り上げること多くないですか?

(町山智浩)そうなんです。だからゾンビ好きっていうのは映画バカが多いっていうことなんですよ。人から理解されないというところだと思います。はい。

(赤江珠緒)なるほど、なるほど。そうかー。

<書き起こしおわり>

町山智浩 井上堯之を追悼する

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で亡くなったギタリストの井上堯之さんを追悼。井上さんの思い出の曲などを紹介していました。

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(町山智浩)それでですね、今日はちょっと映画とは全然関係ないんですけども、ギタリストの井上堯之さんがお亡くなりになって。で、もう追悼番組とかいっぱいあると思うんですけど。僕の世代はとにかく『太陽にほえろ!』とか『傷だらけの天使』とかは小学校6年生ぐらいで。もう本当にクラス全員で翌日の朝は『太陽にほえろ!』の話。『傷だらけの天使』の話っていう。

(赤江珠緒)うん。



(町山智浩)で、『傷だらけの天使』で出てくる歌であったり、オープニングで萩原健一さんがご飯を食べるんですよ。それをみんなで真似して牛乳飲んだり、パンを食べたりっていうのを……。

(赤江珠緒)ああ、小学生でもう。

(町山智浩)小学生や中学生、みんなでそれでやるんですよ。で、中で萩原健一さんが『たまらん節』っていう歌、「たまらん、たまらん~♪」っていうのを歌うんですけど、それをみんなで歌ったりとか。で、拾ったタバコを吸うところがかっこいいから、みんなで拾ってタバコ吸ったりとか。中学生ですけども(笑)。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)もうみんなで真似したりするようなことをしていて。本当、僕らにとっては思春期のBGMがこの井上堯之さんのギターだったんですね。で、沢田研二さんの『危険なふたり』であるとか、『時の過ぎゆくままに』のギターで非常に有名なんですけども。




(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)僕にとっての井上堯之さんの歌でいちばん好きなのは、この『傷だらけの天使』というドラマの最終回で流れた『一人』という歌なんですよ。これは水谷豊さんと萩原健一さんが私立探偵なんですね。で、途中で水谷豊さんが亡くなってしまって。童貞のままでですよ。

(赤江珠緒)そうだったんだ。

(町山智浩)そうなんですよ。だからなんか紅茶ばっかり飲んでいるから怪しいなと思ったんですよ。なんか。

(赤江珠緒)それは『相棒』ですよ(笑)。

(町山智浩)「童貞かな? もう還暦なのに……」って思ったんですけど。

(赤江珠緒)アハハハハハッ! いや、そこはつなげなくていいんですよ!

(町山智浩)ああ、違うのか? だから童貞のまま死んじゃって、それを萩原健一さんが夢の島っていう昔ゴミ捨て場だったところに埋めて去っていくところでこの『一人』っていう歌が流れるんですね。

『一人』



(町山智浩)これ、歌詞がすごくよくて。もう去っていく青春に対する挽歌、追悼の歌なんですけど。作詞者は岸部一徳さんですよ。

(赤江珠緒)ああ、一徳さん?

(町山智浩)ねえ。死んだ目の名優ですけども(笑)。何を考えているのか全くわからない。でも、まあ彼はやっぱりロックミュージシャンで、この歌詞は本当にその、グループサウンズのスパイダース、タイガース、そういった青春の時代が終わっていくことに対する追悼の、葬送の歌ですね。で、これは実は『傷だらけの天使』の時に歌っている人はデイヴ平尾さんっていう別のゴールデンカップスのボーカルの人だったりして。ゴールデンカップスもグループサウンズだったんですけど、グループサウンズ全体に対するこれは追悼の歌のように聞こえて。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)青春とかそういったものに対する。だからその井上堯之さんは作曲なんですけど。これは井上堯之さんが歌っているバージョンなんですが。だからすごくね、これはひとつの時代に対する葬送曲として素晴らしいなと思います。

(赤江珠緒)そうかー。心に引っかかるという。

(町山智浩)もうこの曲をバックに水谷豊さんの死体をリヤカーで引っ張りながら萩原健一さんが捨てに行くところが、「もう青春は終わったんだ!」っていう……俺はまだ青春が始まってなかったですけどね(笑)。子供だったから。

(赤江珠緒)よく考えたらそうでしたね(笑)。

(町山智浩)すでに終わっていた。青春を始める前に青春は終わっていたんだっていう(笑)。まだ始まってもいないのにという(笑)。

(赤江珠緒)そうですか。思い出の曲なんですね(笑)。

(町山智浩)はい。ぜひみなさん、聞いてみてください。

(赤江珠緒)井上堯之さんの『一人』をお聞きいただきました。

<書き起こしおわり>

町山智浩 アメリカ大使館エルサレム移転を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でドナルド・トランプ大統領によるイスラエルのアメリカ大使館のエルサレム移転について話していました。

NHKカルチャーラジオ 歴史再発見 聖地エルサレムの歴史―人はこの地になにを求めたのか (NHKシリーズ)

(町山智浩)それで、今日はアメリカというかイスラエルの話なんですけども。5月14日が「エルサレムの日」っていう日だったんですよね。実はこの時、トランプ大統領が決めたことでいま大変なことになっていて。まず、トランプ大統領が今日、5月14日のエルサレムの日にアメリカ大使館をエルサレムに移すということを以前から発表していたんですが、とうとう実行したんですね。今日。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)そしたら、それに対して反対するパレスチナの人たちが抗議行動を起こして。それに対してイスラエル軍が銃を発砲して、現在までに55人以上が死んでいるという。

(赤江珠緒)デモに対して実弾を使って……っていうね。


(町山智浩)そうなんですよ。で、もうこれはトランプがこんなことをしなければ、この55人の人はしなないで済んだのにね。で、ちょっと今日の映画と関係があるんで説明しますと、エルサレムっていうのはみなさんがご存知のようにユダヤ系の人にとっての聖地であって。困ったことに、キリスト教の人にとっても聖地なんですね。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)で、イスラム系の人にとっても聖地なんですよ。で、もう何千年も前から3つの宗教の聖地なんで取り合いみたいなことになっているんですけども。で、じゃあいつまでたっても戦争になっちゃうわけなんで、国連がこれを統治して取り合いにならないようにしましょうっていう風に大昔、1940年台に決めたんですね。「国連が管理します」って。ところが、その後にそこにイスラエルの人たちが攻め込みまして。で、今日のエルサレムの日というのは1967年にそれまで東西に分かれていたエルサレム……つまり、西側はユダヤ系のイスラエルが占領していて。で、東側はアラブ系の人たちが占領をしていたんですけど、東側のエルサレムも1967年にイスラエルが攻め込んで取っちゃったんですね。エルサレム全土を。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、それをお祝いする日がエルサレムの日だったんですよ。今日、5月14日が。だからすごく、その時にトランプ大統領が「エルサレムは全部イスラエルの人ですよ」っていうことを認定するような、アメリカ大使館のエルサレム移転っていうのをやるっていうのはものすごく一方に偏ることなわけですよね。

(赤江珠緒)ああ、そうですね。

(町山智浩)ねえ。「この地域はイスラエルのものなんだ」って。で、それは「やるとモメることになるから、やるな」っていうことで、国連もやらないようにしていたものをあえてやっちゃったんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だからもう本当にわざわざ火種があるところにガソリンをかけているようなことですよね。もうこれね、それと同時にトランプ大統領はイランの核開発を制限するという形でオバマ大統領がヨーロッパとかの他の国と共同して計画したイランに対する合意を全部無視するという。

(赤江珠緒)そうですね。だからトランプさんは前の政権の決めたことを全部反対しようとしていますね。

(町山智浩)そうなんですよ。ただ、これによって実はイランが核を持てるようになっちゃうんですよ。つまり、核兵器を持たないかわりにいろいろと援助をしますっていう。経済的にいままで封鎖するとか制裁するという形だったのをやめるから、そのかわり核兵器を作ったりすることをストップするっていう取引をオバマ大統領とイランがしたんですね。それなのに、勝手にトランプがその合意から抜けちゃうと、「じゃあ、核兵器を開発するよ」っていうことになっちゃうわけですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だから全然、逆にコントロールできない状態になるわけですよね。なんでこんな無茶苦茶をやっているんだろう?っていう感じなんですけど。で、すごくおかしいのは、「イランは核兵器を開発している」って言っているのに、すでに核兵器を持っていてミサイルを発射している北朝鮮とはうまくやるって言っているんですよね。

(赤江珠緒)そうなんですよね。

(山里亮太)経済的支援をして、向こうが成長するのを手助けするって言ってましたもんね。

(町山智浩)そう。だからなんかどういうバランスでやっているんだろう?っていうね。トランプ政権ってよくわかんないんですけども。

(赤江珠緒)「ノーベル平和賞だ」とかって話も浮上しているみたいな。なんだかもうわけがわからないんですよ。

(町山智浩)「ノーヘル平和賞」だと思いますけども(笑)。まあ、ブッシュ大統領がイラクに2000年代に攻め込んだ時も「イラクが核兵器を開発している」って言っていて。で、攻め込んだんですけど。その時に北朝鮮はのうのうと核兵器を開発していたわけですけども(笑)。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)なんか、アメリカがやっていることはめちゃくちゃなんですけども。本当にもうとんでもないなって思いますが。

(山里亮太)だって大使館を置くなんて、そんなの一存で行けちゃうんですね。

(町山智浩)なんかイヴァンカさんの旦那さん(ジャレッド・クシュナー)がユダヤ系の人なんですけどね。で、2人で行って「大使館移転おめでとう!」とかやっていましたけども。そこからわずか数キロ離れたところで大虐殺をやっているんですからね。すごく問題で。だからアメリカって政権自体が……特に共和党がなんですけど、ユダヤ系の人のご機嫌を取らないと選挙に勝てないという状態がちょっとあるんですよ。


(赤江珠緒)うんうん。

共和党の有力支持者がユダヤ系

(町山智浩)それは、具体的にはいちばん金を出す人がラスベガスのホテル王でして。その人はすごくて、マカオにも持っているし、シンガポールにあるビルが3つあって、その上に船があるホテル(マリーナ・ベイ・サンズ)、あるじゃないですか。あれも同じ人が持っているんですけど。その人(シェルドン・アデルソン)がいわゆるシオニストっていうやつで、イスラエルを全部ユダヤ系のものにしようっていうイスラエル民族運動のアメリカにおけるリーダーなんですよ。


(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、この人がものすごいお金を支援するんで、ユダヤの人たちと関係がなくてもイスラエルを支援しないと共和党の候補はお金をもらえないというね、事態がありまして。大変なんですけども。あと、キリスト教の原理主義者の人たちもイスラエルがパレスチナとかを全部支配することを求めているんですよ。

(山里亮太)それは、なぜ?

(町山智浩)これはすごく変な話なんですけども、聖書に黙示録っていう世界の終わりについてのシナリオが書いてある部分があるんですけど、そこのところにそういう風に書かれているから、それを実行することが正しいんだっていう考えを持っている人たちがいるんですね。聖書原理主義者の人たちですけども。その人たちはアメリカの人口の25%ぐらいいるんですけども。その人たちはずっと共和党支持なんですね。で、レーガン政権のころからずっと共和党を支持しているんですが、その際に彼らとは直接利害が対立しないんだけども、イスラエルを支援してきたんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それは中東戦争によって世界で全面核戦争が起こることで世界が滅びて、キリスト教原理主義の人だけが天国に吸い寄せられて平和になった地球に帰ってくるって信じているからなんですよ。

(赤江珠緒)うーわ、また突拍子もないっていうか……帰ってこれるの? キリスト教の人たちだけ?

ラプチャー

(町山智浩)それは「ラプチャー(Rapture)」って言うんですね。キリスト教原理主義者の人だけが天国に吸い寄せられるっていうことはラプチャーって言うんですけど。そのラプチャーっていうのを信じている人はものすごく多くて。それをそのまま映画にした作品が延々と作られ続けているぐらいの、一種の人気商品なんですよ。

(赤江珠緒)おおーっ!

(町山智浩)すごいですよ。道で車を運転していたり飛行機を飛ばしていたりする人たちの中で、キリスト教を信じている人だけが急にバーッと消えちゃうんですよ。で、車が暴走して大事故を起こしたりするんですよ。

(赤江珠緒)都合がいい……。

(町山智浩)そう。で、地球に残された人たちはキリスト教を本気で信じていない人たちで。その人たちはキリスト教を信じていた人たちが消えたから、これから地球が滅びるということで戦々恐々するっていうパニック映画がありましてですね。で、それを本気で信じている人たちがいるんですよ。で、彼らの信じているのは中東戦争から黙示録に書かれている世界全面核戦争が起きるから、それを起こすためにはイスラエルを徹底的に支援して中東に不安定な状態を起こすんだと言っているんですよ。

(赤江珠緒)えええーっ!

(町山智浩)本当に困ったもんですけど、結構映画がバンバン作られているぐらい、それを求めている人が人口の数割いるんですね。

(赤江珠緒)そうなんですか。

(町山智浩)「本当かよ!」とか思いますけども。

(赤江珠緒)ねえ。何をゴールにしているんですか?っていうね。

(町山智浩)何をゴールにしているんだよ、あなたらは!っていうね。本当にまあ、でもこのトランプのやっていることはよくわからないっていうことですけどね。

<書き起こしおわり>

町山智浩 レバノン映画『ジ・インサルト』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でレバノン映画『ジ・インサルト』を紹介していました。

The Insult (Original Motion Picture Soundtrack)

(町山智浩)それで今日の映画はそれ(アメリカのエルサレムへの大使館移転)と絡んでいるようで、絡んでいないような、絡んでいる話なんですが。『ジ・インサルト(The Insult)』というレバノン映画を今日、ご紹介します。

町山智浩 アメリカ大使館エルサレム移転を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でドナルド・トランプ大統領によるイスラエルのアメリカ大使館のエルサレム移転について話していました。 (町山智浩)それで、今...

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)これは監督はレバノン系の人でジアド・ドゥエイリという人なんですが。僕と同い年ぐらいですね。1963年生まれなんですよ。で、この人はレバノンで生まれているんですけど、その後に子供の頃にアメリカに難民という形で移住するんですね。どうしてか?っていうと、1975年ぐらいからレバノンってずっと内戦になっちゃっているんですよ。

(山里亮太)ああー。

(町山智浩)で、いられないからアメリカに来て。このドゥエイリ監督はその後にクウェンティン・タランティーノの映画の撮影助手をずーっとやっていたんですよ。この人はすごいですよ。『パルプ・フィクション』とか『レザボア・ドッグス』とか『ジャッキー・ブラウン』とかのタランティーノ映画の撮影助手をずっとやっていた人なんですね。

(赤江珠緒)へー! うんうん。

(町山智浩)で、大人になったんでそれを終えた後にレバノンも安定したんでレバノンに帰って映画を作り続けているんですよ。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)で、子供の頃、1970年代にレバノンが内戦になった時に映画少年たちが8ミリでそれを記録する映画であるとか、そういうのをずっと撮っていて。で、今回『ジ・インサルト』というのは現代におけるレバノンが内戦が終わってからだいぶたつんだけども、内戦の中で育った人たちは大人になってどうなっているのか?っていう話なんですね。で、アカデミー賞の外国映画賞候補になっていたんですけども。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)『ジ・インサルト』っていうのは「Insult」っていうのが「侮辱」っていうことなんですよ。「ひどいことを言う」っていうことなんですけども。で、これは現代のレバノン・ベイルートが舞台なんですけども。主人公が2人いて、1人がトニーさんという人。この人はキリスト教徒なんですね。

(赤江珠緒)はい。

レバノン内戦の原因

(町山智浩)で、レバノンがなぜ内戦状態になるか?っていうことを説明しなきゃいけないんですけども。レバノンって人口のだいたい40%ちょっとがキリスト教徒なんですね。カトリックでマロン派っていうらしいんですけども。で、55、6%ぐらいがイスラム教徒なんですよ。で、40%がキリスト教徒で55%ぐらいがイスラム教徒だと、イスラム教徒が多数派なような気がするじゃないですか。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)でも、このイスラム教徒の半分がシーア派で半分がスンニ派なんですよ。

(赤江珠緒)ああ、なるほど。

(町山智浩)で、スンニ派とシーア派って仲が悪いからイスラム教徒が圧倒的多数にはならなくて。もっとも多数派は40%ちょっとのキリスト教徒になるんですよ。で、政治はキリスト教徒が握っている形になるんですよ。スンニ派とシーア派はケンカしているから。それで、シーア派っていうのはイランなんかがそうですよね。それでヒズボラっていう組織があるというのはみなさんご存知だと思うんですけど。これがだから反イスラエル組織で、それはシーア派の人たちなんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、日本ではヒズボラは「テロリスト」とか表現されていますけども、ヒズボラはちゃんとそのレバノンの議会に議席を持っている政党なんですよね。イスラム教シーア派の政党です。で、そこでさらに問題なのは、レバノンにはパレスチナ難民が45万人も住んでいるんですよ。どうしてか?っていうと、レバノンはイスラエルの隣なんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。場所的に。

(町山智浩)で、イスラエルがユダヤ系の人たちがどんどんそこに入ってきて、もともとそこに住んでいたパレスチナの人たちを追いやっていって住めなくしていったわけですけども。だから、パレスチナの人たちはしょうがないから国境を超えて隣のレバノンに逃げ出したわけですね。だから、45万人も住んでいるんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、この映画『ジ・インサルト』の主人公はトニーさんっていう多数派のキリスト教徒なんですけども。で、もう1人の主人公はヤセル(Yasser)さんっていうパレスチナ難民なんですね。で、この2人のケンカの話なんですよ。最初は普通にマンションがあって。そのマンションにトニーさんが奥さんと一緒に住んでいるんですね。トニーさんは自動車の修理工で奥さんは妊娠をしていて。で、ベランダに植木とかを置いてあるので、水やりをするんですけども。その排水口のパイプが壊れていて水がそのまま通行人の上にかかっちゃうんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、そこを歩いていたのがそのパレスチナ難民のヤセルさんなんですよ。それで水がかかったんで「バカヤロー!」みたいなことを言うわけですね。明らかにベランダから水が落っこちてくるから。で、この「バカヤロー!」がその「インサルト」っていうタイトルの侮辱になるわけですよ。で、そこから互いにケンカになっていくわけですよ。

(山里亮太)えっ?

(町山智浩)で、まずヤセルさんはパレスチナ難民のための寺院をそこに建設しようとしていて、工事をしている労働者なんですね。で、その工事をしている人たちが「ケンカをするのもあれだから、俺たちがそのベランダの排水パイプを直してあげようじゃないか」って言って、勝手にそのトニーさんのベランダの排水管を直しちゃうんですね。すると、トニーさんは「勝手にこんな施しは受けん!」とかって言って、その排水パイプをガンガンに自分で壊して。さらに水をじゃんじゃんいっぱい流しちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!? ちょっとトニーさんが悪いんじゃないですか? まず、トニーさんが謝ったらいいんじゃないですか?

(町山智浩)そう思うんですよ。で、そう思うんだけども、パレスチナの難民の人たちはレバノンにいさせてもらっているような状態なわけなんで。で、「お前が謝れよ」みたいなことになっていくわけですよ。で、両方とも互いに「謝れよ」みたいなことになって、結局ヤセルさんが自動車修理工場に謝りに行くことになるんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、行ったらちょうどトニーさんがキリスト教の政党の演説を見ているんですよ。ところが、そのキリスト教の政党の政治家の演説が徹底的に差別的で。「パレスチナ難民は叩き出せ!」とかって言っているわけですよ。で、それを見てカッカしてきて。トニーさんが「お前らなんかイスラエルのシャロン首相が皆殺しにしてりゃよかったんだよ!」って言っちゃうんですよ。ヤセルさんに対して。

(山里亮太)過激なことを……。

(町山智浩)で、シャロンっていう人はイスラエルの右派の政治家・軍人でレバノンに攻め込んだ人なんですね。パレスチナ難民を追いかけて。国境を超えて。で、それを聞いてヤセルさんが思わずカッとして殴っちゃって。で、結構いいパンチだったので結構なケガになって。そしたら、そっちでモメているうちに今度はトニーさんの奥さんが流産しちゃうんですね。

(赤江珠緒)あらら……。

(町山智浩)モメているから。そしたら、そのお子さんがものすごい未熟児で大変な状況になっちゃうんですよ。で、「この子にもしものことがあったらヤセルのせいなんだ!」みたいな話になって裁判になっていくんですが、この裁判の弁護士でトニーさんの方についた側とヤセルさんの方についた側が実は親子で。政治的に右左に分かれていて、娘の方がお父さんがあまりにも右翼的だからって反発している左翼人権弁護士なんですね。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)で、ヤセルさんの難民の側について、もっと事を大きくしていくわけですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だからまさに「水かけ論」で。最初は水がかかったっていうところから(笑)。

(赤江珠緒)そうですよね。些細なことでしたね(笑)。

レバノンの「水かけ論」

(町山智浩)水かけ論ってレバノンにもあるんだなって思いましたけども(笑)。あれ、もともと道端で水をまいていたらかかった/かからないでケンカになるみたいな話なんですけども。本当にレバノンでもそういうことがあって。それがどんどん裁判で大きくなっていって、イスラム教徒側とキリスト教徒側の政治闘争にさえ利用されて、国家全体を揺るがす大裁判になっていくっていう話なんですよ。結構ね、裁判劇なんですけど、この2人がやっていることは子供のケンカみたいなんで、ちょっとコメディーみたいでもあるんですよ。

(山里亮太)聞いたらそうなのかな?って思いましたけども。

(町山智浩)そう。見ていると笑っちゃうんですけども。ただ、この2人がものすごく争っている向こう側に見えてくるパレスチナ難民とキリスト教徒の対立というのがだんだん、この人たちが子供の頃からずっと続いているわけですから、裁判を通して歴史が掘り返されていくっていうドラマなんですね。だからすごくよくできています。やっぱりさすがタランティーノの弟分っていうね。同い年ですけども。タランティーノとは。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)これがですね、話を聞いていると複雑で複雑で。やはり人口が拮抗しているからなんですけど。まず、1976年ぐらいにレバノンで虐殺が3回あるんですよ。そうすると、どれが最初か?っていうのが虚しくなるぐらい報復、報復なんですね。で、わかっているのだとまず カランティナの虐殺っていうのがあって。これはキリスト教徒の民兵組織がパレスチナ難民とかイスラム教徒を1500人ぐらい殺して。で、その2日後にダムールの虐殺という形で今度はパレスチナ側とイスラム教徒がキリスト教徒の民間人を500人ぐらい殺して。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、それに対してまた報復でテルザアタルの虐殺というのがあって。今度はキリスト教徒が難民キャンプで1500人ぐらい殺してというのをやっていて。こうなると、どっちが始めたとかあまり意味がないですよね。

(赤江珠緒)そうですね。もうお互いにね。やってやり返して、やってやり返して。

(町山智浩)そう。っていう話でね。それで1982年のレバノン内戦中の大虐殺も絡んでくるんですけども。だからこの2人のケンカはそういった虐殺の報復を意味してはいるんですが、ただこの2人、トニーさんとヤセルさんって互いにトニーとヤセルとして付き合ったことは1回もないわけですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)彼らは互いを「パレスチナ人」「キリスト教徒」としてしか見ていないんですけど、そうじゃないじゃないですか。個人個人は。

(赤江珠緒)もともとはね。

(町山智浩)もともとは。それで、彼らがやったわけじゃないわけですよ。虐殺のほとんどは彼らの子供の頃にあったことですよ。彼ら自身がやったことじゃないのに、なんで憎みあわなきゃいけないんだ?っていうことですよね。

(赤江珠緒)ああ、本当ですね。

(町山智浩)っていうことまで見えてきて。1人1人として会った時はいったいなんなのか? どうなのか?って言ったら、ただの普通の人たちですよ。だからこの監督はね、1人1人であったらどうなのか?っていうことを問いかけているんですよね。

(赤江珠緒)ああ、でも戦争とか民族間の対立って結局は突きつめていくとそういうことのような気がしますね。

(町山智浩)そう。だから「○○人だ」とか「○○教徒だ」って言っている人はじゃあその中の1人とでも面と向かって付き合ったことがあるのか?っていうことですよ。ということまで問いかけていて、しかも法廷ドラマとしてもものすごく面白い。よくできた映画がこの『ジ・インサルト』でした。

(赤江珠緒)うんうん。なるほど。

(町山智浩)日本公開は夏ぐらいかな?

(赤江珠緒)はい。そうですね。夏ごろに日本公開予定ということですね。

(町山智浩)この監督は全く国とか関係なく映画を撮っていて。この前に撮っていた映画はイスラエルにおけるパレスチナの無宗教のアラブ人がテロに巻き込まれていくという話で。まさにこういう個人と政治との関係性について描いていて。イスラエルで映画を撮ったためにレバノンで逮捕されたりして、結構すごい国家を超えた人ですね。

(赤江珠緒)いいですね。きっとこれも人類の課題かもしれませんね。今日は『ジ・インサルト』をご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

町山智浩 日大アメフト部危険タックル問題 選手記者会見を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で日大アメフト部の危険タックル問題についてトーク。映画紹介コーナーで『デッドプール2』を紹介している途中でタックルした選手の記者会見の中継が挟み込まれ、その中継を聞いた後にこの問題について話していました。


(町山智浩)……この人は日本刀とマグナム拳銃でとにかく人をバンバンバンバン殺して。生首とか手足がバンバン画面に飛び散って画面が血だらけっていう映画なんですね。だから子供は見れない。しかもこの……デッドプールのことは日本では「デップー」って言われているんですけど。このデップー自身も体を真っ二つに引き裂かれて、はらわたがベローッて出ちゃったりするんですよ。「ああーん、腸が出ちゃった。ちょう痛ーい!」とかって言うんですよ。

(山里亮太)結構ふざけたことを言うんですよね。

(赤江珠緒)あ、町山さん、ちょっとごめんなさい。お話の途中で申し訳ないんですが、ここで先ほどの記者会見の様子をもう一度お聞きいただくことになります。ごめんなさい。選手本人のコメントが始まりました。

(約10分間、記者会見の音源が流れる)

(赤江珠緒)悪質な反則行為をした日本大学の選手が記者会見を行って本人の弁をいま述べました。それをお聞きいただきました。町山さん、途中でごめんなさい。

(町山智浩)でも、本当にこれはひどいことですね。傷害教唆だと僕は思います。

(赤江珠緒)ああー。町山さん、アメリカでアメリカンフットボールが盛んな国ですから……。

(町山智浩)アメリカンフットボールでクォーターバックがパスとかをした後やキックをした後に攻撃したら傷害罪ですよ、これは!

(山里亮太)でも、自分の意思でないって……。

(町山智浩)自分の意思じゃないですよ。どう聞いてもそうですし、っていうか自分の意思でそれ、選手はしないですよ。だって選手は選手同士でそれをやったら完全に体が壊されるかもしれないってわかっているのに、それをどうしてするんですか?

(赤江珠緒)うーん。

(町山智浩)だって、背骨とかやったら一生下半身不随ですよ。すごく多いんですよ。ラグビーとかアメフトで下半身不随の人は。普通にプレーをしていてもですよ。これ、完全に殺人未遂教唆じゃないの?

(赤江珠緒)いま本人の弁を聞いていると、コーチやら周りの方が……っていうことですよね。

(町山智浩)これ、ヤクザの鉄砲玉を行かせる理論と同じなんですよ。「行け!」っていう時に「あいつをどう殺せ」とは言わないんですよ。「あいつがいなくなったらな、すごい助かるんじゃけんのう」って言うんですよ。『仁義なき戦い』の山守は。

ヤクザの鉄砲玉と同じ


(赤江珠緒)『仁義なき戦い』ね。うん。

(町山智浩)ヤクザも世界中全部そうです。マフィアも全部そうです。「あいつをどういう風に殺せ」とは言わないんですよ。「あいつがいなくなったら、お前もなかなかな、いい位置につけてやるけどな」って言うんですよ。そうすると「私が行きます!」ってなるんですよ。これは教唆にならないようなギリギリのところなんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)もうそんなことが日本中で行われているんですよ。そんなことでいいのかね!? ええっ? 学生ですよ? これから世の中、人生がいっぱいあるのにね。その人生を潰されてね。恐ろしい……だっていま、官僚とかが言わされているのも、国会でやらされているのを見ているじゃないですか。明らかに言わされている世界じゃないですか。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)もうそれ、いくら言い繕ったって完全に政治家に言わされているじゃないですか。で、みんなその後の処分を受けないで、「その後の恩給だとか退職金だとかそういうのを保証してやる。お前の人生保証してやる」って言われて……それは「あいつを殺して刑務所に入ったら、出た後は幹部として迎えてやる。お前の家族も面倒を見てやる」っていうのといったいどこが違うんですか!?

(赤江珠緒)うん……。

(町山智浩)(声を荒げて)どんな国だ、それ!? ええっ? ふざけるな!って思いますよ。

(赤江珠緒)ねえ。遠いアメリカでも町山さんが怒ってらっしゃいますけども。

(町山智浩)恥ずかしくないのか? 世界中に全部伝わっているんだよ、これ! どうすんの、これ?

(赤江珠緒)本当ですね。

日本の信用が失われる

(町山智浩)全体としてなっているから、こういったことを社会のトップの人とか表に出ている人がやっているから、下は全部やるでしょう。いろんな日本の企業がずーっといままで「すごく優秀だ。誠実だ」って言われてきたのが次々といろんなことを隠して、発覚して、株価が落ちて、信用を失って……世界的な信用度がどんどんどんどん落ちていくじゃないですか! ごまかし、ごまかし、ごまかしで。どうすんの、これ? 取り返しがつかないことになるよ、このまま……雪崩のように起こっているじゃないですか!

(赤江珠緒)うーん……。本当ですね。

(町山智浩)本当に危険なことですよ。これは。もう全体の体質になっているじゃないですか。ごまかし、ごまかしで。

(赤江珠緒)本当にそうなんですよ。町山さん、今日はもう『デッドプール2』のお話だったんですが……。

(町山智浩)もうデッドプールに殺してもらうしかないよ!

(赤江珠緒)フフフ(笑)。デップーちゃんに? デップーちゃんのお時間がもう5分ぐらいしかないですけども。どうしましょう。次回にしますか?

(町山智浩)もうこれは次回にします。本当にひどい。びっくりしましたよ、これは。

(赤江珠緒)ねえ。

(町山智浩)ひどすぎる!

(山里亮太)これに対して、監督たちはどういうことを言ってくるのかまだわからないですからね。

(町山智浩)いや、もう責任逃れをしちゃったんだから。その後で、また世間に叩かれて謝ったところでね、それはまたおかしいでしょう。でもこれ、本当にあの……無防備なところで背中へショルダーからアタックしているわけですから。頚椎のところを。大変なことですよ。

(山里亮太)不幸中の幸いというか、まだケガはそんなに深刻なケガじゃなくて済みましたが……。

(町山智浩)でも、どうなっているかわからないですよね。本当にもう、昔からヤクザの鉄砲玉とかと同じですよ。これはもう。(第二次大戦中の)特攻隊とかと同じで「自分の意思で行った」っていうことで最終的にはまとめちゃうみたいなね。本当に、これはすごいな!

(山里亮太)いまの選手の話を聞くと「それはさすがに断れないだろうな」っていう流れでしたもんね。全部。

(町山智浩)断れないじゃないですか。いまの話を聞いて、断れる人って誰かいるんですか? これ。あの状況で。それで本人の自己責任になっちゃうんですか?

(赤江珠緒)ねえ。だから彼はいま、いろんなものを背負っちゃっていますね。

(山里亮太)でもこの会見によってもう「自己責任」っていうことでは終われないようなことにはなってきそうですけどね。もちろん。

(町山智浩)そうなんですけど、これは個別の問題じゃなくてあまりにも大企業とか、あとは政治とかで全部同じことが起こっているじゃないですか、これ。ちょっとみんな、なんとなくこのまま乗り切っちゃおうって思っているのかもしれないけど、これは大変なことですよ。これは全部世界に伝わっていますよ。

(赤江珠緒)たしかに構図としては同じかもしれないね。

(町山智浩)日本っていうのは本当に誠実で一生懸命真面目で勤勉な人たちだと思われてきたから信用せれてきたわけですよ。とにかく日本の物を買えば、日本の人と一緒に仕事をすれば絶対にインチキはされないってみんな信じていたのに、それがどんどんどんどん崩れていくじゃないですか。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)これは、まあこんな風になっても「過去の信頼があるから……」って言うけど、その過去の信頼があったのって20年前ですよ。いま、アメリカの電気屋さんに行くと日本の製品なんか置いてないですから!

(赤江珠緒)そうかー。

(山里亮太)メイド・イン・ジャパンが世界の最高峰だなんて言われていたのが……。

(町山智浩)もう置いてないですから。本当に。どうしてこんなになっちゃったんだ? それはその場、その場を乗り切って。会社とかの粉飾決算もそうですけども。とにかく先送り、先送りでやって。で、結局どんどんどんどん積りに積もってこんなことになっちゃっているわけじゃないですか。で、全部上の人たちは責任を取らないで、下に押し付けているわけじゃないですか。日本、未来を潰す気ですか? これ、本当に。

(赤江珠緒)そうだよね。

(町山智浩)どうするんだ、これ? いったい……。

(山里亮太)これね、いますごいニュースで。毎日このニュースが出てきて。

日本全体の体質を象徴する事件

(町山智浩)それはなぜみんな、この日大のアメフトのニュースを非常に重要だと思って見るか?っていうと、やっぱりここに日本全体で起こっている全ての体質が象徴されているからだと思うんですよ。ずーっと前から起こってきたことが。上の者は下に押し付けて責任を取らないっていうことが。で、誰も責任を取らない状況がこのままあらゆる場所で続いていくということになると、まず若い人たちははっきり言って年上の人たち……50代以上の人たちを信用しなくなりますよ、本当に。だって自分たちは捨て石にされちゃうんだもん。

(赤江珠緒)うーん。

(山里亮太)たしかに。この選手はもうアメフトもできないでしょうしね。

(町山智浩)この後、この人は一生できないでしょう。たぶん、ねえ。これは大変な……ものすごく若い人たちの年上の人たち、世代に対する信頼って崩壊していると思いますよ。だって誰一人、責任を取った人がいないんだから。大変なことだと思いますね。これは。

(山里亮太)この話が動いて、この問題に対する解決策がなにかもっと大きな考えることのきっかけになるかもしれないですね。

(赤江珠緒)そうかもしれないですね。町山さん、すいません。今日は予定を変更して……。

(町山智浩)いや、僕は全然怒ってないですっていうか……まあ怒っているけど(笑)。

(山里亮太)いや、熱がありますよね。

(赤江珠緒)でも、その気持ちはわかりますよ。

(山里亮太)このニュースに対する考えるポイントが選択肢と増えたのはよかったです。

(町山智浩)本当に僕ね、聞いていて信じられないですよ。本当にもう……来週、『デッドプール2』をやります。

(山里亮太)またよりによってね、めちゃくちゃおバカな映画の説明を。聞きたかった人も多かったと思うんですけどもね。

(町山智浩)ねえ。でももう、チンコの話とかできないじゃないですか。もうね。

(赤江珠緒)そうですね。ちょっと方向性がガーッと変わっちゃうんでね。

(山里亮太)みなさん、来週の予習として『デッドプール1』を見ておきましょう。

(赤江珠緒)はい。町山さん、すいません。ありがとうございました。

(町山智浩)いえいえ。どうもでした。来週はちゃんとチンコの話をします!

(山里亮太)チンコじゃなくてデッドプールの話ね! 町山さん、デップーね!

<書き起こしおわり>

町山智浩『デッドプール2』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『デッドプール2』を紹介していました。


(赤江珠緒)今週こそは……ですね。町山さん。ねえ。あれからね、ずっと日本では会見続きでね。

(山里亮太)ずっとまだやっていますね。

(町山智浩)まだやっている? 監督がすぐに「とんでもないことをやってしまってすいませんでした!」って謝って、自分で自分を処分すればそれで終わったことなのにね。まだやっているのか……本当に腐っているなー。

(赤江珠緒)ねえ。

町山智浩 日大アメフト部危険タックル問題 選手記者会見を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で日大アメフト部の危険タックル問題についてトーク。映画紹介コーナーで『デッドプール2』を紹介している途中でタックルした選手の記者会見の中...

(山里亮太)でも今日は『デッドプール2』で楽しい話を聞いて、そこらへんは1回ちょっと忘れましょう。

(町山智浩)せっかく楽しい話をしようと思ったけど。ねえ。一部の人には楽しくないと思いますが。はい。で、『デッドプール』という映画を紹介したかったんですけどね。日本では6月1日公開で。アメリカでは信じられないほどヒットしているんですけども。これはなぜ、みんながびっくりしているかっていうと、R指定なんですよ。で、子供が見れないっていう話を前回したのかな? どこまで話したのか、覚えてないな(笑)。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)で、これデッドプールっていったい何者か?っていうと、「デッドプール」っていう言葉自体は「これから死ぬやつリスト」っていう意味なんですよ。だからこのデッドプールに狙われたら必ず死ぬという……まあ、殺し屋ですね。で、見た目は真っ赤な忍者なんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)忍者って目立たないために黒い服を着ているので、真っ赤だと全然意味がないんですけどね(笑)。この間、そういえば『忍びの国』っていう映画を見たら忍者が真っ昼間からみんな黒い装束で戦ってるんですけど。「それ、忍者じゃねえよ!」って思いましたけども(笑)。

(赤江珠緒)アハハハハハッ!

(町山智浩)「忍者が普通の戦闘してどうする?」って思ってびっくりしましたが。まあ、それは置いておいてですね。で、このデッドプールっていうのはね、日本刀の二刀流とマグナム拳銃でバンバン人を殺していく真っ赤な忍者でね。

(赤江珠緒)忍者っていうか本当、町山さんがおっしゃったように変態仮面の赤いバーッジョンっていう感じもしますね。

不死身のデッドプール

(町山智浩)そうそう。パンツをかぶっているみたいに見えるんですけどね。はい(笑)。鈴木亮平さんみたいなんですけども。その彼がすごいのは、生体実験をされてしまってその後遺症で死なない人間になっちゃっているんですよ。デッドプールは。で、チンコを切られてもね、またチンコが生えてくるんですよ。

(赤江珠緒)あ、生えてくるんだ!

(町山智浩)この話をしたかったんですよ、俺は!

(赤江珠緒)生えてくるんだ。そうかそうか(笑)。

(町山智浩)俺を邪魔しやがって。あの日大の監督、許せねえな!(笑)。

(赤江珠緒)アハハハハハッ!

(山里亮太)それ、言っていましたもんね。「チンコの情報もあるよ!」って先週言っていましたけども。

(町山智浩)チンコを切られると、かわいいかわいい赤ちゃんみたいなチンコが生えてくるんですよ。デッドプールは。

(赤江珠緒)はー。ヒコバエみたいな?

(町山智浩)えっ?

(赤江珠緒)ヒコバエみたいなね。

(山里亮太)なにを言ってるんすか、赤江さん?

(町山智浩)何を言っているんだ、この人は(笑)。

(赤江珠緒)ぼかしているんじゃないですか、町山さんのシモを!

(町山智浩)ああ、すいませんね。まあ、大人でもそういう人はいますが。まあ、それは置いておいて……。

(山里亮太)フハハハハハハッ!

(町山智浩)まあ、そういうチンコが生えてくる映画なんだ、これは! もうなに言ってるかわからないと思いますが(笑)。

(赤江珠緒)要約しすぎて……(笑)。

(町山智浩)まあ、そういう腕を切られても何をしてもどんどん生えてくるんで、この人は全然ビビんないんですよ。だから敵に腕を掴まれたりすると、自分で腕を切り落として逃げちゃうんですよ。

(山里亮太)トカゲ的な。

(町山智浩)だからトカゲの尻尾のような……どこかの政権のようなものですね。はい。末端をどんどん切り落としていくというね。「あいつは嘘をついている」ってね。

(赤江珠緒)なるほど(笑)。

(町山智浩)デッドプールの手足みたいなもんですけども。で、このデッドプールがですね、またこれが聞いていても分かる通り、コメディーなんですよ。ただジョークをずっと言い続けるんですけど、そのジョークというのは普通のジョークじゃないんですよ。たとえば、デッドプールっていうのはX-MENというシリーズがあるんですけど。20世紀フォックスのマーベルコミックスの同じシリーズで。それと絡んでいるんですけど、「X-MENに入れ」って言われるんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)「お前も死なないという特殊能力を持っているんだから、X-MENに入って正義の味方になれ」って言われるんですよ。で、そう言われるとデッドプールはこう言うんですよ。「あのな、X-MENというのは1960年代にアメリカで起こった反人種差別運動のメタファーなんだよね?」って言うんですよ。 それはその漫画の背景であって、これはその漫画の世界の中なんだから言ったらおかしいじゃないですか。

(赤江珠緒)ああ、うんうん。

(町山智浩)だから『あしたのジョー』とかの中で「これは梶原一騎さんがね……」とか言ったりするようなことを言っちゃうんですよ。だからこれはメタギャグっていうんですけども。「これは映画なんですよ」っていうことを言っちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ふんふん。

(町山智浩)あと、観客に向かってやたらと話しかけるんですよね。だから「これはコミック映画としてははじめてのR指定映画なんだけども、そのあとに『LOGAN/ローガン』っていうウルヴァリンのシリーズがR指定でやりやがって、あっちの方が評価されて。おかしいじゃねえか!」とか言ったりするんですよ。そういう内輪の話みたいなのを画面で観客に向かって話しかけていくんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)これは昔、山城新伍さんが映画の中でよくやっていたんですよね。『不良番長』シリーズとかでお客さんに向かって「あ、こんちは。お正月なのに見に来てくれてありがとう!」とか言ったりしていたんですけども。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)っていうことをデッドプールもやっているんで。結構「アメリカの山城新伍」って言われて……ません。はい。

(赤江珠緒)そりゃそうでしょうね、はい(笑)。

(町山智浩)あと、話の展開でやっぱり漫画映画だからどうしてもご都合主義になったりするじゃないですか。そうすると、「あ、いまの展開はちょっとご都合主義の展開だったね」とか言うんですよ。「いまのところ、ここからかっこいいシーンだからカメラ、スローモーションでお願いします」とか言ったりするんですよ。

(赤江珠緒)はー! えらい客観的な。うん。

(町山智浩)だからやっちゃいけないことを全部やっているというのがデッドプールで。だからそういう点で掟破りのキャラクターなんですけどね。で、今回はもっと掟破りが起こっていて。今回は敵が未来からやってきたサイボーグでケーブルというのが来るんですね。ところが、そいつが非常に暗いわけですよ。だから「あんた、なんかキャラが暗いね!」とか言うんですよ。「あんた、もしかしてDCユニバースの人じゃない?」って言うんですよ。

(山里亮太)フフフ(笑)。

(町山智浩)で、DCユニバースっていうのはバットマンとかスーパーマンをやっている方で。まあDCコミックスのシリーズなんですけど、暗くて全然ヒットしないんですよ。『ワンダーウーマン』以外。そういうのをいじるんですよ。だからテレビとかだったら他局の話をするみたいな感じですよね。で、この間『コンフィデンスマンJP』っていうドラマを見ていたら、東出くんが長澤まさみと結婚するっていうシーンで「あーあ。ガッキーの方がよかったな」って言っていて、面白いなと思いましたけども。そういうのをやっているのがデッドプールです。はい。

(赤江珠緒)ああ、なるほど。

(町山智浩)で、またこのケーブルという敵をジョシュ・ブローリンという俳優が演じているんですね。で、この人は『アベンジャーズ』というマーベルコミックスの方の、いまちょうど公開中の『インフィニティ・ウォー』という映画で敵の役なんですね。だからジョシュ・ブローリンが出てくると時々、デッドプールは「ケーブル」という役名なのに間違えて「サノス!」って呼んじゃったりするんですよ。

ケーブル=サノス


(赤江珠緒)アハハハハハッ!

(町山智浩)それ、違うんで。だから『西郷どん』とかを見ていて鈴木亮平さんが出てきた時に「変態仮面!」って呼んだりするようなものなので。

(赤江・山里)フハハハハハハッ!

(町山智浩)こういうギャグをずーっとやっているという。これ、映画を見ていないとわからないっていうのが多いところですけどね。


(山里亮太)でも僕、ちょうど『アベンジャーズ』を見てきて。その時に始まる前に『デッドプール2』の予告があった時、さっきの「DCユニバースかよ?」っていうシーンで普通に劇場でバーン!って笑いが起きていましたよ。

(町山智浩)ああ、もうみんなだんだんわかってくるようになっていいですね! で、悪役が同じ人だったでしょう?

(山里亮太)それ、いま言われて「ああ、そうだったんだ!」ってなったぐらいです。

(町山智浩)同じ人なんです。ジョシュ・ブローリンという人で。この人は昔ね、お父さんがバーブラ・ストライサンドっていう歌手と結婚をしていたことがあるんですよ。で、ジョシュ・ブローリンのお母さんがバーブラ・ストライサンドっていう有名な女優で歌手の人なんですけど。それをこの『デッドプール2』の中でもいじっていて。バーブラ・ストライサンドが歌ったりするシーンをわざと入れたりして。「お前のお母さんだったよな」とかいうね。それ、俳優のお母さんであって役のお母さんじゃないのに、そういうギャグをしつこく入れてきていましたけどね。

(赤江珠緒)アハハハハハッ! へー!

(町山智浩)で、このデッドプールというのがすごいのは、このデッドプールを演じる俳優さん、ライアン・レイノルズさんの復讐の企画なんですよ。これは。この人、なんとこの『デッドプール』の製作、主演、脚本を1人でやっているんですよ。

(赤江珠緒)ライアン・レイノルズさんが。

(町山智浩)たった1人でやっているんですよ。この映画を1人で作っているんですけど、どうしてこの人がそういうことをしているのか?っていうと、すごい苦難の歴史があったんですよ。この人、10年前はもう1人のライアンと言われているライアン・ゴズリングと並ぶカナダ出身のナンバーワンセクシースターだったんですよ。


(赤江珠緒)ふんふん。

(町山智浩)で、これからはこの2人のライアンがセクシーの座を争うだろうと言われていたんですよ。本当に。で、ライアン・ゴズリングの方はどんどんどんどんスターになって、『ラ・ラ・ランド』とか『ドライヴ』とかで大スターになっていったんですけど。このレイノルズの方のライアンさんは大失敗して、映画の選択に失敗してつまずいちゃうんですよ。そのつまずきがデッドプールだったんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)この人は2009年にX-MENのウルヴァリンのシリーズで『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』っていう映画に出ているんですけど、その中でデッドプールの役をすでにやっているんですよ。

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(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ところがそれはね、キャラをいじりすぎちゃってデッドプールというキャラクターのデザインを全部変えて、しかも顔はパンツをかぶっているみたいになっていて、口がふさがれているじゃないですか。それを生物学的に口をふさいじゃったんですよ。そのキャラクターを。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)そうすると、しゃべれなくなっちゃうんですよ。

(山里亮太)えっ、いちばん売りのおしゃべりが?

(町山智浩)そう。デッドプールっていうのはとにかくずーっとしゃべり続けてギャグを言い続けているキャラクターなのに、無口なキャラクターになって大失敗してるんですよ。



(山里亮太)はー!

(町山智浩)で、それがライアン・レイノルズのデッドプールの1回目の失敗なんですね。で、その後にでもライアン・レイノルズはもうひとつ、チャンスを掴むんですよ。2011年に『グリーン・ランタン』というDCコミックスのスーパーヒーローに抜擢されるんですよ。ところがそっちもコケちゃうんですよ。

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(赤江珠緒)あらら……。

(山里亮太)それ、知らない。

(町山智浩)そう。大コケしているから結構みんな知らないんですよ。『テッド』っていうクマさんの映画でクマのテッドからずっと「グリーン・ランタンくん! グリーン・ランタンくん!」ってグリーン・ランタン呼ばわりされて馬鹿にされていたんですよ。ライアン・レイノルズは。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、しかもその時に結婚していたスカーレット・ヨハンソンにも捨てられちゃったりして、結構大変だったんですけど。ただ、普通このアメコミで2回失敗したら、ちょっとそこからは離れようと思うじゃないですか。

(赤江珠緒)そうですね。

失敗続きのライアン・レイノルズの起死回生の作品

(町山智浩)しかも、デッドプールで彼は失敗しているわけですよ。ところが、彼は起死回生の策として自分でお金を出してデッドプールの再映画化をしたんですよ。2016年に。で、今度は原作通りのおしゃべりキャラにして、原作通りに血まみれコメディーにして大当たりしたんです。

(赤江珠緒)ああ、よかった! これ、勇気いりますもんね。「またデッドプールでやるのか!」っていうね。

(町山智浩)そう。あんなに失敗したのに、それを自分でやって大成功したんです。しかも、全部自分でギャグを書いて。シナリオを書いて。だからすごいんですよ。これ、どん底からの再起がデッドプールのテーマなんですね。で、今回の『デッドプール2』、続編でもいきなり冒頭で大変に大切なものをデッドプールが失うんですよ。言えないんですけども。で、そこの部分が『007 スカイフォール』のパロディーになっていて本当にどん底に落ちるんですけども。で、まずどん底に落ちて何をやるか?っていうと、腹いっぱいコカインを吸いましたね!

(赤江珠緒)フフフ……ほう!

(町山智浩)そこでどうしようもない不良なんですけども。デッドプールっていうのは。で、まあコカイン吸っても立ち直れなくて悩んでいると正義の超能力者集団のX-MENからスカウトが来るんですよ。で、「まあ正義の味方としてやり直しなさい」ということでX-MENの見習いをやるんですよ。X-MENのボーヤをやるんですよ。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)っていう、どうしようもない不良のアンチヒーローのデッドプールが正義の味方になろうとする話でしたよ。寅さんが毎回いい兄貴になろうとするみたいな話でしたよ(笑)。

(山里亮太)わかりやすい(笑)。

(町山智浩)だからね、どういう風にいい人になろうとするかっていうと、ここがすごくて。いまのアメリカでいい人になるっていうことはどういうことか?っていうことなんですよ。

(赤江珠緒)どういうことだ?

(町山智浩)デッドプールは「X-MENは女性差別だ!」って言うんですよ。「女性もいるじゃないか! ”メン”じゃないだろ!」って。だから「X-MENは辞め!」って言って「Xフォース」っていう新しいチームを結成するんですよ。自分で。

(赤江珠緒)うん!

(町山智浩)いまのいちばんの正義は――アメリカは「#MeToo」ムーブメントですから――いまの正義は差別と戦うことなんですよ。だから今回のデッドプールで彼の戦いは差別との戦いなんですよ。

(赤江珠緒)へー!

差別と戦うデッドプール

(町山智浩)いままでいちばんひどい人間だったのに(笑)。だからたとえばね、インド系の友達がいるんですね。タクシーの運転手なんですけど、親友なんですよ。で、インドの音楽を流しているんですよ。すると、一緒に乗っていたやつが「そのわけのわかんねー音楽、やめろよ!」って言うんですよ。するとデッドプールは「民族差別するな! 許さん!」とかって言ってボコボコにしたりするんですね。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)だから今回、差別との戦いなんですよ。新しいですよ。スーパーヒーロー物としては。珍しいですよ。で、今回は『家政婦のミタ』とかに出ていた日本人の女の子で忽那汐里ちゃんっていう女優さんがいるじゃないですか。彼女が出てくるんですよ。

(山里亮太)すごいですよね。

(町山智浩)彼女、英語ができるんですよ。オーストラリアかなんか出身なんですよね。で、今回彼女がやる役はX-MENの1人、すごい長い名前の女の子でネガソニック・ティーンエイジ・ウォーヘッドっていう女の子がいるんですね。その子は自分自身が核爆発するのが超能力なんですけども。その子の恋人役で出てきますよ。忽那汐里ちゃんは。

(赤江珠緒)ふーん。

(町山智浩)「ふーん」じゃなくて、だから女性同士ですよ。女の子同士なんです。これ、ものすごく画期的なことですよ。


(山里亮太)画期的?

(町山智浩)スーパーヒーロー物ってずっとね、マッチョの塊みたいなものだったじゃないですか。みんな筋肉モリモリで、スーパーマンとかバットマンとか。ねえ。すごく「男」っていう感じだったじゃないですか。筋肉モリモリで。だからすごく同性愛とは相性が悪かったんですよ。ただ、X-MENシリーズだけは最初に同性愛の人たちのキャラクターを出していったんですね。原作の方だけは。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)でも漫画版ではできても、映画ではなかなか難しかったんですよ。なぜなら、マーベルはディズニーが作っているからなんですよ。このマーベル・シリーズはディズニーが作っているからやっぱり同性愛を出せないんですよ。

(赤江珠緒)そうなんだ。うん。

(町山智浩)で、『マイティ・ソー』というシリーズのソーっていますよね? アベンジャーズの雷様のヒーローの。で、『ラグナロク(マイティ・ソー/バトルロイヤル)』ではヴァルキリーという女神が出てきて。まあ、女闘士なんですけども。

(山里亮太)めちゃくちゃ強かったやつだ。

(町山智浩)まあ、アフリカ系の人ですけどね。酔っぱらいの役で出てきましたけども。彼女は当初はギリギリまでレズビアンっていう設定で行っていたんですよ。


(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)でも、やっぱりダメだってストップしているんですよ。ディズニー!っていう感じで。

(赤江珠緒)ああーっ!

(町山智浩)で、次は『ブラックパンサー』っていうこの間公開された映画でものすごく強い女軍団が出てきたじゃないですか。で、オコエさんっていう女戦士がいたじゃないですか。あれも企画段階ではかなりずっとレズビアンで行っていたんですよ。でも、やっぱりそれだとディズニーでは子供向けに公開をできないということで、断念して途中でやめているんですよ。


(赤江珠緒)そうかー。アメリカはそういうのを許さないっていう主張の方も多いですもんね。

(町山智浩)まだね、アメリカ全体の30%ぐらいはキリスト教で厳しくて「同性愛とかは絶対に地獄に落ちる」って言っている人がいるんで。その30%を敵に回すというのは大々的に公開するご家族向け映画ではすごくリスクが大きくなっちゃうんですよ。もうひとつのリスクは中国なんですよ。中国で公開する際、中国は同性愛を禁じていますから公開ができなくなっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)そうか。いま中国は大きな市場ですからね。

(町山智浩)そう。ただ、この『デッドプール』はディズニーじゃなくて20世紀フォックスっていう会社が作っているんですね。それとR指定だから行っちゃえ!っていうことで今回、行っちゃっているんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、忽那汐里ちゃんがレズビアンの役で出てくるんですよ。これはすごくて、アメコミのいま言ったような流れの中ではかなり画期的な掟破りをやっちゃったっていうところなんですよ。

(赤江珠緒)いろいろと画期的なことが実は盛り込まれているコメディーなんですね。

(町山智浩)そうなんです。すごい画期的なんですよ。だからいま言ったみたいにデッドプールっていちばん悪い不良の、まあはっきり言うと優等生じゃないキャラクターだったのに……でも、だから自由なんですよ。なんでもできるわけですよ。いい人じゃないから。

(赤江珠緒)いきなりコカインをお腹いっぱいにっていうことですもんね。

(町山智浩)クラスでもいちばん外れものだから。俺みたいに(笑)。

(山里亮太)町山さんも感情移入できるんですね(笑)。

(町山智浩)学級委員とかになれない人ですから。学級委員じゃないから、何をしてもいいんですよ。で、今回もっとすごいのはこのデップーっていう人は原作ではそうなんですけども、実は「パンセクシャル」っていう裏設定があるんですよ。

(赤江珠緒)ん?

(山里亮太)パンセクシャル?

デッドプールの裏設定・パンセクシャル

(町山智浩)パンセクシャルっていうのは「全性愛」と言われているもので、バイセクシャルよりももっと人の性別にこだわらず誰でも愛する人のことを言います。

(赤江珠緒)ふーん。

(町山智浩)「ふーん」っていう感じで反応が薄いですが。はい。

(山里亮太)いや、すごい世界だなっていう……。

(町山智浩)いまはもう、そっちに行っているんです。「男も好き、女も好き」って言うと「それは古いね。男とか女とか、もうこだわらないから」っていう世界なんですよ。いまは。


(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、実はデップーはそうなんですよ。

(赤江珠緒)あ、デップー自身が?

(町山智浩)デップー自身がそうなんです。原作では結構男でも女でも関係ないんですけども。スパイダーマンのことを異常に愛して追っかけていたりするんですけど。原作では。

(赤江珠緒)アハハハハハッ!

(町山智浩)今回はコロッサスという名前の鋼鉄の巨人のX-MENが出てくるんですね。ところが、その鋼鉄の巨人のお尻を触ったりとか、そんなことばっかりしているんですよ。デップーちゃん。


(赤江珠緒)うん(笑)。

(町山智浩)で、とうとう奥さんからも「あんたさあ、コロッサスと浮気しないでよ!」って釘を刺されたりするんですよ。今回。

(赤江珠緒)あ、デップーは奥さんがいるんだ。

(町山智浩)いるんですけどね。はい。これ、すごいのはね、デップーの奥さんはいわゆるコールガールというか、セックスワーカーの人なんですよ。セックスワーカーの人なんだけど、それを全く否定しないで、セックスワーカーをやめさせるわけでもなくデップーは普通に愛しているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)それも新しいでしょう?

(赤江珠緒)もういろんな意味で枠を取っ払った映画ですね!

(町山智浩)彼は全く自由なんですよ。いままでのスーパーヒーローがマッチョイズムにしばられていたのに比べると彼は本当に自由でなんでも愛す男になっているんですよ。そこもすごいんですよ。

(赤江珠緒)へー! ちょっとそれは面白そうですな。俄然興味が出てきました。

(町山智浩)面白いんですよ。途中でX-MENを矯正する、X-MENを治そうとする施設が出てくるんですけど、それはアメリカに実際にあるゲイの人を治療しようとするキリスト教団体のパロディーになっていたりね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ただこのね、デッドプールは言っておきますけども最後のギャグ。クライマックスがすごいんですよ。1985年にドリフターズが『8時だョ!全員集合』でやっていたコントをそのままやります!

(赤江珠緒)ええーっ? なんだろう?

(山里亮太)っていうことは、ちょっとドカーン!って?

(町山智浩)製作費110億円のハリウッド大作で30年前にドリフがやったコントを見せられるとは思っていませんでした。本当にびっくりしました。

(赤江珠緒)アハハハハハッ!

(町山智浩)あと、ゲストでヒュー・ジャックマンとマット・デイモンとブラッド・ピットが出てきます。でも、見せ場はドリフのコントです。はい。びっくりしました。

(赤江珠緒)いやー、盛りだくさんすぎて。そうですか。

(町山智浩)という、言えば言うほどわからなくなる映画『デッドプール2』。

(山里亮太)たしかに(笑)。劇場で見よう。確認しよう。

(町山智浩)もう見るしかないです! 6月1日、日本公開です。

(赤江珠緒)はい。ありがとうございます。そうか、デッドプールってそんなにいろんな意味も込められていて。

(町山智浩)『8時だョ!全員集合』とかいろんな意味が込められています!

(赤江珠緒)『8時だョ!全員集合』はどういう風にたどり着くのか……。

(山里亮太)「デップー、うしろ!」とかあるのかな?

(赤江珠緒)「うしろ、うしろ!」って(笑)。そうですか。わかりました。ありがとうございます。楽しみにします。『デッドプール2』は6月1日に日本公開でございます。町山さん、ありがとうございました!

(山里亮太)ありがとうございました!

(町山智浩)どもでした!

<書き起こしおわり>


町山智浩『ウィンド・リバー』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でジェレミー・レナー、エリザベス・オルセン主演の映画『ウィンド・リバー』を紹介していました。


(町山智浩)今日、紹介する映画はすごく重い映画なんですが、傑作です。『ウィンド・リバー』という映画です。ウィンド・リバーというのは実在の地名です。イエローストーン国立公園というのがアメリカにあるんですね。ロッキー山脈の上の方、ワイオミング州っていうところにあって。そこにあるウィンド・リバー先住民居留地というところが舞台の映画です。

(赤江珠緒)ふーん。うんうん。

(町山智浩)「ウィンド・リバー」っていうのは「風の川」っていう名前ですけど、いわゆるインディアン。先住民の人のつけた地名なんですけども。そこで、主人公はジェレミー・レナーです。ジェレミー・レナー、この人は『アベンジャーズ』シリーズで唯一の特殊能力を持っていない弓矢の人、ホークアイです。

(赤江珠緒)ああ!

(町山智浩)「俺みたいな普通の人がいた方がいい」っていう人ですね。彼が主人公でね。「そして殺す」っていうミームの人ですけども(笑)。


(町山智浩)そのウィンド・リバー先住民居留地で合衆国魚類野生動物局の局員をやっています。これはね、自然保護区の中でその動物をこの人は管理しているんですよ。連邦政府の仕事で。で、実はその場所はアメリカンライオンとかコヨーテとか熊とか野生動物がいっぱいいるんですけども。それをちゃんと殺すことができる権利を持っているのが彼なんですね。むやみやたらと殺してはマズいわけですから。野生動物の数とか危険な動物を管理しているのがこのジェレミー・レナーの仕事でほとんどホークアイと似たようなもんですけども、ハンターなんですね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、ウィンド・リバーっていうのはものすごく寒いところなんですよ。山脈の上の方なんですけど、そこで雪の中で倒れて死んでいる少女、女子高生を発見するんですね。で、その女子高生が死んだのはいったい何か?っていうミステリーなんです。『ウィンド・リバー』っていう映画は。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、まず彼は警察官じゃないんで、警察官を呼びに行くんですけど、このウィンド・リバー先住民居留地っていうのはだいたい鹿児島県と同じぐらいの面積があるそうなんですよ。

(赤江珠緒)うん、結構広いですね。

(町山智浩)でも、警察官が6人しかいないんです。

(赤江珠緒)6人!?

(町山智浩)6人。

(山里亮太)足りなすぎる……。

(町山智浩)そう。それで2万人以上の先住民が住んでいるんですけど。アラパホ族とかショショニ族とか、インディアンの人がね。そこに警察官は6人しかいないんですよ。で、殺人事件かもしれないんです。この少女は。そうすると、今度はFBIを呼ぶんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

アメリカの複雑な警察システム

(町山智浩)これね、アメリカの警察の仕組みはすごく面倒くさいんでね、説明する必要があるんですが。まず、いちばん普通に警察官として業務をしている人たちは市警察なんですね。シティなんです。市警察官。で、よく聞く保安官っていう人がいるでしょう? 保安官っていうのは郡に所属しています。で、保安官は警察官じゃありません。保安官は一種の政治家に近い人で地元の人が選挙で選ぶ人なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)警察官ではないんです。で、州には州警察っていうのもあって。ステート・トルーパーって言われている人で、この人たちは市と市を結ぶ高速道路とかそうしたところを自分の管轄にしています。その上にさらに連邦警察っていうのがあって、これがFBIです。こういう仕組みだから州とか市を超えるとそれぞれの警察はそれ以上追跡できないんですよ。だから州を超えた犯罪の場合には連邦警察が出てくるんです。誘拐とかね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、この先住民居留地っていうのは一応連邦政府の土地なんですよ。だから殺人事件だとFBIが出てくるんです。連邦政府のものだから。すごくややこしいんですよ。その法の隙間がそういうシステムだとできてきちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ああー、管轄・管轄だけどお互いがちょっと、どっちでもないみたいな?

(町山智浩)そうそうそう。で、この少女の検死をすると殺人じゃなかったことがわかるんですね。っていうのは、このウィンド・リバー地区っていうのは零下20度とか30度になっちゃうんです。そうすると、冷気。外の外気を肺に直接吸い込むと、肺胞がその場で一瞬で凍結して即死するんです。

(赤江珠緒)ああ、じゃあ自然死ではあったと。

(町山智浩)そう。だから冷気を吸ったための死なんですね。そうすると、今度は連邦警察がそれを操作できなくなるんです。殺人事件じゃないから。で、この少女を調べてみると、レイプされていることがわかるんですよ。レイプは連邦法には規定がないんです。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)州の法律で規定されているものなんですね。ところが、州の警察や市の警察はこの居留地の中では行動ができないから、レイプ犯は裁くことができない。捜査することもできないんです。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)っていう話なんですよ。この『ウィンド・リバー』っていうのは。

(赤江珠緒)えっ、6人しかいないし、その州の警察もレイプとかは裁けない?

(町山智浩)裁けないんです。っていう話がこの『ウィンド・リバー』っていう話で。ちょっとこれね、びっくりするような内容なんですけど2012年にニューヨーク・タイムズ
っていう新聞にこのウィンド・リバーで異常にレイプとか女性の行方不明者が多いっていうルポ記事が出まして。それを読んだ脚本家のテイラー・シェリダンっていう監督が地元を調査して書いた話がこの『ウィンド・リバー』なんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、これね、FBIから派遣されてくるのは女性捜査官で、この人はエリザベス・オルセンっていうやっぱり『アベンジャーズ』でスカーレット・ウィッチをやっていた人ですけども。

(山里亮太)はいはい。

(町山智浩)その人が来て、途中で「殺人じゃない」ということがわかるんだけど、そうすると自分が捜査できなくなっちゃうからそれを隠して捜査し続けるんですけど……ただ、そうすると今度は応援を呼ぶことができないんです。応援を呼ぶと殺人じゃないことがわかっちゃうから。

(赤江珠緒)ああー。

(町山智浩)だから、なんとかこの少女をレイプしたやつを捕まえたいんだけど、FBIの本部には知らせないで捜査することになる。だけど、彼女はウィンド・リバーという居留地について全く何も知らないんで、息を吸ったら即死するっていうことも知らなかったんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だからこのジェレミー・レナー扮する地元で連邦のハンターをやっている人と協力して犯人探しをするという話なんですね。で、このジェレミー・レナーは奥さんが先住民の人なんですけども、離婚をしているんですね。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)離婚をしている理由は物語の中でわかってくるんですけど、この映画はね、そう聞くとすごく社会派のドラマなんですけども、実際にはこれ、西部劇なんですよ。

(山里亮太)えっ?

現代の西部劇

(町山智浩)現在の話なんですけど、完全に西部劇なんです。っていうのは、西部劇っていったい何か?っていうとアメリカの開拓時代。1880年ぐらい……1860年代に南北戦争が終わって、それから西。西部の方、まだアメリカじゃなかった土地に向かってみんなで移住をしていって、そこでなんとか農業とか牧畜を始めようって行くわけじゃないですか。で、そこに行ったらどうなるか? まず、警察がないんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だってまだ政府もなければ何もないわけですよ。政治もなにもないわけです。

(赤江珠緒)まだネイティブ・アメリカンの人たちと争っていたりとか、そんなこともありますもんね。

(町山智浩)そうそう。誰も住んでいないところにいきなり行って家を建てるわけじゃないですか。警察はいるわけないわけですよ。で、周りは先住民もいればいろんな動物もいるし。見渡す限り何百キロも人が住んでいないところに家を建てるわけだから銃を持っていないとならないわけですね。だから全員が銃で武装している。

(赤江珠緒)はいはい。

(町山智浩)そして、警察がいない。どうなるか?っていうと銃で決着をつけるしかないんですよ。なんでも揉め事があったら。

(山里亮太)決闘だ。

(町山智浩)そう。だから西部劇っていうのが生まれたんですよ。わずか150年前なのに全て銃と暴力で決着をつけるという状況がアメリカに生まれたのが西部劇なんですよ。現在も全く変わっていないんです。

(赤江珠緒)いまも?

(町山智浩)変わっていないんですよ。これ、アメリカの西部に行くとわかるんですけど、とにかく人が住んでいるところ……10キロ、20キロ四方に誰も住んでいないところに住んでいて。しかもさっき、警察官がすごく少ないって言いましたよね? まあ、実際にそうですよ。荒野にいちばん近くの警察まで6時間とか7時間とかだったりするわけですよ。そしたら、やはり全員が銃で武装しています。だって怖いじゃないですか。10キロ四方誰も住んでいないところに1人で住んでいたら、やっぱり銃が必要でしょう?

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だから状況は西部劇と何も変わらないんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だから全員が銃を持っているわけですから、なにか揉めたらすぐに撃ちますよね。で、撃ってその人が死んだり殺されたりしても、まあ運がよくても1日ぐらいは発見されないですよね。

(赤江珠緒)そんなに広ければ、ねえ。

(町山智浩)で、山奥に捨てたらもうたぶん地球が爆発するまで発見されないですよね。下手をすると。

(赤江珠緒)ええーっ! でも、居留地ですけども、アメリカ連邦の土地でもあるのにそんなにアメリカ連邦から守ってもらっていない感じなんですか?

(町山智浩)全く守っていないんですね。これね、警察官が6人しかいなかったのは大問題になって。すごく行方不明者が多いっていうことがわかったんで、2012年にオバマ大統領が6倍に増やして36人にしたんですよ。

(山里亮太)いや、それでも……。

(町山智浩)36人って……鹿児島県と同じ面積で2万人以上いて、36人にしても全然状況は変わらないんですよ。だからすごいことで、いまだに何が起こっても死体も出ないっていうところなんですね。

(赤江珠緒)すごい怖いエリアじゃないですか。

(町山智浩)ものすごく怖い。これを見ていると本当にゾッとしましたよ。で、それだけじゃなくて居留地に入っている先住民の人たちはもう150年間そこに入っていて何もいいことがないわけじゃないですか。企業もないし。で、平均寿命が49才ですって。

(赤江珠緒)はー……。

(町山智浩)仕事もないわけですよ。牧羊とかはやっているみたいですけども。羊とかを育てたりね。でも、失業率は80%。10代の自殺率が全米平均の2倍以上。先住民の女性がレイプされる率が全米平均の2.5倍以上。先住民が殺人事件の被害者になる率は全米平均の5倍から7倍ですって。

(赤江珠緒)もうアメリカって、ねえ。格差といか差のある国だとは聞いてましたけども、そこにもこんな現状があるんですね。

(町山智浩)完全な無法地帯になっているんですよ。もうすごいですよ。見ていると、だからいつ撃たれるかわからないし。要するに、熊とか猛獣がいるわけだから、護身用の銃じゃなくてものすごい高性能のライフルを持っているから大変な世界なんですよ、これ。

(山里亮太)そこで暮らしていくっていうのは大変な……。

(町山智浩)大変なことですね。で、この監督のテイラー・シェリダンっていう人も西部、テキサスの出身なんですね。で、この人は西部劇ばっかり作っている人でね。現代の西部劇作家ですね。この人は『最後の追跡』っていう映画でアカデミー脚本賞になったんですけど、この映画もまた面白くてね。これ、テキサスで銀行強盗する兄弟の話だったんですよ。現代の。

(山里亮太)はいはい。

(町山智浩)で、2008年の金融危機でローンで銀行からものすごい借金を抱えたんで、その銀行の支店を襲いまくるっていう復讐銀行強盗の話なんですね。で、これはただテキサスなんでね、『最後の追跡』っていう映画がすごく笑っちゃうのはテキサスの銀行でお客さんがたくさんいる時に銃を持って「強盗だ! みんな、手を上げろ!」って言うじゃないですか。そこにいる客の全員が銃を持っていて、いきなりバリバリ撃ち返してくるんですよ(笑)。


(山里亮太)フフフ、銃撃戦に(笑)。

(赤江珠緒)ちょっと日本ではありえない銀行強盗のシーンですね(笑)。

(町山智浩)で、「テキサスで銀行強盗するなんてバカなやつもいるもんだ!」とか言われたりしているんですよ(笑)。もう戦争みたいになっちゃっていて。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)でね、そういう映画を撮り続けている人で。このテイラー・シェリダンはその次に脚本を書いたのが『ボーダーライン』っていう映画で、これはアリゾナのメキシコとの国境地帯で麻薬カルテルにコントロールされて全く無法地帯になっている状況なんですよ。それが。

町山智浩 映画『ボーダーライン』『カルテル・ランド』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でメキシコの麻薬カルテルとの戦いを描いた映画を2作品、紹介。『ボーダーライン』と『カルテル・ランド』についてお話されていました。 ...

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だから現代のアメリカって何も西部劇と変わっていないよっていうことを作り続けている人でね。これはやっぱりすごいなと思いますね。もう、どうしようもないんですよ。すごい広いところに人がみんな住んでいるから。

(山里亮太)それを守る人もいないっていう。

(町山智浩)そう。日本の人はそういうところにはあまり行かないですけどね。観光で。

(赤江珠緒)でも人権の国だっていうアメリカもそんな鹿児島ぐらいの大きさの無法地帯が現在でもあちこちにあるという?

(町山智浩)あるんですよ。まあ、先住民居留地っていうところは。で、いちばんひどいのはね、そういうところって結構石油が出るんですよ。天然ガスとか。ただ、その石油や天然ガスが出た利益は全然その先住民には行かないんですよ。アメリカとかイギリスとかって、国際的にその土地の権利とその土地から石油を採掘する権利を分けちゃったんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)どうしてか?っていうと、そういうアジアであるとかアフリカであるとか、そういう彼らが開発した国から石油を搾取するためにはそういう法律にするしかなかったんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)その土地を持っている人の権利にしちゃうと石油の利権を全部自分のものにできないから、「採掘をした人に権利がある」っていう法律にしちゃったんですよ。それでアフリカではずーっと搾取をしていたんですけど、最近「それはおかしいだろ!」ってことでアフリカの人たちはみんな「自分たちの土地から出る石油なんだからこの採掘する権利は我々にある!」っていうことでアメリカやイギリスを追い出して。だからアフリカはいま、豊かになりつつあるんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)でも、アメリカ国内では先住民の人たちはいまだに採掘権で石油を取られてお金がまったくない状態で。そういうどん底のようなところで。殺されても全然犯人が出てこないんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)っていう、すさまじい現実を描いているのがこの『ウィンド・リバー』なんですけどね。

(赤江珠緒)ちょっと見ると絶望的な気持ちになりそうな……。

(町山智浩)でもやっぱりそこにはね、『デッドプール』と同じで。そういうどん底にもやはり、希望とか優しさっていうのはあるんですよ。それはもう、それこそ『万引き家族』とかでもそうですけども。逆にそういう風に人々から捨てられたものだからこそ、わかる人の心っていうのがあるんだという映画でもあって。『ウィンド・リバー』はいい映画でしたよ。

(赤江珠緒)なるほど。

(山里亮太)日本では見れるんですか?

(赤江珠緒)はい。7月27日に公開となります。

(町山智浩)はい。

(赤江珠緒)そして、今日は『ウィンド・リバー』をご紹介いただきましたが、来週はいま申し上げましたカンヌ映画祭でパルムドールを獲得された『万引き家族』をご紹介いただきます。

(町山智浩)もう本当に素晴らしいおしりの映画でした。はい。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(山里亮太)おしりの映画!?

(赤江珠緒)それはちょっと要約しすぎてますね……(笑)。

(町山智浩)ええっ? なにを間違っているの? 俺の?

(山里亮太)その「おしりの映画」っていうのがどういうことなのか、来週わかるんですね?

(町山智浩)誰のおしりか? ですよ。『万引き家族』で。いったい誰のおしりを俺たちは見るんだ?っていう。

(山里亮太)どの尻か選手権?

(赤江珠緒)なるほど。否定はしないけど、ギュッと要約しすぎているということだけは申し上げておきます。

(山里亮太)それでパルムドール、とれるのかな?

(赤江珠緒)じゃあ町山さん、来週もよろしくお願いします。

(山里亮太)よろしくお願いします。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

町山智浩 映画『万引き家族』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で是枝裕和監督の映画『万引き家族』について話していました。

(町山智浩)あ、もう時間がすごくたっちゃって。今日、すいません。話しすぎた(笑)。本題の『万引き家族』の話をしなきゃいけないんですけど。とにかく『万引き家族』がカンヌ映画祭でグランプリをとったというところから、日本でものすごいバッシングなんですね。


(山里亮太)そう。「日本の恥をさらすな」みたいなことを言われているっていう。

(町山智浩)そうなんですよ。だから『万引き家族』なんていうタイトルの映画だからということで。中身を見ないうちからタイトルだけで……「万引きをする家族を素晴らしく描いているんじゃないか?」みたいなことを察したんでしょうけど。タイトルのみで、映画を見ないでね。で、さらに福祉に関しての政府のやり方に対して異議を示したりするような監督の映画であるにもかかわらず、この映画を作るのに国の助成金をいただいているということで、「国を批判するなら助成金なんかもらうな!」ってまた叩かれているんですよ。

(赤江珠緒)うーん……。

(町山智浩)「ちょっと待て!」って思いますよね。本当にね。というのは、この『万引き家族』の是枝裕和監督はもともと、ある家族が自分の親が死んだことを隠して、その親の年金を受け取り続けてきた家族がそれが発覚した時に、その年金を不正受給した家族たちのことをものすごくテレビのワイドショーを含めて普通の人たちが叩いたということがあって。「こいつら、許せねえ! 年金を不正受給しやがって!」みたいな感じで。で、是枝監督はそれを見て「なんだろう?」って。「親の年金に頼らないと生活をできないような状況にある人がいるっていうことに対してそれを徹底的に叩く。いちばん弱い人たちを叩く。これは、なんなんだろう?」っていうところからこの『万引き家族』を作ろうとしたとインタビューで言っていますんで。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)そしたら、実際にその映画を作ったら「助成金だけ取りやがって!」とかね、言って叩いている。その通りじゃないかという(笑)。監督の思ったとおりにハマっていてどうするんだ?って思いましたよ。だから、是枝監督は政府を批判しているんじゃなくて、「そういう弱い人……上手く生きられなかったから、すごく変な形でしかお金を得られない、生活をできない人たちを叩く。いちばん弱い人たちを叩くっていうのはなんなのか?」って言っているのに、それを描いた映画を叩くっていうね。日本はどこまで弱い者いじめの人たちばっかりになっちゃったんだ?って思いますよ。

(山里亮太)たしかに、そうだよな。

(赤江珠緒)ねえ。それはまあ、本当に一部の人だとは思いますけども。

いちばん弱い人を叩く風潮

(町山智浩)まあ、もちろんそうだと思います。映画を見ないで言っているわけだから……まあ、映画を見ないで言うっていうのもあれだけど。

(赤江珠緒)そうなんですよ。

(町山智浩)なんなんですけどね。で、映画を見るとまず、どういう映画か?っていうと、ものすごくこの家族が愛おしくなる映画でしょう?

(赤江珠緒)はい。そうなんですよ。

(町山智浩)あの子たちが本当にかわいくてしょうがないでしょう?

(赤江珠緒)そうそう。

(山里亮太)だから何が正解かがわからないんだよね。もうこうなってくると……。

(赤江珠緒)ねえ。なにかきれいなものを見たわけじゃないのに、すごく美しい映画だったなって思っちゃう感じがあるんですよね。

(町山智浩)まあ、きれいなものを見たんですよね。見た目は汚いけどね。だからいつも言っているように、写真には写らない美しさがあるんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(山里亮太)『リンダリンダ』だ。

(町山智浩)ねえ。あと、その映画を見ないで攻撃している人とかはね、「そんな万引きなんかで生活をしているやつらはクズだ!」みたいなことを言って、ひどいことを言っているんですけど、あの家族は働いているんですよ。実際に映画の中でこのリリー・フランキー演じるお父さんは建設現場で働いているんですよ。安藤サクラさん演じるお母さんもクリーニング屋さんで一生懸命働いているんですよ。働いているのに、それでもご飯を食べるのが大変なんですよ。それで、「万引きする」って言っているけどなにを万引きしているのかっていうと、食べ物ですよ。

(赤江珠緒)うん。

足りない食べ物を万引き

(町山智浩)スーパーでほんの少し、家族全員が食べるご飯をとっているだけなんですよ。それで「万引きなんかしやがって! 万引きなんか犯罪じゃないか!」って……ちょっと待て。彼らは働いていてもご飯が食べられなくて、わずかな食べ物がほしくて万引きをしているんですよ。この映画の中でね。それ、スーパーとかで年間、どれぐらいの食料が賞味期限切れということで捨てられていると思いますか?

(山里亮太)ものすごい量なんですよね。

(赤江珠緒)そうなんですよね。廃棄率がね。

(町山智浩)600万トン以上ですよ。600万トン以上の食料が廃棄されているんですよ。それをたとえば食べれない人たち、ホームレスの人たちに行き渡ったら、それだけで相当救われるでしょう? そういうことをしていないじゃないですか。

(山里亮太)アメリカはそういうこと、していますよね。たしか。

(町山智浩)アメリカやヨーロッパはしています。そういうのが無駄にならないように、全部タダで配っていますよ。


(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)日本はまだ、始まったばっかりですよね? だから「万引きが!」って言うよりも、まずはそれをやれよっていう話ですよね。で、そのシーンっていうのは僕、この映画を見ていて思ったのは、この前の前の年にカンヌ映画祭でグランプリをとった映画があるんですけども。『わたしは、ダニエル・ブレイク』っていうイギリス映画があって。そこでもシングルマザーのお母さんが飢えて廃棄というか寄付された食料にかぶりつくっていうシーンがあるんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、この『わたしは、ダニエル・ブレイク』っていう映画は『万引き家族』とすごく似ているんですよ。ポスターとかも似ているんですけども。

『わたしは、ダニエル・ブレイク』と似ている


(赤江珠緒)ええ、ええ。

(町山智浩)これはずーっと働いてきたおじさんが60近くになってケガをして働けなくなるんですよ。同じでしょう? リリーさんと。それで政府の失業手当みたいなものを受けようとすると、いろいろと難癖をつけて手当を支給しないんですね。お金を政府が払わないんですよ。そのうちにどんどんどんどんヤバくなっていくっていう話なんですけども。それは実際にイギリスであったことで、その当時の保守党政権が緊縮、緊縮っていうことで福祉を削っていく中で起こっていったことを描いたんで。この『わたしは、ダニエル・ブレイク』がカンヌ映画祭で賞をとった時にもイギリス政府の保守的な人たちは「国の恥だ!」って言っていたんでそっくりなんですよね。

(赤江珠緒)えっ、そうなんですか! そういうところの世界共通というか。

(町山智浩)世界共通なんですけども。もう全然時間がないですね。続きは来週やろうかな? とにかく、いわゆる「弱者利権」っていう言葉を作って弱者を叩いているような人が問題であって。政府よりもこの『万引き家族』が問題として見すえているのは――見えないんですけども――そういう、いちばん弱い人に攻撃を向けるようになってしまった日本人の心というものが問題なんだなって僕は思うんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それで……もう全然時間がないんで、話せないな(笑)。

(赤江珠緒)大丈夫。町山さん、この話しきれない部分は引き続き、来週やりましょう。

(町山智浩)そうですね。はい。来週もじっくりやりましょう。

(赤江珠緒)ねえ。語りたい映画ですもんね。

(町山智浩)じゃあ、もう来週やりましょう。来週までにみなさん、見ておいてください。そしたらネタバレもなんでもありなんでね。

(山里亮太)たしかに(笑)。

(町山智浩)来週楽しく聞いていただくために、ぜひみなさん、これから映画館に行って『万引き家族』を見てください。すいません(笑)。

(赤江珠緒)でも町山さん、(現在取材中の)そのフィラデルフィアの街の精神とどこか通じるところがある気がしますね。

(町山智浩)ありますね。はい。だからフィラデルフィアで『ロッキー』の第一作目というのはみんな、本当に希望がなくなって貧乏でどうしようもなくなっているところにロッキーが希望を与えるっていう話だったんですよ。で、いろんなものに似ているんで。『デッドプール2』にも似ているし、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVol.2』にも似ているんですよ。『万引き家族』は。だから『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』とか『デッドプール2』とかマーベル映画が好きな人も、ぜひ『万引き家族』を見ていただきたいと思います。

(山里亮太)どういう共通点があるのかはじゃあ、来週。

(赤江珠緒)来週たっぷりうかがいましょう。

(町山智浩)はい、すいません(笑)。

(山里亮太)町山さん、ありがとうございました。

(赤江珠緒)ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした(笑)。

<書き起こしおわり>

町山智浩 フィラデルフィアとドナルド・トランプとスタローンを語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で取材で訪れているフィラデルフィアについてトーク。フィラデルフィアとトランプ大統領の対立やプロレス団体CZW、映画『ロッキー』とスタローンの人間性などについて話していました。

(赤江珠緒)今日はフィラデルフィアということなんですが、やっぱり町山さん、いままだ行われて終わったばかりという米朝首脳会談について。アメリカではどうですか? どの程度ニュースになっています?

(町山智浩)ええと……いま、ホテルの部屋でテレビを見ているんですけども。こちら、夜中の2時なので。だから周りの様子はわからないんですよね。ただ、テレビではずーっと臨時ニュースが続いている状態ですね。このフィラデルフィアという街自体は街全体が反トランプですけどね(笑)。

(赤江珠緒)そうですか。

(町山智浩)フィラデルフィアはアメフトのNFLのイーグルスというチームがあるんですよ。いま、トランプ大統領はプロフットボール界全体と戦争状態なんですよ。国歌斉唱の時に選手たちが膝をついて起立しないという形で、警官たちによる黒人を殺す事件に抵抗するという運動をしているんですね。アメフトの選手たちが。そしたら、トランプ大統領が「そういう選手たちは全部処分しろ!」ということを言っていて。それで選手たちは「これは自分たちの政治的な意見を示すための権利だ!」っていうことでそれに反発をしているという状態で。で、フットボールや野球などの優勝チームというのは本来、ホワイトハウスに招かれて大統領から祝福されるんですよ。それがアメリカの決まりなんですよ。毎回毎回の。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)ところが、トランプはそれで自分に逆らう優勝チームのフィラデルフィア・イーグルスをホワイトハウスに呼ばないという形になって、イーグルス側も「俺たちも行かねえよ!」みたいな感じでものすごい対立している状態なんですよ。フィラデルフィアという街と。街はもちろんイーグルスの全面的な味方ですからね。

トランプとフィラデルフィア・イーグルスの対立


(町山智浩)で、さらに、フィラデルフィア市自体が「サンクチュアリ・シティー」を宣言しているんですね。サンクチュアリ・シティーというのは不法移民の子供たちに対して移民局が強制的な国外退去をしようとしても、それに対して抵抗をするということを宣言している街なんですよ。

(山里亮太)じゃあ、全く逆なんだ。

(町山智浩)そうなんですよ。いま、ドナルド・トランプ大統領は不法移民の子供たちを……その子供たちは自分たちがなにをやっているのかわからないぐらいの年齢の時に親に連れられてアメリカにやって来た人たちなんですけども。そういう人たちがいっぱいいるんですね。親の背中に背負われて赤ちゃんの時にアメリカに入ってきたような人たちがいるんですけど、ドナルド・トランプはそういう人たちをみんな叩き出せ!って言っているんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)それに対してフィラデルフィア市自体が戦っているんで。だから2つの意味で完全にそのフィラデルフィア市とドナルド・トランプは対立している状態なんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。そういう街にいま、いらっしゃる。

(町山智浩)で、フィラデルフィア市がそれをやるということはものすごい重要なんですよ。

(山里亮太)と、言うと?

(町山智浩)アメリカはフィラデルフィアから始まったからです。フィラデルフィアで独立宣言が書かれて、アメリカという国がそこから建国されたんです。

(赤江珠緒)そうか。だから独立記念館とかもフィラデルフィアの、あのあたりにある。

(町山智浩)そうなんですよ。独立宣言っていうのは非常に有名な「我々人間は全て平等に作られている」というところから始まりますからね。だから自由と平等と独立と友愛がこの街のモットーなんですよ。そして権力に対しては徹底的に戦うっていう気持ちがもともとあるところなんですよね。もともとだからアメリカっていうのはイギリスの独裁的な政治的圧力に対して抵抗して革命を起こして生まれた国なので。国のモットーは「国家に逆らうこと」なんですよ。

(赤江珠緒)そうか、そうか。

(町山智浩)「そうか」じゃなくて、「それ、矛盾してませんか?」って言った方がいいですよ。もともと革命を起こして人民が立ち上がった国なので、アメリカのモットーというのは「権力に逆らう」っていうことが「保守」なんですよ。

(赤江珠緒)うん、うん。

(町山智浩)っていうか、日本と逆でしょう?

(山里亮太)そうだ……。

「権力に逆らう」ことがアメリカの「保守」

(町山智浩)権力に逆らうことがもっとも伝統的な保守的なことなんです。アメリカっていうのは。

(山里亮太)日本は逆だもんね。

(町山智浩)そこがアメリカと日本のいちばん大きな違いなんですよ。権力に逆らうと、日本ではなんて言われますか?

(赤江珠緒)まあ、そうですね……。

(町山智浩)なんて言われますか? インディペンデント、独立が国是なので国民にとっていちばん大事なことなので。だから「トランプ大統領から祝福されますよ」って言われても、たとえばNBA、プロバスケットボールの優勝チームであるゴールデンステート・ウォリアーズは「トランプの祝福は受けない!」って拒否をするという形を取ったんですね。(町山さんの住むバークレーの隣町の)オークランドのチームですけども。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)そういうことをすると、日本ではなんて言われますか?

(山里亮太)ええと、非国民的な感じ?

(町山智浩)フフフ(笑)。そう言われるでしょう? ところが、アメリカではそれこそが正しいアメリカ人のあり方なんですよ。

(山里亮太)正しいことをしているぞと。

(町山智浩)そう。権力にはひざまずかない。それはアメリカという国の成り立ちと関係していて、それがこのフィラデルフィアから始まっているんですよ。そういうところがすごく大きく違うと思いますね。

(赤江珠緒)町山さんはそういう感じでフィラデルフィアの取材に行かれているんですか? トランプさんの……。

(町山智浩)ああ、違います。今回はこっちでCZWっていうプロレスのデスマッチの試合があったので取材に来ています。

(山里亮太)全然違いますね(笑)。

(赤江珠緒)全然違う。たまたま行かれたところが、ちょうど。

(町山智浩)全然違うんですね。

(山里亮太)デスマッチ?

(町山智浩)ここフィラデルフィアはデスマッチプロレスの中心なんですよ。CZWっていう団体があって。大仁田厚選手も去年ここで電流爆破デスマッチをやりましたね。



(山里亮太)去年?

(町山智浩)去年やっていますよ。フィラデルフィアとかニュージャージーとかこのあたりがCZWっていうインディペンデント団体の……やっぱりインディペンデントですね、はい(笑)。その団体の本拠地です。すごかったですよ、もう血みどろで。これはテレビで放送します。僕がやっている『アメリカの”いま”を知るTV』というので。

(山里亮太)結構向こうのデスマッチってすごいんじゃないですか?

(町山智浩)ものすごかったですよ。もうパックリ割れてグッチャグチャで。今回のデスマッチはお客さんが持ってきた武器を使うっていうデスマッチで。いろんな家庭用品とか芝刈り機とかいろんなものがあって。それをリングの上に全部並べて相手を傷つけ合うっていうデスマッチでした。

(山里亮太)絶対血まみれだ……。

(町山智浩)でも、いちばん痛そうで強烈だったのはXboxっていうゲーム機でしたね。ものすごく重いんで、あれで殴られると「ゴォ~~~~ン!」って音がしてすごく痛そうでしたけども。

Microsoft Xbox 本体
Posted at 2018.6.12
Xbox
日本マイクロソフト

(赤江珠緒)ゲーム機が!

(町山智浩)ゲーム機も凶器として使っていました。あと、取材したのはフィラデルフィアは『ロッキー』のロケ地なんで、ロッキーのそっくりさんがやるロッキーツアーっていうのでロッキーの名所を回ってきました。

(山里亮太)楽しんでますね、フィラデルフィアを(笑)。

(町山智浩)そうですね。その人、ロッキーのそっくりさんだったんだけど、シルベスター・スタローンに「お前、そっくりなら俺のそっくりさんやって金稼いでいいよ!」って言われてやっているんですよ。

(山里亮太)オフィシャルだ。公認。

(町山智浩)オフィシャルなんですよ。普通、そっくりさんがそういうことをやってお金を稼いでいると「そんなこと、勝手にするな!」っていう人も多いんですけど。芸能人であるとかね。でも、スタローンはそういうことは言わない人なんですね。

(赤江珠緒)寛大ですね。

寛大すぎるスタローン

(町山智浩)寛大なんですよ。寛大っていうかスタローンは敵だった人をみんな味方にする人なので。もともとライバルだったアポロっていうチャンピオンを親友にしていって。いま『クリード2』っていうロッキーシリーズの新作が撮影が終わった後なんですけども。そこではずっと敵だったロシアのボクサー、ドラゴを演じているドルフ・ラングレンが復活して。ドラゴの息子とアポロの息子が戦うっていう話なんですよ。『クリード2』っていうのは。

(赤江珠緒)ふんふん。

(町山智浩)そこですごいのは、ブリジット・ニールセンっていうドラゴの妻の役の人も今回、復活するんですけど。ブリジット・ニールセンとスタローンは以前結婚していてね、ブリジット・ニールセンがトニー・スコットっていう『トップガン』の映画監督と浮気をしたんで離婚をしたんですけど。アメリカのカリフォルニアでは、離婚した場合は理由に関係なく財産は二分割するんですよ。

(赤江珠緒)はいはい。以前におっしゃってましたね。

(町山智浩)でも、スタローンはブリジット・ニールセンのせいだったのかな? その前に1回離婚をしていて、財産が半分になっているんですけど。で、ブリジット・ニールセンに浮気されて離婚をしたので財産がさらに二分割で、財産が1/4になったんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)ところが、ブリジット・ニールセンをスタローンに紹介したのはシュワルツェネッガーなんですよ。シュワルツェネッガーはもともとブリジット・ニールセンと付き合っていたんですけど、ケネディの姪っ子と結婚をしたいがためにスタローンにブリジット・ニールセンを押し付けたんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)それで、浮気をされてお金を取られたから、普通だったらシュワルツェネッガーを憎むのにシュワルツェネッガーが隠し子騒動で世間に叩かれている時にスタローンはかばって、彼を映画に出したんですよね。

(山里亮太)スタローン、いい人!

(町山智浩)で、ブリジット・ニールセンはそのスタローンから奪った財産をチャラチャラ遊んでいるうちに全部使ってしまって一文無しになったんですけど、今回は映画に出して。スタローンは自分から金を奪った元嫁を救っているんですよ。

(赤江・山里)ええーっ!

(山里亮太)スタローン、いい人すぎだろ……。

(町山智浩)それがスタローンなんですよ。ウェズリー・スナイプスが脱税で逮捕されても、「お前が刑務所から出てきたらいちばん最初に使うよ!」って言ってその約束を果たすし。それがスタローンという男で。ジャン・クロード・ヴァンダムが離婚とかいろんなことでお金がないと、やっぱり映画に出してやるし。メル・ギブソンが差別発言でハリウッドから干されていると、誰も触らないメル・ギブソンに「お前、俺の映画に出ろよ!」って言ってハリウッドに復帰させるしね。

(赤江珠緒)へー! じゃあスタローンさんはハリウッドでも人脈というか、人気もあるんですか?

(町山智浩)だから本当にみんなが……調子のいい時はみんな調子がいいけど、スタローンがいちばんすごいのは世間から忘れられている俳優。逆に「あいつに仕事を回すな」って言われて干されている俳優を助けていくんですよ。彼は。調子がいい時にはみんな寄ってくるけども、調子が悪かったり嫌われている人を助けるのがスタローンなんですよ。スキャンダルとかで叩かれている人とか。それはロッキーもそうなんで、それがダブってくるんですよね。ロッキーもみんな敵を味方にしていく。そのへんがすごくフィラデルフィアっていう街が「brotherly love(友愛)」っていうのがモットーなんで。すごく一致していて面白いですね。

(赤江珠緒)フィラデルフィアの街の雰囲気と合っているというか。

(町山智浩)あっ、でも時間がすごくたっちゃって。今日、すいません。話しすぎた。今日は本題の『万引き家族』の話をしないといけないんですけど……。

<書き起こしおわり>
町山智浩 映画『万引き家族』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で是枝裕和監督の映画『万引き家族』について話していました。 (町山智浩)あ、もう時間がすごくたっちゃって。今日、すいません。話しす...

町山智浩『万引き家族』徹底解説

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で是枝裕和監督の映画『万引き家族』について徹底解説。是枝監督のこれまでの作品と落語のモチーフなどについて話していました。(※内容に一部ネタバレを含みますのでご注意ください)


(町山智浩)で、先週音声とかがうまくいかなかったのでもう1回、同じ映画の紹介になっちゃうんですけども……。

(赤江珠緒)いや、ぜひぜひ。『万引き家族』ですから。

町山智浩 映画『万引き家族』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で是枝裕和監督の映画『万引き家族』について話していました。 (町山智浩)あ、もう時間がすごくたっちゃって。今日、すいません。話しす...

(町山智浩)すいません。ちょっとやり直しになっちゃうんですけども。『万引き家族』ですけども、僕ね、これを見ていてすごく是枝監督に質問したいことがあって。それは何かっていうと、是枝監督は落語がすごい好きなんじゃないかって思っているんですよ。

(赤江珠緒)落語?

(町山智浩)落語。あのね、僕ね、この『万引き家族』っていうタイトルで主人公のリリー・フランキーさんは鳶職みたいな、建築現場で働いていますよね。で、内縁の妻の安藤サクラさんがクリーニング店で働いていて。でも、生活は苦しくて樹木希林さん扮するおばあちゃんとか風俗で働いている松岡茉優ちゃんとかと共同生活をしているわけですけど。で、その状況っていうのが非常に長屋落語に似ている感じがしたんですよ。

(赤江珠緒)はー!

『万引き家族』と長屋落語

(町山智浩)長屋っていうのはまあ、ひとつの家ではないんですけど、みんな家族みたいに暮らしているんですよね。血がつながっていないんですけども。

(赤江珠緒)そうか。大家といえば親みたいなね。

(町山智浩)そうそうそう。そういうセリフが出てきますけども。あと、ご隠居さんがいたりね。特に職業として大工さんとか人足とか鳶の仕事をしている人が出てくるんですよね。あと、洗濯屋さんっていうのも出てくるんですよ。女の人で。だから職業的にも非常に近いんですけど。あと、髪結いさんとかね。長屋に住んでいる人は。

(赤江珠緒)たしかに。

(町山智浩)で、それだけじゃなくて僕ね、なんで落語が思いついたのかな?って思ったら、ネタが似ているやつがあったんですよ。それは「寄合酒」っていう落語のネタがありまして。これが長屋のみんなでお酒を飲もうっていうことになって。そしたら長屋の住人はみんなズルくて貧乏でセコいやつらばっかりだから。酒の肴をみんな盗んでくるんですよ。万引きしてくるんです。はっきり言って。いろんな方法で。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)でも大抵、マヌケだから失敗したり。あと貧乏すぎて数の子を盗んでくるんですけど、どうやって食べていいのかわからなくて煮てダメにしちゃうとかね。そういうギャグなんです。で、すごく似ているんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それと、長屋の落語の基本は子供が利口なんです。

(赤江珠緒)ああ、だいたいそうですね。

(町山智浩)子供は利口で「父ちゃん、ダメだよこんなことしちゃ。バカじゃないの?」って言うんですよ。で、「うるせーな、おめー!」っていうのが落語の基本なんで、非常に落語的なんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そういう見方。言われればそうですね。

(町山智浩)それでね、是枝監督は実際に「長屋の花見」を元にした映画も撮っているんですね。『花よりもなほ』っていう映画なんですけども。

花よりもなほ [Blu-ray]
Posted at 2018.6.19
バンダイナムコアーツ

(赤江珠緒)そうなんですね!

(町山智浩)俺はね、この人は落語が原点なのかな?って聞きたいんですけども。あと、落語って基本的に詐欺の話が多いんですよ。「時そば」ってそうじゃないですか。おそばをタダで無銭飲食しようとするっていう話ですけども。

(山里亮太)そうですね。割引させようとして。

(町山智浩)そうそう。みんな、それぞれ職業はあって貧乏なんだけど、それ以上にケチでズルいからなんか悪いこと、ズルいことをしようとするんだけど上手くいかないっていうお笑いですよね。で、いかにもリリー・フランキーがまあ長屋に住んでいる、そのまま着物を着て出てきそうな感じじゃないですか。

(赤江珠緒)そうですね!

(山里亮太)言われてみたらすごくその映像にぴったりな感じがする(笑)。

(町山智浩)あれが福山雅治だったら全然おかしな映画になるわけじゃないですか。

(赤江珠緒)リリーさんもそこまで悲壮感がないっていうかね。

(町山智浩)あの人、べらんめえでしゃべっているでしょう? あの人、本当は福岡の人なのに。落語を狙っているんだと思ったんですよ。江戸っ子っぽいしゃべり方。

(赤江珠緒)ああー。苦しい状況でもなんかちょっと飄々とね。

(町山智浩)そう。でね、落語じゃないか説っていうのは他にも続くんですけど。まあ、そういう映画を作っていまして。前にも『海よりもまだ深く』っていう映画を是枝監督が撮っているんですが、これは見ましたか?

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(赤江珠緒)いや、これは……阿部寛さんと樹木希林さんが出られていて。

(町山智浩)そうなんです。こっちも完全に長屋みたいな話で団地の話なんですけども。狭い狭い団地のね。これに出てくる阿部ちゃんがまた最低の男なんですよ。あのね、なんか私立探偵をやっているんですけど、男子高校生がガールフレンドじゃない子と浮気しているのを写真に撮ってですね、カツアゲして3万円とったりしているようなやつなんですよ(笑)。

(赤江珠緒)うわーっ!(笑)。

(町山智浩)あと、息子に靴を買ってやる時に靴屋で靴を汚して。「これ、汚れているじゃねえか。安くしてくれねえか?」って安くしてもらうとかですね。

(赤江珠緒)ああ、それも落語にありますね! 「初天神」とかでね、みたらし団子の汁をちょっと舐めてなんていうのがね。

(町山智浩)落語なんですよ。そうそう。是枝落語説っていうのをいま考えているんですけども。だからそういう証拠がいっぱいあるんですが。そう聞いていると、そういう人だと全然知らない人は勘違いしちゃうんで真面目な話をしますとね……是枝監督はもともとテレビのドキュメンタリーを撮っていた人なんですよ。

(赤江珠緒)はい。

ドキュメンタリー畑出身の是枝監督

(町山智浩)で、事実関係を非常に調べて調査して、それを暴いていくという調査報道系の人なんですね。で、この人が20代の終わりに作ったドキュメンタリーが福祉切り捨ての中で死んでいった人たちの実態を追いかけていくというものなんですよ。もうこの人、テーマがそこからずーっと変わっていないんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。20代の時から。

(町山智浩)そう。20代の時から一貫していて。だからこの映画に関して現在の政治的な部分を批評しているという風に言わることもあるんですが……だって、20代からやっているんだもん。

(赤江珠緒)1991年から。

(町山智浩)そう。政権は関係ないんですよ。ずーっといま起こっていることなんですよ。この福祉切り捨てという問題。その中で死んでいく人たちがいるという。で、是枝監督の非常に大成功した初期の作品で『誰も知らない』っていう2004年の映画がありまして。

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(山里亮太)柳楽優弥さんの。

(町山智浩)そうそう。あれは実は『万引き家族』とほとんど同じような話なんですよ。これ、4人の小学生の子供がね、YOUさん演じるダメな母親に置き去りにされて。その中で長男がいちばんちっちゃい子を殺しちゃったっていう事件があったんですね。なんとか子供たちの面倒をその長男がみていたんですが。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、ところが実際に彼は犯罪なのか?っていうことを是枝監督が調べていくと、どうもそうではない。だから司法とか行政とかマスコミは有罪か無罪かっていう2つに分けてしまうから。でも、その有罪か無罪かからはこぼれ落ちてしまう現実っていう実態があったはずだという。たしかに殺してしまったことは悪いことだけども、じゃあ彼は悪人なのか?っていうとそうではないじゃないかと。犯罪者はかならずしも悪人ではないということをその事件の中に入っていくんですね。だからドキュメンタリーと同じ手法で。それで、結局誰も知らないものを見ようとするんですよ。是枝監督は。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だからもう『誰も知らない』っていうタイトルは今回の映画もそうですけど、全ての是枝監督のテーマになっているんです。キーワードなんですね。

(赤江珠緒)ああ、そうかそうか。

(町山智浩)で、その『誰も知らない』っていう映画はいま見るとすごいんですけど、カメラがものすごく子供に近いんですよ。

(赤江珠緒)カメラワークが。

(町山智浩)そう。カメラの位置、高さが。すっごい近くでほっぺたギリギリのところから撮影しているんですよ。すごいのは、これ完全に子供の目線で撮っているんですよ。

(赤江珠緒)そういうことですね。なるほど。

(町山智浩)上から目線で「これは犯罪だ!」とか「ひどいね! ひどい親だ!」とかそんなのじゃなくて、そういうのを全部取っ払って子供の中に入ってみようっていうことなんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

『誰も知らない』と『フロリダ・プロジェクト』

(町山智浩)でね、この映画はアメリカでもすごく注目をされたんですけど、いま日本で公開されている映画で『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』っていう映画があるんですね。これ、『たまむすび』でも紹介したんですけど、フロリダの安モーテルで暮らしているダメなシングルマザーとその娘の話なんですね。

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でフロリダを舞台にした映画『gifted/ギフテッド』と『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』を紹介していました。 (町山智浩)今...

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、それをカメラが8才の娘の視線で撮っていくんですよ。これ、おそらく『誰も知らない』の影響を受けて撮られた映画だと思います。アメリカ映画ですけども。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ジャッジしないで、子供目線で入ってくるんですよ。なおかつ、でも大人の目線があって。その悲惨な子供たちをなんとかしてやりたいんだけど何もできないっていうもどかしさがあるんですね。これはその『フロリダ・プロジェクト』の中で悲惨なその親子を見ながら、血がつながっていないから何もできないホテルの管理人さんの目線なんですよ。是枝監督の目線は。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だからこれ、たぶん影響を受けているんですね。で、もうひとつテーマとしてさっき有罪か無罪かで2つにわけてしまうのが司法や行政やマスコミだって言ったんですけども、これはその前の前ぐらいに撮った『三度目の殺人』っていう映画はそういう話でしたよね。これは見ました?

(山里亮太)ああ、はいはい。

(町山智浩)あれは福山雅治さんが弁護士で。で、最初は上から目線で事件を担当していくとどんどんどんどん本当の事件の実態が見えなくなってくるという。だからまさに有罪か無罪かでわけられないものが見えてくるということで。これも同じテーマですよね。

(赤江珠緒)是枝監督は本当にそのテーマが一貫されているんですね。

いままでの是枝監督作品の集大成

(町山智浩)すっごい一貫しているんですよ。『万引き家族』はでも、いままでの過去の作品全部の集大成的なところがあって。だからね、これだけすごく成功しているんだと思うんですよ。さっき言った落語的要素……リリー・フランキー的な要素。セックスした後に背中にラーメンのスープについていたネギがついていてそれをなめる的な要素みたいなのもあるんですけど(笑)。『誰も知らない』は結構ヒリヒリするようなドキュメンタリー要素なんですよ。それ……落語とドキュメンタリー要素は別々だったんですけど、『万引き家族』ではくっついているんですよね。

(赤江珠緒)ああ、そうだ。

(町山智浩)笑えるところと残酷なドキュメント要素とがくっついているので。だからこれは集大成なんだと思うんですよ。

(赤江珠緒)そうか。『万引き家族』は同時にいろんなものが存在していますもんね。

(町山智浩)そうなんです。ただ、全て過去の作品にあったものなんですよ。っていうのは『誰も知らない』の中にすでにパチンコ屋の駐車場の自動車の中に置き去りにされている幼児っていうモチーフは出てきているんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。

(町山智浩)そう。だからたぶんそのまま放っておいたら子供は死んでしまうかもしれないんですけど、そこにリリー扮する車上荒らしが来れば助かるかもしれないわけですよ。そういう話ですよね。だから『万引き家族』っていうのは実際はおばあちゃんが死んだのにそれを隠して年金を受け取り続けていた家族という事件が実際にあって。それともうひとつ、親子で釣具屋で釣り竿を万引きした家族がいて。その2つの実際にあった事件を元にしてはいるんですけども。その中に、車上荒らしでパチンコ屋に置き去りの子供を救うっていう形で『誰も知らない』でちょっとだけ触っていたところがグッと押し出されて来るわけですよ。今回。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、もうひとつは『そして父になる』っていう映画ですよね。

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(赤江珠緒)はいはい。

(町山智浩)あれもだから実際にあった赤ん坊の入れ替え事件を元にしていて。

(赤江珠緒)病院で取り違えられてね。

(町山智浩)で、1人のお父さんは福山雅治くん演じるエリートの建築家で。もう1人はリリー扮する貧乏なお父さん。で、子供は入れ違っていたから元に戻そうとするんですけど。それで実の親のところに子供が来るんですけど。福山くんのところにね。でも、子供はリリーの方を選ぶんですね。

(赤江珠緒)うん、そうですね。

(町山智浩)ごちそうも食べれておもちゃもなんでも買ってもらえて。で、いい家に住めるんだけど、それを子供は求めない。で、血がつながっていないリリーの方を求めるという話が『そして父になる』で。あれはテーマは今回の『万引き家族』の中でもセリフで出てきているんですけども、「産んだからって親になれるわけじゃないんだよ」っていう。「親になるっていうのは単に血がつながっているということではないんじゃないか?」っていう。まあ、セリフの中でその通り、出てきますけども。あと、「実の親ってなに?」っていう。「産んだけども虐待したり育児放棄したりパチンコ屋の駐車場に置き去りにする親と、全然血がつながっていないんだけども大事にする親と、どっちが”実の親”なの?」っていう。

(赤江珠緒)そうですよね。

(町山智浩)ねえ。でもそれは『誰も知らない』でも描かれていることで、親というのは意識してならないとなれないものなんだよっていうことですよね。で、それともうひとつ、エリート問題があるんですよ。

(山里亮太)エリート問題?

(町山智浩)あのね、『そして父になる』の福山くんを見ていると本当にムカムカするんですよ。エリートで。人の心がわからなくて。で、途中でリリーに説教されるシーンがあるんですけども。それって今回も同じことをやっていますよね。緒形直人さん扮する松岡茉優ちゃんの本当の父親のところ。すっげーいい家に住んでいて、金持ちで、超気取っているんだけども絶対に松岡茉優さんがそこから逃げ出した理由があるわけじゃないですか。嫌な家だったわけですよ。で、貧乏なゴミ溜めみたいなところでも、そっちの方が幸せだったわけじゃないですか。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それって『そして父になる』と全く同じことをやっているんですよ。金じゃないんだよっていうね。だからごちそうを食べるよりも、それこそ90円のコロッケを食べている方が本当に好きな人と食べていればどんな安いものでも美味しいですよね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、ムカつくやつとメシ食っている時はどんな高級な料理でもクソマズいじゃないですか。人間ってご飯は味で食べているんじゃないですよね。実際は。

(赤江珠緒)そういうことですね。

(町山智浩)だからお金でもないし。また、結構セリフで言っているんですけども、「人はお金でつながっているんじゃないの」みたいな話があって。「じゃあ、血でつながっているの?」みたいな話になるとリリーが胸をポーンと叩いて、「ここでつながってるんだよ」って言うんですよね。「ハートでつながっているんだよ」って言うんですよ。でも、ハートでつながっていると法律的には全く何の保証もないんですよ。

(赤江珠緒)たしかにそうですね。現実にはね。

(町山智浩)だからこの悲惨な状況を見て、そこに司法とか行政が入ってくれば助けられるんじゃないか?っていう風に思っちゃう人がいるでしょう。「この映画はこうした福祉というものを強化した方がいいという主張なんだ」みたいにとらえる人もいるでしょうね。でもここで実際、途中で福祉の人たちが入ってきて行政が入ってくるとどうなるか?っていうと、このハートだけでつながっている家族はバラバラにされちゃうんですよ。誰も守らないから。彼らは結婚もしていないし。子供も血がつながっていないし。おばあちゃんとも。だから法律でも血でもつながっていないとこれは政府だったり法律だったり行政はそうした人たちを守るようにはできていないんですよ。

(赤江珠緒)たしかに。結局なにが正しいのか、わからないですね。そう言われるとね。

(町山智浩)だから高良健吾くんがすごく上から目線で話をして出てくるじゃないですか。役所の人としてね。で、彼が言うことは全部正論なんだけど、でもそうじゃないだろうっていう。その正論からこぼれる、有罪か無罪かからこぼれるところに人情があるんですよね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)人情なんですよ。で、落語なんだと思うんですよ、僕は。

(赤江珠緒)なるほど。

(町山智浩)落語って、まあ江戸時代の長屋を描いたり、明治とか昭和の初期の長屋を描いたような落語っていうのは聞いているとわかるんですけど、ものすごく養子の話が多いんですよ。

(赤江珠緒)多いですね。

(町山智浩)そうでしょう?

(赤江珠緒)あと、みなし子になっちゃったような子供は長屋全体で育てるみたいな。

長屋落語には養子の話が多い

(町山智浩)そうそう。長屋全体で引き取ったりね。それこそ泥棒に入ったらその泥棒に入った家が火事になっちゃって、そこに取り残されていた子供をさらってきて育てるとか。あと、「人情八百屋」っていう有名な落語があるんですけども。これは、まあちょっと悲惨なんですけど、借金で家賃が払えなくなって心中しちゃった夫婦に残された子供を八百屋さんが引き取る話なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)ほとんど、だから『万引き家族』って落語のモチーフでしょう? で、「俺みたいな貧乏でこんなヤクザ者が子供なんか育てられるのかな?」って言いながら育てようとするんですけど、お客さんは「いや、金じゃねえし! あんたのその気持ちがあれば育てられるよ!」っていう気持ちでその落語を聞くんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、長屋というのは長屋全体でひとつの家族みたいになっているからいいんですけど、是枝監督の映画はやたらと安アパートとか団地が出てくるんですね。貧乏団地が。それは彼自身が清瀬市の団地にずっと住んでいたかららしいんですけども。でも、団地は長屋のようになっていないんですよ。隣に誰が住んでいるのかもわからないんですよ。マンションとかも。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だから『誰も知らない』みたいな子供たち4人でもって置き去りでも誰も気がつかないっていう状況が起きるんですよ。

(赤江珠緒)そうなんですよね。

(町山智浩)だから、それに対するアンチテーゼがこの『万引き家族』で。彼らはまるで長屋のように、血がつながっていなくても家族を形成して、子供たちを守っているんですよね。だから実はね、前に僕が「是枝監督みたいな映画はイギリスでも同時に作られていたんだ」っていうことで『わたしは、ダニエル・ブレイク』っていう福祉から取り残されてた子供のいない老人とシングルマザーが家族として暮らしていくっていう話を例に挙げたんですが。


(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)実はベルギーにもそっくりな映画があるんですよ。ダルデンヌ兄弟っていう人たちが作っている映画で『少年と自転車』っていう映画があって。それが貧困の中で捨てられた息子が父親から拒否されるんだけどもそれを拾った女性に子供として育てられるっていう話なんですよ。

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(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)そういう映画をベルギーでも作っているんですね。だから、これは日本の現実を描いたというんじゃなくて、実は世界中で起こっていることなんです。アメリカでも『フロリダ・プロジェクト』で起こっていて。それはどの国にも福祉というものはあるんですけど、どうしても福祉からこぼれるものがある。システムからこぼれるものを救うのは人情による擬似家族なんじゃないかっていうことなんだと思うんですよね。

(赤江珠緒)ほー!

世界各地で同時期に作られる疑似家族映画

(町山智浩)で、まさしくどれもそういう話で。それが世界で同時に作られているということは非常に大きな問題で。ただ、是枝監督っていうのはまたすごく大事で、落語と決定的に違うのは落語は言葉で語るんですけども、彼は言葉は使わないんですよ。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)いちばんこの映画で重要なシーンは樹木希林さんが海水浴に行って擬似家族、偽の家族たちが海水浴で楽しくしているところを見ながら口をパクパクパクって動かすんですよ。

(赤江珠緒)ああ、ありましたね。うん。

(町山智浩)気がつきました? あれ、なんて言っていると思います?

(赤江珠緒)ええーっ?

(山里亮太)なんて言っていたんだろう?

(町山智浩)わからない。それはわからないですけど、僕はたぶん「私には家族はいませんでした。子供もいませんでした。でも、死ぬ前にこんなに素晴らしい本当の家族をくれてありがとう」って言っているんだと思うんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(山里亮太)はー! 「ありがとう」なんだ。あそこは。

(町山智浩)じゃないかなと僕は思うんですけどね。

(赤江珠緒)なるほど。そうか。それは言葉なしですね。たしかにあのシーンはね。

(町山智浩)そうなんですよ。『コンフィデンスマンJP』でも同じ話をやっていてびっくりしましたけどね。『家族編』で。

(赤江珠緒)ああ、ありましたね! 大富豪がね。

(町山智浩)たぶん偶然ですよね。同時なので。ということでね、まあ本当に泣ける映画ですけどね。

(赤江珠緒)ねえ。

(山里亮太)落語。

(町山智浩)落語だなと僕は思いましたね。

(赤江珠緒)本当ですね。

(町山智浩)どんなにシステムや行政が進んでも助けられないものがあって。それを救うのはやっぱり人情しかないんじゃないかなと。

(赤江珠緒)ねえ。花火のシーンとか、花火は映らないんですけど、なんか美しいんですよね。

(町山智浩)そうなんですよ。花火っていうのは彼らの心の中にあるんですよ。僕らの心の中にあるんです。

(赤江珠緒)『万引き家族』、現在公開中ということで。ぜひご覧いただきたいと思います。今日は是枝監督の『万引き家族』をご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

町山智浩 オレゴン州ポートランドの人気の秘密を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で取材に行ったオレゴン州ポートランドについてトーク。10数年前には何もなかった街が全米一の人気の街になった理由について話していました。

ポートランド 世界で一番住みたい街をつくる

(赤江珠緒)さてさて、町山さん。今日は映画ではなく、アメリカのお話をしていただくということですね。

(町山智浩)はい。ポートランドという街に取材に行っていて、さっき帰ってきたところなんですけども。ポートランドの話をしたいのは、いまポートランドに来る日本人の人たちが結構多いんですけど。かなりが観光客じゃなくて業界の人たちらしいんですよ。

(赤江珠緒)業界?

(町山智浩)あの、飲食業界とかレストラン関係者とか食品業界の人がポートランドを訪れているんですね。

(赤江珠緒)それはビジネスで来られるということですか?

(町山智浩)研修みたいな感じなんですね。勉強をしに来ているみたいなんですけども。どうしてか?って言うと、ポートランドという街はいま、アメリカでもっとも急激に人口が増えている街なんです。アメリカ人に「どこに住みたいか?」ってアンケートを取ると、ポートランドが1位なんですよ。

(赤江珠緒)へー! 場所的には?

(町山智浩)カリフォルニア州のすぐ北。シアトルの南ですね。オレゴン州というところにある街ですね。で、姉妹都市が札幌なんで、そういう感じのところなんですよ。ちょっと周りは北海道に似たような風景なんですけども。で、どのぐらい人気があるか?っていうと、毎日人口が100人以上ずつ増えているんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(山里亮太)毎日?

(町山智浩)毎日です。次々と、住宅がどんどんどんどん建てられていて。そこら中が建築ラッシュで。この間のナッシュビルと一緒でアメリカの中で街おこしにもっとも成功している街のひとつなんですよ。

町山智浩 テネシー州ナッシュビルの盛り上がりを語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で取材で訪れたテネシー州ナッシュビルについてレポート。近年女性たちの独身最後のパーティー需要を取り込んで女性観光客で街中が盛り上がり、不...

(赤江珠緒)すごいですね。

(町山智浩)でも僕、2002年に行ったのが最後で、その時は本当にど田舎だったんですよ。誰もいなくて。で、夜に道路を歩いていても車も走っていないという。だからもう過疎。

(山里亮太)2002年に行かれた時は何の取材で行かれたんですか?

2002年の時点ではただのど田舎

(町山智浩)その時にね、トッド・ヘインズという映画監督がいまして。その人がものすごくポートランドの家が安いっていうことで別荘を買ったんで、そっちに来てくれっていうので行ったんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、まあロサンゼルスとかニューヨークはものすごく高いから。ここだったらすごくいい家が安く買えるからっていうことでその彼が住んでいて。で、彼が言うには……彼はゲイなんですね。トッド・ヘインズ監督は。あの『キャロル』の監督ですよ。レズビアンの人の映画を撮った人ですけども。

町山智浩 映画『キャロル』と原作者パトリシア・ハイスミスを語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『キャロル』を解説。原作者のパトリシア・ハイスミスさんが描き続けたものについて紹介していました。 (町山智浩)ただ、...

(赤江珠緒)はいはい。

(町山智浩)「ポートランドはゲイに関して、いちばん最初に優しくなった街だ」っていう話をしていて。サンフランシスコがゲイの街になったことは知られているんですけど、それって1970年代以降なんですよ。それまでは全米のどこでも、たとえばゲイバーがあるとゲイバーっていうだけで警察がそこに殴り込みをかけて、お客さんたちをボコボコにぶん殴って、それでも全く起訴されないっていう世界だったんですよ。アメリカって。

(赤江珠緒)アメリカでもそうだったんですね。

(町山智浩)だから面白半分にゲイバーに突っ込んで、警官がその客を殴ったりしていたんですよ。ところが、ポートランドではそれがなかったんですよね。で、僕が訪れたところがアメリカでいちばん古い、いわゆるそのゲイ、オカマのショーパブっていうところだったんですけども。1967年からずっとやっているんですね。で、その頃はニューヨークとかではそういったところが警官に襲撃されていたのに、そこは許されていたんで。で、ガス・ヴァン・サントっていう映画監督とかチャック・パラニュークっていう『ファイト・クラブ』っていう小説の原作者とか、ゲイの人たちがポートランドに住み始めていた頃だったんですよ。2002年は。

(赤江珠緒)ふーん。でもそこから15年やそこらでそんなに急成長を?

(町山智浩)急成長。ものすごい勢いで急成長をしたんですよ。で、もう街の中心部の家とかは1億、2億になっていますね。

(赤江珠緒)じゃあ、監督はいまとなっては、ねえ。

(町山智浩)その時に買っておけばよかったですよ!

(山里亮太)そういうことですよね。2002年に取材に行った時に。町山さん。

(町山智浩)大きい家でも。失敗しましたね。はい(笑)。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(山里亮太)そうなるなんて想像もつかなかった街っていうことですよね。

(町山智浩)そうなんですよ。もう人がいなかったんですよ。当時。これがだから日本から行っている人たちがなぜ多いか?っていうことですね。アメリカっていま、大都市集中型じゃない方向に向かっていて。地方の都市が、この間のナッシュビルの話もそうでしたけど。フィラデルフィアもいま結構成長しているんですけどね。ピッツバーグもそうですけど。見捨てられていた街とか、1回廃墟化した街っていうのがどんどん街おこしで人口が増えて、大企業が入って固定資産税で莫大な利益をあげるっていう状況になっているんですよ。

(赤江珠緒)ええっ! 街が蘇るってすごいですね。

(町山智浩)蘇るんですよ。で、もともとポートランドっていうのは「ポート」っていう言葉からきているように港町で。材木を出荷していたようなところなんですね。で、それが廃れたりして廃墟化していったんですけど。で、具体的になにを売りにしてそのポートランドがアメリカでいちばんの人気になったのか?っていうことなんですが。もちろん、日本から来ている人もそれを研究しに来ているんですね。で、その要素は2つあるんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)ひとつは食べ物。僕がかつて行った時には全く美味しいものがなかったんですよ。レストランとか何もなくて苦労して。ところがいまは、ものすごい数のレストランがあって。そのほとんどが地元オレゴンで作られる野菜とか肉を使った、いわゆる地産地消のレストランなんですよ。

(赤江珠緒)へー! うんうん。

地産地消のレストラン

(町山智浩)ほとんどのメニューに野菜を作った農家の人の名前とか顔が入っていたり。肉とかも全部そうなんですよ。チキンも全部地鶏でどのように育てたかの保証書がついていたりするんですよ。

(赤江珠緒)安全で安心な食材で。

(町山智浩)そう。安心で安全で。牛肉はあまり近くにはないんですけど、仕入れた元ははっきりさせていて。いわゆるトウモロコシの飼料で太らせてやたらとサシを入れたやつじゃなくて、牧草地で育てたものであることを証明したりとか。日本もそれは増えていますけどね。日本でも焼肉屋さんとかに行くと最近、全部入っていますよね。で、ポートランドはそれをやり始めたところらしいんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、人気が出てきて。それともうひとつ、すごく店とか新しい商品を作ったりすることに対して法律がゆるいんですね。ポートランドだけで地ビールの醸造所(ブリュワリー)が100以上あるんですよ。みんなそこで作っていて、インタビューに行ったんですけど大抵みんな自分でビールを作っていて。アメリカって自分で自由にビールを作っていいんですよ。日本はたしかアルコール度が高くなっちゃったらいけないんですよね。酒税法違反で。

(赤江珠緒)うんうん。

100以上の地ビール醸造所

(町山智浩)アメリカは州によるんだけど、いいんで。とにかくそのポートランドのあるオレゴン州はいいので、みんなガレージでビールを作って「美味いな」ってなると今度はそれでお店を始めて。自分でビール工場が作れるようなキットも売っているんですよ。セットがね。で、みんな好き勝手なビールを作っていてものすごく面白いんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だから100軒のビール屋さんにそれぞれ10種類ぐらいのビールがあるから、これを全部飲むのは大変なんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)で、その店ごとに10個ぐらいの新しいビールの飲み比べがあるんですけど。僕はそれを何軒か回ったんですけど、死ぬかと思いましたが。

(赤江珠緒)アハハハハハッ!

(山里亮太)何軒か行けてるのがすごいですね!

(町山智浩)まあ、がんばって何軒か行きましたよ。痛風と戦いながら行きましたけど。ビールに関する規制が非常に甘いので。だから規定としてはビール酵母を使っていてホップが入っていれば、基本的には全てビールとみなすっていう法律になっているんです。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)日本は結構ビールに関しては発泡酒だのなんだの、いろいろとうるさいんですけど。アメリカの場合は栗が原料でもいいんですよ。

(赤江珠緒)じゃあ街おこしっていうのは食事とお酒で成功しているっていうことですか?

(町山智浩)それがひとつなんですけど。あとはコーヒーとかもグアテマラとかの誰がどういう風に作っているのか?っていうことが写真入りでメニューに入っていたりするんですよ。だからね、チェーン店が全然ないの。アメリカの観光が廃れた最大の原因っていうのはレストランとかがチェーン店ばっかりになっちゃって。どこに行っても食べ物が同じっていうことだったんですよ。

(山里亮太)なるほど!

(町山智浩)それでアメリカは旅行ブームが廃れちゃったんですけど、ポートランドは逆にそのほとんどのレストランがポートランドにしかないんですよ。

(赤江珠緒)オリジナルだと。

(町山智浩)オリジナルなんですよ。だからみんな、わざわざ来るんですよ。だから食事っていうのがまずひとつ。とにかくどこに行っても美味いし、飽きないんですよ。もうビールだけで下手をすると1000種類ぐらいあるわけですから。飲み切るのは大変なんですよ。で、それともうひとつの観光の売りは「Weird」っていう言葉なんですよ。「Weird」っていうのは「へんてこ」っていう意味なんですよ。さっき、ゲイの人たちに関して非常に差別がなかったっていう話をしたんですけども。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)だからゲイバーとかも多いんですが、もうひとつ多いのはストリップバーなんですよ。で、これは前から多いんですけども。ポートランド市だけでストリップバーが50件以上あるんですよ。

(赤江珠緒)おおーっ!

(町山智浩)すっごいあって。で、ストリップダンスをしたことがある、ないしは時々するとかいまもやっているとか、そういうストリップダンスを経験した人の人数がだから何千人もいるんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だから「私、ストリッパーよ」って言うことが全く恥ずかしくない街なんですよ。

(赤江珠緒)たしかに。それは珍しい。

(町山智浩)で、もうひとつは公然わいせつ罪がないんです。僕がストリップバーの取材に行った時、ストリッパーの人たちが店の中はうるさくて暑いからって外の道路で話とかをしていたんですけど、全然OKなんです。

(山里亮太)えっ? 外の道路に出ている時ももちろん、服をまとわない状態で?

(町山智浩)素っ裸です。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)お股も丸出しです。で、あと飲酒業とかご飯を出す業種は保健所の管轄ですよね。で、ストリップっていうのは風俗なんですよ。だから同時に営業許可はおりないんです。日本もたぶんダメなんですよ。でも、ポートランドでは全部許可がおりるんで。だからそれこそお寿司とかを食べながら全ストを見ることができるんですよ。ものすごくゆるいんですよ。

ポートランドのストリップバー



(赤江珠緒)はー! すごくオープンですね。うん。

(町山智浩)そう。で、銀行で働いている人が夜、ストリップをしていても、そのことをみんなが知っていても全然差別がない。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)銀行で働いている銀行員が腕にびっしりタトゥーが入っていたりします。髪の毛が緑色の人が保険会社で働いています。ピアスがびっしり入っている人が役所で働いていたりするんですよ。もうなんにもそういうのに対する差別がないから、アメリカ中から自由に行きたい人が集まってくるんで。とにかく街を歩いているとみんな、髪の毛が青とか緑とかすごいんですよ(笑)。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)もう何をしてもいいところなんですよ。

(赤江珠緒)じゃあその偏った概念みたいなのを一切取り払おうっていう街なんですね。

(町山智浩)そうなんですよ。だから「私、この間ちょっとストリップしてきたわ」みたいな人が普通の会社で業務をしていて。で、「ああ、そうなんだ。よかったね」みたいな感じなんですよ。で、ストリップバーもお客さんの半分は女性。みんなで「イエーイ!」ってやって「私も脱いじゃおうかしら?」ってその場で脱いで、チップでお小遣いを稼いで。だからみんな、お札を投げ入れるんですよ。踊りが上手いと。



(赤江珠緒)ふんふん。

(町山智浩)そう。で、「今日はビール代がタダだわ!」ってやっているんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だからポートランドで生まれた人よりも他から入ってきた人が多いんですね。田舎から来た人たちが多かったですよ。アリゾナとかインディアナとか。インディアナから来た人は、インディアナはキリスト教でものすごく厳しいところで。彼はゲイだったから辛くて。レディ・ガガが大好きで、自由に生きたくてポートランドに来たっていう人がいましたけども。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)本当にね、世界中からそういう、居づらかった人たちが集まって好き勝手にやっているというところなんですよ。

(赤江珠緒)それがポートランド。へー!

(町山智浩)だからこれがすごいのが、街とか市がそれを、街や市を盛り立てるのに承認しているわけですよ。「ポートランドといううちの街は変です。変な人、来てください!」っていう。で、要するにだからそういう人は優秀な人が多いんですよ。はっきり言うと、インテル社がありますからね。コンピュータのチップを作っている会社があったり、あとはナイキとか。大企業も次々とそこに本社を置いて。だから逆に「ポートランドにあるからうちの会社に来てください。あの街、ポートランドに住めるんです。うちの会社に就職すれば!」っていうことを売りにしているんですよ。

(赤江珠緒)ほー!

変な街が大企業を誘致

(町山智浩)だからもう、大企業が入ってそこに就職をする人たちが来ているから莫大な固定資産税で福祉とかもすごくいいんですよ。

(赤江珠緒)そうか。そうなりますか。へー! 面白いな。

(町山智浩)だから日本もね、街が「うちは変な人を求めます!」ってやればいいんですよ。街おこしをしたいんだったら。「うちの街はタトゥーとか入っていても温泉とか全然入ってOKです!」とかね。そういうことをやっていくことで盛り上げていくことが可能なんだっていうのが面白かったですね。

(赤江珠緒)へー。

(山里亮太)北風と太陽じゃないけども。

(町山智浩)そうそう。

(赤江珠緒)逆に言うと、生きづらい感じの人が全米の中にたくさんいて。その人たちがその場所を求めてきたっていうことですもんね。

(町山智浩)やっぱりオクラホマとかインディアナとかではゲイであることは誰にも言えないわけですよ。

(赤江珠緒)そうか。場所によってそんなに違うんですね。

(町山智浩)全然違います。まあ、そういうところは宗教が強いからですけども。で、そういうところから逃げてきた人たちが集まっているんですけども。で、あと僕が行ったのはもうひとつ、自転車が街の中心になっていて。車、自動車は申し訳程度に走ることが許されているという街なんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)自転車と歩行者が優先なんで。昔、幹線道路があって、川沿いですごく景色がいいところだったんですけど。「そこは人と自転車に開放すべきだ」っていうことで川沿いの幹線道路を撤廃して街の外に出しちゃったんですよ。だから、自動車は遠回りをしなきゃならないんです。常にポートランドでなにかしようとすると。

(赤江珠緒)ほう!

(町山智浩)アメリカっていうのは実は自動車中心の街で、ロサンゼルスとかに行くと歩行者のためには街が全くできていなくて、すごく大変なんですよ。歩いてただ信号を渡るだけでも。ものすごく待たせるし。

(赤江珠緒)バンバン車が、すごいハイスピードで走り抜けてね。

(町山智浩)そう。なかなか歩行者には青にならないんですよ。ロサンゼルスとかは。で、ニューヨークとかもそうですけども、自動車優先の街づくりですよね。で、ポートランドは完全に歩く人と自転車優先なんですよ。あと、スケボーとかってどこの街でも規制されているんですけど、スケボーも全部OKなんですよ。アメリカ中どこにいっても、スケボーの人はいろんなところの縁でガーッて滑るから、縁で滑らないように金具をいっぱいボルトで留めて、スケボーで変な曲芸とかができないようになっているんですよ。アメリカってどこに行っても。

(赤江珠緒)ああ、うん。

(町山智浩)それがポートランドにはないんですよ。



(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、観光客とか自転車を持っていない人が来てもみんなバンバンそこでレンタルをして乗り捨てられるようになっていますから。すごく自転車の人たちが多いから自転車のイベントがいっぱいあって。僕が行ったのはちょうど全裸自転車マラソンみたいな。全裸自転車競争っていうのがあったんですよ。

(赤江・山里)全裸!?

全裸自転車マラソン

(町山智浩)全裸。さっき言ったでしょう? 公然わいせつ罪がないから。だから、変態の人が性的欲望のために見せたりするのは犯罪なんですよ。でも、そういう気持ち、セックス的な欲望がない形での全裸は全部OKなんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)要するにアートであるとか何かを訴えたいとか、そういう理由があってやっていればいいんですよ。

(赤江珠緒)はー! でも町山さん、肘当てとか膝当てぐらいはしていった方が……。

(町山智浩)フフフ(笑)。それで1万人集まりました。で、1万人集まって、みんなチンチンとかマンマンとか丸出しで。2、3時間……自転車に乗って街の中心部に行ってパーティーやってっていうのを付き合ったんで。1万人分のチンマンを見たんでさすがに……おっぱいも見えてましたから。さすがにもう何も感じなくなりましたね。

(山里亮太)ああー、そうなんだ(笑)。

(赤江珠緒)そうか。そりゃそうでしょう。1万人はね。へー!

(町山智浩)ありとあらゆるものを見ましたね。

(山里亮太)ありとあらゆる?

(町山智浩)いろんなものがあるんだなって思いましたね。はい。まあ、一生分のものを見た感じで。

(山里亮太)その数は見れないですよ!

(赤江珠緒)でもなんか、いろんな人が自由に生きられて理想郷みたいなのを掲げた……なかなか街としてちゃんと成功して、むしろ発展していくっていうのが。

(町山智浩)利益があがっているっていうのがいちばん大きいんですよ。

(赤江珠緒)よくできましたね。

(町山智浩)でもたった10年かそこらで……2002年からですから。もうつい最近ですよ。10年ちょっとですよ。

(赤江珠緒)それはやっぱり町山さんがおっしゃったように、市とか公的な部分がサポートしてそうやっていこうっていう?

(町山智浩)あのね、昔はポートランドは日系人の街で。で、戦争があった時に差別してみんな収容所に収容したっていう暗黒の歴史をポートランドは持っているんですよ。

(赤江珠緒)逆にそういう歴史があるんですね。

(町山智浩)もうそういうことがないようにって誓いあっていて。そこが彼らの基本になっていて。かならずそのことを言いますね。「ポートランドは昔は差別的な街だった。二度とそういう街にはならないようにということでがんばってこういう風になったんだ」っていう風に言っていますね。でもね、その全裸の自転車は日本の人も何人かいましたよ。1人、日本人男性で全裸自転車競走が結構世界中で行われているんだけど、それを回っているという全裸マニアの人がいました。

(山里亮太)全裸マニア!?

(町山智浩)はい。掟ポルシェさんそっくりの彼でしたけども(笑)。

男道コーチ屋稼業
Posted at 2018.6.26
掟 ポルシェ
マガジンファイブ

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(山里亮太)髪の毛がちょっと長めの(笑)。

(町山智浩)でもね、本当に……みんなが完全に裸だと何も感じなくなりますよ、あれ。

(赤江珠緒)そうか。逆にちょっと服を着ている方が恥ずかしくなったりしてね。

(町山智浩)恥ずかしくなりますよね。それはね。で、いま言ったポートランド取材はBS朝日で僕がやっている『町山智浩のアメリカの“いま”を知るTV』で3週連続で8月か9月に放送しますけども。ただ、どうやって放送をするのか、いますっごい苦労しています。

(山里亮太)そうですよね。編集が大変ですよね。

(町山智浩)画面のほとんどに性器が映っているという状態で「さあ、どうしよう?」っていう。困った!

(赤江珠緒)そうですね。そうか。ポートランドってそういう街なんだ。

(山里亮太)すっごいなー。

(町山智浩)面白いですよ。特に食べ物がめっちゃ美味いですから。もう安心だしね。だってビール1000種類ぐらいあるんですから。ただ、日本人の観光客は少ない!

(山里亮太)でもこれを聞いて「ああ、行こう!」って選択肢に入れた人はいるでしょうね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)まあ、いるでしょうね。まだまだ研究しに来ているプロの人ばっかりですね。ということで、ポートランド。テレビも放送しますのでお楽しみに。

(赤江珠緒)そうですね。映像で見たいという方はBS朝日で。

(町山智浩)はい。でも見れません。みんなぼかしが入ります。

(山里亮太)ほぼ全部モザイクの可能性もありますけども(笑)。

(町山智浩)大変な……画面になにが映っているのかわからなくなるんじゃないかと思いますけども。

(赤江珠緒)『町山智浩のアメリカの“いま”を知るTV』で近日放送ということです。今日はいま、アメリカでいちばん人気があるという実験都市と言ってもいいかもしれません。ポートランドの街を紹介していただきました。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

町山智浩 今井正監督『小林多喜二』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で1974年に製作された今井正監督の映画『小林多喜二』を紹介していました。

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(町山智浩)今日はですね、プレゼントがあります。『小林多喜二』という映画のDVDが出ますので、それを3名様にプレゼントします。この映画はずっと幻の映画だったんですよ。見れなかったんです。1974年に製作された小林多喜二という小説家の……『蟹工船』で有名な人ですね。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)この人は1933年に30才にして政治犯ということで、政治犯を取り締まる当時、戦前にあった特高警察という警察に捕まりまして、拷問の末に獄中で亡くなった作家です。この人は小説を書いただけなのに、その小説が思想的に労働者の決起を描いているということで殴り殺されたんですよ。

(赤江珠緒)そうなんですよね。獄死なさったんですよね。

(町山智浩)はい。その当時は治安維持法という形で国家、日本という国に対して政治的に反体制の活動をしたり、そういう思想を持っているだけで逮捕されるという時代だったので。で、拷問されて殺された人。その人の伝記映画なんですよ、この『小林多喜二』という映画は。ただこれ、1974年に完全なインディペンデントで作られた映画だったので。大手の映画会社を使っていないので、上映会とかで細々と上映されてきた作品なんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だから、DVDもなかなか出せなくて。で、2008年に『蟹工船』がベストセラーになったことがあったんですね。

(赤江珠緒)ありましたね。普通にブームみたいになったことがありましたね。

(町山智浩)その時もDVDを出せなかったんですけど、今回本当にがんばって出しましたんで。で、僕が解説を書いています。


(赤江珠緒)あ、町山さんの解説も。

(町山智浩)ぜひちょっと見ていただきたいんですけども。これね、監督が今井正さんという監督で、この人が撮った映画でいまぜひ見ていただきたい映画が『武士道残酷物語』という映画なんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)これはね、萬屋錦之介さんが演じる……何代にも渡って、江戸時代からずっと。たとえば江戸時代は主君によっていじめられて切腹に追い込まれて。その後、第二次大戦だと上官とかにいじめられてひどい目にあう兵隊の話。で、現在はサラリーマンとか役人として上司とかにいじめられる平社員の苦悩をずっと描いているんですよ。

今井正監督『武士道残酷物語』

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Posted at 2018.7.3
南條範夫
東映ビデオ

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、もう代々代々何百年にも渡って日本人が権力者や上司や目上の人間から徹底的にいじめられてきたんだということをずーっと描いているのが『武士道残酷物語』という映画で。これは体制が変わっても実は……社会とか政治とかは変わっていっているけど、本質的にはずっと同じことなんだということを描いているんです。つまり、「偉い人に対して言いなりになってしまって戦うことができなくて。で、切腹だの過労死に追い込まれていくんだ。全部同じなんだ! 政治とかの問題じゃないんだよ!」っていうことを描いているんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうか。そんなに時代が違っても結局。そうか。「武士道」ってそういうことか。

(町山智浩)「そんなものに従うなよ!」ということを描いた人が今井正という監督さんで。この人が小林多喜二さんの生涯をまとめているんですけど。この映画は実はすごくポップな作りで、ものすごく見やすい映画なんです。

(赤江珠緒)そうなんですか。小林多喜二さんってやっぱり拷問を受けてっていう印象も強いし。ねえ。だからポップっていうのは……。

(町山智浩)最初、強烈な拷問シーンから始まるんですけど。そこに語り手が入ってきて。ナレーターが画面の中に出てきて、「これから小林多喜二がどういう人だったのかを見てみましょう」っていう形で彼の人生を振り返っていくんですけども。その時に、たとえば彼が勤めていた銀行の現在の状況のところに行って、「ここが小林多喜二さんが勤めていた銀行ですが……」ってテレビのルポみたいな作りの映画になっています。

(赤江珠緒)へー! それが74年に製作された映画?

(町山智浩)そうなんですよ。だからすごくアバンギャルドな作りなんですけど。まあ、いまのバラエティーに近い形で作っていて。で、中で小林多喜二さんの小説が再現ドラマとして中に挿入されていくんですよ。

(赤江珠緒)ああ、それは面白い。興味深いですね。

(町山智浩)ものすごくわかりやすいんですよ。で、小林多喜二さんをこの映画の中で演じている人は山本圭さんという俳優さんで。この人はデビューの頃から……『若者たち』というテレビシリーズで売り出したんですけど。その頃から一貫して革命を夢見る青年をずっと演じてきた人なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、彼の一世一代の主演映画がこの『小林多喜二』で。先入観なく見ていただいて普通にわかりやすく面白い映画です。はい。

(赤江珠緒)そうですか。ふーん!

小林多喜二が生きた時代

(町山智浩)ただね、いますごくあれなのは、小林多喜二さんが活躍した頃というのは労働運動がすごく盛んだった頃で。貧しい労働者の人たちがなんとか自分たちの地位を、自分たちの身を守るために戦っていったんで、まあ政府に弾圧されたんですね。で、その後に実は労働運動っていうのは政府の弾圧だけじゃなくて貧しさの中で耐えられなくなって、どんどんどんどん沈静化していって。それが戦時体制の軍国主義に飲み込まれていくんですよ。貧しい人たちは最初は政府に対して戦っていたのに。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)どうしてか?っていうと、政府が外国を侵略して、そこに移住することで日本国内の貧しい問題というものは解消できるよっていうことを売り出したからです。具体的には満州だったり、そういう外地に日本人が移住していくということになっていくんですけどね。

(赤江珠緒)ええ、ええ。

(町山智浩)だからそういう形で経済政策を出したわけですよ。なので、この政府についていこうということで、貧しい人たちの反体制の運動というのはなくなっていったんですよ。

(赤江珠緒)目をそらせたわけですね。

(町山智浩)っていうか、まあ政府が新しいエサを出したんですね。で、この『蟹工船』という話は蟹を獲って缶詰にする船がありまして。そこで労働者が過酷な労働を強いられていくという小説なんですけど。これが当たったのって2008年なんですね。リバイバルしたわけですよ。その時は日本の若者たちがいわゆるロスジェネみたいな形で、非常に貧困の中で苦しんでいたわけですね。で、彼らはその『蟹工船』の戦う労働者たちに非常に共感したわけですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)そこから考えると、わずか10年しかたっていないのに、もう全く日本の状況って変わりましたね。あれだけ怒っていた貧しい若者たちの怒りというものは本当に消えてしまって、非常に労働者を過酷に扱うような法律が強行採決されても誰も怒らないというような状況になってきていて。小林多喜二の時代と非常にダブるようなところがあるのでぜひ見ていただきたいなと思いますね。

(山里亮太)いま、まさに。

(赤江珠緒)そうですね。いままでなかなか見ることができなかったというものがDVDになりました。小林多喜二さんというお名前は存じ上げていても、具体的にどういう生き方をされたかとか、そこまではわからないという方も多いと思いますので。

<書き起こしおわり>

町山智浩『焼肉ドラゴン』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『焼肉ドラゴン』を紹介していました。


(町山智浩)今日はね、『焼肉ドラゴン』というもうすでに公開されている映画についてお話したいんですけども。これは鄭義信さんという在日朝鮮人・韓国人の脚本家の方ですね。『月はどっちに出ている』というタクシー運転手の映画の脚本でよく知られている人なんですけども。その人が1969年の大阪を舞台に、ホルモン焼き屋さんをやっている在日韓国・朝鮮人の一家を描いたホームコメディーなんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、この映画はとにかくリアリティーがない!

(赤江珠緒)ないんですか?

(町山智浩)ない。だってさ、この家の……三姉妹の話なんですけども。お姉さんが真木よう子。次女が井上真央。で、いちばん下の末っ子が桜庭ななみちゃん。こんな三姉妹がいる焼肉屋があったら大変な騒ぎですよ!

(赤江珠緒)アハハハハハッ!

(山里亮太)看板娘!

(町山智浩)もう1万人ぐらい押し寄せてね。そんなところ、ねえだろ!っていう。

(赤江珠緒)美人すぎると(笑)。

(町山智浩)美人すぎるだろっていうね(笑)。そう思いましたけども。もう大変なことになるぞって思いましたよ。でね、ところがこの映画はね、すごいのは井上真央さんなんですよ。ちょっとびっくりしますよ。本当に。井上真央さんのイメージってあるじゃないですか。朝ドラのイメージとか。

(赤江珠緒)『花より男子』とか。

(町山智浩)そうそうそう。おとなしい女の子だったりするじゃないですか。でもすごいんですよ。この映画『焼肉ドラゴン』の中ではいきなり「アホンダラァ!」ですからね。

(赤江珠緒)ほー!

(町山智浩)「なにやっとんねん!」みたいな。すさまじいですよ。井上さんの演技。びっくりしますよ。これ。でもね、なんでそんなに怒るか?っていうと、その理由があるんですよ。彼女、井上さんの旦那さんっていうのはこの映画の中では大泉洋さんなんです。大泉洋さんは井上さんと結婚しているのに、お姉ちゃんの真木よう子さんが好きなんですよ。

(赤江・山里)ええっ?

(町山智浩)ねえ。そりゃあ頭に来るわっていう。でね、真木よう子さんの方も大泉洋さんのことを好きなんですよ。

(赤江珠緒)えっ、そういうドラマ?

(町山智浩)でしょう?っていうか、ふざけるなって思うでしょう。大泉洋さん、最近小松菜奈ちゃんにも好かれているんですよ。

(山里亮太)そうですね。『恋は雨上がりのように』でね(笑)。

(赤江珠緒)役ですね、役(笑)。

(町山智浩)どういうことだよ、これ。世の中?

(山里亮太)モテすぎてるなー(笑)。

(町山智浩)なんなんだろうね? そういうことでいいのかな? とかいろいろ思いますよ、本当に。

(山里亮太)町山さん、役です(笑)。

(町山智浩)あ、役なのか(笑)。ちょっとそれはないだろう? とか僕もいろいろと思いましたよ。で、彼の人生にとっていちばん最高の時になっていないか? とかいろいろ思うわけですけど……(笑)。

(山里亮太)言い寄ってくる女のレベルが高い!

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ちょっとそれは……真木よう子と井上真央に引っ張られてね、「どっちが好きなの?」とか。そんなことはあっていいのか!?って思いましたけど。はい。でね、この映画はね、いろいろとその当時の大阪の伊丹空港のすぐ近くにある国有地を勝手に占拠して住んでいる韓国人集落の話なんですね。

(赤江珠緒)伊丹空港。

(町山智浩)そういうのは昔、いっぱいあったんですよ。終戦直後はね。土地が誰のものかわからない状態になりましたから。焼け野原でね。東京とか大阪とか。これ、1969年なんで、そういうのがもう最後に残っているような場所なんですね。他はもうみんな、高度成長しちゃっているわけですけど。で、まあ立ち退きを命じられているけれども居座り続けている人たちなんですよ。だから、この中で大泉洋さんが言うんですけど、「在日っていうのは本当に矛盾だらけだな」って言うんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)「こっちに来て働いていて、それでいて文句ばっかり言って。それで(国には)帰らないし」みたいなことを言うんですよ。ここでも立ち退けって言われていても立ち退かない。そのへんの話っていうのはすごくシビアに出てくる映画ではあるんですよ。でも、基本的にはコメディーなのね。そこも上手いんですけど。たとえば、井上真央さんが大泉洋さんにこう言うわけですよ。「あんた、頭のてっぺんから足の先まで韓国人なんだよ! あたしたちは韓国人なんだよ!」って言うんですよ。でもそれって本当にそう思っているのか?っていうと、そうじゃないんですよ。

(赤江珠緒)ん?

(町山智浩)井上さんは日本で生まれて、韓国のことは全く知らないんですよ。で、韓国語もしゃべれないんですよ。それなのに、韓国人なんですよ。「私たちって本当に韓国人なの?」っていうことですよ。

(赤江珠緒)そうですね。うん。

根なしのアイデンティティー

(町山智浩)だから結局、まあアメリカでもそうですけど、移民とかっていうのはみんなそうなんですけども。そういうアイデンティティー……要するに、根なしのアイデンティティーなんですよね。だから矛盾があるということなんですけども。そのへんが理解できない人たちが本当に多くて。「帰ればいいじゃないか!」って言うんだけど、そうじゃないんだよっていう。帰るところなんかないんだよっていう。まあ、セリフの中でも出てくるんですけどね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それが移民だったり難民だったりするわけなんですよ。だから、「私たちは韓国人なんだ」って言うんですけど、でもなにも韓国について知らない。行ったこともない。言葉もしゃべれない。僕もそうですよね。そのへんのリアリティーが監督で脚本家の鄭さん自身の……彼自身を投影した1969年に中学生の少年っていうのが末っ子で出てくるんですけど。まさに彼の本当にリアルな気持ちっていうのがすごくそういうセリフにはっきりと出ていますね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、このお父さんは一世で日本に来て働いていたんですけど。セリフの中で「働いて働いて働いて働いて……もう帰れなくなっちゃったよ」って言うんですよ。もうだから彼にとってはそういうことですよね。そこらへんのリアリティーみたいなところがすごくよくできているところですよね。三姉妹は美人すぎますけども。

(赤江珠緒)うん。そこはね。

(町山智浩)本当にね。で、彼の故郷は済州島というところなんですけど、そこは韓国政府によって住民が弾圧されて日本に逃げてきた人たち。で、もう済州島には帰れないんですね。済州島っていうのは韓国の南の端でいまはリゾート地ですけども。で、大阪の人たちってそこの人たちがすごく多いんですよ。


(赤江珠緒)ああ、うん。

(町山智浩)だから彼らは韓国政府に弾圧されて逃げてきているから、戸籍を選ぶ時に北朝鮮籍を選ぶんです。でも、北朝鮮なんか行ったこともなければ見たこともないし、親戚も誰も住んでいないんですよ。だから、日本にいる在日にとっての故郷っていったい何か?っていうとすごくフィクション上の故郷なんですよ。

(赤江珠緒)そうなのかー。

(町山智浩)そうなんですよ。だから日本にいる人たちで朝鮮籍の人たちって多いでしょう? あの人たち、別に北朝鮮に知り合いも誰もいないんですよ。出身地でもないんです。そういう政治的状況の中で朝鮮籍を選んだだけなんですよ。

(赤江珠緒)政治的状況で翻弄されて、その結果っていうことですか?

(町山智浩)そう。だって韓国っていうのはあとからできたわけで、もともとは朝鮮しかなかったわけだし。だから彼らの本当の出身地はほとんどは韓国なんですよ。で、北朝鮮籍を選ぶわけじゃないですか。それは見たこともない祖国として政治的に存在するんですよ。で、この中でいろんなシーンがあるんですけど。「家族というのはバラバラになっても家族なんだ」っていうセリフが出てくるんです。それはある意味、この映画を見た人たちは感動をすると思うですけど、実はすっごい皮肉な言葉なんですよ。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)姉妹のうち、ある娘は北朝鮮に行くんですけど、そこは行ったこともない国なんです。

(赤江珠緒)北朝鮮に行くんですね。うんうん。

(町山智浩)帰国事業という形で北朝鮮に帰った在日の人たち、9万人ぐらいいるんですけども。ほとんどが行方不明、死亡、強制収容所に入れられて殺されるっていう……。

(赤江珠緒)北朝鮮は地上の楽園ってすごく宣伝をされていた時代がありましたもんね。

(町山智浩)そう。騙されて行って大変な目に……まあ、殺されたりしているわけですけどね。で、もう1人の娘は韓国の人と結婚をして韓国に行くんですよ。でも、彼女も韓国になんか行ったことがないんですよ。だから「家族はバラバラになっても永遠に続くよ」って言うけど、それは実はすごく悲しい、その後に本当に霧散してしまうようなことなんですよ。この映画のラストって。実は。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)でもそれは、じゃあそういう濃厚な家族関係っていうものは韓国系だけだったのか?っていうとそうじゃなくて。それよりちょっと前の日本っていうのはみんなそうで、狭い狭い家でみんな怒鳴りあって殴り合って取っ組み合って愛し合って、泣いたり笑ったりして。狭い部屋で枕を並べて寝ていたんですよね。そういう濃厚な家族関係っていうのは実はこれを最後に日本からほとんどなくなっちゃうんですよ。だから彼ら、韓国系の在日の人たちの家族がこうしてバラバラになって消えていって、なんとなく日本の中で消えていったり、日本と韓国と北朝鮮っていう3つの関係の中で消えていったっていうことだけを意味しているんじゃなくて、日本におけるそういう濃厚な家族関係はじゃあどこに行ったのか? 実際にはそれも消えちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。そうか。『万引き家族』もね、ポツンと取り残されたみたいな。

『万引き家族』と『焼肉ドラゴン』

町山智浩『万引き家族』徹底解説
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で是枝裕和監督の映画『万引き家族』について徹底解説。是枝監督のこれまでの作品と落語のモチーフなどについて話していました。(※内容に一部ネ...

(町山智浩)そう。『万引き家族』っていうのは実はそれから何年もたっていま現在に、貧しさの中で社会の底に沈殿して集まった人たちがまた新しい家族関係を、血統(血の繋がり)じゃなくて作り出していくっていう話なんですよ。すごくよく似ているんです。貧しかった頃の韓国人たちの、その貧しいけれども濃厚な家族関係っていうのは『万引き家族』において貧しさの中でまた再形成されていくんですよ。血筋ではない形で。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だからこれは韓国云々っていう話じゃなくて、『万引き家族』と『焼肉ドラゴン』っていうのは非常に通底しているものなんですよ。その終戦直後から高度成長期から現在のまた貧困が戻ってくるところにかけて、その家族というものが解体してまた再形成されていくけども、すでにそれは国籍とか民族ではないものなんですよね。根底にあるのは。だから本当はあわせて見ていただいて、いろいろと考えてもらえるといいなと思います。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)でも大泉洋さんはね、真木よう子さんの膝をなめたり、おっぱいに顔をすりすりしたりね、もうふざけんじゃねえよ!って思いますけどね。はい(笑)。

(山里亮太)フフフ、役です。仕事です(笑)。

(赤江珠緒)今日は現在公開中の『焼肉ドラゴン』とそしてDVDが本日発売された映画『小林多喜二』をご紹介いただきました。町山さん、全てが続いているようなお話でしたね。ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

町山智浩 イングマール・ベルイマン監督を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でイングマール・ベルイマン監督について話していました。

(町山智浩)今日は最初、すいません。告知をやらせてください。7月14日にイングマール・ベルイマンというスウェーデンの映画監督がもし存命中なら100才になるんですよ。で、ベルイマン生誕100年映画祭というのが開かれます。それの前夜祭として7月13日。今週の金曜日……あれ? 13日の金曜日だな(笑)。夜の23時から僕がYouTubeでこのベルイマンという人を知らない人のためのトークをします。配給会社がザジフィルムズっていうんですけど、そこのYouTubeアカウントから見れるようになります。もちろん無料です。


(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)で、この7月21日から映画祭は恵比寿ガーデンシネマで開かれるんですが。でね、ベルイマンという監督は『第七の封印』とか『野いちご』、『処女の泉』、『叫びとささやき』、『ファニーとアレクサンデル』といった映画が有名で、そのへんがデジタルリマスターで上映されるんですけども。


(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)これ、見たことあります?

(赤江・山里)ないです。

(町山智浩)僕の世代だともうかならず見なきゃならない映画のひとつだったんです。映画について詳しく知りたいんだったら黒澤をベルイマンは見なきゃならない映画だったんですね。だから説明するのはすごく大変なんですけど、最近の映画でも『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』とかあとは『(500)日のサマー』とかに影響を与えているんですよ。ベルイマンは。

(赤江珠緒)ええ。

『ファイト・クラブ』にも影響を与える

(町山智浩)で、いちばんわかりやすい例は『ファイト・クラブ』という映画でブラッド・ピットが「お前ら、いくら高い服を着たってお前らの中身は空っぽだぜ!」って突然怒りをカメラに向かってブチまけるシーンがあるんですね。で、あまりの怒りのためにフィルム自体がガタガタガタガタ震えだして。映写機が故障したみたいになるんですよ。そういうシーン、覚えていないかな? その効果を最初にやったのがベルイマンっていう人なんですよ。この人が『仮面/ペルソナ』っていう映画の中のキャラクターの怒りがフィルムの映写装置に障害を起こすというシーンを撮っているんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そんな昔の方が。

(町山智浩)そうなんですよ。当時、1960年代なんですけども。ぜひちょっとこの前夜祭の7月13日、23時のYouTubeを聞いていただけるとわかりやすく……。

(赤江珠緒)そうですね。ベルイマン監督の生涯もかなり破天荒だったみたいですね。

(町山智浩)まあ、次から次に自分の映画に出た女優とできちゃっては離婚し、できちゃっては離婚しを繰り返していった人ですね。結構どうしようもない人だったんですね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)そのへんも含めて面白い人です。

(赤江珠緒)じゃあそこらへんも含めてたっぷりと町山さんが語り尽くすという。

(町山智浩)よろしくお願いいたします。

<書き起こしおわり>

町山智浩 『たまむすび』音源のBBCドキュメンタリー登場を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で自身の番組内でのトークがBBCドキュメンタリーJapan’s Secret Shame(日本の隠された恥)』で使用されたことを紹介していました。


(町山智浩)あとですね、『たまむすび』って国際的になったんですよ。

(山里亮太)えっ?

(赤江珠緒)フフフ、いつの間に?

(町山智浩)いや、僕ですよ。しかも。僕が放送でしゃべっている声がイギリスの国営放送BBCでやったドキュメンタリーで『Japan’s Secret Shame(日本の隠された恥)』という題名の番組の中で放送されて。それの内容はですね、テレビ局のジャーナリストにレイプされたと名乗り出た伊藤詩織さんという女性が日本で激しくバッシングされた件のドキュメンタリーなんですけども。その中で、僕が『たまむすび』で話した音声が引用されているんですよ。

(赤江・山里)へー!

(町山智浩)ネットで見れます。はい。

(赤江珠緒)ああ、そうですか!

(町山智浩)「すげえ、BBCだ。国営放送だ!」って思いましたけど。

(山里亮太)町山さん、ネットでそれ、どういう検索の仕方をしたら見れます?

(町山智浩)あのね、次々と消されているんで追いかけなきゃいけないんですけども。

『Japan’s Secret Shame』


(山里亮太)町山さんの名前で検索したら出ますか?

(町山智浩)それじゃ出ないです。『Japan’s Secret Shame』じゃないと出ません。日本の人に見せたくない人が消しているんだと思いますけども。わかんないけど。その中で僕が話しているのは、ハリウッドの映画プロデューサーでハーベイ・ワインスタインがセクハラをさんざんして問題になったということをわかりやすく解説している音声なんですね。『たまむすび』で。


(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)でね、ワインスタインは逮捕されたんですよ。ただ、いまも無罪を主張していますね。で、それは彼は「被害者の女性との間には同意があった」って言っているんですね。

(赤江珠緒)それを言われるとね、本当にセクハラについて訴えるっていうの、女性は難しいですよね。

(町山智浩)難しいんですよ。彼の場合にはプロデューサーなんで「映画に出してやるから、やらせろ」って迫っているわけですけど。で、「だから同意はあった」って言っているんですよ。だから「嫌なら断ればよかったはずだ」っていうんですね。「だから無罪だ」って言っているんですけど、それはどうなのか?っていうことなんですよね。

(山里亮太)通らないでしょうね。通るのかな、そんなのが?

(町山智浩)うーん、これってだから、たとえば過労死なんかでもそうで。過労死をした人に対して「嫌なら会社を辞めればよかったじゃないか」っていうのと同じで。そういう風に断れない状況に追い込んで、やったら無罪っていうのはどうなのか?っていう。非常にこの裁判は大きな問題になると思いますね。はい。

<書き起こしおわり>

町山智浩 映画『ザ・テイル』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『ザ・テイル』を紹介していました。



(町山智浩)で、それ(ハーベイ・ワインスタイン問題)とちょっと関連する話なんですけども。今回紹介する映画は『ザ・テイル(The Tale)』という映画なんですね。これは日本公開がまだ決まっていないと思うんですが。「テイル(Tale)」っていうのは「お話・作り話」みたいな意味があります。で、これはジェニファー・フォックスという女性のドキュメンタリー映画作家が自分自身が13才の頃にあったトラウマを探っていくという映画です。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)この映画は劇映画なんですけども。その劇映画の中でジェニファー・フォックスを演じるのはローラ・ダーンという女優さんですね。『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』でものすごいかっこいい役をやってズルいなという。

(赤江珠緒)ああ、たしかにかっこよかった。宇宙船に乗っていてね。

(町山智浩)そう。いきなり出てきて、いきなりかっこいい役をやってズルいと思った人です。あの人がこのジェニファー・フォックス監督を演じています。

(赤江珠緒)ホルド役の人だ。

(町山智浩)で、このジェニファー・フォックスという人はドキュメンタリー作家としてものすごく評価されていて、大学の授業とかを持っていて。世界中を駆け回ってドキュメンタリーを撮り続けている人なんですけども。お母さんから電話がかかってくるんですね。で、お母さんが「家の中を掃除していたら、あなたが中学生の時に書いた作文が出てきて。その内容を読んでびっくりしたわ。あなた、なんかすごく年上の男性と恋愛関係にあったの?」って電話をかけてくるんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それに対してジェニファーは「いや、そんなこともあったけど、先生には『作り話だ』と言ったし、実際に私は自分の意志で年上の男性と恋愛していただけだから大丈夫だし、何も心配しないでいいわ」ってお母さんに言うんですよ。ところがね、そのことを彼女はずっと忘れていたんですね。

(赤江珠緒)うんうん。記憶になかった。

(町山智浩)記憶になかったんですよ。それでなにが一体あったんだろう?って思い出そうとするんですけど、その思い出す過程が映画になっているんですよ。で、回想シーンになるとそのジェニファーは13才のジェニファーになるんですけど、それは結構大人っぽいティーンエージャーの女優さんが演じています。で、その13才のジェニファーは近所の乗馬塾に通っていて、その乗馬の女の先生のミス・Gさんというきれいな人にかわいがられて。で、そのミス・Gが連れてきた男性の陸上のコーチをしていたビルという人とも仲よくなっていくんですよ。

(赤江珠緒)ふーん。

(町山智浩)で、そのビルという男性と13才のジェニファーがなんか恋愛関係にあったらしいんですね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)ところが実際にどうなったのか? ジェニファーは全然思い出せないんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、そこで35年ぶりにミス・Gとか乗馬学校の友達に会いに行って、一体何があったのかを聞いてまわるという話なんですね。

(赤江珠緒)へー。自分のことだけど、そこの部分が全然記憶がないということですか?

35年前の記憶を辿る

(町山智浩)曖昧なんですよ。はっきりしないんですよ。ただね、男の人と一緒にいてちょっとエッチな感じになっていくとすごくフラッシュバックをすることが彼女にはいまもあるんですね。なにが蘇ってくるのかはわからないんですけど、すごく嫌悪感みたいなものがあるんですよ。

(赤江珠緒)ほー。

(町山智浩)で、その正体がなんだろう?っていうのだけは気にかかっているんですよ。でも、それを考えるとすごく辛くなるから考えないようにしているんで、思い出せないんですね。自分の記憶にブロックをかけているんですよ。で、それを探るという話でね。この映画、実はすごくよく似た映画があります。アニメなんですけど、イスラエル製のアニメで『戦場でワルツを』という2008年の映画があるんですよ。

(山里亮太)昔、こちらでご紹介してもらってね。見ました、見ました。

(町山智浩)それは主人公というか、その監督自身がですね、1982年にイスラエルの兵士としてレバノンに国境を超えて侵攻した時の記憶が本人にはないんですよ。で、どうしてもそれが思い出せなくて、一緒に戦場に行った友達にどんどん話を聞いていって、その聞いた、録音した音声にアニメーションで絵をつけていくという不思議なアニメなんですね。で、それはどうして記憶をなくしていたか?っていうと最後にわかるんですが、まあ大虐殺。パレスチナ系の難民の人の大虐殺の現場を見てしまって、その罪悪感で自分の記憶からその周辺の記憶を消していたことが最後にわかるという映画だったんですね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)それが『戦場でワルツを』という映画だったんですけど、それに非常にこの『ザ・テイル』という映画は似ているんですよ。

(赤江珠緒)あ、じゃあジェニファーも13才の頃に何か、記憶をブロックしたいことがあった?

(町山智浩)はい。で、お母さんのところに行って。お母さんが慌てているから。「私は大丈夫。あの頃、13才だけどすごくいまと変わらないし、すごく大人だったわよ」って言うんですね。で、彼女の回想シーンでもすごく大人っぽい女の子の女優さんが演じているんですよ。ところが、お母さんはびっくりして。「なに言ってんの? あんたが13才の時は他の子よりもずっと子供だったわよ! 小学生みたいだったわよ!」って言うんですよ。で、「嘘だ!」って13才の時の写真の自分を見ると、もうほとんどちっちゃい子みたいなんですよ。

(赤江珠緒)あ、じゃあ忘れているだけじゃなくて、書き換えられているの?

(町山智浩)記憶が書き換えられていて。「私はその頃、しっかりした大人で自分の意志で年上の男性と恋愛関係にあったんだ」って思い込んでいるんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)でも実際にはほんの子供だったんですよ。で、そのミス・Gに35年ぶりに会うと、そのミス・Gからいきなり「ごめんなさい! 私のせいで……」って言われるんですよ。謝られるんですよ。で、探っていくと、そのビルという男はミス・Gと……そのミス・Gっていう人はお医者さんの奥さんなんですけど、密かに恋愛関係にあって。で、このビルという男は自分と複数の女性との間に肉体関係があって、しかもその女性たちにその女性の周辺にいる少女たちを生贄として差し出させていたことがわかってくるんですよ。

(赤江・山里)ええーっ!?

(町山智浩)そういうのをどんどん調査してわかっていくっていう映画なんですね。これは。で、まあこのジェニファーという人はもうまともにその後に恋愛ができなくなって。まあ性的なことに対しても非常にリラックスできないから快感を味わえないっていうトラウマをずっと抱えていたんですよ。その原因がわかっていくんですね。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)これはね、本人が名前を出してやって。しかも、このジェニファー・フォックスという監督はこの映画を作る前にすでにかなり有名なんですよ。日本ではほとんど作品が公開されていないですけど、アメリカでは非常に有名な映画監督で賞もいっぱい取っている人なんですね。

(赤江珠緒)もともと地位もあるという方なんですね。

(町山智浩)そうなんですよ。で、40を過ぎて「でもなんか自分の中で何かおかしいことがある」っていうことで。それもお母さんからの電話がきっかけで探り出していくんですよ。

(赤江珠緒)でもそんなに完全にポンと抜けるぐらい……やっぱり辛すぎて、自分を守るために?

(町山智浩)自分を守るために話を書き換えちゃているんですね。だからすごくきれいなものとかにしちゃっているんですよ。たとえば自分が13才で、じゃあその相手のビルっていう男は何才だったのか?っていうのは映画の中でもなかなか出てこないんですよ。で、途中で判明するんですけど、40なんですよ。

(赤江珠緒)うわっ! ええー……。

(町山智浩)そう。だからそのへんがわかった時、そのジェニファーの話を聞いていた人が「これは完全に犯罪だ! お前はなんでこんな犯罪だっていうことを自覚しなかったんだ!?」って言うんですよ。でもそれは、自分がそんな目にあったっていうことを考えたら壊れちゃうからですよ。だから「なんでもなかったんだ」って思うために話を自分の記憶の中ででっち上げていたという。ただ、客観的な証拠が次々に出てきて、自分はもうほとんどレイプされたんだっていうことがわかっていくという話なんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

自分を守るために記憶を書き換える

(町山智浩)これは結構強烈な映画でしたね。はい。で、もうアメリカではこの人、シナリオを書いていろんな映画会社に持ち込んだんですけど、どこもお金を出してくれなかったと。そんな少女が虐待されるとか、そんなものにお金を出しても回収はできないだろう。そういうこと自体がアメリカではタブーなので、あまりいじりたくないということでお金は結局出なくて、ヨーロッパの映画会社にお金を出してもらっているんですよ。

(山里亮太)ええっ!

(町山智浩)で、次が大変でこのビルっていう男を誰が演じるか?って、俳優はみんな「嫌だ、嫌だ!」って誰も出ない。

(赤江珠緒)そりゃそうですよね。最低ですもんね。

(町山智浩)やらないとかね。この13才の少女を見つけるのも大変で。ものすごい撮影、製作をするまでが大変だったみたいです。で、結局彼女は映画館でこれをやってもアメリカだとアートシアター系の映画館……だから日本だと「単館」って言われるものなんですけども。本当にすごく見る人が少ないんですよ。本当に数も少ないし。だからこの人はHBOというケーブルテレビの方に直接その映画の配給権を売って、とにかくできるだけ多くの人に見せるようにしていますね。

(赤江珠緒)いやー、でもすごいですね。それを自分で……言ったら自分の身を切るような作品ですもんね。

(町山智浩)そう。そうなんですよ。だからものすごい勇気があることをしているんですよね。で、『ザ・テイル』っていうタイトルが「作り話」っていうのは、この彼女の心の中で書き換えられたからなんですよ。だからこの映画がすごく面白いのは、映画の中でまず最初、さっき言ったみたいに17、8に見える女の子がジェニファーさんの少女時代を最初に演じて、話が途中まで進むんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)ところが途中で「実は子供みたいな13才。小学生みたいな13才だった」っていうことがわかると、それまで再現フィルムをやったのにもう1回、13才の少女で再現フィルムをやり直すんですよ。

(赤江珠緒)ああーっ!

(町山智浩)すごい不思議な映画なんですよ。それで、しかも彼女。ジェニファー監督の頭の中で13才の自分がそういった目にあっていくのを証拠からどんどん映像を作り上げて行くわけですから。すると、この40いくつの監督自身が13才の自分に向かって「ちょっとあなた! やめなさいよ!」とか言ったりするんですよ。35年前の自分に向かって。

(赤江珠緒)そうか。そうか。

(町山智浩)「ちょっと考えて!」って言うんですけど、「なに言ってんの? 私をそんな子供扱いしないで!」って。自分が子供扱いされる反発から、どんどん変な方向にハマっていくっていうね。で、だんだん会話になっていくんですよ。その13才の自分と監督との。その場合、画面に2人とも出てくるんですよ。その35年後の映画監督のジェニファーさんと13才の少女のジェニファーさんがひとつの画面で話し合ったりとかですね。「それはちょっとおかしいと思うわ!」って言ったりね。すごく映画として不思議なことをやっている、映画としてもものすごく面白いですね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)結構自由自在な感じなんですよ。でも、最後の方で真相がわかっていくんですけど、これはちょっと……うん。日本公開されるかどうかわかんないんであれなんですけど、まあ言っちゃうと犯人は実は大学とかの女子陸上でコーチをやっているすごく有名な男だっていうことがわかるんですよ。

(赤江珠緒)はー! そうなんだ。

(町山智浩)で、被害者も彼女だけじゃなくて、実はものすごい数いたらしいことがわかるんです。

(赤江珠緒)わーっ!

(町山智浩)っていう、怖い話で。いま、アメリカのオリンピックの女子体操選手にも何十年にも渡っていたずらしてきた医者が捕まったりしていますよね?

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)だから、話がひとつじゃなくて、本当に氷山の一角なんだっていうことがわかってくるんですね。だからこれは恐ろしいなと思いましたけども。日本だとちょっとまだ公開予定が……。

(赤江珠緒)日本公開は未定ということですが。『ザ・テイル』。

(町山智浩)という映画で『ザ・テイル』でした。

(赤江珠緒)いやー、これは聞いているだけで切なくなる……よくご自身のことに向き合ってこられたなという感じだと思います。

(町山智浩)でも映画としては推理物で、しかも自分の子供の頃と話し合ったりするという、映画的にも映像的にも非常に面白いエンターテイメントにもなっているところがすごいなと思いました。

(赤江珠緒)まあ誰しも、何才も前の自分と語り合うみたいな瞬間ってありますもんね。そういう感覚って映画じゃないけど、あったりするじゃないですか。

(町山智浩)ありますよね。記憶をいろいろ書き換えていて。昔付き合った女の子が頭の中でものすごい美人になっていたりね。

(赤江珠緒)そうね(笑)。

(町山智浩)そういうのもありますが(笑)。いろいろ補正されていると思います。みんな。

(赤江珠緒)今日はアメリカで話題の映画『ザ・テイル』を紹介していただきました。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

町山智浩『菊とギロチン』『止められるか、俺たちを』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『菊とギロチン』『止められるか、俺たちを』を紹介していました。

(町山智浩)今日はアメリカの話じゃないんですけど、日本映画を2本まとめて紹介したいんですが。もう公開中の映画で『菊とギロチン』という映画。もう劇場にかかっていますけどもその話をして、もう1本関連している映画をちょっと紹介したいんですね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)この『菊とギロチン』という映画はすごいタイトルが変なんですけど。これ、「ギロチン社」というアナーキスト集団がいまして。アナーキストというのは無政府主義者。そんな人たちがいて、これが関東大震災があった大正時代の終わり、1923年に警察の追われていた頃の話です。


(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、主演は東出昌大さんです。山ちゃん、たしかお友達ですよね?

(山里亮太)そうです。僕は仲良くさせてもらっていて。赤江さんと僕は東出くんの結婚式にも行ってますから。

(赤江珠緒)そうなんです。

(町山智浩)すごいですよね。あの、なんか一緒のお風呂とか入ったことあります?

(山里亮太)いや、お風呂はまだ経験がないですよ。

(赤江珠緒)ないですねー。

(山里亮太)いや、赤江さんはそりゃないでしょ!

(赤江珠緒)アハハハハハッ!

(町山智浩)赤江さんがあったりしたら大変なことになりますけども(笑)。そうじゃなくて、この『菊とギロチン』という映画はね、東出さんのお尻が見れるんですよ!

(赤江珠緒)フフフ、そこを勧められましてもね(笑)。

(山里亮太)町山さん、1個目のおすすめポイントは絶対にそこじゃないはずですって!

(町山智浩)しかも、2回も見れますから!

(山里亮太)町山さん、その説明から始まっちゃうと『菊とギロチン』の意味もちょっと違うんじゃないか?ってなってきちゃう……。

(町山智浩)そうそう。「どの菊だろう?」とかいろいろと考えちゃうんですけど(笑)。いやいや、すごいんですよ。だってお尻を見せるところ、最初のところはエッチしているところですよ。東出さんが。

(山里亮太)あらっ!

(町山智浩)はい。この彼が演じる役はね、中濱鐵という実在のギロチン社の……なんて言うんですかね? 詩人なんですけども、まあ政府打倒を掲げている運動家の役なんですね。で、彼は「略」と言って「略奪」のことなんですけども。まあ、金持ちとか大企業を恐喝してそのお金を取って反政府活動をしているということになっているんですが、実際はお酒を飲んでエッチなことをしているだけなんですよ。この人は。東出さんは。

(赤江珠緒)はいはい。

(町山智浩)そういう役なんですね。ところが過激な仲間もいて。古田大次郎という実在の……彼はテロリストになってしまって。で、銀行を襲撃して人を殺めてしまって、このギロチン社は政府に追われていくという話なんですね。で、古田さんを演じている人は寛一郎さん。この作品の監督、瀬々敬久さんの作品『64 ロクヨン』の主演だった佐藤浩市さんの息子さんですね。

(赤江珠緒)三國連太郎さんのお孫さん、佐藤浩市さんの息子さん。

(町山智浩)三國連太郎さんのお孫さんになりますね。で、この瀬々敬久監督がこの映画を監督しているですけど、この人はこのギロチン社の映画を30年間構想していてやっと完成したということで。この映画はクラウドファンディングで撮っているんですね。で、瀬々監督はいまメジャーな会社で大作を撮っているんですけど、これはもう完全に自分のライフワークとして撮った映画なんですけども。で、この「菊」というのがなにかというと、これは花菊という名前の女相撲の相撲取りさんが出てくるんですよ。途中から。

(赤江珠緒)うん。

関東大震災後の日本

(町山智浩)で、この頃は女相撲という興行がありまして。それとギロチン社が絡んでいくという話なんですね。で、この女相撲というのは昔からあったそうで。江戸時代からずっとあったんですけども。この大正の関東大震災の後から相撲興行がだんだん国技になっていくんですよ。で、神事。神聖なものなんだということで女人禁制というそれまではなかったルールが作られていくんですよ。

(赤江珠緒)ああ、それぐらいからの決まりですか?

(町山智浩)非常に最近のものなんですね。で、それはいま、最近土俵に女の人が誰かの命を助けようとして上がったにもかかわらず「出て行け!」と言われて大変な問題に鳴っていましたけども。

(赤江珠緒)ありましたね。アナウンスされた問題が。

(町山智浩)これはもともと、相撲というのはたくさん興行があって。各地で興行があって。まあプロレスみたいなもんだったんですよ。それがたとえば、新日と全日が合体して大日本という……まあ、大日本プロレスっていう団体もありますけども(笑)。そういうプロレス団体を作って、それが「プロレスは国技なんだ!」って言って神聖化していって国の権力と結びついていくというようなことが行われたんですね。

(赤江珠緒)はー。

(町山智浩)で、その際に「リングには女性は上がってはいけない」って言って女子プロレスを弾圧するみたいなことが起こったわけですよ。プロレスに例えるとね。で、さっき言ったみたいにギロチン社というのはもともと大正デモクラシーというのがあって。大正時代に日本ではすごく民主主義が発達して、普通選挙が始まったり、いろんな政治運動が出てきたんですよ。で、自由な政治論争とかそういったものができるようになっていって言論の自由があったんですけど、そこから出てきた反政府活動であったりそういった左翼運動が関東大震災の後にどんどん潰されていって、弾圧されていって日本は軍国主義に向かっていったんですけども。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それと並行して相撲の方でもそれまではいろいろな相撲があったのに、まあひとつの大相撲というものに集約されていってそれ以外の脇にあった女相撲とかそういったものは弾圧されていくんですよ。だからその2つの流れが並行して描かれて、その2つの弾圧されるグループが途中で出会って……という話になっていますね。で、これがすごく僕は見ていて面白かったのが、東出さんが……あの真面目なイメージの彼が本当にどうしようもない人間をこの中濱鐵の役でやっているんですよ。この人はね、口ばっかりなんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)「革命だ、革命だ!」って言うんですけど、何もしなくて。スケベなことばっかりしていて。で、梅毒になっちゃって「チンコ痛え!」とか言っているような人なんですよ。

(山里亮太)本当にいろんな役ができるね、東出くん。

(町山智浩)すごいですよ。で、お尻もちゃんとしっかり見えますしね。はい。それで彼にイライラしているのはその古田大次郎っていう人で。「あんたは口ばっかりだ! 口ばっかりで『やれやれ』って言って、絶対に革命なんかやりゃあしないんだ!」って言って、彼は暴走して本当にテロをやっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、この中濱鐵っていう人はかわいそうで、実際は口ばっかりで何もしていないのに死刑になっちゃうんですね。

(赤江珠緒)えっ、後に? そうなんですか?

(町山智浩)そうなんですよ。で、彼を追いかけていくのが正力松太郎という警察官なんですけど、この人はその後、読売グループを作った人ですね。

(山里亮太)そうですね。名前、聞いたことがあります。

(町山智浩)だからすごいいろんな人が絡んできて面白いんですけども。で、面白いのはやっぱりこの瀬々敬久監督というのはもともとピンク映画を撮っていたんですね。で、ピンク映画ってわからないと思うんですけど、ピンク映画はポルノ映画とはちょっと違って、インディペンデントに近い非常に低予算のエロ映画なんですけども。その「エロがあればとりあえずどんな映画を作ってもいい」っていうのがピンク映画なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だから裸が10分ぐらいおきに出てきていれば、その中のストーリーはどんなに難しい話でもいいんですよ。芸術でも。なにをしても許されたんです。その10分おきの女性の裸があれば。

(赤江珠緒)エロをまぶしてあれば。

(町山智浩)エロをまぶしてあれば。それがね、すごく女相撲とも重ねられていて。女相撲ってこの映画の最初の方でもみんな、スケベ心で見に来るんですよ。「おっぱいとか見れるかな? お尻とか見れるかな?」っていうことで行くんですよ。でも実際は隠しているんですよ。で、みんながっかりするか?って思うと、そうじゃなくて。女相撲は女性たちが本当に真剣に戦うんですよ。で、しっかりした格闘技を見せていくんで感動がそこで生まれるというのが女相撲になっているんですね。この映画の中では。

(赤江珠緒)ああ、うんうん。

(町山智浩)それって女子プロレスも最初はそうで。最初はエロな見世物だったんですけど、どんどんちゃんとした格闘技を見せていくことでエンターテイメントになっていったんですよね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、その女相撲に入ってくる人たちはその頃、男尊女卑がひどいんで。女性って結婚をしないとほとんど食えなくて。それこそ娼婦になるか結婚をして旦那にいじめられるかっていうどちらかしかなかったわけですよ。女性が自分の力で食っていくっていうのはほとんど不可能だったんですけど、女相撲にはその夢があったのでいろいろと追われてきた女性たちが集まってきているという話になっていたんですね。

(赤江珠緒)はー! 自分で身を立てるひとつの術だったと?

(町山智浩)そう。これぐらいしかなかったんだという。あとはだって芸妓さんになるとかそういう形しかなかったわけですから。カフェで女給で働くって、昔のカフェっていうのはほとんど売春していたわけで。だから、そういうところから脱出して自分の能力だけで闘えるのはここしかない!っていうことで女相撲に入ってくるわけですよ。で、そういう点ですごく、瀬々監督が撮っていたピンク映画っていうものもそのエロ、裸でで釣るんだけど中身は全然違うものだったんですよ。

(赤江珠緒)たとえばどういう内容をされていたんですか?

女相撲とピンク映画

(町山智浩)たとえば80年代、89年に彼が作った映画で『課外授業 暴行』というタイトルのピンク映画があるんですね。で、それはなんか学園物でレイプ物かな?って思うんですけど、中身は全然違って。まあ、青春反抗映画なんですよ。爽やかで瑞々しい。で、本当のタイトルっていうのは別にあるんですよ。本当のタイトルはすごく長いタイトルで『羽田に行ってみろ そこには海賊になったガキどもが今やと出発を待っている』っていうものすごいリリカルな、青春なタイトルなんですよ。


(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)でも、それは隠すんですよ。ピンク映画っていうのは本当のタイトルと嘘のタイトルとがあるんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)企画段階では本当のタイトルでやっていて。たとえば『禁男の園 ザ・制服レズ』っていう映画があって。これはレズ物かな?って思うんですけども、これ原題は宮沢賢治の『春と修羅』の引用ですごく長いんですけども。(『わたくしといふ現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です』)。これ、内容は爆弾テロの話なんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)『ザ・制服レズ』で爆弾テロなんですよ。

(赤江珠緒)全然違うじゃないですか!

(町山智浩)違うんですよ。だから、このエロとテロ的なものとか犯行とかとの合体っていうのは『菊とギロチン』の中で行われているんですけど、これ自体が瀬々監督のやってきたピンク映画の理論なんですよね。エロとテロの合体なんですよ。で、ただこの瀬々監督自身がピンク映画でそういったことをするっていうのでは彼は遅れてきた感覚がある人で。実はその前にそれをやっていた人がいるんですね。

(赤江珠緒)ええ。

町山智浩 サシャ・バロン・コーエン『Who Is America?』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でサシャ・バロン・コーエンの最新作『Who Is America?』を紹介していました。

Absolutely brilliant! You have to check it out ASAP!!! #showtime #whoisamerica

Bob Robertsさん(@teamusabball11)がシェアした投稿 –

(赤江珠緒)さあ、今日はテレビ番組ということですね。

(町山智浩)今日はですね、アメリカで大問題になっているテレビ番組でSHOWTIMEというお金を払ってみるテレビ局で放送されている番組で『Who Is America?(アメリカって誰?)』っていう番組についてです。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)これは作っている人はですね、昔『ボラット』っていう映画を撮ったサシャ・バロン・コーエンというユダヤ系イギリス人のコメディアンなんですね。これは、彼はイギリスでは有名だけどアメリカでは全く有名じゃないということを利用して、「カザフスタンから来たテレビのリポーター」っていうふりをして、アメリカの有名人とかいろんな人にインタビューをしていって。そこで「これはカザフスタンでしか放送されませんよ。だから何を言っても大丈夫ですよ」って安心させておいて、彼らの非常に危険な本音……特に差別的な本音とかを聞き出して、それを映画として公開しちゃったというものなんですよ。それが『ボラット』です。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)で、裁判とかにもならなかったのはたぶん、現場で映像使用同意書にサインをさせているんですよ。で、映像使用同意書ってものすごい細かい字がびっしりと書いてあるから、誰も全部読まないですから。そこには本当のことが書いてあるんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、サインをしちゃっているから訴えることができないっていう形でもう大変な問題になったのが『ボラット』と、その続編の『ブルーノ』っていう。それはオーストリア人のゲイのファッション評論家にサシャ・バロン・コーエンが扮して。で、ゲイに反対している人たちに襲いかかったりするというとんでもないやつで。で、基本的にはこの人は全部ドッキリなんですよね。

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Posted at 2018.7.24
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エイベックス・ピクチャーズ

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ただ、それを続けてやっていたから、ドッキリがきかなくなってきちゃったんですよ。この人の。

(赤江珠緒)ああ、有名になってきちゃって?

(町山智浩)そう。アメリカでも顔がバレちゃったんですね。サシャ・バロン・コーエンは。で、この後、このネタはどうするんだろう?って思っていたら、やっぱりいまの技術ってすごいんで、特殊メイクで完全な別人に変身して、やっぱりドッキリを仕掛けたのがこの『Who Is America?』っていう番組なんです。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)でね、『Who Is America?』っていうタイトルはいま、アメリカはトランプ大統領によってトランプを支持する人たちと支持しない人たちでもう真っ二つに分かれている状態なんですね。だからアメリカっていうのは一体なにか?っていま、聞かれたらトランプ的なものなのか非トランプ的なものなのか……どっちもアメリカなんだけど、どっちもアメリカじゃないということで、アメリカというものがいままでずっとみんなが思っていたひとつのイメージが崩れている状態なんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だから『Who Is America?(アメリカって誰?)』っていうタイトルがついているんですよ。で、これでこのサシャ・バロン・コーエンが化ける人っていうのはまず、「エラン・モラド」っていう名前の……まあ、インチキな名前なんですけど。イスラエルの軍人に彼は化けるんですね。で、彼自身がユダヤ系なのでイスラエルなまりの英語をしゃべることは得意なんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だから、すごくリアルなんですけども。で、あとは「イスラエルから来た政府関係者」って言うと共和党の人は会うんですよ。っていうのは、共和党はイスラエル寄りなので。本当にそのエラン・モラドという人が実在するのかどうかも調べもしないで政治家が会っちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

イスラエルと親密な共和党

(町山智浩)それを利用して、まあバカげたことをやるんですけども。まず、そのドナルド・トランプが高校で乱射事件があった時に「これを解決するには学校の先生を銃で武装させればいいんだ」って言って顰蹙を買った時があったんですね。

(赤江珠緒)ありましたね。

(町山智浩)ところが共和党の多くの人たちはそれを支持したんですけども。全米ライフル協会という銃を所持する人たちの協会から多額のお金をもらっている人たちなので。あと、票ももらっているんですよね。組織的な票をね。で、彼らに会いに行くんですけども、会いに行く時にまずその前にバージニア市民武装同盟という「銃でみんな武装すべきだ!」って言っている団体がありまして。そこのリーダーのところにそのイスラエル人の軍人のふりをして行くんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、そのリーダーはフィリップ・ヴァン・クリーヴっていうんですけど。イスラエルの軍人に扮したサシャ・バロン・コーエンが「ワタシはトランプ大統領を支持します! トランプ大統領は学校の先生に銃を持たせるって言いましたけど、幼稚園も危ないデス!」って言うんですよ。「幼稚園に乱射犯が入ってきたらどうします? 幼稚園児もピストル持った方がいいデスね。マシンガン持った方がいいデスね!」って言うんですよ。3才とか4才の幼稚園児もね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)そうすると、その市民武装同盟の人が「そうですね。それは正しいですね!」って言うんですよ。

(赤江珠緒)ああ、それに乗っちゃう?

(町山智浩)だから幼稚園児に銃の訓練をするっていう法案を議会に提出しよう!っていうことになっていくんですよ。それが。

(山里亮太)ええっ!

(町山智浩)それで、そのフィリップ・ヴァン・クリーヴという人と一緒に幼稚園児に銃の撃ち方を教えるっていうビデオを作って……サシャ・バロン・コーエンがイスラエル人のふりをしてね。で、そのビデオを持って連邦議会に行くんですよ。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)で、次々と共和党の議員に会ってそのビデオを見せて。「どうですか? 推薦してくれますか?」っていうことをビデオに撮っていくんですね。そうすると、見事に次々と……たとえばジョー・ウォルシュっていうイリノイ州の議員であるとか、ジョン・ウィルソンっていうサウスカロライナの議員とかが「もうこれには賛成ですね! 3才の子供はたぶんすごく頭がいいからすぐに人の殺し方を覚えますよ!」とかって言っているのを全部ビデオに撮っているんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)大絶賛するんですよ。

(赤江珠緒)でもそこまでデタラメなことに乗って行っちゃうんですか?

(町山智浩)騙されたんですね。それをテレビで放送しているんですよ。共和党の議員たちが次々と「3才、4才の子が銃を持ったら怖いもんないね!」とかって言っているんですよ。

(山里亮太)うわーっ、でも、そんなのを流せるんですか? それで訴えられるとか……。

(町山智浩)流していますよ。訴えられないのは絶対に同意書を取っているからだと思います。

(山里亮太)これもそうなんだ。

(町山智浩)そう。で、その同意書をよく読むと「サシャ・バロン・コーエンの番組だ」って書いてあるんだと思いますよ。

(赤江珠緒)うーん、なるほど! 過激などっきりですね!

(町山智浩)ものすごい過激ですよ。これがアメリカのコメディーなんですよ。で、あとね、ディック・チェイニー元副大統領にも会いに行きます。このエラン・モラドっていうイスラエル人のふりをしてね。で、ディック・チェイニーはブッシュ政権の時の副大統領だったんですけども、まあイラク戦争は実はそのディック・チェイニーがブッシュをそそのかしてやらせたと言われているんですよ。

(赤江珠緒)うん。

ディック・チェイニー元副大統領も撮影

(町山智浩)でもそれは、そう言われている陰謀論なのに、このサシャ・バロン・コーエンはいきなりチェイニーに会って「イラク戦争、ディックさんやらせてよかったネ!」っていうと「そうだろ?」って言っちゃうんですよ(笑)。

(山里亮太)決定的な一言を!?

(町山智浩)そう。で、「アナタが始めた戦争はどれがいちばん好きデスか?」とかって言って、「うーん、湾岸戦争がよかったね」とかって言って。よかったとか悪かったとかっていう問題じゃないですよ、戦争って!

(赤江珠緒)だから、えっ? 言ったらこんな大物の政治家もおだてられたらなんでもこういう風に言っちゃう?

(町山智浩)おだてて引き出しちゃうんですよ。で、またね、「ブッシュさんは実はアナタの傀儡で、本当はアナタが出ればよかったんデスよ。ブッシュさんよりディックさんの方が出ればよかったんデスよ! ブッシュよりディックが見たいデス!」って言うんですよ。彼は。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それは、「ブッシュ(Bush)」っていうのは「陰毛」のことなんですよ。英語でね。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)で、「ディック(Dick)」っていうのは「ちんちん」のことなんですよ。だから「ブッシュよりディック見たいデスね!」っていうのは言葉としてはおかしいんですよ、どう見ても(笑)。

(赤江珠緒)はー! それもわかっていて入れているんですか?

(町山智浩)わかっていてやっているんですよ。

(山里亮太)こういうジョークも入れながら。

(町山智浩)で、あとはディック・チェイニー副大統領はテロリストを拷問する時に水責めっていって口に水を大量に流し込む拷問を推奨した人として悪名高いんですよ。で、それをまた褒めるんですよ。このイスラエル人のふりをして。「ディックさん! アナタの水責め拷問は最高デスね!」とか言うんですよ。そうするとディック・チェイニーはさすがに「いや、あれは拷問じゃなくて尋問だから……」って言うんですよ。「拷問って言っちゃダメだよ」って言うんですよ。そうすると、サシャ・バロン・コーエンはイスラエル人のふりをしてね、「ああ、そうデスね。『ディックと拷問』でググッたらとんでもない写真がいっぱい出て来ました!」って言うんですよ。

(山里亮太)フフフ(笑)。

(町山智浩)「釘で売ったり、紐で縛ったり、すごかったデス!」って言うんですよ。「ディック」っていうのは「ちんちん」のことですからね。「ちんちん 拷問」で引くとそういうものが出てくるわけですよね。そういうことを言って、最後に「ディックさん! アナタのファンなので水責め用のポリタンクを持ってきました。そこに水責めの元祖としてサインしてください!」って言うんですよ。それでディック・チェイニーも「いやー、私も拷問用のポリタンクにサインするなんてはじめてだな!」なんて言いながらサインして。で、それをもらってきて、それはいまeBayで売っていますね。eBayに出しています。「ディック・チェイニーの水責め拷問用ポリタンク」って出しているんですよ。

ディック・チェイニーサイン入り 水責め拷問用ポリタンク

(赤江珠緒)ええーっ! えっ、チェイニーさんとかそんな感じで乗っちゃうんですか?

(町山智浩)だからいかに「イスラエルの人」って言うと共和党がホイホイ出てくるか?っていうことなんですよ。どれだけつながっているんだよ?ってことですよ。

(赤江珠緒)ほー!

(町山智浩)そういうことをやっていてね。で、あと逆にリベラルな、非常に左翼の運動家、エコロジストのふりもするんですよ。彼は。で、「とにかくアメリカが2つに分断されていてよくないっていうのと、トランプ大統領を支持した白人の地方のあんまり産業がない貧しい地域の人たちを救わなければいけないんだ!」ってその人は言うんですよ。「その人は」っていうのか、サシャ・バロン・コーエンがそういうふりをするんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、「アリゾナの白人の老人ばっかりであまり産業がない街に行って、ここがものすごい観光地として大儲けできる、産業が盛り上がるアイデアを持ってきました」って言って、市役所でのタウンミーティングっていう市民会議にそのアイデアを提出するんですよ。で、みんなが集まってきて「うちには仕事がないし、結構大変だからそのアイデアを聞かせてほしい」って集まったところでパーン!って出すのが、「世界最大のイスラム寺院」っていうアイデアなんですよ。

(赤江珠緒)えっ? ええっ……?

(町山智浩)もうね、「中東を超える巨大なイスラム寺院を作れば、それはもう観光名所として世界中からイスラム教徒がやってきますよ!」って言うんですよ。「そしたら町おこし大成功ですよ!」って言うんですよ。そしたらその街の人たちは「俺たちはちょっと黒人が住んでいるだけでもムカムカしながら我慢しているのに、イスラム教徒なんてふざけんじゃねえ!」ってもう大喧嘩になるんですけど(笑)。

(山里亮太)それを全部放送しちゃうっていうのがすごい……。

(赤江珠緒)本音はたしかにすごく引き出していますけど……ええっ?

(町山智浩)すさまじい番組ですよ、これね。本当に。すごいんですよ。で、いますごく問題になっているのは、これによって1人の政治家がかなりヤバい立場に追い込まれてしまっているんですね。これはジョージア州にいるジェイソン・スペンサーという政治家がいまして。これが議会に法案としてイスラムの女性が顔にブルカっていう布を巻いているじゃないですか。あれを禁止するっていう法案を出した人なんです。この人は。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)あと、逆に「南部の南軍の将軍とかの銅像を撤去しよう」って言った黒人の議員に「お前な、時代が違っていたらお前は殺されていたぞ!」って言ったりしたような差別的な議員なんですね。

(赤江珠緒)ひどいな、それも。

(町山智浩)それがジェイソン・スペンサーっていう人なんですけど。その人にまたね、イスラエル人の軍人のふりをして近づくんですよ。で、「アナタの政策には賛成デース!」とか言って。「でもアナタのような人たちはイスラム教徒のゲリラとかテロリストに狙われますよ! だからそういう共和党とかの議員さんたちが身を護るための護身術のビデオを撮りましょう!」って言うんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、この人はイスラエルの特殊部隊にいたということになっているから、そういう護身術を知っているということで。で、その特訓を受けるんですよ。「まず、相手の気をそらしたりする必要があります」「逆に相手の注意を引いたりするとかそういうテクニックがあるんで、相手を驚かせる言葉を叫ぶという技もありますよ」って言うんですよ。「それは、『N』で始まる言っちゃいけない言葉を叫べばテロリストがびっくりしますよ!」って言うんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)そしたらその差別的なジェイソン・スペンサーという議員は「N」で始まる言っちゃいけない言葉として「ニガー! ニガー!」って叫ぶんですよ。それは黒人の人に対して絶対に言っちゃいけない言葉なんですよ。そしたら、そのサシャ・バロン・コーエンは「えっ? それじゃないですよ。『N』で始まる言っちゃいけない言葉は『ヌーニー(Noonie)』ですよ!」って言うんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)「ヌーニー」っていうのは「ちんちん」とかのことなんですよ。

(山里亮太)はー、なるほど! 引っかけて。

(町山智浩)そう。だから引っかけて引き出しちゃったんですよ。

(山里亮太)それでもう議員生命が?

(町山智浩)議員生命がヤバくなって。まあ、もともと議員生命がヤバい人だったんですけど、決定的になりました。もうひとつは「イスラム教のテロリストがいちばん恐れるものはなんだか、わかりますか?」「わからない」「それは、ゲイです。イスラム教はゲイを禁じていますから」って言うんですよ。「ゲイのふりをして襲いかかるんです! お尻を出して突っ込んで行ってください!」って言って。

(赤江珠緒)もうそのへんでおかしいって思わないのかな?

(町山智浩)普通、その段階でナメられているっていうかハメられているって思うでしょう? この人はそう思わないんですよ。で、本当にお尻を出して、そのテロリストのシミュレーションをしているサシャ・バロン・コーエンに対して「USA万歳! アメリカ万歳!」って言いながらお尻むき出しで突っ込んで行くんですよ。この人は(笑)。

「アメリカ万歳!」

(赤江珠緒)うわーっ!

(町山智浩)それでビデオを撮っているんですよ。それを放送したんでいろいろと問題になっていて。このやられたジェイソン・スペンサーっていう人は「これは完全にハメられた。騙された! 我々のようなトランプ支持者に対して反トランプの人たちがメディアを使ってこういうだまし討ちをやっているんだ!」っていう風にいま言っていて問題になっているんですよ。

(赤江珠緒)はー! ただ、潜在意識は暴かれているということですもんね。

(町山智浩)そう。「『ニガーって言え』とは言ってない」って、たしかにその通りなんですよ。ただ、そう。自分の中にそういうのがあるからそう言っちゃったっていうところなんですけど……ただ、こういうやり方っていうのはやっぱりちょっと諸刃の剣になることがあって。失言を引き出すっていうやり方なんですけど、失言を引き出すことを「ガッチャ・テクニック」とかいろいろと言うんですね。「ガッチャ」っていうのは「やった!」みたいな感じなんですけども。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、いろんな形で失言を引き出して相手を攻撃するっていうのは右も左もやっていて、いま泥沼の争いになっているんですよ。アメリカでは。

(赤江珠緒)怖いことですね……。

(町山智浩)怖いことですよ。だからその、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズという映画がありますよね。あの監督のジェームズ・ガンがいま、それをやられて。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVol.3』の監督をクビになっちゃったんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)それはね、10年近く前。8年か9年ぐらい前にTwitterでレイプとか、あとはペドフェリア、子供を愛する人たちのこと、そういったことをちょっとジョークにしていたんですよ。すごく悪質なジョークだったんですよ。彼はもともとそういう下品なジョーク映画を作るところ出身だったんで、まだちょっとそのノリが残っていたんですね。そのツイートを掘り起こされて拡散されたんで、ディズニーという映画会社が『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVol.3』の監督から彼を降板させたんですよ。まあ、ディズニーって会社ですからね。

宇多丸と光岡三ツ子 ディズニーのジェームズ・ガン監督解雇を語る
宇多丸さんとアメコミライターの光岡三ツ子さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でジェームズ・ガン監督が過去のツイートを問題視され、ディズニーから『ガーディアンズ・オブ・...

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)ただ、そのツイートを掘り起こした男というのはマイク・セルノビッチという、こういうことをずっとやっている人なんですよ。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の監督だけじゃなくて、トランプを批判しているいろんなジャーナリストの過去の失言を引きずり出してはそれをバラまいて「こいつをクビにしろ!」っていうキャンペーンをいわゆるトランプ支持者の間で拡散させるっていうのをずっと繰り返している人なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)特に大統領選挙の時は「ヒラリーさんが病気である」とか「ヒラリーさんの選対の人がピザ屋で子供をさらって売春組織に売っている」とかそういうデタラメなニュースを流していた男がこのマイク・セルノビッチという人なんですけど。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)そう。でも、そういうことをやっていても、ディズニーとしてはその彼らの企みはわかっていても、やぱりクビにせざるを得ないみたいな。会社としての責任があるから。

(赤江珠緒)そうなんですね。

(町山智浩)そう。だからね、いま非常に恐ろしいことになっているんですよ。だからこのサシャ・バロン・コーエンのやっていることは笑っちゃうんだけども、でもそれを返されたらどうなるかとか、もう恐ろしい泥沼の世界に入るような気がしてちょっとゾッとするんですよ。

(赤江珠緒)騙し合い、暴き合いですもんね。

(町山智浩)騙し合い、はめ合い、暴き合いになってきているというところで、ちょっと怖い感じがしますね。

(赤江珠緒)アメリカも荒んでますね。やっぱりトランプさん以降、分断しているとは言われていますけども。

(町山智浩)そう。本当に、まさにこの『Who Is America?』な感じになっているなと思いますね。という感じで、日本では放送されるのかな? とは思いますけども。

(山里亮太)見れたら、ねえ。

(赤江珠緒)ねえ。でもいろいろと考えさせられるところはありますね。人間の……支持してくれる人にはついついどこまでも本音を言ってしまうところとかね。

(山里亮太)こういう戦いがあるっていうね。

(赤江珠緒)今日はサシャ・バロン・コーエンのテレビ番組『Who Is America?』を紹介していただきました。町山さん、来週はスペシャルウィークということで。トム・クルーズの大人気スパイアクション『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』。よろしくお願いします。

(町山智浩)はい。もうトム・クルーズのおっかけですから。

(赤江珠緒)じゃあ町山さん、来週もよろしくお願いします!

(町山智浩)よろしくお願いします!

<書き起こしおわり>

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