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町山智浩 『クリード 炎の宿敵』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で『ロッキー』シリーズ最新作『クリード 炎の宿敵』を紹介していました。

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Fight for your destiny one round at a time. #Creed2

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(町山智浩)今日はシルベスター・スタローンの『ロッキー』シリーズ第8作目『クリード 炎の宿敵』についてお話します。では、音楽をどうぞ!

(赤江珠緒)うわーっ!

(町山智浩)はい。ということで、今日はメイナード・ファーガソンバージョンの『ロッキー』のテーマをお聞きいただきましたが。今回、『クリード 炎の宿敵』。もう8作目ですよ。で、これはこの間、世界的に大ヒットした前作『クリード チャンプを継ぐ男』の続編という形なんです。

(赤江珠緒)うんうん。

町山智浩 映画『クリード チャンプを継ぐ男』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、『ロッキー』シリーズの最新作、『クリード チャンプを継ぐ男』について話していました。 (赤江珠緒)お待たせしました。町...

(町山智浩)前作の『クリード』というのはボクサーを引退したシルベスター・スタローン、ロッキーがライバルで親友だった、というか恋人だった世界チャンピオンのアポロ・クリードの婚外子のアドニスという青年を……。

(山里亮太)「恋人だった」……。

(町山智浩)彼をプロボクサーに育て上げるまでの物語だったんですね。で、その『クリード』というのはアイデアを出して脚本を書いて監督をしたライアン・クーグラーっていう人はその後にマーベルコミックスの『ブラックパンサー』を映画化しまして、大変な大ヒットを飛ばしたんですけども。

町山智浩 映画『ブラックパンサー』を語る
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(赤江珠緒)うん!

(町山智浩)で、今回、ライアン・クーグラー監督は『ブラックパンサー』があったんで、『クリード』の方は監督をしていないんですね。ただ、アドニス役でスターになったマイケル・B・ジョーダンは『ブラックパンサー』でキルモンガーを演じまして。ものすごい筋肉で。

(赤江珠緒)ものすごい。本当に。

(町山智浩)すごいんですよ。それはこの『クリード』のためだったんですよね。ヘビー級ボクサーの体をしていたんですね。で、この『クリード』の続編が公開されてアメリカでいま、大ヒットしています。先週の感謝祭の間に公開されまして、空前のヒットなんですね。で、今回、日本語タイトルは『クリード 炎の宿敵』ってなっていますけども、原題は『クリードII』なんですね。で、この『クリードII』でアドニスはチャンピオンになりますよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、前作から出ていた恋人のテッサ・トンプソンにプロポーズして受け入れてもらって結婚して。しかも、2人の間に娘もできて。で、アポロの奥さんで彼の育ての母親とも仲良く3人で暮らして。もう頂点ですよ。チャンピオンでお金もあって、お母さんもいれば奥さんも娘もいて。超なにもかもある状態になりますよ、クリードは。

(赤江珠緒)おおう!

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RG @michaelbjordan | Since #Creed2 is only 4 days away I figured I'd give you guys some more BTS. "Bianca" aka @tessamaethompson aka Baby 🐐holding the new addition to the family "Amara" aka Mar-Mar aka RaRa aka Donnie's baby girl. Wasn't my first time portraying a dad on screen (RIP Oscar Grant) but surely my first time molding my character as one. Tessa was such a natural mom, which just speaks to who she truly is such an amazing, intelligent, artistic, "Hactor" (hand-actor 😂 (inside joke)) and overall talent. She demands your attention everytime she graces the screen in @creedmovie truly a blessing to work with such a gifted soul. Can't wait for you guys to see her performance in Creed II

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(町山智浩)ところが、そのアドニス・クリードにロシアからヴィクトル・ドラゴというボクサーが挑戦をするんです。そのドラゴの父のイヴァン・ドラゴというのは、33年前にアドニス・クリードの父、アポロをリング上で殴り殺したソ連のボクサーなんですよ。

(赤江珠緒)ああーっ! はいはい!

(町山智浩)だからロッキーの育てた息子であるクリードと、クリードの父を殺したドラゴの息子との超遺恨試合が今回、始まるんですね。

(赤江珠緒)また因縁の対決が!

超遺恨試合

(町山智浩)超因縁の対決なので『炎の宿敵』というタイトルになっているんですね。でね、このもともとの遺恨の始まりになった『ロッキー4 炎の友情』という1985年の映画があるんですけども。ちょっとその主題歌をお願いします。

(町山智浩)はい。これはサバイバーという一発屋さんの『Eye Of The Tiger』という主題歌なんですけども。この『ロッキー4』は『ロッキー』シリーズでは最大のヒットになったんですよね。

(赤江珠緒)これ、85年ですか。もう! そんな前なんですね。

(町山智浩)33年前なんです(笑)。僕、もうこの頃は働いていましたね。編集者として。まあ、あんまり自分は成長していないなと思いますけども(笑)。でね、これはだってどのぐらい昔か?っていうと、まだロシアがソ連だった頃ですよ。

(赤江珠緒)ソ連だった! そうかー!

(町山智浩)はい。で、その頃にソ連はオリンピックとかでスポーツを売りにしていたんですね。まあ、いまもですけども。で、その彼らが作り出した最高のボクサーがドラゴだったんですよ。で、「作り出した」ってどうやって作り出したんだ?っていうと、まあはっきり言ってドーピングですよ。で、この『ロッキー4』の中でも「ドーピングしてんじゃないの?」って言われて「してない、してない!」って言っているんですけども。最近のね、『イカロス』というドキュメンタリーでロシアが思いっきりドーピングしていたことが明確になったりしていましたが(笑)。

(赤江珠緒)思いっきり。いまとなっては、もうね。

(町山智浩)だからまさにサイボーグのように作り上げられたボクサーがそのドラゴだったんですね。で、そのドラゴがアメリカのボクサーに挑戦するということになって。ただ、WBCに入っていないからエキシビジョンマッチという形になるんですけども。それでラスベガスでドラゴがロッキーに挑戦するんですが、その挑戦を受けたのはロッキーではなくて、もうすでにチャンピオンを引退していたアポロだったんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、アポロは「俺はまだまだやれるぜ!」っていうエゴでその試合に出ちゃうんですけど、その時にアポロはプライドが高いからロッキーに「セコンドにはついてもらうけど、絶対にタオルは投げるな!」っていう風に言うんですね。で、試合が始まったらもうドラゴはめちゃめちゃに体格もデカいし、容赦なくアポロを殴り殺そうとするんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)ドラゴの決まり文句は「お前を壊してやる」なんですよ。それでまあ、ロッキーは当然タオルを投げようとするんですけど、アポロに「投げるな」って言われていたから投げそこなっちゃうんですよ。それで、アポロはリングの上で殴り殺されてしまうんですよ。だからロッキーはすごく、「アポロを殺したのは自分なんだ」っていう気持ちをずっと持っているんですよね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だから、アドニスを育てたりもするんですけども。でね、リングの上でアポロが死んだ時、ドラゴは一言こう言うんですよ。「まあ、死ぬやつは死ぬよな」って。

(赤江珠緒)典型的にヒールですね。

(町山智浩)そう。完全に冷血な人間っていう形で描かれているんですけども。で、モスクワでロッキーがドラゴに復讐戦を挑むんですね。で、シベリアでロッキーが特訓をするシーンがすごいんですけどね。犬ぞりを犬のかわりに引っ張ったりして。

(赤江珠緒)ああーっ! なんかそのシーン、覚えてます!

(町山智浩)「ボクシング、関係ねえだろ!」って思いましたけども(笑)。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)で、もう完全にアウェイのモスクワでみんながドラゴコールをしている中、ロッキーがドラゴと戦うんですが。ところがドラゴは体格もデカくて、めちゃくちゃ強くて。それでもロッキーが全然倒れないんで、だんだんとソ連の観客もロッキーを応援し始めるんですよ。で、後半はもう全員が「ロッキー! ロッキー!」ってロッキーコールをしているから、ドラゴは精神的にも負けちゃって、ロッキーに敗れてしまうんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、それが『ロッキー4』っていう話なんですけども。まあ、ソ連の人たちにスタローンが説教したりするんですよ。ペレストロイカの時代ですから。「私は負け犬だけども、こんなに変わりました。ソ連のみなさんも変わってください!」って。どれだけ上から目線なんだよ!っていう(笑)。

(赤江・山里)フハハハハハハッ!

(町山智浩)その時ね、スタローン的には本当にアメリカの英雄みたいな感じで。そのレーガン政権ともすごく、はっきり言って結びついていたし。もうその頃のレーガン政権のすごい愛国的な……はっきり言うと右翼的な国の雰囲気とすごくぴったり合った感じだったんですね。当時の『ロッキー4』は。

(赤江珠緒)そうですか。

(町山智浩)だから星条旗を体に巻いたりね。本当に国の英雄になっちゃうんですけども。この映画の内側と外側でね。

(赤江珠緒)なるほどね。アメリカ人からしても「ソ連に言うたった!」みたいなところがあるんですね(笑)。

(町山智浩)そうなんですよ。で、その後に実際にソ連が滅びるんですからね。で、その後、どうなったのか?っていうことで、ドラゴがロッキーのやっているイタリアンレストランに来るんですね。「俺はお前に負けてあの後、なにもかも失った。人々は俺のことを『国辱だ』と言い、ロシアにも住めなくなった。ソ連という国自体も滅んだ。金もなくなった。カミさんも家を出ていった」って言うんですよ。で、このカミさんっていうのはブリジット・ニールセンという女優さんで、この『ロッキー4』が縁でシルベスター・スタローンを略奪しましたね。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)スタローンには売れない頃からずっと一緒にいてくれたサッシャさんっていう奥さんがいたんですけど、この『ロッキー4』出演中にブリジット・ニールセンとできちゃって、離婚をして……っていうことがありましたけども。そのブリジット・ニールセンはドラゴの奥さん役だったんですね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、「カミさんも出ていった。俺に残されたものは息子・ヴィクトルだけだ。そのヴィクトルがお前らを潰してやる!」と。

(赤江珠緒)うわーっ!

(町山智浩)っていう風に言うんですよ。で、ところがアドニス・クリードの方はやっぱり父の仇だから、戦わざるを得ないだろうということで「僕はやります」って言うんですけど、ロッキーはそれを止めるんですよ。「お前、絶対にやるな」と。

(赤江珠緒)なんで?

(町山智浩)「俺は前、アポロを止めなくて本当に後悔している」と。ちょっとここでそこの場面のセリフを聞いてもらえませんか?

(ロッキーとアドニスの会話が流れる)

(町山智浩)はい。すごいですね。いま、スタローンはなんて言ったのか?っていうと、(モノマネで)「ドラゴの親子はもう何も失うものはないんだ……」って。

(山里亮太)あっ、ちょっと憑依してる!

(町山智浩)(モノマネで)「お前は守るものだらけだ。失うものがないやつに勝てるわけがないだろ!」って言うんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)っていう話が今回の『炎の宿敵』なんですけども、さあ、どうなる?っていうね。

(赤江珠緒)そうか! クリードの方が守るものがいっぱいできちゃっているのか。

(町山智浩)そうなんですよ。

(山里亮太)幸せな生活だもん。いま。

(町山智浩)そう。でもね、この話は今回、スタローンがシナリオを書いているんですよ。でね、すごいんですけども、ドルフ・ラングレンの人生がすっごく反映された話になっているんですよ。

(赤江珠緒)ん?

ドルフ・ラングレンの人生を反映した作品

(町山智浩)ドルフ・ラングレンはこの『ロッキー4』で大スターになるんですけども……これが彼の人生を一種、破壊してしまって、彼はなにもかもを失ってしまうんですよ。

(山里亮太)えっ?

(町山智浩)ドルフ・ラングレンっていう人は非常に不思議な経歴の人で。この人に僕は会ったことがあるんですけど。話もね、日本語がちょこちょこっと通じたりする人なんですよ。っていうのは、極真空手のチャンピオンだった人なんですね。で、空手関係でしょっちゅう日本に来ている人なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)この人はもともとスウェーデンの出身なんですけども。お父さんが軍人だったんですね。で、「お前は強くなれ! 強くなるんだ!」って言って、もう子供を鉄拳で制裁しながら育てたらしいんですよ。だからこの映画の中で今回、ドルフ・ラングレン扮するドラゴは自分の復讐のために息子のヴィクトルを徹底的にスパルタで教育するんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ボクシングマシーンにしちゃうんですよ。で、「俺が負けたせいでお母さんは逃げていったんだ。だから俺たちは母さんを取り戻すためにも、絶対に勝たなきゃいけないんだ!」って言いながら、このヴィクトルを徹底的に貧しい生活の中で、ボクシングマシーンに育て上げていくんですよ。

(赤江珠緒)はー!


町山智浩 頭脳警察・PANTAを語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に出演。宇多丸さんと頭脳警察とPANTAさんについて話していました。

(仮)BRAIN POLICE RELAY POINT 2018

(頭脳警察『世界革命戦争宣言』が流れる)

(町山智浩)これ、かかったのって大変なことですよ!

(宇多丸)ということでいま、お聞きいただいているのは頭脳警察の『世界革命戦争宣言』。

(町山智浩)はい。これは歴史をたどりますと、いわゆる旧左翼と呼ばれる日本共産党、日本社会党が革命を目指すのをやめて、1950年代に選挙で議席を取ることで政権を握るという路線に変更したことに反発した人たちが「武装革命路線を継続する」と。で、彼らのことを新左翼もしくは極左と呼んだんですが。その中から出てきた赤軍派の委員がですね、1969年に宣言した「世界革命戦争宣言」を朗読しているんです。

(宇多丸)うんうん。

(町山智浩)これを朗読しているのは頭脳警察というバンドのボーカルでギターのPANTAさんなんですね。1971年のライブからでした。大変なものをかけてしまいました!

(宇多丸)町山さん選曲ですけどね(笑)。でもまあ、今日はぜひぜひその頭脳警察の世界、教えていただきたいと思います。

(町山智浩)はい。いいのかな? はい(笑)。

(宇多丸)フフフ、いろんなことを考えながら、行ってみましょう。今夜の特集は、こちら! 町山智浩プレゼンツもうすぐ結成50周年記念 頭脳警察歌謡祭2018! いや、僕もドキドキしました(笑)。

(町山智浩)ずげードキドキしています、いま。

(宇多丸)でも、歴史的1曲として、歴史的な話でもありますから。というわけで改めて……。

(熊崎風斗)改めまして、今夜のゲストをご紹介させていただきます。TBSラジオ『たまむすび』でもおなじみです。アメリカ在住の映画評論家、町山智浩さんです。よろしくお願いします。

(宇多丸)お願いします!

(町山智浩)はい、めちゃくちゃ緊張しています。

(宇多丸)町山さんがいつになくものすごい固くなっているという。町山さんは10月15日(月)以来の登場です。その時にはスターリンのお話をしていただきました。

(町山智浩)はい。遠藤ミチロウさん、あの後に膵臓がんであることを告白されまして。公表されて闘病中です。みなさん、応援してください。

(宇多丸)で、その時の解説も本当に素晴らしかったんですけども、今回は頭脳警察特集ということで。なぜ、頭脳警察を今回やろうと思われたんですか?

(町山智浩)頭脳警察は来年で結成50周年なんですよ。

(宇多丸)うわーっ、ひっくり返っちゃいますねー!

(町山智浩)50周年ですよ!

(宇多丸)ライムスターは来年で30周年なんですよ。これ、かなりすごいことだと思っているんですよ。ラップグループとしてはちょっと世界的にも異例だと思うけど……なんだけど、いやー、まだひよっこでした!

(町山智浩)はい(笑)。

(宇多丸)全然ひよっこでしたー!

(町山智浩)世界的にも50周年で現役のバンドって本当に数えるほどじゃないのかな?って思いますよ。しかも、オリジナルメンバー。それでいまもものすごく精力的にライブを続けているという。

(宇多丸)ガンガン活動もしていて。なおかつ、頭脳警察。先ほどもお聞きいただいたような曲も含む、そういう攻撃的な、アグレッシブなスタンスでやっているという。

(町山智浩)っていうか頭脳警察、日本一の問題バンドですよ。

(宇多丸)それが50年の長寿バンドにもなっている。

(町山智浩)誰もそんなことは予想しなかったでしょうね。当時は。

(宇多丸)という、ちょっと勇気の出る話でもあって。なのでぜひ今日は町山さんに頭脳警察についていろいろと教わりたいんですけども。町山さんはまず頭脳警察をいつ知ったんですか?

(町山智浩)僕自身が知ったのは1975年です。レコード屋さんに行くと、その頃は僕は中学生でお金がなかったんで。中古レコード屋さんに行ったんですね。新宿とか神保町の。そこに行くと、カウンターの内側に飾ってあったのが頭脳警察のファーストアルバムなんですよ。で、頭脳警察のファーストアルバムというのは3億円現金強奪事件の犯人とされるモンタージュ写真がジャケットになっているんですよ。

(宇多丸)有名なジャケですよ!

頭脳警察1(紙ジャケット仕様)
Posted at 2018.12.3
頭脳警察
SPACE SHOWER MUSIC

(町山智浩)有名なジャケなんです。これがLPレコードで中古レコード屋さんの内側に飾ってあったんですよ。で、75年から76年にかけてレコード屋さんに行くと、そこに値段が入っているんですけども、それが20万円とか30万円とか。

(宇多丸)ああーっ! その時点でそんなに、もうプレミアがついちゃっていた?

(町山智浩)そうなんですよ。で、僕ははじめて、とんでもないレコードがあるな!って思って。

(宇多丸)たしかに。そんなだったら聞いてみたいって(笑)。

(町山智浩)そう。すげーのがあるな!って。それが頭脳警察。だから僕、聞いてはいないんですよ。

(宇多丸)すでにその時点で伝説化されていたっていうことですね。

(町山智浩)そうなんです。だからちょっとこれから、頭脳警察の最初の頃の歴史について説明をしますと、1950年にリードボーカルでギターのPANTAさんとボンゴ、パーカッション担当のTOSHIさんが生まれて。だから今年で68歳ですね。で、1969年に頭脳警察を結成するんですが、その前にPANTAさんはホリプロのオーディションを受けてグループサウンズっていうかアイドル系で出てくるはずだったんだけど、やめちゃったんですね。PANTAさんってすごくハンサムなんですよ。ところがやめて、TOSHIさんと一緒に頭脳警察というバンドを結成します。

(宇多丸)はい。

(町山智浩)頭脳警察というバンド名はフランク・ザッパというロックミュージシャンの『Freak Out!』っていうアルバムに入っている『Who Are The Brain Police?』という曲。「頭脳警察っていったい誰なんだ?」っていう曲がありまして、そこから取ったものです。

(宇多丸)ああ、それの日本語完全直訳というか。めちゃめちゃ頭脳警察ってかっこいい名前だな!って。

(町山智浩)かっこいい名前なんですよ。すっげーバンド名自体がかっこいいんですけど。で、そういうバンド名はポリスよりも早いよね。

(宇多丸)たしかに、たしかに。ちょっと皮肉な。

(町山智浩)で、その1969年ごろっていうのはすごい70年安保というのがありまして。で、1970年に日米安保条約が自動更新されるんで、それを阻止しようとすることで、もう日本中がすごいデモの嵐だったんですよ。いま、時代状況を説明していますけども。というのはその時、ベトナム戦争がちょうど起こっていたので、日本はそのベトナム戦争に米軍に対する協力という形でベトナム戦争に加担する感じになっていたんですよ。だからベトナム反戦運動で70年の安保条約の自動更新に対する反対運動がすごく高まっている時で。もう僕はまだこの頃は小学生だったんですけども。そこらじゅうでデモ、破壊……もう東京はめちゃくちゃな状態でした。

(宇多丸)69年だと東大の試験がない年ですよね?

(町山智浩)そうです。安田講堂事件とかがあった後ですけども。で、さっきかけた『世界革命戦争宣言』っていうのはその69年9月に行われるんですね。で、そこから赤軍派と呼ばれる人たちが武力闘争をするため、銃を手に入れるために交番を襲撃したり、銃砲店を襲撃したり、山にこもって銃の訓練をしたり、大変な事態になっていく。ゲリラ戦に転じるんです。ちなみに漫画『ワイルド7』のコンクリート・ゲリラはこれを背景にしています。

ワイルド7 1970-71 コンクリート・ゲリラ [生原稿ver.]
Posted at 2018.12.3
望月 三起也
復刊ドットコム

(宇多丸)ふんふん。

(町山智浩)で、10月21日に国際反戦デーっていうので2年連続で新宿がめちゃめちゃに破壊されるっていう状況があって、そのあたりで頭脳警察が出てくるんですよ。実際はね。で、1970年にはその赤軍派の一派がよど号という航空機をハイジャックして北朝鮮に行くという事件があって。それの1ヶ月後に頭脳警察はステージデビューをします。で、そのデビューの後、レコードもまだ出していない状態で5月に日劇ウエスタンカーニバルという、まあいろんなグループサウンズが出てくるショーがあったんですね。まあアイドル系なんですよ。それはナベプロさん、渡辺プロがやっていて。そのステージ上で頭脳警察のPANTAさんはペニスを出してマスターベーションをしてしまったと。

(宇多丸)そんなものすごい芸能ど真ん中な場所で、当時のロックマンの流儀というか。

(町山智浩)はい。それこそだからショーケンとかスパイダースとかタイガースの沢田研二さんとかがバーッといる中で、まあおちんちんを出して。で、週刊誌に出て「頭脳警察っていったいなんなんだ?」っていうことになるわけですよ。それでね。

(宇多丸)でもまずよくそこにブッキングされていましたね?

(町山智浩)なんらかの間違いだと思いますよ。で、やらかす。いきなり最初、それですよ。頭脳警察っていう名前が世間に知れ渡ったのは。で、1971年5月に日比谷の野音でライブをやるんですけど、それがさっき聞いていただいた『世界革命戦争宣言』なんですよ。あれも曲っていうよりはただ朗読しているだけですけども。赤軍派の『世界革命戦争宣言』をね。で、とんでもないバンドですよ。で、その後8月に三里塚で成田空港の建設に対して反対する人たちを支援する幻野祭というフリーコンサートがあって。そこでまた『銃をとれ』という歌を演奏するんです。『銃をとれ』、お願いします。

頭脳警察『銃をとれ』

(町山智浩)はい。『銃をとれ』なんですけども。

(宇多丸)すごい。かっこいいサイケロック。

(町山智浩)ものすごいサイケデリックでかっこいいんですけど、この歌の歌詞がとんでもないのは、さっき言ったみたいに新左翼というか極左の人たちの中のもっとも先鋭的なグループが「実際に銃をとって武装革命を起こせ!」って言っている最中にこの歌を歌っているわけですよ。

(宇多丸)要は、いまこれを聞くと「これは比喩表現なのかな?」って思うけど、それが比喩的に響かない時代っていうか。

(町山智浩)「本当に銃をとって撃て!」っていう時代にこの歌を歌っていて。これ、だから詩的な表現として言っているようには当時は響かなかったわけですよ。本当のことを言っているという。大変な時代なんですよ。想像できます?

(熊崎風斗)いや、想像できないですね。まさにこの歌詞の通りのことが行われていたという。まさにそういう時代ですよね。

(町山智浩)そう。まさにその後、実際に銃でハイジャック事件があって。1972年にはあさま山荘事件っていうのがありまして。で、赤軍の銃撃によって死者3名、負傷者27名っていう大変な銃撃戦でゲリラ戦状態になるんですよ。そこにこの歌を歌っているんですよ。『銃をとれ』って。大変な歌なわけですよ、もう。許されない世界ですよね、これね。

(宇多丸)うんうんうん。

(町山智浩)で、あさま山荘事件のわずか1ヶ月後にこの頭脳警察のファーストアルバムが出る予定だったんですが、発売中止ですよ。

(宇多丸)やっぱりそういう赤軍派に心情を寄せたような歌を歌っていて。実際にだってもうね、日本中がテレビに釘付けみたいな。

(熊崎風斗)そんな大問題になっている時に。

(町山智浩)それでこの歌だから、そりゃあないだろうと。で、このファーストに入っている曲は全部ヤバいんですけども。とりあえず1曲、『戦争しか知らない子供たち』をお願いします。

頭脳警察『戦争しか知らない子供たち』

(町山智浩)はい。すごいですね! フルコーラスかかりましたね!(笑)。

(宇多丸)ねえ。町山さんが本当にうれしそうにね(笑)。でも当然これは替え歌なわけですよね?

(町山智浩)替え歌なんです。これ、元の歌は知っています?

(熊崎風斗)『戦争を知らない子供たち』ですよね?

(町山智浩)はいはい。ジローズが歌っていた歌で反戦ソングなんですよ。で、その頃に反戦歌っていうのが非常に流行っていまして。まあベトナム戦争がありましたので、新宿の西口のところの広場がそういう反戦歌をうたう広場になっていたんですね。で、フォークゲリラと言われる人たちが戦争に反対して愛を歌う歌を歌って集まっていたんですよ。で、それが1969年に警察が入って解散させられたりしているですけど。PANTAさんや頭脳警察は「愛と平和とかふざけんじゃねえよ!」っていう人なんですよ。この人たちは。

(宇多丸)うんうん。

(町山智浩)だからもういきなり「パイプ爆弾 ダイナマイト」って、本当にパイプ爆弾がそこらじゅう、東京中で爆発しているような世情の中でこれを歌っちゃうという。で、「戦争を知らないなんて、そんなわけねえだろ? その後も朝鮮戦争やベトナム戦争が続いているじゃねえか! 俺たちも戦っているんだ!」っていう歌を歌ってしまうという。そりゃあこのファーストアルバム、ダメだろう。発売中止だろうっていう。

(宇多丸)たしかにね、「戦争を知らない」って言っているけど、戦争は起こってるだろ!っていうその欺瞞はありますよね。

(町山智浩)そうなんですよ。

(宇多丸)知らないふりをしてるだけじゃねえか!っていうね。

(町山智浩)で、またね、この歌は過激な歌詞だけじゃなくて、歌詞の中にインカの初代皇帝の名前が入っていたりするんですよ。

(宇多丸)ああ、あれですね。「○○○・カパック」ですね。

(町山智浩)カパックさんの名前が入っていたりするんで。ありとあらゆる意味で全くダメなものだったんですけども。

(宇多丸)これはぜひみなさんね、ググッてみよう!

(町山智浩)ググッてみよう! で、ファーストがダメになったから、2でそのダメじゃないバージョンを出そうっていうことで、スタジオ録音で……だからファーストは全部ライブなんですけども。スタジオ録音でセカンド・アルバムを録音するんですが、それがすぐに録音されて、5月に発売されるんですけど、発売後1ヶ月で発売中止(笑)。回収。

頭脳警察2(紙ジャケット仕様)
Posted at 2018.12.3
頭脳警察
ビクターエンタテインメント

(宇多丸)出てから回収?

(熊崎風斗)5月に発売して、ダメに。

(町山智浩)ダメ。それはやっぱり歌詞がダメで。「マリファナだけが俺のなぐさめ」とか入っているんで、これはダメだろうっていう(笑)。

(宇多丸)フフフ、それ、出す前に気づくだろう?っていう(笑)。

(町山智浩)出す前にダメだろうっていうね(笑)。それで、もう本当に大丈夫なやつだけを出そうということで、サード・アルバムが10月に発売されるんですけど、そのやっと聞けたサード・アルバムの1曲目が『ふざけるんじゃねえよ』。お願いします。

頭脳警察『ふざけるんじゃねえよ』

(町山智浩)はい。これが『ふざけるんじゃねえよ』。

(宇多丸)『頭脳警察1』『頭脳警察2』で結局出せなかったという流れで考えて1曲目って思うと、この鬱憤がたまっている感じと……。

(町山智浩)そうそう。だから『イムジン河』を出せなかったフォーク・クルセダーズが『悲しくてやりきれない』を出したんだけど。あの人たちはレコードが出せなかったから、『悲しくてやりきれない』っていうことなんだけども、頭脳警察の場合はレコードが出せなかったから、『ふざけるんじゃねえよ』ってなるっていう!(笑)。

頭脳警察3
Posted at 2018.12.4
頭脳警察
ビクターエンタテインメント

(宇多丸)さっきからもう少年町山さんがキャッキャキャッキャと。でも、わかります。すごい痛快だし、その文脈は別にしてもすごく痛快だし、譜割りの感じとかもめちゃめちゃ、逆に現代的だなと思って。かっこいいと思ったりしました。

(町山智浩)あのね、これね、宇川直宏くんがやっているDOMMUNEっていうのでこの間、日本のパンクの名曲をものすごい長くDJでかけまくるっていうのをやったんですよ。ついこの間なんですけども。で、その中でこの『ふざけるんじゃねえよ』をかけたんですよ。そしたら、どんな日本のパンクよりもパンクだった。

(宇多丸)うんうん。

(町山智浩)で、この頃はまだ「パンク」っていう言葉は存在しないんですよ。パンクっていう言葉が出てくるのはもっと70年代後半以降なんですね。世界に。

(宇多丸)だし、輸入で入ってくるものだから。

(町山智浩)そうなんですよ。だからパンクができるよりもはるか前にパンクを作っちゃっていたのが頭脳警察。なんで、よく「パンクの元祖」と言われることが非常に多いですね。で、この『ふざけるんじゃねえよ』の歌詞もいままでずっとレコードが出なかったくせにね、歌詞が「まわりを気にして生きるよりゃ ひとりで勝手きままにグラスでも決めてる方がいいのさ」っていう……「グラスって何のグラスだろう? ワインとか飲むやつかな?」とかいろいろと思う人もいると思うんですけども。

(宇多丸)ああ、この歌詞上の「………」は(笑)。

(町山智浩)そういう非常にすさまじいことをやっていたのが頭脳警察なんですが。ただ、僕自身は実はリアルタイムでは知らないんですよ。僕にとってのPANTAさんって、ソロになってから。1970年代後半にソロになって。で、80年代に爆発的に人気が出てくるんですね。で、そのきっかけはいろいろとあるんですけども、宇多丸さんは知っていると思いますけど、やっぱり『狂い咲きサンダーロード』なんだよね。

(宇多丸)ああ、なるほど。そうか。きっかけは石井聰互監督の。

(町山智浩)石井聰互監督の『狂い咲きサンダーロード』が1980年に公開されて。そこでPANTA&HALのね、『ルイーズ』と『つれなのふりや』がすごく印象的なシーンでかかるんですよ。『つれなのふりや』なんて主人公がボロボロに体をリンチされて、病院から出てくるところでかかるんで、すごく印象深いんですよ。で、すごいっていうのがあって。で、PANTA&HALっていうソロのバンドをやっている時はもうまったく、いま聞いていたようなパンクとは違う世界だったんですけども。非常に音楽的に幅が広い、それこそニューウェーブロックからサンバなんかもやるし。『マラッカ』っていう曲はサンバなんですね。

(宇多丸)ふんふん。

(町山智浩)あと、歌詞がすごくて。まず『16人格』っていうレコードを出すんですけど、それは実際に16人格だった人、シビルっていう人がいて。その人と同じように、その16人の人格にPANTAさんが分かれて16曲を吹き込むというコンセプトアルバムだったり。あとは『クリスタルナハト』っていうアルバムをPANTAさんはソロで出すんですけど、それは有名なナチによるユダヤ人弾圧、ホロコースト自体をテーマにした壮大なジャーナリスティックな叙事詩のようなアルバムで。しかもその歌詞がものすごく、その当時のホロコーストについてのいろいろな歴史的事象を歌詞の中に入れ込んでいるんで、歌詞を全部理解するためには1冊、本が必要なんですよ。

(宇多丸)ふんふん。

(町山智浩)で、その本がPANTAファンクラブで出たりしていたぐらいの世界で。だからT・S・エリオットっていう詩人がいて、その人の詩を理解するためにはその背景にあるギリシャ神話とか聖書だとか歴史全部を知らないと意味がわからないっていうぐらいの高度な歌詞の歌をいっぱい作っていたんですね。PANTA&HALでは。で、その一方でアイドルに曲を提供したりもしていて。岩崎良美さんとか荻野目洋子ちゃんとかね。あとは大ヒット曲では石川セリさんの『ムーンライト・サーファー』。あれはもう普通にベストセラーになって。

(宇多丸)面白いな、そのスタンスが。これだけ過激な、すごくザ・60年代末から70年代っていう空気の中で濃厚に先鋭化したところで来たPANTAさんとか頭脳警察が、80年代以降になって人気を博しだすっていうのは面白いですね。その構図が。

(町山智浩)すごいポップな、さっきの『つれなのふりや』なんかレゲエだしね。だからそういう、非常に幅広い音楽性を……。

(宇多丸)なんかその時代性を突き抜けた、抜けのよさがありますよね。さっきの『ふざけるんじゃねえよ』も、なんかそういう党派性とか時代性を突き抜けた、いつの時代の若者が聞いても溜飲を下げる。

(町山智浩)そうそう。時代がまったくないですよ。もう永遠にムカムカしている時は聞くといいと思うんですけども。で、僕自身がPANTAさんのライブを初めて見たのは、1981年大晦日から82年の元旦にかけてのニューイヤーロックフェスティバルなんですよ。で、この回のニューイヤーロックフェスは本当に歴史に残るすごいニューイヤーロックフェスで。僕、本当に行ってよかったんですけども。これ、出たバンドはすごいですよ。PANTA&HAL、シーナ&ザ・ロケッツ、カルメン・マキ&OZ、ルースターズ、アナーキー、白竜、ARB、ザ・モッズ、ザ・ロッカーズ、ザ・スターリン、子供ばんど、ビートたけし、松田優作、沢田研二。

(宇多丸)おおーっ!

(町山智浩)ものすごい、もう頭がガーン!って来ましたよ。

(宇多丸)アングラからメジャーまで。しかも全部尖った人っていうね。

(町山智浩)全部尖っていて。スターリンとか、客席も破壊されちゃっているし。すごかったです。で、僕はアナーキー、スターリン。そのへん全部ぶっ続けで見ているんですよ。その時。モッズも。もう完全に持っていかれちゃったんですけども。これ見なかったら僕、宝島に入らなかったですね。

(宇多丸)ああ、それぐらいですか。へー!

(町山智浩)僕の人生に影響を与えましたね。僕、これを見なかったら漫画家になっていたと思いますけども(笑)。で、ここで見てすごいかっこよかったんですけども。それから、頭脳警察のセカンドが再発になったりするんですよ。ちょっと後に。で、頭脳警察を後追いで聞いていったんですけども。ただ、PANTA&HALではものすごくポップなことをやりながら、頭脳警察ではものすごく、まあプリミティブな音楽をやるっていうところの二面性がすごく面白くて。

(宇多丸)はい。

町山智浩 アメリカを目指す中米移民キャラバンを語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドルなどからアメリカを目指し徒歩移動を続ける難民キャラバンについてトーク。メキシコ国境のアメリカの街で彼らに直接インタビューした際の模様について話していました。

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Photojournalist Kim Kyung-Hoon captured this image of a Honduran mother and her 5-year-old twin girls running away from tear gas at the US-Mexico border on Sunday. The family was among the migrants near the border when a few men tried to dismantle a wire fence and border officials unleashed tear gas, Kim said. "This has all the elements in one picture," the Reuters photojournalist told CNN. "We can see the border, the tear gas, the children using diapers, barefoot." The image also captured imaginations because the mother was wearing a shirt from Disney's "Frozen" — a movie in which a sister sets off on a journey for a better life. Immediately after the tear gas, the woman and girls fled to a migrant camp in Tijuana, about a 30-minute walk away. It's not clear what will happen to the family next. (📸: Kim Kyung-Hoon/Reuters)

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(赤江珠緒)さあ、町山さん。今日は映画ではなくて町山さんが直接取材をされた話ということで。

(町山智浩)そうなんですよ。これね、実はもっと前に話をしたかったんですけども。なかなかいい映画がどんどん来ちゃったんでその話をしそこなったんで、もういましないとっていうことで。11月7日、僕はテキサス州のいちばん南の端の、いちばん下の海沿いのメキシコ湾岸の方にあるマッカレンという街に行ってきたんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)そこはね、メキシコとアメリカがはじめて接する、いちばんアメリカの中でメキシコに近いところなんですね。ええと、このへんなんですよ。

(赤江珠緒)いま、地図で見ていますけども。

(町山智浩)アメリカのいちばん南の端っこなんですよ。で、そこにどうして行ったのか?っていうと、最初に中米の方から上がってくるキャラバンの人たちがそこに最初に達するんですよ。そこからアメリカの国境内に入り始めるので。現在ではもっと上の方のカリフォルニア州のティファナという、カリフォルニア州とメキシコが接するあたりのところから大量に中米から入ってきた難民の人たちのキャラバンがやってきて問題になっているんですけども。それよりもはるかに前にここで先にキャッチしようということで、行ってきたんですね。

(赤江珠緒)はいはい。

(町山智浩)「先にキャッチしよう」って行ってきて、全然その番組がいつまでたっても放送されないっていうのは問題があるなって思うんですけども。やっぱりね、即時性がないメディアでいろいろと苦しんでいるんですけども。テレビで行ってきたんですよ。BS朝日の『町山智浩のアメリカの“いま”を知るTV』で。それで1ヶ月以上たってもまだ放送されないんですが(笑)。

(赤江珠緒)あらま!

(町山智浩)それで行ってきまして、実際に難民の人たちがどういう状況で入ってくるのか? なぜ入ってくるのか? 彼らはいったいどういう人たちなのか? そういうことを直接その人たちにインタビューして調べてきました。で、まずマッカレンっていう街について話しますと、もう完全にメキシコとの国境の街なんですね。で、すごく景気がいいです。

(赤江珠緒)景気がいい?

(町山智浩)景気、めっちゃいい。それはNAFTAっていうカナダとメキシコとアメリカの関税をかけないという条約が90年代にできまして。それ以降、たとえば国境のアメリカ側の経営者が国境を超えたメキシコ側に工場を持って、そこで安い人件費で商品を安く作らせて。それを関税がないからそのまま国境を越えてアメリカに持ってきて、アメリカ内で売るというようなビジネスをやってすごい利益をあげていて。

(赤江珠緒)そうか。国境ギリギリならではのビジネスですね。

(町山智浩)そうなんですよ。だから結構豪邸とかが建っていて、ものすごい高級レストランとかがあったりするんですけども。で、それとは逆にメキシコ側の人たちはそこの国境ギリギリのところに住みながらも、通勤はアメリカ側にするんですよ。で、通勤をする人たちに対する通行許可証があるんですよ。で、レストランから建設とか自動車とか、ありとあらゆる産業で働いて。夜になると国境を超えてメキシコ側に帰って家で寝るという。そうすると、生活費も安いし土地代も安いから、結構みんないい家に住んでいて。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)アメリカに歩いて通勤して、メキシコ側でいい暮らしをする、みたいな。

(赤江珠緒)ああ、なるほど。じゃあお互いにそれぞれ、いい感じなんですね。

(町山智浩)完全にWIN-WINです。だからそこで会ったメキシコに国籍のある人たちにいろいろと聞くと、「アメリカに移民しようなんて絶対に思わないよ。だって損しちゃうじゃん。なんの得もないじゃないか。俺たちは国境を越えていくことで利益を得ているわけだから」っていうことで。で、テキサスでも南の方はそういう形で潤っているので、反トランプなんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)ものすごく反トランプで。というのは、トランプはそのNAFTAというメキシコとの間に関税をかけないというものに対して反対をしている人なので、それをやられると彼らの利益が全部吹っ飛んじゃいますから。だからものすごく反トランプで。テキサスって上の方は石油産業なんですけど、南の方はメキシコとの貿易とかが中心なんで、南の方が圧倒的に反トランプで南北が完全に分かれているんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)そこも面白かったんですけど、その中に難民の人が入ってくるんですが。だからまず、勘違いしている人がアメリカにも日本にも多いんですが、難民の人たちはまったくメキシコとは関係のない人たちなんです。彼らはまったく関係なくて、メキシコよりもさらに南の方の中米3ヶ国から来ているんですね。

(赤江珠緒)メキシコを通って来ているだけであって、メキシコの人じゃないっていう。

(町山智浩)完全に関係ないんですよ。で、具体的にはグアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルから来ています。で、圧倒的にホンジュラスの人が多かったです。で、その人たちがメキシコを……もうすごい距離を移動して入ってきて。で、いちばん最初にテキサスとの国境に接するんですけども、そこに国境の壁があるんですね。で、「国境の壁を作れ!」とかトランプ大統領は言って大統領になったわけなんですけど、もうそこには壁があるんですよ。すごい頑丈な壁があります。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)ただ、その壁には穴がたくさん空いているんですよ。どうしてか?っていうと、実際の国境というのはリオ・グランデ川という川なんですね。で、その川はものすごくグチャグチャに蛇行しているんですよ。

(赤江珠緒)ああ、曲がりくねって。蛇行していますね。

(町山智浩)で、これが国境で、国境線はその川の中心、真ん中のところにあるんですよ。

(赤江珠緒)川の中にあるんだ。

国境の壁に穴が空いている理由

(町山智浩)それがグニャグニャしていて、壁を作るのは不可能なんですよ。あまりにも細かく蛇行しているから。もう目で見ただけでもグニャグニャに曲がっているんですよ。だから実際の壁はその川のアメリカ側の岸辺にこういう風に建っているんですよ。

(山里亮太)川沿いに。

(町山智浩)そう。川沿いにほとんど直線に近い形でゆるい曲線で建っているんですね。ところがこの川と壁の部分っていうのはアメリカの領土なんですけども。ここはほとんどが私有地なんですよ。

(赤江珠緒)誰の? 私有地?

(町山智浩)農家なんですよ。で、農家がこういう風に土地を持っていて、その壁の両端に持っているので。それで壁の両端ともアメリカ側なんですけど、川ギリギリまで農地なんで、彼らはその川ギリギリの川側の農地に行くためにこの穴を通り抜けて行くんで、壁があっても穴だらけなんですよ。

(赤江珠緒)あーっ! じゃあ、アメリカの土地を持っている人が自分で行くために穴をあけているっていう?

(町山智浩)そうです。ほとんど私有地です。農家です。農地です。だからその壁の穴を通って入ってきちゃうんですよ。難民の人たちが。

(赤江珠緒)ああ、そうかそうか。

(町山智浩)だからもし壁を、本当にこの穴を完全にふさぐとしたなら、その川と壁の間の私有地を全部アメリカが借款するか買わなきゃならないんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そういうことになりますね。個人の財産が少し減るわけですね。

(町山智浩)そうなんです。だからこれ、大変な金額になるんですよ。だから、不可能なんですよ。だから本当にこれを視察して、トランプ政権はそれを見て言っているのか? これは不可能だろう?って思いました。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、その川を越えてきた人たちはそこでボーダーパトロール(国境警備隊)の人たちに捕まるんですけども、それはわざと捕まるんですよ。

(山里亮太)えっ?

(町山智浩)国境を越えた後、道路でこうやってずっとしゃがんで待っているんですよ。国境パトロールの人が来るまで。で、彼らが捕まえられて、ディテンションセンターっていう一時的な難民センターに連れて行かれて。そこで難民申請をするんです。そこで彼らはイリーガル、だから不法移民と言われているんですけど、実は「不法」でもないんですよ。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)きちんとした書類を持っているんですよ。ほとんど全員が。自分たちの身元証明書も持っていて、アメリカ側の身元引受人の書類も全部持っています。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)で、身元引受人の照合もそこでするんですよ。国境警備隊の人が。で、照合された人たちは正式な難民の申請をしたということで、そこで解放されるわけです。

(赤江珠緒)ああ、釈放っていうか?

(町山智浩)釈放されるんです。で、ただその時、足首にGPSをつけられます。で、どこに行っても確実にわかる。で、毎日そのGPSが電源が切れないように充電(チャージ)し続けなければならないんですよ。で、その後に正式に難民として受け入れが決定されるまで、そのGPSを外すことはできません。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、彼らはその自分の親戚とかがすでにアメリカで身元引受人をやっているところに行って、そこの地元の裁判所に難民申請をして。弁護士を雇って裁判をし続けるという形になるんですよ。ただ、大問題になっていたのはそこに行った人たちがほとんど、その場で放置されてしまって。英語ができない人も多いので、そのマッカレンという街中にあふれちゃったんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)つまり、「難民申請をして受け入れました。じゃああなたたち、あとは任せました」って放置されるんですよ。

(赤江珠緒)そこから、その難民申請が通って……。

(町山智浩)身元引受人のところに行くことができないで右往左往しているんですよ。

(赤江珠緒)ほとんどの人が行けていないっていうことですか?

(町山智浩)行けていないんで、地元のボランティアの人たちが彼らをバスに乗せて……っていう作業をやっているんです。で、そこに行ってきました。で、地元のカトリックの教会のシスター・ノーマという人がボランティアでやっているんですけども、まあものすごい数なんですよ。毎日毎日、300人ぐらい来るんですよ。すごい数なんですよ。で、その人たちに食料とかミルクとかオムツとかそういうのを渡して。で、行き先へのバスのチケットは買ってやらないで。それはやっぱり自分たちで自力で買ってもらって。またはその身元引受人の人に買ってもらってバスに乗せて送り出すまでをやっているんですよ。すごい人数でやっていて。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)まあ次から次に来るんですよ。で、もうこれは政府がやっていなくて、完全にボランティアでやっているんですよ。

(赤江珠緒)でも、そここそが政府がやるべきじゃないですか。柵を作るとかよりも。

(町山智浩)そうなんですよ。だから政府がなにもしないのは、政府は「なんでそんな難民を引き受けるということに対して俺たちがお金を出さなきゃいけないんだ?」っていうことで、申請はしたんですけども却下されちゃったんですね。だから、もう本当に地元の人たちが自分たちのボランティアでやっているという状態です。そうしないと、そこで難民の人たちはたまっちゃうから。

(赤江珠緒)そりゃあ、そうなりますよね。

(町山智浩)で、彼らは英語ができないっていう問題があったりするんですけども、ただ彼らはそんなに貧しくはないんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)っていうのは、グアテマラとかホンジュラスからアメリカ国境に入るまでにかかるお金が非常に高くて。30万円とかかかるんですよ。闇業者とかに払ったりするお金とか。間に泊まったりするお金とか。いろんなことでお金がなんだかんだかかって、1人30万円ぐらいかかるんですよ。で、そのお金を工面してきた人たちなんですよ。

(赤江珠緒)じゃあ割とホンジュラスとかの国でも裕福な方の人たち?

(町山智浩)ある程度、お金がある人たちです。

(赤江珠緒)でも、そこまでお金をかけていても、ホンジュラスを出たいんですか?

(町山智浩)出たいんですよ。それで、彼らはお金がない人たちは親戚とかからお金を集めたり借金したり。まあ、多かったのは自分の持っていた農地を全部売っちゃうとか、そういう形で来ているんですけども。で、難民の人たちは100%子連れの親です。子供を連れないで来ている人はいませんでした。

(山里亮太)へー!

町山智浩 『アリー/スター誕生』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『アリー/スター誕生』について話していました。

(町山智浩)はい。町山です。どうもです。よろしくお願いします。

(赤江珠緒)よろしくお願いします。

(町山智浩)さっきクリント・イーストウッドに会ってきたんですけども。

(赤江珠緒)はい!

(町山智浩)インタビューです。新作なんで。88歳で新作映画、『運び屋』っていう映画なんですけど、セックスシーンがありました!

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)最初の報告がそれじゃないと思うんですが……。

(町山智浩)88歳。ピチピチのセクシー美女2人と同時でした!

(赤江・山里)ほー!

(町山智浩)「誰が見たいのか?」とかいろいろと問題がありますが(笑)。それで、その時にインタビューでね、今回紹介する映画『アリー/スター誕生』の話をしたんですよ。で、それは監督・脚本・主演がブラッドリー・クーパーっていう、『アメリカン・スナイパー』に主演した、クリント・イーストウッドのなんて言うか、お弟子さんなんですね。で、もともとイーストウッドが『スター誕生』を撮るはずだったんですよ。で、それをお弟子さんのブラッドリー・クーパーに譲ったんですね。

(赤江珠緒)そうなんですか。うん。

(町山智浩)そしたら、彼は主演女優をレディ・ガガさんにしたいっていうことで、イーストウッド御大はその時、「やめとけ」って言ったらしいんですよ。

(赤江珠緒)えっ? もともとじゃあ、クリント・イーストウッドさんは誰で撮るつもりだったんですか?

(町山智浩)ビヨンセさんで撮るはずでした。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、まあ『スター誕生』が出来上がったのを見たら、「俺のアドバイスは間違っていた」って言っていましたね。

(赤江珠緒)へー! ガガさんは演技とかっていうのは結構されているんですか?

(町山智浩)あのね、クリント・イーストウッドは知らなかったんですよ。彼女、実は歌手として知られているんですけど、実はニューヨークの名門演技養成所のアクターズスタジオっていうところでちゃんと勉強している人だったんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなのね。へー!

(町山智浩)ものすごい苦労人なんですよ、あの人。だからイーストウッド御大がね、「ああ、失敗した」って言っていましたよ。「自分じゃなくてブラッドリー・クーパーでよかった」って言っていましたね。

(赤江珠緒)ああ、そんなに成功した映画なんだ。

(町山智浩)いまね、この『アリー/スター誕生』っていう映画はもうすぐアカデミー賞のノミネートが発表になりますけども。おそらく最優秀作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、主題歌賞のノミネートは確実だろうと言われています。

(赤江珠緒)はー! 結構総ナメですよ。

(町山智浩)総ナメになるだろうと。まあ、ノミネートですけどね。受賞するかどうかは置いておいて。で、まあその映画『アリー/スター誕生』について話したいんですけども。これね、もう4度目の映画化なんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)一作目は1937年。で、それが最初の『スター誕生』なんですけども、そのお話は田舎出身の女優になりたい女の子がちょっと年上のハリウッドのすでにスターになっている男性の俳優に見出されて。だから『マイ・フェア・レディ』みたいな感じですね。で、映画スターと2人で恋に落ちて結婚して。で、彼女は映画スターとして成功をしていくんですけども……奥さんが映画スターとして成功をすればするほど、旦那の方はどんどん落ち目になって、酒に溺れて滅んでいくっていう話なんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ、はいはい。

(町山智浩)結構キツい話なんですけども。でね、2回目の映画化は1957年で、これは主演のスターになるのは『オズの魔法使い』のドロシーを演じたジュディー・ガーランドさんですね。で、彼女は歌手だったんで、ここからミュージカル映画に変わってくるんですよ。『スター誕生』っていうのは。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)でね、3回目の映画化は1976年で、これは僕はリアルタイムで見ていますけども。主演はバーブラ・ストライサンド。で、これはロックシンガーの話です。基本的にはね、さっき言ったストーリーのままなんですよ。4本とも。今回のも含めて。

(赤江珠緒)なるほど。じゃあストーリーとしてはみんなわかっているあらすじだから。

(町山智浩)みんな知っている。誰でも知っている話なの。でも何度も何度もこれがなんでそんなに映画化されるのか?っていうと、そこに描かれている問題っていうかテーマが昔からまるで変わっていないからなんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それは夫婦の問題だったりいろいろとあるんですけども。だからね、この『スター誕生』っていう映画の中でもセリフで出てくるんですけども。「ひとつの歌はいろんな歌手に歌い継がれていくだろう?」っていう。まあ、そういう映画なんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)名曲はいろんな歌手に歌い継がれていく。『スター誕生』もまったくそうであるという。

(赤江珠緒)ああ、そういうことか。

(町山智浩)でね、今回まずすごいのは、この監督・脚本・制作・主演を1人で全部やったブラッドリー・クーパーさんなんですよ。二枚目俳優なんで、『ハングオーバー!』なんかでコメディーをやっていたりした人なんですけども。『ハングオーバー!』までは全く売れなくて苦労していた人なんですよ。で、今回は彼、ロックミュージシャンの役で、パールジャムのエディ・ヴェダーみたいなキャラクターでブルース・ロックをやるんですが……彼、これまで歌ったこともギターを弾いたこともなかったんですよ。ブラッドリー・クーパーは。

(赤江珠緒)ええっ?

ギターも歌もできなかったブラッドリー・クーパー

(町山智浩)で、この映画をどうしても映画化したいっていうことで3年間、毎日4時間から5時間ずつ練習したんですよ。毎日。

(赤江珠緒)ええっ? そんなに時間をかけて?

(町山智浩)そう。で、あと声がすごいんですね。ブラッドリー・クーパー、僕は会ったことがあるんですけど、普通にしゃべると普通なんですけども、今回の『スター誕生』ではカウボーイの酒でボロボロのロックミュージシャンの声を出すために、全然違う声を出していました。(しゃがれた声で)「I know you, man!」とか、そういう声なんですよ。で、声を完全に作っていますよ。それがすごいんですよ。サム・エリオットっていうテキサス生まれのカウボーイ俳優の人がいて、その人と兄弟の役なんですよ。で、兄弟なのに声が違いすぎるとおかしいっていうことで、サム・エリオットの声に合わせたって言っているけど、そういう役作りなんだっていう……(笑)。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だからこれ、兄弟2人で(しゃがれた声で)「I know you, man!」とかって言ってるんですよ。そこもおかしいんですけども。で、あとレディ・ガガはとにかくね、今回は彼女、本格的な歌手で本格的な女優なんだっていうことを徹底的に見せる映画になっていますね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)いままでは生肉ドレスとかね、素っ頓狂な格好をしていたので。

(赤江珠緒)アハハハハハッ! 話題になりましたもんね。

(町山智浩)そう。あとはメイクがすごいですよね。で、今回はもうほとんどすっぴん。すごいですよ。ステージのシーン以外はほとんどすっぴんですね。だから本当に生のレディ・ガガを見せるっていう映画になっていますけども。とにかくね、ありとあらゆる点が生々しい映画でね。まず、このブラッドリー・クーパー演じるジャクソンっていうロックシンガーの演奏シーンから始まるんですけど。いきなりなんかボリボリとヤバい薬を飲むところから始まって。でね、これの演奏をちょっと聞いてもらいましょう。『Black Eyes』という曲です。彼自身が歌っています。

(町山智浩)はい。これ、いままで歌ったことのなかった人の歌に聞こえないですね。

(赤江珠緒)すごいですね、本当に! これを役作りのために?

(町山智浩)そうなんですよ。本人の声ではない低い声をボイストレーニングで出しているんですけども。で、ただこれ、演奏をしている間も客の方を全く見ないんですしょ。で、曲が終わると酒をラッパ飲みしているんですね。で、もうボロボロなんですよ。酒とドラッグで。で、さまようようにしてバーに入るんですけど、そのバーがいわゆるドラッグバーっていう女装バーなんですよ。そこでレディ・ガガさん演じるアリーが歌っているんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)エディット・ピアフのシャンソンの『バラ色の人生(La vie en rose)』っていうのを歌っているんですけども、あまりにもその歌の表現力がすごいんで、ジャクソンは一発で「これはすごい! この人、スターだ!」って思うんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)でも、「なんでこんな30過ぎまでこんなところで埋もれているの?」って聞くと、そのレディ・ガガ扮するアリーは「私、『あんまりかわいくない』って言われてデビューできないの」って言うんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)「なぜ?」って言うと、「『鼻がデカすぎる』って言われるのよ」っていうね。で、これは実際にレディ・ガガが言われたんですって。「君、その鼻を手術して低くしたらデビューさせてやるよ」とか言われたらしいんです。

(赤江珠緒)ああ、そんなリアルな話を盛り込んでいるんですか?

レディ・ガガのリアルな話を盛り込む

(町山智浩)で、本当に手術する直前まで行ったのをやめたらしいんですけど。友達に止められて。でね、これ70年代版の『スター誕生』の主演だったバーブラ・ストライサンドもまったく同じことをレコード会社から言われているんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)この人も鼻がデカいんですね。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)「君は鼻がデカいからスターになれない」って言われているんですよ。でも彼女、バーブラ・ストライサンドも手術を拒否して。それでも歌と演技の才能で成功したんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)ただね、これがもし男だったら、言いますかね? 「君、鼻がデカいからデビューできないよ」って男のミュージシャンとか俳優には言わないでしょう?

(赤江珠緒)たしかにね。

(町山智浩)これ、完全な差別なんですよ。そこから始まるんですよ、この『スター誕生』という話は。で、そのジャクソンはアリーが「私、鼻が大きいから……」って言ったら、「いや、僕は君の鼻は最高に美しいと思うよ。好きだぜ」って言うんですよ。

(赤江珠緒)ほう!

(町山智浩)出会って2分ぐらいです。はい(笑)。これでもう2人は恋に落ちちゃうんですね。でね、またこのブラッドリー・クーパーの方もね、さっきレディ・ガガのキャラクターが本人をもとにしているって言いましたけど、彼女は女装バーで歌っていたっていうのも本当なんですね。彼女はすごくドラッグクイーンとかにすごく人気があるんですけど、もともとそういうところから出てきた人なんですよ。で、あのファッションとかもそういう人たちから学んだんです。あの化粧も。

(赤江珠緒)なるほど。

(町山智浩)で、その彼女にいろいろと教えてくれたドラッグクイーンの人も今回の映画に出ています。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)師匠なんで(笑)。でね、ブラッドリー・クーパーの酔っぱらい演技もすごくて、本当に酔っぱらっているようにしか見えないんですけど……彼、この映画の最中に一滴も飲んでいないですよ。彼、アルコール中毒だったんですよ。

(赤江珠緒)えっ、もともとですか?

町山智浩 映画『ROMA/ローマ』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアルフォンソ・キュアロン監督の映画『ROMA/ローマ』を紹介していました。

(町山智浩)今日はアカデミー賞……もうそろそろアカデミー賞の季節なんですけども。外国語映画賞で、今回は日本から是枝裕和監督の『万引き家族』が絶対にノミネートされると思うんですけども。それのいちばんの敵になりそうな、アカデミー外国語映画賞の現在最有力候補と言われている映画『ROMA/ローマ』についてお話します。もちろんね、是枝監督を応援するんですが、ちょっと『ROMA/ローマ』は手強いというね(笑)。

(赤江珠緒)いや、よかったですか? 『ROMA/ローマ』。

(町山智浩)よかったですよ。この映画ね、監督はアルフォンソ・キュアロンという人でメキシコ人ですね。で、この映画はメキシコの映画なんですけども。この人はね、『ゼロ・グラビティ』っていう映画で日本でもすごく人気のある人です。

(赤江珠緒)あの、宇宙にね、漂っちゃう。

町山智浩映画解説 『ゼロ・グラビティ』
アメリカ在住の映画評論家 町山智浩さんがTBSラジオ『赤江珠緒 たまむすび』で、無重力の世界を描いた映画『ゼロ・グラビティ』について語っていました。 (町山智浩)まあ...

(町山智浩)そう。宇宙ステーションが事故で吹っ飛んじゃって、女性の宇宙飛行士が宇宙空間で宇宙服だけでサバイバルしなきゃならないっていう1人パニック映画でしたけども。あれとかね、あとは『トゥモロー・ワールド』という映画を撮っていまして。これは子供が突然生まれなくなっちゃうっていう世界なんですよ。

(赤江珠緒)ああ、じゃあ全体にSFっぽいものを撮られている監督ですね。

(町山智浩)そうなんです。だからいままではサイエンス・フィクション系の映画2本で世界的ヒットを飛ばしたキュアロン監督が、今度は自分が育った1970年のメキシコに戻って、子供の頃の思い出を映画化したんですね。それが『ROMA/ローマ』なんですけども。これね、「ローマ」ってイタリアのローマとは関係がないんですね。

(赤江珠緒)あ、違うんですか?

(町山智浩)全然関係ないです、これ。これはメキシコの大都会・メキシコシティの中心部にあるコロニアローマっていう地区があるんですよ。そこで彼が子供の頃に……この人は1961年生まれで僕よりもひとつ上なんですけども。ちょうど9歳から10歳ぐらいの1970年から71年にかけて住んでいて。その時の話なんですよ。で、コロニアローマっていうのはいまね、僕はここに行ったことがあると思うんですけども。メキシコシティに行った時に。おしゃれなカフェとかレストランとかが結構あるようなところで。

(赤江珠緒)へー。

(町山智浩)まあ、いまはすごくおしゃれな街なんですけども。だからこれ、タイトルは『ROMA/ローマ』ってなっているんですけど、日本で言えば『青山』みたいな感じですよ。

(赤江珠緒)ふーん、うんうん。

(町山智浩)で、子供の頃、70年代の青山の思い出みたいなことを映画にしたみたいな話なんですけど。ただ、主人公が彼じゃないんですね。子供の頃の彼は脇役でしか出てこないんですよ。

(赤江珠緒)へー。

(町山智浩)彼の家で彼を育ててくれたお手伝いさんのクレオさんっていう人が主人公なんですよ。で、この映画はいちばん最初に……まあ、結構いいお屋敷で、自動車が入ってくる駐車スペースが敷地内にあるんですけど。そこの床がタイル張りなんですけど、それをそのお手伝いのクレオさんが一生懸命掃除して。飼い犬がそこらじゅうにフンを散らかしているんでその犬のフンを掃除しているところからこの映画は始まるんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)それでですね、ずっとこのクレオさんが掃除をしたり洗濯をしたりご飯を作ったり。で、子供の寝かしつけをして夜、いちばん遅くに寝るまでを……あ、この人は住み込みなんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)そのお手伝いさんの一生懸命働いているのを白黒、モノクロの映像でじっくり見せるっていう映画なんですよ。

(赤江珠緒)じゃあ、古き良き時代の思い出みたいな感じですか?

(町山智浩)そうなんですね。で、日本も昔結構そうだった頃があるんですけど、お手伝いさんでありながら乳母でもある人なんですよね。このクレオさんっていう人は。まだハタチぐらいなんですよ。10代かハタチぐらいなんですね。で、日本だと「ねえや」っていうのがいたんですよ。お金持ちの家には。で、子供をその田舎から奉公に来た貧しい農家の娘さんとかに子育てとかお手伝いを全部任せきりにしていたんですよ。昔、金持ちの人は。あの『赤とんぼ』の歌に出てきますね。

(赤江珠緒)ねえ。「15でねえやは嫁に行き」って。

(町山智浩)だからこのキュアロンさんは子供の頃は自分のお母さんは全然子育てをしなかったので、このクレオさん……本当の名前は全然違う人で、実際の人はリボリアさんっていう人なんですけども。このお手伝いさんを自分のお母さんみたいに思っていて。

(外山惠理)そうかそうか。へー。

(町山智浩)そのお手伝いさんっていうか乳母に捧げた映画なんですよ、これは。で、ちなみにこのキュアロンさんはお父さんがなんと原子物理学者で、原子力委員会で働いていて超エリートなんですよ。

(赤江珠緒)へー! そういう家庭に生まれた方なんだ。

(町山智浩)そうそう。だからほとんど家にいなかったんですね。お父さんは出張で。で、お母さんはいつも機嫌が悪くて、子供にも怒鳴るし、このお手伝いさんにも怒鳴るし、いつも怒っているというね。だからますますお手伝いさんのことばかり好きになっちゃうんですけども。日本も昔、『コメットさん』っていうドラマがあったの、ご存知ないですか?

(赤江珠緒)『コメットさん』。はい。ありましたね。

(外山惠理)聞いたことない。

(町山智浩)あ、知ってる?

(赤江珠緒)私は知っています。

(町山智浩)知ってる? すごいな。僕の子供の頃に流行ったんですよ。そういう話でしたよ。コメットさんってお手伝いさんなんですよ。で、寂しい子たちのお母さんがわりなんですけど、お姉さんのようなお母さんのような人で。で、コメットさんは魔法を使うんですけども。

(赤江珠緒)そうね、コメットさんはね(笑)。

(町山智浩)そういうのがありました。ただ、そういうドラマなんですけど、少しずつ雰囲気がおかしくなってくるんですよ。まず、街を歩いていると街には軍隊とかがいっぱいいて行進したり、武装警察官がウロウロしていたりするんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、学生運動みたいなものがあったりするんですけど。ただ、このドラマ自体はそのキュアロンさんの10歳の頃の記憶から作られているんで、そういう時代背景みたいなものは画面の奥の方にあって、はっきりと画面の前の方には出てこないんですね。

(赤江珠緒)ああ、まだ幼かったんで、そこまではっきりと理解せずにぼんやりと見ていた景色?

(町山智浩)そうそう。だから僕も子供の頃、学生運動がすごくあったんですけども。1968年ぐらいって僕がだから子供だったんですけど。幼稚園ぐらいですよね。でも、街中でしょっちゅう催涙ガスとかが投げられたり、機動隊と激突したり、テレビで安田講堂事件がやっていたりするのは覚えているんですよ。だから背景に引っ込んでいるんですね。そういう時代の政治的な問題が。で、そうやっているうちにそのクレオさんが恋人の子を妊娠をしちゃうんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、その付き合っている彼がなんか「俺はそれどころじゃねえんだ!」みたいな感じなんですよ。恋人が妊娠したのに。でね、竹刀とかを振り回していて。『燃えよドラゴン』っていう映画、見ていますか?

(赤江珠緒)見ています。

(町山智浩)あれでなんかほら、島にいた柔道着を着た人たちが集まって、「オウ、オウ、オウ!」ってやっているじゃないですか。武道の練習をしているじゃないですか。で、このクレオさんの彼氏もなんかね、100人ぐらい集まって整列して、日本語で「ヨロシクオネガイシマス!」とか「アリガトウゴザイマス!」とか言いながら、なんか武道の訓練をしているんですよ。「ハッ! ハッ! ハッ!」とかって。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)なんじゃ、こりゃ?って思うんですけど。それはね、その頃にメキシコにあった「ファルコネス」っていう……日本語に直すと「ハヤブサ団」っていう人たちなんですよ。これはね、その頃にメキシコでもう50年以上、2000年ごろまで続いた長期政権の政権与党でPRIっていう与党があったんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)その与党が育てた政権支持暴力集団なんですよ。

(赤江珠緒)えっ、政権与党側の人たち?

(町山智浩)なんですよ。で、学生運動が高まったり、反政府的な運動が田舎の農村部で起こっていたので、それに対して対抗をするため、軍隊や警察だけじゃなくて貧しい若者たちを集めてご飯を食べさせて。で、暴力集団として日本の空手とかを教えているんですよ。

(赤江珠緒)結構物騒な時代だったんですね。

物騒な時代背景

(町山智浩)物騒な時代なんですよ。で、そのクレオさんの恋人がそうだったんですね。で、これね、見ていてなにも説明がないんですけど、子供の目から見ているから政治とかわからないんですけど。ただ、見ていてどうしてこんなことになってしまったのか? 政権と農村部と学生の対立ってどうして起こっているのか?っていうと、このアルフォンソ・キュアロン監督のお金持ちの一家は全員ね、白人なんですよ。

(赤江珠緒)ふんふん。

(町山智浩)で、働いているお手伝いさんとかその周りで働いている人たち、農民の人たちはみんな、肌の色が赤いというか浅黒いというか。いわゆる先住民の人たちなんですね。で、メキシコというとみんなのイメージとして肌の浅黒い人たちの国だというイメージがあると思うんですよ。

(赤江珠緒)はい。そうですね。

(町山智浩)実際には47%ぐらいは肌の色は白いんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そんなに?

(町山智浩)そうなんですよ。まあ段階差があるんですけど。混血していますから。ただ、その肌の色が白ければ白いほど、お金があるんですよ。上流階級なんですよ。それはどうしてか?っていうと、スペインの人たちがメキシコを占領して植民地にしたましたよね? で、その後に入植した白人たち、スペイン人たちが大農園を作って。そこで先住民の人たちを小作人として働かせて、搾取し続けていたんでまあ、格差が広がっちゃったんですね。経済格差が。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、その農園のことをアシエンダって言うんですけども。このキュアロン一家は途中で「おじさんたちのアシエンダに行く」っていうことで行くんですけど、大農園で豪邸で貴族みたいな生活をしているんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、「ああ、そうなんだ。こんなに差があるんだ」ってことがわかるんですね。貴族とそれ以外の人たちみたいな。で、それって全然、あまり聞いたこともないし。

(赤江珠緒)そうですね。そこまでの階層社会だっていうことは。

(町山智浩)人種的な階層社会だったっていうことが。で、それはキュアロン監督も子供の頃、そのことがよくわからなかったらしいんですよ。当たり前だと思っていて。で、その「大人になってからだんだんわかってきた」っていうことを映画にしたらしいんですよ。

(赤江珠緒)ああーっ! じゃあ、キュアロン監督自身は恵まれている側の人だったんだ。

(町山智浩)そうなんですよ。で、この政権与党PRIっていうのはずっと農地が白人たち大地主に独占されているのを接収して再分配して貧しい人たちに配るんだっていうことを掲げていたんですけど、実際には全然それが行われなかったため、進まなかったために農村部であるとか学生たちの不満がすごく高まっていて。で、政府と対立していたんで1968年に政府は人気集めのためにオリンピックをやるんですよ。メキシコオリンピックを。で、70年にもサッカーのワールドカップをやったりして、なんとか人気集めをしようとするですけども、経済格差がどんどん広がっていることには手をつけないものだから、民衆との対立がどんどんひどくなっていって、最終的には大虐殺事件に発展するんですよ。

(赤江珠緒)うわあ……。えっ、大虐殺事件まで?

(町山智浩)はい。反体制の学生たちに対して、さっき言った政権支持の暴力集団ハヤブサ団をぶつけて、120人が死ぬという大惨事に発展していくんですね。で、この映画は最初に静かに日常のホームドラマみたいにして始まっていって、だんだん悲劇に向かって突入していくんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、子供たちだから、恐ろしいことに向かっていっているっていうことがわからないわけですよ。ということが、なにもわからないで見ているとすごいショッキングで。そういう点でよくできた映画ですね。これはね、不思議な映画でね。画面がずーっと……先週話した『アリー/スター誕生』っていう映画はカメラが常に主人公たちに非常に近いところにあって。彼らの顔とか表情とかをものすごいクローズアップで映して。彼らの心の中に観客を入れていくような撮り方をしているんですね。

町山智浩 『アリー/スター誕生』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『アリー/スター誕生』について話していました。 (町山智浩)はい。町山です。どうもです。よろしくお願いします。 (赤江...

(赤江珠緒)ねえ。レディ・ガガさんの毛穴まで見えるっていう。

(町山智浩)そうそう。しかもすっぴんなんですけど。それぐらい、主人公たちの心の中に入っていくようなカメラワークをしていたのが『アリー/スター誕生』だったんですけども。この『ROMA/ローマ』っていう映画はね、常に主人公たちから離れてカメラが非常に客観的に、水平に真横にしか動かないんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(外山惠理)一緒に見ているような感じなんですか?

(町山智浩)遠くから見ているような感じ。でね、これは監督のキュアロンさんが言っているのは「過去にタイムスリップした僕が、魂だけなので人に触れなくてただ見ているしかない感じ」っていう風に言っているんですけども。

(赤江珠緒)ああ、為す術なくただただ見つめているというような。

(町山智浩)そうそう。「幽霊みたいになって過去に戻った感じを表現した」っていう風に言っているんですよ。

(赤江珠緒)へー! カメラのカット割りでやっぱり表現する部分って変わってくるんですね。なるほど。

(町山智浩)そう。この映画はカット割りがないんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなんだ。

(町山智浩)長回しですごく長くじっくりと主人公たち全員からちょっと離れて、右から左に動き続けるだけなんですよ。カメラは。なんていうか、感情がない感じで。

(赤江珠緒)なるほど。

(町山智浩)ただね、これが大虐殺であるとか大変なクライマックスですごくその客観的な動きが神のような視点になっていくんですよね。これはね、見てみるとわかります。「あっ、このためにこのカメラの動きをやっていたのか!」っていうことがクライマックスともう1ヶ所、エンディングのところでこのカメラの動きを実に上手く使うんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)これは言えないんですけど。いまね、もうNetflixでこれはすでに見れますんで、ぜひ見ていただきたいと思うんですよ。でね、これキュアロン監督は「ハリウッドで超大作映画を作って大ヒットをしているのに、なぜこんな地味な映画を作ったのか?」って言われてインタビューで答えているんですけども。「これは自分のためにやらなければならないことだと思ってやったんだ」って言っているんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)というのは、「子供の頃、クレオさんのモデルになったお手伝いさんがどれだけ大変なことが実際にあったのか、僕は全然子供だったのでわからなかったんだ。格差もそうだし、差別もそうだし」って。そのお手伝いさんに対して、雇っている側は彼女の名字すら言わないんですね。人だと思っていないからですよ。それで「犬のフンとか片付けといて!」みたいな感じで。「それでどれだけ大変な目にあっていたのか、僕はなにも知らなかった。どれだけ僕たちが白人に生まれてきたことで得をしてきたのか、全然知らなかった。だから本当に申し訳ないという罪の意識で作っているんだ」ってはっきりと言っています。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)で、もうひとつはお母さんですね。お母さん、この映画の中ではすごく嫌なお母さんなんですよ。「ウンコ、片付けといてね!」とか「あんた、なにやってんのよ!」とか、そんな感じなんですよ。で、子供たちに対してもすごく厳しくて。ギスギスしているんですよ。ただ、その理由が最後の方でわかるんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなんだ。

(町山智浩)で、このキュアロン監督は「僕は子供だったからわからなかったんだけど、お母さんも辛かったんだよ」って。だから「お手伝いさん、ごめんなさい。お母さん、ごめんなさい。いま大人になってやっとわかりました。どれだけメキシコで先住民の人や女性が差別されていて、ないがしろにされていたのか、知りませんでした!」っていう映画なんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)「お詫びの映画だ」ってはっきりと言っています。

キュアロン監督のお詫びの映画

(赤江珠緒)そうか。あえてそういう歴史のこととかを説明しないで、子供が見たかのように表現していくという映画ですね。

(町山智浩)はい。ただもちろん、彼は大人だからなにがあったかは全部知っている。社会全体になにがあったのか、わかっている立場で。でも、あくまでもそれを背景の方に押しやって。でも、最後の方にその背景が迫ってくるんでけどね。その時代が。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、やっぱり子供だから、自分を育ててくれた母がわりの人とか実際のお母さんとかが1人の女性なんだっていうことがわからないんですね。そういうのがわかると、すごくがっかりしたりするんですよね。子供って。勝手だから。でしょう? 母は母であって、女性だとは思いたくないじゃないですか。子供って。特に男の子はバカだから。ねえ。生々しいから、嫌いなんですよ。そういうの。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、母と父が女と男だっていうことも知りたくないんですよね。で、ましてやそのお手伝いさんっていうのは女神様みたいな人なわけなんで。この中では。で、まったく感情とか悲しみを出さない人なんですよ。子供に迷惑をかけたら、心配をかけたらいけないと思うから。このクレオさんは。だから全然わからなかったんですけど、ものすごい悲しみとかを抱えていたんだなっていうことがやっとわかったよ!っていう話なんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、これね、監督は現在74歳のリボリアさんに徹底的なインタビューをして、全部根掘り葉掘り聞き出して作った話なんで。「90%は事実だ」って言っていますね。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。へー!

(町山智浩)徹底したインタビューで、自分が知らなかったという罪を贖うために作った映画だという。

(赤江珠緒)一見、地味で淡々としたものになっていきそうですけど、監督の信念みたいなものが込められているんで、アカデミー賞でも最有力と言われるような作品になっているということですね。

(町山智浩)本当に個人的な彼の気持ちの映画なんですね。でも最後にね、本当にこのクレオさんに後光がさすという奇跡のようなシーンがあるんですよ。このラストシーンのために……。

(外山惠理)でもご本人もちゃんと答えてくださったんですね。監督にね。

(町山智浩)そうなんですよ。このリボリアさんに見せるために作ったって言っているんですね。で、その最後の後光がさすシーンのために、いままでの地味な映像の撮り方が全部そこに集約されているっていうことがわかるというね。まあ、すごい映画なんで。まあ、みんなそうだと思うんですけど。子供の頃のことって全部自分はわかっていないんで、大人になってからね、お父さんとかお母さんに生きているうちに聞いたりしながら。「一体あれは何だったんだろう?」っていうのを全部調査していくと面白いと思いますよ。

(赤江珠緒)そうですね。いろんなわからなかったことの答え合わせがやっと大人になってできるっていうこと、ありますからね。

(町山智浩)そうなんですよ。だからこれ、宿題みたいな映画ですね。キュアロン監督の。

(赤江珠緒)はい。今日ご紹介いただいた『ROMA/ローマ』はNetflixで公開中です。

(町山智浩)はい。いま見れます。

(赤江珠緒)ということで町山さん、また一押しの映画が生まれましたね。

(町山智浩)だから『万引き家族』とどっちが取るか?っていう感じで、難しいですよ。

(赤江珠緒)『万引き家族』のライバルになりそうな映画だそうです。今日は『ROMA/ローマ』を紹介していただきました。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

町山智浩『シュガー・ラッシュ:オンライン』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『シュガー・ラッシュ:オンライン』について話していました。

(町山智浩)でね、冬休みに楽しむことができるドラマでネットで配信されているものを紹介したいんですね。冬休みに一気に見れますんで。『マーベラス・ミセス・メイゼル』っていうちょっと覚えにくいタイトルなんですけども。これ、アマゾンプライムで見れます。一気にシーズン2まで日本語がついているのが見れますので。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)これがね、ゴールデングローブ賞とか各賞を去年からずっと受賞しまくっている傑作コメディーなんですよ。アメリカのニューヨークの専業主婦がスタンダップコメディアンという漫談ですね。1人しゃべくり芸のコメディアンになろうとするっていう話なんですけども。これがね、もうアメリカでは大変なドラマとして女性の権利の問題からいろんなものを見せていく非常に深いドラマとして楽しまれているんで、それを紹介したいんですが……。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、その前振りで、先週から公開されているディズニーアニメの『シュガー・ラッシュ:オンライン』についてお話をしたいんですよ。

(山里亮太)あっ、聞きたいです!

(町山智浩)これ、『シュガー・ラッシュ』っていうディズニーアニメの続編なんですけども、舞台はゲームセンターのゲームで。まあ『ドンキーコング』と『レッキングクルー』を足したみたいなゲームがあって、それの悪役のキャラクターをやっているラルフっていう大男が主人公で。その彼ともうひとつ、女の子向けのカーレースゲームで『シュガー・ラッシュ』っていうのがあって、それのゲームのキャラクターであるヴァネロペっていう女の子がいて。その大男ラルフとヴァネロペっていう少女の2人の話だったんですね。一作目は。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、2人が最後に仲良くなって終わるんですけども。今回、いまやっている続編はその仲良くなった後の話なんですけども。まずゲーセンがもう寂れちゃってどうしようもないっていう話なんですよ。

(赤江珠緒)あーっ! うんうん。

(町山智浩)で、その『シュガー・ラッシュ』っていうゲームマシンも壊れちゃうんですけど、もう作られていないから交換する部品がないんですね。で、ネットのオークションサイトeBayで見たらあるんですけど。だからこれがもし修理をされないと、このゲームマシンは動かなくなっちゃうから彼女たちは生きられないんですよ。ゲームの中にいるキャラクターなんで。だから、実際にはプログラムそのものなんですね。彼女たちは。

(赤江珠緒)そうか。死活問題になっちゃうんだ。

(町山智浩)そうそうそう。電源を切られっぱなしになっているとマシンが破棄されちゃうから。それで、インターネットの中に入ってお金を稼いでその部品をeBayから買おうとするっていう話なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん。うんうん。

(町山智浩)で、インターネットの中に入るといろんな……要するに賞金の出るゲームがあったり、まあYouTuberになるっていう手もありますよね。そういうことをしてお金を稼ごうとするんですよ。このゲーセンから来た2人がね。

(赤江珠緒)はい(笑)。設定が面白いですね。

(町山智浩)で、ここで面白いのはね、インターネットなんでディズニーの公式サイトにヴァネロペちゃんが入っちゃうんですよ。するとそこにはディズニープリンセスがいっぱいいるんですね。白雪姫とかシンデレラとかポカホンタスとかムーランとか。アナ雪のエルサとかもいて、控室でお煎餅を食べていたりするんですけども。あ、お煎餅は食べてませんが(笑)。

(赤江珠緒)うん(笑)。

(町山智浩)で、そこに行ったヴァネロペちゃんが「私もディズニーアニメのヒロインだから、ディズニープリンセスのはずよ」って主張をするんですよ。そうするとこう言われるんですね。「ディズニープリンセスだったら鏡とか湖に顔を映して、映った自分に『私の夢ってなに?』って問いかけると、突然そこでオーケストラの音楽が流れてきて、そこからミュージカルになるはずなのよ」って言われるんですよ。

(山里亮太)アハハハハハッ!

(赤江珠緒)ああ、ディズニープリンセスはそんな条件があるんですね(笑)。

(山里亮太)あるあるを面白く(笑)。

(町山智浩)そう。「私の夢は……」って『リトル・マーメイド』だったら「海から出て他の世界を見たい」とか言うじゃないですか。

(赤江珠緒)みんな、そうなっているか。

ディズニープリンセスの夢

(町山智浩)そうそうそう。アナ雪なんかでも「生まれてはじめて」っていう歌を歌うところとかね。「そういうことがあるはずなのよ」って言われて。ヴァネロペちゃんが鏡や水に映った自分に問いかけるんですよ。「私の夢ってなあに?」って。そうすると、「核戦争の後に文明や社会が破滅して、暴力だけが支配する無法の世界になったところで命がけのカーレースをすることよ!」っていう自分の夢がわかるんですよ(笑)。

(赤江珠緒)ええーっ!

(山里亮太)そういう設定で作られちゃったんだ(笑)。

(町山智浩)そう。まあ要するに『マッドマックス』みたいなゲームがいっぱいゲーム界にはあるわけですね。だから「そこで生きるのが私の夢だったんだ!」っていうことに気がつくんですよ。それで、「私はゲーセンには帰らない。このままインターネットの中で地獄のゲームをやりたいの!」って言うんですけど、そうすると一緒にゲーセンから来た相手のラルフくんは「なんで?」ってなるわけですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)「なんで君だけ先の世界に行っちゃうの? 僕はゲーセンから出られないのに!」って。で、嫉妬をして邪魔をするんですよ。そのヴァネロペちゃんを。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)っていう話なんですよ。

(赤江珠緒)ラルフ、意外と小さい男だな。

(町山智浩)そうなんですけど……でも、これってこの間僕が『たまむすび』で話した『アリー/スター誕生』と同じ話なんですよ。あれも主人公のロックミュージシャンが女の子、レディ・ガガを見つけてスターにしたんだけど、どんどん自分の手を離れてスターになっていって、しかも自分の知らない新しいエレクトロ・ポップみたいなものに進んでいくと、自分のコントロールから離れてどんどん上に行っちゃうから。嫉妬しておかしくなっていくっていう話だったんですよね。

町山智浩 『アリー/スター誕生』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『アリー/スター誕生』について話していました。 (町山智浩)はい。町山です。どうもです。よろしくお願いします。 (赤江...

(赤江珠緒)そうですね。女性の方がどんどん出世していって。

(町山智浩)そうそう。っていうか、時代に乗っていっちゃうんですよ。つまり彼、ラルフくんはゲーセンの世界に生きているんだけど。でもこのヴァネロペちゃんはもうゲーセンからは離れて、インターネットの世界でも生きられるんですよ。女性の方が時代に対応することができるんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、男って大抵ノスタルジアで昔のものにこだわったり。『スター誕生』の主人公の男も昔風のブルース・ロックにこだわっていて、新しいその最近の音楽が理解できないって憎んでいるんですよ。それって『ラ・ラ・ランド』もそうだったし、そういう昔のものにこだわってそれを突き詰めていくっていうのは男の得意とするところで。でも、女性たちはそうじゃなくてどんどん先に行こうとすることができる人が多いんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)時代に乗っていくことが。だからそういうね、非常に深い男と女の問題を描いているのがいまの『シュガー・ラッシュ:オンライン』なんですけども。

(赤江珠緒)ええーっ! 『シュガー・ラッシュ』、そういうことがテーマに?

(町山智浩)そういうことになっていますよ。で、ただもうひとつ面白いのは、「プリンセスの夢っていうのは何か?」っていう話になるじゃないですか。でも、昔のディズニープリンセスの夢って、いつか素敵な王子様が来て結婚することが夢だったですよね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)でもそこから先も人生は40年、50年続くんですよね。本当は。

(赤江珠緒)たしかに。「めでたし、めでたし」では終わらないっていうね。

(町山智浩)そこは人生の始まりなんだよね。それなのにずっとディズニープリンセスだったりおとぎ話の多くが「王子様が来て結婚すれば『めでたし、めでたし』で終わり」っていう未来、夢しか提示できなかったんですね。だから昔のディズニープリンセスっていうのは現代の世界では全く機能していないんですよ。

(赤江珠緒)たしかに。

(町山智浩)だってそれ、子育てが終わったらその女の人の価値はどうなっちゃうんですか? 生きる意味ってなくなっちゃう。だから、本当の夢っていうのはもう現在、ディズニープリンセスは自分自身が彼氏とかは全く関係なく、やりたいことを見つけるのが夢なんですよ。「やりたいこと」が「夢」なんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)だってそうじゃなきゃ、旦那がいなければ無価値な人間っていうことじゃないですか。それは。

(赤江珠緒)たしかに! 現実社会とリンクしている。

(町山智浩)というようなことも考えるようになっているんですよ。で、ヴァネロペちゃんは『マッドマックス』みたいなゲームをするのが夢なんですけども(笑)。そういう世界に。で、なぜこれを前振りにしたか?っていうと、今回紹介する『マーベラス・ミセス・メイゼル』っていうのもそういう話なんですよ。

町山智浩『マーベラス・ミセス・メイゼル』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアマゾンプライムで配信中の人気ドラマ『マーベラス・ミセス・メイゼル』を紹介していました。 (町山智浩)で、なぜこれ(『シュガー・...

<書き起こしおわり>

町山智浩『マーベラス・ミセス・メイゼル』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアマゾンプライムで配信中の人気ドラマ『マーベラス・ミセス・メイゼル』を紹介していました。

(町山智浩)で、なぜこれ(『シュガー・ラッシュ:オンライン』)を前振りにしたか?っていうと、今回紹介する『マーベラス・ミセス・メイゼル』っていうのもそういう話なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

町山智浩『シュガー・ラッシュ:オンライン』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『シュガー・ラッシュ:オンライン』について話していました。 (町山智浩)でね、冬休みに楽しむことができるドラマでネットで配信...

(町山智浩)これは1950年代が舞台なんですけども、その時代のニューヨークに住むミッジという名前の26歳の奥さんで2人の子供のお母さんが主人公なんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、1950年代だからその頃、アメリカはものすごく豊かで。本当に、そこに写真があると思うんですけども。このコートとかドレスとかの色がまあきれいな映画なんですよ。

(赤江珠緒)ああ、なんかみんな仕立てのいいコートを着ているようなね。

(町山智浩)まあ映画っていうかドラマなんですけども。ピンクのコートとかグリーンのコートとかワインレッドのドレスとか。で、その頃って男も女もいつも正装をしていたんですね。要するに、ジーパンにシャツで外に出る人っていうのは本当のワーキングクラスの人だけだったんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、ある程度中流の人たちはみんないつも化粧をして。それこそネックレスとかをつけて手袋とかをして帽子をかぶって外を歩くのが普通っていう時代の話なんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうか。男性もみんな帽子をかぶってますもんね。

(町山智浩)そういう時代なんですよ。でね、ちょっとこの中で流れる歌でね、『I Enjoy Being A Girl』。「女の子でいるの、大好きよ」っていう歌をちょっと聞いてもらえますか?

(町山智浩)はい。この歌はもともとはミュージカルの歌なんですけども。歌詞がすごい歌なんですね。1958年の『フラワー・ドラム・ソング』というミュージカルの歌で。「私は女の子でいるのが大好きなの。私は出ているところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいるスタイルが自慢なの。歩く時はお尻を振ってくねくね歩くのよ。洋服はフリルやレースがついているのが好きなの。まつげはいつもきっちりカールしていて、いちばんうれしいのは男の人に『かわいいね』って言われることなの」っていう。どう思いますか、この歌詞は?

(山里亮太)なんか典型的な男が思い描くいい女像っていうか。

(赤江珠緒)「女の子!」って意識しまくっている。

(町山智浩)まあ、というか見た目とセックスだけなんですよ。存在価値が。で、それが素晴らしいっていう歌なんですよ。でも、この歌は完全な皮肉な歌でオチがついています。「私の夢はこのアメリカで自由を謳歌する自由な男性に愛されること。私のような女の子を好きな男性に愛されること」っていうのがオチに来るんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)つまり、「アメリカは自由の国で男は自由だけど女は自由じゃない」っていうことですよ。

(赤江珠緒)うーん!

(町山智浩)こういうのに縛られていて。で、この『マーベラス・ミセス・メイゼル』もすごいシーンがあるんですけど。その頃、女の人たちってネグリジェをつけていたんですね。夜に寝る時。いま、ネグリジェ着ます?

(赤江珠緒)ネグリジェは着ないかなー?

(町山智浩)あと夜寝る時、夜化粧っていうのをやっていたんですよ。夜、寝る時にお化粧をするんですよ。なんでネグリジェを着て化粧をするんだと思います?

(赤江珠緒)えっ? やっぱり相手を喜ばせるため?

(町山智浩)夫の娼婦になるためですよ。そういうシーンがあってちょっとゾッとするんですよね。いま見ると。

(赤江珠緒)じゃあ全然、選ばれないと自由じゃないっていう?

(町山智浩)うん。だからはっきり言って「結婚」っていう契約で買われた娼婦なんですよ。その頃の妻っていうのは。だからそこから始まるんですよ、この『ミセス・メイゼル』っていうドラマは。「ミセス・メイゼル」っていう名前もすごくって、「メイゼルさんの家の奥さん」っていうだけの価値なんですよね。彼女は。

(赤江珠緒)ああーっ! そうか。うん。

(町山智浩)本名の自分の名前「ミッジ」っていうところでは呼ばれないんですよ。

(赤江珠緒)うん。

1950年代の女性の地位

(町山智浩)「メイゼルさんところの奥さん」としか呼ばれないっていう。で、当時50年代は女性の地位が低くて、雇用機会均等法もないし。だから会社は女性を雇わなくても全然よかったんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だから結婚して専業主婦になるしか生きる道がなかった時代に彼女はそこから脱出していくっていう話なんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)これがまたもうひとつひねりがあって。このミッジの旦那さんはジョエルっていう人で、会社で結構成功しているサラリーマンなんですけど、コメディーが大好きなんですよ。

(赤江珠緒)旦那さんが。

(町山智浩)旦那さんは漫談が好きなんですね。スタンダップコメディーが。で、そこに彼女を連れて行くんですね。まだ結婚前、デートをしている時に。で、そのミッジはいっぺんでそのスタンダップコメディーが好きになるんですけど、この旦那さんのジョエルは自分もスタンダップコメディアンになりたくて、コメディークラブの素人コンテストに出るんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ところがね、本当に下手くそで、まるで芽が出ないんですね。一方、奥さんの方がお笑いの才能があるんですよ。

(山里亮太)ああーっ、これは辛い!

(町山智浩)そう。結婚式の挨拶でも彼女がもうバーッとみんなの喝采をさらったりするんですよ。で、だんだんそれがわかってきて、旦那のジョエルがイライラして自分の奥さんのことを責めて。自分が上手くいかないから。で、しまいには愛人を作って家を出ちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(山里亮太)そうか。才能への嫉妬。

(町山智浩)そう。で、捨てられたこのミッジさん、奥さんは頭にきてベロベロに酔っ払ってコメディークラブに殴り込みに行って。ステージに無理やりあがってマイクを掴んで「いまね、私の旦那が家を出ていったのよ!」って話し始めるんですよ。するとお客さんも「これは芸なのか?」って思うからみんな「なに、なに?」って聞くわけですよ。出し物かと思っているわけですよ。みんな。で、「あのね、私の旦那はガキみたいな変な愛人のところに行っちゃったのよ! こんな素敵なおっぱいの奥さんを捨ててね!」って言ってそのミッジはいきなりおっぱいをペロンって出しちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)それで警察に公然わいせつ罪で捕まっちゃうんですよ。っていうところから、でも彼女それでバカウケしちゃうんですね。お客さんたちにめっちゃくちゃにウケて。面白いっていうことで。で、下ネタを徹底的に過激にやる人妻の漫談師としてだんだん大人気になっていくという話なんですよ。

(赤江珠緒)ほー!

(町山智浩)ただ、この1950年代、さっき逮捕されたって言ったみたいにお笑いとかでも下ネタを言ったりすると警察が舞台に来てステージにいる漫才師に手錠をかけちゃうっていう時代だったんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、彼女が漫談を好きになった理由っていうのはレニー・ブルースというその当時出てきた漫談師がいて。これも実在の人物なんですけども。彼がその「絶対に言ってはいけない」と言われていたセックス関係のネタ、下ネタと人種問題とか政治とかを全部ギャグにしていったんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、もう実名でバンバン政治家の名前を出したり、いろんな芸能人の名前を出したりして、もうめっちゃくちゃに叩いたり徹底的に下ネタを言ったりして。あとは自分はユダヤ人だったんですけど、ユダヤ人の問題とか黒人の問題とか差別の問題もしゃべりまくって全部笑いにして。で、片っ端から逮捕されていったっていう人がレニー・ブルースっていう人なんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、その人によってアメリカのコメディーっていうのは革命が起こって変わっていったんですよ。で、このミッジさんはその弟子みたいになっていくんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、これは実在の女性漫談師がいまして。ジョーン・リバースっていう人がいて、その人がモデルになっているんですね。その人も本当にニューヨークのいいとこのお嬢さんで人妻だったんですけど、まあ下ネタばっかり言う人で。で、「私はモテないのよね。男がなんか近寄らないのよね。産婦人科に見てもらおうと思ったら、産婦人科の先生が『電話にしてくれませんか?』って言うのよね」みたいなね。そういうギャグをやったりとか。徹底的に下ネタをやりながら80歳すぎまで下ネタ一筋で通した女性芸人がいて。その人がモデルなんですけどね。

(赤江珠緒)ああ、モデルがいらっしゃるんですね。

(町山智浩)いるんですよ。ただ、やっぱりその当時は女性が下ネタをしゃべっているっていうだけで男がケンカを売ってくるんですよ。「お前、やめろ! お前みたいな女は許せねえ!」とかって言って。そういう非常に保守的な時代で。だからその中で彼女がどうやって戦っていくのか?っていうことと、旦那は自分の奥さんの方が優秀であるっていうコンプレックスをどう克服できるのか? みたいなことがテーマになっているんですよ。

(赤江珠緒)へー! これは町山さん、コメディーっておっしゃってましたから、笑える感じで進んでくるんですか?

(町山智浩)もちろん。すごく笑えます。ものすごく面白いですよ。

(赤江珠緒)テーマはすごい普遍的でね、考えさせられるないようですけども。

普遍的なテーマを描く

(町山智浩)すごい普遍的なんです。だから50年代と比べてどのぐらい世の中が変わったのかとか、変わっていないのかとか、そういったことをいろいろと考えさせられるんですよね。で、だからいま『シュガー・ラッシュ:オンライン』にしても、『スター誕生』にしてもそうなんですけど、なぜその社会に女性が進出するということがどの世界に行っても遅れているのか?っていうと、やっぱり女性と男性が実は基本的には同じ能力を持っているわけだから、女性に社会進出を普通にされたら男の人はだいたい半分ぐらい職を失うことになるからじゃないのか?って思いますよね。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だからブロックしているのかなっていうね。そういうところで、彼女の敵になったり味方になったりする人がいっぱいいて。で、しかもそれを非常に50年代風の美しいファッションと夢のような映像で見せていくという素晴らしいドラマがこの『マーベラス・ミセス・メイゼル』なんですけども。もうね、アマゾンではシーズン1、2が見れますので。ぜひご覧になっていただきたいなと思います。はい。

(赤江珠緒)ああ、いいですね。なんか本当にここ最近、そういうテーマのお話が続きましたね。

(町山智浩)はい。赤江さんとか全然大丈夫なんですか? そういうの。

(赤江珠緒)うん?

(山里亮太)下ネタ言う女性芸人として。

(赤江珠緒)下ネタ?

(町山智浩)大丈夫ですか? まあ下ネタっていうか、要するに旦那さんとの関係とか。

(赤江珠緒)ああー。そうですね。なんか、うん。うちは旦那さんのお母さんとお父さんが割とお母さんが強かったらしいんですよね。

(町山智浩)ああ、そうなんですか。はいはい。そうすると、そういうのには慣れている?

(赤江珠緒)慣れているみたいですね。

(町山智浩)まあ、さっき言ったジョーン・リバースさんっていう実在の芸人の旦那さんもね、そこでくじけて自殺したりしているんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)だからいろんな問題がね、アメリカは進んでいるって言ってもあるんだなって思いますね。

(赤江珠緒)へー! そうですね。

(町山智浩)ということで、『シュガー・ラッシュ:オンライン』の方も面白いので。

(赤江珠緒)はい。今日は現在公開中の映画『シュガー・ラッシュ:オンライン』と冬休みに一気見できるというドラマ『マーベラス・ミセス・メイゼル』を紹介していただきました。町山さん、ありがとうございました。

パイロット
Posted at 2018.12.25
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(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)はい。良いお年を!

<書き起こしおわり>

町山智浩 2019年ゴールデングローブ賞を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で2019年のゴールデングローブ賞を振り返っていました。

(赤江珠緒)町山さん、年末に『ボヘミアン・ラプソディ』、見ましたよ。

(町山智浩)あ、見ましたか? 昨日、ゴールデングローブ賞という賞がありまして。そこで『ボヘミアン・ラプソディ』はドラマ部門の作品賞を取りましたね。ミュージカルじゃないのか?って思いましたけども。ドラマ部門で。

(赤江珠緒)ドラマ部門でね。

(山里亮太)「ドラマ」っていう扱いなんだ。

(町山智浩)扱いになっていましたね。『アリー/スター誕生』がいちばん本命だったんですね。それもドラマ部門なんで。本当にこのゴールデングローブ賞っていうのはよくわからないんですよ(笑)。

(赤江珠緒)アハハハハハハッ!

(町山智浩)どう考えてもミュージカルなのにって思いましたけども。どちらもセリフの代わりに歌でドラマを語っていくんでね。まあ、いいんですが。で、今日はちょっとゴールデングローブ賞の話をさせてくださいね。赤江さん、面白かったですか?

(赤江珠緒)いや、最後の方で自分でもわけのわからない涙が。グッときましたよ。

(山里亮太)ライブエイドのところね。

(町山智浩)はい。あれ、僕はライブエイドの時、ちょうどロック雑誌の編集をやっていたんで。ずーっと編集部に泊まり込みで見ていましたよ。で、画面にちょっと出てくる人とかも、誰が出てくるかわからないからレコード会社の人とかも編集部に来たりして。「あっ、あれは○○です! あれは△△! ああっ!」っていう感じでやっていて面白かったですけども。

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)ラインナップ、すごい豪華なんですもんね。クイーン以外も。

(町山智浩)あそこで最後のウェンブリー・アリーナのところでクイーンとすれ違うのはデュラン・デュランだったりするんですよね。

(赤江珠緒)ふーん! なるほど! そうそうたる方々が出ていましたもんね。

(町山智浩)そう。当時の感じがすごく蘇っておかしかったですけども。それでゴールデングローブ賞の方に戻りますと、大穴だった『ボヘミアン・ラプソディ』がドラマ部門を取ったんですけども。それでフレディ・マーキュリーを演じたらラミ・マレックくんも主演男優賞。彼はエジプト系の人なんですけども、そういう意味でもすごく画期的なことだったと思いますね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)でね、ゴールデングローブ賞っていうのはコメディ部門とドラマ部門にわかれているんですが……ゴールデングローブ賞を簡単に説明しますと、これはハリウッドの外国人記者クラブの投票で映画やテレビドラマに対して与えられる賞なんですけども。これが2月のアカデミー賞の行方を占う重要な賞だと言われているんですよ。だからこれでだいたい、ここからのアカデミー賞の、まだノミネートは発表されていないんですけども、どんなものがアカデミー賞に引っかかってくるのか?っていうのを予想するんですね。はい。

(赤江珠緒)うん。

アカデミー賞の行方

(町山智浩)で、『ボヘミアン・ラプソディ』は劇場公開時に批評がめちゃくちゃ悪くて。「事実と違う!」とか言われて、もうボロカスに言われていたんですけども、ここで逆転していく感じなんですよ。で、コメディ部門の作品賞の方はやはり『たまむすび』で紹介した『グリーンブック』でした。

(赤江珠緒)ああ、はいはい。黒人ピアニストの方とその運転手になった方の。

町山智浩『グリーンブック』『ファースト・マン』『アリー/スター誕生』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアカデミー賞の前哨戦、トロント映画祭で見た映画を紹介。観客賞を受賞した『グリーンブック』、『ファースト・マン』、『アリー/スター誕生』...

(町山智浩)そうなんです。マフィアの用心棒をやっている男が黒人のピアニストと一緒にすごく差別のひどかった時代に南部へコンサートツアーに行くっていう実話の映画化なんですけども。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)これが作品賞とあとは黒人のピアニスト役を演じたマハーシャラ・アリさんが助演男優賞。さらに脚本賞も取っていますね。三部門、取りましたね。

(赤江珠緒)ああ、すごいですね。『グリーンブック』。へー!

(町山智浩)だからね、『グリーンブック』と『ボヘミアン・ラプソディ』の戦いになっていくのかな?って言われていますね。いまのところは。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)あと、外国語映画賞がやはり『たまむすび』でご紹介した『ROMA/ローマ』っていうメキシコ映画でした。

(赤江珠緒)うーん! まさにおっしゃってましたもんね。『万引き家族』とライバルになるって。

町山智浩 映画『ROMA/ローマ』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアルフォンソ・キュアロン監督の映画『ROMA/ローマ』を紹介していました。 明日12/14、既に今年の映画賞をあちこちで獲りまく...

(町山智浩)はい。是枝監督の『万引き家族』は惜しくも賞を逃しました。これは敵が悪かった。やっぱりちょっと、このアルフォンソ・キュアロン監督というのはバケモノなので。大変でしたね。で、監督賞もこのキュアロン監督が取りましたね。『ROMA/ローマ』っていう映画はとんでもなくて、ただ普通に撮っているように見えてるシーンの多くにコンピュータを使ったデジタル合成とかが入っていて、ものすごい高度な映画の撮影の仕方をしていますから。たぶんそういう意味でも監督賞を取ったんだと思いますけどね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)まあもちろんこの人、『ゼロ・グラビティ』とかを作ったぐらいででコンピュータとかデジタルを使うのは得意な監督なんですよ。たとえばクライマックスのひとつの長いシーンがあるんですけど。それとかって何回も何回も何回も撮り直して、そこからいいところだけをつぎはぎしていって、ひとつの全くつなぎ目のないシーンに見せかけてたりしているんですよ。

(赤江珠緒)そんな感じなんですか。へー!

(町山智浩)すごいことをしています。誰にもわからないんですよ。本人たちが言わなければ。

(赤江珠緒)映像としては全編白黒なんですよね?

(町山智浩)全編白黒なんですよ。ただ、その白黒も非常に階調が細かく、そのグレーの段階がわかれている非常に美しい白黒撮影になっていますね。まあぜひ、これはNetflixで流れているので。ご覧ください。

(赤江珠緒)『ROMA/ローマ』ですね。はい。

(町山智浩)で、今回お話するのは、主演女優賞を受賞した『天才作家の妻』という映画の主演女優、今年で72歳になるグレン・クローズさんですね。

(赤江珠緒)はい。

町山智浩『天才作家の妻 40年目の真実』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でグレン・クローズ主演の映画『天才作家の妻 40年目の真実』を紹介していました。 『天才作家の妻 40年目の真実』2019/3/2...

<書き起こしおわり>


町山智浩『天才作家の妻 40年目の真実』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でグレン・クローズ主演の映画『天才作家の妻 40年目の真実』を紹介していました。

(町山智浩)で、今回お話するのは、ゴールデングローブ賞で主演女優賞を受賞した『天才作家の妻』という映画の主演女優、今年で72歳になるグレン・クローズさんですね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)グレン・クローズさん、いちばん有名な映画は『危険な情事』ですよ。

(赤江珠緒)ああーっ! そうそう。このお顔、すごく拝見したことありますもんね。

(町山智浩)『危険な情事』っていうのは80年代の映画なんですけども。マイケル・ダグラスが妻子あるサラリーマンで。グレン・クローズ扮する女性と浮気をするんですけど。そうなるとヤバいと思って手を切ろうとすると彼女がストーカーになって襲ってくるっていう後半、ホラー映画になっていく話なんですね。

(赤江珠緒)ふんふん。

(町山智浩)あれが大ヒットして。あれがこのグレン・クローズのいちばんの当たり役なんですけども。この人ね、すごい人でね。ゴールデングローブにいままで14回ノミネートされているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、過去にテレビ番組でもすでに2回受賞していて。アカデミー賞でもしょっちゅうノミネートをされているんですけど、この人が受賞しそうな時にはかならずメリル・ストリープもノミネートされていて、メリル・ストリープに取られてしまうという非常にかわいそうな人でした(笑)。

(赤江珠緒)そうなんですか。ふーん!

(町山智浩)でも今回はこの『天才作家の妻』で彼女はアカデミー賞の主演女優賞を取るかもしれないと言われていますね。メリル・ストリープがいないんで(笑)。まあ、レディー・ガガさんと一騎打ちになるだろうと言われています。難しいところなんですが。で、今日はこの『天才作家の妻』という映画が今月末に公開になるんで、その話をします。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)正式な日本タイトルは『天才作家の妻 40年目の真実』というタイトルなんですけども、原題はただの『The Wife』。「奥さん」っていうタイトルなんですが。これはこの天才作家っていうのはノーベル賞を受賞した小説家のことなんですね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)話は1990年代が舞台で。70歳代になった小説家のジョゼフ・キャッスルマンという男がノーベル文学賞の受賞通知を受けるところから始まります。で、奥さんとは結婚40年目なんで『40年目の真実』ってなっているんですけども。この主役は奥さんの方なんですよ。で、グレン・クローズがその奥さんを演じているんですね。ちなみにこの夫婦、70代でもエッチしているんですけども。

(山里亮太)映画の中で?

(町山智浩)はい。だからみんな、がんばらなきゃね。はい。

(赤江珠緒)フフフ、なんの情報を入れてきているんですか?

(山里亮太)でもやっぱり裸情報はほしいのよ。

(町山智浩)重要なんですよ。すごく重要なんですよ、今回。映画のストーリー上。それで、この2人がノーベル賞の授賞式に出席するためにスウェーデンのストックホルムに行くんですね。旅をするんですけど。で、その間にいろんな人たちがみんな挨拶をするわけですよ。この奥さんにね。「あなたの旦那さんの作品は世界の文学史に残る偉大な作品です。素晴らしい旦那さんをお持ちですね」とかね。「奥さんの内助の功のおかげですね」とか言われるんですけど、そう言われるたびにこのグレン・クローズ扮する奥さんは非常に微妙な表情をするんです。「ありがとう」と言いながらも、うれしいのか悲しいのか怒っているのかよくわからない、どれにでも見れる非常に複雑な表情をするんです。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)この映画ね、自分の心を一切グレン・クローズは語らないんですよ。ほとんど。

(赤江珠緒)うん。なぜ?

(町山智浩)表情だけで観客に「なにかある」って思わせていく映画なんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だからまあ、今回主演女優賞を取るだろうって言われているんですけども。そこでノーベル賞の授賞式にアメリカから取材に来たジャーナリストが奥さんにこう話しかけるんですよ。「私はあなたの旦那様の小説の大ファンです。全部読んでいます。で、奥さん、昔40年前、女子大生だった頃に小説を書かれていましたよね? 私、その小説を手に入れたんですけど、あなたのその文体っていまの旦那様の小説の文体と全く同じですよね?」って言うんですよ。

(赤江珠緒)へー! うん。

(町山智浩)「本当はあなたがずーっと旦那様のゴーストライターをしてきたんでしょう?」って聞かれるんですよ。

(赤江珠緒)あらあらあら!

(町山智浩)「それでノーベル賞を受賞しちゃうんですか?」ていう話になってくるんですよ。で、それと並行してその40年間の夫婦生活が描かれるんですね。フラッシュバック、回想形式で。で、まずこの奥さんは女子大生の頃に大学教授だったこの旦那さんの教え子だったんですね。で、この旦那さんはその時に奥さんも子供もいたんですよ。で、生徒に手を出したんで離婚して、大学教授の職も失っちゃったっていうのが出会いなんですよ。

(赤江珠緒)ほう。

(町山智浩)で、ちなみにこの回想シーンで40年前のグレン・クローズを演じるアニー・スタークっていう女優さんはグレン・クローズの本当の娘さんなんですけどね。

(赤江珠緒)あ、実の娘さんが。

(町山智浩)はい。それが自分の40年前を演じているんですけども。それでですね、まあ旦那さんは職を失っちゃったんで小説家になろうとするんですね。文学の教授だったんで。で、奥さんは出版社の編集部で働いて家計を助けるんですけど、旦那は働いていないから生計を立てるのは奥さんなんですが。で、その出版社で自分の夫の小説を出版してあげようと思うんですよ。で、夫の小説を読んでみるんですけど、とっても下手くそでどうしようもないんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)いろいろと不自然でね。で、この奥さんが書き直してあげるんですよ。そうすると、旦那も驚く素晴らしい文章になるんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)奥さんの方がはるかに才能があったんですよ。

(赤江珠緒)あら、最近そういう女性の方が才能があるっていう話が続きますね。

(山里亮太)『アリー/スター誕生』の時もそうだったし。

町山智浩 『アリー/スター誕生』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『アリー/スター誕生』について話していました。 (町山智浩)はい。町山です。どうもです。よろしくお願いします。 (赤江...

(町山智浩)そう。そういう話が続いているんでね、アメリカ映画はそういう映画が次々と作られていて非常に面白いなと思うんですけどね。ただ、その出版社の方でもいろんなところでこの奥さんは「女性が小説を書いても絶対に売れないし、それでは食えないわよ」って言われ続けるんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? 小説でも女性がダメって?

「女性」というだけで売れない時代

(町山智浩)これ、1950年代の話なんですよ。その頃、女性っていうのはもう専業主婦が当たり前っていうか、専業主婦以外は外れたものとみなされていたような時代なんですね。雇用機会均等法とかもないから、就職もできないし。もうひどい差別があったんだけど。それで要するに自分の書いたその小説……旦那が元なんですけども。それを結局、夫の名前で売り出しちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、それが売れちゃったからもう後戻りできなくなっていって、ずーっとこの奥さんが夫の名前でこっそりゴーストライターとして小説を書き続けるっていうことになっていくんですね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)でね、こういう話は実は結構いっぱいあるんですよ。いちばん有名なのは『ハリー・ポッター』のJ・K・ローリングさんですよね。最近の話ですけども。あれ、「J・K」っていうペンネームは要するに「女性だっていうことがわかると売れない」って出版社に言われたから「J・K」にされたんですよね。

(赤江珠緒)ええーっ! あんなに売れたのに……。

(町山智浩)ねえ。日本だったら女子高生かと思うんですけども。

(山里亮太)「JK」ね(笑)。

(町山智浩)JKがゴロゴロ転がっているのか?っていうね(笑)。J・K・ローリングって(笑)。

(赤江珠緒)そんな捉え方している人、いないと思いますけども(笑)。

(町山智浩)ああ、そうか(笑)。あれなんかは本当に差別的な状況ですよね。「女の名前じゃあ出せねえよ」って言われたっていうね。で、あともうひとつ、最近の映画でティム・バートン監督の『ビッグ・アイズ』っていう、これも実話を元にした映画があるんですけども。これはマーガレット・キーンという女性の画家の話で。

(山里亮太)ああ、はいはい。ここでも紹介していただきました。

町山智浩 ティム・バートン監督映画『ビッグ・アイズ』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でティム・バートン監督がアメリカ版佐村河内事件を描いた映画『ビッグ・アイズ』について語っていました。 (赤江珠緒)さあ、で...

(町山智浩)そうそう。夫が「女の名前じゃあ売れねえよ」って言って自分の名前で絵を発表して……っていう、実際にあった話ですよね。結局裁判になりましたけど。だから、こういうことっていっぱいあるんですよ。

(赤江珠緒)そうかー。

(町山智浩)あと、アメリカでこの『天才作家の妻』と同時期に『Colette』という映画が公開されたんですけども。これもコレットっていうフランスの作家がいるんですね。20世紀のはじめから小説を書いていた人で、日本でも翻訳書がいっぱい出ている人なんですけども。『クロディーヌ』シリーズという小説で女性の生き方とか自伝的な話を書いたんですけども。これも夫の名前で最初出版されているんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)そう。「女の書いたものなんて誰も読まねえよ。俺の名前で出せ」っていう。そういうのがずーっとあって、最近までそんな感じなんですよね。だからJ・K・ローリングなんて最近ですからね。だからまあ、そういう状況を描いたのがこの『天才作家の妻』なんですけども。この『天才作家の妻』のグレン・クローズはジャーナリストにね、「あなたはずっと40年間、旦那さんの陰で甘んじていたんでしょう? 耐えていたんでしょう? ノーベル賞を取るべきなのはあなたですよ!」って言われても「面白い想像ですね」って微笑むだけなんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ! もうそこまで行ったら、認めてもいいんじゃないですか?

(町山智浩)決して彼女は本当のことを言わないんですよ。でもね、その裏にはなにか彼女のたくらみがあるわけですよ。という話なんですよ。

(赤江・山里)はー!

(町山智浩)それで物語はノーベル賞の授賞式に向かっていくわけですよ。いったい何が起こるのか?っていう。なかなか面白い話なんですけども。このグレン・クローズさんっていう女優さんは非常に、いわゆるハリウッドの女優さんとはちょっと違う役をずっと演じてきた人なんですよね。

(赤江珠緒)ふんふん。

(町山智浩)「女性とは何か?」みたいなことを問いかけるような映画が多くて。この人、デビュー作は『ガープの世界』っていう82年の映画で、36歳の時にデビューしているんですけども。これでいきなりこの人、アカデミー賞にノミネートされているんですね。

(赤江珠緒)へー! デビューは結構遅いですけどね。

(町山智浩)遅いですけどね。この『ガープの世界』って話はご存知ですか?

(赤江珠緒)いや、ごめんなさい。

(町山智浩)これね、とんでもない話ですよ。主人公のガープという男の母親役なんですよ。グレン・クローズは。これがね、異性にも同性にも全く愛とか性的な気持ちを持たない女性として描かれているんですよ。これは現在は「アセクシュアル」って呼ばれるようになったんですけども。この原作小説が書かれた頃にはそうした言葉がまだなかった頃なんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)全く性的な感情を持たない人っていう役なんですね。でもね、子供はほしい。子供に対する愛情はあるんですよ。だから、戦争で脳を損傷してあそこ以外はまるで動かなくなった兵隊さんにまたがって、子種をもらってガープを妊娠するんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)デビュー作からこれですからね。ものすごい攻めているんですよ。で、グレン・クローズさんはその後に『危険な関係』っていう、これは逆にセックスで男も女もコントロールしていこうとする女の人を描いているんですけども。フランスの昔の貴族社会において、女性差別が非常にある中で、逆にセックスを使って女性として男性をコントロールしていくっていう非常に画期的な役でもあるんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、この人が自分で自費で映画化した映画があって。2010年に『アルバート氏の人生』という映画があるんですね。で、グレン・クローズさんが演じている役は両親を失ってしまって、夫もいない、結婚もしていない女性が1人で生きていくために「アルバート」という男性として生きていくっていう話なんですよ。男性の格好をして。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)男性だったら仕事が得られるわけですよ。で、就職の枠も広がる上に、給料も女性よりもいいわけですよ。だからそうやって生きていこうっていう話なんですよ。それと、女性だといじめられるでしょう? セクハラとかいろんなことで。そういう目にもあわないという話なんですよ。

(赤江珠緒)うわー、たしかにそういう女性の世の中の生き辛さとか、そういうのを演じてこられたんですね。

(町山智浩)ねえ。いま、日本なんてね、女の人が医者になろうと思って医大を受けても女性というだけで落とされちゃうんですからね。

(赤江珠緒)そうね。いまだにね。うん。

(町山智浩)それだったら男性の名前で男装して医学部に入る女性の物語があってもいいですよね?

(山里亮太)そうですよね。たしかに。これもそういうことですよね?

(町山智浩)そういうの、作った方がいいと思うんですけどね。日本は。どうしても医者になりたい女の人が……とかね。それは置いておいてですね、このグレン・クローズさんがデビューが遅れた理由っていうのは特殊なんですけども。あと、この人は『天才作家の妻』の耐える奥さんっていう役作りは自分の母親を見て参考にしたって言っているんですよね。このグレン・クローズのお父さんって、世界的に有名な人なんです。医者として。コンゴでエボラ出血熱が大流行した時、コンゴで活躍したお医者さんなんですよ。

(赤江珠緒)すごい人じゃないですか。

(町山智浩)そう。だから世界中を駆け巡って生活をしていたんですけど、そんな有名人の旦那さんに奥さんはただ黙ってついていくっていう人だったらしいんですよ。それでこのグレン・クローズのお父さんっていうのはカルトに入っちゃっていて。MRAっていうね、非常に右翼的なキリスト教団体に入っていっちゃうんですけども、その時も奥さんは黙ってついていって。グレン・クローズ自身も子供の頃から入れられて、世界中まわって「共産主義と戦え!」とか歌を歌わされていた人なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)日本にもそういう学校ありましたけども(笑)。そういう右翼教育を受けていて、結局彼女はそこから脱出をしたんですけど。そういういろんなことがあって。だから今回、ゴールデングローブの授賞式でもグレン・クローズさんは「女性は子供を産んで育てることばかり期待されています。でもなぜ、女性が自分自身の夢を追ってはいけないんですか?」っていうことを受賞の言葉で言っていましたね。

グレン・クローズのゴールデングローブ賞スピーチ

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だからそういういろんなものを込めてね、作られた映画が『天才作家の妻』でね。だんだんこの夫の正体が暴かれていくんですけども。それに対してこの40年間も耐えてきた妻がどういう決断を下すのか?っていうサスペンスもあって。

(赤江珠緒)それは見たいですね!

(町山智浩)最大の見せ場はいちばんいちばん最後のグレン・クローズの表情なんですよ。セリフじゃなくてその顔だけですべての決着をつけるので。そこまでご覧になっていただきたいと思います。

(赤江珠緒)ほー! だってのうのうと、自分が書いてないのにノーベル賞をもらおうとしているんですもんね。旦那さんがね。どうなるんだろう?

(町山智浩)どうなるか?っていうことですね。『天才作家の妻 40年目の真実』は1月26日から日本公開です。

(赤江珠緒)町山さん、今日はありがとうございました。『天才作家の妻 40年目の真実』を紹介していただきました。

(山里亮太)ありがとうございました!

<書き起こしおわり>

町山智浩『女王陛下のお気に入り』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『女王陛下のお気に入り』について話していました。

(町山智浩)アカデミー賞のシーズンになりますので、賞を取りそうな映画をどんどん紹介していきます。今回は『女王陛下のお気に入り』という映画を紹介します。これはもうすでに賞レースの中でかなり、ゴールデングローブ賞で主演女優賞を取ったり、あとはこの映画が取るだろうと言われているのはコスチュームデザイン賞。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)女王陛下の話ですから。あとは撮影賞や脚本賞あたりは確実に取るんじゃないか?って言われているような映画なんですよ。で、どういう映画か?っていうと、二大アカデミー賞女優がいまして。レイチェル・ワイズという女優さんとエマ・ストーンという女優さん、2人のアカデミー賞女優の対決映画です。で、一言で言うとイギリス版の百合版『大奥』です。

(赤江珠緒)『大奥』ね! はい。

(町山智浩)『大奥』です。ただ、お殿様は女王陛下です。

(赤江珠緒)うん!

(町山智浩)舞台は1708年のイギリスです。で、イギリスはその時にスペイン継承戦争っていう戦争をフランスと戦っています。スペインで王様に跡継ぎがいなかったんで、その血縁であるフランスの王様が「じゃあ次のスペインを継承するのは俺だ!」って言い始めたんで、それをイギリスが阻止しようとしてヨーロッパ全土を巻き込むような大戦争になったんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)でも、その当事者であるアン女王は全然状況がわかっていないんですよ。

(赤江珠緒)じゃあこれは完全に実話をベースにしているお話ですか?

(町山智浩)そうなんです。実際にあった話で。このアン女王がすごく贅沢なものを買おうとしている買い物のシーンがあるんですね。で、側近の人に「いま、我が国は戦争中ですから、そのような贅沢はちょっと……」とか言われると「えっ? 戦争してるんだっけ?」って言うんですよ。

(赤江珠緒)おっとっと……。

(町山智浩)そういう人なんですよ。お嬢さんで、全く世間を知らないんですよ。政治とか全然わかっていないんですよ。で、イギリスって非常に優れた政治家の女王が何人かいますよね? たとえばエリザベス一世とか、イギリスをあれだけの大国にした偉大な政治家がいたわけですけども、このアン女王という人は全く本を読まない人なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、政治や社会に全く興味がないし、そういったものを見ようともしない人だったんですね。

(赤江珠緒)あらら、向いていないですね。

(町山智浩)そう。ただのお嬢さん。たまたま王家の血の人だから女王になったんですけど、そういう資質のある人ではないんですよ。でも、しょうがないんですね。他にいないから。

(赤江珠緒)困ったもんですな。はい。

(町山智浩)困ったもんなんですよ。で、ワガママばっかり言って、甘い物ばかり食べているんですごく太っていて。いま残っている肖像画だと結構痩せているように描かれているんですけど、実際にはものすごく太っていて。亡くなった時、棺桶の縦と横が同じ長さだったって言われていますね。

(赤江珠緒)ええーっ!?

(山里亮太)正方形?

(町山智浩)そう。だから一歩も歩けなかったんですよ。この映画ではまだそこまで行っていない状態だったんで。でも、痛風になっちゃっていて、ほとんど歩くことができなくて。車椅子じゃないと移動できないし、王宮の外には全然出れないという感じになっていますね。で、ただ結構この人はかわいそうで。この人、演じている女優さんはオリビア・コールマンっていう女優さんなんですけども。この人、あんまり知られていない人なんですけど、このアン女王の演技でゴールデングローブ賞の主演女優賞を取りましたね。

(山里亮太)へー、いきなり。

(町山智浩)というのはこの人、実際にはかわいそうな人なんですよ。この人、いっつもね、「私はどうせブスでバカでデブだってみんな、思っているのよ!」って言っているんですよ。

(赤江珠緒)コンプレックスがすごくある人なんだ。

(町山智浩)すごいんですよ。わかっているんですよ。で、召使いの人がちょっと見ただけで「いま、私を見ていたでしょう? 私を見て、バカにしていたでしょう!」とか言っているような人なんですよ。

(赤江珠緒)ああ……。

(町山智浩)ちょっとかわいそうなんですよ。しかもね、その女王陛下の部屋にはウサギがたくさんいるんですよ。ウサギがいっぱいいて、そこらじゅうウサギのウンコだらけなんですよ。

(赤江珠緒)なぜに?

(町山智浩)それはね、ウサギが17匹いるんですけど、「17」というのはこの人が産んで死んでしまった子供の数なんですよ。

(赤江珠緒)えっ、17人も?

(町山智浩)17人も。流産、死産、あとは体が弱くてすぐ死んじゃったとかで17人の子供が死んでいるんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)なんというか医学的な問題があったらしいんですけども。で、「跡継ぎを産まなきゃならない」って言われているのに全然産めないまま、旦那さんも死んじゃっているんですよ。

(赤江珠緒)あらー……。

(町山智浩)だからものすごいトラウマだし、ちょっと想像がつかないですよね。17人も子供が死んじゃうトラウマって。で、精神も破壊されているし、誰も味方がいないんですよ。で、いつも駄々をこねて「うわーっ、やだやだ!」とかってジタバタ、本当に子供みたいに手足をバタバタさせているという、非常に困った状態があるわけですね。

(赤江珠緒)そういう人がトップって、困った感じですね。本当に。

(町山智浩)そこでもう1人、彼女のブレーンがいるんですね。それがサラ・チャーチルという公爵夫人かな? 貴族のご婦人なんですけど、それがレイチェル・ワイズさんというアカデミー賞女優さんが演じますけども。この人がアドバイザーとしてこの女王についているんですよ。この人はね、チャーチル首相の祖先ですね。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。はい。

(町山智浩)で、この人はすごく政治的な才能があって、全部わかっているから彼女のかわりに考えて。で、アン女王はこのサラさんの言う通りになにもかもしているんですよ。

(赤江珠緒)ふーん! じゃあ、影の支配者みたいな?

(町山智浩)そう。黒幕みたいな存在なんですよ。で、このレイチェル・ワイズさんという女優さんも実際にケンブリッジを出ている人ですからね。ものすごい頭がいい上にこの人、この顔で48歳ですからね。

(赤江珠緒)おおーっ!

(町山智浩)美魔女なんですよ。しかもね、この映画の中ではみんなすごいドレスを着ているんですけども。当時の大きいイギリス貴族のドレスを。でも、この人だけはそういうのも着るんですけど、ほとんど男装ですね。パンツルックが多いんですよ。

(赤江珠緒)へー! ああ、その方が合理的だということですか?

(町山智浩)うーん? スポーツマンなんですよ。馬も乗れるし、狩猟もするし、かっこいいんですよ。だから凛々しい感じ。もし日本でこれをやるんだったら、天海祐希さんとかがやったらすごくいい感じですね。

(赤江珠緒)ああ、なるほど、なるほど。

(町山智浩)声も男声だし、しゃべり方もナヨナヨしてなくて。「そうじゃないですね」みたいな感じなんですよ。

(山里亮太)宝塚の男役的な?

(町山智浩)そうそう。アン女王に対しても「あなたのことを『ブス』だの、そんな風に言うのは私だけですからね」とかっていう感じでズケズケとなんでも言っちゃう人なんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)女子もキュンときちゃう感じの。

(町山智浩)そう、それで女王は言いなりなんですね。で、そこにもう1人、やってくるんですよ。それがエマ・ストーンという『ラ・ラ・ランド』でアカデミー主演女優賞を取ったあの女優さんがアビゲイルという名前の女中さんとしてやってくるんですね。

(赤江珠緒)うん。

レイチェル・ワイズVSエマ・ストーン

(町山智浩)で、このアビゲイルはサラさんの従姉妹なんですけども。お父さんが失敗してお金をなくしちゃって、売られてきちゃった人なんですよ。没落して。で、とにかく一銭もない状態で王宮に下働きとして入ってくるんですね。で、徹底的にいじめられるんですよ。

(赤江珠緒)サラさんに?

(町山智浩)全員に。いちばん下だから。だから馬糞だらけの泥に顔から突っ込まれたりね。あと、「これで洗っておいて」って洗剤を渡されて、手を突っ込むとそれが苛性ソーダで手がブワッと溶けたりとか。

(赤江珠緒)ええっ!

(町山智浩)まあ、その頃は苛性ソーダを掃除に使っていましたんで。素手で触っちゃダメですけどね。そういう、もうひどいいじめにあうんですよ。で、男の貴族とかもすごい嫌なやつばっかりで。彼女を地位が低いからって蹴って崖から突き落としたりするんですよ。

(赤江珠緒)もう人でなしばっかりじゃないですか。

(町山智浩)人でなしばっかりなんですよ。で、ものすごいどん底にそのアビゲイルが落ちていくんですけども、そのへんのいじめ、いじめの連続は『キャンディ・キャンディ』的なんですよ。

(赤江珠緒)ああーっ! なるほど!

(町山智浩)シンデレラというかね。あと昔、『愛少女ポリアンナ物語』っていうテレビアニメがあったの、覚えていますか?

(赤江珠緒)はい。よかった探しをするポリアンナ。

(町山智浩)そうそう! よかった探しのポリアンナ! ああいう感じ。よく覚えてましたね。ポリアンナとか、あとは『小公女セーラ』とかあったでしょう?

(赤江珠緒)『小公女セーラ』もね、途端にいじめられるっていうの、ありましたね。

(町山智浩)あれもお父さんが没落したか死んだかで一銭もなくなっちゃって、孤児になっちゃったセーラさんが孤児院で廊下をゴシゴシゴシゴシ、こすらされる話だったでしょう? まったくそうなんだけど、その廊下をこすらされる時に苛性ソーダでやらされるんですよ。ひどい世界がずっと続いているんですけど。で、これでアビゲイルがどうしようもないだろうって思って見ていると、ある日偶然アビゲイルは女王陛下の秘密を知ってしまうんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それは、まあアドバイザーのトップのサラさんと実は同性愛関係にあって、エッチをしている現場を見ちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ああーっ! ふんふん。

(町山智浩)で、その秘密を知ったアビゲイルがそれを利用してこの王宮でのし上がっていくっていう物語なんですよ。

(赤江珠緒)はー! なかなかドロドロしていますね!

(町山智浩)これね、ドロドロしている女同士の戦いで、これを「『大奥』だ」って言ったのはそういうことなんですよ。だから『大奥』でも、わからないけどレイチェル・ワイズさんがやっているのはお局様みたいなものですよ。

(赤江珠緒)そうか。その寵愛を得るためにいろいろと……っていうことですか。

(町山智浩)そう。女王陛下の寵愛を得るために……っていう感じで。だから今度はアビゲイルが女王陛下を誘惑するっていう作戦に出るわけですね。レズビアン的に。これ、すごい映画でね、エマ・ストーンってもうアカデミー主演女優賞を取ったんだから、もうすごいトップに上がっちゃっているのに、すごい攻めているんですよ。このエマ・ストーンが。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)素っ裸になっていますよ。この映画の中で。で、それをレイチェル・ワイズが見てびっくりするっていうシーンがあるんですよ。そのシーン、本当にびっくりしているんですよ。というのは、脚本に書かれていないのにエマ・ストーンが「私、脱ぎます!」って言って監督は「いや、そんなことする必要ないのに」「私、脱ぎます!」っていうことで、エマ・ストーンが自分から脱いじゃっていて。

(赤江珠緒)えっ、そうだったんですか!

(町山智浩)そう。で、レイチェル・ワイズには知らせないでそのシーンを撮ったんで、レイチェル・ワイズは本当にエマ・ストーンが素っ裸になってびっくりしているのを撮られているんですよ。

(赤江珠緒)はー! なるほど!

(山里亮太)本当のリアクションだ。

(町山智浩)これ、赤いヘルメットをかぶった人が看板をもって出てきそうな感じですよね?

(山里亮太)「テッテレー♪」ですよね。本当だったら。

(町山智浩)そうそう。「すいません、ドッキリでした!」っていう。そういう映画になっているんですよ。結構すごいですね、これね。

町山智浩『サスペリア』(リメイク版)を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でルカ・グァダニーノ監督の映画『サスペリア』(リメイク版)について話していました。

(町山智浩)今日、お話するのは1977年についての話なんですよ。赤江さんたちは2歳か。

(赤江・外山)そうですね。

(町山智浩)1977年の『サスペリア』という映画のリメイクについて、話したいんですが。いま、後ろでかかっているのがその主題歌ですね。

(赤江珠緒)なんか怖い感じ。

(町山智浩)そうなんです。これ、僕が中学生の時に大ヒットしたんです。ものすごいヒットしたホラー映画で、あまりにもヒットしたんでサスペリアっていう雑誌まで出ましたよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)漫画雑誌ですけども。秋田書店が勝手に出したんですけどね。それぐらいヒットして便乗商品でしたけども(笑)。で、みんな中学生とか見に行って。その頃って中学生が映画観客の結構中心だったんですよ。「あれ見た」「これ見た」みたいな感じで休み時間にみんなで話してゾロゾロと映画館に行くっていう時代があったんですけどね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、これはどういう映画かっていうと、ドイツにあるクラシックバレエの学校にアメリカ人の女の子のスージーちゃんっていう子が入学するんですね。で、この子を演じているのはジェシカ・ハーパーっていう女優さんで。本当に目の大きな、少女漫画に出てきそうなかわい子ちゃんだったんですけども。

(赤江珠緒)ああ、本当だ。

(町山智浩)ところが、そのバレエ学校で次々に生徒たちが無残な死を遂げていくという。その死に方が凄まじい。かつ、非常に美しく撮られている映画だったんですよ。だからね、これはいわゆる猟奇残酷美の世界だったんですね。日本にはよく、昔からそういう伝統があって。美しい女の人が残酷に殺されるのを絵として描く伝統があったんですよね。月岡芳年(つきおかほうねん)とか、知りませんか?

(赤江珠緒)月岡芳年?

(町山智浩)「無残絵」というのを書いていた人ですけども。「つきおかよしとし」とも言いますけども。あとは、江戸川乱歩さんとか。

(赤江珠緒)ああ、なるほど。はいはい。

(町山智浩)猟奇残酷美の世界なんですよ。

(赤江珠緒)でもそういうジャンルはたしかに昔から、そうですね。絵としてもありますもんね。

(町山智浩)そう。エログロなんだけど美しいっていう。で、エロチックでみたいな。そういう映画で非常に中学生が見てドキドキしたわけです。そういう見世物映画だったんですね。で、それをいま、この時代になぜかリメイクしたのが今度公開される『サスペリア』なんですけども。これが、なんと監督が『君の名前で僕を呼んで』っていう、男性同士の非常に美しい美少年と美青年の恋愛映画がありましたけども。覚えてますか?

(赤江珠緒)うんうん。紹介していただいたやつですね。

町山智浩 『君の名前で僕を呼んで』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『君の名前で僕を呼んで』を紹介していました。 You're welcome. The #CMBYN soun...

(町山智浩)ギリシャの少年愛の世界を現代に描いたような非常に美しい文芸映画だったんですけども。その映画のルカ・グァダニーノ監督がなぜかこの猟奇美女殺人映画のリメイクをしたというので、「いったいどうなるんだ?」ってみんな言っていたんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だって、このグァダニーノ監督は実はゲイなんですけどもね。で、「全然資質が違うじゃないか? できるのか?」ってみんな言っていて。で、出来上がってみたら、元の『サスペリア』を撮ったダリオ・アルジェント監督が「全然違うじゃねえか!」ってめちゃくちゃ怒っているっていう。

(赤江珠緒)えっ、そんな? 全く違う作品になっちゃっている?

(町山智浩)そう。「美しいんだけど、全然関係ねえじゃねえか!」って思っているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、ところがクエンティン・タランティーノ監督というホラー映画とか大好きな監督がいるんですけども。そのクエンティン・タランティーノは「感動した。泣いた!」って言っているんですよ。

(赤江珠緒)へー、感動する?

(外山惠理)反応が違うんだ。

泣いたタランティーノ

(町山智浩)そう。オリジナルの監督は怒り狂っていて。ところが、オリジナルのファンであるクエンティン・タランティーノ監督はもう大絶賛しているという。で、非常にアメリカでも「これはいったい何なんだ?」って。特に映画のいちばん最後のところは何がなんだか全くわからないんですよ。それで大論争を呼んでいる映画なんですね。この『サスペリア』という映画は。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、まずどういう風に違うかって言うと、もうジャンルが違う(笑)。

(赤江珠緒)ジャンルが違う?

(町山智浩)もともとは見世物ホラー映画だったわけですよ。美しい女の人が残酷に死ぬのを見せて楽しむという非常に悪趣味なね。ところが、今回ははっきり言って非常に思想的な芸術映画になっちゃっているんですよ。方向がまずぜんぜん違うんですよ。

(赤江珠緒)そんなに変われます?

(町山智浩)だからね、『地獄先生ぬ~べ~』をドストエフスキーが漫画にしたみたいな……。

(赤江珠緒)いやいや、めちゃくちゃだな! 『地獄先生ぬ~べ~』を?

(町山智浩)そう。それぐらい違う。大江健三郎が四谷怪談を書いたみたいな世界ですよ。で、舞台は全く同じで1977年のドイツのダンス学校なんですけども、ただこの映画は1977年にドイツでなにがあったのか?っていうのを見せていくんですよ。その当時は、ドイツ赤軍というテロリスト集団が次々と誘拐とか殺人とかハイジャックとか爆弾事件を起こしていた時なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、その騒然たる状況から映画が始まるんですね。そこらじゅうでサイレンが鳴っていて、デモがあって、爆弾がバーン!って爆発している。テレビを見ると「ハイジャックです」とか言っている、凄まじい状況から始まるんですよ。この『サスペリア』は。で、なぜそういうことがあったのか?っていうと、ナチスの時代から時間が経っていたんですけど、いまだにドイツの政財界は元ナチスの人たちが支配をしていたんですよ。その時期に。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、それに怒った学生たちがそういう人たちを誘拐したり、テロを繰り返していったという時代があって。で、それに対してドイツの警察はテロリストを片っ端から捕まえて獄中にブチ込むんだけど、獄中でそのテロリストたちは全員謎の自殺をするという、非常に不可解な状況があって。しかも、そのテロの恐怖のためにドイツの人々は「もっと国家権力や警察権力を強くすべきだ!」っていう右派が台頭していくという、非常に左右の分断が起きて騒然としていた時だったんですね。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)で、しかもまだベルリンは壁で東西に分断されているんですよ。この映画『サスペリア』のダンス学校はベルリンの壁のすぐ脇に建っているんですよ。という、ものすごく政治的な状況から始まるんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)で、グァダニーノ監督は「元の『サスペリア』は1977年のドイツなのに全く政治的状況が描かれていない。だから私は全部描いた」って言っているんですよ。もうその段階でオリジナルに対する、はっきり言ってチャレンジをしちゃっているわけですよ。

(赤江珠緒)そうか。でもその政治的なものを盛り込んでホラー映画に……えっ、バレエ学校の話ですよね?

(町山智浩)バレエ学校の話です。それでバレエ学校の話になるんですけど、元の話はクラシックバレエなんですね。だから非常に痩せた女の子たちがつま先立ちでたおやかに美しく儚げに踊っているわけですよ。女性的美しさを全面に出していって。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ところが、今回はダンスが暗黒舞踏なんですよ。

(赤江・外山)暗黒舞踏?

(町山智浩)暗黒舞踏というのはたぶんもうご存知ではないと思いますけども、1980年代に世界的に大人気になった、非常におどろおどろしいグロテスクな踊りで。日本の暗黒舞踏が世界一人気あったんですよ。

(赤江珠緒)へえ。実際にその踊りがあるんですね?

(町山智浩)白塗りで裸で踊るんですけど、知りませんか?

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)大森南朋さんっていう俳優さんがいますよね。あのお父さんが……。

(外山惠理)麿赤兒さんだ。

(赤江珠緒)ああーっ!

(町山智浩)そう。麿赤兒さんは暗黒舞踏の人ですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だからもう、それぐらい知らないんですね。で、その暗黒舞踏っていうのは実はもともとドイツから出てきたんですよ。ナチス以前のドイツでマリー・ウィグマンというダンス研究家・舞踏家の人がいまして。その人が始めたのが「ノイエ・タンツ」、ニューダンスと言われているその暗黒舞踏なんですね。暗黒舞踏っていうのは日本でつけた名前ですけども。どう違うか?っていうと、それまでのバレエっていうのは非常に美しくはかなげなものだったんですよ。

(赤江珠緒)トウシューズで立って。

バレエではなく、暗黒舞踏

(町山智浩)そうそう。女性のバレリーナが女性の美しくさとか、まあはっきり言って女性らしさみたいなものを全面に出していったわけですね。ところが、これは逆で。女性の強さを出していくものなんですよ。ニューダンスは。だから、弱々しく踊らないで「ダン、ダン!」と足でなんというか四股を踏みながら踊ったりとかして。

(赤江珠緒)そんなドスドスした感じの踊りなんですね。

(町山智浩)ドスドスした。重力を感じさせて踊るっていうのが大事だったんですね。で、そのもともとの『サスペリア』という映画は連続殺人の裏にあるのが……これはもうネタを割っちゃっていいと思うんですけど、バレエ学校を魔女たちが経営していて。で、その魔女たちが生贄のために女の子たちを殺していたっていうことがわかるという映画だったんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、ところがそのマリー・ウィグマンっていう実在のノイエ・タンツの人はいちばん有名な踊りが「魔女のダンス」っていう踊りなんですね。で、グロテスクなグロテスクな踊りをやって、そこから世界のダンスが変わっていったんですけども。それをこの映画の中ではやっていて。ティルダ・スウィントンさんという女優さんがこのマリー・ウィグマンさんをモデルにしたダンスの先生をやっているんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、これがすごく重要なのは、そのマリー・ウィグマンのダンスっていうのはグロテスクだからナチスに弾圧されて潰されているんですよ。

(外山惠理)ええーっ、うんうん。

(町山智浩)そこでまたナチスが出てくるんですけど。で、さらにこのティルダ・スウィントンさんという女優さんがもう一役演じていて、その人が70過ぎの男性の老人なんですね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)写真があるんですけど、すごい二役をやっているんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、このおじいさんをティルダ・スウィントンさんっていう女優さんがやっているんですけど。このおじいさんが出てくるんですけど、これはリメイク版にしか出てこないおじいさんなんですけど。この人がまた非常に重要な人物で、クレンペラーっていう名前なんですけども。この人はね、ビクター・クレンペラーという実在の人物をモデルにしているんですね。で、このクレンペラーっていうおじいさんはユダヤ系なんですけども、ナチスの弾圧下を生き延びた男なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん。

(町山智浩)実在の方の人もそうで。この人は日本語で翻訳本がいくつも出ていますけども、とにかくナチスの弾圧を目撃した目撃者として本を出した人なんですね。

私は証言する―ナチ時代の日記(1933‐1945年)
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(町山智浩)で、この人が自分が愛した奥さんがナチスの弾圧の中で離れ離れになってしまって、生きているのか死んでいるのかわからないんでいまも想い続けているっていうおじいさんなんです。このクレンペラーっていう人が。

(赤江珠緒)ふーん。うんうん。

(町山智浩)で、この非常に政治的な話が続いていく中、クレンペラー博士が……この人、精神分析の博士なんですけども。こういう話をするんですよ。「魔女っていうのはいったいなんだと思う? 悪いものだと思っているのか?」っていう話をするんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

町山智浩『ファースト・マン』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『ファースト・マン』について話していました。

(町山智浩)今日はね、『ファースト・マン』という映画を……日本では今週末に公開かな? その紹介をしたいんですが。『ファースト・マン』っていうのは「最初の男」っていうと、なんかエッチなことを想像したでしょう?

(山里亮太)フフフ(笑)。

(町山智浩)「町山さんにとっての最初の男は誰だろう?」とか思ったでしょう?

(赤江珠緒)いやいや(笑)。

(町山智浩)そんな話じゃ全然ないんですよ(笑)。人類史上最初に月に着陸した男、ニール・アームストロング船長の映画が『ファースト・マン』。しっかりした話ですよ。

(赤江珠緒)ちょうど今年が50年目に当たるとかで。

(町山智浩)そうなんですよ。それでもうずっと映画化されると言いながら、何十年も映画化できなくてやっと完成したんですね。これ、監督がなんと『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督で、ずっとミュージカル映画を作り続けた人が突然、アポロの映画を撮ったという。

(赤江珠緒)ほー!

(山里亮太)ガラッとテイストが変わって。

(町山智浩)そうなんですよ。

(赤江珠緒)まあ、若干空に飛んでいくところもありましたよ。『ラ・ラ・ランド』でも。

(町山智浩)そう。宇宙に行くところ、ありましたけどね(笑)。

(赤江珠緒)ブワーッと星のところに(笑)。

(町山智浩)そうなんです。で、主役が『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴズリングで。まあ『ラ・ラ・ランド』では歌って踊っていた人なんですけども、今回のアームストロング船長の役はほとんどしゃべらない。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)感情もほとんど出さない。

(赤江珠緒)ああ、アームストロングさんってそういう方だったんですか?

(町山智浩)そういう人だったんですよ。だから宇宙を目指す宇宙飛行士の話っていうと、みんなが想像するのはアメリカの旗、星条旗がバババッとあって。それで「俺はアメリカのためにがんばるぞ! 人類初の月着陸を目指すんだ、イエーッ!」みたいな。

(山里亮太)ノリノリのね。

(町山智浩)ノリノリのね。時々アメリカンジョークを言ったりね。で、奥さんを抱きしめてキスしたりとか。そういうなんか熱い感じ、熱血なものを想像するじゃないですか。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)全然そうじゃないんですよ、この『ファースト・マン』って。ひんやりして、冷たい映画なんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)で、それはね、本当にこのアームストロング船長っていう人はそういう人だったんですよ。

(赤江珠緒)物静かな方?

(町山智浩)感情が全く表に出ない人。だから映画化、すっごい苦労したんですよ。

(山里亮太)それでなんですね。

(町山智浩)ドラマにならないんですよ。パニックも起こさないし。

(赤江珠緒)ああ、そうか。でも、そういう能力も求められるのか。宇宙飛行士には。

(町山智浩)そうなんです。僕、実は宇宙飛行士の方にいままで2回、インタビューをしたことがるんですよ。1人はユージン・サーナンという人で、アポロ17号で人類で最後に月に行った男です。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、もう1人はリロイ・チャオさんっていう人でこの人は中国系のスペースシャトルの乗組員だった人なんですよ。で、やっぱり聞くと「宇宙に行くのって怖いでしょう?」みたいな話をするんですけど。そうすると「いや、別に」って言うんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)「そこで怖いって思ったりパニックになるような人は絶対に宇宙飛行士には選ばれないから。それはありえないよ」って。

(赤江珠緒)はー! そうなんだ。

(町山智浩)ただ、そういった宇宙飛行士の中でも歴史上最も落ち着いていた男と言われていたのがこのアームストロング船長なんですよ。

(山里亮太)その中でも?

(町山智浩)異常に落ち着いているんですよ。

(赤江珠緒)だって初めて地球の外に出ちゃうわけですもんね。

(町山智浩)出ちゃうんですよ。

(赤江珠緒)そりゃ怖い……。

(町山智浩)めちゃめちゃ怖いでしょう? で、この人は最初、ジェミニという宇宙船で地球の周りを回ったんですけど。それでドッキング実験をしたんですね。その時になにかの事故で宇宙船がものすごい回転をし始めて1秒に1回転、回転をする。全く止まらないっていう宇宙空間でのスピンが始まるんですよ。でも、その時も淡々と彼はパニックを一切起こさないで「OK、じゃあこれは止められないから、大気圏に突入することで回転を止めよう」ってスッと大気圏に突入して助かっているんです。

(赤江珠緒)ええーっ!

(山里亮太)ドラマにしづらい……。

(町山智浩)そう。パニックを起こさないと見ている方もハラハラしないじゃないですか。

(赤江珠緒)そうですね。うん。

(山里亮太)「想定の範囲内なんだ」って思っちゃう。

(町山智浩)そう。で、しかもこの人はね、家族に対してもほとんど心を開かなかった人なんです。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)この映画ね、息子さんが顧問をやっているんですけども。とにかくね、このアームストロング船長は「これから月に行くぞ!」っていう時にも家族にそのことを話していないんです。

(赤江珠緒)ええーっ! 嘘、そうだったんですか?

(町山智浩)そう。で、奥さんはブチ切れて「それぐらい話せ!」って言うシーンがあるんですけど(笑)。

(赤江珠緒)「それを話さなかったら、あとは何を話すことがあるんだ?」みたいな(笑)。

(町山智浩)よくさ、お父さんで会社で起こっていることを一切話さないお父さんっていますけど、月に行くのを言わないのはそりゃあマズいだろう?っていう(笑)。

(赤江珠緒)それは言って!

(山里亮太)人類初よ?

(町山智浩)ねえ。人類初で。死ぬかもしれないのにね。だから結局ね、奥さんとはあまり心がつながらなくて、その後に離婚をしているんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。

落ち着きすぎていてドラマにならない

(町山智浩)そのぐらい心を閉じてしまった男の話をどうやってドラマにするのか? しかもお客さん、観客が彼に感情移入をしなきゃならないんですよ。感情移入しにくいでしょう? だからこれね、映画化に苦労をしたんですけどこのデイミアン・チャゼル監督は「じゃあ、無理やりさせる!」っていうやり方を取って。全てのシーンがほとどんアームストロング船長の一人称で撮影するというやり方になっているんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)カメラがアームストロング船長の視点になるか、アームストロング船長の顔ギリギリから撮影するというやり方で。もう無理やり宇宙船に……だからアームストロング船長を見ていたらいきなり腕を掴まれて「おい、あんたも乗れ!」っていきなり乗せられちゃう感じ。

(赤江珠緒)ああーっ!

(町山智浩)そう。「その隙間に入ってろ! これから月に行くから!」って月に連れて行かれちゃう感じ。観客は。

(赤江珠緒)ああーっ! うん。

(町山智浩)それでしかも、宇宙船が飛んでいる時に宇宙船の外側から見せて「宇宙船が飛んでいますよ」っていう画が普通、あるじゃないですか。それがほとんどないんです。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)ほとんどがアームストロング船長の目から見た、宇宙船のコックピットに小さい窓があって。そこから見える風景だけ。

(赤江珠緒)そうか。じゃあ本当に自分もそこの中にいて、一緒に共有しているっていう感じになるんですね。

(町山智浩)はい。その頃の宇宙船って全く身動きが取れない棺桶みたいなものなんですよ。身動きが取れないから、座ったままなんですね。ほとんど。で、カメラがもう顔10センチぐらいから撮影をし続けて。だから無理やり観客を宇宙船に乗り組ませて、ベルトで縛っちゃって、「もうお前は動けねえぞ!」みたいな。そういう映画になっているんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、それをやるためにもうひとつ、その監督がリアルを作るために苦労をしているのが、まずデジタルとかコンピュータグラフィックスは基本的には使わない。一切使わない。で、宇宙船とかは全部ミニチュアとか模型で実物大とかを作って、昔の特撮風に撮っていますね。

(赤江珠緒)うわっ、すごい。いまこの時代に?

(町山智浩)この時代に。全部本物と同じ大きさ、ないしはそのミニチュアを使って撮っているんですよ。で、背景に宇宙とかが映るのも合成じゃなくて、実際に巨大なLEDのスクリーン、モニターを作って、そこに当時のNASAの映像を映して。それを背景に模型を動かして撮っているんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)だからデジタル合成をしていないですよ。

(赤江珠緒)じゃあ、本当に昔の車のシーンとかを撮っていたような?

(町山智浩)そうそう。車のシーン、スクリーンに風景を映していたじゃないですか。あの撮り方をしているんで、すごく現場っぽいんですよ。で、もうひとつはどうしても、ビデオカメラを使って撮ると1969年の出来事なんだけど、1969年の映像に見えないんですね。

(赤江珠緒)ふーん。

(町山智浩)これ、時代劇も最近はずっとビデオ撮りの時代劇って多いですよね? 『大岡越前』とか『水戸黄門』とか。ビデオで撮っていると「どうもこれは違う」って思いませんか? 時代劇って。

(赤江珠緒)ああー、そうか。

(町山智浩)でね、ビデオってデジタルもそうなんですけど、やっぱりピントが合いすぎちゃうとか、画質の問題でどうもその昔のものを撮る時には合わないんですよ。

(赤江珠緒)どうしても薄暗い感じとかもなくなったりね。

(町山智浩)なくなったりして、感覚としてやっぱりフィルムで撮った方が昔の感じがするんですよ。で、この映画は1969年当時のNASAとかニュースフィルムで使われていた16ミリフィルムが使われています。これ、超大作なんだけど、これぐらいのちっちゃいカメラで撮っています。16ミリフィルムで。

(山里亮太)へー!

(赤江珠緒)こだわってますね。

(町山智浩)ものすごいこだわっています。で、月面のシーンは、月面って逆に全くホコリとか空気がないんで完全にクリアだから、これはものすごくクリアに映る70ミリフィルムで撮影をしているんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だから逆にキチキチッとピントがピーッ!って合う感じで撮っているんですけども。それは逆にデジタルよりもピントが合うんですよ。解像度が高いから。70ミリフィルムの方が。だからそういうね、ものすごくフィルムであるとか撮り方で苦労をして、本当のリアルのアームストロング船長を感じさせてやるという。で、「アームストロング船長っていう人は全くパニックを起こさないから君たちとは遠い人だけども、もうお前はアームストロング船長と一緒の宇宙船に乗せたからな!」っていう映画なんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)すっごいですよ、これ。

町山智浩 映画『バイス』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でブッシュ政権の副大統領を務めたディック・チェイニーを描いた映画『バイス』について話していました。

(町山智浩)今日は『バイス』という映画を紹介します。

(曲が流れる)

(町山智浩)はい。ノリのいい曲が来ましたけども。『バイス』の映画の中で流れる曲なんですが。アメリカのニュース番組の始まりみたいな音楽なんですけども

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)これが政治的な映画なんですよ。『バイス』というのは「バイス・プレジデント(副大統領)」という意味なんですね。で、この映画の主人公はブッシュ政権……2000年から二期務めたブッシュ政権の副大統領だったディック・チェイニーという人なんですよ。

(赤江珠緒)チェイニーさんに焦点を当てた映画?

(町山智浩)副大統領についての映画って普通、作らないですよ。

(赤江珠緒)たしかに。あんまり記憶にないですね。

(町山智浩)副大統領のことってあんまりみんな知らないじゃないですか。日本の人はもちろん、アメリカ人もそんなに関心がないんですよ。だからこれはすごく珍しいことなんですね。でも、この映画は現在、もうすぐ授賞式があるアカデミー賞で最優秀作品賞、脚本賞、主演男優賞、助演男優賞、助演女優賞、編集賞、メイクアップ賞でノミネートされているんですよ。

(赤江珠緒)すごい! 大注目。

(町山智浩)すごい映画なんですよ。副大統領がですよ。で、いったいどういう映画なのか?っていう話をしますと、このディック・チェイニーという人は歴史上もっとも力を持った副大統領と言われたんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、ブッシュ政権を裏から操っていた参謀とか、黒幕とか、ダースベイダーとかって言われていた人なんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)ブッシュ政権の時って結構いろんなことがあった時ですよね?

(町山智浩)そうですね。いちばんこの人がやったことで大きかったのは、9.11テロがあった時にテロと無関係なイラクに攻め込んだことなんですよ。で、あれをブッシュにやらせたのはディック・チェイニーだと言われているんですよ。

(赤江珠緒)ああ、はー!

(町山智浩)だから、これは監督のアダム・マッケイっていう人に「なんでディック・チェイニーを映画にしようと思ったんですか?」って僕、直接会って聞いたんですけども。そしたら「普通、副大統領のことなんてみんなあまり一生懸命考えていないだろう? 裏にいる人だ。もともとこの映画のタイトルは『Back Seat』っていうタイトルにする予定もあった」って言っていたんですよ。『Back Seat』っていうのは車の後の座席のことなんですよ。

(赤江珠緒)ああ、はい。

(町山智浩)後の座席の人が運転手にいろいろと文句をつけて車の行き先を決めていたんだっていう話にしようとしたんですよ。で、みんながあまり注目をしていないディック・チェイニー副大統領が実はそのイラク戦争を始めて。しかもそのイラク戦争によっていま現在の世界の状況が作られてしまったという。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)全世界の人にものすごい影響を与えた、歴史を変えた男が実は、誰にも注目をされていない副大統領だったんだっていう。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)「だからこのディック・チェイニーっていうのは一体何者なんだ?っていう映画を作ろうと思った」って言っているんですね。

(赤江珠緒)ふんふん。

(町山智浩)で、この映画、まずいちばんびっくりするのは、このディック・チェイニーというまんまるのハゲデブ親父なんですけども。これを演じているのがクリスチャン・ベールなんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)これ、写真を見てください。

(山里亮太)いや、すごい。これ、痩せている時と……。

(町山智浩)ディック・チェイニーにしか見えないでしょう?

(赤江珠緒)そっくりになっていますよ。

(町山智浩)すごいでしょう? クリスチャン・ベールっていうのは『バットマン』とかに出ている痩せた俳優さんですよ。本来は。

(赤江珠緒)ですよね。

(町山智浩)今回、体重を20キロ、増やしていますね。

(山里亮太)これは特殊メイク?

(町山智浩)お腹とかにはパッドを入れたんですけど、顔の部分はこの人、本当に20キロ太って。とんでもない体型になっている写真、ありますよね?

(赤江珠緒)ああーっ! 1回ね、ガリガリに痩せている時の写真と……。

(山里亮太)中年のおじさんの体と……。

(赤江珠緒)ドテッと太った時の写真が届いています。

20キロ増量したクリスチャン・ベール

(町山智浩)はい。この人ね、映画ごとに20キロぐらい増やしたり減らしたりしているとんでもない俳優さんなんですよ。クリスチャン・ベールって。

(赤江珠緒)ええっ? 髪型も?

(町山智浩)髪型はね、頭を剃っていますね。この人、ハゲを表現するために。すごいですよ。で、『マシニスト』っていう映画に出た時には不眠症の役だったんですけども。骨と皮になっているんですよ。本当に骨と皮になっているでしょう?

(山里亮太)写真がありますけども、本当に骨と皮。

(赤江珠緒)あばらが浮き出ちゃっているっていう状態で。

(町山智浩)その後に『バットマン』に出た時には筋肉モリモリのマッチョマンになっていて。でもこの映画はね、次々に作られているんですよ。それがすごいんですけど。で、その後に『ザ・ファイター』っていう映画で今度はシャブ中毒の役で今度はガリガリになって。しかも顔の頬をこけさせるために奥歯まで抜いてますね。クリスチャン・ベールは。

(赤江珠緒)本当、役作りがすごいですね。

(町山智浩)その後にまた『アメリカン・ハッスル』っていう映画でデブのおっさんを演じてまた太って。

(赤江珠緒)これも同じ人?

(町山智浩)そう。デブと痩せを何回繰り返すんだ?っていう。で、今回はまあとんでもなく太ってディック・チェイニーになっているんで。アカデミー主演男優賞の最有力候補って言われているですね。で、アカデミー賞っていうのは俳優さんが投票するので、俳優の苦労がいちばんにじみ出ている役が賞を取りやすいんですよ。太ったり痩せたりっていう。仲間内なんでね。

(赤江珠緒)はい、うん。

(町山智浩)だから彼が今回は取るだろうって言われているんですけども。今回、クリスチャン・ベールに会いまして、インタビューをしたんですけども。「もう太ったり痩せたりは終わりにする」って言ってましたね。

(山里亮太)どうしてですか?

(町山智浩)「奥さんと子供に止められた」って言ってました。

(山里亮太)それが理由でやめちゃうんだ。

(町山智浩)心臓がね、ボロボロになるらしいんですよ。これをやっていると。

(赤江珠緒)そうですか。これだけ痩せたり太ったりを繰り返すと、ねえ。

(町山智浩)で、今回はディック・チェイニーが心臓が悪いんで。心臓が悪いっていうのはどういう状況か?っていうことをいろいろとリサーチして研究したり、医者に話を聞いたら「あんたがやっていることがいちばん悪いよ」って言われたっていう(笑)。

(赤江珠緒)アハハハハハハハッ! ちょっとそれ、皮肉すぎる(笑)。

(町山智浩)そう。だから今回が最後の激太り映画っていうことになりますね。

(赤江珠緒)でも本当にチェイニー副大統領にそっくり。髪も白くして。

(町山智浩)もう本物にしか見えないんですけども。はい。でね、この『バイス』っていう映画が面白いのは、この人の若い頃ってアメリカ人のほとんどが誰も知らないんですよ。で、いままで彼はものすごく頭の切れる……まあ、ブッシュがああいう天然の人だったんで、その代わりに考えるブッシュのブレーンと思われていたんですよ。参謀だと。ところが、ディック・チェイニーは若い頃、全く勉強ができなかったんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)で、いろんな人からお金の援助とかを受けて、名門のイェール大学に入るんですけども。成績が悪くて落第して落とされて、学校から蹴り出されちゃうんですよ。2回も。で、故郷に帰って……この人、ワイオミングっていう田舎の人なんですけども、何をしていたか?っていうと、電信柱に電線をつける作業員として働いていたんですよ。そんな人が副大統領になるとは、誰も思わないですよね?

(赤江珠緒)たしかに。そこからどうやって副大統領に?

(町山智浩)だって大学もちゃんと行けてないんですよ。で、ところが彼の幼馴染がリンさんっていう人で結婚をするんですが、そのリンさんっていう人はものすごく頭がよくて。政治家を目指しているような女性なんですよ。「でも、自分は非常の保守的な人でワイオミングだから、女性が大統領になるなんていうことは考えられない。だから、あなたを大統領のようなものにするよ!」っていう。で、ケツを叩いて彼を政治家にさせていったんですね。奥さんが。

(赤江珠緒)奥さんの内助の功みたいな感じで?

(町山智浩)そうなんですよ。だから、よく言われているのはブッシュ大統領はディック・チェイニーの操り人形だったっていう風に言われているんですね。ところが、そのディック・チェイニーは奥さんの操り人形だったっていう話なんですよ。

(赤江珠緒)ほー!

ディック・チェイニーを操る妻

(町山智浩)これはね、結構はじめてなんでびっくりするんですけども。で、この奥さん役をやっている俳優さんはエイミー・アダムスさんという、この人はご存知ですよね? 最近だとスーパーマンの恋人役。あとは『メッセージ』という素晴らしい映画で……。

(赤江珠緒)宇宙船のやつだ。

(山里亮太)ばかうけの。

(町山智浩)そうです。ばかうけに似た宇宙船の。あれの主役で非常に評価されている女優なんですけども。で、今回はそのチェイニーを操る奥さんという役ですね。この人、そういう役は2回目なんですよ。その前は『ザ・マスター』っていう映画がありまして。それは新興宗教のサイエントロジーの教祖を操っている奥さんの役なんですよ(笑)。

(赤江珠緒)黒幕が多いですね。

(町山智浩)いや、2回目なんですけども。その『ザ・マスター』の方はすごくてね。このエイミー・アダムスは旦那さんの射精管理までするっていう。すごかったですけども。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)いや、映画を見るとびっくりしますよ。でね、この映画はこの奥さんがまるでシェイクスピアの『マクベス』のマクベス夫人みたいなんですよね。『マクベス』っていうのは奥さんに操られて。「あなた、権力を目指しなさい」って言われて殺人もしていってのし上がっていくっていう男の話なんですね。

(赤江珠緒)そうですね。はい。

(町山智浩)だから「マクベス夫人みたいだな」って見ている人は思うんですけども。この映画はね、「それ、シェイクスピアみたいよね?」って言っちゃうんですよ。このエイミー・アダムスとクリスチャン・ベールが映画の中で。

(赤江珠緒)自分たちで?

(町山智浩)自分たちで言って。「じゃあ、ここから先はシェイクスピアみたいにやってみましょうか?」って。急にそこから先、セリフがみんなシェイクスピアになっちゃうんですよ。古い英語で。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)これはね、コメディーなんですよ。『バイス』っていうのはコメディーなんですね。で、それ以外にもギャグがいっぱい入っていて。いわゆる「第四の壁」っていうのを破るという。観客に向かって話しかけたりね。

(山里亮太)『ハウス・オブ・カード』みたいだ。

(町山智浩)そうそうそう。『デッドプール2』みたいなことをやったりするっていう。で、しかもこの映画は謎のナレーターがいて。「カート」という白人の男性が出てきて、「僕がこの映画のナレーターです」って言うんですよ。でも、ただのおじさんなんですよ。で、どういう人か?っていうとそのカートという人はいわゆる白人の中産階級ぐらいのまあ、労働者で。愛国者で、それこそブッシュ政権とかトランプに投票しそうな非常に保守的な真面目な、アメリカという国を愛している人として出てくるんですけども。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)このカートという人はずっとナレーションをし続けるんですよ。

(赤江珠緒)映画に対して?

(町山智浩)映画に対して。でも、そのブッシュ政権によって彼はどんどん貧乏になったり、戦争に送られたりで大変なことになっちゃうんですけど。で、一体何でこのカートという人がナレーターなんだろう?って思うと、映画の最後の最後の10分ぐらいでこのカートとチェイニーの関係が明らかになってびっくりするっていうギャグがあるんですよ。

(赤江珠緒)うーん!

(町山智浩)これは言えないですけども。で、コメディーなんですけど、なんて言うか劇映画なのかドキュメンタリーなのかテレビのバラエティーなのかよくわからないっていう映画なんですよ。で、どうしてかっていううと、この監督のアダム・マッケイっていう人はもともとアメリカのお笑いバラエティー番組の『サタデー・ナイト・ライブ』のスタッフだったんですよ。『サタデー・ナイト・ライブ』ってご存知ですよね?

(赤江珠緒)うんうん。

(山里亮太)コメディーの。

(町山智浩)アメリカ最大のコメディー番組で、日本の『ひょうきん族』もみんなここから生まれたんですよ。ずっとやっている。まあ、わからないと思いますけども、偉大な番組なんですよ。アメリカ最大の番組なんですよ。それの演出とか作家をやっていた人なんですよ。このアダム・マッケイっていう人は。で、『サタデー・ナイト・ライブ』が日本のお笑い番組と決定的に違うのは、毎回毎回、ほとんど毎回、実際のその時の政治家の役をコメディアンが実名で演じて。それでその時その時の時事ネタをコントにするっていうことなんですよ。

(赤江珠緒)ふーん。うんうん。

(町山智浩)「ふーん」っていうか、日本にはないでしょう?

(山里亮太)ないですね。

(町山智浩)まあ、昔はあったんですけども。最近は誰もやらないですよね。安倍さんのマネとかをやって、その時にある時事問題をお笑いにしたりしないでしょう? いまは。

(山里亮太)ザ・ニュースペーパーさんっていうグループがやっているけども、テレビでやるっていうことはないか。

(町山智浩)テレビで毎週、最高の視聴率のお笑い番組でやってるんですよ。ずっと。

(山里亮太)ああ、それはないですね。

(町山智浩)アメリカでは何十年も。

(赤江珠緒)「そういうのがない」っていうことで結構ね、茂木健一郎さんの発言で問題になったりもしましたよね。

町山智浩 アメリカのお笑い芸人が政治的なネタを扱う理由を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアメリカのお笑い芸人・コメディアンたちが積極的に政治的なネタを扱う理由について話していました。 (町山智浩)はい。町山です。よろ...

(町山智浩)そう。日本にはないんですよ。でも、それをずっとやっていた人がこのアダム・マッケイっていう監督なんですよ。だからその延長上でこの映画はやっているんです。

町山智浩『ブラック・クランズマン』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でスパイク・リー監督の最新作『ブラック・クランズマン』を紹介していました。

(町山智浩)今日はですね、カンヌ映画祭グランプリを受賞して今度のアカデミー賞でも作品賞、監督賞、その他6部門にノミネートされている映画『ブラック・クランズマン』という作品を紹介します。音楽をどうぞ!

(町山智浩)これは1968年にソウルのゴッドファーザーとかファンキー大統領とか言われているジェームス・ブラウンさんが出したレコードで『Say It Loud I’m Black And I’m Proud』っていう曲なんですよ。これがこの『ブラック・クランズマン』っていう映画の中でかかるんですけど。これはどういう意味か?っていうと、「大きな声で叫べ。私は黒人でそれを誇りに思っている」という。「大きな声でそう叫べ!」って言い続けているんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、なぜこの歌がこの映画でかかっていて重要かというと、黒人たちはアメリカではそれまではそうじゃなかったんですよ。ちっちゃくなって生きていたんですよ。でもこの時に……まあ、その前の1965年にキング牧師の戦いによってやっと南部の黒人にも白人と同等に人権と選挙権が認められたんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だからそれを高らかに謳歌する形でこの歌を歌っているんですけども。この時、「ブラックパワー」っていう言葉が出てきたんですよ。「ブラックパワー」って聞いたこと、ありますか?

(赤江珠緒)ええっ? いや、ないですね。

(町山智浩)ああ、そうですか。僕が子供の頃、まさに物心がついた頃。小学校に入るぐらいの頃にブラックパワーという言葉がすごく、まあ日本にも伝わってきて。一言でいうと、世界中のいろんな人種の人たちがアフロヘアーにしたんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)子門真人さんであるとか。松鶴家千とせさんであるとか、林家ペーさんとか……って、どうして芸人ばっかりなんだ?(笑)。もっとミュージシャンがね……(笑)。黒人音楽が好きなミュージシャンたちがそういうアフロヘアーという大きな、チリチリの毛に白人の人もして。アジア人もして、ブラックパワーっていうアフリカ系の人たちへの経緯と憧れを示していた時代なんですよ。

(赤江珠緒)へー! 50年ぐらい前に。

(町山智浩)そうです。なんでその頃の人たちってみんなアフロヘアーにしているのかって、知らなかったでしょう?

(赤江珠緒)そうですね。アフロヘアーのブームの時、ありましたもんね。

(山里亮太)流行りっていうことなのかな?って思っていたんですけども。

(町山智浩)非常にそれは黒人文化と黒人の革命に対する賞賛から始まっているんですよ。それまではアフリカ系の人たちもアメリカの中では自分の人種を主張しなかったので、髪の毛を短く刈っていたんですよ。でもそうじゃなくて、俺たちはこれがいいんだ!って髪の毛を伸ばして。女の人なんかも大きいアフロヘアーにしていたんですよ。そういう時代があって、それは非常に政治的なものだったんですよ。で、それを背景にした映画が今回の『ブラック・クランズマン』っていう映画なんですが。「クランズマン」っていうのは「KKK」という白人至上グループ……これはご存知ですか?

(赤江珠緒)はい。クー・クラックス・クランですね。

(町山智浩)そうです。クー・クラックス・クランなんで「クラン」っていうのは「一味」っていう意味なんですけども。『ブラック・クランズマン』っていうのは「黒人のKKKメンバー」っていう意味なんですよ。

(赤江・山里)ええっ?

(山里亮太)それは、成り立つんですか?

(町山智浩)変でしょう? KKKというのは黒人が選挙に投票に行ったり、あとは「あの黒人が生意気だ!」って言って殺したりリンチしていたグループなんですけども。この映画は黒人の主人公が自分を偽ってKKKに入会しちゃうっていう話なんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ? でも、入会できます? 白人至上主義者なのに……。

(町山智浩)これね、電話だけだったんですよ。電話をかけて、身分証明が必要じゃないのか?って思ったら、KKKのリーダーのデービッド・デュークっていう男が電話を取って、「私はしゃべり方で黒人か白人かはわかるから。電話を聞いてればわかるから。君は白人だと思うよ」っていうことで入団を許可しちゃったんですよ。

(赤江珠緒)ああー、はいはい。

(町山智浩)それでこれ、実話なんですね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)1978年にコロラドの警察の職員だった黒人のロン・ストールワースという人がKKKの会長、団長であるそのデービッド・デュークに直接電話をして。白人だと思い込ませて入団をして潜入捜査をしたっていう実話をもとにしている映画なんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)でも、途中から「じゃあ顔出せよ」っていう話になってくるんですよ。

(赤江珠緒)そうでしょうね。

黒人警官がKKKに潜入捜査

(町山智浩)で、「しまった!」っていうことで今度は白人の同僚警官がこの主人公のロン・ストールワースのふりをしてKKK内部に入っていくんですけどね。という、潜入捜査物なんですね。ただ、そう聞くと刑事物みたいな話を想像するんですけど、全然そういう映画じゃないんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)いま言った部分っていうのは事実の部分で、そこ以外はもうめちゃくちゃです。

(赤江珠緒)めちゃくちゃ?

(町山智浩)もう全然事実とか時代考証とかは完全に無視。好き勝手で映画自体もさっきの話を聞くとアクションスリラーというか推理物みたいな、刑事物だと思うじゃないですか。ところが映画は時々コメディーになったりミュージカル風になったりドキュメンタリー風になったり。スタイルが安定しないんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)あっちこっちに行っちゃうんですよ。で、これはね、監督がスパイク・リーという監督で、この人は黒人の監督として非常にレイシズムとかと戦ってきている監督なんですけども。『ドゥ・ザ・ライト・シング』とか、あとは『マルコムX』というキング牧師と並ぶ黒人の人権運動家の人の伝記映画で有名な人なんですけども。この人の映画というのはスタイルが自由気ままで、場面ごとにタッチが全然違うんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(山里亮太)それは見ていて違和感で見づらいみたいなのはないんですか?

(町山智浩)ああ、違和感がちょっとある人もいると思いますよ。あのね、だからバラエティーでよくワイプが入るじゃないですか。話しているとその話題のものが画面に割り込みで入ってきたりするじゃないですか。それがあるんですよ。

(赤江珠緒)映画で?

(町山智浩)映画なんだけど、バラエティーみたいなんですよ。作りが。そこが面白くて監督賞とかにノミネートされているんですけども。前に紹介したブッシュ大統領の副大統領、ディック・チェイニーの『バイス』っていう映画も、あれも監督がバラエティー出身の人なんでバラエティーみたいで。ワイプもあるし。コメディータッチになったり、ドキュメンタリーになったり、ニュースみたいになったり、ミュージカルみたいになったりするんですね。

町山智浩 映画『バイス』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でブッシュ政権の副大統領を務めたディック・チェイニーを描いた映画『バイス』について話していました。 米アカデミー賞8部門ノミネート...

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だからこの2つの映画っていうのは非常によく似ていて。ちょっと「なにこれ?」っていうところもある人も多いと思うんですけども。で、いちばんこの『ブラック・クランズマン』っていう映画がとんでもないのは、実際にあった事件が1978年の話なんですけど、時代設定を1972年にしちゃっているんですよ。で、どうしてか?っていうと、その時代がブラックパワーの時代だったからなんですよ。で、そのファッションとかもすごく、その当時のかっこいい黒人のファッションで。それでバカな白人をやっつけるっていう話になっていて。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)でね、ちょっと音楽を聞いてほしいんですけども。『黒いジャガー(Shaft)』のテーマです。

(町山智浩)これがその1971年、2年にすごく流行っていたブラックムービーの代表作『黒いジャガー』の主題曲なんですね。これね、僕はリアルタイムで体験をしているんですけども。映画もその黒人アクション映画ばっかりになっていた時代っていうのがあるんですよ。1972年ぐらいに。

(赤江珠緒)へー! ええ。

(町山智浩)で、かっこいいアフロヘアーの黒人のヒーローたちが悪い白人たちをめっちゃめちゃにやっつけて。で、あらゆる人種の女の子たちにモテモテっていうシリーズがどんどん作られていったんですよ。それで、もうファッションについても白人もアジア人たちも黒人のファッションを真似をしてるっていう時代だったんで。そういう映画のバカバカしいところも含めたスタイルっていうのを全部この『ブラック・クランズマン』では真似しているんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だから、70年代のブラックムービーのスタイルを現代に真似するっていうパロディーみたいな映画になっています。すっごい複雑なことをやっていますよ、これ。

(赤江珠緒)すごいですね。その実話のKKKに潜入するところも入れながら。

(町山智浩)そう。入れながら。だから日本でやると、その当時の……なんだろうな? 『仁義なき戦い』とか『太陽にほえろ!』とかその頃の映画のスタイルをそのままやるみたいなことをやっていて。だから全然それを知らないと「いったいこれは何をしているの?」って思う人も多いと思うんですよ。

(赤江珠緒)そうかー。

(町山智浩)だからこれは難しいなって。僕なんかはもう完全に懐かしい世界なんですけども。ただ、ちょっとこの映画のすごく変なところというかすごい攻撃的なところというか問題を起こしたりしているところっていうのがありまして。これ、なんでいまこんな映画を作るのか?っていうことなんですね。問題は。

(赤江珠緒)うんうん。

町山智浩『COLD WAR あの歌、2つの心』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でポーランド映画『COLD WAR あの歌、2つの心』について話していました。

(町山智浩)この時期、いっつも日本に来ているんですけども。それはアカデミー賞の授賞式が来週の月曜日ぐらいで。来週月曜の日本時間だと朝からアカデミー賞の授賞式の中継があるんで、僕が一応解説で出ていますんでぜひご覧になっていただきたいんですけども。

(山里亮太)どちらでやられるんですか?

(町山智浩)WOWOWです。で、今回のアカデミー賞はすごくいろいろと大変で。まず、いちばん作品賞を取りそうな『ROMA/ローマ』っていう映画がいちばん作品賞を取りそうにないんですよ。

(山里亮太)ええっ? 町山さん、ここでもすごい絶賛されていて。

(赤江珠緒)カメラワークがすごくて……って。

(町山智浩)あれ、ハリウッド映画じゃないから。

(山里亮太)やっぱりそれは大きいんですか?

(町山智浩)大きいです。だってアカデミー賞はハリウッドの組合員たちの投票で決まるから。アカデミー賞っていうのはもともと労働組合と経営者側が労使の話し合いを持つために作ったものなので、完全にハリウッドの映画業界人の集まりなんですよ。

(赤江珠緒)そうか。だからそういう意味でじゃあハリウッドじゃない映画はすごく不利ですよね。

(町山智浩)まあ、関係ない映画だから取れないですよね。それで、特に『ローマ』っていう映画は完全にメキシコ映画で。監督のアルフォンソ・キュアロン以外の人はハリウッドの映画業界の組合に入っていないんですよね。だからそれは投票するっていっても票が集まらないだろうっていう。で、もうひとつはNetflix映画なので、劇場で公開しないんですよ。それに関しては、アカデミー賞の規定で劇場でちょっとでもやっていない映画はアカデミー賞にノミネートできないっていう決まりがあるんですね。だから劇場でかけようとしたんですけど。一応、ちょっとはかかったらしいんですけど、かけようとしたらアメリカの劇場組合がボイコットしたんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)だから「Netflixというのは我々劇場を滅ぼすためのものだ。なんでそれに協力をしなきゃいけないんだ?」って。

(赤江珠緒)ああ、そういうことか。

(町山智浩)で、ハリウッドっていうかアカデミー賞の人たちはずーっと劇場と一緒にやってきたわけじゃないですか。それを裏切ってNetflix作品に投票をするっていうことはしにくいですよね。

(赤江珠緒)そういう裏側を聞くと絶対に選ばれなそうですね。

(町山智浩)というような気がするんですよ。あと、作品自体も前に僕がここが紹介した時、ものすごくメキシコの歴史とかかわっていたり、あとは特撮技術がすごかったり、玄人にしかわからない内容なんですね。深すぎて。パッと見には普通の、さっぱりしすぎた映画というか。

町山智浩 映画『ROMA/ローマ』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアルフォンソ・キュアロン監督の映画『ROMA/ローマ』を紹介していました。 明日12/14、既に今年の映画賞をあちこちで獲りまく...

(赤江珠緒)白黒の映画ですもんね。

(町山智浩)白黒の地味な映画にしか見えないので、それがアカデミー賞というそれこそ何千人も会員がいるところで票を集められるかどうかがわからなくて。すごく、いちばん賞を取りそうなものがいちばん賞を取りにくいという異常な事態なんで。アカデミー賞は今回、予想がつかないんですよ。そういういろんなことがあって。で、日本からは是枝裕和監督の『万引き家族』がノミネートされていて。普通だったら取れるんですよ。というのは、是枝監督の映画の中ではアメリカで最も興行的に当たっているんで。興行的に成功している。お客さんが入っているんですよ。だから普通だったら取れるんだけど、外国語映画賞部門だから『ローマ』がいるので。

(山里亮太)ああーっ!

(町山智浩)で、『ローマ』が作品賞ノミネートされて、外国語映画では初めての作品賞ノミネートですよ。で、前にフランス映画の『アーティスト』っていう映画が作品賞を取ったことがあるんですけど、あれはサイレント映画だったから、外国語映画じゃなかったし。しかも、ハリウッドについての映画をフランス人が撮ったからハリウッドの人たちは「ああ、このフランス人はハリウッドが大好きなんだな」って喜んだんだけど。でも『ローマ』の場合は全くそれですらないんですけど。ただまあ、作品賞のノミネートにも入っているぐらい強い作品が是枝監督の前に立ちふさがっているので、なかなか難しい。それと、もうひとつライバルが出てきちゃったんですよ。それを今日、今回はお話するんですが。『COLD WAR あの歌、2つの心』というポーランド映画なんですよ。

(山里亮太)ポーランド映画。

(町山智浩)で、これがすごい映画でね。これがまたすごい人気で。また『万引き家族』が賞から遠ざかっていくという。

(赤江珠緒)そうですか!

(町山智浩)そう。運が悪くて。本当に敵が多い時に入ってきちゃったんだなって思いますけども。

(山里亮太)年がズレていれば取っていたのに……っていう。

『万引き家族』の強力なライバル

(町山智浩)そうなんです。というのはこの『COLD WAR』って外国語映画賞だけじゃなくて監督賞と撮影賞にもノミネートされているんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だから各部門で評価を受けているから、やっぱり賞を取る可能性が高いんですよね。投票をする人たちは各部門の職種の人たちが投票をするので。だから本当に強敵が多くてかわいそうなんですけども。是枝監督。でね、このポーランド映画の『COLD WAR』っていうのは、これはコールド・ウォーは「冷戦」っていうことで。東西冷戦っていうのがずっと1989年までありまして。特にアメリカがリードする資本主義国のグループとソ連がリーダーシップを取る共産主義国のグループが世界で全面戦争にまで発展するような、非常に緊迫感があったのがその冷戦時代で。僕なんかはその時代に育っているので、いつ核戦争でソ連とアメリカが戦争をして世界がなくなるのかっていうのを普通に、日常的に感じながら生きていた世代なんですけども。それが1989年にソ連が崩壊してなくなっちゃうんですけども。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)その時代の愛の物語なんですよ。で、それを聞くとすげー面倒くさそうな堅苦しい映画なのかな?って思うんですけど、圧倒的なエンターテイメントでした。

(赤江珠緒)エンターテイメント?

(町山智浩)しかも、ミュージカル的な映画でした。ほとんどミュージカルに近い映画です。面白かったです。ものすごく面白かったです。で、政治的な話なのかと思ったら、それは目くらましで。全然政治的な話じゃなかったです。

(赤江珠緒)『COLD WAR』とまで言っているのに?

(町山智浩)『COLD WAR』っていうタイトルはソ連とアメリカの冷戦っていうことを意味していなくて。実はこの映画の中では男と女の違いみたいなことを意味しているタイトルです。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)でね、これ話は戦争が終わってしばらくした1950年前後ぐらいのポーランドの田舎から始まるんですけども。主人公の人物、ヴィクトルっていう人が音楽家なんですね。で、共産主義の中でどんどんどんどん抑圧されて消えていくポーランドの民謡を民俗学的に採取して、それを録音して集めてなんとか保存しようとしている人なんですよ。そのヴィクトルっていう主人公は。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、いろんな歌を聞いていくと、まずそこでずっと歌い継がれている歌っていうのはほとんどが恋愛の歌なんですよね。で、そういったものはやっぱり「共産主義的じゃない。労働の素晴らしさを歌っていない。革命を歌っていない!」っていうことで抑圧されていった時代なんですよ。その当時は。で、それをなんとか保存しようとして録音していくんですけど。で、まあ田舎に行くとそのキリスト教の教会が廃墟になっていたりするんですよ。共産主義の中で「キリスト教なんて!」っていうことで宗教弾圧を受けていたんでね。そこでなんとか、その文化を、昔の古いポーランドの心を見つけようとして探していくと、そこである女の子が出てきて。ズーラという非常に美人の女の子を見つけて。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)その子がオーディションを受けるんですよ。というのはこの主人公のヴィクトルっていうのは実在の人物をモデルにしていて。ポーランド民族民謡舞踊団という物がありまして。実在するんですけども、それを結成した人がいるんですよ。その人は名前がね、タデウシュ・シジェテンスキっていう人が実在するんですよ。

(赤江珠緒)そうですか。難しいですね。

(町山智浩)この人が民謡をたくさん集めていって、それを実際に歌い継いでいかないと消えちゃうから。そういうグループを作って。劇団を作ってそれをみんなで歌って踊って……というのを始めた人なんですね。で、じゃあこの集めた民謡を歌わせようっていうことでオーディションをすると、各地から歌の上手い子たちが来てオーディションを受けるんですけども。そこで1人のズーラっていう女の子がオーディションである歌を歌うんですよ。それがね、『心』という歌なんですけども。ちょっと聞いてもらえますか?

(町山智浩)はい。これね、この女の子が歌っている曲じゃないですけども。聞いて、こ音楽のジャンルってなんだと思いますか?

(赤江珠緒)街角でアコーディオンとかで歌っているとちょうどいいような。

(町山智浩)タンゴなんですよ。

(赤江珠緒)タンゴか!

(町山智浩)で、これね、もともとソ連のミュージカル・コメディーがありまして。『陽気な連中』ってういミュージカル・コメディーがあって。その中から出てきた歌なんですよ。で、この歌は男の人が歌っているんですけど、原曲はこの男の人が映画の中で歌っているんですね。で、ソ連にも楽しいミュージカル・コメディーがあって、しかもジャズコメディーでタンゴとかジャズとかダンスミュージックがいっぱい使われている楽しいコメディーがあったんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(山里亮太)あんまりそういうのはなさそうなイメージですけど……。

(町山智浩)なさそうでしょう? なくなるんですよ。

(山里亮太)ああ、どんどんとなくなっていく。

(町山智浩)で、この『陽気な連中』っていうのは1934年なんですけども。その後、1935年から独裁者スターリンが大粛清を始めまして。自分に反対する政敵を皆殺しにしていく。それがもう何十年も続いて、ソ連から自由な言論はなくなっていくんですよ。で、もう片っ端から殺して殺して殺しまくるんですけど。スターリンが。その時代が始まっていくわけですね。で、この歌を歌って出てきたズーラっていう女の子が、この歌は『心』っていうタイトルなんですよね。で、「かわいい女の子はいっぱいいるけど、僕の心はあの子に持っていかれたよ」みたいな歌詞なんですけども。この映画のタイトルは『2つの心』っていうタイトルなんで、それが『心』という歌から始まるということですごい計算された映画でね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)まあ、すごいよくできているなって僕は思ったんですよ。そこでね、そのズーラが民謡団に入って歌う歌がポーランド民謡の『2つの心』という歌なんですよ。はい。これをどうぞ。

(町山智浩)はい。これはいかにもポーランドっていうか東ヨーロッパの民謡っていう感じなんですけども。これは実際に昔からある歌をさっき言ったシジェテンスキっていう人が見つけてきて、ヒットさせたというか復活させた歌なんですけど。これ、『2つの心』っていうのは「私と彼の心は愛し合っているんだけども、村のしきたりとか親が反対して、私たちは決して結ばれないの」というようなよくある悲恋を歌っているんですけども。ところが、そういうものは共産主義ではもう許されないわけですよ。「そんな歌、歌ってるんじゃねえよ!」みたいな話で、せっかく彼女たちが一生懸命劇団でやっているのに「お前たちはもっと革命について歌わなくちゃいけない。スターリン様を崇拝する歌を歌え!」っていうこういうスターリン賛歌を歌わされるんですよ。はい。

(町山智浩)もう「ソ連!」っていう感じでしょう? 「ソ連の歌!」っていう。これは「偉大なる指導者スターリン様のおかげで私たちは幸せです!」っていうことを歌わされるんですよ。

(赤江珠緒)いまでもちょっと北朝鮮とかで流れていそうな……。

(町山智浩)完全にもう北朝鮮の歌ですよ、これね。で、美しい民謡で恋とかそういうものを歌わせようと思っていたら、そこに共産党が入ってきて。「スターリンを讃えよ!」ってこういう歌を歌わされるんで「やってらんねえよ!」っていう話になるわけですよ。で、この劇団、舞踊団を始めたヴィクトルは「もうこんなのやってらんねえよ、バーカ!」っていう感じになるんですけど、それを慰めてくれるのがそのズーラという見つけた女の子。新人なんですけども。これね、ヨアンナ・クーリグっていう女優さんが演じていて。まあ演技もすごいし、歌も全部自分で歌っているんで。ちょっと天才っぽい感じで大スターになるんじゃないかと思いますけども。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、このヴィクトルっていう人は40過ぎぐらいなんですけども。このズーラちゃんは18、19ぐらい。でもまあ、できちゃうんですね。

(赤江珠緒)だいぶ若い女性と。ええ。

ズーラのとんでもない魅力

(町山智浩)でもなんかね、このズーラっていう子はすごい魅力があるんですよ。で、実はとんでもない女の子なんですよ。

(赤江珠緒)ほう!

(町山智浩)で、それがだんだんわかってきて。最初はこの共産主義の抑圧の中で結ばれない2人が苦労する話なのかな?って思っていると、共産主義とかまで吹っ飛ばすような女性だったっていうことがだんだんわかってくるんですよ。

(山里亮太)相当強烈ですよ?

(町山智浩)「そんなの関係ねえよ!」みたいな世界になってくるですよ。で、とにかくこの2人は「こんなポーランドとかにはいられねえよ!」っていう感じで、その頃はまだベルリンに壁がなかったんで、歩いていけるんですよ。西側に亡命しようとするんですが……そうすると、悲恋の話で政治に翻弄される2人の愛の物語かと思うじゃないですか。全然違う、予想もつかないような展開にそこからなっていくんですけども。そこから先はちょっと言えないんですが(笑)。

(赤江珠緒)うん。


町山智浩と宇多丸『THE GUILTY ギルティ』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で映画『THE GUILTY ギルティ』についてトーク。宇多丸さんとワンシチュエーションで電話だけで話した進むタイプの映画の系譜について話していました。

(宇多丸)ということで、いろいろとお世話になっている町山さんですが本日は金曜日、2月22日から公開される映画『THE GUILTY ギルティ』についてお話をうかがいたいということで。『ギルティ』に関しては1回、アニメーションの音響監督という、その音響面の演出ということでプロの方にお話をうかがったんですけども。まあ、映画評論家として町山智浩さんに『ギルティ』の話をうかがいたいのですが。

(町山智浩)そうですね。だから今日はワンシチュエーションで電話だけで話が進む映画で、しかも相手がほとんど画面に登場しないという映画の歴史の中でね、この映画は置かれるべきかなと思ったんですよ。

(宇多丸)『ギルティ』はそもそもデンマーク映画で、アカデミー賞の外国語映画賞の候補、8本ぐらいのところに残っていましたよね? 結局いまのノミニーには入らなかったけど。という感じで世界的にも高く評価されているということでいいですかね。町山さん的にはどうご覧になりましたか? 『ギルティ』は。まあ、なかなかネタバレしづらいというか……。

(町山智浩)すごい言いにくいんだよね。とにかく、エマージェンシーコールセンターがあって。救急電話センターですね。だから救急車とか呼んだり、警察を呼ぶところ。日本だと110番。で、そこにいる電話番をやらされてる、まあちょっとね、「なんで俺、こんなことやんなきゃいけねえんだよ?」みたいな気持ちになっている警察官のところに電話かかってくる。そうすると……そこは言っていいのかな?

(宇多丸)そこまではいいんじゃないですか?

(町山智浩)「私は携帯からかけている。いま、男に無理やりトランクに詰め込まれた。このままだと殺される」という女性からの電話がかかってきて。で、どうやってその彼女助けるか?っていう話になってくるんですけども。まあ、話がどんどん二転三転していって。ちょっと説明するとネタバレになっちゃうんで。ものすごく難しいんですけども。

(宇多丸)そこはちょっと避けつつも……というね。

(町山智浩)ただ、そのコールセンターからカメラは一歩も出ないんですよ。で、映画の中の時間経過と……だからリアルタイム映画なんですね。完全に一致している映画なんですけども。で、とにかく出演者はコールセンターにいる警察官とその同僚の人とあと何人かしかない。それ以外の人はみんな電話の向こうの声しか聞こえないという、まあ超低予算企画(笑)。

(宇多丸)うんうん。低予算でありながら、やっぱり見るものに想像させることでいろいろと展開させていくっていう。

(町山智浩)そう。だからホラー的な展開になっていったりするんですけども……って、いいのかな?(笑)。

(宇多丸)まあまあ、手前で。でも、要はそれを上映時間中に飽きさせず、その異常に限られた条件下なのに見せきるっていうところで、あれは演出も相当ですよね。

(町山智浩)はい。そうですよね。だから次から次に状況が変わっていくから、まあ飽きさせるその隙を与えないっていうところですね。

(宇多丸)で、今日町山さんに中心的に……まあ、中の話をしているとどんどんネタバレになっちゃうんで。映画史的にそういうその電話の先の音声とかそういう間接的な音声というのを使った表現というか、映画作品の系譜みたいなもの。それに対して『ギルティ』がどういう位置付けか、みたいな。そういう話を……。

(町山智浩)そうですね。まあ、それしかできないんだけど。この映画に関しては。で、僕が思っているのは、この手の映画でいちばん最初にそれをやったのは黒澤明の『天国と地獄』だと思ってるんですよ。

(宇多丸)おおーっ、やはり誘拐事件があって。

黒澤明『天国と地獄』

(町山智浩)はい。て脅迫電話かかってくる。それで誘拐をされたお金持ちの家で警察官たちがそこに入って、その誘拐犯と電話でやり取りするのをずっと見せていくんですけども。映画始まって1時間、その家から一歩も出ないんですよ。

(宇多丸)ああ、そうですよね。ずっと、そうかそうか。

(町山智浩)電話の向こうの犯人の声は聞こえるんだけど、犯人の身分も素性もなにもわからないし、どんな顔をしているのかもまったくわからない。で、完全な密室劇として1時間進行するっていうのを黒澤明がやっていて。あれがやっぱり画期的だったんで、他の以後の作品は結構それの変形になってくるっていう感じなんですよね。

(宇多丸)おおー、なるほど。

(町山智浩)で、黒澤明も自分でそれを思いついたわけじゃなくて、原作だとその犯人側の描写があって、警察側の描写があって、行ったり来たりするんですよ。で、最初にシナリオではそういう風に書いていて……。

(宇多丸)『キングの身代金』。

(町山智浩)はい。『キングの身代金』というアメリカの小説がありまして。でも、それをやるとどうもサスペンスが全然盛り上がらない。犯人側が見えちゃうと、結局犯人の規模とかが見えてくるし、彼の人間性とかも見えてきちゃうから怖くない。子供を誘拐されて誰に囚われているのかわからない、どこにいるかもわからないっていう怖さを出すためには犯人側を一切描かない。声しか聞こえないという風にシナリオを書き換えたんですね。

(宇多丸)なるほど。

(町山智浩)で、1時間まったく部屋から出なくて、その緊迫感とかどこにも行き場がない感じとか、ものすごい観客自身がヘロヘロに疲れてくる感じっていうのを出すために、そういう風な選択にしたことが画期的だったんですね。

(宇多丸)なるほど。それがあるから、しかも中盤の有名な身代金受け渡しのシーンのダイナミックさも活きるし。さらに終盤になってくると犯人の実像に迫っていくところがまた、全然違う展開になって。「ああ、こうなっていくの?」みたいなのが面白かったりするっていう。

(町山智浩)そうなんですね。だから普通の文法でやると両方を並行して見せていく感じでやろうとしちゃうんだけど。

(宇多丸)それが映画的って思っちゃいそうですけどね。

(町山智浩)思っちゃうわけですね。行ったり来たりさせて、いわゆるクロスカッティングっていう、グリフィス以来のカットバックさせるっていう。でも、それをやらないというところで成功をしたんで。あれはでも、上手くいかないからやってみたら成功したっていう話なんですけども。そこから来ているんだと思うんですよ。それで、このエマージェンシーコールセンターっていうのに絞って、そこに電話がかかってきて、それをなんとか助けなきゃいけないっていう映画って全然、たくさんあるんですよ。

(宇多丸)あ、結構ある? それ自体はある?

(町山智浩)たくさんあるんですよ。で、今回の「車のトランクに入れられて……」って携帯からかけてくるっていう展開というのは、すでについこの間、2013年に公開された映画で『ザ・コール 緊急通報指令室』っていう映画がありまして。それはまったく同じで、そこに勤めているハル・ベリーさん扮するヒロインが電話をキャッチすると、「いま私、誘拐されて車のトランクに入れられているの」っていう少女の声が聞こえるという話なんですよね。発端はほとんど同じですよ。

(宇多丸)発端はほとんど同じだけど、やっぱりハリウッド映画っぽい演出っていう感じですか、これは?

『ザ・コール 緊急通報指令室』

(町山智浩)そう。アクション映画みたいな感じになっていくんですよ。『ザ・コール』の方は展開として。ただ、『ギルティ』の方はなにをやりたいのか?っていうと、サスペンスをやりたいんじゃあないんだよね。あれは。ただ、その電話で聞いた声であるとか、その……まあ言えないな(笑)。

(宇多丸)アハハハハハハッ!

(町山智浩)偏見とか、要するに情報が限られた状態で持って知ったものから、その人が悪であると決めつけたり、この人が正しいって決めつけることの恐ろしさなんですよ。それをやりたいんだよね。

(宇多丸)たしかにそうですね。で、最終的に……これもあれなのか? 最終的に向かうのは結局自分の問題に……。うーん……。

(宇垣美里)難しい(笑)。

(町山智浩)だから『ギルティ』ってタイトルが何を示すのか?っていうことで。ギルティっていうのは「有罪」っていう意味なんですよ。で、このタイトルは誰が有罪だって言ってるかというのは非常に大きくて。なんでこのタイトルになっているのかな?って見ながらだんだんわかってきて、最後にやっとわかるという。そのやりたいことっていうのは電話を使ったサスペンスっていうよりもむしろ、人間がいかにその人の立場であったり犯罪歴であったり性別であったりしゃべり方であったり。そういうことで偏見を持って相手を決めつけていくかっていうことがテーマだよね。こっちの『ギルティ』は。それがハリウッド的なのとは違うんですよ。

(宇多丸)うんうん。

(町山智浩)で、たぶんこれハリウッドでリメイクされる……ハリウッドのリメイク権ってかならず片っ端から……。

(宇多丸)いったん抑えられちゃうんですよね。

(町山智浩)いったん安い値段で抑えちゃうんですよ。とりあえず、どこにも持っていかれないようにしておいてから、それを映画化できるかどうかを考えるんですけど。とりあえず抑えるんで、たぶんこれも抑えられているんだけど。ハリウッドでやるとたぶん、これは人種問題になってくると思います。

(宇多丸)ああ、なるほど。

(町山智浩)絶対に。声を聞いて訛りが……たとえばラテン系のメキシコ訛りだったり、黒人的な声だったりした場合、もうそれだけで決めつけちゃうんですよ。電話を受けた人が。だからそういう人種的要素が入ってきたりして、もっと複雑なものにたぶんハリウッドではなって。もしかしたらすごい映画になるかもしれないなって思っていますよ。

(宇多丸)なるほど、そうか。ある意味、各社会でいろんな置き換えができるわけですね。

(町山智浩)そうそう。日本だったら日本でたとえば電話がかかってきたら、だからすごい外国人の訛りがあった場合とか。

(宇多丸)カタコトだったりとかね。

(町山智浩)そう。カタコトでしゃべっているような人だった場合、それに対して警察官はどのような対応をするか?っていうことだったりするので。だから本当に偏見の問題だなって思いますよ。もうすぐ『ブラック・クランズマン』っていう映画がもうすぐ公開されるんだけど。スパイク・リーの。

町山智浩『ブラック・クランズマン』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でスパイク・リー監督の最新作『ブラック・クランズマン』を紹介していました。 【俺たちのKKK】70年代、コロラド州で。「クー・クラ...

(宇多丸)めちゃくちゃ見たい!

(町山智浩)ああ、ねえ。で、それっていちばんの発端部分がKKKという白人至上主義団体のところに黒人の警官が電話をかけて。その時に非常に礼儀正しいしゃべり方でしゃべったら、「そのしゃべり方だとたぶん君は白人だろう」っていうことで入会を許されるというシーンがあるんですけど。で、それは実話なんですけど。「黒人の人のしゃべり方はこういうものなんだ」っていう風に決めつけているから、電話の言葉の選び方だけで勝手に人種まで決めてくるという実態を描いていますよね。

(宇多丸)なるほど。でも『ブラック・クランズマン』もめちゃめちゃ見たくてしょうがないですね(笑)。

(町山智浩)フフフ、まだ見ていないんですね(笑)。

(宇多丸)気持ちが盛り上がってまいりました(笑)。あとは電話口ものというのでなにかありますか?

(町山智浩)やっぱりいちばん有名なのは『いのちの紐』っていう映画なんですよ。

(宇多丸)これね、シドニー・ポラックの監督デビュー作?

(町山智浩)監督デビュー作ですね。

(宇多丸)1966年。

『いのちの紐』

(町山智浩)アメリカ公開は65年かな? これは実際にあった事件で自殺予防センターっていうのがあるんですね。日本だといのちの電話っていうところで。そこに電話がかかってきて「私、睡眠薬をもう致死量飲んじゃったから」って。それで電話をかけてきて。で、その人の居場所を突き止めなくてはならない。そこに救急隊を向かわせなければならないんだけど、もう睡眠薬を飲んじゃっているからなにを言っているのかわからないんですよ。その人が。で、しかも電話を切らないでずっとしゃべり続けて起こしておかないと、そのまま眠ったら死んじゃうんで。覚醒させた状態にさせなきゃいけない。

(宇多丸)うんうん。

(町山智浩)しかも、電話を切れないから電話を切らないまま、その自殺予防センターの人は救急車を送ったりするのを空いている手でメモを書いて周りの人に渡したりして、その救急車を配車したりしなきゃいけないっていう、もう大変なサスペンスになっているんですけども。それはまあ、すごくよくできているんですよ。

(宇多丸)シドニー・ポワチエが主演で。

(町山智浩)シドニー・ポワチエが主演でやっているんですけども。まあ、これは結構元祖中の元相ですね。

(宇多丸)これも相当、お話をうかがっていると――僕はまだ未見なんですけども――本当にワンシチュエーションでずっと進むっていう?

(町山智浩)ああ、でもその薬を飲んでいる方の女性はアン・バンクロフトっていう名女優がいるんで。その寝室だけは映ったりするんですけど。ただ、居場所はわからないんですよ。で、正しいところに警察が向かうかどうかもわからないんです。だからこのトリックって結構、『羊たちの沈黙』とかでも使われるような感じで。

(宇多丸)「踏み込むぞ、踏み込むぞ、踏み込むぞ!」って。

(町山智浩)本当にそこに向かって警官が行っているのかどうかもわからない。そういう意味でよくできた映画なんですけども。あと、最近だとアカデミー賞映画でアカデミー短編実写部門賞で2015年にノミネートされた『一本の電話』っていう映画がまったく同じシチュエーションなんだけども、その電話をキャッチするのはサリー・ホーキンスっていう『シェイプ・オブ・ウォーター』の女優さんで。やる気がなかったんだけども、その自殺志願者の人を説得している間に自分自身もその生きるという希望を見つけ出していくみたいな話があったりね。

(宇多丸)へー! ふんふん。

町山智浩 2019年アカデミー賞を振り返る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で2019年のアカデミー賞を振り返り。今年度、評価された作品から見られる共通のテーマについて話していました。

(赤江珠緒)もうアカデミー賞中継から始まってずっとお忙しかったですもんね。

(町山智浩)はい。やっていたのは昨日ですね。で、まあ今回、作品賞を取った映画が『グリーンブック』という映画で。これが今週公開なんだな。

(山里亮太)そうですね。3月1日殻になっていますね。

(赤江珠緒)おおー! ちょうどですね。

(町山智浩)なのでぜひ見に行っていただきたいですね。

(赤江珠緒)ねえ。町山さんもおっしゃっていましたよね。『グリーンブック』が来るだろうってね。

(町山智浩)そう。僕はこれ、トロント映画祭っていうところで9月に最初に見て。で、全く注目されていない作品だったんですけども。「どうも『グリーンブック』ってすごい映画だよ。感動した!」とか「泣いた!」とか言っていて。で、誘われて見に行ってみたらもう本当にボロボロなんですよ。見ている人たちが。で、これはまあ1960年代の前半にアメリカで非常にひどい人種差別があった時に、特にそのアメリカの南部では黒人にまだ人権がなくて。で、ホテルとかレストランとかも黒人用と白人用に分かれていた時に黒人用のホテルやレストランガイドをまとめたのがそのグリーンブックというドライブガイドだったんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、それを持って南部に旅をするのが主人公でヴィゴ・モーテンセンさんが演じるトニーというマフィアの用心棒。実在の人物です。で、その人がマフィアの親分から頼まれて、「ある黒人の博士を南部の音楽ツアーに連れて行ってやってくれて。お前は用心棒をやれ」と言われて行くと、そのドン・シャーリーという実在のピアニストで。天才ピアニストでジャマイカ系の黒人なんですけども、小学校の頃に天才的ピアニストとしてソ連で英才教育を受けて。

それでアメリカに帰ってきたから本当に貴族的な人で。差別も知らなければ黒人の文化も知らないという人を連れて、ひっどい差別の……黒人と見ればぶん殴るような南部に向かってツアーに行くという。非常にその最初のトニーは黒人の人というだけで差別をして。黒人の人が口をつけたコップを捨てるみたいな、ものすごい差別的な人間なんですよ。それが2人で仕事で珍道中をしなければならないというコメディーでした。

(赤江珠緒)ねえ。それがコメディーになっているというね。『グリーンブック』。

(町山智浩)だからもう本当に山田洋次監督とかが日本で、それこそ非常に差別的な右翼のオヤジかなんかがヤクザにたのまれて。それでもって日本の朝鮮・韓国の血が流れている演歌歌手かなんかをツアーに連れていくみたいな話にして、日本でリメイクすべきだと思いますけども。やっぱり「松竹映画(バーン)」って富士山の画が出てくるとすごいいいなと思うんですけどね。

(赤江珠緒)ああーっ!

(町山智浩)ねえ。山田洋次監督は本当にこういうそのドライブしていって……っていうのが好きなんですよ。アメリカ映画にすごく影響をされているから、山田洋次監督はロードムービーといわれる旅の映画がすごい好きなんですよ。

(赤江珠緒)そうか。だから寅さんだって旅情感があっていろんなところに行くっていう。

(町山智浩)そうそうそう。あれは実は日本的だと思うかもしれないですけど、ものすごくアメリカ映画なんですよ。

(赤江珠緒)そうか!

(町山智浩)西部劇の世界なんですよね。だから本当にね、そういう映画を日本でも作ればいいと思うんですよ。ものすごく右翼で差別的なやつが仕事で仕方なく、自分がいちばん嫌いな韓国とか朝鮮とかの人を連れてツアーをしなければならないっていう。いい話ができると思うんだよなー。

(山里亮太)それでいまの問題を気づいて、「あれ? 自分がおかしいんじゃないか?」ってなっていって……。

(町山智浩)そう。でもそれが完全にコメディーでやり取りはもう本当にいろんな掛け合いがあって笑わせて泣けて……っていう風に。これは日本映画こそがやらなきゃいけないことだと思いますね。

(山里亮太)あの寅さんの世界観の掛け合いみたいなの、絶対に面白いですもんね。

(赤江珠緒)設定がそんな感じなのに、そこに笑いあり、涙ありっていう。

(町山智浩)そうそう。笑いあり、涙あり、感動ありなんですよ。そういうのができるなって思うんだけどね。誰かやらないかなって思いますが。

(山里亮太)いままでそういうのってあるんですか? その海外のものを日本でアレンジしてっていうのは多いものなんですか?

(町山智浩)それはまさに山田洋次監督がやったことっていうのは『シェーン』というアメリカのハリウッドの西部劇を日本映画に持ってきて『遙かなる山の呼び声』という映画にしているんですよ。

(赤江珠緒)はー! そうですか。

(町山智浩)あれは完全に『シェーン』なんですよ。そういうことは昔からよくあることですね。だから小津安二郎の映画『東京物語』っていうのも、あれはもともとはハリウッドのコメディーがあるんですよ。

(赤江珠緒)えっ、コメディー?

(町山智浩)レオ・マッケリーという監督が撮った映画があって。それを日本版に置き換えたものなんです。

(赤江珠緒)それであの家庭的なドラマ的な感じのコメディー版になったんですか?

(町山智浩)ほとんど同じ話です。

(赤江珠緒)ああ、おんなじ話で? へー! なんか東京物語はすごく美しい感じの……。

(町山智浩)すごく日本的なイメージがあるでしょう? あれはハリウッドコメディーの日本への置き換えです。

(赤江珠緒)ええーっ? ああ、そうですか。

(山里亮太)じゃあ全然可能なんですね。

(町山智浩)そう。もうこういうのはいくらでもできるんですよ。だからやるといいなと思ったんですね。『ROMA/ローマ』なんて今回、まあ作品賞は取れなかったですけども。これは外国語映画、メキシコ映画なのに作品賞候補になって。まあ、取れないだろうなとは思ったんですね。

(山里亮太)おっしゃっていましたよね。

(町山智浩)でもこれなんかもお金持ちのメキシコの白人の主人公であるアルフォンソ・キュアロン監督の子供時代、1960年代なんですけども。そのお手伝いさんが先住民で差別的な構造があって……っていう話なんですけども。これは日本は昔、テレビドラマにしていたんですよ。TBSで。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)『お荷物小荷物』っていう作品です。

(赤江珠緒)知らないです。タイトル、面白いですけど。

(町山智浩)面白いでしょう? すっごい差別的なお金持ちの家があるんですよ。で、その家に兄弟が何人もいて……って、『ROMA/ローマ』と全く同じ話ですよ。『お荷物小荷物』って。そこに中山千夏さん扮するお手伝いさんが来るんですよ。で、そのお手伝いさんは……2バージョンあってひとつは沖縄から来た人っていう設定になっていて。要するに差別みたいなものが背景にあって、日本的な家父長制度の家に沖縄から異文化の人がやってくるというそのひとつの家の中に差別や日本の歴史みたいなものを全部象徴させるというドラマが『お荷物小荷物』というドラマだったんですよ。

(赤江珠緒)本当ですね。『ROMA/ローマ』と本当に一緒ですね。

(町山智浩)そうなんですよ。で、たしかもうひとつのシーズンの方は中山千夏がアイヌの人かなんかなんですよ。で、日本のマイノリティーに対する歴史的な問題とか、そういうものをホームコメディーにしていたんですよ。それがTBSドラマでずっとやっていたんですよ。昔。しかもそれはいま現在あるような第四の壁を破ったりして。カメラに向かって「あのね」とか言ったり。途中からミュージカルになったりコマーシャルが入ってきたりっていうデタラメな演出で。すごいドラマがあったんですけども。『ROMA/ローマ』なんてまったくそういう話で。しかもこの『ROMA/ローマ』がメキシコで作られた時、実はやはりTBSですが、『コメットさん』がメキシコで史上最大の視聴率を稼いでいたんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)前に言った九重佑三子さんが出たオリジナルのコメットさんっていうのがあるんですよ。で、そのコメットさんがメキシコで放映されて、すごく全ての番組の中で最高の視聴率を取っていたんですよ。それはやっぱりお金持ちの家に入ってきたお手伝いさんの話で。お手伝いさんが魔法使いっていう話なんですね。オリジナルの『コメットさん』は。だからそのお手伝いさんの抱えている問題みたいなものがメキシコにはあったわけですよ。先住民がお手伝いさんをさせられるっていう。

だから一種の奴隷制度みたいなものがあって。それで白人がその政治から経済からすべてを支配しているメキシコというものがあって。それが全然関係ない日本のお手伝いさんドラマにみんな、非常に感情移入して見ていたということが実際にあって。すごく面白いんでこの『ROMA/ローマ』なんかも実際にまた、もう1回日本に戻してやってもおかしくないし。そういう点ですごく日本映画も真似できることがいっぱいあったな思いましたね。今回のアカデミー賞は。

(赤江珠緒)ふーん! うんうん。

(町山智浩)もうね、『女王陛下のお気に入り』なんてまさにその『大奥』だし。実はね、すごく国ってないですよ。みんな同じ問題を抱えていて、同じようなエンターテイメントの可能性があるんですけど。やるかやらないかだなと。

(赤江珠緒)そうですね。結局、描くべき視点ってどの国も問題点として同じですね。

(町山智浩)いくらでもありますよ。だから『アリー/スター誕生』なんて全くそうで。すごく新人の女の子を見つけてその子をデビューさせようとして。そのうちにその女の子がどんどんどんどん新しい音楽の方に行って。男の方は昔の音楽に固執してどんどんと崩壊していくとか。これ、もう世界中どこでもあるような話ですよね。男と女のね。だから結構やることはあるのに、日本はいつまでもなんか難病物の高校生の……とかね。そんなのばっかりやっていて「もういいよ、それは!」っていう(笑)。

(赤江珠緒)ああー、なるほど。

日本で難病映画ばかり作られる理由

(町山智浩)難病映画を日本が作るのはたぶん、本当の社会問題というもの……差別だったり、そういったものに隠れているんだけども、それ自体には日本の映画会社は触れたくないから。だから「難病」っていうものに悲劇を求めるんですよ。本当の悲劇は貧困とか差別の方にあるんだけど、そっちの方は見ない。

(赤江珠緒)そうか。だからそういう意味では『万引き家族』はなかなか他の人が手を付けないようなところを違う角度から……っていうことですね。

(町山智浩)そうそう。みんながやらないから。だから是枝裕和は自分でやりたいことを好きにできる、日本の映画監督の中では非常に珍しい人で。他はみんな雇われで「〇〇製作委員会」が映画を作るっていうことになってそれで監督を探すっていうやり方だから、自分の好きな映画なんて全然できないわけですよ。でも、是枝監督は「私はこれがやりたいからやる」っていう監督なんだけど、そういう人たちは日本の映画界ってすごく少ないんですよ。お金が出ないから。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)でもまあ、状況はどんどん変わるだろうと思いますよ。それこそNetflixがお金を出すとか。日本の映画会社がお金を出さないんだったら、外国から取ればいいわけですよね。で、是枝監督はもう日本で映画を撮らなくなりますよ。もうたぶん撮らないでしょう。これで。

(赤江珠緒)ええーっ、そうですか。

(町山智浩)ただ、アルフォンソ・キュアロン監督はハリウッドで撮っていて『ROMA/ローマ』でメキシコに帰ってきたから、そういう形で日本に帰ってくることはあるでしょうけども、是枝監督の次の映画はフランスでカトリーヌ・ドヌーヴ主演で撮る映画ですからね。

(赤江珠緒)そうですね。そうだ。もう決まっていますもんね。

(町山智浩)で、それはもう完全に日本映画だの何だのっていうのはどうでもいいことなんですよ。で、その映画が次回のアカデミー賞で評価されたら、彼はフランス語枠の外国語映画賞に出るのか、作品賞に出るのかわからないけど、すでにもう日本映画でもなんでもないんですよ。もうそういう時代になっているのに「日本映画が……」っていうのもなんかおかしいしね。それにもう外国語映画賞であるはずの『ROMA/ローマ』が作品賞に来ちゃったということもすごく問題で。メキシコ系の人のスペイン語映画なんですけど。たぶんもう数年以内にアメリカではメキシコ系アメリカ人のためのスペイン語アメリカ映画っていうのがたぶん作られるんですよ。スペイン語を話す人の人口が増えているから。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)そうすると、スペイン語っていうのはもう米国においては「外国語」ではなくなりますから。そうすると、もう「外国語映画ってなに?」っていう問題になってきて、非常に今回のアカデミー賞はいろいろと世の中が変わっていくということがよくわかる映画祭だったと思うんですけども。特にアフリカ系アメリカ人の人たちについての映画が『ブラックパンサー』『ブラック・クランズマン』『グリーンブック』と作品賞候補の8作品中の3作品もあって。で、LGBT、ゲイやレズビアンについての映画が『ボヘミアン・ラプソディ』や『女王陛下のお気に入り』がメインで出てきて。それで非常に重要なポイントとして『グリーンブック』と『バイス』にも同性愛の問題が出てくるんですよね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、8作品中の半分なんですよ。全部、政治的な映画。全部、人種問題。全部、民族問題で、それらが全部興行的にヒットしているエンターテイメントなんですよ。

(赤江珠緒)今回、それがすごいですよね。なんか、エンターテイメントとして見ているんだけど、普段考えている無意識の中に押し込められていたりとか。自分と違う概念のことを知らせてくれるとかっていう、そういう発見のある映画ばかりですもんね。

(町山智浩)そうなんですよ。だから「そういうことをやると、難しいからお金が出ないだろう」とか、そういう話に日本では絶対になっちゃうんですよ。「誰が見るんだ?」とか。それはエンターテイメントにすればいいだけの話であって。だって『ブラックパンサー』なんてアフリカ系の人たちについての話なんだけども、これ、大ヒット作ですよ。映画史上に残る大ヒットなんですよ。アメリカ映画では。だから「人種問題を扱うのは面倒くさい」とか「人種問題を扱ったら儲からない」とか、「もう全然それは違うでしょ? 『ブラックパンサー』があるでしょ?」っていう話になるし。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)「メキシコ系の人を扱った映画なんて誰も見ないよ」とかいうのも、「『ROMA/ローマ』があるでしょ?」みたいなことになっていくから。それこそ、「ゲイやレズビアンについての映画なんて、観客が限られるんじゃないか?」なんて……「『ボヘミアン・ラプソディ』はどうなるの?」っていう。もう全然関係ないから。なんにも……政治的なこと、民族的なこと、人種問題っていうものに関して、実は興行的にも資本主義にも止める理由はなにもない。やらないのは根性がないだけ。

(赤江珠緒)それが証明されたの年だったと。

町山智浩と山里亮太『グリーンブック』感想トーク

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『グリーンブック』の感想トークを山里亮太さんとしていました。

(町山智浩)いま、アラバマというところにいるんですけども。

(赤江珠緒)アラバマ?

(町山智浩)ご存知でしょうか? 

(赤江珠緒)アラバマ州……アラバマといえばなんでしょうかね?

(町山智浩)フフフ、全然ない?

山里亮太:引き出しが全然ないです(笑)。

(町山智浩)わかりました。取材に来ているのは1965年にマーティン・ルーサー・キング牧師が行ったセルマという街からアラバマの州都モンゴメリーまでの行進があるんですね。それは『Selma』という映画……日本だと『グローリー/明日への行進』っていうタイトルで公開されたんですが。

(赤江珠緒)ねえ、町山さんにもご紹介いただきました。

町山智浩 キング牧師を描く映画『グローリー/明日への行進』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でマーティン・ルーサー・キング牧師の誹謗力闘争と血の日曜日事件を描いた映画『グローリー/明日への行進(原題:Selma)』を紹介していま...

(町山智浩)はいはい。それをね、毎年再現しているんですよ。橋のところで。で、みんなでその橋を行進するんですけども。その時、警官隊が殴り込みを書けて、「血の日曜日」という大変な大惨事になったんですけどね。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)その頃、アメリカ南部この黒人には投票権、選挙権がなかったので、その権利を奪い取るためにまあキング牧師が行進をする。それに対して警官隊は騎馬警官が橋の上で徹底的に弾圧を加えた事件がありまして。

(赤江珠緒)あの有名なスピーチをされた時ですか?

(町山智浩)スピーチじゃないんですけども……。

(赤江珠緒)あ、違うんですか?

(町山智浩)違います。キング牧師はその時、現場にはいなかったんですよ。その大事件があった時には。だからスピーチはしていないんですけども。まあ、大変な……けが人が出たり、死者も出ています。何人も殺されているんですよ。警官たちに。射殺をされたり、その行進って結局州都まで4日かけて歩いて。で、90キロぐらい離れているんですよね。で、州都の前でキング牧師が「我々に投票権を返してください」という風に州知事がいる州議会に対して訴えたんですけども。その後、そこに来た、行進をした人たちはその90キロをまた歩いて帰らなきゃいけないじゃないですか。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だから、これはあまりにも大変だということで、白人・黒人関係無くその運動を支援している人たちが車を出してピストン運動で帰るのを手伝ってあげていたんですよ。自家用車に乗せてね。そしたらイタリア系の白人の女性がそれにボランティアとして参加したら、「白人のくせに黒人に味方しやがって!」ってKKKという白人至上主義のやつらが3人で車に乗ってその黒人を乗せている女性の車に並走して、走っている彼女を銃撃して殺したっていう事件があって。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)そういうようなことがあった土地なんですよ。まあ、ひどいんですよ。で、まあ僕がそこに参加したら……大変な嵐になったんですよ(笑)。で、嵐で竜巻も発生して、20人以上死んだりする事態になりまして。このへんは。

山里亮太:ねえ。いまニュースになっていますね。

(町山智浩)その現場にいましたよ(笑)。

山里亮太:えっ、大丈夫でしたか?

(町山智浩)大丈夫じゃないですよ。ビショビショですよ。頭のてっぺんからつま先まで(笑)。大変でした。あまりにも頭に来たんでその現場をツイートしていますけども。そこから(笑)。

山里亮太:あ、じゃあその写真とかも撮って?

(町山智浩)もう嵐がブワーッと来たんでビデオを撮って。そしたら電話がいきなりビービーッ!って鳴り始めて、なんだろうと思ったら竜巻発生警報って出てきて。大変でしたけども。でね、なんで竜巻が起こったかっていうと、ものすごい寒波が北極の方から来ているんですよ。南部の方に向かって。で、そうすると南部って基本的には暖かいじゃないですか。で、暖かい空気のところにものすごい冷たい空気が流れ込んできたので。その零下の空気が。そうすると、冷たい空気は暖かい空気の下になだれ込もうとするんですよ。ぶつかったところで。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)そうすると、渦になるんですよ。下に入ろう、下に入ろうとするから。で、竜巻が発生するんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、結局いま、寒い寒波が勝ちましてここアラバマはいま零下なんですよ。外は。南部なのに(笑)。

(赤江珠緒)いや、ちょっともう気候が……アメリカも大変なことになっている。

(町山智浩)僕、南部に行くって思ったんで、全然あたたかい服を持ってこなかったんですよ。だからいま、死にそうに寒いんですけども。

山里亮太:お体に気をつけて。でもね、それこそいま南部にいらっしゃるということで。あの僕、昨日町山さんに教えてもらった『グリーンブック』を見てきまして。まさにね、さっきおっしゃったようなこともたくさんあったじゃないですか。あの映画の中に。

(町山智浩)そうそう。『グリーンブック』っていう映画は差別がひどかった60年代前半の南部に黒人のジャズミュージシャンがツアーに行くっていう話ですよね。あの中で、ひどいでしょう? 黒人のミュージシャンでコンサートに呼ばれていくのに、コンサート会場に入れないとかね(笑)。

山里亮太:ご飯も食べさせてくれないんだよ。

(赤江珠緒)めちゃくちゃですね、それね。そんな?

(町山智浩)そう。呼んでるんですよ。演奏家としてその場所に。

(赤江珠緒)どういうこと?

山里亮太:「しきたりなんで」って言われるんですよね。

(町山智浩)そうなんですよ。で、「控室も白人用なんで……」っていうことで、とんでもないところに入れられたりとか。

山里亮太:そんなことが実際にあったんだっていう。

(赤江珠緒)ねえ。『グリーンブック』は日本でもすごいお客さんが入っているみたいですね。

(町山智浩)『グリーンブック』、いい映画ですよ。本当に。

山里亮太:いい映画でした。本当に見て。

(町山智浩)あのマフィアの用心棒の人がピザを一気に食べるじゃないですか。あのパーティーピザを丸めて一気に食べるっていうシーンがあってワンカットで撮っているんですけど、役者って大変だなと思いましたね(笑)。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

山里亮太:あと、めちゃくちゃケンタッキー・フライドチキンが食べたくなりますね(笑)。

フライドチキンの意味

(町山智浩)ケンタッキー、食べたくなる! ただね、アラバマもフライドチキンの本場なんですよ。フライドチキンってあの映画の中では説明されていなかったけど、もともと南部の白人はフォークとナイフでしかご飯をその当時、食べなかったんですね。だからももとかあばらのところとか、骨の多いところは捨てられるというか、奴隷にあげていたんですよ。だからフライドチキンっていうのはフォークとナイフで食べれない骨の近くの部分を奴隷に対してあげていたというところから、奴隷の人たちが作り上げた料理なんですよ。

山里亮太:だからか。すごいそこが立っているシーンがあって。「なんでなんだろう?」っていうのがいまので解明されました。ああ、なるほど。

(町山智浩)そうなんですよ。だから「黒人なのにフライドチキンを食べたことがないのか?」っていうようなシーンがあって。それは実はそういう背景があって。まあ、カーネル・サンダースが有名なんでケンタッキー・フライドチキンって白人のイメージがあるんですけど、あれこそがまさに文化の盗用という。黒人が作り上げた文化を白人が横から奪い取った典型なので。

(赤江珠緒)そうか。

山里亮太:ああ、あのシーンがそうだったんだ。

(町山智浩)そうなんですよ。でもいまはアラバマの高級レストランのメインディッシュがフライドチキンになっていますけどね(笑)。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)そう。そういう時代なんです。

<書き起こしおわり>

町山智浩 映画『運び屋』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でクリント・イーストウッドの監督・主演・製作作品『運び屋』について話していました。

(町山智浩)それで今回紹介する映画は先週ご紹介できなかったやつで、クリント・イーストウッド監督の『運び屋』という映画です。あ、いまカントリーミュージックがかかっていますけども。

(町山智浩)『On the Road Again』っていうすごい有名な、「また俺は旅に出るぜ」っていう歌なんですね。で、これは実際にあった90歳の運び屋の話です。いま、空港に行くと「運び屋は絶対にやっちゃダメ!」とか書いてありますけども。ポスターが。

(赤江珠緒)そりゃそうです(笑)。

(町山智浩)「麻薬の運び屋、やっちゃダメ!」って書いてありますけども、これはやっちゃった人ですね。10年ぐらい前、2011年かな? ある運び屋が逮捕されたんですけど、それが白人の87歳の老人だったんですよ。で、その人がものすごい量のコカインをメキシコとアメリカの国境のアリゾナから北の方のデトロイトまで何回も何回も運んでいたということで問題になって。1回ごとにですね、1000万円ぐらいの報酬と引き替えに、だいたい1回ごとに2億円ぐらいの量のコカインを運んでいたんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だからトラックいっぱいなんですけども(笑)。ただ、90歳近い老人で、しかもノロノロと走っているから警官は誰もこの人が運び屋だなんて思わないから、全く捕まえることができないままかなり長い間運んでいて。ただ、ものすごい大量のコカインがデトロイト周辺に入ってくるもんだから、警官は「いったいどうして? どうやって?」ってまあ、困っていたんですね。麻薬捜査官とかは。全くルートがわからないっていうことで。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)「片っ端からメキシコ系のやつを捕まえろ!」みたいな話になっても、全然わからないですよ。誰も持っていないし。で、それを白人のおじいちゃんが運んでいたっていう実際にあった事件なんですね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、その運び屋を演じるのがクリント・イーストウッドで。クリント・イーストウッドという人はたぶん、赤江さんたちの世代だと映画監督としての巨匠中の巨匠ですよね。

(赤江珠緒)『ダーティ・ハリー』が……。

(町山智浩)そう。『ダーティ・ハリー』とか『夕陽のガンマン』とかの西部劇のガンマンのイメージですよね。でも今回はそういう感じじゃないんですよ。この彼が演じる運び屋さんは。「運び屋」っていうとすごい怖いギャングみたいなイメージがあると思うんですけど、今回このイーストウッドが演じるその運び屋は実際の運び屋と同じく、園芸家でお花を育てるおじいさんなんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)これね、デイリリーという非常に特殊な百合があって。1日で咲いてすぐに枯れちゃうらしいんですけど。その百合を次々と新種を作り出す園芸家だったんですね。この運び屋のおじいちゃんは。(元ネタとなった人は)レオ・シャープっていう人なんですけども。

(赤江珠緒)すごい人じゃないですか。

(町山智浩)それでこの人、どのぐらい園芸界ですごいかっていうとホワイトハウスに呼ばれているぐらいなんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)そのぐらい巨匠で、百合の園芸家としてはアメリカでいちばん有名な巨匠中の巨匠だった人なんですよ。で、その役をクリント・イーストウッドが演じるんですけども。ただ、その園芸場の経営があまり上手くいかなくなって。で、メキシコ系の友達に誘われてこの運び屋をやるようになるんですよ。でね、このイーストウッドが運び屋をやっている時の姿がもう全然ハードじゃなくて。いま聞いたようなのんびりしたカントリーをずっと歌いながら。イエーイ! みたいな感じでおじいちゃんがゴキゲンで旅をするっていう話になっているんですよ。

(赤江珠緒)ああー、たしかにそうですね。なかなか疑われないですね。

(町山智浩)疑われないですよ。もう楽しそうだしね。で、しかも疑われないし、お金がたくさんもらえるから。それで車を高級車に買い替えていくんですよ。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)だから最後の方とかはリンカーンとかに乗っているんですよ。リンカーンのトラックってあるんですね。だから、そんな高級トラックでやっているもんだから、まさか運び屋をやっているとは思わないんですよね。おじいちゃんが乗っているから。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、どんどんどんどん運ぶ量も増えていくんですけど。で、すごく面白いのはこの運び屋の私生活がほとんどわからなかったんですよ。イーストウッドが映画化する時、脚本家と一緒に調べても。だから、この人の私生活を描きたいと思った時、イーストウッドはそこに自分の私生活を重ねたんですよ。事実関係はわからなかったので。で、どういう人として描いたか?っていうと、イーストウッドは「非常に自分を出した」っていう風に言っていて。

(赤江珠緒)はい。

イーストウッド自身を投影

(町山智浩)まず、賞をいっぱい取っていて、それこそその道では巨匠として称えられているという点では、イーストウッドと同じなんですね。だから、アカデミー賞みたいなところに行くんですよ。百合のアカデミー賞に。そうするともうみんな「巨匠! 巨匠!」みたいな感じで絶賛するんですよ。で、ニコニコしながら賞を受け取ったりしているんですけども、家に帰ると「人間のクズ」っていう風に言われているんですよ。どうしてか?っていうと、もう百合を作るのに夢中で家をほったらかしにして。奥さんとかもほったらかしにして、子供もほったらかしにして、娘の結婚式にも卒業式にも行かなかったんですね。

(赤江珠緒)あらららら……。

(町山智浩)家を完全にほったらかし。それでそこらじゅうに女を作って遊んでいて。だからもう、家の中では「クズ中のクズ」って言われているんですよ。

(赤江珠緒)えっ、イーストウッドもそんな感じだったんですか?

(町山智浩)そういう人なんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?(笑)。

(町山智浩)イーストウッドという人は、この人自身が認めている伝記作家がいるんですけど、その人の伝記を読むとものすごく細かくこのイーストウッドの女性遍歴が書いてあるんですね。で、とにかくもうやりまくり。

(赤江珠緒)ほー!

(町山智浩)もう14歳の頃から次々と、いろんな女性とセックスしてきている人なんですよ。このイーストウッドっていう人は。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、正式な結婚は2回しかしていないんですけども。それ以外に数々の女性とお付き合いをなさってですね……フフフ、なにを俺は敬語を使っているんだ?(笑)。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)まあ、僕尊敬してますからね(笑)。で、子供が8人いるんですけど。

(赤江珠緒)8人!?

(町山智浩)8人いて、それぞれに違う5人の女性との間に8人のお子さんをもうけていて、でも結婚は2回しかしていないっていう数字が全然合わないんですけども(笑)。すごい人なんですけど。どうしてそういう計算になるのか?っていう謎の人なんですけど。で、この映画ですごいのはその娘として出てくる女優さんがこのイーストウッドに向かって「お父さんなんか父として思ったことはない。家をほったらかしだし、お母さんを泣かすし。私の大事な時に1回も来てくれなかった。育ててもらったこともないわ!」って怒鳴り散らすところがあるんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)映画の中でね。それを演じているのは、イーストウッドの長女です。

(赤江珠緒)フフフ、ああ、実の娘?

(山里亮太)気持ちが入ったんだろうね。

(町山智浩)気持ち、入っているんですよ。思いっきり。アリソン・イーストウッドさんっていう人がそれを言うんですけど、実際にこのアリソンさんっていう人は1972年に生まれているんですけど、彼女が幼い頃にはイーストウッドはもう家を出ちゃっているんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)家を出ちゃっているっていうか、まあ別居をして。自分はソンドラ・ロックという自分の映画のメイン女優さんと同棲を14年間するんですよ。だからこのアリソンさんは長女なのにほとんどイーストウッドに実際には育てられたことがないんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だからそれがね、全くその通りのセリフを言うから「これは全然芝居じゃないだろ?」っていうね(笑)。「普通にあったことを言ってるな、お前?」みたいなしーんなんですよ。

(赤江珠緒)へー! でも、時を経ていま、共演という形で一応ね、出ているわけですもんね。

(町山智浩)でも彼女はね、家にお父さんがいない頃、11歳の頃にお父さんの映画に出ているんですよ。それで、11歳の時、1984年にイーストウッドが製作・主演した『タイトロープ』っていう映画に出ているんですね。娘役で。でね、またその映画もすごくて。イーストウッドがその『タイトロープ』で演じるのは刑事なんですけど、風俗嬢が次々と殺されていくっていう連続殺人事件を調査するため、その風俗のお店に聞き込みに行くんですけど。聞き込みに行った先々でその風俗のお姉さんたちとエッチしちゃうんですよ。イーストウッドさんが。

(赤江珠緒)ほう(笑)。

(町山智浩)で、毎回毎回エッチしてるんですけど、その間、その11歳の娘はもっと幼い年下の妹の面倒を見させられているんですよ。これ、やもめの役なんですよ。奥さんがいない役で。で、11歳の娘にもっと幼い娘の面倒を見させながら、自分は風俗通いするっていう映画なんですよ。

(赤江珠緒)その役を実の娘に?

(町山智浩)実の娘とそれを親子でやっているんですよ。それをイーストウッド自身が制作もしているというね。なんか、露悪趣味のような変な人なんですけども。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

町山智浩 マイケル・ジャクソン告発映画『Leaving Neverland』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でマイケル・ジャクソンの性的虐待を告発したドキュメンタリー映画『Leaving Neverland』を紹介していました。

(町山智浩)いま、ハリウッドに取材に来ているんですけども。『ゲット・アウト』というアカデミー脚本賞を取った映画の監督のジョーダン・ピールの新作『Us』という作品の取材に来ているんですね。『Us』というのは「私たち」という意味のタイトルなんですけど……これは今度話します。

(山里亮太)それも楽しそう。『ゲット・アウト』も面白かったですもんね。意外な展開で。

(町山智浩)ものすごい面白いホラー映画でしたけども。

町山智浩 大ヒットホラー映画『ゲット・アウト』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、現在アメリカで大ヒットしているホラー映画『ゲット・アウト』を紹介していました。 (町山智浩)今日、紹介する映画は『Ge...

(町山智浩)これ、ジャンケットといって映画会社の人が世界中から映画ライターの人とかを1ヶ所、ホテルとかに集めてそこでインタビューを一気に行うという取材なんですね。で、僕は日本から来ているという形になるんですけど。それでスウェーデンとかインドとか全世界から映画記者の人たちが来ているんですが。そのインタビューの合間は記者たちだけで雑談をするわけですよ。そしたら今回は、そこで大論争になっちゃったんですよ。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)というのは、マイケル・ジャクソンの子供に対する性的虐待の被害者が告発をしたドキュメンタリー映画が英語圏でテレビでこの間、放送をされまして。先週ですね。『Leaving Neverland』というタイトルのドキュメンタリーなんですね。それを見た人、見ていない人全員含めて、その記者たち全員でこれをどうしたらいいのか? これをどう考えるべきか?っていうことで、ずっと大論争でしたよ。

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)すごいものをテーマにした映画なんだ。

(赤江珠緒)そんなに物議を醸す内容になっていると。うん。

(町山智浩)大変なスキャンダルになっておりまして。いままでも、マイケル・ジャクソンは2回、被害者から訴えられるということがあったんですけども、2回とも……1回目は示談になって、2回目は刑事裁判まで行きまして、証拠不十分で無罪になっているんですけども。今回、なぜこれだけこの『Leaving Neverland』という映画が問題になっているのか?っていうと、その2回、訴えられた時に「マイケル・ジャクソンはやっていない。なぜなら僕も子供としてマイケル・ジャクソンと一緒に寝たけども、なにもされませんでした」という風に証言していた人が、そのいままでの証言を覆したからなんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)で、この人はウェイド・ロブソンという人で、現在36歳です。この人は5歳で『Thriller』のビデオを見てからマイケルのダンスを完璧にコピーした子供マイケルだった人なんですね。オーストラリア人で。で、彼自身が7歳でアメリカに渡って、その後もマイケル・ジャクソンの真似からオリジナルの振付師、コリオグラファー、舞台監督になっていって。この人、19、20歳ぐらいでブリトニー・スピアーズの振り付けとかをやって世界的な振付師になった人なんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だからマイケル・ジャクソンが師匠で、彼はマイケル・ジャクソンに育てられてダンスのプロフェッショナルになった人なんですね。この人、自分の名前がついた「ロブソンの○○」みたいなテレビ番組も持っていて、ダンス番組なんですけども。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それでエミー賞とかも受賞しているぐらい有名なベテランの振付師なんですよ。

(赤江珠緒)じゃあ、ご自身もすごいキャリアのある方なんですね。

(町山智浩)すごいキャリアのある人なんですよ。その人が今回、「僕は子供の頃、7歳から14歳の頃にマイケル・ジャクソンと一緒に寝ている間にレイプをされた」ということを言っているんで。いままでみたいな形での、誰だかわからない人が出てきて……という形ではなくて、この人自身が業界の中でかなりちゃんとした地位がある人なので。それともうひとつはいままでの無実になったりした裁判でマイケル・ジャクソン側に立って「たしかに彼と一緒にベッドで寝たけども、性的なことはされていない」と証言していた人自身が……つまり、無罪のための有効な証言をしていた証人の人が「それは嘘でした」と言っているので「これは大変なことだ!」と言っている人もいるわけです。

(赤江珠緒)これは衝撃ですよ。

(町山智浩)衝撃になっているんですね。で、これに対してマイケル・ジャクソンの遺産を管理している、資産とか著作権とか全てを管理している側はこの『Leaving Neverland』というドキュメンタリーを放送したHBOというワーナーブラザーズ系の有料テレビチャンネルを損害賠償を請求して訴えているんですね。その損害賠償の金額は1億ドル(約110億円)ということです。

(赤江珠緒)おおーっ!

(町山智浩)で、彼らとあとはマイケル・ジャクソンのファンって世界中に1億人以上……もっといるのかもしれませんが。その人たちはいま、協力をしあって「この映画のクレジビリティー(信用)は低いんだ」ということをインターネットとかTwitterなどのSNSを使って、いかにこのロブソンという人は信じられないのかという、その信用度を落とすためのキャンペーンをしている。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、お金を出し合って「マイケル・ジャクソンは無実である」という広告を出したりして、まあ大変な戦争状態になっているんですよ。

(赤江珠緒)はー! でもこれね、それだけ世界にファンがいるじゃないですか。その人たちを相手取ってということは、ロブソンさんがいま、これをお話になるって相当な覚悟ですよね?

ロブソン氏の意図

(町山智浩)相当な覚悟だと思います。まあ、この人は実は2013年にマイケル・ジャクソンの財産管理をしている人たちを訴えているんですよ。損害賠償で。ただ、その時はマイケル・ジャクソンの死後4年がたっていて、被告の死後120日かなんか以内に訴えないと、そういう損害賠償請求は無効になっちゃうんですよ。だから、その時は自動的に無効になってしまったんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だから今回は完全にお金は関係ないという状態で。このドキュメンタリーに関しては一切金銭は受け取っていない。お金目当てではないという風に言っているんですね。

(赤江珠緒)なぜいま、そういうことを告白しようと思われたんですか?

(町山智浩)それはこの話の最後の方になるんで。で、順番に言っていきますと、このロブソンさんは7歳の時にアメリカに来て、ダンサーになりたいということでお母さんとお姉さんと一緒にアメリカに来るんですね。で、その後もかなり生活の面倒とかをマイケル・ジャクソンにみてもらったりもしているんですね。

(赤江珠緒)ふーん。

(町山智浩)ただね、父親を捨ててアメリカに来ているので、お父さんが自殺したりしているんですよ。精神を病んでしまって。で、その7歳のロブソンさんはネバーランドというマイケル・ジャクソンの自宅に行くわけですね。で、そこはまたすごいわけですよ。1000ヘクタール以上もあるのかな? その敷地に遊園地があるんですよね。ピーターパンが住んでいた大人になりたくない子供たちの国っていうのがネバーランドだったんですけども。その名前をつけている通り、本当にそこは子供の国みたいになっているんですよ。

(赤江珠緒)そうですよね。

(町山智浩)メリーゴーランドとか観覧車とかがあって。動物園もあって。で、そこに彼、7歳のロブソンくんを呼んで。それでマイケル・ジャクソンが「泊まっていきなさい」って言ったんですよ。で、お母さんはやっぱり7歳の息子を32歳の男と一緒に泊まらせるというか、「一緒のベッドに寝たい」と言われたので、それはやっぱりちょっと困るわけですよね。母親としては。なんだろう?って思うわけですよね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それででも、考えたらしいんですね。「マイケル・ジャクソンという人は子供の頃から働かされていて、友達もいなかった。子供時代がなかったかわいそうな人で、いま子供時代を取り戻そうとしている無邪気な人なんだ」ということで自分を納得させて。なおかつ、ある程度のお金をもらって息子をマイケル・ジャクソンにあずけて、自分たちは他のところに行っちゃったんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、その後にロブソンさんはキスをされたりとかいろいろとあって。まあ、口を使われたりとかいろいろとあったということなんですよ。で、実はこの映画はもう1人、告発をしている人が出てくるんですね。その人はジェームズ・セーフチャックという人で、この人はマイケル・ジャクソンとペプシのコマーシャルで共演をしていた男の子なんですよ。当時10歳だったんですけど、この人は世界ツアーでたしか日本にも来ていると思います。マイケル・ジャクソンは彼を気に入って、世界ツアーに連れ回したんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、子供たちのダンサーの1人として連れて行って。しかも家族全員を一緒に連れて世界ツアーをやったんですよ。

(山里亮太)へー! 相当お気に入りだったんですね。

(町山智浩)はい。すごい美少年だったですけど。そのツアー中にホテルに泊まっている時にマイケル・ジャクソンと同じ部屋に彼だけが泊まっていたらしいんですね。で、お父さんとお母さんは別の部屋だったらしいんですけども。その間に性的な行為をされたという風に証言をしているんですよ。で、この2人がその映画に出て……これ、4時間のドキュメンタリーなんですけども。ずっと告白をし続けているんですね。で、彼らの告白を信じられるのか、信じられないのかっていうところで非常に論争になっているんですけども。この映画の中では彼ら、個人的にマイケル・ジャクソンと共有したもの。たとえば一緒に写っている写真とか手紙とかビデオとかFAXとか、そういった彼らの親密さを証明して他の人は絶対に持っていないようなものを次々と出してくるんで。それも映像的には結構、見たことがないレアなものがかなり出てきます。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)はい。で、それは親密さの証拠ではあるんですけども。で、ただね、やっぱり見ていてゾッとするところがあるんですね。それは事実かどうかっていうことじゃなくて、話自体が恐ろしいっていうところがあって。たとえばこのセーフチャックさんが10何歳かの時にネバーランドに泊まって。で、遊園地とかのいろんなアトラクションみたいなものがあるわけじゃないですか。「そのあちこちで性的な行為をした」っていう風に言っているんですよ。

(赤江珠緒)うーん……。

(町山智浩)それはちょっと、画として想像すると……たとえば遊園地、子供の国みたいなところで性的なことをするっていうのはやっぱりちょっとすごくて。諸星大二郎という漫画家の先生が昔、お金持ちたちが「大人になりたくない!」って自分の体を子供に改造して、子供の遊園地みたいなところでお金持ちたちが楽しみながらセックスをするというすごい怖い漫画を描いていたんですけども。ちょっとそれを思い出させるような話で。衝撃的だったですね。その部分は。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、ただそのマイケル・ジャクソンの財産管理をしている側は、「このロブソンという人はずっと『マイケル・ジャクソンは何もしていない』という風に証言し続けていて、その時の証言と現在の映画の証言が食い違っているじゃないか。年代的にいろいろと食い違っていておかしいところもあるじゃないか」っていう風に反論をしているんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それともうひとつ、「このロブソンさんが振付師として最近、ちょっとうまくいってなくて。ラスベガスでのマイケル・ジャクソンをテーマにしたショーの振付師も断られたりしているから、経済的に苦しくなってそういう告発をしているんじゃないか?」っていう風にも批判をしているんですよ。

(赤江珠緒)でも金銭的な狙い、目的はないということなんですよね。ロブソンさんは。

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