Quantcast
Channel: 町山智浩 | miyearnZZ Labo
Viewing all 938 articles
Browse latest View live

町山智浩 映画俳優・内田裕也を語る

$
0
0

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で亡くなった内田裕也さんを追悼。映画俳優としての内田裕也さんを主演作品の内容を交えながら紹介していました。

(町山智浩)3月17日に日本でロックミュージシャンの内田裕也さんがお亡くなりになったので、今日はその話をしたいんですね。僕は1981年から内田裕也さんがずっとプロデュースしていたニューイヤー・ロックフェスに……当時、大学生だったんですけど、ずっと通っていて、すごく感慨深いんですよ。ただ、内田さんがどういう人か?っていう話は吉田豪がいちばん詳しいので。

吉田豪 内田裕也の素顔を語る
吉田豪さんがニッポン放送『上柳昌彦 松本秀夫今夜もオトパラ!』に出演。内田裕也さんについてたっぷりと語っていました。 (上柳昌彦)さあ、今日はですね、スポットを当てる...

(山里亮太)たしかに(笑)。

(町山智浩)僕が話すことではないので。僕はその頃、とにかく内田さんの映画を見まくっていたんですね。というのは、次々と公開されていたからなんですよ。連続して。

(赤江珠緒)そんなに映画に出られていたんですね。

(町山智浩)内田さんは主役をした映画っていうのはそんなに数は多くないんですが、それは圧倒的に1979年から1991年の約10年間に集中していまして。その頃は僕、高校から大学の間だったんで、映画をとにかく片っ端から見まくっている時だったんですよ。だからリアルタイムで全部見ているんですね。だからすごく、僕はここでは映画俳優としての内田さんについて話したいと思うんですよ。それ以外のことは他の人たちが言いますから。で、とりあえず内田さんの主演映画の中でいちばんヒットした、成功した映画『コミック雑誌なんかいらない』の主題歌をお願いします。

(町山智浩)はい。これは聞いたこと、ありますか?

(山里亮太)いま、特集をされていてそれではじめて聞いたぐらいですね、僕は。

(町山智浩)そうなんですか。一応、これが内田裕也さんの歌の中で最も有名な歌なんです。で、これは頭脳警察という別のバンドの歌なんですけど。内田さんはカバーばっかりでご自身ではあんまり歌を作っていなかったんですね。で、「ロックミュージシャン」という風に言われているんですけど、ヒット曲は1曲もないんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。

(町山智浩)ただ、ロックのプロデューサーとしてタイガースを見つけてきたりして、プロデューサーとしては非常に有能だったんですけども。で、この『コミック雑誌なんかいらない』は1986年の映画なんですが。ご覧になっていないですよね?

(赤江珠緒)見ていないです。はい。

NIKKATSU COLLECTION コミック雑誌なんかいらない! [DVD]
Happinet(SB)(D) (2009-07-17)
売り上げランキング: 123

(町山智浩)これは内田裕也さんが芸能突撃レポーターを演じる映画なんですよ。その頃、梨本さんという芸能レポーターの人がいて。いろんなところに行ってズケズケとインタビューをするので有名だったんですけども。

(赤江珠緒)「恐縮です」の梨本さんですね。

(町山智浩)それはご存知ですか。

(赤江珠緒)はい。梨本さんとはお会いしたことあります。

(町山智浩)そうなんですか。この中で内田裕也さんは梨本さんの真似をして、「恐縮です」って言いながらいろんなところに突撃していくんですよ。レポーターとして。ただ、映画なんですが、芝居じゃなくて本当に突撃しているんですよ。たとえば山口組と一和会がものすごい抗争をしているんですけど、そこに行くんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)それで本物のヤクザさんにインタビューするんですよ。

(赤江珠緒)ええっ!

(町山智浩)それとか、ロス疑惑っていうのがあって。三浦和義さんという人がそのロサンゼルスで奥さんを保険金目当てで殺害したという疑惑があったその時、三浦和義さんにインタビューに行くんですよ。

(赤江珠緒)えっ、アポなしいきなり突撃取材みたいな?

(町山智浩)ただ、この内田裕也さんという人、どういう人っていうイメージですか?

(山里亮太)結構荒々しいようなイメージが……。

(町山智浩)怖いっていうイメージですよね? 喧嘩っぱやいとか暴力的であるとか。内田さんってね、ものすごい口下手なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)芸能レポーターだったらベラベラベラベラしゃべんなきゃいけないわけですよね。でも、向いてないんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? なのに梨本さんの役?

(町山智浩)そう。で、三浦和義さんのところに行って、その三浦和義さんに徹底的に論破されちゃうんですよ。というおかしさなんですよ。この『コミック雑誌なんかいらない』っていう映画のおかしさって。

(赤江珠緒)へー! じゃあ、ドキュメンタリー映画みたいな感じですか?

(町山智浩)ああ、半分ドキュメンタリーみたいな。要するにゲリラ撮影して、現場に行っちゃっているんですよ。

(山里亮太)すごい撮り方してますね。

クライマックスは豊田商事事件

(町山智浩)ええ。だからね、いちばんのクライマックスは豊田商事事件っていうのがあったんですけども。これは金相場かなんかの詐欺で、お年寄りからお金をたくさん集めていた詐欺師がマスコミに見つかって、自宅に閉じこもっているところを右翼の男2人が襲撃して、マスコミがカメラを構えているところでその詐欺師を刺殺して。それがテレビで生放送してしまったという事件なんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)これを、その生放送をそのまんまに再現するんですよ。この『コミック雑誌なんかいらない』では。で、殺害犯はビートたけしさんが演じているんですが、すさまじい迫力なんですよ。で、そういう、どこまでが映画でどこまでが本当なのか全然わからない、その事実とフィクションの境目がわからなくなるのが内田さんの映画の特徴なんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、この中でも安岡力也さんと桑名正博さんが出てきて。で、「大麻で捕まった」っていう話を本人の役でしているんですよ。実際、その直前に捕まっているんですよ。

(赤江珠緒)本人の役で?

(町山智浩)そこで、「まったく、俺たちみたいなロックミュージシャンには世間とか警察は厳しいよな」とかって言って。「大手の芸能プロには甘いんだよな」って話しをするんですけど(笑)。

(山里亮太)へー! 結構踏み込んでるな(笑)。

(町山智浩)すっごい踏み込んでるんですよ。で、内田さん自身も逮捕されているんですよ。1977年に。で、ところが77年に大麻で逮捕されるんですけど、79年に『餌食』っていう映画で主演するんですよ。

餌食 [VHS]
餌食 [VHS]
posted with amazlet at 19.03.19
東映ビデオ (1987-08-14)
売り上げランキング: 6,324

(赤江珠緒)77年から2年後に?

(町山智浩)2年後。その映画は冒頭で、東京で内田さんがマリファナをパカーッ!って吸うところから始まるんですよ。逮捕された2年後にです。

(赤江珠緒)へー!(笑)。

(町山智浩)だからね、いま、たとえばそういうことで犯罪とかで逮捕された人がいた場合にね、その人が出演した作品というものをどう扱うか?っていうことは非常に問題になっていますけども。まあ、「作品と人は分けるべきだ」みたいなことはあるんですけど、内田さんの映画については分けられないんですよ。

(赤江珠緒)フハハハハハハッ! もうそういう概念じゃない話ですね。これね。

(町山智浩)だからね、「人には罪はあっても映画には罪はない」っていう風に言うじゃないですか。内田さんの映画は映画そのものが犯罪なんですよ!

(赤江珠緒)フハハハハハハッ!

(町山智浩)それ自体が犯罪を見ているような感じなんですよ。

(山里亮太)それを許させるなにかが内田さんにあったのかな? それとも時代なんですかね?

(町山智浩)そういう時代だったんですよ。前に話をした事件を実際に起こして、それを映画に撮っていく若松孝二監督の作品なんですよ。『餌食』というのは。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、この『餌食』という話がまたすごくて。マリファナを吸っている売れないミュージシャンである忠也という人が内田裕也さんの役なんですけども。それが大手のプロモーターの会社、外国からミュージシャンを呼ぶ会社にかけあって、「レゲエのミュージシャンを見つけてきたんで、その彼らを日本に呼んでほしい」っていう風に言うんですけど、相手にされないんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、実はその大手のプロモーターが彼の元恋人を麻薬漬けにしていたことがわかって復讐するために内田裕也さんが銃を取るんですよ。で、その芸能プロに殴り込みをかけるっていう話なんですね。『餌食』という映画は。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ところがそこで最後に内田裕也さんは結局負けてしまって。で、もうムシャクシャするから原宿の駅前の歩道橋にのぼって、原宿の歩行者天国に集まっているなんでもない群衆を片っ端から無差別射殺していくっていう話なんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)で、その映画のわずか4年後、実際にその大手のミュージシャンを呼ぶ会社であるウドー音楽事務所に内田裕也さんは刃物を持って殴り込みをかけて逮捕されているんですよ。

ウドー音楽事務所殴り込み事件

(赤江珠緒)そうか。内田裕也さん、そうですね。なんか3回逮捕されたっていうことはうかがっていましたけども。ここと、ここ。

(町山智浩)そう。どこまでが映画でどこまでが現実なのか、わからないんですよ。しかも、そうやってこの事件で逮捕されているんですけど。『餌食』の再現みたいな形で。しかも1991年にはもう1回、この『餌食』と全く同じ話を『魚からダイオキシン!!』っていう映画でリメイクしているんですよ。

魚からダイオキシン!! デラックス版 [DVD]
パイオニアLDC (2002-12-21)
売り上げランキング: 21,039

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)全然凝りていないっていうね。

(赤江珠緒)でもその、映画じゃなくて音楽事務所に刃物を持って乗り込んだのはこれ、なんでなんですか?

(町山智浩)それは外国のタレントばっかり盛り上げて、日本のロックを全然ないがしろにしているじゃないかっていうことなんですけどもね。

(赤江珠緒)ああ、そういうことで。はー!

(町山智浩)でも、内田裕也さんはそういうことを……僕なんかはこうやってベラベラとしゃべっちゃうんですけども、ちゃんと言えないんですよ。どの映画でもそうだし、事件を起こす時もそうだし、記者会見とかでもちゃんと言えないんですよ。口下手だから。

(赤江珠緒)ふんふん。

(町山智浩)この人、口下手なのに東京都知事選に出ちゃっているんですよ。

(赤江珠緒)そうでしたね(笑)。

(町山智浩)で、政見放送を見ると口下手だからちゃんと言えないから、歌を歌って、あとは英語で自己紹介して、「ロックンロール!」で終わっちゃうんですけども。

(赤江珠緒)うんうん(笑)。

(町山智浩)口下手なのに選挙に出ちゃマズいだろ?っていう(笑)。

(赤江珠緒)フフフ、でも町山さんが昔ね、ロックというのは政権とかそういう既定の概念を覆す、転覆させるっていう意味だと教えてくださいましたけども。その後もずっと政治のこととかにも関心をお持ちだったりっていう側面はありましたよね。

(町山智浩)まあそういう風に、難しくかっこつけて言うとそうなんですけども。まあ、僕は内田さんのいちばん面白いところっていうのは、そのへんがそんなにかっこいいものではないところなんですよ。

(赤江珠緒)そうなのか。


町山智浩『ビューティフル・ボーイ』『ベン・イズ・バック』を語る

$
0
0

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、薬物中毒になってしまった子供と親を描いた映画『ビューティフル・ボーイ』と『ベン・イズ・バック』を紹介していました。

(町山智浩)今日はですね、もうすぐ……4月12日公開の『ビューティフル・ボーイ』という映画と5月24日公開の『ベン・イズ・バック』という映画の2本を紹介したいんですけど。この2本はものすごく似ている映画なんですよ。

(赤江珠緒)へー。

(町山智浩)似てるんですよ。両方とも、ドラッグの中毒となった子供、息子と親の話なんですね。家庭環境とかも似ていて、両方とも実話を元にしているんですよ。これがすごく裏表になっている映画で面白かったんで、まとめて紹介をしますけども。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)まず『ビューティフル・ボーイ』という映画、タイトルはジョン・レノンの歌の『Beautiful Boy』という歌を元にしているので、ちょっと聞いてください。

(町山智浩)はい。この歌はジョン・レノンさんが子育てをしている時に自分の息子さんのショーンくんがかわいくてしょうがないから「かわい子ちゃん、かわい子ちゃん」って歌っている歌なんですね。

(赤江珠緒)浮かれちゃっている感が出ていますもんね(笑)。

(町山智浩)いや、もう本当に子供が3、4歳のころはもう頭の中がそれで支配されますからね。かわいくてかわいくて。で、この映画のビューティフル・ボーイはですね、ティモシー・シャラメくんなんですよ。この写真にある。

(山里亮太)もう美少年な。

(赤江珠緒)本当ですよね。

(町山智浩)本当に、そう。ビューティフル・ボーイっていう感じのね。『君の名前で僕を呼んで』という映画ですごい世界中にファンを掴んだ男の子ですけども。

町山智浩 『君の名前で僕を呼んで』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『君の名前で僕を呼んで』を紹介していました。 You're welcome. The #CMBYN soun...

(赤江珠緒)おおーっ!

(町山智浩)まあ、顔がいいだけじゃなくて実際に天才でね。めちゃくちゃいい学校に行っていて、音楽もできて……っていう小憎らしいやつですけども(笑)。

(赤江珠緒)そんな人なんですね。へー!

(町山智浩)そうなんですよ。困ったもんですけど……って別に困らないですけども(笑)。その彼がこの主役のビューティフル・ボーイで。これは実在のジャーナリストのデビッド・シェフという人の息子さんのニックさんの話なんですね。このデビッド・シェフという人はなぜ、この『Beautiful Boy』という歌を使っているかというと、彼はジョン・レノンが生きている時、最後にインタビューしたジャーナリストなんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、『ローリングストーン』誌とかでロックミュージシャンのインタビューを主にやっていた人で、お金もあるんですけど。ねえ。まあ昔はジャーナリストってインタビューとかしているだけでお金持ちになれたんですね。いまはもう不可能ですけども。本当に雑誌が売れないんで(笑)。まあ、それはいいんですが。

(赤江珠緒)そうかそうか。

(町山智浩)これ、この男の子が1982年生まれだから2000年代はじめの話なんですけども。で、この子が両親が離婚をして、お父さんの方についていって、そのお父さんが新しく結婚をして、その間に生まれた腹違いの弟とも仲良くなって。すごく学校の成績もよくて、UCバークレーっていう世界でもトップクラスの大学に受かるような勉強のできる子なんですよ。

(赤江珠緒)いろんな意味でよくできた子で。

(町山智浩)そう。ティモシー・シャラメくん自身みたいなね。でもね、11歳の頃からお酒を飲んで、大学に行く頃には完全に覚醒剤中毒になっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)という、本当にあった話なんですね。で、この映画の中ではそれだけ勉強ができて、それで弟とも仲良く遊んで、すごく優しい子がどんどんどんどん覚醒剤で崩壊していく姿をリアルに映画いている、タイトルの『ビューティフル・ボーイ』とは全く逆のものすごい怖い話なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)でね、どんどんダメになっていくんですね。それで何度も何度もリハビリ施設に入ったりしてもやっぱりダメで。それで抜け出して……とかやっているうち、最初は親のお金を盗んでシャブを買うみたいなことになっていくんですけど、最後の方はもう8歳の弟のお小遣いを盗むようになりますよ。

(赤江珠緒)はー! うん……。

(町山智浩)もう本当にどん底まで行くんですよ。で、それでも父親は見捨てられないわけです。自分の息子ですから。それで一緒にボロボロになっていくっていう話なんですよね。これはかなりずごいリアルで怖いんですけども。これ、うちの近所で全部撮影をしているので、サンフランシスコの話なんですよ。だから非常にリアルで怖いんですけど。ただ、やっぱり最初の方で子供がそういう状況になったということに親が気がつかないんですよね。意外と。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、もう気がついた時には遅かったっていうところで。自分はすごく息子と近いところにいて、息子のことはなんでも知っていたっていう風に父親は思っているんですけど、実はそんなことは全然なかったんだっていうのが怖いですね。これは。

(赤江珠緒)そうかー。なんで出会っちゃうんだろうね。本当にね。

(町山智浩)怖いんですよね。これはまあ、このニックくんがすごくいい子でいようとして。それで両親が離婚をしていろいろとあったんだけども、その心の揺れを隠していて。それでお酒に逃げていたらしいんですよ。最初は。それから、まあいい子だから、その親の前ではいい子で振る舞うために、つらいことを全部クスリに逃げるという形で。だから真面目ゆえにそうなっていくっていうことなんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

真面目ゆえにクスリに逃げた

(町山智浩)だからその、ドラッグとかそういうものは不良がやるものだとかね、もともと反社会的な人がやるものだっていうのと全く逆の現象がここで起こっているんですよ。真面目ゆえにやってしまうというね。で、その後もどんどんひどくなっていって、最後の方は道端で……彼は美少年ですから、おじさんに体を売ったりするようになっていくんですよね。

(赤江珠緒)ほー!

(町山智浩)だからもうすさまじいものなんですけども。ただね、このニックさんは現在は完全に治っています。それで自分自身でその体験を全部本に書いたりしているんですけども。まあ、それまでの大変な話なんですよ。で、もう1本の方がまたすごくよく似ていて。『ベン・イズ・バック』っていう映画なんですけども。「ベンが帰ってきた」っていうタイトルなんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)これ、ジュリア・ロバーツがお母さん役なんですよ。ジュリア・ロバーツ、もうお母さん役ですよ。『プリティ・ウーマン』だったのに。

(赤江珠緒)そうですね(笑)。

(町山智浩)それもハタチぐらいの子供がいるっていう役ですよ。それで、ベンっていうのが息子なんですけど、それが帰ってくるんですね。で、帰ってきて「ああ、ベンがクリスマスだから帰ってきた」って思うんですけど、一緒にいる娘の方が「出ちゃダメ!」みたいなことを言うんですよ。「ベンと話しちゃダメ!」とか言うんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)というのは、ベンは帰ってきてはいけない人なんですよ。

(赤江珠緒)えっ、なんでだ?

(町山智浩)この人は、ヘロイン中毒なんですよ。ヘロイン中毒の長男で、大変な事件を街で起こしてしまって。それでリハビリ施設にずっと入っていた彼がそこから抜け出してきたっていうことなんですね。クリスマスだから、みんなといたくて。で、それを送り返してもいいんですけど、クリスマスだから一緒にクリスマスを過ごそうっていうことでそのジュリア・ロバーツが彼を家に受け入れるという話が『ベン・イズ・バック』という映画なんですけども。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)これがね、やっぱり街中の人が彼がクスリをやっていたことを知っているんで。それで大変な迷惑を周りにかけてしまったんで、彼は帰ってきても居場所がないんですよ。で、居場所がないとどうなるか?っていうと、そんな彼に優しくしてくれる人っていうのは1人しかいないんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それは売人なんですよ。彼がどこにも行けなくなったのを待って、もう1回引きずり込もうとして売人が周りをウロウロするわけですよ。

(赤江珠緒)はー!

居場所がなくなると、売人が近づく

(町山智浩)で、それと接触をさせないように、ジュリア・ロバーツがずっと彼から目を離さないでいようとするっていう話で、サスペンス映画みたいになっているんですけども。この『ベン・イズ・バック』っていうのは。で、ベンを演じるのはこれはルーカス・ヘッジズくんといういま、やはりティモシー・シャラメくんと同時にすごく注目されているイケメン俳優なんですけども。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)この映画ね、監督がピーター・ヘッジズという人なんですね。で、ルーカス・ヘッジズの実の父親なんですよ。監督が自分の息子をベンの役で使っているんですよ。で、どうしてこのピーター・ヘッジズという人はこの映画を撮ろうとしたかというと、まずひとつは親友だったフィリップ・シーモア・ホフマンという俳優さんがヘロインの過剰摂取で死んじゃったんですよね。

町山智浩推薦 故・フィリップ・シーモア・ホフマン映画5作品
映画評論家の町山智浩さんが亡くなったフィリップ・シーモア・ホフマンについて、TBSラジオ『赤江珠緒たまむすび』で話し、彼のおすすめ出演作品5本を紹介していました。 BREAK...

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)フィリップ・シーモア・ホフマンさんは名優で、『カポーティ』っていう映画でアカデミー主演男優賞まで取っている人ですけども。で、奥さんもいて、子供もいて。でも密かにヘロインをやっていて、自宅のトイレでヘロインをやっている最中に死亡したんですよ。矢野顕子さんと同じアパートに住んでいたんですよ。

(赤江珠緒)そうですか……。

(町山智浩)矢野顕子さんが「フィリップさんが亡くなった」っていう第一報をTwitterでしたのかな? という、そのアカデミー賞も取ってものすごい地位もあって、奥さんもいて子供いてお金もあって。それでも、ヘロインにハマっていたんですね。で、同じ部屋に子供がいる状態で死んでいるんですよ。

(赤江珠緒)うん……。

(町山智浩)で、そういう事件があったので、このピーター・ヘッジズさんがやっぱりこのドラッグという問題についてやりたいんだと。あと、もうひとつは彼のお母さんがアルコール中毒だったんですよね。で、ピーター・ヘッジズ監督が7歳の時、お母さんが完全にアルコール中毒になって、めちゃくちゃになって育児放棄をされたんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、それから、彼が15歳になるまでずーっとリハビリしたり、また中毒に戻ったりを繰り返してものすごい苦闘をしていたらしいんですよね。

(赤江珠緒)いろんなトラウマがあるんですね。この監督にね。

(町山智浩)この監督、そのお母さんのトラウマっていうのがものすごく強くて。この人、もともと映画界に来たのは『ギルバート・グレイプ』という小説を書いたからなんですよ。『ギルバート・グレイプ』という小説はジョニー・デップがまだ若い頃の映画で若者の役を演じているんですが。彼のお母さんがお父さんが亡くなったことのショックで過食症になってしまって。ものすごく太って、部屋から出られなくなって、街中の笑いものになっているというギルバート・グレイプくんの話なんですよ。

ギルバート・グレイプ [Blu-ray]
キングレコード (2018-06-20)
売り上げランキング: 30,258

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)これはピーター・ヘッジズ自身の体験が元になっているんですよ。それを書いて映画界に出てきた人なんですよね。だから常にそういった問題と向かい合って映画を作り続けてきた人なんですけども。この映画で――どっちの映画もそうなんですけども――いちばん問題なのはその彼ら、ドラッグとかの中毒になった人たちが居場所がないと、またドラッグの方に行ってしまうということなんですよね。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)で、常に居場所を用意してあげなければいけないんだと。そうしなければ、彼らに優しくしてくれるのは本当に売人しかいなくなってしまうので。売人の元に戻っていってしまうんだと。だからこれ、家族がどれだけ大変なんだ?っていう話なんですよね。で、このジュリア・ロバーツはずっと目を離さないようにして、ベンくんとずっと一緒にいるんですけど、完全に目を離さないのはやっぱり不可能で、ちょっとした隙に目を離しちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

町山智浩 萩原健一を語る

$
0
0

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で亡くなった萩原健一さんについて話していました。

アンドレ・マルロー・ライブ(紙ジャケット仕様)

(町山智浩)今日は先日亡くなった萩原健一さん。「ショーケン」と呼んではいけない人なんですけども、子供の頃からのファンだったのでショーケンさんと呼ばせていただきますが。まあ、ちっちゃい頃からのただのファンなんですけども。10歳の頃からのファンですね。

(赤江珠緒)町山さん世代からしたら、そうだ。(BGMを聞いて)出た、『愚か者よ』。

(町山智浩)いまかかっているのは萩原健一さんの『愚か者よ』なんですけども。萩原健一さんっていうのはどういうイメージがありますか? 赤江さんたちの世代にとっては。

(赤江珠緒)うーん。ちょっと強面という感じですね。

(山里亮太)怖い人っていう。

(町山智浩)怖い感じですよね。

(赤江珠緒)渋いけど怖い感じがありました。

(町山智浩)やっぱり80年代に何度も逮捕されたことがあって、そのイメージだと思うんですよ。1983年にマリファナの不法所持で逮捕。84年に飲酒運転で人身事故。85年にはアントニオ猪木さんの奥さんだった倍賞美津子さんと一緒にいるところを写真に撮った記者に暴行をして逮捕。そんなことを毎年繰り返していたので。最近でも2004年の交通事故と映画のスタッフへの暴行・恐喝で逮捕っていうことをやっていますから、イメージがどうしてもアウトローというイメージになりますよね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)その1984年に自伝を出しているんですけど。そのタイトルは『俺の人生どっかおかしい』っていうタイトルなんですよ。

俺の人生どっかおかしい
萩原 健一
ワニブックス
売り上げランキング: 164,323

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(山里亮太)自覚症状がちょっとあった?(笑)。

(町山智浩)そうなんですけど(笑)。で、80年代にライブをした時もすごくて。『大阪で生まれた女』を歌うんですよ。で、「踊り疲れたディスコの帰り」っていうところを「留置所の帰り」っていう風に歌っちゃうんですよ。

(赤江珠緒)フハハハハハハッ! お茶目な人なんですね(笑)。

(町山智浩)そうですよ。で、萩原さんのいちばんの有名な曲『ラストダンスは私に』という越路吹雪さんのカバーでは、歌詞の中で「お酒みたいに心酔わせるわ」っていうのがあるんですけど、そこをライブでは「大麻みたいに心酔わせるわ」って歌っちゃうんですよ(笑)。

(赤江珠緒)あららら……(笑)。

(町山智浩)で、そういうことをやっているから、ステージにポンポンとおひねりみたいに大麻が投げ込まれたりするんですよ。

(赤江珠緒)ちょっと待ってください。本当ですか? ええっ?

(町山智浩)そういう人だったんですね。で、まあそういう自分のアウトローのイメージと遊んでいるところがすごくある人で。ちょっと『54日間、待ちぼうけ』という曲を聞いてもらえますか?

(町山智浩)この歌はどういう歌かっていうと、このタイトルの「54日間」っていうのは萩原さんが逮捕された時の勾留期間のことなんですよ。

(赤江珠緒)フハハハハハハッ! いや、「もしや?」とは思ったんですけど。やっぱりそうだったんですか。そうかー。

(町山智浩)はい。これは萩原さんと一緒に暮らしている奥さんか恋人の女性が萩原さんが勾留されている間、ずっと待っている気持ちを彼が勝手に想像して歌っているという。

(赤江珠緒)そうですか(笑)。

(町山智浩)勾留されている本人が家で待っている彼女の気持ちを歌うというですね。図々しい!っていう世界ですけど(笑)。そういう面白さがある人だったんですが。ただ、1962年生まれの僕にとっての萩原さんっていうのは全くそういう人じゃなかったんですよ。僕の世代にとって、萩原さんっていうのは心優しくて弱虫で泣き虫の甘えっ子のイメージなんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)本当にそういう人だったんですよ。だから日本のジェームズ・ディーンだったんですよ。

(赤江珠緒)ふーん! そんな優しい、柔らかい感じ? へー!

(町山智浩)ジェームズ・ディーンっていうのはいつも拗ねている感じなんですよ。いつも寂しそうで甘ったれで……っていうイメージだったんですけど、そういう感じの人だったんですよ。実際にジェームズ・ディーンの演技にも影響を受けていた人なんですけど。具体的にどういう演技だったのか?っていう話をするには、1972年に大ヒットした日本テレビの刑事ドラマ『太陽にほえろ!』がいちばんいいと思うんですね。

『太陽にほえろ!』

(町山智浩)この『太陽にほえろ!』っていうのは画期的な刑事ドラマだったんですけど。なにが画期的だったかっていうと、まず萩原健一さんが長髪でネクタイを締めない刑事だったんですけど。それは日本の刑事ドラマでは初めてのことだったんですよ。で、それだけじゃなくて、彼が全く正義感が強い熱血刑事ではなかったということなんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)もともと不良でチンピラだったのが、そのままヤクザとかになるはずだったのが何かの間違いで刑事になってしまった青年っていう設定なわけですよ。ほとんど。だから、「あいつは許せない!」とかそういう感じじゃないんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そういう複雑な設定の上の刑事さんだったんだ。へー!

(町山智浩)非常に不安定な、綱渡りをしている感じなんですよ。悪の道と正義の道の間で。で、それでいちばんの問題は「弱い」っていうことなんですよ。とにかく弱虫なんですよ。で、僕が子供の時に見てものすごい衝撃を受けたのは、沢田研二さんが犯人として出てきた時なんですね。で、沢田さんが人を殺そうとするのを止めようとして、萩原健一さんのニックネームはマカロニ刑事っていうんですが。そのマカロニ刑事が沢田研二を射殺するんですよ。すると、倒れた沢田研二さんの体にマカロニはむしゃぶりついて、「ごめんなさい……」って泣くんですよ。「起きてください……ごめんなさい……お願いです……」ってずっと泣くんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)これ、大人がこんなに泣くのを見たのは僕が子供の頃はこれが初めてでしたよ。

(赤江珠緒)しかも、刑事がね。

(町山智浩)刑事がですよ。で、『ダイ・ハード』とかそういう映画で……日本の映画でもドラマでもそうですけど。犯人を射殺した刑事が「イエーイ!」とかって言ったり、Vサイン出したりするじゃないですか。そんなんじゃない。人を殺すということはこういうことなんだっていうことでしたね。これだけ重いことなんだよっていう。

(赤江珠緒)なるほど。

(町山智浩)ただね、すごくそのショーケン、萩原健一さんはそれを見た時から僕らの世代にとっては「大人」っていうよりも、「自分たちと同じような子供がそのままなんかの間違いで大人の世界に入ってしまった」っていう風に見えたんですよ。

(赤江珠緒)そんな親近感みたいなものがある大人だったんですか。

(町山智浩)そうなんですよ。実際にその七曲署っていう警察署の刑事の中でも彼はもう本当に子供のように他の刑事たちからかわいがられるんですよ。石原裕次郎さんとかね。で、彼自身も心がすごく優しくて繊細だから、犯人の気持ちにどんどん寄り添ってしまうんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、それがいちばんよく出た回というのが「危険な約束」っていうエピソードで。マカロニが入ったスナックがたまたま拳銃強盗によって客の全員が人質になってしまうんですね。で、マカロニはあんな格好だからチンピラだと思われて、刑事だとは気づかれずに人質にされてしまうんですけども。で、お客さんは結構恋するカップルとかサラリーマンとその浮気相手とか、あとはヤクザの親分と子分とかがいたんですけど、人質になったことでそのそれぞれが自分だけが生き残ろうとして浅ましい様を見せて、お互いにどんどんと軽蔑し合うようになっていくんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だから「あなたが好き」とか言っていたのが、お互いに自分のことしか考えていないということがどんどんと露呈していくんですよ。

(赤江珠緒)まあ人間の真理といえば真理ですね。

(町山智浩)そうなんですよ。それを見ていた犯人が気が滅入ってくるんですよ。というのは、この犯人は愛する人のために銀行強盗をしたんですね。で、その愛する女性のことを待っていたんですよ。ところが、その女性は来ないんですよ。で、どんどんと不安になってくるんですよ。人質の愛し合っていたもの同士が互いに裏切るから、それを見ていてね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、萩原健一さんに「この彼女のところに行って、呼んできてくれないか?」っていう風に犯人が言うんですよ。「どうして?」って言うと「この中で信じられそうなのは君だけだからだ」って言うんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)で、マカロニはそのスナックを出て、その彼女を呼びに行くんですよ。そしたらその彼女は「なに言ってるのよ? そんな強盗なんかと逃げたりしないわよ。バカね」って言うんですよ。で、マカロニは刑事だから当然、そのスナックで人質を取っているっていうことを警察署の上司に伝えなければならないんですけども……伝えないんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)なぜならば、なにも世の中で信じられないって思っていた犯人が唯一信じたのがマカロニだったからですよ。その時、もし彼が裏切ったらその犯人はこの世のなにもかもが信じられなくなってしまうじゃないですか。マカロニはそこで刑事としての職務よりも犯人の孤独の方に寄り添うんですよ。

(赤江珠緒)はー!

『傷だらけの天使』

(町山智浩)そういう物語だったんですよ。『太陽にほえろ!』とショーケンのドラマというものは。ただ、やっぱりそれだと刑事だと座りが非常に悪いんで。結局、もっとアウトロー側の『傷だらけの天使』に行くんですね。1974年です。

町山智浩 キリスト教福音派映画『魂のゆくえ』『ある少年の告白』を語る

$
0
0

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でキリスト教福音派を扱った映画『魂のゆくえ』と『ある少年の告白』を紹介していました。

(町山智浩)それで今日は、アメリカのキリスト教についての映画が2本、今週来週と続けて日本で公開されるので、それについてお話します。1本目は今週公開の『魂のゆくえ』。もう1本は来週公開される『ある少年の告白』という映画になります。で、この『魂のゆくえ』という映画はイーサン・ホークが主演です。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)イーサン・ホーク、わかりますよね?

(赤江珠緒)よく聞きますよね。イーサン・ホークさん。

(町山智浩)『いまを生きる』とか、いっぱい出ている人ですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうだ。『いまを生きる』は見ました。

(町山智浩)あの美少年がいまはもうおじさんなんですよ。成人した子供がいるぐらいの年齢になっていますからね。で、彼が牧師さんです。すごく昔からの歴史と由緒がある、アメリカ独立前から存在する教会で牧師をやっている人を彼が演じていますね。で、もう信者が全然来ないんですよ。古い教会って。アメリカは地元の教会に日曜日に来る人がもうほとんどいなくなってきています。いま。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)アメリカ人っていうと日曜日に教会に集まるってみなさん、思っていると思いますけども、いまは本当にいないです。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですか!

(山里亮太)なんでそうなってしまったんですか?

(町山智浩)行くと、おじいさん、おばあさんばっかりです。代々行っていた教会に来なくなっているのは、「ボーン・アゲイン(Born Again)」という、「再誕、再生する」という運動がずっと続いているからなんですよ。

(赤江珠緒)ん?

(町山智浩)ボーン・アゲインというのは……カトリックとかいろんな宗派の父親と母親のもとに生まれてその子もキリスト教徒になるんですけども。その後、自分の意志でもう1回、キリスト教徒として生まれ直すということをするんですね。バプタイズって言うんですけども、洗礼を受けたりして。すると、そこのいままで自分たちが育っていた地元の教会には行かなくなるんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)というのは、その地元の教会っていうのは非常に穏健なんですね。穏健で、他の宗教の存在を許すんですよ。アメリカというのはもともとバラバラの宗教の人たちが自由を求めてやってきた国なので、他の宗教を尊重するんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ところが、そのボーン・アゲインしていく人たちは「福音派」と呼ばれる非常に聖書原理主義的な、他の宗教を許さない人になっていくわけです。で、彼らはいままでの穏健な教会、昔ながらの教会に満足ができなくて、もっと全国的な運動に参加していったり、あともうひとつは「メガ・チャーチ」と呼ばれる巨大協会に行くようになるんですよ。

(山里亮太)メガ・チャーチ?

(町山智浩)メガ・チャーチっていうのは数千人から1万人規模の、だからコンサートホールみたいな教会です。

(赤江珠緒)そんな規模?

(町山智浩)僕は何回か行ったことがあるんですけど、とにかくショーアップされていて、レーザー光線が飛び交ったり、スモークを焚いたり。本当にすごいですよ。バンドも生で演奏しますし。で、そこに1万人とか5000人とか来るわけじゃないですか。するとみんな、クレジットカードで寄付をしていくんですよ。で、さらにそれを毎週末、テレビで中継しています。それもテレビを見て電話で寄付ができるようになっているんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だから毎週毎週、ロックコンサートをやっているようなもんなんで、それこそ億とか、バンバン儲かっちゃうんですよ。で、そちらの方が圧倒的に面白いんですよ。教会としては。

(赤江珠緒)それこそ規模も全然違いますしね。

(山里亮太)ライブとかやっているって言われると。

(町山智浩)そこに1万人、信者が行ってしまったら、地元のちっちゃい教会ってどうなりますか? ガラガラですよ。

(赤江珠緒)ずいぶんと様変わりしてきたんですね。へー!

(町山智浩)もう大変なことになっているんですよ。アメリカの地方のちっちゃい教会はみんなつぶれてしまいそうで。で、そこの1人がこのイーサン・ホークなんですね。で、彼の教会には信者が全然いないわけですけど、その中に1人だけ若い奥さんがいて。「相談がしたいんです」って言うんですね。そのメアリーさんっていう人が。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)アマンダ・セイフライドが演じているんですけども。で、「私、妊娠をしたんだけど、うちの旦那が『子供はいらない』って言うんです。だから、説得をしてほしい」って言われて、そのマイケルという旦那のところに行って、「なんで子供がほしくないのかね?」ってイーサン・ホーク牧師が聞くと、「地球はこのまま行くと滅びるからです。生まれてきた子供はかわいそうです。いま、地球は温暖化とかいろんな形でどうなっているのか、ご存知ですか?」っていろんなデータを見せてくれるんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)アメリカもハリケーンがすごくて、毎年毎年ハリケーンと寒波と竜巻とでものすごい死者が出ているわけですよ。自然災害で。日本もそうですよね。豪雨とか。で、「全世界でものすごい気候変動によってこれだけの死者が出ていて。この後、子供はこれから何十年と生きていくのにどうなると思いますか? そこに子供を残して死ぬことはできません。かわいそうだから。だから、子供はいらないんです」ってそのマイケルという人が言うんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)それでその旦那がイーサン・ホーク牧師に「なぜ、あなたは神の教えを説く牧師なのにこの問題になにもしないんですか?」って言われちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うわー、またすごい問題を突きつけられますね。それは。

(町山智浩)これはね、アメリカのキリスト教徒はなにもしないんですよ。アメリカの福音派と呼ばれる人たちは全体の25%、いるんですね。すごい人数ですよ。だから4人に1人がアメリカでは福音派なんですよ。で、彼らは1980年にレーガン大統領が「福音派のために政治をする」ということを約束してから、レーガン大統領が所属していた共和党の支持基盤となっているんですよ。ずっと。非常に長いんですよ。1980年からだからもう40年ぐらいそうなっているんですよ。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)で、彼ら、その25%の福音派のうち、「地球温暖化が危険なものだ」と認識している人っていうのはついこの間まで20%以下だったんですよ。ほとんど誰も地球温暖化なんて気にしなかったんですよ。

(赤江珠緒)なんでなんですか? 現状、こんなに異常気象とかもあるのに。

(町山智浩)で、現在ではその割合は増えています。32%ぐらいまで増えているんですけども。それでも、少ないんですよ。その理由というのは、その共和党の政治的な立場が大企業寄りになっているので。大企業、特に石油産業なんですね。主に。で、石油産業はエクソンモービルとかコーク・ブラザーズっていう巨大な石油化学工業があるんですけど、そういったところがシンクタンクにお金を出しているんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、ケイトとかヘリテージとかっていうその石油関連会社が出資しているシンクタンクがあるんですけど、そこは「地球温暖化はない」っていう研究報告をずっと続けているんですよ。なぜならば、その地球温暖化の原因はCO2なんで、「地球温暖化がある」となると石油産業が規制を受けることになってしまうから。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)だから、規制を受けないように「地球温暖化なんてないんだ」って言い続けているので、共和党もその石油関連の企業からお金をもらっていますから、「地球温暖化はない」っていうのをずっと党として一貫して言い続けているんですね。で、トランプ大統領もそうで、環境保護庁の長官にその環境保護庁を訴えて「CO2による被害はないんだ」と言っていた人をしたぐらいですから。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)「環境保護は必要ない」っていう人を環境保護庁の長官にしたんですよ。トランプ大統領は。そういうことをやっているので、キリスト教の福音派の人たちは共和党によって自分たちの求めているものを約束されていますから。彼らの求めているものというのはまず、人工中絶の完全違法化。

(赤江珠緒)ああー、そうですね。

(町山智浩)あと、同性婚の違法化。それを実現するためには、最高裁の決定が必要なんですね。で、最高裁というのは9人の判事が投票をするんですよ。で、すでにトランプ大統領になってから2人、新しく最高裁判事を任命して、トランプ大統領は最高裁を共和党寄りの多数派にするという約束を果たしたんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。ここが大きかったって町山さんも以前、おっしゃっていましたね。

(町山智浩)はい。だからたぶん、もう数年以内に同性婚はまた違法化されて、人工中絶もまた各州が自由に禁止できるようになると言われていますね。

(赤江珠緒)へー! いままでの流れに逆行するんですね。

(町山智浩)はい。ひっくり返すことになるんですよ。それはキリスト教原理主義の人たちが望んでいたことだから。その望んでいたものをもらったから、じゃあ石油関係、環境保護については目をつぶるっていう取引なんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だからそういう異常なことになっているんですけど。で、映画の話に戻ると、この『魂のゆくえ』のイーサン・ホークは「それはおかしいだろう」っていうことに気づくんですよ。その旦那のマイケルに言われて。で、実は彼はイラク戦争に自分の息子を従軍牧師として送って、死なせているんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それは、ブッシュ大統領がイラク戦争を行ったからですけども、ブッシュ大統領はその時、2004年の選挙の時にキリスト教福音派の人たちに「同性婚を禁止するから」という条件を出してイラク戦争を呑ませているんですよ。

(赤江珠緒)うーん!

(町山智浩)それで、息子を失っているから、もうこれはたくさんだ!っていうことで、なんとかこれを戦わなきゃと思っていると、実は彼の教会は近くのメガ・チャーチにすでにもう買い取られているんですけど。お金がないから。そのメガ・チャーチの最大の大手寄付をしているのが地元の公害企業だったということを知るんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、さらにそのマイケルという地球環境が危ないと思っているお父さんはその企業に対して自爆テロを仕掛けようとしていることがわかってくるんです。さあ、どうする?っていう話なんですよ。

(赤江珠緒)でも、信仰に利害関係が絡みまくって、もうややこしいですね。

(町山智浩)まあ昔からそうですね。大昔から、日本の昔の仏教と天皇家の関係もそうですし、バチカンとヨーロッパのいろんな王権との関係もそうですし。昔から宗教っていうのはそうやって政治と結託していくんですよ。権力を握るために。で、そういう小さい教会の話がどんどんと怖い話になっていくんでびっくりするんですけど、これの監督はポール・シュレイダーっていう『タクシードライバー』の監督なんですよ。だから彼に「アメリカはなんでこんな事態になっているのか?」って聞いたら、「彼らが権力を求めているからだ。神の教えよりも権力を求めているからこうなってしまうんだ」とはっきりと言っていましたね。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)この監督自身、実は昔牧師さんになろうとしていた人なんですよ。改革派教会というカルヴァン派の人で。という映画が『魂のゆくえ』なんですけど、もう1本の方も時間がないのでパッと行きますと……『ある少年の告白』というのはこれ、福音派の人たちが行っているゲイの矯正セラピーについての話なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

町山智浩 マサチューセッツ州とアメリカ合衆国の成り立ちを語る

$
0
0

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でボストンなどマサチューセッツ州を取材した模様をトーク。アメリカ合衆国の成り立ちと銃を持つ権利の起源などについて話していました。

(町山智浩)いま、僕はマサチューセッツ州というところにいるんですよ。ボストンがあるところなんですけど、わかりますか?

(赤江珠緒)マサチューセッツ州。

(町山智浩)行ったことありますか?

(赤江珠緒)行ったことはないですいけども。「読みにくい州だな」っていうことで。はい。

(町山智浩)フフフ(笑)。「マサチューセッツ」っていうのは先住民の部族の名前らしいですね。はい。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですか。

(町山智浩)僕はちょっと他局なんですが。BS朝日でずっとやっている、珍しく続いている番組で『町山智浩のアメリカの“いま”を知るTV』の収録で来ているんですけども。ちょっとね、アメリカっていったいどうやって始まったのか?っていうのを根本的に学び直してみようという風に考えまして。

(赤江珠緒)ほう。

(町山智浩)ずっとアメリカについていろいろとやっているんですが。根本的にアメリカっていったい何なのか?っていうところからやろうとして、このマサチューセッツ州に来ているんですよ。

(赤江珠緒)ニューヨークよりも北側のところですよね?

(町山智浩)そうです、その通りです。マサチューセッツ州っていうのはアメリカが始まったところなんですよ。この地域は「ニューイングランド」って言われているんですけども。つまり、イングランドの人たちが入植してきた植民地なんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だからニューイングランドっていう。ちなみにニューヨークは「新しいヨーク」っていうことで。ヨーク市っていうのがイギリスにあるんですよね。

(赤江珠緒)ああー、そうか。それでニューヨークか。

(町山智浩)そう。だからニューイングランドっていうのはイングランドの入植地なんで、そこからイギリスの植民地としてのアメリカが始まっていくんですけども。いまね、ちょうどそういういろんな歴史上の事件があるんで、それの再現を各地でしているんですよ。当時の服を着て、当時のしゃべり方をして、当時の考え方を演技で仕込んで。当所のキャラクターになりきって、再現ドラマを各地の歴史的な有名な場所でやっているんですね。

(赤江・山里)へー!

(町山智浩)だからその人たちに会って話を聞くと、タイムスリップしたみたいな感じになるんですよ。だから面白いからそういう人たちに次々と会っているんですけども。最初に行ったのはね、プリマスというところです。プリマス市って、そこはメイフラワー号って聞いたことありますか?

(赤江珠緒)ああ、もう歴史で習いましたね。

(山里亮太)世界史で。

(町山智浩)はい。イギリスから来た100人ちょっとの人がメイフラワー号っていう船に乗って渡ってきて、そのプリマスというところで生活をし始めたんですよ。それがアメリカの最初の植民地だと言われているんですね。で、実はそれ以外にも植民地、いくつかあったんですけども、そこがそういう風にいわれているのは、そこで100人の渡ってきた人たちが合議制でその彼らのコミュニティー、村のことを決めていくという制度を取ったからなんですよ。

(赤江珠緒)ふーん! うんうん。

(町山智浩)というのは、ヨーロッパはみんな王国とかで、王様とか貴族が政治をしていたわけですね。で、ここではそれこそお百姓さんとか鍛冶屋さんとか、そういう人たち全員が政治に参加して、話し合いで街の運営を決めていくというのがここから始まったんですよ。

(赤江珠緒)じゃあ、民主主義の基本みたいなところだ。

(町山智浩)そう。民主主義はここから始まったんですよね。で、それを「タウンミーティング」って言うんですよ。タウンのミーティングだから。これ、いまも続いているんですよ。

(赤江珠緒)うん?

いまも続くタウンミーティング

(町山智浩)いまでもアメリカではタウンミーティングっていうのはずっと続いているんですよ。よく、「大統領がタウンミーティングに参加した」とかいうニュースが日本でも報じられると思うんですよ。

(山里亮太)それの始まりがここなんだ?

(町山智浩)そうなんです。各地のちっちゃい街の図書館であるとか、市民会館みたいなところに大統領とか政治家が行って、町の人たちと直接話をするんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、「これに頭に来ているんだけど!」とかって。そういう人たちの声を直接聞くという制度がアメリカではいまだに続いているんですよね。

(赤江珠緒)ああ、そうかー。

(町山智浩)ここが決定的にアメリカとそれ以外の国全部が違うところだったんですね。

(赤江珠緒)そうですね。日本とかの民主主義とはその始まりがずいぶんと違いますね。

(町山智浩)上からの民主主義で、議員さんが偉そうにして……とか、そういうのは全然ないわけです。全員が同じ立場で平等に話し合いをするところから始まっているんですよ。あと、感謝祭(サンクスギビング)っていうお祭りがアメリカにあるのはご存知ですよね?

(赤江珠緒)はい。七面鳥を食べたりするっていう。

(町山智浩)そうそう。あれ、七面鳥とかカボチャを食べるんですけど、なんで食べるか?っていう理由は日本では知られていますか?

(赤江珠緒)知らないです。

(町山智浩)あれはね、その感謝祭で食べるものは全部、アメリカ原産のものだけなんですよ。というのは、そこに入植してきた人たちがアメリカで生活をしていくために、先住民の人たちから「これとこれを食べるんですよ」っていうのを教えてもらったんですよ。「七面鳥とかこういうのを食べるんですよ」って。で、1年間それでなんとかすごせた。100人いた人のうちの50人は死んじゃうんですけども、50人は生き残ったんですね。で、それを感謝しているんですよ。「生き残りました!」って。

(赤江珠緒)えっ、じゃあその「感謝」っていうのは先住民に対しての感謝?

(町山智浩)それは神様であったり、アメリカという土地であったり、もちろん食べ物とか生き延び方を教えてくれた先住民に対する感謝でもあって。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だから最初の感謝祭は先住民の人たちを招いて行っているんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうですか!

(町山智浩)「あなたたちのおかげで生き延びることができました」っていう。で、その最初の感謝祭の食事もしました。面白かったですよ。当時なかったものは全部排除するんですよ。いま、感謝祭でポテトが食べられているんですね。アメリカでは。「でもポテトはこの地域にはなかったから、これは食べなかった」とか。あと、実際にはあるのに、いま感謝祭で食べられていないものはムール貝なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)当時はムール貝を食べていたんです。この地域って実はシーフードの宝庫なんですよ。で、僕は毎日シーフードを食べてますよ。ロブスターとかアサリであるとか牡蠣、ホタテとかタラ……。

(赤江珠緒)たしかにボストンのところ、湾になっていますもんね。

(町山智浩)そう。タラ、マグロ、カジキ。毎日シーフードを食べまくってますけども。だからね、結構ここに入植してきた人たちはいいご馳走がいっぱいあったんですけどね。ただね、病気で死んじゃったんですね。半分ぐらいね。

(赤江珠緒)ふーん、うん。

(町山智浩)病気なんですよ。まあ、入植者たちの側が持ってきた病気で先住民の人たちがその後、大量に死んじゃうんですけどね。風邪とかで先住民の人たち、死んじゃったんですよ。免疫がなくて。で、結構大変なところから始まるんですけども。その後に行ったのが……それがだいたい1620年なんですよ。そのプリマスへの入植が。その後に行ったのはセーラムという街で、今度は魔女裁判の再現を見てきました。

(赤江珠緒)ええっ?

(山里亮太)魔女裁判?

セーラムの魔女裁判

(町山智浩)ここはね、1700年代に魔女として150人の人が逮捕されて、19人が処刑された場所なんですよ。1692年に起きた事件なんですけども。で、これは9歳の女の子と11歳の女の子が突然、なんか発作を起こして。それで原因がわからなくて。「どうしたの?」って聞いたら、「魔女に呪いをかけられた」って言って、「近所のおばさんが魔女なの!」って言ったものだから、その人たちを逮捕して。それをきっかけに連鎖反応的に150人が逮捕されるという事態になったんですよ。

(山里亮太)ええっ?

(町山智浩)で、そこに住んでいた人たちはピューリタンと呼ばれるキリスト教の非常に厳格な人たちなんですね。それで女性は当時、ほとんど人権がなかったんです。女性はとにかく、たとえば旦那さんが亡くなって新しい旦那さんをもらうと、それで差別されて村八分にされるとか。しかも女性が本を読むことが禁じられていたり。ましてや、選挙権もなければ、職業も選べなかった時代なんで。そうやって「魔女」として、ほとんど女性が殺されているんですね。しかもその告発した女の子たちも、そういう女性を抑圧するような中で、全く未来に希望が持てなかったんで。まあ一種、精神的に爆発した形なんですよ。で、まあ大変な人数が死んじゃうんですよ。

(赤江珠緒)そうですよね。そんな事態にまでなってしまうんですね。

(町山智浩)そう。ただいま、ここは魔女の名所として大人気なんですよ。セーラムっていう街は。

(赤江珠緒)ええっ? 観光?

(町山智浩)あのね、あまりにもひどい残虐な事件だったんで、街の人たちはそんなことはなかったかのようなふりをしてずっと何百年も暮らしていたんですね。ところが、『奥さまは魔女』っていうホームコメディーテレビドラマが1960年代に大人気になって。その中でかわいい魔女の奥さんの実家がセーラムだっていうセリフが出てくるんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、「魔女ってかわいい! 素敵!」っていう人たちが「どこにその魔女の村があるの?」って探したら、セーラムの人たちは「そんなもの、ありません!」とかって言っていたんですけども、「これ、観光に使えるわ!」って。いま、それで魔女の街として大成功していますよ。

(赤江珠緒)まさかそんな展開? ええっ?

(山里亮太)結構残虐なことなのに。

(赤江珠緒)そうですよ。悲惨な話ですよ。ええっ?

(町山智浩)だからその魔女裁判とかも全部見せて、隠蔽していた過去も全部調査をして明らかにして、「ここで処刑されたんです」とか「これが当時の牢獄です」とか。それでいろんなショーとかをやっているんですよ。

(赤江珠緒)はー! ドラマでもう魔女のイメージがガラッと変わっちゃったんだ。

(町山智浩)ガラッと変わっちゃった。いいものになっちゃった。で、いま、魔女というおまじないとかをするような女性たちがたくさん住んでいて、恋占いとかをやってくれるという魔女の街として生まれ変わって、町おこしで大成功しているんですよ。それがセーラムです。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)その後、今度はボストンでアメリカ独立戦争の始まりを取材してきたんですけども。そのイギリスに対して独立戦争をしたきっかけというのは、これは結構有名なんですけども、税金なんですよね。消費税なんですよ。イギリスはフランスと戦争したりして、本国がお金がなかったんで。アメリカに住んでいる……その頃、アメリカはイギリスの植民地だったわけですけど。そこに売られるものに対して税金をかけたんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)ところが、その植民地のアメリカに住んでいる人たちはイギリス本国の議会に代表を出していなかったんですね。だから「県」とかそういう形ではイギリスの一部として認められていなかったんですよ。法的には。で、税金だけ取られちゃって、なにも返ってこないんですよ。還元されないわけですよ。お金を取られるだけなんですよ。

(赤江珠緒)見返りがない。はい。

(町山智浩)そうなんですよ。それで反乱を起こして。有名なボストン茶会事件という税金をかけられているお茶を貨物船から捨ててしまうということをやりまして。それね、僕もそのお茶を捨てるの、やらせてもらいました(笑)。

(赤江珠緒)ええっ、そうですか! それこそ教科書で習った事件ですね。

ボストン茶会事件

(町山智浩)そう。それもね、みんなが怒って「お茶を捨てにいこうぜ!」っていうところも全部一緒に演技をして。で、お茶の箱を海に投げるんですよ。

(赤江珠緒)へー!(笑)。

(町山智浩)で、その後にイギリス側が「なんかアメリカの植民地に住んでいる入植者たちが反乱を起こそうとしているぞ?」っていうことで、彼らが持っている武器を取り上げようということになるんですね。というのはその頃はアメリカに住んでいる入植者たちは男性は全員、銃を持っていたんですよ。

(赤江珠緒)それはなぜなんですか?

(町山智浩)それはやっぱりまだ開拓をしている状態なんで、いろんな危険な物があるわけですよ。もちろん動物も怖いのがいるし。あとはまだ先住民との衝突っていうのもあるんですね。だから全員が銃を持っていて、全員がその銃の訓練をしていたんですね。だから、それが反乱を起こしたら困る。というのは、イギリス側の軍隊が駐留をしているわけですけども、人数的には絶対に負けるわけですよ。入植者の数に対しては。だからその武器と弾薬を取り上げようとして、そのボストンから軍隊がマサチューセッツの田舎の方に入っていくわけですね。そしたら、入植者全員が銃を持ってそのイギリス軍を撃退してしまうんですよ。

(山里亮太)うん!

(町山智浩)で、そこにも行きました。すごいですよ。空砲ですけども、みんなバカバカ撃っているんですよ。

(山里亮太)ああ、そうやって昔を再現して。

(町山智浩)再現して。だから、それを見て思ったのは、「アメリカってなんでみんな銃を持っているの? なんで銃が自由に持てる権利が保証されているの? 危ないじゃん!」ってみんな思うでしょうね。

(赤江珠緒)いろんな事件がありますからね。うん。

(町山智浩)あれだけいろんな事件があってね。乱射事件とか。でもね、これはどうしようもない。というのは、だってアメリカという国はそれによってできているから。そこから独立戦争が始まっていって、アメリカが建国されるので。で、アメリカ憲法の修正第二条には「自由な国家のためには民兵……」、この民兵っていうのはさっき言った入植者の人たちが反乱を起こしてゲリラになった人たちのことを民兵って言うですね。「Militia」って言うんですけども。「自由な国家のためには民兵は必要である(A well regulated Militia, being necessary to the security of a free State)」って書いてあるんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)つまり、「国・政府が税金をかけるとか武器を取り上げるとか、いわゆる民衆に対する圧力をかけてきた場合は、人々はその政府を倒す権利がある」っていうことが書いてあるんですね。だから、「銃を取り上げることはできない。銃を持つ自由は保証されなければならない(The right of the people to keep and bear Arms, shall not be infringed.)」って憲法に書いてあるんですよ。

(赤江珠緒)うーん。

合衆国憲法修正第二条

(町山智浩)だからこれは、国家のいちばん大事なものである憲法というのが政府の上に置かれているんですよ。で、その国民が政府よりも上にあって。で、政府は国民に尽くすものなのに、国民を困らせたら銃を倒せっていう風に書いているわけですよ。だから常に国民の方が政府に対して武装において優位でなければいけないんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それでないと自由が保証されないんですよ。

(赤江珠緒)そうか。そのための銃。

(町山智浩)そのための銃なんですよ。だから実際に再現ドラマをやっているのを見たんですけど、700人のイギリス兵たちが入ってくるんですね。田舎の方に。武器や銃を取り上げようとして。レキシントンっていう街だったんですけど。それに対して、入植者たちは伝言ネットワークを作っていて。「イギリス軍がやってきたぞ! あいつらを撃退しろ!」っていう伝言ゲームをやりまして、最終的に4000人の銃を持った男性が700人のイギリス軍をバカバカ撃ちまくって撃退したんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、イギリス軍は完全に敗走をして、四方八方から撃たれて。で、80人ぐらい死んで、撤退して。さらにボストンでもアメリカの入植者たちに包囲されて、イギリス軍は完全撤退するんですよ。で、これがすごかったのは当時のイギリス軍、大英帝国軍っていうのは世界一の最強の軍隊だったんですよ。全ての国に勝って、全世界を支配している状態だったんですよ。それをアメリカに住んでいるお百姓さんとか商人とか印刷工の人とかビールを作っている人とか。そういう人たち1人1人が銃を持って、世界最強の軍隊を撃退してしまったんですよ。

(山里亮太)なるほどな。その経験が。

(町山智浩)そう。そこからアメリカが「独立っていうのもありだね」っていうことになっていくわけですけども。

(赤江珠緒)そうか。それが完全に源なんですね。ふーん!

(町山智浩)そう。だからこの会議による民主主義と、1人1人が銃を持って政府を倒したい時にはいつでも倒せるぜっていう状態があるから、アメリカがあるので。国家の成立が根本的に日本とは違うんですね。だから「銃を持っているなんてアメリカ人は危ねえな」っていうのを、「いや、でもそれはちょっとそうは言えないんだよ」っていうことがよくわかりましたね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)あとね、やっぱり消費税ですよ。消費税がきっかけでアメリカは独立しているわけですよ。それで政府をぶっ倒しているわけですよ。これは日本とは全然違うな!って。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)これはすごいなと。それでそれをお父さんとかが子供たちに見せるんですよ。「政府がムカつくことをやったら、こうやるんだぞ!」ってみんな見せるんですよ。子供たちに。アメリカって。

(赤江珠緒)そういうことか。成り立ちがそうなんですもんね。

(町山智浩)そう。「お前ら、めちゃめちゃなことを言ってきたら、やっちまえ!」っていう国なんですね。なぜなら、政府は国民の下におかれている、奉仕するべき人たちだから。「あいつらがいい気になって国民の上に立とうとしたら、ぶち倒せ!」っていうことなんですよ。

(山里亮太)そういう成り立ちだからなんだ。

(町山智浩)そう。これは日本の人たちはもう根本的にアメリカを理解するいちばん重要なところなんで。はい。7月ぐらいに放送しますのでぜひご覧ください。結局宣伝か!(笑)。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(山里亮太)いやいや、いいんですよ。これで勉強になりますもん。

(町山智浩)すいませんです、はい(笑)。一応僕もその中に紛れ込んでますんで。

(赤江珠緒)へー! いま、改めてアメリカを知るという。

(町山智浩)はい。ぜひご覧ください。

<書き起こしおわり>

町山智浩 ジョーダン・ピール監督作品『Us』を語る

$
0
0

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でジョーダン・ピール監督の最新作『Us』を紹介していました。

(町山智浩)今日はアメリカとすでに世界中で公開されて2億ドル以上の大ヒットになっている『Us』という映画を紹介します。

(赤江珠緒)なんだ、この曲……。

(町山智浩)はい。これはこの『Us』っていう映画のテーマソングなんですよ。これ、何語で歌っているのか全然わからないんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)だからなんかすごい怖いんですよ。

(赤江珠緒)なんかちょっと日本の童歌にも聞こえるような……。

(町山智浩)そうそうそう! これ、『攻殻機動隊』っていうアニメの歌にすごい似ているんですよね。で、マキシマムザホルモンっていうバンドが時々、何語でもない歌を歌っていたりしますけども。なんかすごく不気味な感じなんですが。この映画のタイトルの『Us』っていうのは英語で「私たち」という意味ですね。これは、いろんなホラーってかならず怪物、モンスターが出てくるじゃないですか。ゾンビだったり、たとえば殺人鬼だったりね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)まあ、いろんなお化けだとかが出てくるんですけども。この映画、ホラーなんですけども出てくる怪物は、「私たち」なんですよ。

(赤江珠緒)うん? 「私たち」?

(町山智浩)はい。どういう意味かはこれからご説明します。これ、主人公は30過ぎの女の人でアデレードという黒人女性です。彼女は幸せな結婚をして。というか、結構リッチな黒人家庭で、旦那さんもすごい優しい人で。子供も中学生の娘と小学生の息子がいて、リッチに幸せに暮らしているんですよ。そのアデレードさんの家に夜、突然家の前に誰かが立っているんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、「誰か4人ぐらい、家の前に立っているわ」って言うんですよ。それで「誰なの?」って覗き穴から見てみると……暗い中で家の前の街灯に照らされて立っているのを見て、「あれは私たちよ!」って言うんですよ。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)そのアデレードさん一家と全く同じ顔、姿をした4人家族が家の前に立っているんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(山里亮太)ドッペルゲンガー的な?

(町山智浩)そう。ドッペルゲンガー。「自分に似ている人は世界に3人いる」とか言いますけども。全く似た4人家族がいて。で、ただ赤い服を着ているというところだけが違うんですけども。彼らが家に入ってこようとするんですよ。

(山里亮太)えっ、怖い!

(赤江珠緒)赤い服で?

(町山智浩)赤い服で。自分たちと全く同じ顔と姿形をしている4人の家族がね。で、抵抗をするんですけど、入ってこられちゃって。で、アデレードさんたちを縛り上げて。「このあなたたちの生活を私たちが乗っ取るから」って言われるんですよ。

(赤江珠緒)怖っ!

(町山智浩)で、血みどろの戦いになっていくというホラー映画なんですね。だから『Us』って言うんですけども。「私たち」というタイトルなんですが。これ、監督はジョーダン・ピールという人で、この前には『ゲット・アウト』という映画でアカデミー賞を取った人ですね。

(山里亮太)はいはい。怖かったもん。『ゲット・アウト』も!

町山智浩 大ヒットホラー映画『ゲット・アウト』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、現在アメリカで大ヒットしているホラー映画『ゲット・アウト』を紹介していました。 (町山智浩)今日、紹介する映画は『Ge...

(町山智浩)あれでアカデミー脚本賞を取ったんですが。あれは黒人の青年が婚約者の白人女性の実家に行くと、なんかすごいチヤホヤされるんですよね。で、「なんでだろう?」って思っていたら、その白人の村というか街の人たちは黒人の男性の体を奪い取って……まあ、これはオチになっちゃうからあれなんですけども。大変なことをしているということがわかっていくというホラー映画だったんですけども。それで今回はもっと……『ゲット・アウト』は黒人にとってのホラーっていう感じだったんですが、今回は結構誰にでも怖いことを目指したっていう風にジョーダン・ピール監督は言っているんですね。

(赤江珠緒)うん。

子供の時に見た『トワイライトゾーン』が原点

(町山智浩)で、この監督はまず、いちばん最初に怖かったのは子供の頃に見た『トワイライトゾーン』という……日本だと『ミステリーゾーン』というタイトルでやっていたテレビドラマシリーズがあるんですよ。それが発想の元になっているらしいんですけども。それは1960年代のモノクロ30分ドラマで、日本のタモリさんがやっていた『世にも奇妙な物語』とかの元になっているドラマなんですね。一話完結なんですが。

その中で、こういう話があったんです。これ、僕も子供の頃に見ているんですけども。働いている独身の女の人が、面接かなにかに行くので長距離バスに乗って旅をしなきゃいけないんですが。それで、なかなかバスが来ないのでバス乗り場の係員の人に「ねえ、バスはいつになったら来るの?」って聞くと、「なに言ってんだ? あんた、さっきもそれを聞いたじゃないか」って言われるんですよ。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)で、「ええっ?」って言って。それでトイレに行くと、トイレを掃除しているおばさんに「あなた、体の具合でも悪いの?」って言われるんですよ。「なんでそんなことを聞くの?」「さっきトイレに来たばっかりじゃないの」って言われるんですよ。

(赤江珠緒)あらららら? うん。

(町山智浩)で、「えっ?」って振り返ると、そのバスが来てしまっていて、そのバスには自分とそっくりの人が乗って行ってしまうんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、自分はバスに乗り遅れてしまって。彼女はそうやって自分の仕事先に行って、彼女の仕事を乗っ取ってしまうんですよ。もう1人の自分が。で、その時に彼女はこう言うんですよ。「世の中には似ている人がいるんだ。いつか、その人に突然、自分の持っているものを乗っ取られてしまうかのしれないのよ」って。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)仕事であったり、家族であったり、地位であったり。というような話なんですね。その『トワイライトゾーン』っていう話は。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、それがすごくこのジョーダン・ピール監督は子供の頃に怖くて。

(赤江珠緒)たしかにそれはじんわり怖くなる話ですね。

(町山智浩)そうなんです。それで彼はニューヨークに子供の頃に住んでいて。地下鉄で学校に通っていたらしいんですよ。結構いい家の子で。それでその時、地下鉄のホームの向こう側のホームに自分とそっくりの少年が立っていてニヤリと笑うとか、そういうことを想像して怖くなったらしいんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、知らない間に自分の家族が乗っ取られてしまったら……って。『トワイライトゾーン』が怖いのは、バスに乗って自分の仕事を乗っ取られてしまった後のその女性が、「私とそっくりの人に乗っ取られたのよ!」みたいなことを言うんですけど、彼女は精神病院に入れられてしまうんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)その頃、1960年代のアメリカでは、精神病院に入ったらもうなかなか社会に復帰ができないんですよね。だから本当に実際のそのそっくりさんに人生を乗っ取られてしまいましたっていう終わりなんですよ。

(赤江珠緒)その人の人生を奪われたという。

(町山智浩)で、それをいま、彼がホラー映画にしたんですけども。もうひとつ、彼がそれが怖かった理由というのは、彼は黒人なんですね。それで彼は豊かなんですよ。でも、ニューヨークとかそういうところでは、ホームレスの人がいるわけですね。特に彼が育った1990年代だとニューヨークの地下鉄ってものすごいホームレスがいたんですよ。「Mole People(モグラ人間)」っていう言葉でも呼ばれていたんですけども、地下鉄の中に家族とかが住んでいたんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)日本でも結構紹介をされたかもしれないんですけども。その地下鉄の中で本当に生活をしている人たちがいたぐらいひどかったんですよね。でも、そこに自分と同じような顔をした男の子もいたでしょうね。

(山里亮太)そうか。そういう人と、ひょっとして……。

(町山智浩)そう。自分がたまたま豊かで恵まれているのは、たまたまいい家に生まれたからだけど、もしかしたらものすごい貧しい人たちの家に生まれていたかもしれないんですよね。

(赤江珠緒)それはそうですね。うん。

(町山智浩)それは偶然でしかないんですよ。生まれっていうのは能力とは関係ないですからね。そしたら、僕が彼であって、彼が僕であるということは容易に逆転してしまうんだという恐怖があったと思うんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、これはジョーダン・ピール監督に僕が直接会って聞いたんですけども。「とにかくこの映画はPrivilege(特権)というものの怖さを描いているんだ」って言っているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)「人はどんな家に生まれたかでアメリカではだいたい、その後に人生って決まってしまうじゃないか。貧しいところに生まれたら、勉強とかさせてもらえないし。そうすると、いい学校にも行けない。だから人生が貧しくなってしまうか、下手をすると犯罪者になってしまうかもしれない。自分がそうならなかったのは、たまたまなんだよ」って。

(赤江珠緒)そうですね。その流れで言うと。

(町山智浩)そういう怖さなんですよね。「そんな風に考え出すと、怖くてしょうがない」って。そしてもうひとつ、要素があって。この映画は1986年から話が始まるんですよ。で、1986年、ジョーダン・ピール監督がひとつのことを覚えていて。子供の頃に。で、大きなイベントがアメリカであったんですね。それは「Hands Across America」っていう慈善運動で。貧しい人たちを救う寄付を集めるためにハンド・イン・ハンドでアメリカ中の人たちが手をつないで西海岸から東海岸まで、ひとつの手をつないだ列を作りましょうっていう運動だったんですよ。

(赤江珠緒)えっ、西海岸から東海岸まで!?

(町山智浩)そうですよ。ものすごい距離です。日本の何倍もの距離。で、それを可能にすることで、その時にお金を集めて。それを貧困層の救済に使おうっていうキャンペーンだったんですよ。

Hands Across America

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、その手つなぎ自体は実際にできたんですよ。ところが、寄付は目標額までは集まらなかったんですよ。

(赤江珠緒)なんで? 相当な人が来たでしょうに。

(町山智浩)そう。でも、目標額に達しなかったんですよ。それだけじゃなくて、「なんで1986年なんですか?」って僕が聞いたら、「そのぐらいから、ものすごく貧しい人がどんどん増えていった。あれが分岐点だったような気がする」っていう風にジョーダン・ピール監督は言うんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、この言っていることは数値的に正しいんですね。アメリカって彼が子供の頃、1980年代のはじめはアメリカのいちばん最高に金持ちの上位1%がアメリカ全体の経済の富の11%を持っていたんですけども。現在、彼らは富の20%以上を独占していて。

(赤江珠緒)1%の人が?

(町山智浩)たった1%の人が。それでアメリカの真ん中から下の半分。ちょうど中間から下の人。アメリカの人口の半分の人がその1980年代当時はアメリカ全体の富の20%ぐらいを所有していたんですが、現在その割合は13%以下に落ちているんですよ。

(赤江珠緒)はー! 下がりましたね。

町山智浩 悪魔教寺院を語る

$
0
0

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアメリカの悪魔教寺院を取材した際の模様を話していました。

(町山智浩)じゃあ、さっそくちょっと音楽を聞いていただけないかなと。

(町山智浩)はい、懐かしいですね。聖飢魔II。フハハハハハハッ! ですよ。まあ、僕はすごく聖飢魔IIのみなさんとは親しくしていただいて。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですか?

(町山智浩)僕、デーモンさんとは同い年ですよ。

(山里亮太)いやいや、町山さん。そんなわけないですよ。向こうは10万……。

(町山智浩)ああ、そうだ。10万違い(笑)。大学が一緒だったりね。

(赤江珠緒)ええーっ!(笑)。

(町山智浩)あと、エース清水さんは僕の高校の先輩ですよ。

(山里亮太)へー! 高校、行くんだ(笑)。

(町山智浩)そう(笑)。で、デューク高村さんの実家はうちの実家の近くでしたよ(笑)。

(山里亮太)いやいや、魔界のはずですよ(笑)。

(赤江珠緒)すごい絡んできてますね(笑)。

(町山智浩)全然魔界じゃない感じなんですけども(笑)。でね、実はこの聖飢魔IIを久しぶりにかけたのは、この間、悪魔教寺院というところに取材に行ってきたんですよ。

(山里亮太)おどろおどろしいですね。

(町山智浩)サタニック・テンプル(The Satanic Temple)っていうところなんですけども。まあ、悪魔を崇拝している人たちのところにBS朝日のテレビの取材で。で、その場所があるのはマサチューセッツ州のセイラムという場所なんですよ。

(赤江珠緒)ああ、先週教えていただいた?

町山智浩 マサチューセッツ州とアメリカ合衆国の成り立ちを語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でボストンなどマサチューセッツ州を取材した模様をトーク。アメリカ合衆国の成り立ちと銃を持つ権利の起源などについて話していました。

(町山智浩)そうです。昔、1600年代に魔女狩りがあって。19人の人が「魔女」という風に決めつけられて殺されてしまった。処刑をされたところなんですけども。そこに悪魔教寺院があるんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)で、行ったら、まず巨大な魔王のブロンズ像があるんですよ。そこに写真、ありません?

(赤江珠緒)ああ、これ? なんか羊のような頭に……ヤギか。

(町山智浩)それはね、ヤギなんですけどね。見たことないですか?

(赤江珠緒)あるある。体は人間、顔はヤギ。そして翼がある。

(町山智浩)そうそう。タロットとかそういうものに使われたりするような、いわゆる魔王、悪魔の像があるんですよ。巨大なのがドーン! と。中に入ったら。で、そこの横には悪魔教の教義が掲げられていて、それがどういう教義なのかちょっと読みますね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)「人間を含む全ての生き物に対して良識と哀れみと共感をもって接するよう努力すべし」。

(赤江珠緒)ん? いいじゃない?

(町山智浩)ねえ。悪魔教寺院ですよ。そして「他者の自由を尊重しなければならない」「自分が信じるもののために科学的な事実をねじ曲げてはならない」「人の失敗を責めてはならない」。

(赤江珠緒)ものすごい真っ当じゃないですか!

(町山智浩)真っ当なんですよ。悪魔教寺院は。

真っ当な悪魔教寺院の教義

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)でね、彼らのいままでにしたことのいろんなアルバムがあるんですね。いろんな運動をしているんですよ。高速道路沿いのゴミを拾うとかですね。

(赤江珠緒)フフフ、ええっ?

(町山智浩)海辺のゴミを拾うとか。そういうことをやっているんですよ。

(山里亮太)悪魔教が?

(赤江珠緒)邪悪じゃないの?

(町山智浩)それでね、どういうことなのか、聞いてみたんですよ。ちょうどアメリカで彼ら悪魔教寺院、サタニック・テンプルの活動を描いたドキュメンタリー映画『Hail Satan?』というのが公開された時なんでね、取材に応じてくれたんですけども。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、リーダーのルシアン・グリーブス(Lucien Greaves)という人に話を聞いたんですね。で、「あなたはリーダーなんですよね?」って聞いたら、「いや、僕はリーダーじゃないんだ。ここ、悪魔教はものすごく民主的だから、リーダーとか教祖とかそういうのはいないんだよ」って言われたんですよ。

(赤江珠緒)そうなの? ええっ?

(町山智浩)すごくみんなが思っているものと違うでしょう?(笑)。

(山里亮太)そうですね。かけ離れていますね。

(町山智浩)かけ離れているでしょう? で、彼らはいったいなんでこういうことを始めたのか?っていうと、まずそのきっかけは2013年にフロリダ州で学校のクラスで神様に対する祈りを授業のホームルームで捧げるということが法制化されたんですね。州法で。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)これ、アメリカの学校でやっているところとやっていないところとがあるんですけども。「私はアメリカに忠誠を尽くし、神の名の下でひとつの国を保ちます」っていうような誓いをすることをアメリカの学校では昔、やっていたんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)でも、いまはやっていないんですね。あんまり。うちの子なんかもやっていなかったんですけど、フロリダでそういうことをすることになったので、そこにこの悪魔教寺院の人たちが行きまして「神様に対して祈るのがいいんだったら、悪魔に対して祈ってもいいですよね?」って言ったんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、裁判に持ち込んでいったんですよ。つまり「悪魔を信じている人の信教の自由を侵害している」ということです。憲法では「政教分離」。政治とか国のすることと宗教が分離されることが決められているんですよね。だから学校で子供に神に対する誓いとか祈りをさせると、もしその学校に悪魔教じゃなくても、たとえば仏教やユダヤ教とかを信じている人がいる場合、その(祈りを捧げる)神ではないから、その子の信教の自由を侵すことになるでしょう?

(赤江珠緒)ああ、なるほど。

(町山智浩)だからこれは憲法違反であるということで、裁判に持ち込んでいったんですよ。だからこの悪魔教寺院というのは信教の自由、宗教の自由を侵す公共機関や政府に対して抵抗をするための団体なんですよ。

(赤江珠緒)えっ、じゃあ最近できたんですか? 昔から?

(町山智浩)最近できたんですよ。というのは、悪魔教会というのは結構昔からあって。特に有名なのは1960年代にあったんですよ。で、それは『ローズマリーの赤ちゃん』とかにも出てきて、それは本当に悪魔とかを信じていたりする人たちだったんですよ。で、悪魔の儀式をやったりしていたんですけども。この新しいサタニック・テンプルというのはそのルシアン・グリーブスさん自身は一応悪魔を信じて入るんですけども、彼が信じている悪魔というのはミルトンという人が書いた『失楽園』という詩があるんですよね。その中に出てくるサタンを崇拝して始めたと言っているんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、その『失楽園』に出てくるサタンっていうのは昔は天使だったんですよ。ルシファーという天使。

(赤江珠緒)はい。ルシファーね。天界で大喧嘩になっちゃって。

(町山智浩)フフフ、はいはい(笑)。神様に反抗したんで、神様から地獄に突き落とされて。で、神に対する反抗として、神様の計画を邪魔しようとする人たちなんですよ。で、「その生き方を尊敬して始めたんです」ってこのルシアンさんは言っていました。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)つまり、神の独裁に対して反対をする運動なんですよ。悪魔を悪魔として尊敬しているんじゃなくて、叛逆者として尊敬しているんですよ。

(山里亮太)その姿勢を尊敬しているんだ。

神の独裁に対して反対する象徴としての悪魔

(町山智浩)そうそうそう。神に対する叛逆を尊敬して、悪魔教を始めたっていう人なんですよ。だから、この団体はやっていることは半分冗談なのか本気なのかわからないところがある団体なんですよね。で、いちばんアメリカで注目をされて、今回映画にもなったというのはオクラホマ州で州政府の建物の真ん前にユダヤ教の旧約聖書に書いてある十戒ってありますよね?

(赤江珠緒)モーゼの十戒。

(町山智浩)そう。「汝、姦淫するなかれ」とか、そういうやつですけども。「殺すなかれ」とか10個、並んでいるやつですけども。それを石碑にして、州議会の州政府の建物の前に立てるっていう法案が通ってしまったんですよ。でもこれって、ユダヤ教とキリスト教以外にとっては全く異教のものですよね。

(赤江珠緒)たしかに。

(町山智浩)だからその人たちの信教の自由を侵害する行為なので、まずこの悪魔教寺院は議会を訴えて。その地元の住民を代表して訴えて。さらに、その訴えにおける運動として、その石碑の前で悪魔教のバフォメットの魔王の像をブチ立てて、悪魔教の儀式を行うぞ!ってやったんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)で、これがすごく問題になったのは、オクラホマとかアメリカの南部や中西部の田舎というのは圧倒的にキリスト教原理主義者が多いんですよ。福音派と言われるんですけども。アメリカ全体では人口の25%。ところが、田舎の方にいくともっと増えちゃうんですよ。30とか40%とかいっちゃうんですよ。

町山智浩 キリスト教福音派映画『魂のゆくえ』『ある少年の告白』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でキリスト教福音派を扱った映画『魂のゆくえ』と『ある少年の告白』を紹介していました。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だから、議員も彼らの票を集めているんでそういう人たちなんですよね。キリスト教福音派なんですよ。

(赤江珠緒)じゃあ政治と宗教は決して分離できていないということなんですか。

(町山智浩)できていないんですよ。そういうところだと、議会は全く。だから全然何の気もなしに「私たち、キリスト教徒だからじゃあ、この石碑を立てましょう」ってポンと立てちゃったんですよ。でも、それは憲法違反なんですよ。だから、こういう運動で大騒ぎになったんでアメリカ中のメディアが注目をして。悪魔教の儀式をだって州政府の真ん前でやるんですよ?

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、テレビとかでブワーッと注目されちゃったんで、結局その十戒の石碑は立てられませんでした。

(赤江珠緒)そうやって阻止していくんだ。

町山智浩『ロング・ショット』を語る

$
0
0

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でシャーリーズ・セロンとセス・ローゲンの映画『ロング・ショット』について話していました。

(町山智浩)今日はですね、非常に素敵なシンデレラ・ストーリー。ロマンティック・コメディーです。

(赤江珠緒)あら、ひさしぶり。

(町山智浩)シンデレラ・ストーリーですよ。今日、紹介する映画は『ロング・ショット』というタイトルの映画です。音楽、どうぞ。

(町山智浩)これ、わかります? これは90年代はじめに大ヒットした曲なんですよ。ボーイズIIメンっていうグループがあったんですよ。その『Motownphilly』っていう曲。当時大大大ヒットですよ。で、これが主題歌みたいな感じでこの『ロング・ショット』という映画で使われているんですけども。まあ90年代のはじめに青春時代をすごした2人のラブストーリーなんですね。で、この映画はシンデレラ・ストーリーで、シンデレラ・ストーリーっていうと白馬に乗った王子様が現れるという話ですよね?

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)白馬に乗った王子様はシャーリーズ・セロンです。

(赤江珠緒)えっ? 女性?

(山里亮太)王子様が?

(町山智浩)そう。シャーリーズ・セロンです。で、シンデレラはセス・ローゲンという俳優さんです。写真を見てください。

(山里亮太)あれ? お姫様みたいな感じじゃない……。

(赤江珠緒)冴えない感じの、割とおじさんな感じですけども。

(町山智浩)おじさんですよね。まあ、ぽっちゃり型のヒゲクマ親父ですけども。そういう話なんです。

(赤江珠緒)ほう。

(町山智浩)これね、この映画でシャーリーズ・セロンは製作もやっているんですけども。シャーリーズ・セロンといえば、『マッドマックス/怒りのデス・ロード』ですよね?

(山里亮太)ですね。かっこよかった!

(町山智浩)ねえ。で、この人はアカデミー賞も取っていますし。プロデューサーとしても大成功をしていて。『アトミック・ブロンド』ではほとんどスタントマンなしでものすごいハードアクションをやっていた女優さんですけども。

(赤江珠緒)うん!

(町山智浩)とにかく身長も高くてモデルさんみたいな感じで。しかもプロデューサーとしても非常に優秀なんですが。この映画『ロング・ショット』での役は、なんとアメリカの国務長官です。

(赤江珠緒)ほー! まあ、たしかにキリッとされてますもんね。

(町山智浩)そう。で、彼女自身も非常に政治的な発言をよくされる人なんですけども。しかも彼女ね、英語がネイティブじゃないんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですか?

(町山智浩)この人、英語は後から勉強したんです。アメリカに来てから。

(山里亮太)ということは……?

(町山智浩)この人、南アフリカの出身なんですよ。だからアフリカーンスっていう非常に特集なオランダ語と英語が混じったような言葉で育った人なんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だからすごい勉強家なんですけども。で、彼女はヒラリーさんみたいに国務長官なんですよ。で、ところがこの映画、コメディーですから。大統領がものすごいバカな大統領で。人気だけはあるんですけど、頭は空っぽなんですよ。で、もともと俳優でずっとテレビで大統領役をやっていて人気があったんで、そのままその人気で大統領に選ばれてしまったという、いわゆるポピュリスト大統領なんですね。

(赤江珠緒)あれっ?

(町山智浩)で、大統領をやってみたら非常に難しいことがいっぱいあって、勉強ができなくてよくわからないから、「俺、もう大統領を辞めるわ」って辞めちゃうんですよ。で、この国務長官のシャーリーズ・セロンがその次の大統領選挙に出ることになるんですね。大統領選挙の候補になる。で、そうすると国務長官を辞めなきゃいけないわけですよ。で、全世界を回って引き継ぎといままでやってきたことの総ざらいみたいなことをしなくちゃいけないので、全世界ツアーに出るんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)その時、このセス・ローゲンと会うんですよ。このセス・ローゲンのおっちゃん、この人は政治的な、なおかつユーモアもあるコラムを書いているライターなんですね。だから、俺と似たようなもんですよ。ねえ(笑)。で、この2人がこのボーイズIIメンのパーティーで偶然出会うんですよ。2人とも、若い頃に聞いていたから。で、実は2人は近所の幼馴染だったんです。

(山里亮太)ほう!

(町山智浩)で、彼女の方が年上なんで、ベビーシッターとして彼の面倒も見たことがあったんですよ。で、セス・ローゲンにとっては彼女が初恋の人なんです。でも、その後も別に恋もないみたいなんですけど(笑)。それで2人が出会って、実はセス・ローゲンがライターとして非常にユーモアがあって、政治的に辛辣なことも書けるということがわかる。で、シャーリーズ・セロンは国務長官なんですけども、この映画の中ではトランプ大統領はいないことになっているんですね。で、彼女は「環境保全を自分のいちばん大事な政策として打ち出していきたい」ということでその彼をスピーチライターとして雇うんですよ。

(赤江珠緒)ふーん。

(町山智浩)で、自分の演説にユーモアを入れようとして、その彼を雇って。それで突然、「これから世界ツアーに出るから、一緒に旅に出ようよ!」っていうことで、全世界一周の旅をしているうちにだんだんと恋に落ちていくっていう話なんですよ。

(山里亮太)ほー! 面白い!

下ネタ・ロマンティック・コメディー

(町山智浩)これね、ただギャグがいっぱい入っているんですけど、全編下ネタです。

(山里亮太)おおっ、ありがとうございます!

(赤江珠緒)ロマンティックコメディーに? 下ネタなの?

(町山智浩)すごい下ネタなんですよ。

(山里亮太)どんな下ネタなのか、想像もつかない……。

(町山智浩)どんな下ネタかっていうと、あのね、『メリーに首ったけ』っていう映画をご覧になったこと、ありますか?

(赤江珠緒)はいはい。

(町山智浩)あの、男汁が飛び散ったりとかするんですけども。そういうネタですよ。

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)ええっ、この感じで?

(町山智浩)この感じで。非常に直接的なネタが次々と出てきますよ。これね、アメリカの映画館で見た時にね、おばちゃんたちがもゲラゲラゲラゲラ笑っていて、大変だったですよ。

(赤江珠緒)女性も見て、面白い?

(町山智浩)そう。おばちゃんたちがもうね……あの毒蝮三太夫さんのギャグにゲラゲラ笑っているおばちゃんたち、いるじゃないですか。あとはケーシー高峰さんの下ネタにゲラゲラ笑っているおばちゃん。そういう人たちでしたよ(笑)。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(山里亮太)ああ、なるほど!

(町山智浩)もう死ぬほどおかしいみたいな。そういうね、すごい映画だったんですけども。ただね、これがすごいのは、昔『プリティ・ウーマン』っていう映画があったのを覚えていますか?

(赤江珠緒)はい。もちろん。

(町山智浩)それはご覧になっていますね。それはリチャード・ギア扮するすごいスーパービジネスマンがいて。結構歳なんだけども、彼女も奥さんもいなくて。で、寂しい男なんだけども、大金持ちである。それがたまたまハリウッドの道端でいわゆるスプリング(春)を売っているジュリア・ロバーツを拾って……本当にあの映画では拾うんですよね。それで寂しいから1週間、一緒にすごすっていう話でしたよね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、そのうちに本当に恋に落ちていく。この映画ね、それの逆なんですよ。

(赤江珠緒)はー! そう言われると……。

(町山智浩)ねえ。というのは、セス・ローゲンはまあ俺みたいなやつだから、普段は汚いジーパンを履いて、ロックTシャツを着ているような人なんですよ。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)髪の毛もボサボサで、いつもメガネが油で汚れていて……っていうような人なんですよ。で、その彼を連れて世界ツアーに行くんですけど、国務長官だから会う人はそれこそ各国の大統領や総理大臣とか、そういう人たちばっかりなんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)ところがそのままでは彼を連れていけないんですよ。セス・ローゲンはスタッフとしてついていくわけだから。だから、彼をきれいにしてあげなきゃならないわけですよ。で、マナーとかしゃべり方とか立ち振舞いも教えていかなくちゃいけない。これ、『マイ・フェア・レディ』ですよ。

(赤江珠緒)そうですね。自分好みに仕立てていくみたいな。

(町山智浩)まあ、自分好みかどうかはわからないですけども、『マイ・フェア・レディ』はロンドンの非常に貧しい花売りの娘を言語学者のおじさんが拾ってすごいレディ、貴婦人にしていくという話ですけども。それの男女逆転版なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だから、すごいいままで、いつ作られてもよかった話なのに、はじめてなんですよね。こういうのって。

(山里亮太)そうか。男女逆のバージョンは。

男女逆転版『マイ・フェア・レディ』

(町山智浩)そう。いつあってもおかしくなかったんですよ。これ、『アメリカン・プレジデント』っていう映画もありまして。それがね、たぶんこの映画の元にもなっていて。それはマイケル・ダグラス扮する大統領が奥さんとかもいなくて。で、アネット・ベニング扮する、その頃は若かったんですけども、政治的なジャーナリストと恋に落ちていくっていう話だったんですよね。それの男女逆にもなっているんですよ。この映画は。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、いままでの映画はとにかく男の方が金があって、社会的な地位も高くて。で、女性の方は全然そうじゃなくて、歳も若くて。で、男性が白馬に乗った王子様として彼女を救う、拾うみたいな。で、彼女をすごい上流社会に入れるように変えていくみたいな話が多かったんですね。あと、『愛と青春の旅だち』はご覧になっていますか?

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)あれはいわゆる海軍の士官になる士官候補生のリチャード・ギアがハワイの地元のウェイトレスの女の子とできちゃって。で、彼は彼女をちゃんとするかどうか?っていう話でしたよね。みんな同じじゃないですか。男性の立場に対して女性の立場は徹底的に低いわけですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)これね、はじめての逆転バージョンなんですよね。

(赤江珠緒)はー、そうか! 町山さんがね、いまずっとセス・ローゲンに似ているんだっておっしゃってましたけども。町山さんだったらこういう風に女性から言われたら、どんどん変わっていきますか?

(町山智浩)変わっていくかどうかは知らないけど、似たようなもんでしたね、僕は(笑)。

(赤江珠緒)似たようなもんだった?

(町山智浩)収入差とかがね(笑)。

(赤江珠緒)でもシャーリーズ・セロンに言われたら、いろいろと服装も変えていっても?

(町山智浩)ああ、それはあるでしょうね。

(赤江珠緒)それはある?

(町山智浩)あの、TBSの橋Pとか、そうですよね?

(赤江・山里)フハハハハハハッ!

(町山智浩)具体的な名前を出していいのか?(笑)。俺、見ながらずっと橋Pのことを思い出してたんですよ(笑)。

(山里亮太)フフフ、嫁に変えられていってるんだ(笑)。

(町山智浩)そうそうそう(笑)。

(赤江珠緒)結婚して、おきれいになっていきましたもんね(笑)。


町山智浩・山里亮太・赤江珠緒『ブルース・ブラザーズ』を語る

$
0
0

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で山里亮太さん、赤江珠緒さんと『ブルース・ブラザーズ』についてトーク。ロケ地のシカゴやジョン・ベルーシとダン・エイクロイドを輩出したコメディー学校セカンド・シティ取材などについても話していました。

(赤江珠緒)町山さん、先週お話をされていた『ブルース・ブラザーズ』を我々、見ました!

(山里亮太)ちゃんと我々、見てまいりました!

ブルース・ブラザース[AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

(町山智浩)あらっ! ちょっとキツく言ったんで……「見ろ!」って(笑)。

(赤江珠緒)あのね、わかりました。町山さんが「人類が見るべき」って言っていたの、わかった。

(町山智浩)本当に? どのへんで?

(赤江珠緒)えっ、「人類が見るべき」っていう理由はわかったけど、ただただブルース・ブラザーズが違法行為していた(笑)。

(町山智浩)フフフ(笑)。

(山里亮太)あれ、エンドロールぐらいでびっくりするんですけど、ものすごいいろんな人が出ているんですね?

(町山智浩)あれ、パトカーが100台ぐらいぶっ壊れるでしょう?

(赤江珠緒)そう! すごい!

(山里亮太)だってあれ、普通にショッピングモールとかボッコボコになっていて(笑)。

(赤江珠緒)ねえ。本当に車を何台壊すんだ?っていう話ですけども。

(町山智浩)あそこ、ロケーション場所に全部行ってきたんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)あの、高架の下でパトカーが全部積み上がっていくところとか、最初に出てくる刑務所のところとか、レイ・チャールズっていうおじさんが質屋で演奏するところとか。

(赤江珠緒)うんうん!

(町山智浩)あと、最後にバーッと市庁舎のビルの前にパトカーがブワーッと突っ込んでくるじゃないですか。ヘリコプターも出てきて。そこの行ってきました。

(赤江珠緒)ああ、そうですか! へー! あの跳ね橋みたいなの、いまもあるんですか?

(町山智浩)跳ね橋もあります。もうみんな、ファンにとっては聖地なんで。全部、あの格好で回ってきました。

ブルース・ブラザーズの格好で聖地巡礼

(赤江珠緒)アハハハハハハッ!

(山里亮太)黒いスーツにサングラスで(笑)。でも、そうなると結構そういう人に同じシチュエーションの時に会うんじゃないですか?

(町山智浩)僕は会わなかったんですけど。いまね、あの撮影した場所って非常に危険なシカゴのサウスサイドっていう全米でも殺人事件が非常に多いところなんですよね。

(赤江珠緒)ええ、ええ。

(町山智浩)で、そこにあの格好で行くと、「夜は来るなよ。殺されるから」とかいろいろと言われたんですけども。ただ、「ブルース・ブラザーズでしょう!」みたいな感じでみんな喜んでくれて。それはちょっと嬉しかったですよ。

(赤江珠緒)へー! そうなのかー!

(町山智浩)すいません。でも40年も前の映画をね、無理やりおすすめしまして。

(赤江珠緒)やっぱり「人類が見るべき」っていう映画はぜひ、町山さん。言ってください。「これは人類が見るべき」って。

(山里亮太)我々、1個1個吸収していかないとね。

(町山智浩)じゃあ『アンタッチャブル』も見てくださいね。

(赤江珠緒)『アンタッチャブル』もね。はい。わかりました。

(町山智浩)すごいいい映画ですから。『アンタッチャブル』。

(山里亮太)でも町山さん、僕たちの『ブルースブラザーズ』の会話が「違法行為する2人が暴れる映画」っていう紹介で……(笑)。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

『ベイビー・ドライバー』でのオマージュ

(町山智浩)いや、いいんですよ。最後に刑務所にちゃんと行きますから。でね、『ベイビー・ドライバー』っていうカーアクションの映画がありましたけども。あれで主人公がさんざんカーチェイスした後にちゃんと刑務所に行くじゃないですか。あれは、『ブルース・ブラザーズ』をやりたかったんですよ。

町山智浩 映画『ベイビー・ドライバー』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でエドガー・ライトの最新作『ベイビー・ドライバー』を紹介していました。

(赤江珠緒)ああ、なるほど!

(山里亮太)ああ、いろんなのがやっぱりモチーフにしているんですね!

(町山智浩)そうなんです。最後に彼女が迎えにくるところは『ブルース・ブラザーズ』の冒頭シーンと全く同じ撮り方をしているんですよ。だから『ブルース・ブラザーズ』からいろんな映画が生まれているんで。あと、出てくるミュージシャンたちもみんな亡くなっちゃっているんですよ。

(赤江珠緒)偉人たちの世界でしたよ。いま見たら。

(町山智浩)そうなんですよ。アレサ・フランクリンとかレイ・チャールズとか。だから人類の貴重な記録なんでね。『ブルース・ブラザーズ』はぜひ見ていただきたいんですが。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)が……あの、主人公を演じたジョン・ベルーシ。デブちんでバク転とかしている人ですけども。

(赤江珠緒)お兄ちゃん。

(町山智浩)そう。あと、ほとんど無口のダン・エイクロイド。あの2人はひとつのコメディー塾から出てきた人なんですよ。そこにも行ってきました。

(赤江珠緒)おおーっ!

(山里亮太)シカゴにあるんですね。

コメディー養成学校・セカンド・シティ

(町山智浩)あのね、セカンド・シティというコメディー養成学校なんですけども。山里さん、ご存知じゃないですか?

(山里亮太)えっ、僕が?

(町山智浩)吉本と提携しているんですよ。

(山里亮太)えっ、そうなんですか? ええっ!

(町山智浩)そこは要するにジョン・ベルーシとかビル・マーレイとか、アメリカのコメディアンの優秀なところ……たとえばマイク・マイヤーズとか。そういった人たちを育ててきたアメリカで最大で最も歴史のあるコメディー養成学校なんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、吉本といろいろと提携をしているんですよ。

(山里亮太)そうなんですか。吉本はなにを学んでいるんだ?

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)なにを学んでいるのかっていうと、そのセカンド・シティはひとつのメソッドを持っているんですよ。それは即興。だから、アドリブ。インプロビゼーションの技術を育てるメソッド(方式)を持っているんですよ。教育法を。

(山里亮太)ああ、なんかやっているな。そのアドリブ、即興の舞台をいま、やっていますね。

(町山智浩)やっているでしょう? あれ、セカンド・シティが提携をしてやり方とかを教えたりしていて。逆に吉本の学生たちをシカゴに呼んだりとか、ずっとやっているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)そこで先生にインタビューして、授業の風景も見てきました。で、ジョン・ベルーシとダン・エイクロイドが2人で掛け合いみたいなのをやるじゃないですか。その根底で彼らが学んでいたのは、その相手が何かを振ってきたら、それを否定しないで、それを受けて。さらに面白いことをかぶせていくということで、どんどんどんどんと面白く、上に上がっていくというやり方を勉強しているんですよ。で、それを舞台の上でいきなりやって。お客さんとかからネタを振られて、その場で打ち合わせもなしでやるっていう技術をずっとやっているんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(山里亮太)すごいことですよ。本当に。めちゃくちゃレベルが高い。

(町山智浩)そう。ただ、「それをやっているのは、たとえば漫才やコントを書いてきて台本通りにそれをやっても、絶対にスターにはなれないからだ」って先生は言っているんですよ。そうしないと、フリートークの力が全然育たないから。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、フリートークに必要なのは普段、いろんな人間を観察しておくこと。いろんなパターンを持っておくこと。あとニュースとかをいっぱい見て、世の中を知ること。いろんな人たちの職業を全部観察して、その人たちの職業の言葉とか身振りとかを全部勉強していないと即興はできないんですよ。だから、こういうことをやられるんですね。「はい、いまレストラン。始め!」ってなるんですよ。

(赤江珠緒)無茶ぶり……。

(町山智浩)その時に、そこに6人ぐらいいるんですけども。そこで誰がお客さんで誰がシェフで誰がウェイトレスで……っていうのは打ち合わせ無しで一発でやるんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)「はい、ここレストランです」って言ったら誰かが口火を切って話すんですよ。「あの、すいませーん! ウェイトレスさん?」とか言うんですよ。それは自分の方を見られた人が「あ、はい。いらっしゃいませ」みたいな感じでその場でウェイトレスを始めるんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)それを打ち合わせ無しでやるんですね。しかもそれを、ギャグをどんどん入れていかなきゃいけない。で、「あ、すいません。こぼしちゃったんですけど……」みたいなことをやった時、そこにギャグをかぶせて。で、それに対してさらにギャグをかぶせていって、どんどんどんどん上にあがっていくっていうことをやるんですよ。

(赤江珠緒)難しい……。

(山里亮太)相手の技を受けるという。

(町山智浩)そう! 「相手の技を受ける」んです! 相手の技を受けるっていうのは、本来はなんでしょう?

(山里亮太)これはもう、プロレスですよ!

(町山智浩)プロレスなんです!

(赤江珠緒)つながった(笑)。

(山里亮太)いやー、本当にプロレスを見ていて思うもん。「勉強になるわー!」って。

相手の技を受ける

(町山智浩)プロレスなんですよ。で、タイミングとかもはかって。一瞬でも考えたりしたらその場で舞台は壊れてしまうんですよね。だから考えないで返すためには、たとえば本当に普段からいろんな技を身につけていないとできないわけです。だっていきなり僕みたいな55歳のクラスっていうのもあったんですけども。「ここは高校です。はい、どうぞ!」ってやっていましたよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)で、いきなりその場でスポーツマンであるとか、モテモテの子であるとか、クラスでの外れ者とかを全員がパパパパパッ!って引き受けるんですよ。

(赤江珠緒)うん!

(町山智浩)で、面白い話を展開していくんですよ。これ、すごいなって思います。

(山里亮太)すごいですね。めちゃくちゃ難しい。

(町山智浩)だから「ああ、いまはこれはあいつのギャグを受けている時間なんだな」っていうところではそれを受けておいて。「さあ、ここで返すぞ!」って返したりとか。相手を輝かせることで自分も輝くっていうことをやるんですよね。で、これはもう本当にお笑いの中では基本で。それができないと、全然……「『君たち、コントが面白かったね』って、それだけになっちゃって。テレビとか映画とかで他の役者たちとのインタラクティブな相互関係の芝居はできないよ。台本通りじゃダメなんだよ」っていうのをセカンド・シティでやっていたんですよ。で、そこからブルース・ブラザーズは出てきて。なんでか?っていうと、「ブルース」っていう音楽もそうやって作るんですよ。

(山里亮太)ああ、そうか!

(町山智浩)そう。コード進行だけが決まっていて。だからそれぞれのソロのパートを自由に弾くんですよ。「今度はピアノ、今度はベース……」っていう感じで受けていくんですよ。ボーカルとハーモニカで。ジャズもそうですけど、セッションをしていくんですね。みんな、同じなんですよ。プロレスも。技を出して、受けて返して。それを即興で……という話で、今日はフロレスの話です。

(赤江珠緒)はい!

<書き起こしおわり>

町山智浩『ファイティング・ウィズ・マイ・ファミリー』を語る

$
0
0

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアメリカのプロレス団体の元女子王者ペイジを描いた映画『ファイティング・ウィズ・マイ・ファミリー』を紹介していました。

(町山智浩)で、そこからブルース・ブラザーズは出てきて。なんでか?っていうと、「ブルース」っていう音楽もそうやって作るんですよ。

(山里亮太)ああ、そうか!

町山智浩・山里亮太・赤江珠緒『ブルース・ブラザーズ』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で山里亮太さん、赤江珠緒さんと『ブルース・ブラザーズ』についてトーク。ロケ地のシカゴやジョン・ベルーシとダン・エイクロイドを輩出したコメディー学校セカンド・シティ取材などについても話していました。

(町山智浩)そう。コード進行だけが決まっていて。だからそれぞれのソロのパートを自由に弾くんですよ。「今度はピアノ、今度はベース……」っていう感じで受けていくんですよ。ボーカルとハーモニカで。ジャズもそうですけど、セッションをしていくんですね。みんな、同じなんですよ。プロレスも。技を出して、受けて返して。それを即興で……という話で、今日はフロレスの話です。

(山里亮太)プロレスの話?

(町山智浩)今日はイギリスで作られた映画なんですけども。『ファイティング・ウィズ・マイ・ファミリー(Fighting with My Family)』という映画を紹介します。これはWWEという世界最大のプロレス団体がありまして、そこで女子のチャンピオンだったペイジという人がいるんですね。そのペイジの生まれ育ってチャンピオンになるまでの話を映画化したものです。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)チャンピオンになったのは結構最近で2014年なんですね。で、WWEっていうのはご存知ですよね? 昔はWWFって言っていたんですけども。世界最大のプロレス団体で、ドナルド・トランプも出たことがあります。

プチ鹿島 ドナルド・トランプがWWEプロレスで学んだことを語る
プチ鹿島さんがTBSラジオ『デイ・キャッチ!』の中で、ドナルド・トランプ氏についてトーク。トランプ氏が2007年にアメリカのプロレス団体WWEに参戦し、ビンス・マクマホンCEOと戦った際に学んだ手法を現在の大統領選挙に活用しているという話をしていました。

(赤江珠緒)でもWWEでチャンピオンになるって相当すごいことだってうかがいましたけども。

(町山智浩)だって全世界のプロレスラーのトップだから。大変なんですよ。で、この主人公、実在の人物なんですけどもペイジさんという女性は13歳の頃からリングに上がってプロレスをしているんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、どうしてかっていうと、家族経営のプロレス団体の娘さんなんですよ。お父さんもお母さんも2人のお兄ちゃんもプロレスラーで家族で戦っているんでこの映画のタイトルが『ファイティング・ウィズ・マイ・ファミリー』なんですよ。「家族同士で戦う」っていうタイトルなんですよ。

(赤江珠緒)ふーん! うんうん。

(町山智浩)で、イギリスのノリッジという街でずっとプロレスをやっていて。そこでお父さんとお母さんが……もともと、お父さんは強盗だったんですよ。

(赤江珠緒)フフフ、いまサラッと聞いちゃいましたけど。そこ、流すところかな?(笑)。

(町山智浩)で、お母さんはホームレスのヤク中だったんですよ。で、出会って、「こんなことやってられない!」っていうことで。それで2人ともなにが好きかというとプロレスだったんで、「じゃあ、プロレスを始めよう!」っていうことになって更生した人たちなんですね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)でも、お兄ちゃんはまだ刑務所に入っていたりするんですけども(笑)。それでまあ、主人公の女の子であるペイジは13歳の頃からずーっとリングに立って家族でがんばっていたんですけども。その試合のビデオをWWEに送って、「WWEのオーディションに出ないか?」っていう風に言われて、オーディションをお兄ちゃんと一緒に受けるんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)ところが、お兄ちゃんは落っこちちゃうんですよ。お兄ちゃんの方がプロレスは上手いのに。で、ペイジだけが採用されて、それでたった1人でフロリダのWWEのファーム、2軍があるんですね。NXTっていうところなんですが、そこで修業をするんですよ。そうすると、このペイジはずーっと家族でプロレスをやってきたんですが、はじめて全く知らない他人の中に飛び込むことになるんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)そこでまあ、すごい苦労をすることになるっていう映画なんですけども。それで、まず行くとWWEの女子プロレスの選手たちってご覧になったこと、ありますかね? レースクイーンみたいな人たちなんですよ。

(山里亮太)そうですね。スタイルが良くて、胸もバッと出ているような。

(町山智浩)そう。おっぱいが大きくて、ド派手でね。モデルとかレースクイーンとかミス・ユニバースとか、そんな感じの人たちなんですよ。でもこのペイジっていう子はものすごくゴス……「ゴス」ってわかるかな? 黒いメイクして、黒い口紅とかを塗って……。

(赤江珠緒)ゴスロリとかの。

(町山智浩)そうそう。ちょっとゴシックな、ホラー系のキャラなんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

ゴス系レスラー・ペイジ

(町山智浩)だから、浮いちゃうんですよ。しかも、いちばん若くて。まだ18歳なんですよ。それで、貧乏な家から来たっていうことだったり、イギリスから来たっていうこともあって、全然他の選手たち、練習生たちとバックグラウンドが違うんで、溶け込めないで苦労するんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)基礎体力のテストもすっごい厳しくてものすごい特訓をやらされるんですけども。それ以上に浮いちゃって、うまく周りとコミュニケーションできなくて。うまくプロレスができなくなるんですよ。で、ここですごく面白いにはこれ、WWEが自分たちでオフィシャルにこの映画をサポートしているんですけども。「プロレスというのは相手の技を受け合うものなんだ」っていうことをはっきりと言ってしまっているんですよ。

(山里亮太)ああっ、そうか。

(町山智浩)このお兄ちゃんのザックっていう人がお互いの両親を会わせるっていうシーンがあるんですね。そうすると、向こうの両親はプロレスとかを全然知らないから心配するんですよ。「プロレスってあれは本当にやっていないわよね?」って向こうのお母さんは言うんですよ。それは要するに、「本当にやっているとしたらそんな危ない旦那にうちの娘は嫁にやるわけにはいかないわ」っていう気持ちで言っているんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ところが、それを言われたお父さんはプロレスラーだから侮辱されたと思って。「俺の膝を見ろ! グチャグチャだよ! プロレスラーっていうのはみんなボロボロなんだ! プロレスがインチキでフェイクなら、なんで俺はこんなボロボロになっているんだよ!?」って言うんですよ。

(山里亮太)わかるよ、お父さん……。

(町山智浩)するとお母さんはね、「プロレスは反則や金的もありだからね、うちの旦那のチンコはボロボロよ! 見せてあげたいわ!」とか言うんですよ(笑)。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)「プロレスっていうのは本当なのよ。本気なのよ!」って。そのWWEのラダーマッチっていうアルミ製の脚立でボコボコに殴り合う血みどろの試合を見せて「ほら、みんな真剣に本当にやっているでしょう?」って言うんですけど、逆効果っていう(笑)。

(赤江珠緒)そうですね(笑)。両家の打ち合わせにはちょっといらないかな?っていう(笑)。

(町山智浩)「そんなところには嫁にやれないわ!」っていうね。まあ、そういう話なんですよね。だから一応話としてはプロレスというのはシナリオがあってやっているんだけども、その戦い自体は本気だし。ボクシングや総合格闘技と違って、相手の技は全部受けるわけなんですよ。ボクシングだったら避けるのが大事なんですよね。でも、プロレスの場合にはチョップとかやられたら全部胸で受けなきゃいけないんですよ。ガードしないで。

(赤江珠緒)うんうん。

相手の技を受けるプロレス

(町山智浩)殴られる時もガードをせずに頭を殴られなきゃいけないんですよ。それは、互いの強さを見せていくことだから、避けてはダメなんですよ。投げられたら投げられなきゃいけない。受け身を取るんですよ。だからより、実はプロレスの方が過酷なんですけども。

(赤江珠緒)そういうことだ。うん。じゃあ本当に相手とコミュニケーションを取れないとダメなんですね。

(町山智浩)そうなんですよ! だから、さっき言った(コメディー養成学校の)セカンド・シティの即興もそうなんですが、打ち合わせはできないんですよね。お客さんの門前でやるとそれは聞こえちゃうから。まあ、一瞬やったりはするんでしょうけども、基本的には動きとかだけで相手に自分がなにをやろうとしたかを伝えて、相手もその動きだけで「次になにが来る」っていうのを察して。で、タイミングよく受け身を取ったり、殴られる時にもその殴られる勢いを自分で殺すように引いたりするんですよね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だからドロップキックなんかも食らうんだけども、ダメージがないように食らわなきゃいけないんですよ。でも、そのためにはものすごい相手の動きを察して、次になにが来るかっていうのを即座に判断をして受けなきゃいけないんですよ。やる方も自分でやることを無言で伝えなきゃならないんですよ。で、それを秒速で続けていくんですよ。しかも、それで2人でひとつの物語を無言でつむいでいくんですよ。

(赤江珠緒)うんうん!

(町山智浩)もうすさまじいコミュニケーション能力が必要なんですよ。で、もしこれが伝わらなかったら、どうなると思いますか? 技が成立しないんですよ。で、エンターテイメントとしても失敗だし、大怪我もしてしまうんですよね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だから彼女、ペイジはコミュニケーションが取れなくて、それができなくなっちゃうんですよ。

(山里亮太)プロレスラーとしては致命傷だ……。

(町山智浩)そう。その一方でお兄ちゃんの方も選ばれなかったんで、つらくなっちゃって。プロレスを続けていけなくなっちゃうし。で、ペイジがコーチにこう言うんですよ。「なんでお兄ちゃんの方が上手いのに採用しなかったんですか?」って。すると「いや、上手いだけじゃダメなんだ。プロレスが上手い人を『ジョバー(Jobber)』というんだよ。上手い人はただ受けるだけの人になってしまう。受けるよりも大切なことは、輝くこと(Spark)なんだ!」って言われるんですよ。

(赤江珠緒)うーん、難しい!

(町山智浩)「……そうしないと、ただのジョバーになっちゃう。君はそれ(Spark)ができると思う」って言われるんですけど、それが難しいんですよ。で、「どうしたらいいんですか?」って聞くんですよ。そしたら「君はなんでプロレスがやりたいんだい? プロレスで何を表現したいんだ?」って言われるんですよ。松岡修造さんみたいなことを言うわけですよ。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)「私はずっと家族とやってきたからプロレスをやっているので……」って言うと、「君自身に理由はないのか?」って言われるんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? 突き詰める……。

(町山智浩)でしょう? 「それがないと、スパークできないね」って言われるんですよ。で、ロック様も出てくるんですけども、実はザ・ロック、ドウェイン・ジョンソン。ハリウッドの大スターですけども、彼はもともとWWEの人だったんですが。彼もプロレス一家から出てきた人なんですよ。

ザ・ロックがプロデュース

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だから、彼はこの映画をプロデュースしています。で、その彼に相談をするんですよ。「どうしたらロック様みたいになれますか?」「あのな、第二のロックになろうと思っているようじゃ一生ダメだ! 君はペイジなら最初のペイジになれ!」って言われるんですよ。

(赤江珠緒)かっこいい!

(町山智浩)だから「自分自身を見つけて、自分を表現しないといけない」って言われるんですよ。しかも、コミュニケーションも取らなきゃならない。相手を輝かせて、自分も輝いて。相手も素晴らしく見えるようにしながら、自分がやっぱりいちばん目立つように競い合わなきゃいけない。矛盾しているんですよ。これ。でも、お笑いもそうじゃないですか?

(山里亮太)そうですね! 本当にいま、「そうだ!」って思いながら聞いていました。

(町山智浩)ねえ。ブルースとかジャズとかもそうなんですよ。互いを輝かせて、なおかつ自分がいちばんすごいところを見せてやるという矛盾したことをやらなきゃならないんですよ。めちゃくちゃ大変なんですよ。

(赤江珠緒)そうなんだなー!

(山里亮太)これは見たいな!

(町山智浩)これね、日本公開はまだ決まっていないんですけどもね。『ファイティング・ウィズ・マイ・ファミリー』。でもね、これで「ああ、ブルースもお笑いもプロレスも同じなんだ!」っていうのがわかりましたね。

(赤江珠緒)ねえ。エンターテイメントの真髄って実はそこなのかな?

(町山智浩)そこなんですよ。みんなバンドなんですよ。だからコミュニケーションを取って、家族でなきゃいけないんですよ。それでいてなおかつ、自分が出ていかなきゃならないんです。自分を表現しなくちゃいけない。難しい!

(赤江珠緒)難しい!(笑)。

(山里亮太)難しい世界に来ちゃった……(笑)。

(赤江珠緒)なるほど、いやー、面白い。

(山里亮太)勉強になる。プロレスって本当に勉強になることいっぱいあると思うもん。見ていて。

(町山智浩)はい。という映画が『ファイティング・ウィズ・マイ・ファミリー』でした。日本公開されるといいですね!

(赤江珠緒)そうですね。

(山里亮太)映画関係者の方! かならず……。

(赤江珠緒)わかりました。じゃあ町山さん、シカゴのお話なんかもお願いします。

(町山智浩)はい。どうもでした!

<書き起こしおわり>

町山智浩『ジョン・ウィック:パラベラム』を語る

$
0
0

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で『ジョン・ウィック』シリーズ第三作、『ジョン・ウィック:パラベラム』を紹介していました。

(町山智浩)今日はですね、あの『アベンジャーズ/エンドゲーム』という世界最大のヒット映画をですね、興行成績で抜いて1位から引きずり下ろした『ジョン・ウィック3:パラベラム』という映画を紹介します。

(赤江珠緒)へー! すごい、大人気。

(町山智浩)これ、すごいですよ。あれだけお金をかけた史上最大規模の超大作『エンドゲーム』を引きずり下ろしたのがキアヌ・リーブスがずっと悲しそうな顔をしながら人をガンガン殺しているだけの映画ですからね。

(赤江珠緒)フフフ、えっ、そうなの?

(町山智浩)そうなんですよ。これはジョン・ウィックっていうのは世界最高の殺し屋なんですね。キアヌ・リーブスが演じているんですが。彼が最初から最後までガンガンガンガン人を撃ったり殴ったり蹴ったり刺したりして殺し続けるだけの映画ですね。

(赤江珠緒)えっ、そんな身も蓋もない紹介ですけども(笑)。

(山里亮太)町山さん、『1』ではキアヌ・リーブスが飼っている犬を殺されて。それでブチ切れてずっといろんな人を殺しますよね?

(町山智浩)そうなんですよ。飼っていた犬を強盗に殺されて。それがロシアン・マフィアだったんで、そのロシアン・マフィアを殺そうとするとそれがボスの息子、お坊ちゃんで。で、それを守ろうとするものだからものすごい死体の山になるんですけども。その一作目でキアヌ・リーブスが1人で何人を殺したのかって言うと、一作で85人です。

(赤江珠緒)フフフ、うーわ!

(町山智浩)2時間ぐらいの映画なんで、すごい量なんですけども。銃で73人、刃物で6人。素手とか……ああ、そうだ。この人ね、すごくいろんな物を使うんですよ。武器以外にもね。本とか洗面台とか布とか、いろんなものを使ってトンチのきいた殺し方をするんですけども。

(山里亮太)フハハハハハハハハッ!

(赤江珠緒)いや、ちょっと……トンチとかってはじめて聞きました(笑)。

(町山智浩)それで6人殺していて。で、二作目ではまたスケールアップをしまして。こちら、合計殺害数は119人です。

(赤江珠緒)うーわ!

(山里亮太)記録、伸ばしていくな!

(町山智浩)で、今回の三作目。銃だけで124人。刃物で32人。素手で11人なんで、合計で167人やっていますね。

(赤江珠緒)この映画が興行成績1位?

(町山智浩)興行成績トップですよ。

(山里亮太)なんで、また?

(町山智浩)これがね、なんというか……『マッドマックス/怒りのデス・ロード』っていう映画がありましたよね? あれはカーチェイスなんですけども、普通は映画っていうのは物語があって、「誰がどうして、この人はこういう人で、こういう理由でカーチェイスが始まりました」っていうので普通は映画1本なんですよ。で、「どうなりました」っていうのが普通は映画の2/3ぐらいなんですね。で、1/3がクライマックスっていう感じですよね。時間配分的には。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)ところが『怒りのデス・ロード』は最初からいきなりカーチェイスが始まって、最後まで続くんですよ。クライマックスしかない映画なんですよ。で、この『ジョン・ウィック』という映画もその方式なんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だからこの今回の三作目は、いきなりジョン・ウィックに対して賞金がかけられるんですよ。映画の頭で。で、このジョン・ウィックっていうシリーズは殺し屋の中で「ハイテーブル」と呼ばれるネットワークがあるという世界観なんですね。で、それはたとえると、『ハリー・ポッター』シリーズは現実の世界の裏に魔法使いたちのネットワークが世界中に広がっているっていう世界だったじゃないですか。あれが殺し屋になっていると思ってください。

(赤江珠緒)ああー、はいはい! うん、わかりやすい。

(町山智浩)全世界の殺し屋がネットワークでつながっているんですよ。それで、そこで突然ジョン・ウィックに賞金がかけられて。14ミリオンドルだから15億円ぐらいの賞金がかけられて。全地球の殺し屋がジョン・ウィックを殺そうとするっていうところで始まります。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、あとはもうそれをずっと殺しながら逃げ続けるんですよ。

(赤江珠緒)フフフ、ある意味しんどいですね(笑)。

(町山智浩)そういう話なんですよ(笑)。

(山里亮太)シンプルでいいですよね。なにも考えないでいい感じで。

(町山智浩)すげえシンプルな映画なんですよ。ただ、これがまあ今回もいきなり最初の殺しが分厚い本で殺すんですけども。まあ、そのやり方とかがお客さんがみんな「うわあ……!」って言っていましたからね。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)「うわあ……!」っていう感じなんですよ。

(山里亮太)シンプルにドンと殴るとかじゃないんですね。

(町山智浩)そんなんじゃないんですよ。みんな、引いていましたよ。お客さん、いきなり。で、とにかくこの映画は監督がチャド・スタエルスキっていう人なんですけど、この人はもともとスタントマンなんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、そういうアクション、銃撃戦とか格闘のアクションの専門家の人なんですね。で、そのアクションの見本市として存在する映画なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

スタントアクションの見本市

(町山智浩)だからストーリーは置いておいて……っていう話なんですよ。で、この映画ね、どうして作られることになったかっていうと、この人がもともと『マトリックス』というキアヌ・リーブスの大ヒット作がありますよね。1999年の作品。あれのスタントのコーディネート……だから振り付けとか格闘をデザインして。しかも、キアヌ・リーブスのスタントダブル。キアヌ・リーブスがどうしても危険な時は彼の役を代わりにやるという人だったんですよ。

(赤江珠緒)ああ、うん!

(町山智浩)で、その関係で「スタントだけで映画を作ってみよう!」っていうことでできたのが『ジョン・ウィック』シリーズなんですよ。とりあえずスタントが第一なんですよ。で、ありとあらゆる銃撃戦の術……「センター・アクシス・リロック」という撃ち方をしたり。たぶんわかんないと思いますが。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)あとはサンボとか柔術とかカリとか、もうとにかく世界中のありとあらゆる格闘・銃撃の技術を全部1本に詰め込んでいる映画なんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そういうことか! はー!

(町山智浩)そうなんですよ。満漢全席みたいな感じなんですよ。しかも、キアヌ・リーブスが99%のアクションを自分でやっているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)これ、ちゃんとビデオがDVDを買うとおまけでついているんですけども。キアヌ・リーブス、全部やっていますよ。

(赤江珠緒)ああ、そうですか? でも結構お齢じゃないですか? 『スピード』とかに出たのもだいぶ前ですよね?

(町山智浩)俺よりひとつ下。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)すごいですよ。55ですよ。

(山里亮太)どうですか。自分の1個下の人間がやっているアクションとして見たら……考えられないですか?

(町山智浩)考えられないですよ! だって、『マトリックス』から20年目ですよ!

(赤江珠緒)そうか。もう20年か!

(町山智浩)20年でこの動きですよ。全然変わらない。すっげー!って思いましたよ。

(山里亮太)ストイックに鍛え続けてるんでしょうかね。

(町山智浩)もう徹底的に鍛えているんだと思うんですけども。ただね、ずっと戦っている間……そうだ。今回、敵がすごいんですよ。敵はすきやばし次郎の大将ですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)すきやばし次郎っていうお寿司屋さんに二郎さんっていう寿司職人がいるじゃないですか。あれそっくりの人が今回の敵なんですよ(笑)。

(赤江珠緒)アハハハハハハッ!

(山里亮太)見たい!

(町山智浩)マーク・ダカスコスという非常に格闘アクションのスターの人なんですけど、完全に二郎さんのキャラクターになっているんですよ。

すきやばし次郎的な殺し屋

(山里亮太)それをイメージしているんですか?

(町山智浩)完全にイメージしていますね。ニューヨークのなぜかガード下にすごい美味い寿司を食わせる店があって……(笑)。

(山里亮太)ああ、じゃあ完全にそうだ!

(町山智浩)そう。そこに行って殺しを依頼するとそのすごい包丁さばきで殺してくれるっていう寿司職人兼殺し屋っていう設定ですよ。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)この寿司屋ね、たしかに包丁さばきがすごくて美味そうなんですけど……なぜかきゃりーぱみゅぱみゅさんの『にんじゃりばんばん』が大音量でずっとかかっているっていう。こんな店で寿司を食いたくねえよ!っていうお店でしたね(笑)。

(赤江珠緒)フハハハハハハハハッ!

(町山智浩)どうかしている映画でしたね。本当に。すごかったですけども。ただね、この『ジョン・ウィック』シリーズってすごく不思議なポイントはね、キアヌ・リーブスがずーっと悲しそうなんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)キアヌ・リーブス、ずーっと悲しそうな、物憂げでアンニュイな顔で170人ぐらい殺していくんですよ。もう本当に悲しい顔をしながらどんどんと殺していくんですよ。でもね、殺し方がまたね、丁寧なんですよ。雑じゃないんですよ。

(赤江珠緒)ほう。

(町山智浩)どう雑じゃないかっていうと、バーン!って撃って相手が倒れるじゃないですか。で、もうそいつが動けなくなったり、まあ撃ち返してこない状態になったら、次に行けばいいじゃないですか。そんな雑な仕事はしないんですよ。このジョン・ウィック職人は。ササッとそいつのところに行って、バンバーン!ってあと2発、脳天にブチ込むんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?(笑)。

(町山智浩)丁寧な仕事をする殺し屋なんですよ!

(山里亮太)仕上げもしっかり。

(町山智浩)すごいですよ。170人ぐらい殺しますけど、全部ちゃんととどめを刺していきますよ。2発から3発ずつ、ガンガン、ガンガンガンガン!って。まあ、この映画はすごいですけど、弾がいくらでも出るわけじゃなくて、ちゃんと弾の入れ替えとかもやっているし、超リアルなんですけども。そのへんはね、もう徹底的にリアルなんですが、まあすごい熱砂の砂漠に行くんですけどもね。ジョン・ウィック、今回。それでもいつものダークスーツにネクタイを締めたまま、ネクタイを絶対に緩めなかったりするんですけども。砂漠で死にそうなのにね。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)そのへんはなんだろう?って思うんですけども。どこまでが本当で嘘かはわからないんですけども。ただね、なんでこんなにいつもキアヌ・リーブスは寂しそうなのか? あんまりにも寂しそうなので、おもちゃまで出ているのをご存知ですか?

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)ほら、コップに座るキャラクター、あるじゃないですか?

(山里亮太)ああ、コップのフチ子さん。

(町山智浩)そう。あれと同じ形で「寂しいキアヌ・リーブス」っていうおもちゃが売っているんですよ。

(赤江珠緒)ええっ、そうなんですか? ああっ、本当だ!

(町山智浩)そう。それ、ちゃんとオフィシャルなんですよ。

寂しいキアヌ・リーブス

(赤江珠緒)役じゃなくて?

(町山智浩)あのね、キアヌ・リーブスって1人でよくロサンゼルスをウロウロしていることが多くて。普通に道端のベンチとかに座って寂しそうにしているのがよく見られている人なんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? プライベートがそういう人なの?

(町山智浩)そう。写真を撮られたりしているんですよ。で、「悲しいキアヌ・リーブスっていうおもちゃを作ったんで売らせてください」って言ったら、タダで売らせてくれたんですよ。「いいよ」って。

(赤江珠緒)ええっ? 珍しい。それは、いいの?

町山智浩 レバノン映画『存在のない子供たち』を語る

$
0
0

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でレバノン映画『存在のない子供たち』を紹介していました。

(町山智浩)ということで、今日は全然趣を変えましてですね、レバノン映画の『存在のない子供たち』というかなり厳しい映画をご紹介します。公開は7月31日からなんですけども。これ、レバノンという国に大量の難民が流れ込んでいるんですが、その難民の子供たちを実際に取材して彼らの現実から物語にしていったという映画ですね。で、レバノン映画としては前にここで紹介した『判決、ふたつの希望(The Insult)』という映画に続いて世界的なヒットをしている映画です。

町山智浩 レバノン映画『判決、ふたつの希望』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でレバノン映画『ジ・インサルト』を紹介していました。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)これ、主人公はこの写真の男の子なんですよ。これはゼインくんっていう子なんですけども。

(赤江珠緒)かわいいですね。

(町山智浩)かわいいでしょう? この子、何歳だと思います? 写真だけを見て。

(赤江珠緒)まあ9歳、10歳?

(山里亮太)ぐらいですかね。

(町山智浩)そうですよね。どう見ても8歳、9歳ぐらいですけど、実際には12歳なんですよ。

(赤江珠緒)えっ、そうなんですか?

(町山智浩)これはたぶんね、幼少期に栄養失調だったんですね。そうすると、その後も体が大きくならないんですよ。で、この子が主役でゼインくん自身の役をやっています。で、この映画は出演者はほとんどが難民です。で、彼ら自身のいろんな過去のバックグラウンドであるとか実際に体験したこととかを元にしてキャラクターを作って。それを組み合わせてひとつのドラマにしたというものです。で、このゼインくんはシリア難民としてベイルートというレバノンの都市で暮らしているんですけども。これ、手元に地図があると思いますが。レバノンっていう国はこれ、岐阜県ぐらいの面積らしいんですね。で、ここにシリア難民が現在、ベイルートだけで24万6000人暮らしています。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、これ全部合計するとなんと100万人のシリア難民がレバノン内で暮らしているんですよ。で、前に『判決』っていう映画のところで紹介したんですが、レバノンっていうのは北側と東側をシリアに囲まれている国なんですけども、南側はイスラエルと接しているんですよ。で、イスラエルからはパレスチナ難民がなだれ込んできて。すでにパレスチナ難民は5万人、住んでいます。

そこに100万人のシリア難民が入ってきて。まあシリアのアサド政権がロシアと組んで反政府軍や反政府軍が住んでいるとされているところに誰がいようがいまいが猛爆撃をしているんで、住めなくなった子供たちを連れた親がレバノンになだれ込んできているんです。そのレバノン、100万人のシリア難民を受け入れているのですが、もともとの人口は600万人しかいないんですよ。

(赤江・山里)ええーっ!

(町山智浩)だから、大変な事態になっています。で、もうほとんど難民たち、生活もできない。80%が最貧困のところにおかれている。で、この主人公のゼインくんは12歳なんですけど、普段なにをしているかっていうと、親に連れられて処方箋の薬を買いに行くんですよ。鎮静剤とか鎮痛剤の類ですね。で、それは処方箋がないと買えないんですけども、デタラメな処方箋を作って薬屋で買って、それをたくさん集めて。子供たちがそれを粉々に砕いて、水に溶かすんですね。水溶性だから。で、そこに下着を漬けるんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)下着をその鎮静剤につけて。それを乾かして。それでこのお母さんが刑務所に行くんですよ。で、収監されている囚人の家族のふりをして下着を差し入れにいくんですよ。すると、それが刑務所内では10倍、20倍の値段で薬物としてその衣類が取引されているんですよ。それでお金を稼いでいるんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? 薬物として?

(町山智浩)薬物として。だからパンツとかが来るでしょう? そうすると、そのパンツ自体を売るのか、そこから薬物を抽出するのかはわからない。染み込ませてあるから、刑務所の中ではそれは通過できるんですよ。それをされているのがこのゼインくんなんですよ。

で、普段は近所の雑貨屋でプロパンガスの配達とかそういうのをさせられているんですけども、その雑貨屋は大家さんで難民が住んでいるすごいボロボロのアパートがあるんですけど。そこにこのゼインくん一家が全員で暮らしていて。子供たちが3人とかいて。お父さんとお母さんで。お父さんは足が悪くて働いていないんですね。で、この子たちが学校にも行かないでずっとそういう薬物を売ったり配達をしていて暮らしているという。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、彼らが学校に行かないのは難民として入ってきているから戸籍がないんですよ。戸籍制度っていうのは日本だけなんですけども、まあ「子供」としての書類がまったくないんですよ。だから「何年に生まれて……」とかそういうこともわからなくて、存在をしないことになっているんですよ。

(赤江珠緒)ああ、それがそのタイトル?

存在しないことになっている難民の子供たち

(町山智浩)そう。『存在のない子供たち』っていうタイトルになっているんですよ。で、そのお母さんとお父さんは一応一生懸命働いてはいるんだけども、全然家賃が払えない状態で。そこのアパートを親から引き継いで経営している雑貨屋のおっさんっていうのはアサドっていう名前で。それがアサド政権と同じ名前になっているのが面白いんですけども。で、彼らを「ちゃんと家賃を払えないんなら追い出すぞ!」と言って圧力をかけているんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)ただこのゼインくんには11歳の妹がいて。その女の子にこのアサドという男は目をつけているんですよ。ロリコンなんです、こいつ。

(赤江珠緒)ええっ!

(町山智浩)ロリコンのジジイ、おっさんなんですよ。で、「その子を俺にくれるんなら家賃は勘弁してやってもいいよ」って。で、このゼインくんの親はそれに従おうとするんですけど、ゼインくんはなんとかその妹を守りたくて。で、妹がそういうことになってしまうのは……まあ「嫁入り」っていう形になるんですけども。ただその妹は存在をしないことになっているので正式な結婚ではないわけですよね。で、11歳の女の子が40ぐらいのおっさんのところに行かされるんですが、そうならないようにするためにはまだ子供であることを証明しなきゃいけないから、生理がないふりをさせるんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、妹が寝ていたシーツとかに血がついていると、それを隠したりして。下着とかも全部彼が取り替えたりしてなんとか生理がないという状態を作ろうとするんですけども、やっぱりバレてしまって。で、妹が売られていってしまうんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)で、もう親に絶望をして。頭にきて。で、しかも自分も売られるかもしれないんですよ。この中でやっぱり変態オヤジが……このゼインくん、かわいいでしょう? だから目をつけるシーンもあるんですよ。で、これは非常に危険だし、こんな親のところにはいられないということで家でをするんですよ。で、家出をして、写真の下の方にあるんですけど遊園地で働いている黒人の女の人。お母さんなんですけど、彼女のところに勝手に彼が世話になっちゃうんですよ。というのは、彼女はエチオピアから来ている出稼ぎ労働者なんですけども、途中でちょっとレイプまがいのことがあって子供を作ってしまって。それでいられなくなってしまって不法労働移民みたいな形になっちゃうんですね。で、彼女も不法な状態でレバノンにいなきゃいけない。それで赤ん坊が生まれてしまうんですけど、それを隠して働いているんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、その働いている間に赤ちゃんの面倒を見てくれる人が必要なんで、このゼインくんに赤ちゃんの面倒を見させるんですよ。赤ちゃん、まだ1歳ぐらいなんですけども。この赤ちゃんがね……この映画はゼインくんも名演技なんですけど、この赤ちゃんがすっごいかわいいの!

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ものすごいかわいくて。音楽がラジオとかで鳴っていると、1歳なんですけどもうノリノリで踊るんですよ。すっげーかわいいんですけども。で、かわいいからゼインくんも最初はご飯を食べるために面倒を見ているんですけど、本当に好きになっちゃうんですよ。で、その赤ちゃんをやっている子は実際は女の子なんですけど、男の子の役なんですね。で、自分の弟のようにかわいがる。だからゼインくんっていうのはもともと自分よりも弱いものとか幼いものを大事にするカリスマ的な、ヒーロー的な性格のある子なんですよね。ただ、そのお母さんが赤ちゃんをゼインくんに預けていて働きに行ったらある日、帰ってこないんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? お母さんが?

(町山智浩)お母さんがある日、帰ってこないんですよ。で、「待たせられた!」って思うんですけど、これは言っちゃっていいと思うんですけども、そのお母さんは実は不法移民として逮捕をされていたんですよ。だから、帰ってこないんですよ。

(赤江珠緒)ああーっ!

(町山智浩)さあ、じゃあこの後にこのなんの書類もない、お金もない12歳の少年と1歳の赤ちゃんは生き残れるのか?っていうサバイバルストーリーになってきますよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)で、周りには悪いやつがいっぱいいるわけですよ。変態だとか、あとは赤ん坊を売っているやつとかいるんですよ。そいつらが目をつけてくるわけですよ。で、どうするんだ?っていうね。

(山里亮太)これ、取材に基づいてっていうことは本当に実際に起こっていることなんですよね?

(町山智浩)そうなんですよ。これね、監督がこの女性なんですけども、ちょっと見てくださいよ、この方。

(赤江珠緒)おきれいな方ですね。

(町山智浩)ナディーン・ラバキーさんっていう方。超美人なんですが。彼女はもともと女優さんなんですね。

(赤江珠緒)ああー、そうですか。

(町山智浩)で、監督として最初にドキュメンタリーみたいなことで難民の人たちの生活をずっと調べていったら、この人たち自身の話をまんま物語にしようということで組み合わせていってひとつの話にしていったんですね。で、この人自身は結局法廷に送られるんです。というのは彼、ゼインくんは人を刺してしまうんですよ。で、その裁判所で「彼が人を刺したというのはいったいどうしてなのか? いったい誰が悪いのか?」っていう裁判になっていくという話なんですけども。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)そこでこのゼインくんの弁護士を演じているのがこの女性監督なんですよ。これね、すごいのはこのゼインくんもそうですけど、みんな美男美女ばっかりですよ。この映画ね。このゼインくんは12歳で6歳ぐらいの子供の体しかないんですが……まあ演技はすごいですよ。全く自然だし。で、とにかく常に悲しそうなんですよ。常に憂いを帯びていて。で、裁判でも結局、「どうしてこういうことになるのか?」っていう。いちばん冒頭に出てくるんですけど、「僕は親によってこういう状況の中で生まれてきた。そのこと自体を告訴します!」っていうところから始まっていくんですけども、すごいんですよ。

(赤江珠緒)はー!

自分たちが置かれている状況自体を告訴する

(町山智浩)そういうところもね、すごくしっかりしていて。言わされている感がゼロなんですよ。このゼインくんは。

(赤江珠緒)やっぱりゼインくん自身の体験もあるから?

(町山智浩)そうそう。自分自身の物語だからっていうことも当然あって。だからその問題を完全に内面化していて。だからこれね、ちょっとすごい強烈ではあるんですが、ゼインくんの演技がとにかく素晴らしいし。全く笑いませんけどね。妹といる時とかそのチビちゃんといる時以外は全く笑いというのを忘れた子ですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ただ、そのチビちゃんがかわいいの。本当にかわいくて! 1歳、2歳ぐらいの子が音楽に合わせてこうやって踊るのってもうめちゃくちゃかわいいんですよ。

(赤江珠緒)たしかにね。急に音楽に乗って。そうなんですね。それを演技じゃなくて本当にやっているんでしょうね。

(町山智浩)まあ演技だったらそれはそれですごいですけども(笑)。演技だったらすごすぎますよ(笑)。「ちょっといまの上手くいかなかったんで。もう1回、監督、お願いします!」みたいな(笑)。「お願いちまちゅー!」とかって(笑)。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。そうかー。でもこのレバノンっていうのは想像以上にひどいですね。

(町山智浩)これはだから周りの状況でシリアが隣っていうことがひとつあって。で、シリアがもう完全に独裁政権によって国民自体を空爆しているという状態なので、逃げてくるわけですね。で、隣はパレスチナの人たちがイスラエルから追い出されてくるでしょう。さらにレバノン内部もこの間まで内戦をしていたでしょう。だからもうこのへん、グッチャグチャですよ。さらにこのシリアの人たちが結局最終的にはどんどんヨーロッパの方に移民申請をして逃げていくんですけども。でも、いまヨーロッパの方で起こっていることというのはその移民排斥運動ですよ。

(赤江珠緒)EUもガッタガタになってきてますもんね。

(町山智浩)EUがガタガタですよ。EUに所属している国のいくつか、イタリアとかフランスだったりが移民の追い出しというのを掲げている政党が次々と選挙で勝ってしまう。だから結局難民の流入が止まらないわけで。それがそれぞれの国の負担になっていくから、それまでずっとそういう人たちへの同情心があった人たちもどんどんと変わってきて。それで「彼らをなんとか叩き出せ!」って。でも「叩き出せ」って言ったって、シリアでは空爆が続いているんだから。

(赤江珠緒)そうなんですよね。根本的なところがね。故郷が住めるような状態にならないとね。

(町山智浩)そうなんですよ。そこの部分をなんとかせずに壁だけ作ろうとしても……だからトランプ政権が前にも話しましたけども。僕が実際にアメリカのテキサスにいる難民の人たちに取材をして。それは結局中米のホンジュラスであるとかサルバドルとか、そういったところから逃れてくるわけですけども。そっちの国はぐちゃぐちゃなわけですよ。もうギャングが支配をしてしまって。

それを放っておいて「入ってこれないようにする」って言ったって、それは止まらないわけで。それこそ壁のところに人垣ができてきて、『ワールド・ウォーZ』みたいになってしまうだけなんですね。そこの部分が完全に、その国境周辺が非常に治安とかも含めてぐちゃぐちゃになるし。子供はどんどん死んでいくわけですよね。じゃあ、その根本の彼らのもともとの祖国が安定をしていたら、別に彼らはそこを出ようとは思わないわけだから。

町山智浩 アメリカを目指す中米移民キャラバンを語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドルなどからアメリカを目指し徒歩移動を続ける難民キャラバンについてトーク。メキシコ国境のアメリカの街で彼らに直接インタビューした際の模様について話していました。

(赤江珠緒)そうですよ。

(町山智浩)そこをなんとかしなきゃいけないんですが。一応、アメリカはレバノンとかに関してはお金をかなり入れています。さっき言った中米3ヶ国に関してもすごく入れているんですけど、お金を入れているだけなんですよ。ただお金を入れたって、全部それはズブズブなんですよ。そうではなくて、政治自体を安定させなきゃいけないんだけども、トランプ政権はそういうことはしない。海外に対して不干渉という、一種モンロー主義みたいなものを唱えているので。とにかくあまりかかわらない。「いままで、かかわっていくことでずっと失敗をしたのだから、かかわらない」ってなっていったんですよ。で、世界中がだいたいそういう方向で行っているんですけど、かかわらなければ難民は止まらないんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

国際安全保障の必要性

(町山智浩)だから国際安全保障っていうと外国の平和とかに対して貢献するっていうことにどのぐらいの意味があるのか?っていうのは、結局自分のところに返ってきちゃうから。難民が入ってきますからね。で、日本は結局そういうことからいまのところ無縁ではいるんですけど、それこそ北朝鮮が崩壊したらどうなるか? 「入れない!」って言ったって入ってくるからね。北朝鮮が崩壊したら、絶対に入ってきますよ、それは。それでどうなるのか?っていうこともありますからね。だから本当は自分の国を守ろうとしたら他の国の平和や治安も守らなきゃいけないんだということだと思うんですよね。だから本当に一国平和主義だったりっていうのは、それはちょっと難しい世の中になってきているんだなって。

(赤江珠緒)そうですね。自国だけではちょっと、ねえ。成り立たないですよね。

(町山智浩)ですよね。だから本当にシリアの方はバンバン爆撃していますけども。それに対して、じゃあアメリカはなにをしているのか? いま、なにもしていないんですよ。日本もなにもしてないですからね。だからどうなるか?っていうことですよね。それでゼインくんはこの映画がすごく注目されまして。この映画、ちょっと前の公開なんですよ。で、現在はヨーロッパの北欧の方に難民として受け入れられたんですけどね。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。

(町山智浩)ただ、北欧の方もいますごく難民を引き受けていて。ヨーロッパ全体がどうなっていくのかわからないんですよ。はい。

(赤江珠緒)これは配給元によりますと日本公開が7月中ということで。まだ確定はしていないということだそうです。

(町山智浩)まあでもね、子供たちはかわいいの。

(赤江珠緒)そうでしょうね。この写真を見るだけでもね。

(山里亮太)でも、そのかわいい子供たちがブチ当たるとんでもない境遇が……すごい。

(町山智浩)とんでもないですよ。

(赤江珠緒)なんか鍋の乳母車みたいなのに乗っているのもね。

(町山智浩)そうそう。スケボーの上に鍋を乗っけて、その上に赤ちゃんを入れて。それでズルズルと引っ張って彼が食べ物を探してずっと歩くんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなんだ……。

(町山智浩)もう、辛いけどかわいいですよ。かわいいけど、辛いですよ。

(赤江珠緒)今日は『存在のない子供たち』を紹介していただきました。町山さん、ありがとうございました。

<書き起こしおわり>

町山智浩 アジズ・アンサリ日本公演を見に行った話

$
0
0

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で人気コメディアン、アジズ・アンサリの東京で行われたショーを見に行った話をしていました。

(赤江珠緒)今日、また映画をご紹介いただくということで。

(町山智浩)今回、仕事の収録で日本に10日ぐらいいたんですけども。で、ちょっとネットでアジズ・アンサリというアメリカのコメディアンの人が日本に来て住んでいて、お笑いライブをやるという情報を宇野維正さんっていう評論家の人がツイートしていたんで、「うわっ!」って思って行ったんですよ。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)この人はもうアメリカでもトップのコメディアンでお笑いの人なんですけども。もう『マスター・オブ・ゼロ』っていうNetflixでやっている番組なんかで見れる人なんですが、アメリカで見ようとしたらとにかくチケットを取るのが不可能なんですよ。この人1人でそれこそマジソン・スクエア・ガーデンで何万人も埋められるようなレベルのコメディアンの人が……。

(赤江珠緒)すごい! その人が、下北沢に?

(町山智浩)下北沢で見れるって思って行ったんですよ。で、めちゃくちゃ面白かったんですけども。とにかくね、日本語なんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)ギャグが。「日本にいる外国人」っていうネタを日本語でやるんですよ。「スイマセーン! すきやばし次郎はどこですか?」とかって。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)「予約ないとダメですか?」とかってずーっとやってるんですよ。

(赤江珠緒)へー!

日本語ギャグ

(町山智浩)で、外国から来ているお客さんが結構いたんで、「日本でいちばん美味しいモノはなんですか?」って聞くと、本当にみんな「コンビニ!」って言うんですよ。どんなレストランよりもコンビニが美味いという。

(赤江珠緒)アハハハハハハハハハッ!

(町山智浩)「なにが好きですか?」「○○おにぎり!」とかみんなで言ったりするんですけども。そういうギャグをずっとやっていたんですけどね。で、めちゃくちゃおもしろかったですよ。客席に小沢健二さんとかいらっしゃいましたよ。

(赤江珠緒)ええっ、オザケンさんも? おおーっ! そうですか。

(町山智浩)ちょっとびっくりしましたけども。

(赤江珠緒)日本、お好きなんですか? そうやってしょっちゅうこの方は日本にいらしているんですか?

(町山智浩)アジズ・アンサリさんですか? この人はアメリカにいられなくなって、日本に逃げてきたんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)アメリカでファンの女の子を呼びつけて、いきなりエッチをして。女の子がはっきりとした拒否を示さなかったためにそういうことになってしまったということで。その後で「私はあの時、はっきりとノーと言えばよかった」みたいなことを発表してしまったんですね。最近、日本でもそういう事件がありましたが。全く同じですが。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、そんな完全な同意も得ていないし、恋愛感情も高まっていないのにいきなりセックスしようとしたということで、彼はアメリカにいられなくなってしまって。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですか。そんな事情が!

(町山智浩)あったんですよ。それでそのスキャンダルから逃れるために日本にかなりいたんで、もう日本語がペラペラになっているんですけども(笑)。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(山里亮太)ああ、もうペラペラなんだ(笑)。

(町山智浩)もう何年もいるんですよ。そのトラブルがあったのが3年ぐらい前なんですけども。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)そんな感じなんですけどもね。まあ、なんというか大スターになってもまあ、恋愛がちゃんとできていない人みたいなことなんですけどね。

(赤江珠緒)ああ、なるほど、なるほど。

(町山智浩)まあ、その時に「反省している」って言っていましたよ。「私はそれで自分が非常に悪かったことがわかって。生まれ変わろうとしてるんだ」っていう風に言っていましたね。

(赤江珠緒)そうかそうか。

(山里亮太)まだアメリカに戻ることはできないんですか?

(町山智浩)まあまあ、どのぐらい本人が変わったか?っていうことで、許されていくんだと思うんですけどもね。たぶんもうすぐ戻るとは思いますよ。才能はあるんですよ。めちゃくちゃ面白いですから。

(山里亮太)ソロのライブとかもNetflixとかで見れますけども。ドッカンドッカンうけてますからね。

(町山智浩)めちゃくちゃ面白いんですよ。ギャグは。

(山里亮太)日本語字幕をつけてくれるからそれで見ているんですけども。僕みたいな人間でも面白いってわかる。

(町山智浩)あと、キャラがね、「本当に最低なスケベ男」っていうのをずーっとやってきていたんで、キャラとは外れていない! 最近、日本で事件を起こした人もキャラとは外れていないから。キャラ通りなので、裏表のない人!

(赤江珠緒)なるほど、なるほど(笑)。

(町山智浩)全く裏表がないんですが、裏表がなさすぎてファンもびっくりしたと思いますけども。「それ、ネタだと思っていたら本当にそういう人なのね!」っていうやつでしたけども。

(赤江珠緒)アジズ・アンサリさんね。

(町山智浩)ということで、まあ面白かったんですが……。

<書き起こしおわり>

町山智浩『愛がなんだ』を語る

$
0
0

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で今泉力哉監督の映画『愛がなんだ』を紹介していました。

(町山智浩)ちょっと今日はアメリカ映画を見ていないので、日本映画の話をしたくて。4月に公開されてからもう1ヶ月以上ロングランをしている映画がありまして。『愛がなんだ』というタイトルの映画を僕の知り合いとかが「よかったよ!」って言うから。で、日本に来てアメリカ映画を見るのも何ですから、日本にいる間は日本映画をマメに見るようにしているんですが。それで見たら、すごいよかったんですよ。

(赤江珠緒)よかった。へー!

(町山智浩)あんまりよかったんで、監督が名古屋の方でトークショーをやっているっていうことで追いかけていって名古屋に行ったら、「もう岐阜に行きました」っていうので岐阜まで追いかけていって。

(赤江珠緒)アハハハハハハハハハッ!

(町山智浩)岐阜でつかまえて。

(山里亮太)この映画、そこまでさせる力があるんですね!

(赤江珠緒)すごいですね、町山さんの行動力(笑)。

(町山智浩)岐阜でつかまえて、いろいろとお話をお聞きしていったんですけども。今泉力哉監督という人で。まあ僕は彼の作品をいままで見ていなかったんで「本当に申し訳ない」って謝ったんですけども。で、どういう映画かっていうとこれ、主人公は28歳の女性でOLなんですね。マーケティング会社に勤めている人で山田テルコさん。これを岸井ゆきのさんが演じています。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、彼女が好きな相手が田中マモルくんという子で成田凌さんが演じているんですよ。で、とにかく好きなんですけども、このマモルというのは非常にワガママな男で。相手の事情はお構いなしに、このテルコちゃんを電話で呼びつけるんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、呼びつけて用が済むと「帰って」って。終電が終わっていても平気で外に放り出しちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うわーっ!

(山里亮太)こんな顔していたら、そんなこともするか……。

(町山智浩)で、とにかくそういう人なのに、どんどんどんどんこの山田テルコさんは彼にハマっていくんですね。

(赤江珠緒)はー! 冷たくされても?

(町山智浩)冷たくされても。で、たとえば「俺、今日動物園行きたいからさ、行こうよ!」「会社があるのに……」「いいよ、行こう、行こう!」とかって。それで彼女は会社をクビになっちゃうんです。

(赤江珠緒)ええっ、そこまで?

(町山智浩)うん。そこまで。で、その家のものとかを彼女が部屋の中で片付けていたりすると、片付けすぎて自分のテリトリーに入られたと思ったその成田凌は「出ていって」って追い出すんです。

(赤江珠緒)うーわ、ちょっと……。

(山里亮太)ヤバい。ストレス溜まる……。

(町山智浩)で、全然連絡をしないし。で、そのいつくるかわからない連絡……もう連絡がきたらすぐに行かなきゃと思っているテルコちゃんは定職に就かないんですよ。いつでも行けるように。それで何ヶ月も待ち続けるんですよ。

(赤江珠緒)えっ、でも恋は一方通行で全然……。

(町山智浩)で、彼は絶対に「好き」とか「愛してる」とか言わないんですよ。ただ、やるだけやるんですけど。

(赤江珠緒)あれれれれれ……。

(町山智浩)でね、何ヶ月もほったらかしにされて、呼びつけられて「やったー!」って行ってみると、「この人、スミレさん」って、成田凌が自分の好きな女性を紹介してくるんですよ。ところが、そのスミレさんは全然成田凌のことが好きじゃないみたいなんですよ。

(赤江珠緒)あれっ?

(町山智浩)そうすると腹いせにテルコちゃんに「家、行ってもいい?」って家に来て。それで「やらせて」って言うんですよ。スミレさんに相手にされないもんだから、「こっちで済ますか……」みたいな感じで「やらせて」って言って。

(赤江珠緒)最悪じゃないですか……。

(町山智浩)いま、こういう話をしているところで向こう側にいたいけな学生さんたちが真剣に話を聞いてますけども(笑)。

(赤江珠緒)そうですね。フレッシュマンたちが(笑)。

(町山智浩)いきなり俺はここで「やらせて」話をしてるという(笑)。

(山里亮太)なんであと30分、早くこなかったんだよ!(笑)。

(町山智浩)教育上、ものすごくよくないですね(笑)。

(赤江珠緒)学生さんかな? そうだね。いまね、学生さんが来てくれたんだね。

(山里亮太)この世界を目指している学生さんが。

最低男・マモル

(町山智浩)まあ、とにかくこの成田凌が最低なんですよ。でも、どんどんどんどん彼女、テルコちゃんはハマっていくんですよ。で、なにもかもを犠牲にしていくんですよ。というような話で、すっごいんですよ。これがまた、そのハマり方が。で、これ成田凌くんだから顔がいいじゃないですか。

(赤江珠緒)うんうん。

(山里亮太)めちゃくちゃかっこいいです。

(町山智浩)だからまあしょうがないなっていう気にもなるんだけど、これは原作ではそういう風には書かれていなくて。全く魅力がない顔の男として書かれているんですよ。背も低くて貧相で。

(赤江珠緒)ええっ?

愛がなんだ (角川文庫)
愛がなんだ (角川文庫)
posted with amazlet at 19.06.04
角田 光代
KADOKAWA (2006-02-24)
売り上げランキング: 366

(町山智浩)だから監督に会えてよかったんですけど。その今泉力哉さんの奥さんの映画監督なんですが。「これは結局、この彼女にとって彼自身がどうであっても関係のないことで。愛だけがあるわけだから。この男は顔すら見せなくても成立する物語だね」って言っていたんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)まったく空っぽな男なんですよ。完全に空っぽなんですよ。それでも、愛だけがあるんですよ。で、だから「成田くんにしてよかった。お客さん入るから」って言っていましたけども(笑)。

(赤江珠緒)ああー、そうか!

(町山智浩)ただね、成田凌くんは本来モテるから、時々素でモテるアドリブをしちゃっているんですよ。この映画の中で。

(赤江珠緒)モテるアドリブ?

(町山智浩)モテる男しかしないアドリブをしているんですよ。

(赤江珠緒)そんなの、あります?

(町山智浩)それはご覧になって……。

(赤江珠緒)いま山ちゃん、俄然それを使おうとしていますけど……。

(町山智浩)それはだから「壁ドン」みたいなことってあるじゃないですか。女の子がキュンとしちゃうようなこと。それをアドリブでカマしてくるんですよ。この成田凌が。

(山里亮太)ああーっ、よくないよ、成田くん。それは!

(町山智浩)でもそれは完全にキャラと外れちゃっているんですよ。だから監督としてはその時は「やりやがった!」って思っているんですって。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)でも、監督自身はその「女性にモテるっていうのがあまりよくわからない」っていう風におっしゃっていて。でも成田凌は知っているから、それが自然に出てくるんですよ。モテる技を。

(赤江珠緒)はー、なるほど!

(山里亮太)出ちゃうんだ?

(町山智浩)だから監督はそれをモテないように、モテないようにやらせようとするっていう、そのせめぎあいが現場で行われたというね。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。不思議な攻防ですね(笑)。

(山里亮太)でもそのせめぎあいを乗り越えて残っちゃったものがあるんですか?

(町山智浩)残っちゃったものがあって。成田凌のそのへんがちょこっと残っているんですよ。自然モテが。

(山里亮太)へー! そこは殺していかないと……。

(町山智浩)そう。監督はそれを全部潰そうとするんだけど、成田凌の自然なモテが出てくるっていうので。そのモテ対非モテのせめぎあいが、まるでゴジラVSキングギドラのような……。

(山里亮太)なるほど……監督ぅ~! 監督、頑張れ!

(町山智浩)面白いですよ。たとえば、監督がこういうことをやるんですよ。「道を歩いている時、絶対に君は車道側を歩いちゃダメだよ。彼女を車道側に行かせなさい」って。わかるでしょう?

(赤江珠緒)うん。やっぱり、そうですね。女性を守る感じで……。

(町山智浩)そう。女の子が危なくないように男の方が車道側に立つとかね。「それは絶対にやっちゃダメだよ。この主人公の田中マモルはそういうことができない男なんだから。それをやってしまうと『成田凌』になっちゃうからダメだよ」って言ったりとか。あとは、いろんなことがありましたよ。荷物があったらすぐにその荷物を持つとか。ドアを先に開けてあげるとか、そういうモテる男が自然にやりがちなことっていうのを全部封印したんですって。

(赤江珠緒)はー!

(山里亮太)成田さんも大変だったろうね。

(町山智浩)そう。自然にモテが出ちゃうから。モテる男っていうのは考えないでそういうのが出る。

(赤江珠緒)無意識に。

(山里亮太)細胞がモテる行動をさせる? かぁーーっ!

(町山智浩)そう!

(赤江珠緒)フフフ、ちょっと待って! この2人、いま……(笑)。

(町山智浩)そこまで刻み込まなきゃダメ。

(山里亮太)なるほどなー!

(赤江珠緒)この意気投合している2人(笑)。……2人は出ないんかい? そういうの、自然に。

(町山智浩)えっ? だから「非モテアドバイザー」として参加してもいいですけども。

(山里亮太)そう! お菓子、食べるか?

(赤江珠緒)いま、いらないわよ! しゃべる時に!(笑)。

超都合のいい女・テルコ

(町山智浩)で、またこのテルコちゃんは超都合のいい女なんですけども。ただ、この話ってもうとにかく徹底的にそういった変な恋愛をつきつめていく物語になっていくんですけど。じゃあ、なんで俺がね、この映画ですごくジンと来たのかっていうと、さっき言ったみたいに恋愛を超えていくところがこの映画にはあるんですよ。恋愛そのものを超えていくところがあるんです。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、これはタイトルが『愛がなんだ』っていうタイトルなんですけども、これはセリフの中で彼女がそういうことを叫ぶんですよ。で、それはもう1人の男の子がいて。ナカハラくんっていう男の子なんですよ。やっぱり報われないのにある女性に愛を捧げ続けている男の子が出てくるんですけども。その子が、とうとう「もう疲れた。いくら愛しても彼女は僕の方を振り向いてくれないから、もうこれ以上は耐えられません。もうやめます」って言うんですよ。そうすると、このテルちゃんはキレるんですよ。「なんだ、おめえ? 見返りを求めているのかよ?」って言うんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)「でも、愛されないから」「愛がなんだってんだよ?」っていう風に彼女、テルちゃんが言うんですよ。

(赤江珠緒)急にかっこいい! テルちゃんが。いままで全部翻弄されていたのに。

(町山智浩)そうなんですよ。「恋とか、なんだってんだよ?」って言うんですよ。でも、すごく変じゃないですか。で、途中でこういうセリフも出てくるんですよ。これ、原作にもあるんですけども。でもよく考えるとこの成田凌が演じる男はね、好きになる要素がまるでない。なにひとつない。だからそこを成立させるためには、成田くんをちょっと特徴のない男にすれば、それが成立しちゃうんですけども。でもみんな、「顔があるじゃん」っていう風に思っちゃうんだけど、それはしょうがないですよ。成田凌をキャスティングした問題なんですよね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)でも、実際にはないと思って見なければならないんですよ。たぶんこの成田凌がきれいに見えるのは、「テルちゃんの目から見ると成田凌に見えている」っていうことなんですよ。

(赤江珠緒)なるほどね。

(町山智浩)でもたぶん、実際には成田凌じゃないんですよ。客観的な目があったら。

(赤江珠緒)恋のフィルターがかかって成田凌さんに見えているっていう。

(町山智浩)たぶん、そういうことなんだと思います。でも、そうすると客観的に考えると、この男はいいところがひとつもない。

(赤江珠緒)才能もない?

(町山智浩)才能もない。性格も悪い。顔も悪い。なにもないんだっていう。それでちゃんと原作には「なんとアホな甘えた男だろう」とまでテルちゃんが言うんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)それで、こう言うんですよ。「これは愛じゃない。恋でもない。でも私は彼にこだわり続けている。この執着はいったいなんだろう?」って問いかけるんですよ。もうすでに、愛ではないんですよ。これは、なんだと思いますか?

(赤江珠緒)なんだろう、それ? それは、すごいな。

(山里亮太)その誰かを追いかけている自分が結局、その自分のことを好いている状態だ、みたいな?

町山智浩のラストの解釈

(町山智浩)あのね、ここから先は監督が答えを出していないんですよ。で、この原作はそうやって問いかけているところで終わってしまっているんですけども、監督はその後に原作にないシーンをひとつ、入れています。それに関しては解釈はいくらでもあるんですよ。だからみんなが解釈すればいいので。僕が解釈したのは――これは監督の意図ではないですけども――僕自身の解釈はまさに、山ちゃんが言ったことなんですよ。

(山里亮太)えっ、あたし、一緒だった?

(赤江珠緒)執着している自分?

(町山智浩)執着している自分。愛している自分。そのためにすべてを捧げて生きている自分が……「生きてる」感があるんですよ。というのは、この原作者の角田光代さんの前の作品で『紙の月』ってあったじゃないですか。

(赤江珠緒)うんうん。宮沢りえさんで映画化された。

(町山智浩)あれは何もなかった、つまらない人生を送ってきた銀行員の宮沢りえさんがチャラい男のためにすべてを貢いでいって、犯罪までおかしてしまう。それで、見れば見るほど……あれも池松壮亮くんだったから、すごく見た目がいいからわかるんだけど。あれもだから原作では空っぽな男なんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だから、相手はなんでもいいんです。それこそ穴でもいいんですよ。お金を入れられれば。

(赤江珠緒)そうかー!

『紙の月』

紙の月 DVD スタンダード・エディション
ポニーキャニオン (2015-05-20)
売り上げランキング: 65,937

(町山智浩)だから『紙の月』っていうタイトルはそういうことなんですよ。ペラッペラの紙の月なんですよ。中身のなにもない。でも、そこになにもかもを捧げていくことによってはじめて主人公は「私は生きている!」っていう感覚をつかめたんですよ。何もなかった人生に。で、この話のテルちゃんっていうのも、これは監督に聞いたんですけども、全く趣味のない女性として描いていて。部屋は空っぽなんですよ。その彼女がはじめて入れ込める対象を見つけたんです。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、こう言うんですよ。「彼を好きになってはじめて私の世界はきれいに2つに分けて見えるようになった。それは好きなものとどうでもいいものの2つに分かれて見えるようになった」っていう風に言うんですよ。で、結局世界ってさ、なにがいい/悪い、どれを捨てる/捨てないっていうのはわからないじゃないですか。全てがごちゃごちゃにあって。これを全部受け入れることは不可能なんですよ。

だからなにか、コンパスが必要なんですよ。なにがよくて、なにが悪いか。そうしないと生きられないですよ。でも、それをなにかが好きになるとサッと世界が2つに分かれて見える。「私はこれが好き。ということは、これは私は嫌いなんだ」「私はこれが好きだから、これは私にとって関係ないんだ」っていうことが明確に見えてくるんですよ。なにかを好きになると。

(赤江珠緒)ああーっ! もう好きなものが北極星みたいに。そこをちゃんと軸にして。

(町山智浩)そう! なにもない大海原で目指すべき星が見えるんですよ。だから、それは捨てられないんですよ。

(赤江珠緒)はー! そういうことか。

(町山智浩)どうして生きていいのか、わからなくなっちゃうんですよ。空っぽなもの。ただの星ですよ。永遠に届かない。星っていうのは見えるけど、届かないもの。でもそれがあることによって、よくわからない、どこに行ったらいいのかわからない大海原を航海することができる。生きることができる。もし星がなければ、どこに行ったらいいのかもわからないんですよ。でも、その星は星でしかなくて、幻なんですよ。

(赤江珠緒)そうか。だから他の人から見たら、その恋とかも「なんで?」っていうことでも。

(町山智浩)周りからは「なんで?」って言われているんですよ。だから『紙の月』なんですよ。そうするとこれは「好き」っていうのは恋愛と関係ないんですよね。趣味でもいいんですよ。人によってはそれがAKBだったりアニメだったりゴジラだったり鉄道だったりK-POPだったりするけど、でもそれを掴んだ時に本当に「あっ、俺、生きてる!」っていう気持ちになるでしょう?

(赤江珠緒)それはなりますね。それはそうだ。

(町山智浩)「あっ、目の前にやりたいことがある!」っていう。そこなんだと思いますよ。そう考えると、恋愛とか趣味とかは関係なしに、なにかを好きになるということはものすごいことなんだなって思うんですよ。

(赤江珠緒)そうなんですね。好きになる前となった後では、全く違うものになるっていうことですよね。

(町山智浩)そう。世界の見え方が違うんですよ。だから宗教と近いんですよね。宗教に目覚めると急に世界が見えてくるっていうのと本当に近いんですよ。というところまで、僕は勝手に考えたんですよ。

(山里亮太)ああ、監督は投げかけているんですね。

(町山智浩)監督が投げかけているんで、キャッチボール。ボールを投げたよっていう。で、そのボールが投げられた作品っていうのはいい作品なんですよね。

(赤江珠緒)だからこの映画を見た方はみんななんかね、見た人と語り合いたくなるっていう。すごく。

(町山智浩)そうなんですよ。「私はこういうボールをキャッチしたよ」「私はこういうボールを」って、みんなそれは違うんですよ。

(赤江珠緒)で、「私は見ていない」って言っているのに、見たスタッフはガンガン語りかけてきたりして(笑)。

(山里亮太)またね、非モテ代表みたいなミフネくんが(笑)。

『桐島、部活やめるってよ』

(町山智浩)だからね、『桐島、部活やめるってよ』もそういう話でしたね。あれもだから東出くんがスポーツ万能、成績優秀、顔もいい、背も高いモテモテで女の子をよりどりみどり。セックスもしている。でも、なんか虚しいんですよ。なんでこんなに虚しいのか、わからない。で、そこに映画オタクの神木隆之介くんが現れる。ゾンビ映画を撮って、映画秘宝を読んで、もう嬉しくてしょうがないみたいな。そこに東出くんが「なんでそんなことやっているの? それでお金持ちになりたいとか、モテたいとかあるの?」って聞いたら、神木くんが「えっ? 映画、好きだから」って言うと東出くんが「負けた!」っていう顔でもう泣きそうになるんですよ。

(赤江珠緒)そうかー!

(町山智浩)「好きっていうやつか! これが好きっていう力か!」っていう。

(赤江珠緒)そういうことだ! 人生のポーラースターを見つけている人なんだってことだ。

桐島、部活やめるってよ(DVD2枚組)
バップ (2013-02-15)
売り上げランキング: 45,955

(山里亮太)いやー、これは外の学生の子たち、最終的にいい話、聞いたでしょう? 最初はどうかと思ったけど。見てくださいよ、キラキラした目になっていますよ。町山さん、よかった!

(町山智浩)それが見つかった時、本当に人生は目の前に道がブワーッと開けていく感じでね。僕はそういう風に見えたんですよ。いちばんのラストシーンが。でも、そうではないかもしれない。それが間違った道かもしれない。そうすると、これは恋愛とは違って終わりがないから。彼女自身の生き方っていうことでアイデンティティーとしてこれをやっちゃっているから。間違った宗教を信じちゃうと、そうですよね? そうすると、それは底なし沼ですよ。間違った宗教を信じてそうなっている人、いっぱいいますよね。あとは間違った男を好きになっちゃって、どんどん堕ちていく人もいる。間違った趣味をしちゃう人もいる。だからそれはわからないんだけども。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だからそれはわからないんだけども。それは人それぞれだと思うんですよ。ただ、最後に出てくるシーンっていうのは監督がパッと思いついたところっていうのは、いい風に解釈をすると僕は彼女自身がこのくだらない恋愛を通して自分自身にたどり着く道を見つけたのかなって。で、なにかを好きになるっていうことはその中に自分が求めている自分自身がないと好きにならないんですよ。なにかを好きになるということは、たぶんその中に自分のなりたい自分がどこかにあるんですよ。

(赤江珠緒)そうか。

(町山智浩)で、それがなんだろう?っていうことになると、「ああ、俺が(私が)行くべきところはここなんだ」っていうことがわかってくるんですよ。

(赤江珠緒)じゃあ、好きも突き詰めなきゃいけないんですね。

(町山智浩)突き詰めた方がいいと思います。「なんでこれが好きなんだろう」って。で、その彼・マモルくん、いいところがひとつもないんですね。成田凌、ひとつもいいところがねえんだ(笑)。

(赤江珠緒)フフフ、いや、「成田凌くんの役」だからね(笑)。

(町山智浩)ただ映画の中で1ヶ所だけ、「こいつ、いいやつかも?」って思わせる瞬間があって。それをラストで拾うんですよ。という映画が……。

(赤江珠緒)へー! これはたしかに見たくなるな。

(山里亮太)まだ見れるんですよね?

(赤江珠緒)見られる劇場が増えてきているということで。6月5日(木)までのところもあるんですけども。『愛がなんだ』で検索をしてみてください。

(町山智浩)僕は彼がキャッチボールで投げてきたボールを全然関係ないところに投げいるかもしれないですけども。

(山里亮太)その球をどう受けて、どう投げるか。

(町山智浩)そう。みんな違う受け方をすると思います。

(赤江珠緒)どういう風に感じるかっていうのは楽しみですね。はい。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

町山智浩 エルトン・ジョンの歌詞と映画『ロケットマン』を語る

$
0
0

町山智浩さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でエルトン・ジョンの自伝映画『ロケットマン』とエルトン・ジョン楽曲の歌詞について話していました。

(宇多丸)時刻は8時になりました。ここから特集コーナー、ビヨンド・ザ・カルチャー。まずはこちらの曲をお聞きください。エルトン・ジョンの大ヒット曲『ロケットマン』を、とある方が歌っているバージョンです。

(宇多丸)はい。エルトン・ジョンのヒット曲『ロケットマン』をとある人が歌っているバージョンということで。まあ、歌っているのはエルトン・ジョンじゃないんですね?

(町山智浩)エルトン・ジョンじゃないんですけど。すごい上手いし、非常に近いんですけども。これ、歌っているのはなんとあの『キングスマン』の彼、タロン・エガートンくんなんですよ。

(宇多丸)あのヤンチャ坊主が?

(町山智浩)そう。今度のエルトン・ジョンの伝記映画で。日本だと8月23日から公開される『ロケットマン』の主題歌で。これ、この間の『ボヘミアン・ラプソディ』と違って本人……そのエルトン・ジョンを演じてるタロン・エガートンくん本人が全部歌ってます! すごいですよ、これ。これはアカデミー賞行くだろうと思いました。見てきたんですけど。

(宇多丸)いち早く町山さん、ご覧になったということで。今日はそのエルトン・ジョンの伝記映画『ロケットマン』にまつわる、エルトン・ジョンがどんなことを歌ってきたのか?っていう特集を……ちなみにこの『ロケットマン』はどういうことを歌ってる歌なんですか?

(町山智浩)あのね、この『ロケットマン』っていう歌はバラードじゃないですか。で、全然ロケットな感じがしないんで、『ザ・ロック』っていう映画の中ではニコラス・ケイジが「『ロケットマン』っていう歌を知ってるか?」って。それで悪党が「知ってるよ。あのヘナヘナした歌だろ?」って言うシーンがあるんですけど、これは歌詞は実はヘナヘナした歌詞じゃないんですよ。実際には。

(宇多丸)実は。

(町山智浩)これ、『ロケットマン』っていうのは宇宙飛行士のことなんですけど。宇宙飛行士が家を出て……「ロケットの点火時間は午前9時。僕は凧よりも高く飛んでいく。地球がとっても恋しいよ。奥さんがとっても恋しいよ」っていう歌詞なんですけど。いったいこれ、どういう状況なのか?っていうと、これはリフレインのところでこう言うんですよ。「ロケットマンはヒューズが燃え尽きるんだと。いま、ここで孤独に(Rocket man Burning out his fuse up here alone)」っていうのが繰り返されるんですよ。

(宇多丸)はい。

(町山智浩)これ、どういうことかというとロケットから放り出されて、生命維持装置だけついた状態で宇宙空間に放り出されいてる状態です。そういう歌詞なんですよ。

(宇多丸)なんていうか、事故が起きているっていうか?

(町山智浩)事故が起きて、死ぬしかない状態なんですよ。でも、死ねないんですよ。生命維持装置がついてるから。で、地上に着くのはいつになるか、わからないんですよ。「それははるか先のことだろう(I think it’s gonna be a long, long time)」っていう。「もうどのぐらい僕は宇宙空間に浮いてるのかわからないんだよ」っていう、非常に恐ろしい歌なんですよ。実は。

(宇多丸)はー! 本当にSF的というか。

(町山智浩)原作がSF小説です。

(宇多丸)原作がある?

(町山智浩)『ロケットマン』というという小説が原作です。

(宇多丸)それは、誰の小説ですか?

(町山智浩)レイ・ブラッドベリです。SF作家の巨匠ですけども、1950年代に彼が書いた『宇宙船乗組員』とうい短編小説がありまして。それは宇宙船の乗組員の息子さんの立場から書かれているものなんです。「僕のパパが宇宙に行くたびにママはいつも泣いているんだ。いつも2人で言ってるんだけども、もしパパが火星で死んだら、もう僕もママも火星が空に出てる時は外に出ないようにする。もしパパが月で死んだら、月の出ている晩は外に出ないようにする」っていう風に言ってるんですけど……このパパは太陽に落ちて死んじゃうんですよ。

(宇多丸)ああー! じゃあね、太陽を見ないわけにはいかないけども。

(町山智浩)「僕とママはそれからお日様が出てる時は外に行かないことにした」っていう風に終わるんですよ。

(宇多丸)はー! そういう、それにインスパイアされてエルトン・ジョンが?

(町山智浩)エルトン・ジョンが書いたんじゃないんですね。エルトン・ジョンの歌はまあ、ほとんど全部がバーニー・トーピンという作詞者がずっと書いてきたんですよ。最初からずっと。

(宇多丸)ああ、そうなんですか? へー!

(町山智浩)これはコンビなんですよ。彼が作詞をして。先にバーニー・トーピンが作詞をしたものにエルトン・ジョンが曲をつけていくというコンビでずーっとやってきた2人組なんですよ。で、この『ロケットマン』っていう今回の伝記映画は2人の関係を中心に描いていっているんですね。ただ、その『ロケットマン』っていういま流れてる歌でわかるように、エルトン・ジョンというのはロックミュージシャンではあるんですけど、ロックンロールも歌ってるんですが、美しい旋律の耳に聞き心地のいい歌が多いんですが、バーニー・トーピンの書く歌詞は決してそういうものではなくて。意外な内容が歌われているので。

(宇多丸)うんうん。

バーニー・トーピンとのコンビで楽曲を作り続ける

(町山智浩)で、今回はその映画『ロケットマン』についての説明はちょこっとだけしますけども、それよりもエルトン・ジョンのその歌詞と曲の非常にアンバランスさが面白いっていう話をさせてください。たぶん知ってる、気が付いてる人はほとんどいないと思います。

(宇多丸)なるほど。ということで町山さんの音楽解説シリーズ。これ、非常に楽しみにしておりました。今夜はこのようにエルトン・ジョンの歌詞の世界に迫っていきます。題して映画『ロケットマン』公開記念、エルトン・ジョンの歌詞の世界特集 by 町山智浩さん! ということでございます。改めましてラジオでお聞きの方もRadikoでお聞きの方もこんばんは。『アフター6ジャンクション』、パーソナルのライムスター宇多丸です。そして……。

(熊崎風斗)月曜パートナー、TBSアナウンサーの熊崎風斗です。

(宇多丸)ということで、今夜の特集はもうすでに始まっております。世界的な人気歌手エルトン・ジョンの歌詞特集です。

(熊崎風斗)第72回カンヌ国際映画祭で4分間ものスタンディングオベーションを受けました世界的歌手エルトン・ジョンの伝記映画『ロケットマン』が8月23日から日本でも公開されます。それに先駆けまして今夜はエルトン・ジョンはどんなことを歌ってきたのか? その歌詞の世界に迫っていきたいと思います。解説していただくのはもちろんこの方でございます。TBSラジオ『たまむすび』火曜日でもおなじみ評論家の町山智浩さんです。改めましてよろしくお願いします。

(町山智浩)はい、よろしくお願いします。

(宇多丸)町山さん、この番組は今年2月25日のアカデミー賞の時に来ていただきました。後はやっぱり音楽特集がね、町山さんはこの番組だと本当にいっぱいやっていただいて。頭脳警察の特集をやっていただいたり。

町山智浩 頭脳警察・PANTAを語る
町山智浩さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に出演。宇多丸さんと頭脳警察とPANTAさんについて話していました。

(宇多丸)あとは残念ながらこの4月に亡くなってしまいましたスターリンの遠藤ミチロウさんのお話もしていただきました。

町山智浩 ザ・スターリン 遠藤ミチロウを語る
町山智浩さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に出演。ザ・スターリンと遠藤ミチロウさんについて、宇多丸さんと話していました。

(宇多丸)で、今回は映画の公開記念ではあるんだけど、音楽企画ということで。エルトン・ジョンの話です。ちなみにその映画の方の話をチラッとしておきますと、まあアメリカでは大ヒットしてるんですね? 先週末に封切られ、興収ランキング第3位。伝記映画ですよね?

(町山智浩)伝記映画です。ただ、監督は『ボヘミアン・ラプソディ』をブライアン・シンガーから受け継いで完成させたデクスター・フレッチャーとい人なんですよ。で、『ボヘミアン・ラプソディ』みたいな映画なのかなと思ったら、全然違います。あれは普通に演奏する時にその曲がかかるじゃないですか。演奏シーンで。

(宇多丸)はいはい。

(町山智浩)そうじゃなくて、普通にこういう会話をしてるところとかでエルトン・ジョンの歌の歌詞をみんながしゃべって、歌って……歌って踊って群舞してという。

(宇多丸)いわゆる本当のミュージカル?

(町山智浩)完全なミュージカルです。

(宇多丸)へー! ああ、そうなんだ。

(町山智浩)もういっぺんに全員が出てきてダンスをやったりとか。

(宇多丸)ああ、そうなんですね? 全然イメージが……僕、『ボヘミアン・ラプソディ』的なのをイメージしていました。

(町山智浩)違います。

(宇多丸)へー! しかもデクスター・フレッチャーとタロン・エガートンって『イーグル・ジャンプ』っていう、あれのコンビですけど。このタロン・エガートンが歌も歌って?

(町山智浩)歌を歌って踊って、すごいですよ。これはアカデミー賞行くだろうと思います。すごいです。

(宇多丸)へー! でも現実のエルトン・ジョンの人生を踏まえてもいる?

(町山智浩)それはすごくブロードウェイのミュージカルに非常に近い形なんで。現実とはかなり違います。だから曲なんかはその時に書かれていなかった曲をそのライブで歌ったり……要するに時間軸が違ったりするんです。その時にはまだその曲は存在しないのに、このライブで歌っているのはおかしいじゃないかとか、そういうのはもう全部、ぐちゃぐちゃです。それで時間軸も正確な形ではないです。非常に、なんというかポエティック・ライセンスと言われるような、ドラマを作るための脚色をめちゃくちゃやっています。だからそれは細かくファクトチェック、現実の事実関係とのチェックをするとだいぶ違います。

(宇多丸)うんうん。まあ、でもその作りがまずね、ちょっとびっくりの作りだったっていうね。そんなミュージカルだとは。まあ、非常に楽しみなんですけど。しかもその先ほどおっしゃっていた歌詞を書いていたバーニー・トーピンさんという方が結構フィーチャーされてるんですか?

(町山智浩)この人との関係が軸になってるんですよ。というのはですね、このバーニー・トーピンという人は天才的な作詞家です。ロック史に残るような作詞家なんですよ。

(宇多丸)エルトン・ジョンとしか組んでないんですか?

(町山智浩)エルトン・ジョン以外とも組んでます。スターシップの『We Built This City』っていう歌なんかも彼の作詞なんですけども。

(宇多丸)へー!

(町山智浩)ただこの2人のその微妙な関係が2人の作品を作っているんです。はっきり言うとエルトン・ジョンさんはゲイだったんです。で、バーニー・トーピンさんのことを愛していたんです。で、2人は一緒に暮らしたり、もう無二の親友なんですけれども、バーニー・トーピンは女好きなんです。永遠に報われない愛なんですよ、それは。でも、バーニー・トーピンはそのエルトン・ジョンの苦しみを歌詞にするんですよ。

(宇多丸)ええっ? わかっていて?

(町山智浩)すごい関係性なんですよ。これはすごいことなんですよね。

(宇多丸)すごい、まあ悲しい関係であると同時にちょっと怖いっていうか。

(町山智浩)怖いんですよ。だから普通だとちょっと考えられないような関係性で作られてきた、もうギリギリの芸術なんですよね。2人の歌っていうのは。で、どのくらいバーニー・トーピンの歌詞とエルトン・ジョンの曲っていうのはすごいかっていうと、それがすごくよくわかる歌があるんで、それをまずちょっと聞いていただきましょう。

(宇多丸)それではお知らせの後、エルトン・ジョンがなにを歌ってきたのか、町山さんに解説していただきます。

(CM明け)

(町山智浩)それでは、このバーニー・トーピンという作詞者の才能がよくわかる歌なんですけども。『Daniel』をお願いします。

Elton John『Daniel』

(宇多丸)はい。『Daniel』という曲を聞いていただいております。まあ、曲自体はすごいね、カーペンターズ調と言いましょうか。心地いい感じのね、ピクニックでも行こうかな、なんていうような。

(町山智浩)ところが、この歌詞をよく聞くと、こういう歌詞なんですね。「ダニエルは僕の兄弟。君は年上さ。まだ痛むのかな? 君の頭の傷は」って言っているんですよ。「心の傷」じゃなくて「頭の傷」なんですよ。で、「君の目はもう死んでしまっているけど、僕よりももっと多くのものを見ているんだね」って。

(宇多丸)「君の目は死んでしまっている」? なんだ? 心の傷を負ってしまっているということですよね?

(町山智浩)これはバーニー・トーピン自身が説明をしてるんですよ。これ、ベトナム戦争で脳に傷を受けた兵士を兄に持った弟の歌なんですって。

宇多丸;えええーっ!? なんか「ダニエルが飛行機で……」とかいろいろと言ってますけど。その、なんかそういうこう、そんな悲しい話っていうか?

(町山智浩)悲しい話なんですよ。これはだからダニエルがもう脳にものすごい損傷を受けてて、目がうつろなんです。何も考えられない状態になってるんですよ。まあ、なんていうか植物人間に近い形なんだろうと思うんですけども。それをその弟は悲しんでいるというシチュエーションなんだっていう風に作詞者のバーニー・トーピンは説明してるんですよね。

(宇多丸)こんなきれいなほんわかしたメロディーに乗せて? 想像もつかない。あと、歌詞の文字面上だけを読んでも、やっぱりいま町山さんがおっしゃったように、たとえばバーニー・トーピンのおっしゃっていることとか、行間をちゃんと考えたりしないと。ちょっとパッと聞きは英語はわかってもすぐには理解ができない感じですよね?

(町山智浩)そうなんですよ。だからこの世界はすごいんで、まあ天才的なそのバーニー・トーピンという作詞家とエルトン・ジョンは偶然に出会って。で、すごいコンビができあがったということなんですね。で、エルトン・ジョンはね、天才だったんですよ。王立音楽院でピアノを子供の頃からやっていた天才で。しかもクラシックも1回聞いたけで全部その場でコピーするような人なんですけども。ただ、詞が書けなかったんです。

(宇多丸)へー!

(町山智浩)詞が書けなかった理由というのは実はあるんですけれども。それは彼自身がイギリスではその頃、ゲイというものが法律で禁じられていて。刑罰を受ける状態だったから親にも言えなくて。誰にも打ち明けられなかった。だから自分の心を歌うことがすごく難しかったんですよ。

(宇多丸)なるほどね。本当の気持ちを歌えない時代だったんだ。それも悲しい……ひどい時代だ。

(町山智浩)そうなんですよ。悲しいんですよ。エルトン・ジョンという人はなにで有名だったかっていうと、ものすごい派手な衣装で有名だったんですよ。なんであんな派手な衣装を着なきゃいけないのか?

(宇多丸)やっぱりその心の鎧じゃないけども……。

(町山智浩)自分を隠すためです。僕は昔、ブーツィー・コリンズっていうPファンクの。あの人がすっごい派手な格好で、いつも「イエーイ!」っていう感じで。ベースの音もすごくて。あの人もそういう人だったですよね。寂しさっていうもの、孤独っていうものを逆にああいう派手な衣装でしか……まあ、あれは鎧みたいなもんなんですよね。

(町山智浩)で、エルトンさんはそういう人だったから。ただ、歌詞を書くってなると自分の魂をさらけ出すことがどうしてもできなくて。その時にバーニー・トーピンという自分よりも3歳若い……その頃まだ17歳の若者と会って。それで彼の歌詞を歌にしていくということで成功していくんですけども。で、最初に今回の『ロケットマン』という映画の中でも出てくるのが、最初のヒット曲が1970年の『僕の歌は君の歌(原題:Your Song)』という歌なんですね。で、これはバーニー・トーピン少年がその当時ハタチのエルトン・ジョンに初めて書いた曲なんですよ。

(宇多丸)どんな内容なんですか?

(町山智浩)これ、まあちょっと曲を聞いていただいてから。『僕の歌は君の歌』、お願いします。

Elton John『僕の歌は君の歌』

(宇多丸)はい。『Your Song』っていうタイトルでご存知の方も多いと思いますが。『僕の歌は君の歌』。もう曲自体はみなさん、誰でも聞いたことはある……。

(町山智浩)誰でも聞いたことがある。日本で映画にもなってるぐらいですからね。で、これはバーニー・トーピンが初めて、そのエルトン・ジョンの前で書いて。朝ご飯食べながら。オリジナルの歌詞にはコーヒーのシミがついてるらしいんですよ。で、「これ、書いたんだけど……」って。

(宇多丸)本当にさっとその場で……この歌詞の中でもね、「いま書いた歌でシンプルな歌だけど」って言ってるけど、本当にその通りなんだ!


山里亮太 町山智浩に結婚を報告する

$
0
0

山里亮太さんが結婚発表後、最初のTBSラジオ『たまむすび』出演の際に町山智浩さんに蒼井優さんとの結婚を報告していました。

(町山智浩)ということでね、山ちゃん……。

(山里亮太)はいはい?

(赤江珠緒)アメリカの「いま」は知っている町山さんですがね、山ちゃんの「いま」は知らなかったということで。

(山里亮太)町山さん?

(町山智浩)山ちゃん……ねえ。先週さ、『愛がなんだ』っていう映画について話した後にいつも撮る写真を撮ろうとしたら、赤江さんがなぜか俺と山ちゃんと一緒に並ぼうとしなかったのよね。

町山智浩『愛がなんだ』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で今泉力哉監督の映画『愛がなんだ』を紹介していました。

(山里亮太)そうなんですよ。ひどかったですよね、町山さん。あの時。

(町山智浩)ねえ。で、「なんで?」って聞いたら「いや、私はモテない側じゃないから……」ってあの場で赤江さんに言われたんだけども。

(山里亮太)そうですよ。

(赤江珠緒)「非モテグループで撮るのはね……」みたいなね。

この投稿をInstagramで見る

映画「愛がなんだ」を熱弁したマッチー🔥最後にスリーショットを撮ろうとしてワチャワチャしている写真をどうぞ! 町山「赤江さんも一緒に撮ろう」 珠緒「えーーー」 町山「なんだ!俺たち非モテとは撮れないってことか」 山里「ちょっとぉ」 珠緒「ギャハハハ」 仲良し😎火曜トリオでした。気を付けてアメリカに戻ってくださいね! #tama954 #たまむすび #赤江珠緒 #山里亮太 #町山智浩 #映画評論家 #愛がなんだ #非モテの気持ちがわかるマッチー #山ちゃんも共感 #はしゃぐ大人たち #おもしろTシャツ #tbsラジオ #生活は躍る #ジェーンスー #bohemianrhapsody #DVD

TBSラジオ「たまむすび」さん(@tamamusubi905954)がシェアした投稿 –

(町山智浩)そう。「その中に入るとモテないのと一緒にされちゃうから嫌だ」って言う方もどうかしてるけども!

(赤江珠緒)アハハハハハハッ!

(山里亮太)そうですよね。そうだ、町山さん。赤江さんが悪いんだ、この話は!

(町山智浩)どうかしてるけど、その横にいた山ちゃんはその時、「本当は俺もそっち側だから……」っていう風に思っていたでしょう?

(赤江珠緒)そういうことですね。

(山里亮太)いや、町山さん、違うのよ! そんな感じじゃない。違いますよ!

(赤江珠緒)そういうことになるんですよ、町山さん。

(町山智浩)「謀ったな!」っていうね、もう信長の気持ちだよ、本当に(笑)。

(山里・赤江)フハハハハハハッ!

(山里亮太)違うんです、町山さん! もう成り立ちがよく自分でも……自分がフワフワした位置にいたもんで。

(町山智浩)ああ、まだ慣れていなかった?

(山里亮太)慣れていない。慣れていないし、結果卒業もできていなかった。全然。

(町山智浩)まだ気分としては成田凌側に入っていなかった?

(山里亮太)入っていなかったですね。成田凌側には、全然。

映画『ロング・ショット』解説時の一言

(町山智浩)でもさ、その前にさ、『ロング・ショット』っていう映画の紹介をしていたんですよ。それはね、シャーリーズ・セロン扮するアメリカの国務長官でモデル並みの容姿で。頭も良くて……っていうスーパーレディーとずんぐりむっくりであんまりイケていないライターのセス・ローゲン。でも、意外とそういう女性ほど寂しくて、そういう心の温かい男に惹かれたりするから、この格差は結構いけるかもね!っていう話をした時、山ちゃんはあの時にこう言ったの。「これは勉強になりますね!」って。

(山里・赤江)フハハハハハハッ!

(町山智浩)マジだったの!?

(山里亮太)アハハハハハハッ!

(町山智浩)単なる受け答えじゃなかったの?

(山里亮太)いや、町山さん、本当にそれでしたね(笑)。

(町山智浩)本当にもう……。

(山里亮太)心の声が出ちゃっていたんですよ。あの時に。

(赤江珠緒)心からの声でしたよ。

(町山智浩)ねえ。「これは本当に勉強になるな!」みたいな。

(山里亮太)町山さん、「これは絶対に見なきゃ!」って思ったんですよ。

(町山智浩)もう本当にね。

(山里亮太)これからも映画から学びます!

(町山智浩)なに言ってんだよ、もう(笑)。騙されたよ……(笑)。

(山里亮太)いや、騙していないです、町山さん!

(赤江珠緒)町山さんはもうアメリカに戻られた時にこのニュースを知ったわけですか?

(町山智浩)いや、番組に出てその夜っていうか、早朝ですよ。で、さっそく山ちゃんにTwitterで「けっ」って返したら山ちゃんが最初に反応して。それがたぶんね、表側に出た山ちゃんの……。

(山里亮太)最初のコメントです。

(町山智浩)そう。最初のコメントになったんですね。

(山里亮太)オフィシャルの最初のコメントが、町山さんがツバを吐いたのを止めに行くっていう。「町山さん!」って止めに行ったのが僕のオフィシャルの最初の一言です(笑)。

(赤江珠緒)アハハハハハハッ!

(町山智浩)それまでね、みんな「フェイクニュースだ」とか「誤報だ」って言っていたんですよ。みんな信じなかったの。信じたら精神が崩壊する人たちがいっぱいいるからね。

(赤江珠緒)アハハハハハハッ!

(山里亮太)だって町山さん、あの時にトレンドワードみたいなのに僕の名前が出て。1位が僕の名前で、2位が相手の方の名前で。3位がエイプリルフールっていうのが入ったんですよ。「こんなのはエイプリルフールだ」って。

(町山智浩)あれ、なんで山ちゃんの名前でトップに入ったか……あれ、世界ランキングでトップに入ったんですよね?

(山里亮太)そうなんですよ。

(町山智浩)なんでだと思う?

(山里亮太)僕、ひょっとしたらNetflixやっているからかな?って思いながら……。

(町山智浩)それもあるけど、やっぱりほら、奥さんがアジア全体でものすごい有名だから。

(山里亮太)はー! そうか!

(赤江珠緒)そうかそうか!

蒼井優さんのアジア全体での人気

(町山智浩)中国、韓国、もうアジア全般で大女優だから。何億人ですよ。何十億人ですよ。

(山里亮太)町山さん、だとしたら、すいません。僕の直前の予想がすごい天狗だった……。

(赤江珠緒)本当だよ(笑)。

(山里亮太)「Netflixでみんなに知られている」って思ったら……ああ、すごい人の旦那だったっていう。

(町山智浩)まあ、それもあるけども、やっぱり何十億人に知られている映画スターのこの相手の山里って誰だ?っていうことですよ。

(山里亮太)ああ、そうなんだ。すげえな、あの人!

(赤江珠緒)山ちゃんが思っている以上だね。

(町山智浩)中国の何億もの民が「なんだ、こいつ?」って思って調べたっていう。「なんだ、この野郎?」とか(笑)。

(山里亮太)フハハハハハハッ! それで出てきたら「こいつ?」ってなって。

(町山智浩)そう。「ええっ?」みたいな(笑)。

(山里亮太)はー、それでなんだ。なるほどなー!

(町山智浩)そうじゃなきゃ、あんな検索の世界ランキングで上がらないよ。トップに。

(山里亮太)いや、僕もびっくりしたんですよ。

(赤江珠緒)世界ランキングってそういうことですもんね。

(山里亮太)そうそう。「Netflixってすげえな」って思っていた。

(赤江珠緒)よかった。町山さんに解説してもらって。

(町山智浩)山ちゃんいま、中国に行ってコメディーのツアーとかやったら、すごいよ。もう5万人とかの会場がいっぱいになると思うよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)「誰だ、こいつ?」って、みんな……(笑)。

(山里亮太)「あの蒼井優の旦那だ!」って。

(町山智浩)いまチャンスかもしれないですけどね。

(山里亮太)しゃべれる言葉、1個しかないけども。

(赤江珠緒)中国語、1個だけしゃべれるんですよ。山ちゃん。

(町山智浩)いやー、でもこれからどんどんネタがね、積み上がっていくと思いますよ。

(山里亮太)がんばります。まずなによりも『ロング・ショット』を見て、1回立ち振舞いを勉強します!

(町山智浩)結局は自由でいいっていう話でしたよ。無理に合わせても辛いだけだから……っていうね。そこがいいんだからっていう。「あなたのそのままがいいのよ」っていうことでしたね。

(赤江珠緒)本当に勉強になる映画だったね、山ちゃんね(笑)。

(山里亮太)そうですね(笑)。ちゃんと気づいている町山さんっていうすごさね(笑)。

(町山智浩)で、映画の話をしなきゃいけないんですけども……(笑)。

(山里亮太)ああ、はい。お願いします。すいません!(笑)。

<書き起こしおわり>

町山智浩 Netflix『いつかはマイ・ベイビー』を語る

$
0
0

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でNetflixで配信中のロマンチック・コメディー『いつかはマイ・ベイビー』を紹介していました。

(町山智浩)今日はね、Netflixでもう配信されている映画で『いつかはマイ・ベイビー(Always Be My Maybe)』というタイトルのロマンチック・コメディーですね。これ、もう日本語で配信されていてNetflixで見れるんですけども。で、これはマライア・キャリーのヒット曲が全編でかかっていて。この曲(『Always Be My Baby』)が主題歌なんですけども。

(町山智浩)これね、ヒロインがスーパーセレブシェフなんですよ。

(山里亮太)セレブシェフ?

(町山智浩)アメリカはいまね、レストランのシェフが本当に映画スター以上の人気になっているんですよ。いま、アメリカってレストランブームがすごくて。まあ景気がいいからなんですけども。サンフランシスコとかロサンゼルスとかに超高級レストランがあって。一通り食べると10万円とか行っちゃうようなレストランがもう大流行。とんでもないバカげたものを……たとえば餃子とかを一皿に4つぐらいしか乗っていないのを1000円とか2000円とかで出しているんですよ。

(赤江珠緒)おおーっ!

(町山智浩)そこで大スターになっているスターシェフのサシャっていう女性が主人公ですね。で、彼女は中国系ベトナム人でサンフランシスコで育って。子供の頃は鍵っ子だったんで、お母さんがいなかったんで自分でご飯を作っていて。で、隣に住んでいた韓国系の家族がかわいそうだからってご飯を食べさせてあげていて。で、ご飯の作り方とかを習っているうちにシェフになったっていう話なんですよ。で、その韓国系の家の男の子が同い年のマーカスっていう男の子なんですけども。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)で、この2人はね、処女と童貞で18ぐらいの時にエッチをしようとして車の中でカー○○をしようとして。両方ともはじめてなんでうまくいかなくて、すごく惨憺たる結果に終わって。で、それから会えなくなっていたんですよ。

(山里亮太)なるほど。

(町山智浩)で、16年後に彼女はもう億万長者になっていて。サンフランシスコに新しいレストランをオープンするっていうことで帰ってくると、そのマーカスくんと16年ぶりに再会をするんですね。そうするとマーカスくんの方は別れた時と同じ部屋に住んで、カー○○に失敗した時と同じおんぼろのカローラにまだ乗っていて。で、高校時代と同じバンドをいまもやっていて、全く収入はロクにないっていう状態なんですね。

(赤江珠緒)あら!

(町山智浩)ところが、この2人が出会って、もともと初恋の人同士だからどうなるのか?っていうロマンチックコメディーなんですよ。でね、こう聞くとロマンチックな話に聞こえるんですけど……そんなに聞こえないか?(笑)。

(赤江珠緒)どうかなりそうな2人には聞こえないんだけども。もはや。

(山里亮太)それがでも、そうなっていくっていうのはいいパターンだと……。

(町山智浩)そうなんですけども、この2人はコメディアンなんですよ。この演じている2人はコメディアンで、特にその女性の方がアリ・ウォンっていうアメリカでいま最も人気の女性コメディアンなんですよ。現在37歳で。それで彼女自身がサンフランシスコで育ったベトナム系・中国系のアメリカ人なので、もうほとんど彼女の話を元にしているんですね。基本的には。で、この彼女のスタンダップコメディはいま、Netflixで日本語のやつが見れるんですけども、内容はものすごいですよ。

(山里亮太)えっ?

(町山智浩)あのね、まず妊娠8ヶ月で1人で舞台で転げ回ってやるんですよ。

(山里亮太)おおう……。

(町山智浩)そっちに写真があるかな?

(赤江珠緒)ありますね。ああ、お腹がパンパンの……。

(山里亮太)もう直前っていう感じの。

(町山智浩)そう。8ヶ月、7ヶ月半ぐらいなんですよ。で、『アリ・ウォンのオメデタ人生?!』っていうコメディーショーをやって、これが内容が全部下ネタなんですよ(笑)。

(赤江珠緒)下ネタなの? えっ、この状態で?

アリ・ウォンのショーは下ネタだらけ

(町山智浩)お腹パンパンで下ネタをやるんですよ。で、またね、言うことがすごくて。もう本当に、女性の側から世の中のいろんな矛盾とかを徹底的に攻撃していくんですね。たとえばね、こう言うんですよ。「私、フェミニズムって大嫌いなの!」って言うんですよ。「なんで?」「実は女性が男性以上に仕事の能力があるとか、本当のことをバラすなよ! だってバカのふりをしてサボれなくなったじゃん!」って言うんですよ。

(赤江珠緒)ああ、なるほど。

(町山智浩)あとね、「旦那が赤ちゃんのおむつを変えるとすぐに『イクメンね』とか『いい旦那さんね』って言われるでしょう? でもそれ、ハードル低すぎるだろ? 女はおむつを100回変えたって『いい奥さんね』って言われないよ!」っていう。

(赤江珠緒)ああー、そうね!

(町山智浩)「男はちょっと変えてるところを見せるで『いい旦那さんね、イクメンね!』とか言われて。おかしいだろ?」って。そういうのをずっとやっている人なんですよ。

(山里亮太)ああ、たぶんいま、町山さん言えるやつを選んだんでしょうね。

(町山智浩)言えないやつもありますよ。

(山里亮太)言えないやつはダメなんです!

(町山智浩)あのね、この人は旦那さんがハーバードの大学院でMBAを取っていて。韓国系日本人とフィリピン人のハーフの人なんですけども。で、なんでそんな人と結婚をしたか?っていうと、「そりゃあハーバードでMBAを取っていたら、食いっぱぐれがないから結婚をしたのよ!」って言うんですよ。ところがアメリカって学費がものすごく高いから、そのハーバードを出るとその旦那さんには借金が1000万ぐらいあるんですよ。

(山里亮太)ああ、変換しなきゃいけない奨学金とか。

(町山智浩)そう。だから「私の方がお金があるし、家を買う時も私が出したわ!」とか言うんですよ。で、「弁護士とかを通して契約して、うちは離婚をしても旦那には財産は行かないようになっているからね!」とか言っているんですよ。

(赤江珠緒)非常にリアルな笑いですね(笑)。

(町山智浩)そう。すごいなんかね、「本当なの?」っていう感じの話をするんですけども。「でもね、離婚はしないわよ。もったいないわ。せっかく上手にクンニができるようになるまで仕込んだんだから!」って言うんですよ。

(赤江珠緒)なるほど(笑)。

(町山智浩)「これから新しい男を見つけてまた1から教えなきゃいけないのかしらね?」とか言うんですよ。

(山里亮太)ええとね、この時間帯には滅多に聞けない単語が……。

(赤江珠緒)ああ、そうですね。うん……。

(町山智浩)だから、國村隼さんと結婚すればいいと思うんですね。

(山里亮太)なにを言っているんですか! 「くに」です。「くにむら」です!

(町山智浩)ああ、違うか? そういうギャグをずーっとやっている人で、ほとんどテレビで放送ができないんですけども。

(赤江珠緒)そのアリ・ウォンさんという人がヒロイン役をやっているのね?

(町山智浩)そう。アリ・ウォンっていう人は見た目は完全に教育ママみたいな感じのメガネをかけているんですけども、ネタは全部下ネタっていうとんでもない人なんですけどね。

(山里亮太)ちなみに町山さんがさっきチラッと言ったのがもうかなりライトな方っていうことですね?

(町山智浩)かなりライトですよ(笑)。

(赤江珠緒)選んだ上で、なのね。へー!(笑)。

(町山智浩)だってもう、汚い話とかも多くて。ひどいですから。「女の人もオナラする」とか、そんな話ばっかりをしているんですよ。「職場のトイレって嫌よね。オナラをして大きい方を済ませた後、ドアを開けると自分の部下とか友達がいる時があって、嫌よね」っていう話とか、そういう話をずっとしている人なんで。それで、お腹大きいんですよ。すごいんですけどね。

(赤江珠緒)で、幼馴染との恋はどうなった?(笑)。

(町山智浩)幼馴染との恋の方はね、彼女の方はレストランのシェフとして大成功していくんですけど、それがやっぱりちょっとよくないものなんですよ。あのね、さっきも言ったんですけど本当にアジア人の料理ってベトナム料理だったり中華料理だったり韓国料理だったり日本料理だったりしたものって、本来は庶民の味だったものなんですよね。ラーメンとか、そうですよね。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)ところが、アメリカはそれを高級料理にしちゃっているんですよ。で、がっつり儲けているんですよ。これ、僕はいつも言っているんですけども、ロサンゼルスとかでラーメンを食べると、本当に2000円とかするんですよ。チップも入れてね。おかしいでしょう? それ。すっごい高級なんですよ、しかもお店が。

(山里亮太)はー!

(町山智浩)で、ソムリエみたいな人がいたりするんですよ(笑)。

(山里亮太)ええーっ!?

(町山智浩)ラーメンだよ? で、そういうところに結構セレブが来て、ラーメンを食べるんですよ。本当のハリウッドのね。キアヌ・リーブスなんかは特に日本のうどんとかラーメン屋によく出没するので有名ですけどもね。あの人、すごい好きなんですよ。和食とか(笑)。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)でも、そういうのってすごく、はっきり言ってインチキなんですよね。だって、本当はそれまでアジア系の料理……ラーメンなんかそうですけども、300円とか400円で売っていたものを高級になったからって2000円で売っているわけですから。まあ、みんなすげえ脱税していると思いますけども(笑)。

(山里亮太)フハハハハハハッ!

(赤江珠緒)いや、そこはわかんないですけども(笑)。

(町山智浩)いや、(小声で)まあ実際、やっているんですよ。

(山里・赤江)フハハハハハハッ!

(町山智浩)だって原材料、いくらだ?っていう話ですよ。だから、俺もやろうと思っていましたけども……。

(赤江珠緒)フフフ、なにを企んでるんだ?っていう(笑)。

(町山智浩)これね、ヒロインのサシャがやっているのってそういう仕事なんですよ。で、そういうアメリカのいまの流行っているレストランビジネスのインチキさを暴いているんですけども、この地道に暮らしている幼馴染のマーカスくんはそれがやっぱり嫌なんですよ。で、彼女がすごいセレブ生活をしているんだけど、なんかこうアジア系であることを利用して人々を騙しているような感じがして、そこもなんとなくね、本当は彼女のことを幼馴染で初恋の人だから好きだし、本当はヨリを戻したいんだけども、どうもこの2人、うまくいかないんですよ。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)でね、ここですごいレストランが出てくるんですよ。すっごい高級なレストランで、ジビエ料理の店なんですね。で、そこではヘッドホンがお客さんに配られるんですよ。そうするとね、こういう風にウェイターが言うんですね。「あなたはこれから命を食します。命を食する恍惚と罪悪感を味わってください」って言って、ヘッドホンからその肉になった動物が生きていた時の鳴き声を聞きながら、その肉を食べるという……。

(赤江珠緒)ええーっ、悪趣味だよー!

(町山智浩)そう。「私は生きているものを食べているんだ!」って感動をしながら食べるという(笑)。まあ、そういうジョークですけども。

(山里亮太)ああ、なるほど。そういう店があるわけじゃないんだ。

(町山智浩)ジョークですけども。まあ、そういうお店が出てくるんですけどね。それで、この2人、マーカスとサシャはうまく行かないんですよ。

(山里亮太)まあ、価値観が全然違っちゃっているもんね。

(町山智浩)で、しかもサシャの方には彼氏ができちゃうんですよ。その彼氏がなんと、キアヌ・リーブスなんですよ。

(山里亮太)フハハハハハハッ! ええっ、急に? ここで急にキアヌ・リーブス?

(町山智浩)ここで急にキアヌ・リーブス、突然出てくるんですよ。この映画。

(山里亮太)本人が本人役で?

(町山智浩)本人がキアヌ・リーブスとして出てくるんですよ(笑)。

彼氏がキアヌ・リーブス

(赤江珠緒)ええーっ? 前、なんでもやるキアヌさんっていうのは町山さんに聞きましたけども。

(町山智浩)なんでもやるんで。それでそのサシャと唾液ダラダラのベロチューをするんですよ。すごいな!っていうね。で、それを見て「ああっ!」って思っている、サシャのことを本当は好きなマーカスくんにね、「君は何をやっているんだい?」って聞くんですよ。「売れないバンドをやっています」って言うとね、「ああ、売れないバンドか。尊敬するなー。決して報われないのにがんばるなんて、よほど情熱があるんだね!」って言うんですよ。キアヌが。あの仏のキアヌが全く悪気なさそうに(笑)。

(山里亮太)フフフ(笑)。

(町山智浩)本当にね、とんでもないコメディーでね。で、いま後ろでかかっている曲は、それでマーカスくんが頭にきて歌う『俺はキアヌにパンチしたぜ(I Punched Keanu Reeves)』っていう歌なんですけども。

(赤江珠緒)ああっ、フフフ(笑)。

(町山智浩)で、まあキアヌのシーンはとんでもないんですけど。ただ、この映画はこの間の『ロング・ショット』もそうだったんですけども、女性の方が社会的な地位が高いカップルの映画が続けてアメリカで公開されているんですよ。

町山智浩『ロング・ショット』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でシャーリーズ・セロンとセス・ローゲンの映画『ロング・ショット』について話していました。

(赤江珠緒)最近、そうですね。

(町山智浩)だからこう、男女の役割がすごく変わりつつある社会を反映しているんだろうなと思うんですけどね。で、それで男はそれに張り合うのか?っていうと、そうじゃなくて女性を支えるということも男の価値なんだっていうことを見せていくというね。あえてこの時にすすめているわけじゃないですが(笑)。

(山里亮太)フフフ(笑)。

(町山智浩)まあ、Netflixですぐに見れますんで。この『いつかはマイ・ベイビー』、面白いですよ。

『いつかはマイ・ベイビー』予告編

(山里亮太)ああ、見よう! あと、同時にこのピンのネタも。スタンダップコメディの方も。

(町山智浩)ピンのネタ、すごいですから! 日本語でたぶんほとんど訳しきれてないと思いますよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)あまりにもひどいんで。アリ・ウォンさん(笑)。ということで……。

(赤江珠緒)はい。今日は『いつかはマイ・ベイビー』、Netflixで公開中でございます。『アリ・ウォンの人妻って大変!』とかね、そういうのも見れるということです。

(町山智浩)これね、お子さんを産んだことのある女性だったらものすごくリアルな話ばっかりしていますよ。めちゃくちゃ面白いですから。

(赤江珠緒)見てみよう。

(町山智浩)ということで、山ちゃんどうもおめでとうございます!

(山里亮太)ありがとうございます。町山さん! 『ロング・ショット』、見ておきます!

(赤江珠緒)よかったよかった。町山さん、ありがとうございました!

(町山智浩)よかったね。どもでした!

<書き起こしおわり>

町山智浩 マ・ドンソクの魅力を語る

$
0
0

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で韓国の俳優マ・ドンソクの魅力をおすすめ作品を交えながらたっぷりと語っていました。

(町山智浩)今日はですね、僕がいま本当に夢中になっている映画俳優について話させてください。

(赤江珠緒)町山さんが夢中?

(町山智浩)いま、もうこの人に夢中なんですよ。マ・ドンソクという人なんですけども。これ、写真がありますか?

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)どうですか?(笑)。

(山里亮太)この方……『新感染 ファイナル・エクスプレス』のめっちゃかっこいいおじさん?

(町山智浩)そう。お父さんが幼い娘を連れてソウルから釜山に向かって、ものすごい押し寄せるゾンビから逃げていくという映画が『新感染 ファイナル・エクスプレス』だったんですけども。その主役のお父さんよりもですね、映画でいちばんみんなの印象に残ったのはこのゾンビと素手で徹底的に戦うおじさん、マ・ドンソクなんですよ。

(山里亮太)かっこよかった! ボッコボコにして。

(町山智浩)もう武器も何も使わないで素手で押し寄せるゾンビを1人で押さえて。最後はもう、この人が犠牲になってみんなを助けて死んでいくんですけども。

(山里亮太)そう。あれ、泣けるのよ。奥さん、めっちゃかわいいの。

(町山智浩)それがね、主役じゃなかったのにいちばん人気が出ちゃって。この後、いきなり主演俳優になっていったんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(山里亮太)ああ、あれきっかけなんですか?

(町山智浩)あれがきっかけですね。あれがやっぱり印象強かったんで。

(赤江珠緒)まあ体格のいいおじさんっていう感じですね。

(町山智浩)この人、体格がいいなんてもんじゃないんですよ。この人、腕周りが50センチから60センチぐらいあるんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? ちょっとした女性のウエストぐらいありますね。

(町山智浩)あのね、カラテカの矢部さんのウエストぐらいだと思います(笑)。

(赤江珠緒)ああーっ!

(町山智浩)だからね、両肩から2人、矢部さんが出ている感じですね。で、この人ね、もともとはボディビルダーなんですね。アメリカで育って。18歳から。それでボディビルダーとして成功して韓国に来た人なんですよ。だからまあ、トレーナーとしても非常に有名な人だったんですけども。で、この『新感染』の後に出た映画がすごくて。『犯罪都市』っていうタイトルの映画で。2018年に日本で公開されたんですけども。これは彼、マ・ドンソクが刑事役なんですね。で、普通は刑事って拳銃を使ったりするじゃないですか。でも、一切使わないんです。

『犯罪都市』

(山里亮太)まさか……?

(町山智浩)この人、武器は「腕」だけなんです。それもね、その腕であんまりいろんなことをしないんですよ。この人、だいたい基本的にはビンタですね。

(赤江珠緒)ほー!(笑)。

(町山智浩)で、ものすごいごついやつらが……だから、敵の用心棒とかいっぱいいるわけですよね。暴力団と戦うんですけども。そうすると、すごい用心棒にビンタをバーン!ってカマすと、もう用心棒は動かなくなっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ほー!

(町山智浩)立ったまま、気絶しているんですよ。脳震盪を起こして。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)そういうものすごい……いままで、いろんな刑事がいろんな武器を持っていましたよね。銭形警部の銭に始まり、ダーティハリーのマグナムとかね。この人はビンタなんですよ(笑)。すごいんですよ。でね、これがあまりにもすごくてもう一気にスター俳優になっていったんですけども。今年の春、韓国の映画の記録的な大ヒットになった映画がありまして。これが『悪人伝』っていう映画なんですよ。

(赤江珠緒)『悪人伝』。はい。

『悪人伝』

(町山智浩)これね、大ヒットして。ストーリーはまず最初に連続殺人鬼が出てきます。で、その男はヒョロヒョロなんですけども、人を殺すということに中毒になって、無差別に夜道でいろんな車にぶつかって。「なんだよ、お前。ぶつけやがって!」って出てきたのを柳刃包丁でグサグサに刺して殺すっていうのを毎日繰り返しているような男なんですよ。

(赤江珠緒)ひどい……。はい。

(町山智浩)もう完全な快楽殺人中毒者なんですね。それを追いかけている刑事が登場します。ところがこの刑事も、タイトルが『悪人伝』っていう通りにいい刑事ではないんですよ。ものすごい暴力刑事で、たとえば暑い日に渋滞して車が進まないとイライラするから。ムシャクシャするっていうことで車を降りていきなり近所のヤクザの事務所に殴り込みをかけて。ヤクザをボコボコにのして憂さ晴らしをするというような暴力刑事なんですよ。

(赤江珠緒)ほうほうほう(笑)。

(町山智浩)ひどい刑事なんですよ。ところが彼は、勘がよくて。その殺人が次々に起こっているけども、これは全部無差別で、犯人は1人だということに気づくんですよ。

(赤江珠緒)うん!

(町山智浩)ところが、警察側は被害者側に全く共通点がないので。「これは連続性がない」っていう風に考えた上の方の人が、その彼の進言を取り上げないんですね。「これは全然関係ない。犯人はバラバラだ」って言っているんですよ。で、もう協力してくれないから自分1人で操作するしかないってその暴力刑事は思っているんですけども。そこにマ・ドンソクが出てくるんですよ。で、このマ・ドンソク兄貴は今回、いちばんの悪いやつです。

(赤江珠緒)えっ? じゃあ、マ・ドンソクさんはこの時は刑事じゃないの?

(町山智浩)刑事じゃなくて、暴力団の組長なんです。

(赤江珠緒)ああ、暴力団側?

(町山智浩)それで彼はそれこそ腕の力1本でのし上がってきた組長の中の組長なんですね。で、とにかく敵がナイフを持ってこようが、拳銃を持ってこようが、全部素手でぶっ倒しちゃうんですよ。で、素手でぶっ倒すだけじゃなくて、素手で一撃で人を殺したりしていますからね。この親分は。

(赤江珠緒)熊みたい(笑)。

(町山智浩)まあ、あれで殴られたら死ぬと思いますけども(笑)。で、その彼がたまたま運転手を使わないで車で夜道、家に帰ろうとしていたところをその連続殺人鬼に襲われちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うん!

(町山智浩)ところが、連続殺人鬼がグサグサと彼のことを刺すんですけど、彼は全身筋肉なんですよ。で、首なんかもほとんど筋肉でないんですよ。で、腕が50~60センチでしょう? 胸とか腰とかもすごい筋肉だから、ナイフでいくら刺しても全然内臓まで届かないんですね。で、逆にその連続殺人鬼はボコボコにされちゃうんですよ。マ・ドンソクに。でも、彼は出血多量で病院に担ぎ込まれるんですね。あまりにもたくさん刺されたから意識不明で。そうすると、彼の周りにいるヤクザの子分たちは「これは対立する組織や彼のことを暗殺しようと思っている別のボスたちの仕業なんだ!」っていうことで、ヤクザの大抗争が始まっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うんうん!

(町山智浩)報復で。で、そこに来たのがその暴力刑事で。「俺は知っている。これは連続殺人鬼のやり口だ。警察は俺に協力をしてくれないから、お前はヤクザとして素人に刺されてしまったというメンツがあるだろう? だから一緒に協力してあの連続殺人鬼を探し出そうぜ!」っていうことで、その腕力組長と暴力刑事が手を組むっていう話なんですよ。

(赤江珠緒)そこが組むのかー! なるほど(笑)。

(町山智浩)だから『悪人伝』で全員が悪人なんですよ。もうこれ、めっちゃくちゃ面白いですよ。しかも刑事はその犯人を逮捕しなきゃならないんですよ。でも、マ・ドンソク兄貴はメンツがあるから殴り殺そうと思っているんですよ。だから犯人を見つけても、マ・ドンソクに殴り殺される前にその犯人をさらって逮捕しなきゃならないという、三つ巴の戦いになっていくんですよ。

(赤江珠緒)ああー、そうか。最終目的は違うのか。

(町山智浩)そう。刑事はマ・ドンソクの腕力から犯人を無事逮捕できるのか?っていう別のサスペンスまで出てくるんですね。そういう非常に複雑な映画がその『悪人伝』で、これは韓国でめちゃくちゃヒットしているんですよ。

(赤江珠緒)へー! でも写真を見ましたら、たしかに似合いますね! 組長とかが似合う!

(町山智浩)まあ、すごいですよ。この人、全身入れ墨でね。もう、この組長がとんでもない……ストーリーにかかわるんで言えないんですけども。なんでもあっさりと、サラッと人を殺すような人なんですよ。

(赤江珠緒)うわーっ!

(町山智浩)ものすっごく悪いやつなんですけど、それが連続殺人鬼を追いかけるっていう正義をしなきゃならなくなるっていう面白さなんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)この映画がすごいのは、検死係の女の人以外、女の人はほとんど誰も出てこないんですよ。セリフがある人はその人ぐらいで、あとはもう全部男ですよ。それもヤクザと刑事。すごいですよ、この映画。夢のような映画ですね!(笑)。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)でね、この人の映画、『悪人伝』はまだ日本公開は決まっていないんですけども、新作がもうすぐ、6月28日から公開されるのが『無双の鉄拳』という映画なんですよ。で、これがね、『無双の鉄拳』というタイトルでだいたいわかると思うんですけども。

(赤江珠緒)やっぱり腕なんですね(笑)。

『無双の鉄拳』

(町山智浩)ただ、いままで話したところだとマ・ドンソクって怖い人っていう印象しかないでしょう?

(山里亮太)そうですね。暴力的な。

(町山智浩)全然違う人なんですよ。今回は。『無双の鉄拳』は主人公はたしかにマ・ドンソクなんでめちゃくちゃすごい体なんですけども。昔、ヤクザなことをしていたんだけども、奥さんと恋に落ちていい人になったっていう設定なんですよ。ところが、その奥さんが人身売買グループにさらわれちゃうんですよ。売春をさせるために。奥さん、美人なんでね。で、その奥さんを探すためにこのマ・ドンソクが片っ端からぶん殴って奥さんを探していくっていう話なんですけども。

(赤江珠緒)ええっ?

(山里亮太)ゲームみたい(笑)。

(町山智浩)これはいわゆる、こういう映画のジャンルがあって。これは映画秘宝っていう雑誌のライターの、僕が名前をつけた男なんですけどもギンティ小林という男がいるんですけどね。彼がこういうジャンルに名付けたんですよ。僕が名前をつけた男が、このジャンルに名前をつけたんですけども。それがね、「ナメてた男が○○でした」っていう……この場合は「ナメてた男がマ・ドンソクでした」っていうジャンルなんですね。この手のやつってすごくたくさんあるんですよ。この間、公開されたジャッキー・チェンの映画『ザ・フォーリナー』は娘がテロリスト組織に殺されてしまうんですけども。その娘のお父さんがジャッキー・チェンだったっていう話でね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ジャッキー・チェンの娘を殺しちゃったもんだから、もう組織全員がジャッキー・チェン1人に皆殺しにされちゃうんですよ。それが「ナメてた男が○○でした」っていうジャンルなんですけども。この『無双の鉄拳』はマ・ドンソクをナメるって……どう考えても間違っているんですよ(笑)。「お前、どこに目をつけてるんだ?」っていうね。見ただけでそれはナメないだろう?っていうね。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)その奥さんの旦那がマ・ドンソクだって犯人側はわかっているのに、あえて誘拐していますから。これはもうバカなんだと思いますけども。

(赤江珠緒)いや、そうでしょう。

(町山智浩)もう死ぬしかないんですよ。でもね、この『無双の鉄拳』がすごくいいのは、このマ・ドンソクは奥さんが大好きで、奥さんの前だともう借りてきた熊みたいになっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ねえ。普段はグリズリーみたいに一撃必殺なのに(笑)。

(町山智浩)かわいいの。もうなんかね、奥さんに好かれようとして一生懸命プレゼントしたりね。そんなことばっかりしている人なんですよ。で、よく見るとこのマ・ドンソクって顔がかわいいんですよ。

(赤江珠緒)えっ、いまんところあんまりかわいい表情を見せていないんですけども?

ラブリーなマ・ドンソク=マブリー

(町山智浩)いや、韓国ではあまりにもかわいいから、マ・ドンソクのあだ名って「ラブリーなマ・ドンソク」っていう意味で「マブリーちゃん」って言われているんですよ。

(赤江珠緒)あ、そんなに? ああ、最後の方にあった写真をいま見て、プライベートみたいな写真を拝見すると、ああ、なるほど!

(町山智浩)そう。結構かわいいんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。かわいい、かわいい。

(町山智浩)で、こういう筋肉でガチムチの兄貴で顔がかわいいっていうのは理想でしょう、これ?

(赤江珠緒)フフフ、「理想でしょう?」って急に言われても……。

(町山智浩)いや、本当にだからすごくいいんですけども。で、もう1本、日本では続けてマ・ドンソクの主演映画が公開されるんですね。それが『守護教師』というタイトルで8月2日から公開なんですが。

(赤江珠緒)はい。

『守護教師』

(町山智浩)そっちは『守護教師』って、「守護天使」みたいな言葉があるじゃないですか。「ガーディアン・エンジェル」。それが先生で、マ・ドンソクがなんと女子校の体育教師です! めちゃくちゃ浮いています。女子校の中に彼がいると。完全に居場所が違うっていう感じで。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)マ・ドンソクの映画で面白いのは、マ・ドンソクって飲み屋とかバーとかディスコとかに行くと、かならずセキュリティーの人だと思われちゃうんですよ。

(山里亮太)いかついから。

(町山智浩)そうそう。どう見ても用心棒かセキュリティーの人にしか見えないんですけども。そういうギャグがいっぱい入っているんですけども。これはね、その『守護教師』っていうのは田舎の腐敗した街でそこにマ・ドンソクが赴任した学校の女子高生が1人、行方不明になって。それを探している友達の女子高生を助けて、その裏にある陰謀を暴くっていう話なんですけども。基本的にミステリーになるはずなのに、マ・ドンソクだからあんまりミステリーにならないんですね。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)だってこの人、全部鉄拳でドアだろうとなんだろうと全部ブチ破っていくから(笑)。

(山里亮太)謎解きじゃないんだ(笑)。

(町山智浩)サスペンスがそこで盛り上がらないんですよ(笑)。「ここにどうやって入るんだ?」ってみたいな時、すぐにそれをバーン!って破っちゃうんですよ(笑)。犯人とかが車の中に乗るとするじゃないですか。普通は車に乗られちゃうとどうしようもないじゃないですか。でもこの人、ガラスごと殴り飛ばしますから。防げないんですよ、この人のパンチは(笑)。だからサスペンスがサスペンスにならないというのは非常に問題のある人なんですけども。

(赤江珠緒)へー!(笑)。

(町山智浩)でね、この人ね、実はシルベスタ・スタローンをすごく尊敬しているんですよ。そこも僕、すごくマ・ドンソクの好きなところなんですけども。で、ちょっと怖い話ばっかりしちゃったので、みんなマ・ドンソクに対して偏見を持っていると思うので、そうじゃないところでぜひ、いまDVDとか配信で見れる映画があるので、これを見てもらいたいんですけども。本当にいい映画なんで。『ファイティン!』っていう映画なんですよ。「戦う」っていうタイトルですけども。

(赤江珠緒)はい。

『ファイティン!』

(町山智浩)これ、マ・ドンソクの役は腕相撲のレスラーです。もう最高の適役ですね。で、これは彼自身の人生ともかぶっているところがあって、アメリカで育った男なんですよ。それで韓国にやってきた。その腕っぷしで腕相撲のレスラーとして呼ばれて韓国にやってくる。そのへんは彼自身の個人的な体験とも一致しているところで、すごく彼の素みたいなものが出ているんですね。

(赤江珠緒)マ・ドンソクさん自身もそういう半生だったんですね。

(町山智浩)まあ、彼自身はお母さん、お父さんと一緒に行っているんですけども、この映画の中では昔、韓国って貧しかった時に子供を養子としてアメリカにいっぱい出したんですよね。だからそういう子たちがいっぱいアメリカにはいるんですよ。で、「自分は養子に出されてしまって母親に捨てられた」って思っているのがこの映画の中のマ・ドンソクですね。実生活ではそうじゃないですよ。で、そこで腕相撲をしていくんですけど、彼はその腕相撲を自分の人生の武器だと思っていたのは、シルベスタ・スタローンの腕相撲映画で『オーバー・ザ・トップ』っていう映画があるんですよ。

(山里亮太)はあ。

(町山智浩)ご存知ない?

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)あんまりヒットしませんでした。でも、すごくいい映画なんですけども、その『オーバー・ザ・トップ』を見て腕相撲に目覚めたという設定になっています。で、腕相撲大会で勝ち上がっていくんですけど、そうすると周りにヤクザがいっぱいいて、いろんな圧力をかけたり脅しをかけたりしてくるんですね。で、その中でマ・ドンソクは自分は血のつながりばっかりを考えていたんだけども、そうじゃなくて血がつながらない家族というものを、その自分の周りの友達とか、そういった人たちの間につくっていくという、いい話なんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)この映画は人情物ですよ。『ファイティン!』って。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だからすごく面白いなって思うのは韓国ってね、血のつながりばっかりうるさい国なんですよ。ものすごいんですよ。血筋とかそういうことを言うのがね。でも、この映画はそうじゃなくて、それを超えた絆を作っていくという話で。最近は韓国映画はちょっとそっちの方にシフトしているっていうのがすごく大きい韓国の変化だなって僕は思うんですけども。で、こうやってやっていくうちに結局ヤクザに「お前、負けないと殺すぞ」みたいな話になっていくんですよ。要するに「八百長をやれ」って。で、その時に彼が言うのは「俺はどんなことがあっても退かないぞ。それは俺が自分自身を証明するためだからだ!」って言うんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)このセリフはロッキーのセリフなんですよ。ロッキーでスタローンが自分の愛するエイドリアンに言った「俺がリングに立ち続けて決して試合を諦めないのは、俺がクズじゃないことを証明するためなんだ」っていうことなんですよ。そのセリフを引用しているんですよ。もうそれだけで100万点ですよ!

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)いや、でも本当に泣けるんですけど。で、そういう話をしていたら、さっき言っていた『悪人伝』っていう映画がシルベスタ・スタローン主演でハリウッドでリメイクされることが決定したんですよ。

(赤江珠緒)へー! トンデモ暴力刑事の話が?

(町山智浩)スタローンが暴力刑事役なんですね。で、その豪腕組長の役はマ・ドンソクがそのままやります!

(赤江珠緒)そのまんま? へー!

(町山智浩)彼は英語ペラペラというか、アメリカで育っているから。

(赤江珠緒)そうか。じゃあ、共演ですね!

(町山智浩)これ、すごいですよ。共演なんですよ。『ファイティン!』でラブコールしていたら、もう本当に共演になってしまうんですよ。で、しかもこのマ・ドンソクはあまりにも腕がすごすぎるんで。とうとうマーベル・ユニバースの新しいシリーズの『エターナルズ』にレギュラーで参加することが決定したんですよ!

(赤江珠緒)超人っていうこと?(笑)。

マーベル『エターナルズ』出演決定

(町山智浩)超人っていうことですよ! 人間じゃない超人の役なんですけども。「スーパーパワーは?」「腕相撲」っていうよくわからない超人役なんですけども(笑)。だからすごいなって思って。腕一本でのし上がるって、まさに文字通りだな!っていう(笑)。

(赤江珠緒)そうですね(笑)。

(町山智浩)すごいなって思いましたけども。まあ、本当はこのかわいさが非常に重要なんですけども。

(赤江珠緒)ねえ。マブリーとも呼ばれているという。

(町山智浩)そう。新井浩文さんをすごく太らせて筋肉をつけたみたいな顔なんですよ。かわいくて。で、しかも彼からいやらしい性欲を抜き取ったところにきれいな心を入れるとマ・ドンソクができあがります!

(赤江珠緒)ほうほう。いや、でもどんだけ鍛えればこんだけなるんでしょうね?

(町山智浩)まあたぶん、腕のかわりにカラテカ矢部さんをつけているだけかもしれないですけども。

(山里亮太)おかしいな? それだと急に弱々しく見えちゃうっていう(笑)。

(町山智浩)そういうね、マ・ドンソクの魅力をみんなにぜひ知っていもらいたいので、見ていただきたいです。

(山里亮太)公開、近いですもんね。

(赤江珠緒)はい。『無双の鉄拳』は6月28日、『守護教師』は8月2日に日本公開となっております。『ファイティン!』はDVDなどで見ることができるということでございます。わかりました。もうマ・ドンソクにいま夢中という町山さん、ありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました!

(町山智浩)もう最高ですよ、はい!

<書き起こしおわり>

町山智浩『わたし、定時で帰ります。』を語る

$
0
0

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でドラマ『わたし、定時で帰ります。』を紹介。日本社会の抱える労働問題などとあわせて話していました。

(町山智浩)今日は映画ではなく、日本のテレビドラマ。それも今日の夜に日本で放送されるTBSのドラマ『わたし、定時で帰ります。』についてお話をさせてください。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)このドラマ『わたし、定時で帰ります。』って、本当にタイトルがそのまんまなんですけども。これは吉高由里子さんが演じるヒロインがかならず6時の定時に会社を出るということを貫くっていう非常にシンプルなコンセプトなんですね。

(山里亮太)タイトルで全てがわかりますね。

(町山智浩)タイトルでわかるんですよ(笑)。

(赤江珠緒)しかもその会社はWEB制作会社ですから、なかなか6時では終わらない会社ですよね?

(町山智浩)そうなんですね。WEB制作会社を描いたドラマだと『獣になれない私たち』っていうドラマがありましたね。あれもそうだったですね。

(赤江珠緒)そうだ! 新垣結衣ちゃんの。

(町山智浩)あとはその前にも野木亜紀子がやっていたドラマで……今回の『わたし、定時で帰ります。』は野木さんの作品ではないんですけども、『逃げるは恥だが役に立つ』っていうのもあれもそういう話だったですね。だから実際にいま、日本のそういった職場がどういうことになっているのか?っていうのがひとつの大きな問題になっているということなんですよね。次々にそういうドラマが作られるというのは。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、この『わたし、定時で帰ります。』はこれ、実際にそういった経験をした朱野帰子さんという方の実体験をもとにした原作なんですね。

わたし、定時で帰ります。 (新潮文庫)
朱野 帰子
新潮社 (2019-01-27)
売り上げランキング: 2,034

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だから非常にリアルなんですけども。これ、あのニューヨーク・タイムズが19日付けの紙面でこのドラマを取り上げたんですよ。

(赤江珠緒)へー!

ニューヨーク・タイムズが取り上げる

(町山智浩)その記事の中で僕のTwitterでの発言も引用されているんですが。なぜ、これがアメリカのメディアがこの『わたし、定時で帰ります。』に驚いたのかっていうと、「なんで定時で帰るだけでドラマになるの?」っていうことなんですよ。

(山里亮太)ああー、「それぐらい、当たり前だろ?」っていうことなんですね。

(町山智浩)「定時って帰っていい時間なんだから、帰らなきゃいけないんじゃないの?」っていう。

(赤江珠緒)そうか! アメリカからすると、そうか! うん。

(町山智浩)「なんで?」っていうことなんですよ。「これがヒーローになっちゃうの? おかしいんじゃないの?」っていうことなんですね。

(山里亮太)そういう話題のなり方なんだ。

(町山智浩)僕はだから、いま娘もカミさんも働いているんですけども……あ、娘も19ですけども、もう働いているんですよ。IT系で。時給3000円ですからそれこそ月収60万円ですけども。19で。でも、かならず5時帰りですよ、もう。

(赤江珠緒)5時終わり?

(町山智浩)5時で終わりですよ。それで年収とかは日本とは桁違いなので、だからいかに日本が効率が悪いのか?っていうことなんですけども。で、この主人公、吉高由里子さんが演じる東山結衣という女性は定時で帰るということで非常に後ろめたいだでじゃなく、「ちゃんと働いてるの?」みたいに思われたり、言われたりもしているんですよ。でも、いちばん効率のいい仕事の仕方をしているんですよね。定時で帰るために。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ところが、彼女1人が定時で帰ろうとして帰るというだけでは終わらないんですよ。実際には。その職場には他にもいっぱい人がいるわけですよね。たとえば、このドラマの中ではシシド・カフカさんが演じている三谷という同僚の女性が出てきて。彼女は絶対にそれが許せないんですよ。「みんなは働いているのに、なんで1人だけ帰れるの?」って。そういう圧が日本の会社にはあるんですよね。僕もサラリーマンの時、そうだったですけど。「みんなが働いているから自分だけ帰れない」っていうのがあるんですよ。

(赤江珠緒)ああー。

(町山智浩)そうすると、なんか後ろめたいから会社にいたりするんですよ。

(赤江珠緒)わかる! それはサラリーマンの時、そうでしたね。うん。

(町山智浩)ねえ。で、あともう1人、内田有紀さんが演じるお母さんになった女性が働いているんですね。それで内田有紀さんはものすごいがむしゃらに働いているんですよ。このドラマの中で。それはなぜか?っていうと、働く母親に対するプレッシャーっていうのが日本の会社にはいっぱいあるんですよ。「子育てに専念すべきだ。会社なんか辞めるべきだろ」みたいなことをじわじわと周りの人たちが言ったりするんですよ。

(赤江珠緒)うーん。

(町山智浩)あと、「大きなプロジェクトとか企画を任すことは赤ちゃんがいる人にはできないよね」って言ったりするんですよ。「いつ赤ちゃんが熱を出したりするかわからないからね」って。で、逆に「お子さんがいるから帰った方がいいんじゃない?」って言ったりして、逆の圧がかかってくるんで。それに対して「そうじゃない。普通に働けるんだ!」っていう風に。なぜなら、この内田さんが言うんですけど、「男に子供ができたからって、仕事は変わらないでしょう? なんで女性に子供ができただけで『それじゃ無理だ』とか言うの? おかしいでしょう?」って。だから、それに対して戦うためにがんばりすぎてどんどん自分を追い詰めていっちゃうんですよ。内田有紀さんは。

(赤江珠緒)うーん……。

(町山智浩)ああ、2人とももしかしてこれ、ご覧になってないね?

(赤江珠緒)うんうん。

(山里亮太)見ていないんですよ。

日本の歴史にとって大事なドラマ

(町山智浩)そうですか。もう本当にね、これいま恋愛ドラマとかいろんなのがありますけども。これは日本の歴史にとってものすごく大事なドラマですよ! というのは、あとでその理由を説明しますけども。で、この吉高由里子さんには婚約者がいたんですよ。それを向井理さんが演じているんですけども、彼はこの会社の上司なんですね。管理職で。で、彼はなんでも仕事ができるんですよ。WEB制作会社で。で、障害対応からエンジニアリングもできるし、なんでもできるんですよ。で、かならず人を絶対に責めないんですよ。それで中で起こるトラブルとかを全部解決しちゃう男なんですよ。ところが、それがよくないんですよ。

(山里亮太)えっ? 完璧な感じなのに?

(町山智浩)彼、ずっと1人で残業をしているんですよ。で、人手が足りない部分とかを全部彼が残業で埋め合わせちゃうから、職場自体の根本的な問題の解決にはならないんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうか!

(町山智浩)彼1人が背負っちゃうから。で、彼がそういう人なんで。この向井理さんの役は元体育会系なんですね。それで前に働いていたところで働きすぎて過労死寸前まで行っちゃっているんですよ。

(赤江珠緒)ああーっ! うわっ、でもどの人のケースもどの職場にもありがちなというか。なるほど、いまそれぞれわかるなって聞いていて思いましたね。

(町山智浩)ねえ。で、吉高さんは「こんな人とは一緒にいられない!」っていうことで別れて別の彼氏と婚約したんですね。でも、この向井理さん演じる種田さんは吉高さんのことが忘れられなくて。で、その会社で1人で縁の下の力持ちをやり続けているんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、吉高さんの下に今度入ってくる新人が泉澤祐希さんが演じているんですけども。この新人の男の子は逆に「いまってどこの会社も、特にWEB系ってすごい人手不足じゃん?」って言っているんですよ。「だから俺、転職すればいいんだ」っていう気持ちで仕事に全然真剣じゃないんですよ。バカにしているんですよ。で、なんかちょっと怒られると「あ、僕辞めます」って言うんですよ。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)「辞めようかな? どこでも就職できるし、いま転職楽だし」って言って、全然やる気がないんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)そういう人もいる。そんな中で彼女自身、吉高さん演じるヒロイン自身も1回、過労死をしそうになったことがあるんですよ。で、お父さんは家庭を全く顧みずに仕事ばっかりしていた人で、それによって家庭はめちゃくちゃだったんですね。だからその経験があるから、絶対に自分はもう定時で帰るんだ。そうしないと人生が壊れてしまうからって。で、その婚約者と結婚をすることを非常に真剣に考えて働いているんですけど、やっぱり自分1人で帰ることができなくなってくるんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。まあ、チームプレーだったりしますしね。

(町山智浩)そうそう。プレッシャーもあるし。シシド・カフカさん演じる三谷さんっていう人がとにかく風邪をひいてもなんでも会社に来ちゃうんですよ。でもそれって会社にとってもよくないですよね? で、彼女の方が先にいるから、そのシシド・カフカさんを休ませないとならないんですよ。だから自分が休むためには他の人も休ませなきゃいけないし、自分が定時で帰るためには他の人も定時で帰さないとならないっていうことで、1人1人の「仕事のためだったら自分の生活を犠牲にする」っていうようにマインドセットされた洗脳を解いていくっていう話になっているんですよ。

(赤江珠緒)はー! なるほどな。

「仕事のためだったら自分の生活を犠牲にする」という洗脳

(町山智浩)だからそれも「こうしちゃいけない」とか「こうするべきだ!」とか、そういうのではなくて、はっきり言うと1人1人を抱きしめて、「自分のことをまず考えなよ」って言うんですよ。「自分がいちばん大事でしょう? 私みたいになったら大変よ。私、死にそうになったんだから」っていう風にやっていくんですけど、それがまたなかなか難しくて。このシシド・カフカさんはいわゆる就職氷河期に就職活動を経験した人なんですよ。で、就職氷河期っていうのは1990年代の終わりから2010年ぐらいまで続いたんですけども。その頃って仕事が全然なかったから「仕事がないから死ぬ気でやらないといけないんだ!」って洗脳されてしまっていて、なかなかそれが解けないんんですよ。シシド・カフカさんは。

(赤江珠緒)うんうん。誰に言われるでもなく、自分で自分の中にハードルだったり枠っていうのが人間ってありますもんね。

(町山智浩)そうなんですよ。だからこれでわかってくるのは日本の会社がそういうことをやらせているっていうんじゃないんですよ。この会社自体はそんなにブラックな会社ではないんですよ。ただ、1人1人がそういう風に思ってしまっているんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。「これが正しい」とか「これをしなければいけない」っていう思い込みみたいなのっていっぱい持っていますよね。実は大人になると。

(町山智浩)そうなんですよ。内田有紀さんもそうだし。「母親として仕事を辞めさせようとするプレッシャーと戦わなきゃいけないんだ!」とか。向井理さんは「俺みたいに体力があるやつはがんばればいいんだ」とか思っていて。でも、「それってなんかおかしいよ?」って言っていくのが吉高さんなんですよ。「なんかみんな、勘違いしていない?」っていうことなんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ところが、そこに敵として出てくるのがユースケ・サンタマリアなんですよ。このユースケ・サンタマリアがね、すごく一見非常に理解がありそうな上司の役なんですね。管理職なんですけども。で、「いやー、みんな。一緒に飲みに行こうよ!」とかって言っている、すごくフレンドリーな感じなんですよ。ところが、こいつが最悪なんですよ。このユースケ・サンタマリアが。

(山里亮太)ほう。

(町山智浩)なにかというと、言っていることが古いんですよ。「がんばればなんとなる!」とかね、「やる気が大事だよ!」とかね、やる気ハラスメントなんですよ。根性論なんですよ。で、この人に教育されたのが向井理くんなんですね。で、もともと体育会系のそういう体質……テレビ局でもいっぱい体育会系の人、いるんですけども。どこの会社にもいて、体育会系っていうのは会社にとってすごく便利な兵隊になるから、みんなどこの会社も体育会系を取りたがるんですけど、体育会系の人たちがその嫌な体育会系のノリっていうのを作っていっちゃうんですよね。「がんばればいいんだ! お前、がんばりが足りないよ! 根性がないんだよ! 徹夜すればいいじゃないか」って。それでどんどんめちゃくちゃにしていくんですよ。

(赤江珠緒)難しいな。でもこれ、日本社会ってそういうので、たしかにいままで来ていたところがありますもんね。

(町山智浩)いままで来ていて。で、またこのユースケ・サンタマリア、仕事を受注する時に「赤字覚悟でやらせていただきます!」ってやっちゃうんですよ。で、無茶な条件の仕事を受けちゃうんですよ。これはいっぱい、いろんな会社がやっていることで、要するに「そこで仕事を受けることでつながりができるから、その次の仕事も取れるだろう」っていうことで一発目の仕事を非常に無理な条件で受けるっていうことがあるんですよ。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)でも、はっきり言ってそれはもう全然仕事ではないんですよ。儲からないんですよ。時給計算をすると。で、時給計算をして全然おかしな仕事をサービス残業でこなしていくっていうことを繰り返していくから、もうボロボロになっていくんですね。で、これはね、外国人の人、ニューヨーク・タイムズの人が見てびっくりしたっていうのは、やはりびっくりするような内容なんですよ。

(赤江珠緒)でもみんなが5時とか6時に帰れているっていうそのアメリカって……みんなの意識が全く違うんですね。

(町山智浩)全く違うんですよ。だから、「なにやってんの?」っていう感じなんですよ。外国人が見ればね。で、それを吉高さんが1回死にそうになった経験でみんなに「定時に帰ろうよ!」ってやるんですけど、今度は「えっ、定時に帰ってもなにもやることがないよ?」ってなるんですよ。みんな。

(赤江珠緒)フフフ、そっちの悩みもあるのか!

仕事優先の生活の弊害

(町山智浩)そう。考えたこともなかった。だからそれこそ、恋も何もできないんですよ。僕、映画を紹介していますけども、映画なんか見れないですよね。そんな生活をしていたら。だから映画とか本とかが売れなくなるのもしょうがないし。本当にこれね、原作の中にこういう文章があって。「定時で仕事を終えて、大事な人と会って、ゆっくり休んで、美味しいものを食べて……そういう生活をみんなが送れるようにしたいと思った」って書いてあるんですよ。

(赤江珠緒)はー、うんうん。

(町山智浩)これ、当たり前じゃねえの?

(赤江珠緒)たしかに。

(町山智浩)これがいま、「夢」なんですよ。これ、おかしいじゃないですか。地獄だろ?っていう話なんですよ。ただ、吉高さんがやっているからフワフワッとしたあのゆるふわな感じなんで全然厳しい話にはならないんですよ。(モノマネで)「きみー、やった方がいいと思うよー?」みたいな感じなんですよ(笑)。あの吉高トークなんでフワフワなんですけどね。すごくハッピーで幸せなドラマになっているんですけど、描かれていることは恐ろしいことなんですよ。

(赤江珠緒)すごい長年続いてきた日本の社会の文化みたいなものにすごく向き合っているんですね。

(町山智浩)そう。だってそんなことをしていたら、本も読めない。友達とも会えない。恋もできない。映画も見れない。そんなんじゃあ、人としての心とかクリエイティビティーとかその人の人生もどんどん、ただ痩せていくだけで。それじゃあいいものなんかは生み出せるはずもないし、いい仕事なんかできるはずもないんですよ。

(赤江珠緒)うん。そうか……。

(町山智浩)で、これは原作の中で何度も何度も言及されているのは「インパール作戦」なんですね。第二次世界大戦で日本軍がイギリス領のインドの都市インパールを攻撃しようとした作戦なんですけども、全くの物資不足・人員不足のまま9万人の兵士を出撃させたために2万6000人が死んだんですよ。

(赤江珠緒)「最悪の作戦だった」って言われている。

(町山智浩)その死者のほとんどが戦闘による死亡ではなく、餓死か病死だったんです。過労死だったんですよ。で、このヒロイン・吉高由里子さんのお父さんは「企業戦士」って言われていた世代なんですよ。その頃、会社員のことを「戦士」って呼んでいて、兵隊だと思っていたわけですよ。戦争が続いていて、インパール作戦は日本でその後も継続されているんですよ。

(赤江珠緒)そうか。うん。

インパール作戦と『武士道残酷物語』

(町山智浩)でも、そうやって戦ってきて、いったい何が起こったのか?っていうと、日本経済は20年以上も停滞して。賃金も上がらず、子供もいなくて国が縮小して負け戦。結果、なんにもいいことがないんですよ。でね、これは昔、『武士道残酷物語』っていう映画があったんですよ。1960年代に作られた映画で。これはその「滅私奉公」っていう侍の頃からの伝統……つまり、主君のために部下が切腹したり、辛い思いをしたり。兵隊として闘いに行ったらかならず何%かは死ぬわけですよね。そういったものをよしとしたり、そういった犠牲を賛美していた文化っていうのは実は、その武士道。武士が始まった頃からずっと続いているんだ。それが戦争になって、いまのサラリーマンになっているんだっていう。だからそれこそ400年とか続いているんですよ。

(赤江珠緒)はー! だからそういう概念というか価値観を変えるっていうのは相当のね、大変なことですけども。それに向き合っているドラマなんですね。

(町山智浩)そうなんです。だからこれ、革命なんですよ。それこそ最近のことじゃなくて400年とか500年続いているこの日本の滅私奉公とか自分を犠牲にするとかっていうバカげた文化とものすごい戦いをあの吉高由里子さんがやっているんですよ! (モノマネで)「困るんだよな~」とかって言いながら。なぜ、吉高由里子さん1人に戦わせておくのか?っていうことですよ。

(赤江珠緒)当たり前だと思っていることを鵜呑みにせずに、1回立ち止まって考えてみるというのは必要かもしれませんね。

(町山智浩)だってこの結果、いまの日本がどうなっているんだ?っていうことなんですよね。ということでね、今日が最終回の放送なんですよ。

(赤江珠緒)最終回は今日の夜10時から。『わたし、定時で帰ります。』というTBS系の火曜ドラマでございます。見逃した、これから見たいという方はParaviで配信中です。そうか。400年前まで遡るとは……そういう話だったんですね、町山さん。

(町山智浩)もっと前まで遡るっていうね。ユースケ・サンタマリアに吉高由里子さんが勝てるか?っていうことで。最終回、お楽しみに。僕もどんな終わりになるのか、知りません!

(赤江珠緒)はい。わかりました。町山さん、ありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした!

<書き起こしおわり>

町山智浩『トム・オブ・フィンランド』を語る

$
0
0

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『トム・オブ・フィンランド』を紹介していました。

(町山智浩)アメリカでは先週ずっと「プライドパレード」という催しが行われていたのでそれについてお話をしたいんですが。音楽をお願いします。

(町山智浩)はい、わかりますね? 『YMCA』ですよ。

(赤江珠緒)はい!

(町山智浩)これ、西城秀樹さんの歌じゃなくて、元のヴィレッジ・ピープルというグループの歌なんですけども。ヴィレッジ・ピープルというは1977年にデビューしたバンドなんで、写真を見てもらえます?

(赤江珠緒)はい。6人組のヴィレッジ・ピープルのメンバー。なんかそれぞれに面白い格好をされて。

(町山智浩)すごいでしょう? マッチョで。で、みんなそれぞれ違う格好をしていて。ネイティブ・アメリカンの人。カウボーイの人。兵隊さん。工事現場で働く建築作業員の人。ヘルメットをかぶっていますね。あと、黒い革ジャンでレイバンのサングラスのバイカー……まあ、暴走族ですね。それと警察官。で、このヴィレッジ・ピープルっていうのはいったいなにがコンセプトのバンドかっていうのはご存知ですよね?

(赤江珠緒)えっ? ごめんなさい。

(町山智浩)わからない? ゲイです。

(赤江珠緒)あっ!

(町山智浩)初めての……ゲイの人たちが好きな衣装を着ているんですよ。

(赤江珠緒)えっ、このネイティブ・アメリカンとかも?

(町山智浩)そうなんですよ。

(山里亮太)レイザーラモンHGさんみたいな格好をしている人もいるよ。

(町山智浩)そうそう。レイザーラモンHGさんはそのバイカーのファッションを真似しているんですよ。

(赤江珠緒)たしかに完全にHGさんですもんね。へー!

(町山智浩)これが初めて、そういったいわゆる「ハードゲイ」っていう風に日本では言われたんですけども。そのマッチョな芸のイメージを表に出して全世界的なヒットを出したグループっていうのがヴィレッジ・ピープルなんですね。これが1977年で『YMCA』っていうのはそういう歌なんですよ。

(山里亮太)そうだったんですか。

(町山智浩)これはゲイ賛歌です。「YMCAに行くとどんな願いも夢も叶うよ」っていう歌なんですよ。

(赤江珠緒)そうなんだ。『ヤングマン』の若者賛歌みたいなものだと……。

(山里亮太)「元気出せ!」みたいなね。

(町山智浩)まあ、それは日本だけなんですけども。だからこれが非常にメジャーでヒットして、その頃、1977年っていうのはゲイカルチャーにとってものすごい年だったんですね。ハーヴェイ・ミルクさんという人がゲイであることをカミングアウトして、公にしたままサンフランシスコの市会議員の選挙で当選して、そこから非常に革命的なことになっていったんですけども。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)あ、全然わからないんですね。ヴィレッジ・ピープルも。はい。ということなんですが……その先日あったプライドパレードっていうのはアメリカ全土で行われてるんですが、これはLGBTQといわれる同性愛であるとかゲイ、レズビアン、バイセクシャル、トランスセクシュアル。そういった人たちの人権を謳歌する運動のいちばんのお祭りなんですね。

(赤江珠緒)日本でもレインボーパレードとかってありますもんね。

プライドパレードが世界に広がるきっかけ

(町山智浩)はい、そうです。それはもともとアメリカで始まったそのプライドパレードというものが世界中に広がっていったんですけども。で、それは今年で50周年目になるんですよ。始まったのは1970年からなんですけど、その前の年の1969年にニューヨークのストーンウォール・インというゲイバーで反乱が起こったんですよ。それは、それまでアメリカでは同性愛は法律で禁じられていたりしたので。それで警察官たちはゲイバーがあるとそこに踏み込んで、そこにいるお客さんたちを逮捕したり殴ったりしていたんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、それがずっと続いていたので、それに対して初めてそこにいたゲイの人たち、トランスセクシュアルの人たちが警官に対して物を投げて……本当はその前にサンフランシスコとかロサンゼルスとかでもあったんですけども、初めての大規模な権力に対する反乱(ストーンウォールの反乱)が起こったんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。抵抗をしたと。

(町山智浩)ゲイの人たちが。それがきっかけとなって翌年からプライドパレードという形で「私は私たち自身を誇りに思うんだ。胸を張ってみんなの前に出て歩くんだ!」ということで、プライドパレードが始まっているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、まあ今日実は紹介する映画はその胸を張って外に歩いていくというプライドパレードの基本的な考えみたいなものの根底にあるものを作った人についての映画なんですね。それがね、『トム・オブ・フィンランド』っていう映画なんですよ。これ、8月3日から日本公開されるんですけども。「フィンランドのトムさん」っていうことなんですが、これはイラストレーターの名前なんですよ。で、この人が描いたイラストっていうのがそこにあるのでちょっとご覧になっていただけますか?

(赤江珠緒)ああーっ!

(町山智浩)表現してよ!(笑)。

(赤江珠緒)これはね、本当にハードゲイっていう感じですね。パツンパツンの筋肉質な男性が革ジャンを直接そのまま着るとかね。

(山里亮太)ズボンのところ、すごいっすね!

(町山智浩)パツンパツンでしょう? 超もっこりで。

(山里亮太)そこなんですよ! これはすごい。

(町山智浩)で、素肌に革ジャンを着て、筋肉モリモリのマッチョで。あとは兵隊さん、水兵さんとかおまわりさんもそういう格好をしているんですけども。

(赤江珠緒)これ、鉛筆画ですか? すごい……。

(町山智浩)これ、全部鉛筆なんですよ。鉛筆だけで描いているんです。すごいんですよ。緻密な絵でね。これが実はそのフィンランドの人が描いた絵なのにアメリカにおけるゲイ革命の精神的なきっかけを作ったと言われているんですよ。

(赤江珠緒)へー。フィンランドからなんだ。

(町山智浩)そうなんです。で、この絵を描いた人はフィンランドでは全く知られていなかった人物です。

(赤江珠緒)そうなんですか?

(町山智浩)この人はトウコ・ラークソネンという……フィンランド的な名前なんですが。トウコさんっていう人なんですが。この人がアメリカで大変な革命を起こしたことはフィンランドの人はこの人が亡くなる90年代まで誰も知らなかったんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)という、このトウコさん、トム・オブ・フィンランドさんの伝記映画が今度、日本で公開されるんですね。で、この人の絵は1957年ぐらいからアメリカで出版されて大ブームになっていったんですけども。これが画期的だったのは、それまでのゲイのイメージを全く覆すものだったからなんです。

それまでのゲイのイメージを覆す

(赤江珠緒)ん? それまではこんなファッションとかはしていなかったっていうことですか?

(町山智浩)そうなんですよ。こういうファッションは1953年の『乱暴者(あばれもの)』という映画でマーロン・ブランドが着ていた服なんですけども。暴走族の服でね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ところが、それまでのいわゆるゲイの人たちのイメージっていうのはまあ、女性的なイメージですよね。きらびやかでお化粧をしたりとか。ところがこのトム・オブ・フィンランドさんの絵からこういったマッチョなゲイのイメージというのができあがっていったんですよ。でね、この人がなぜフィンランドでこういう絵を描いていったのか?っていうことがこの映画の中で明かされていくんですけども。まずこの人は若い頃、戦争がありまして。で、フィンランドはドイツとソ連に挟まれている国なんですね。で、人口は400万人ぐらいしかいないところなんですが。で、何度も何度もソ連が侵略してくるわけですよ。隣の国だから。それに対して、自分の国を守るために仕方なくナチスと結託をしちゃうんです。フィンランドは。

(赤江珠緒)ああ、当時のナチスドイツに。

(町山智浩)で、ナチスドイツの兵隊たちが何十万人もフィンランドの中に入ってくるわけです。そうすると、ナチスは同性愛者を精神病扱いしていて、逮捕して収容所に送って殺していたんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)ところが、その時にこのイラストレーターのトム・オブ・フィンランド、本名トウコさんはそこでゲイであることがバレたら殺されてしまうという状態でナチスと一緒にソ連と戦っていたんですね。

(赤江珠緒)それはそれは、本当に怖いことですね。処刑までされる……。

戦争中の悲しい出来事

(町山智浩)非常に複雑な状況なんですよ。ところが彼はそのあたりからナチスの制服に惹かれるようになるんですよ。ナチス独特の制服のあの感じに彼は魅了されていって。そのナチの軍人たちが男の人同士でエッチをしている絵とかを描き始めるんですよ。彼にとってはすごく恐怖なんだけども、でも同時に惹かれるんですよ。で、そのへんから彼は自分の好きなものに目覚めていくわけですけども。

ところが、ものすごく悲しいことが起こって。ソ連軍は次々にフィンランド側に内部から潜入するため、夜中に落下傘でソ連兵が潜入をしていたんですよ。で、それを見つけてしまってトウコさんはそのソ連兵をナイフで刺し殺すんです。それで刺し殺した後でそのソ連兵を見たら、まあハンサムなヒゲをたくわえた、このトウコさんが描いているトム・オブ・フィンランドの絵みたいな人だったんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ? 複雑な心境だな……。

(町山智浩)そう。殺したら、それが自分が最も愛するタイプの男性だったんですね。だからこの映画の中ではずっとその殺したソ連兵の亡霊が何度も出てくるっていう形になっているんですよ。で、もしかしたら、本当だったら愛したかもしれないその彼のことを思って自分の絵に描き続けるという物語にこの映画ではなっていますね。だから、なんていうか供養とか追悼みたいなものだったんですね。

(赤江珠緒)そういうことですか。はい。

(町山智浩)で、戦争が終わるんですけども、彼は広告代理店、マッキャンエリクソンのイラストレーターになって、商業用の新聞広告の絵とかを描き続けるんですけども。その自宅、家に帰ると部屋に鍵をかけて引きこもってずっとその軍人とか警察官とかのホモセクシャルな絵を鉛筆で描き続けるんです。

(赤江珠緒)じゃあ、もう自分の楽しみだけのために描いていた絵ということなんですね。

(町山智浩)そうです。フィンランドではその時に同性愛は違法行為なんですよ。同性愛であることがバレたら逮捕されて精神病院に送られて電気ショックとかロボトミーみたいなことがなされていたんですよ。だから命がけなんですよ。こういう絵を描くこと自体が。だからこれもすごい話なんですけども。で、どんどんと描き続けていく中で戦後、このトウコさんはドイツに旅行をするんです。それでその絵を持っているところを発見されて逮捕されちゃうんですよ。

(赤江珠緒)あらららら!

(町山智浩)で、その頃はドイツでも同性愛は禁止なんで。もう本当に絶体絶命の状態になる。ところが、それを助けてくれたのが戦時中に自分が同性愛者であることを告白してくれた仲間だったんですね。それで彼は役人になっていて助けてくれるんですけども。でね、そのドイツに行った時、絵を盗まれちゃうんですよ。それがなんとアメリカに流れて、アメリカではアンダーグラウンドで彼の絵がブームになっていくんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ? じゃあ、全然意図しない形で売れたっていう感じなんですね。

(町山智浩)そうなんです。海賊版がどんどんと作られていって。だからね、全く彼自身の非常に独特な嗜好だったのに、そういう形で少しずつ世界に広がっていったんですね。このトム・オブ・フィンランドの絵は。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、これをアメリカの出版社に送って……アメリカでも1950年代は同性愛は禁じられていたので。犯罪だったので。ただ、ゲイの人たちの雑誌はあったんですよ。それはね、ボディビル雑誌に見せかけていたんですよ。その当時は。

(赤江珠緒)ああ、なるほど!

(町山智浩)だから見た目は完全にボディビル雑誌で、スポーツの記事とか筋肉の鍛錬の仕方とかを書いていたんだけども、エロ本としてゲイの人が買っているというような雑誌があって。そこに彼は自分の絵を送って、それが出版されて大ブームになっていくんですよ。で、トム・オブ・フィンランドの描く軍服であるとか警察官の格好をしているたくましい男たちというのが流行り始めて、みんなそれを真似するようになって、そのヴィレッジ・ピープルであるとかフレディ・マーキュリーさんの格好とかね。

(赤江珠緒)白いランニングシャツをピタッと着るとかね。

(町山智浩)そういったものはそこから流行っていくんです。だから、彼はひとつのトレンドを作ったんですね。で、まあいちばん大きかったのはこのトム・オブ・フィンランドさんの絵というのはね、明るいんですよ。みんな笑顔なんです。同性愛行為をしている人たちの顔がね。それも、その当時としては画期的だったんですって。

(赤江珠緒)そうなんだ。

(町山智浩)だってその頃、同性愛であることは犯罪だから。で、キリスト教的にも絶対に許されないものだったから、非常に後ろめたい罪悪感のあるものだったんですね。で、それに対して、トム・オブ・フィンランドの絵に出てくる男の人たちは全くあっけらかんとニコニコとしているんで。それがものすごくアメリカのゲイの人たちに勇気を与えたんですって。「なにも恥ずかしくないよ」っていうのと、あともうひとつは強さですよね。胸を張って、たくましくてみんなマッチョなんですよ。そのイメージで強くなろうとし始めるんです。この映画の中では1人のすごくコンプレックスのある少年が。体を鍛えて。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)そういうね、精神的な革命も起こしていくんですね。だからそのへんが最終的には反乱を起こしていくことにつながるわけですよ。これまでずーっと被害者で殴られてもただやられているだけだった人たちが「戦う」という行動に出るようになる基本みたいなものがトム・オブ・フィンランドによって作られていったらしいんですね。

(赤江珠緒)すごい。そこまで世界を変えていくのがこの絵からだったというのがね。へー!

反権力・反権威

(町山智浩)絵からだったんですよ。あともうひとつ、反権力とか反権威というところも大きくて。警官たちはその頃、ゲイの人たちを本気で警棒とかで殴っていたんですよ。

(赤江珠緒)別になにも悪いことをしていなくても。バーでお酒を飲んでいたりするだけで?

(町山智浩)そう。ゲイバーにいるというだけで。あとはまあ、公園とかで夜中にキスしていたりすると、殴っていたわけですよ。警察官っていうのはものすごい自分たちに対する敵だったんだけども、このトム・オブ・フィンランドという人はまずドイツで1回捕まっているんですけども。それでひどい目にあわされるわけですよ。警察官とか看守に「お前はとんでもない同性愛者だ!」って。でも、そこから生まれた絵はその警察官とか看守が囚人とエッチをしている絵なんですよ(笑)。

(赤江珠緒)フフフ、トムさんはメゲないですね(笑)。

(町山智浩)トムさん、メゲないんですよ。トムさん、警察官が大好きなんですよ(笑)。で、たとえばいわゆるハッテン場というところでゲイの人たちがキスしたりしているのを見たりしている警察官が、それを見ながら仲間に入ろうと思ってズボンを脱ぎ始めている絵とかを彼は描くんですよ。だから警察官とか軍人とかが好きっていう気持ちと、彼らに同性愛行為をさせることで同時に反権力にもなっていて。しかもおかしいっていう。彼らをからかうことにもなっているというね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)すごい複雑な一種の笑いを武器にした反権力の戦いみたいなものにも彼の絵はなっているんですよ。それがね、すごく面白いですよね。「ああいうのは許せない!」っていうんじゃなくて、「いや、おまわりさんってかっこいいわ!」っていうのとまぜこぜになっているんですよ。

(赤江珠緒)その心理がすごいですね。ひどい目にあわされたっていうのに。でもかっこいいものはかっこいいわっていう(笑)。

(町山智浩)そう。彼らがみんなゲイだったら本当にいいのに!っていう気持ちをそのまま出しているんですよ。で、1977年にはそのアメリカでゲイの中からハーヴェイ・ミルクさんという政治家が出てきて。それですごくいい時代になっていくかと思ったら、ハーヴェイ・ミルクさんは暗殺をされてしまうという。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)そうなんですよ。政治家になった途端に彼は暗殺をされてしまうんです。で、しかも80年代に入ると今度はエイズが流行をし始めて。で、このトム・オブ・フィンランドの周りでもバタバタと死んでいくんですね。ただね、トム・オブ・フィンランドさんはもう70年代にアメリカに呼ばれて、その彼のイラストを商品化することでものすごいお金を得るんですよ。それでアメリカに行くともう歓待をされてセレブなんですね。ところがフィンランドに帰ると、誰もそのことを知らないんですよ。

(赤江珠緒)不思議な現象になっていますね(笑)。

(町山智浩)フィンランドではその頃はまだそういうことを公にできなくて。71年まで犯罪でしたし。だからフィンランドでは誰も知らないけど、アメリカではリムジンに乗ってパーティーでセレブ扱いっていう非常に不思議な二重生活を送っていくんですけども。そのへんも面白いですね。で、91年に亡くなった時もフィンランドではほとんど誰も知らなかったんです。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)でも実際にはアメリカでそのゲイカルチャーの反乱の起爆剤になっていった人だったんですけど、それを知らなかったんですよ。

(赤江珠緒)そうか。でもすごい過酷な状況にあっても、なんか好きなものを好きってずっと思うという素直な感じが絵にも、伸びやかさがあって。それが人を惹きつけていたんですね。

(町山智浩)そう。伸びやかなんですよ。大らかで。でも、いまではフィンランドは彼を国の宝として認めて。国として彼のイラストを切手として発行していますよ。

(赤江珠緒)ええっ、切手にまでなりましたか? すごい!

(町山智浩)はい。そういうね、数奇な運命を生きたトム・オブ・フィンランドさんの映画は8月2日から日本公開です。

『トム・オブ・フィンランド』予告編

(赤江珠緒)へー! それはすごい伝記ですね。『トム・オブ・フィンランド』は8月2日公開です。町山さん、ありがとうございました!

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした!

<書き起こしおわり>

Viewing all 938 articles
Browse latest View live